(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-149488(P2018-149488A)
(43)【公開日】2018年9月27日
(54)【発明の名称】加振モジュールおよび触覚発生システム
(51)【国際特許分類】
B06B 1/04 20060101AFI20180831BHJP
G06F 3/01 20060101ALI20180831BHJP
【FI】
B06B1/04 S
G06F3/01 560
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-47069(P2017-47069)
(22)【出願日】2017年3月13日
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(72)【発明者】
【氏名】田中 良宜
(72)【発明者】
【氏名】岡本 國美
【テーマコード(参考)】
5D107
5E555
【Fターム(参考)】
5D107AA03
5D107AA13
5D107BB08
5D107CC20
5D107DD02
5D107DD12
5E555AA08
5E555BA08
5E555BB08
5E555BC04
5E555DA24
5E555DD08
5E555FA00
(57)【要約】
【課題】 より薄型であり且つより明確に触覚を発生させることが可能な加振モジュールおよび触覚発生システムを提供すること。
【解決手段】 加振モジュールA1は、誘電エラストマー層1と、誘電エラストマー層1に取付けられた可動部3と、各々が誘電エラストマー層1を挟む一対の電極層21からなる一対の電極部2A,2Bと、を備え、一対の電極部2A,2Bは、z方向視において可動部3を挟んで配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電エラストマー層(1)と、
前記誘電エラストマー層に取付けられた可動部(3)と、
各々が前記誘電エラストマー層を挟む一対の電極層からなる一対の電極部(2)と、を備え、
前記一対の電極部は、前記誘電エラストマー層の厚さ方向視において前記可動部を挟んで配置されていることを特徴とする、加振モジュール。
【請求項2】
前記誘電エラストマー層に張力が生じた状態で保持する保持部材(4)をさらに備える、請求項1に記載の加振モジュール。
【請求項3】
前記誘電エラストマー層は、前記厚さ方向視において円形状である、請求項2に記載の加振モジュール。
【請求項4】
前記可動部は、前記誘電エラストマー層の前記厚さ方向視における中央に配置されている、請求項3に記載の加振モジュール。
【請求項5】
前記保持部材は、円環状である、請求項4に記載の加振モジュール。
【請求項6】
前記可動部は、前記誘電エラストマー層を挟んで引き合うことにより前記誘電エラストマー層に固定された一対の磁石からなる、請求項1に記載の加振モジュール。
【請求項7】
前記電極層は、前記厚さ方向視において扇形状である、請求項3ないし6のいずれかに記載の加振モジュール。
【請求項8】
前記一対の電極部に繋がる一対の配線部を備える、請求項3ないし7のいずれかに記載の加振モジュール。
【請求項9】
各々が前記誘電エラストマー層を挟む一対の電極層からなり、且つ前記一対の電極部が離間する方向とは異なる方向において前記可動部を挟んで配置された追加の一対の電極部を備える、請求項3ないし8のいずれかに記載の加振モジュール。
【請求項10】
前記一対の電極部が離間する方向と、前記追加の一対の電極部が離間する方向とは、互いに直角である、請求項9に記載の加振モジュール。
【請求項11】
互いに重ね合わされた複数の前記誘電エラストマー層を備える、請求項1ないし10のいずれかに記載の加振モジュール。
【請求項12】
前記誘電エラストマー層は、シリコーンエラストマー、アクリルエラストマーまたはポリウレタンエラストマーからなる、請求項1ないし11のいずれかに記載の加振モジュール。
【請求項13】
前記電極層は、カーボンを含む、請求項1ないし12のいずれかに記載の加振モジュール。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の前記加振モジュールと、
前記加振モジュールの前記一対の電極部に電圧を印加する電源部とを備え、
前記電源部は、前記一対の電極部の一方に電圧を印加する第1印加時間と、前記一対の電極部の他方に前記第1印加時間よりも長い時間で電圧を印加する第2印加時間とを、交互に繰り返すことを特徴とする、触覚発生システム。
【請求項15】
前記第1印加時間における前記電極部への印加電圧波形は、矩形波である、請求項14に記載の触覚発生システム。
【請求項16】
前記第1印加時間および前記第2印加時間を繰り返す周波数は、30Hz〜100Hzである、請求項15に記載の触覚発生システム。
【請求項17】
平板状の誘電エラストマー層(1)の少なくとも一端側を固定する保持部材(4)と、
前記誘電エラストマー層の他端側に取付けられた可動可能な錘部(3)と、
前記誘電エラストマー層の前記保持部材と前記錘部との間の平板部分を挟むように取り付けられた一対の電極層からなる一対の電極部(2)と、を備え、
前記一対の電極部に所定波形の電圧を印加し前記誘電エラストマー層を伸縮させることにより前記錘部を前記保持部材に接近および離間する方向に振動させることを特徴とする、加振モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加振モジュールおよび触覚発生システムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯型電子端末等において、たとえばタッチパネルに触れることにより操作を行う場合、使用者に情報を伝達する手段として、触覚を発生させる触覚発生システムが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。同文献においては、可動部を加振することにより、タッチパネル等に振動を生じさせ、これに触れた使用者の指に特定の触覚を発生させる構成が開示されている。
【0003】
このような触覚発生システムにおいては、加振を実現するための機構がより小型あるいは薄型であることが求められる。また、触覚をより明確に発生させるために、加振を実現する駆動力を生じる駆動源として、応答性に優れたものが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−149312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、より薄型であり且つより明確に触覚を発生させることが可能な加振モジュールおよび触覚発生システムを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面によって提供される加振モジュールは、誘電エラストマー層と、前記誘電エラストマー層に取付けられた可動部と、各々が前記誘電エラストマー層を挟む一対の電極層からなる一対の電極部と、を備え、前記一対の電極部は、前記誘電エラストマー層の厚さ方向視において前記可動部を挟んで配置されていることを特徴としている。
【0007】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記誘電エラストマー層に張力が生じた状態で保持する保持部材をさらに備える。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記誘電エラストマー層は、前記厚さ方向視において円形状である。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記可動部は、前記誘電エラストマー層の前記厚さ方向視における中央に配置されている。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記保持部材は、円環状である。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記可動部は、前記誘電エラストマー層を挟んで引き合うことにより前記誘電エラストマー層に固定された一対の磁石からなる。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記電極層は、前記厚さ方向視において扇形状である。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記一対の電極部に繋がる一対の配線部を備える。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、各々が前記誘電エラストマー層を挟む一対の電極層からなり、且つ前記一対の電極部が離間する方向とは異なる方向において前記可動部を挟んで配置された追加の一対の電極部を備える。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記一対の電極部が離間する方向と、前記追加の一対の電極部が離間する方向とは、互いに直角である。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態においては、互いに重ね合わされた複数の前記誘電エラストマー層を備える。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記誘電エラストマー層は、シリコーンエラストマー、アクリルエラストマーまたはポリウレタンエラストマーからなる。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記電極層は、カーボンを含む。
【0019】
本発明の第2の側面によって提供される触覚発生システムは、本発明の第1の側面によって提供される前記加振モジュールと、前記加振モジュールの前記一対の電極部に電圧を印加する電源部とを備え、前記電源部は、前記一対の電極部の一方に電圧を印加する第1印加時間と、前記一対の電極部の他方に前記第1印加時間よりも長い時間で電圧を印加する第2印加時間とを、交互に繰り返すことを特徴としている。
【0020】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第1印加時間における前記電極部への印加電圧波形は、矩形波である。
【0021】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第1印加時間および前記第2印加時間を繰り返す周波数は、30Hz〜100Hzである。
【0022】
本発明の第3の側面によって提供される加振モジュールは、平板状の誘電エラストマー層の少なくとも一端側を固定する保持部材と、前記誘電エラストマー層の他端側に取付けられた可動可能な錘部と、前記誘電エラストマー層の前記保持部材と前記錘部との間の平板部分を挟むように取り付けられた一対の電極層からなる一対の電極部と、を備え、前記一対の電極部に所定波形の電圧を印加し前記誘電エラストマー層を伸縮させることにより前記錘部を前記保持部材に接近および離間する方向に振動させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、前記可動部が取付けられた前記誘電エラストマー層を変形させることにより、前記可動部を連続して周期的に移動させることが可能である。前記可動部のこのような移動により、前記加振モジュールは、振動を生じさせるモジュールとして機能する。前記誘電エラストマー層は、極薄い膜であり、前記加振モジュール自体を薄型且つ小型に形成することが可能である。また、前記誘電エラストマー層は、モーター等の駆動機構を有することなく、前記一対の電極部への電圧印加によって俊敏な変形が可能である。このような前記加振モジュールを備えた前記触覚発生システムは、使用者が触れた部分があたかも特定の一方向に移動するかのような錯覚を覚えさせる振動を生じさせることができる。したがって、前記加振モジュールおよび前記触覚発生システムによれば、より薄型であり且つより明確に触覚を発生させることが可能である。
【0024】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1実施形態に基づく加振モジュールおよび触覚発生システムを示す斜視図である。
【
図4】
図1の加振モジュールの動作例を示す断面図である。
【
図5】
図1の加振モジュールの動作例を示す断面図である。
【
図6】
図1の加振モジュールの動作例を示す平面図およびグラフである。
【
図7】
図1の加振モジュールの他の動作例を示すグラフである。
【
図8】本発明の第2実施形態に基づく加振モジュールを示す平面図である。
【
図9】本発明の第3実施形態に基づく加振モジュールを示す断面図である。
【
図10】本発明の第3実施形態に基づく加振モジュールを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0027】
図1および
図2は、本発明の第1実施形態に基づく加振モジュールおよび触覚発生システムを示している。本実施形態の触覚発生システムB1は、加振モジュールA1、電源部6および制御部7を備えている。触覚発生システムB1は、たとえば携帯型電子端末において特定の情報に対応した特定の触覚を発生させることにより、触覚を介して使用者に情報を伝達するシステムである。なお、これらの図において、z方向は、軸方向であり、誘電エラストマー層1の厚さ方向と一致している。r方向は、z方向に対して直角である径方向であり、θ方向は、周方向である。
【0028】
加振モジュールA1は、触覚発生システムB1における振動を生じさせるための加振源である。加振モジュールA1は、誘電エラストマー層1、電極部2A、電極部2B、可動部(錘部)3、保持部材4、配線部5A、配線部5Bおよびケース8を備えている。
【0029】
誘電エラストマー層1は、弾性変形が可能であるとともに、絶縁強度が高い層である。このような誘電エラストマー層1の材質は特に限定されないが、好ましい例として、たとえばシリコーンエラストマー、アクリルエラストマーまたはポリウレタンエラストマーが挙げられる。本実施形態においては、誘電エラストマー層1は、z方向視において円形状である。
【0030】
電極部2Aおよび電極部2Bは、各々が一対の電極層21からなり、誘電エラストマー層1に所望の挙動を生じさせるための電圧が印加される部位である。一対の電極層21は、誘電エラストマー層1を挟んで配置されている。電極層21は、誘電エラストマー層1の弾性変形に追従しうる弾性変形が可能な材質によって形成される。このような材質としては、弾性変形可能な主材に導電性を付与するフィラーが混入された材質が挙げられる。前記フィラーの好ましい例として、たとえばカーボンナノチューブに代表されるカーボン材料が挙げられる。
【0031】
電極部2Aと電極部2Bとは、z方向視において可動部3を挟んでr方向における反対側にそれぞれ配置されている。本実施形態においては、電極部2Aおよび電極部2Bは、それぞれ扇形状とされている。電極部2Aおよび電極部2Bは、θ方向において、それぞれ90°程度の領域に設けられている。
【0032】
可動部3は、電極部2Aおよび電極部2Bへの電圧印加によって誘電エラストマー層1が変形することにより移動させられる部位であり、加振モジュールA1が加振源として機能する程度の質量を有する。可動部3は、誘電エラストマー層1のうち変形による移動が適切に生じうる位置に取り付けられれば良く、本実施形態においては、z方向視において、誘電エラストマー層1の中央に取り付けられている。
【0033】
本実施形態においては、可動部3は、一対の磁石31からなる。一対の磁石31は、誘電エラストマー層1を挟んで磁力によって互いに引き合うことにより、誘電エラストマー層1に取付けられている。なお、可動部3は、適切な質量を有するものであって、誘電エラストマー層1の適所に取付けられるものであればその具体的構成は限定されない。たとえば、金属等からなる可動部3を誘電エラストマー層1に接着剤等によって接合してもよい。
【0034】
保持部材4は、誘電エラストマー層1を保持するものであり、本実施形態においては、z方向視において円環形状の部材である。保持部材4の材質は特に限定されず、電極部2A、電極部2B、配線部5Aおよび配線部5Bとの意図しない導通を回避する観点から、樹脂等の絶縁性材料が好ましい。誘電エラストマー層1を保持部材4に保持させる手法は特に限定されず、接着、挟持等の様々な手法が用いられる。
【0035】
図3に示すように、誘電エラストマー層1は、外力が作用していないいわゆる自然状態に対して、径方向に伸長された状態で、保持部材4に取付けられている。これは、電極部2Aおよび電極部2Bへの電圧印加によって誘電エラストマー層1を迅速に変形させるためである。誘電エラストマー層1の大きさ等は特に限定されず、その一例を挙げると、誘電エラストマー層1の自然状態における厚さがたとえば0.5mm〜1.0mmである。この誘電エラストマー層1が、r方向寸法について、たとえば9倍〜25倍に伸長させた状態で、保持部材4に取付けられている。
【0036】
配線部5Aおよび配線部5Bは、電源部6から電極部2Aおよび電極部2Bに電圧を印加するための導通経路を構成している。配線部5Aは、電極部2Aに導通しており、配線部5Bは電極部2Bに導通している。配線部5Aおよび配線部5Bの具体的構成は特に限定されず、たとえばケーブルや金属箔等によって適宜構成される。配線部5Aおよび配線部5Bが金属箔によって構成される場合、配線部5Aおよび配線部5Bを収容する絶縁性の筒状部材(図示略)が設けられることが好ましい。
【0037】
ケース8は、保持部材4が取付けられており、誘電エラストマー層1、電極部2A、電極部2Bおよび可動部3を収容している。ケース8の形状や大きさは特に限定されず、本実施形態においては、円筒形状の中空部材が採用されている。ケース8は、たとえば樹脂や金属からなる。配線部5Aおよび配線部5Bは、ケース8から延出している。
【0038】
電源部6は、加振モジュールA1に振動を生じさせるための電圧を印加するものである。電源部6の具体的構成は特に限定されず、制御部7の指令によって所定の時間に所定の電圧を電極部2Aおよび電極部2Bに印加しうる構成であればよい。
【0039】
制御部7は、加振モジュールA1に所望の振動を生じさせるように、電源部6による電圧印加を制御するものであり、たとえばCPUやメモリ等を含む。また、触覚発生システムB1がたとえば携帯型電子端末に搭載される場合、この携帯型電子端末の制御手段と指令や情報等の送受を行うための通信部を含んでいてもよい。
【0040】
図4および
図5は、加振モジュールA1における電極部2Aおよび電極部2Bへの電圧印加と可動部3の移動との関係を示している。
図3に示した通り、誘電エラストマー層1は、伸長された状態で保持部材4に保持されている。このため、電極部2Aおよび電極部2Bに電圧が印加されていない状態で、誘電エラストマー層1には、張力が生じている。
図4は、電極部2Aに電圧を印加した状態を示している。絶縁体である誘電エラストマー層1とこれを挟んで配置された電極部2Aの一対の電極層21とは、コンデンサ(キャパシタ)を構成している。電極部2Aに電圧が印加されると、一方の電極層21が正側に帯電し、他方の電極層21が負側に帯電する。このため、一対の電極層21がクーロン力によって互いに引き合う。これにより、誘電エラストマー層1のうち電極部2Aの電極層21に挟まれた部分の厚さが薄くなる。誘電エラストマー層1の当該部位の体積は一定であるため、誘電エラストマー層1の当該部位がz方向視において伸長する。誘電エラストマー層1は、張力が生じた状態で保持部材4に保持されているため、可動部3は、図示されたように電極部2B側(図中左側)に移動する。
【0041】
図5は、電極部2Bに電圧を印加した状態を示している。同図に示す状態においては、電極部2Bの電極層21がクーロン力によって互いに引き合い、誘電エラストマー層1のうち電極部2Bの電極層21に挟まれた部分がz方向視において伸長する。この結果、可動部3は、図示されたように電極部2A側(図中右側)に移動する。
【0042】
図6は、触覚発生システムB1の動作例を示している。同図に示された例においては、使用者に対してある特定の方向に誘われる触覚を付与するように、触覚発生システムB1に対して指令が送られている。触覚発生システムB1の制御部7は、指示された方向に誘う触覚を生じさせうる可動部3の動きが、図中左右方向において可動部3を左側に相対的に急峻に移動させ、右側に相対的に緩慢に移動させることを繰り返すことによって構成される周期的な移動、すなわち振動によって実現すると判断する。当該判断は、制御部7に備えられた判断ロジックによって判断されてもよいし、上述した可動部3の具体的な移動パターンが、制御部7に対して外部から送信される構成であってもよい。
【0043】
同図において、電圧V1は、電極部2Aに印加される電圧であり、電圧V2は、電極部2Bに印加される電圧である。位置Pは、可動部3の位置を示しており、誘電エラストマー層1の中央を原点として、図中左右方向における位置を示している。まず、制御部7の指令により、電源部6から電極部2Aに電圧が印加される。この印加は、第1印加時間T1の間行われる。第1印加時間T1における電極部2Aへの電圧印加波形は特に限定されず、図示された例においては、矩形波である。電極部2Aへの電圧印加により、可動部3は、図中左方へと移動する。
【0044】
次いで、第1印加時間T1の終了に引き続き、制御部7の指令により、電源部6から電極部2Bに電圧が印加される。この印加は、第2印加時間T2の間行われる。なお、第1印加時間T1は、第2印加時間T2よりも短い。第2印加時間T2における電極部2Bへの電圧印加波形は特に限定されず、図示された例においては、半円形状の波形である。電極部2Bへの電圧印加により、可動部3は、図中右方へと移動する。
【0045】
第1印加時間T1が第2印加時間T2よりも時間が短いため、可動部3の移動について、第1印加時間T1における速度または加速度が、第2印加時間T2における速度または加速度よりも大となる。すなわち、第1印加時間T1において可動部3が相対的に急峻に左方に移動し、第2印加時間T2において可動部3が相対的に緩慢に右方に移動する。
【0046】
制御部7は、図示されたように、第1印加時間T1と第2印加時間T2とを含む単位印加時間Tpを連続して繰り返すように、電源部6を制御する。これにより、可動部3は、左方への急峻な移動と右方への緩慢な移動とを周期的に繰り返す。このように移動する可動部3を有する加振モジュールA1が加振源となって、触覚発生システムB1は、その場面において意図する触覚を生じさせる。すなわち、触覚発生システムB1の特定箇所もしくは触覚発生システムB1が搭載された携帯型電子端末等のタッチパネル等の特定箇所に触れた使用者は、第1印加時間T1において特定箇所が移動する方向に特定箇所が連続して移動しているような錯覚を覚える。これにより、様々に存在する方向の中からある方向を特定するという情報を、使用者に伝達することができる。なお、第1印加時間T1に電極部2Bに電圧を印加し、第2印加時間T2に電極部2Aに電圧を印加すれば、
図6に示した動作によって発生させる触覚が示唆する方向と反対の方向を示唆する触覚を発生させることができる。
【0047】
第1印加時間T1は、第2印加時間T2よりも短ければ特定方向の伝達が可能であり、加振モジュールA1の駆動周波数域は、概ね0.1Hz〜1000Hzである。人体が感じやすい振動の周波数としては、たとえば200Hz程度が好ましいが、誘電エラストマー層1および可動部3の応答性等を考慮すると、30Hz〜100Hzが特定の方向を触覚として覚えさせるのに好ましいという知見が、発明者らの研究によって得られた。
【0048】
次に、加振モジュールA1および触覚発生システムB1の作用について説明する。
【0049】
本実施形態によれば、可動部3が取付けられた誘電エラストマー層1を変形させることにより、可動部3を連続して周期的に移動させることが可能である。可動部3のこのような移動により、加振モジュールA1は、振動を生じさせるモジュールとして機能する。誘電エラストマー層1は、極薄い膜であり、加振モジュールA1自体を薄型且つ小型に形成することが可能である。また、誘電エラストマー層1は、モーター等の駆動機構を有することなく、電極部2Aおよび電極部2Bへの電圧印加によって俊敏な変形が可能である。このような加振モジュールA1を備えた触覚発生システムB1は、使用者が触れた部分があたかも特定の一方向に移動するかのような錯覚を覚えさせる振動を生じさせることができる。したがって、加振モジュールA1および触覚発生システムB1によれば、より薄型であり且つより明確に触覚を発生させることが可能である。
【0050】
保持部材4を備えることにより、誘電エラストマー層1を伸長した状態で適切に保持することが可能である。
【0051】
誘電エラストマー層1がz方向視において円形状であることにより、誘電エラストマー層1の全体を均一に伸長させて保持部材4に保持させることができる。
【0052】
可動部3が保持部材4の中央に配置されていることにより、可動部3をバランス良く振動させることができる。
【0053】
可動部3が一対の磁石31からなることにより、可動部3を誘電エラストマー層1に取り付けるために、誘電エラストマー層1に孔を開けたり、接着剤等を用いたりする必要がない。これは、誘電エラストマー層1の損傷等を回避するのに好ましい。また、磁石31は、金属を含むため、比重が比較的大きい。このため、加振モジュールA1の加振力を増大させることができる。
【0054】
電極部2Aおよび電極部2Bがz方向視において扇型であることにより、電極部2Aと電極部2Bとを可動部3を挟んで線対称に配置することが可能である。また、円形状である誘電エラストマー層1の一部を確実に且つ偏り無く変形させることができる。
【0055】
第1印加時間T1における電圧印加波形を矩形波とすることにより、可動部3をより急峻に移動させることが可能であり、より明確に触覚を発生させるのに好ましい。第1印加時間T1と第2印加時間T2とを繰り返す周波数が、30Hz〜100Hzであれは、明確な触覚を生じさせるのに好ましい。
【0056】
図7〜
図10は、本発明の変形例および他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0057】
図7は、加振モジュールA1における電圧波形の変形例を示している。図示された例においては、第2印加時間T2に印加される電圧V2の波形が上述した例と異なり、三角波とされている。このような例によっても、第1印加時間T1が第2印加時間T2よりも短いことにより、特定の方向を示唆する触覚を生じさせることができる。
【0058】
図8は、本発明の第2実施形態に基づく加振モジュールを示している。本実施形態の加振モジュールA2は、電極部2Aおよび電極部2Bに加えて電極部2Cおよび電極部2Dを備える点が上述した実施形態と異なっている。電極部2Cおよび電極部2Dは、本発明の追加の一対の電極部に相当する。
【0059】
電極部2Cおよび電極部2Dは、電極部2Aおよび電極部2Bと同様に、各々が一対の電極層21からなる。電極部2Cと電極部2Dとは、可動部3を挟んでr方向において互いに反対側に配置されている。電極部2Aおよび電極部2Bが離間する方向と、電極部2Cおよび電極部2Dが離間する方向とは、互いに異なっており、図示された例においては、互いに直角である。電極部2Cおよび電極部2Dは、z方向視において扇型である。
【0060】
本実施形態においては、電極部2Aおよび電極部2Bに交互に電圧印加することにより、図中左右方向に沿った特定方向を示唆する触覚を発生させることが可能であることに加えて、電極部2Cおよび電極部2Dに交互に電圧印加することにより、図中上下方向に沿った特定方向を示唆する触覚を発生させることが可能である。このように、対をなす電極部の数に応じて、示唆しうる特定方向を増加させることが可能であり、図示された二対の電極部のほか、三対以上の電極部を備える構成であってもよい。
【0061】
図9は、本発明の第3実施形態に基づく加振モジュールを示している。本実施形態の加振モジュールA3は、互いに重ね合わされた複数の誘電エラストマー層1を備えている点が、上述した実施形態と異なっている。電極部の構成は、加振モジュールA1および加振モジュールA2のいずれであってもよい。
【0062】
加振モジュールA2においては、2枚の誘電エラストマー層1が備えられている。2枚の誘電エラストマー層1は、z方向視において互いに一致している。2枚の誘電エラストマー層1は、保持部材4によってそれぞれの外端縁部分が保持されている。本実施形態においては、可動部3が3つの磁石31によって構成されている。2枚の誘電エラストマー層1の間に1つの磁石31が介在している。残りの2つの磁石31は、2枚の誘電エラストマー層1の外側から磁力によって取付けられている。
【0063】
また、加振モジュールA2においては、電極部2Aおよび電極部2Bのそれぞれが、2枚の誘電エラストマー層1を挟むように設けられた二対の電極層21によって構成されている。本実施形態においては、たとえば電極部2Aに電圧を印加する際には、電極部2Aを構成する二対の電極層21に電圧が印加される。
【0064】
本実施形態によっても、より薄型な構成が実現可能であり、且つより明確に触覚を発生させることが可能である。また、複数の誘電エラストマー層1を備えることにより、各誘電エラストマー層1の厚さを薄くすることができる。これにより、電極部2Aや電極部2Bに印加すべき電圧を低下させることが可能である。また、複数の誘電エラストマー層1によって可動部3を支える構成であることにより、可動部3に作用する重力によって誘電エラストマー層1が過度に変形させられてしまうことを抑制することができる。
【0065】
図10は、本発明の第4実施形態に基づく加振モジュールを示している。本実施形態の加振モジュールA4は、加振モジュールA3と同様に複数の誘電エラストマー層1を備えている。ただし、本実施形態においては、複数の誘電エラストマー層1の間に可動部3は介在していない。図示された例においては、3枚の誘電エラストマー層1が備えられている。そして、可動部3を構成する一対の磁石31が、3枚の誘電エラストマー層1の中央部分を一括して挟むようにして互いに引き合うことにより固定されている。
【0066】
また、本実施形態においては、電極部2Aおよび電極部2Bを構成する電極層21が、隣り合う誘電エラストマー層1に挟まれた構成となっている。すなわち、電極部2Aに着目すると、電極部2Aは、4つの電極層21によって構成されている。このうち、2つの電極層21は、隣り合う誘電エラストマー層1に挟まれている。このような電極層21は、一方の誘電エラストマー層1に電極層21となる導電性ペーストを塗布した後に、他方の誘電エラストマー層1をこの導電性ペーストに貼り付けることによって形成することができる。本実施形態においては、たとえば電極部2Aに電圧を印加する場合、図中上方に位置する電極層21から順に、正側、負側、正側、負側と、極性を反転させて電圧を印加すればよい。
【0067】
本実施形態によっても、より薄型な構成が実現可能であり、且つより明確に触覚を発生させることが可能である。また、複数の誘電エラストマー層1によって可動部3を支える構成であることにより、可動部3に作用する重力によって誘電エラストマー層1が過度に変形させられてしまうことを抑制することができる。
【0068】
本発明に係る加振モジュールおよび触覚発生システムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る加振モジュールおよび触覚発生システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。例えば、本説明では、円形状の保持部材の中央部に可動部が設けられた加振モジュールのみを示したが、三角形や四角形や多角形の一辺から中央の可動部に誘電エラストマー層を介して繋がる形状の保持部材でも構わない。また、誘電エラストマー層の形状もは、三角形や四角形等の多角形でも構わない。また、可動部となる錘の片側のみにエラストマーを設け、重力を用いて可動部を振動させるようにしても構わない。
【符号の説明】
【0069】
A1,A2,A3,A4:加振モジュール
B1 :触覚発生システム
1 :誘電エラストマー層
2A :電極部
2B :電極部
2C :電極部
2D :電極部
3 :可動部
4 :保持部材
5A :配線部
5B :配線部
6 :電源部
7 :制御部
8 :ケース
21 :電極層
31 :磁石
T1 :第1印加時間
T2 :第2印加時間
Tp :単位印加時間
V1,V2:電圧