【解決手段】伝達される動力によって回転するがんぎ車40と、相対変位可能に互いに連結され、てんぷ30の回転に基づいて回動する衝撃アンクルユニット52及び停止アンクルユニット54とを備え、停止アンクルユニットは少なくとも1つ以上のアンクル53で構成されると共に、がんぎ車のがんぎ歯車42に対して係脱可能とされた停止爪石62、63を有し、衝撃アンクルユニットは少なくとも1つ以上のアンクル51で構成されると共に、停止爪石の非係合時にがんぎ歯車に対して接触可能とされた第1衝撃爪石60を備え、てんぷには第1衝撃爪石の非接触時に、がんぎ歯車に対して接触可能とされた第2衝撃爪石61が取り付けられている脱進機13を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る第1実施形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、時計の一例として機械式時計を例に挙げて説明する。また、各図面において、各部品を視認可能な大きさとするために、必要に応じて各部品の縮尺を適宜変更している。
【0026】
(時計の基本構成)
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。
時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側(すなわち、文字板のある方の側)をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板の両側のうち、時計ケースのケース裏蓋のある方の側(すなわち、文字板と反対の側)をムーブメントの「表側」と称する。
なお、本実施形態では、文字板からケース裏蓋に向かう方向を上方、その反対側を下方と定義して説明する。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の時計1のコンプリートは、図示しないケース裏蓋及びガラス2からなる時計ケース内に、ムーブメント(本発明に係る時計用ムーブメント)10と、少なくとも時に関する情報を示す目盛りを有する文字板3と、時針5、分針6及び秒針7を含む指針4と、を備えている。
【0028】
図2に示すように、ムーブメント10は、基板を構成する地板11を有している。なお、
図2では、図面を見易くするためにムーブメント10を構成する部品の一部の図示を省略している。
地板11の表側には、表輪列(本発明に係る輪列)12と、表輪列12の回転を制御する脱進機13と、脱進機13を調速する調速機14と、を備えている。
【0029】
表輪列12は、主に香箱車20、二番車21、三番車22及び四番車23を備えている。香箱車20は、地板11と図示しない香箱受との間に軸支されており、内部に図示しないぜんまい(動力源)が収容されている。ぜんまいは、角穴車24が回転することによって巻き上げられる。なお、角穴車24は、
図1に示すリュウズ25に連結された図示しない巻真の回転によって、回転する。
【0030】
二番車21、三番車22及び四番車23は、地板11と図示しない輪列受との間に軸支されている。これら二番車21、三番車22及び四番車23は、巻き上げられたぜんまいの弾性復元力によって香箱車20が回転すると、この回転に基づいて順に回転する。
【0031】
すなわち、二番車21は香箱車20と噛合しており、香箱車20の回転に基づいて回転する。なお、二番車21が回転すると、この回転に基づいて図示しない筒かなが回転する。筒かなには、
図1に示す分針6が取り付けられており、筒かなの回転によって分針6が「分」を表示する。分針6は、脱進機13及び調速機14によって調速された回転速度、すなわち1時間で1回転する。
【0032】
また、二番車21が回転すると、この回転に基づいて図示しない日の裏車が回転し、さらに日の裏車の回転に基づいて図示しない筒車が回転する。なお、日の裏車及び筒車は、表輪列12を構成する時計部品である。筒車には、
図1に示す時針5が取り付けられており、筒車の回転によって時針5が「時」を表示する。時針5は、脱進機13及び調速機14によって調速された回転速度、例えば12時間で1回転する。
【0033】
三番車22は、二番車21と噛合しており、二番車21の回転に基づいて回転する。四番車23は、三番車22に噛合しており、三番車22の回転に基づいて回転する。四番車23には、
図1に示す秒針7が取り付けられており、四番車23の回転に基づいて秒針7が「秒」を表示する。秒針7は、脱進機13及び調速機14によって調速された回転速度、例えば1分間で1回転する。
【0034】
四番車23には、がんぎかな41を介して後述するがんぎ車40が噛合している。これにより、がんぎ車40には、主に二番車21、三番車22及び四番車23を介して、香箱車20内に収容されたぜんまいからの動力が伝達される。これにより、がんぎ車40は回転軸線O2回りに回転する。
【0035】
調速機14は、主にてんぷ30を備えている。
てんぷ30は、てん真31、てん輪32及び図示しないひげぜんまいを備え、地板11と図示しないてんぷ受との間に軸支されている。てんぷ30は、ひげぜんまいを動力源として、回転軸線O1回りに、香箱車20の出力トルクに応じた定常振幅(振り角)で往復回転(正逆回転)する。
【0036】
てん真31における軸方向の両端には、先細りしたほぞが形成されている。てん真31は、これらのほぞを介して、地板11とてんぷ受との間に軸支されている。てん真31には、てん輪32が一体的に外嵌固定されていると共に、図示しないひげ玉を介してひげぜんまいの内端部が固定されている。
なお、図示の例では、回転軸線O1を中心として90度の間隔をあけて4つのアーム部33が配置されたてん輪32としているが、アーム部33の数、配置や形状はこの場合に限定されるものではなく、自由に変更して構わない。
【0037】
てん真31には、
図3に示すように円環状の振り座35が外嵌固定されている。
振り座35は、大つば36、及び大つば36よりも下方(地板11側)に位置する小つば37を有している。大つば36には、ルビー等の人工宝石から形成された振り石38が例えば圧入固定されている。
振り石38は、平面視で半円形状に形成され、大つば36から下方に向けて延びるように形成されている。振り石38は、てんぷ30に伴って回転軸線O1回りに往復回転し、その途中で後述するアンクルハコ74に対して離脱可能に係合する。
【0038】
小つば37は、大つば36よりも小径に形成されている。小つば37には、振り石38に対応した位置に、径方向の内側に向けて曲面状に凹むツキガタ39が形成されている。ツキガタ39は、アンクルハコ74と振り石38とが係合しているときに、後述する剣先75が小つば37と接触することを防止する逃げ部として機能している。
なお、
図3以外の各図面では、図面を見易くするために、振り座35のうち小つば37及び振り石38を主に図示している。
【0039】
(脱進機の構成)
図4に示すように、脱進機13は、上述した振り座35と、ぜんまいから伝達される動力によって回転するがんぎ車40と、アンクルチェーン50と、第1衝撃爪石(本発明に係る衝撃爪石)60及び第2衝撃爪石(本発明に係る衝撃爪石)61と、第1停止爪石(本発明に係る停止爪石)62及び第2停止爪石(本発明に係る停止爪石)63と、を備えている。
なお、振り座35は、上述したようにてんぷ30及び調速機14を構成する構成部品であると共に、脱進機13を構成する構成部品とされている。
【0040】
がんぎ車40は、四番車23と噛合するがんぎかな41と、複数のがんぎ歯43を有するがんぎ歯車42と、を備えた単層構造とされ、地板11と図示しない輪列受との間に軸支されている。なお、
図2以外の各図面では、がんぎかな41の図示を簡略化している。
図示の例では、がんぎ歯43の歯数は8歯とされている。ただし、この場合に限定されるものではなく、がんぎ歯43の歯数は適宜変更して構わない。例えば6歯、10歯、12歯のがんぎ歯43を有するがんぎ歯車42としても構わない。
【0041】
本実施形態では、
図4に示すようにムーブメント10を表側から見た平面視で、がんぎ車40が、がんぎかな41を介して四番車23側から伝達された動力によって回転軸線O2を中心として時計回りに回転する場合を例に挙げて説明する。
なお、
図4において回転軸線O2を中心として時計回りに回転する方向を第1回転方向M1、その反対方向を第2回転方向M2と称している。さらに、がんぎ車40の回転に伴ってがんぎ歯43の歯先が描く回転軌跡Rを、単にがんぎ歯車42の回転軌跡Rという。
【0042】
がんぎ歯43のうち、第1回転方向M1を向いた側面は、第1衝撃爪石60及び第2衝撃爪石61に対して接触すると共に、第1停止爪石62及び第2停止爪石63が係合する作用面43aとされている。
【0043】
なお、がんぎ車40は、例えば金属材料や単結晶シリコン等の結晶方位を有する材料等により形成される。がんぎ車40の製造方法としては、例えば電鋳加工、フォトリソグラフィ技術のような光学的な手法を取り入れたLIGAプロセス、DRIE、金属粉末射出成型(MIM)等が挙げられる。
ただし、がんぎ車40の材料や製造方法は、上述した場合に限定されるものではなく、適宜変更して構わない。また、がんぎ車40の性能や剛性等に影響を与えない範囲で、がんぎ車40に肉抜き孔や薄肉部を適宜設けて軽量化を図っても構わない。図示の例では、がんぎ車40に肉抜き孔を複数形成している。
【0044】
アンクルチェーン50は、複数のアンクルが一列状に繋がるように、相対変位可能に互いに連結し合うことで構成され、てんぷ30の往復回転に基づいて複数のアンクルを各別に回動(揺動)させるように変位する。
具体的には、アンクルチェーン50は、衝撃アンクル51を有する衝撃アンクルユニット52と、停止アンクル53を有する停止アンクルユニット54と、を備えている。衝撃アンクルユニット52と停止アンクルユニット54とは互いに相対変位可能に連結されている。つまり、衝撃アンクル51と停止アンクル53とが相対変位可能に互いに連結され、これにより、衝撃アンクル51及び停止アンクル53は一列状に繋がるように連結されている。
【0045】
なお、衝撃アンクルユニット52及び停止アンクルユニット54は、少なくとも1つ以上のアンクルで構成されていれば良い。本実施形態では、上述のように衝撃アンクルユニット52及び停止アンクルユニット54がそれぞれ1つのアンクルで構成されている。
【0046】
第1衝撃爪石60及び第2衝撃爪石61は、がんぎ歯車42におけるがんぎ歯43の作用面43aに対して接触可能とされ、がんぎ車40に伝わった動力をてんぷ30に伝えるための爪石とされている。
第1衝撃爪石60及び第2衝撃爪石61のうち、第1衝撃爪石60は衝撃アンクル51に取り付けられ、第2衝撃爪石61はてんぷ30に固定された振り座35に取り付けられている。
【0047】
第1停止爪石62及び第2停止爪石63は、がんぎ歯車42におけるがんぎ歯43の作用面43aに対して係脱可能とされ、がんぎ車40の停止及びその解除を行うための爪石とされている。第1停止爪石62及び第2停止爪石63は、ともに停止アンクル53に取り付けられている。
【0048】
なお、第1衝撃爪石60及び第2衝撃爪石61は、第1停止爪石62及び第2停止爪石63の非係合時にがんぎ歯車42に接触し、第1停止爪石62及び第2停止爪石63は、第1衝撃爪石60及び第2衝撃爪石61の非接触時にがんぎ歯車42に係合する。これら各爪石は、振り石38と同様に例えばルビー等の人工宝石から形成されている。
【0049】
衝撃アンクル51について詳細に説明する。
図4〜
図6に示すように、衝撃アンクル51は、回動軸であるアンクル真70、アンクル体71及びアンクルアーム72を備えている。そして、衝撃アンクル51は、てんぷ30の往復回転に基づいて回動軸線O3回りに回動する。
【0050】
アンクル真70は、回動軸線O3と同軸に配置され、地板11と図示しない輪列受との間に軸支されている。アンクル真70は、アンクル体71の基部に対して、例えば下方(地板11側)から圧入され、一体に固定されている。
【0051】
アンクル体71及びアンクルアーム72は、例えば電鋳加工やMEMS技術によって板状に一体に形成されている。これらアンクル体71及びアンクルアーム72は、がんぎ車40よりも上方に配置されている。
なお、がんぎ車40と同様に、アンクル体71及びアンクルアーム72に肉抜き孔や薄肉部を適宜設けて軽量化を図っても構わない。図示の例では、アンクル体71に肉抜き孔を複数形成している。
【0052】
アンクル体71は、アンクル真70が固定された基部から、第2回転方向M2側に向けて、すなわちてんぷ30側に向けて延びるように形成されている。アンクル体71の先端部には、回動軸線O3の周方向に並んで配置された一対のクワガタ73が設けられている。クワガタ73の内側は、てん真31側に向けて開口すると共に、てんぷ30の往復回転に伴って移動する振り石38が係脱可能に収容されるアンクルハコ74とされている。
【0053】
アンクル体71の先端部には、剣先75が取り付けられている。
剣先75は、アンクル体71の先端部に対して下方から例えば圧入等によって固定されている。剣先75は、平面視で一対のクワガタ73間に位置(すなわちアンクルハコ74の内側に位置)すると共に、クワガタ73よりもてん真31側に突出するように延びている。なお、剣先75は、振り石38よりも下方に位置し、且つがんぎ車40よりも上方に位置するように固定されている。
剣先75の先端部は、振り石38がアンクルハコ74から離脱している状態において、小つば37の外周面のうちツキガタ39を除いた部分に対して若干の隙間をあけて径方向に対向し、且つ振り石38がアンクルハコ74に係合している状態において、ツキガタ39内に収容される。
【0054】
なお、振り石38がアンクルハコ74から離脱しているときに、剣先75の先端部が小つば37の外周面に対して若干の隙間をあけて径方向に対向しているので、例えばてんぷ30の自由振動中に外乱が入力され、その外乱の影響によってアンクルチェーン50全体の停止が解除されようとしても、剣先75の先端部を小つば37の外周面に対して真っ先に接触させることができる。これにより、外乱による衝撃アンクル51の変位を抑制でき、アンクルチェーン50全体の停止が解除されてしまうことを防止することができる。なお、アンクルチェーン50の停止については、後に詳細に説明する。
【0055】
アンクル体71の基部には、がんぎ車40側に突出するように第1爪石保持部76が設けられている。第1爪石保持部76は、がんぎ車40側に向けて開口しており、この開口を利用して第1衝撃爪石60を保持している。
第1衝撃爪石60は、がんぎ歯車42と同等の高さ位置に達する程度、アンクル体71よりも下方に向けて延びた状態で保持されている。そのため、第1衝撃爪石60はがんぎ歯43に対して接触(衝突)可能とされている。さらに、第1衝撃爪石60は、第1爪石保持部76よりもがんぎ車40側に突出した状態で保持されている。そして、第1衝撃爪石60の突出部分のうち、第2回転方向M2側を向いた側面は、がんぎ歯車42におけるがんぎ歯43の作用面43aが接触する第1衝撃面60aとされている。
【0056】
アンクルアーム72は、アンクル体71の基部から、第1回転方向M1側に向けて延びるように形成されている。アンクルアーム72の先端部には、下方に向けて延びた係合ピン77が圧入等によって固定されている。係合ピン77は、例えば中実の円柱状に形成され、その下端部は後述する停止アンクル53の係合フォーク92の内側に入り込んでいる。
【0057】
このように構成された衝撃アンクル51は、先に述べたようにてんぷ30の回転に基づいて回動する。
具体的には、衝撃アンクル51は、てんぷ30の往復回転に伴って移動する振り石38によって、てんぷ30の回転方向とは反対の方向に向けて回動軸線O3回りに回動する。このとき、第1衝撃爪石60は、衝撃アンクル51の回動によってがんぎ歯車42の回転軌跡Rに対する進入と退避とを繰り返す。これにより、がんぎ歯車42におけるがんぎ歯43の作用面43aを、第1衝撃爪石60の第1衝撃面60aに対して接触(衝突)させることが可能となる。
【0058】
第2衝撃爪石61について説明する。
図3及び
図4に示すように、第2衝撃爪石61は、振り座35における小つば37に取り付けられている。具体的には、第2衝撃爪石61は、小つば37に形成された第2爪石保持部80によって保持されている。第2爪石保持部80は、
図4においてツキガタ39よりも回転軸線O1の時計回り方向に所定の位相分ずれた位置に形成され、がんぎ車40側に向けて開口している。第2衝撃爪石61は、この開口を利用して第2爪石保持部80に保持されている。
【0059】
第2衝撃爪石61は、小つば37の外周面よりもがんぎ車40側に突出した状態で保持されている。第2衝撃爪石61の突出部分のうち、回転軸線O1の時計回り方向側を向いた側面は、がんぎ歯車42におけるがんぎ歯43の作用面が接触する第2衝撃面61aとされている。
なお、第2衝撃爪石61と振り石38との間には、回転軸線O1方向に所定の隙間が確保されており、この隙間を通して剣先75がツキガタ39に対してアプローチする。
【0060】
なお、第2衝撃爪石61は、小つば37に取り付けられる場合に限定されるものではなく、振り座35であれば、例えば大つば36或いはてん輪32に取り付けられても良い。第2衝撃爪石61の取付位置としては、例えばがんぎ歯車42との相対的な位置関係に応じて変更して構わない。いずれにしても、第2衝撃爪石61はてんぷ30に取り付けられていれば良い。
【0061】
上述のようにてんぷ30に取り付けられた第2衝撃爪石61は、てんぷ30の回転によってがんぎ歯車42の回転軌跡Rに対する進入と退避とを繰り返す。これにより、がんぎ歯車42におけるがんぎ歯43の作用面43aを、第2衝撃爪石61の第2衝撃面61aに対して接触(衝突)させることが可能となる。
【0062】
なお上述したように、てんぷ30の回転方向と衝撃アンクル51の回動方向とは反対とされているので、第1衝撃爪石60ががんぎ歯車42に対して接触するときに第2衝撃爪石61ががんぎ歯車42から離脱し、第1衝撃爪石60ががんぎ歯車42から離脱したときに第2衝撃爪石61ががんぎ歯車42に接触する。
【0063】
停止アンクル53について詳細に説明する。
図4〜
図6に示すように、停止アンクル53は、平面視で衝撃アンクル51よりも第1回転方向M1側に配置され、回動軸であるアンクル真90及びアンクル体91を備えている。そして、停止アンクル53は、衝撃アンクル51の回転に基づいて、衝撃アンクル51の回動方向とは反対の方向に向けて回動軸線O4回りに回動する。
【0064】
アンクル真90は、回動軸線O4と同軸に配置され、地板11と図示しない輪列受との間に軸支されている。アンクル真90は、アンクル体91に対して、例えば下方から圧入され、一体に固定されている。
【0065】
アンクル体91は、例えば電鋳加工やMEMS技術によって板状に形成されている。図示の例では、アンクル体91はがんぎ車40の周方向に沿って延びるように円弧状に形成されている。なお、図示の例では、アンクル体91に複数の肉抜き孔が形成されている。
【0066】
アンクル体91における中央部分にアンクル真90が固定されている。なお、アンクル体91は、衝撃アンクル51のアンクル体71よりも下方に配置され、且つがんぎ車40と同一平面上に配置されている。
従って、衝撃アンクル51、停止アンクル53及びがんぎ車40の高さ関係としては、がんぎ車40及び停止アンクル53のアンクル体91が最も地板11に近い最下層に位置し、その上方に衝撃アンクル51のアンクル体71が位置する関係となる。
【0067】
ただし、停止アンクル53のアンクル体91は、衝撃アンクル51のアンクル体71よりも下方で、且つがんぎ車40よりも上方に配置されていても構わない。この場合には、第1停止爪石62及び第2停止爪石63を、第1衝撃爪石60と同様に、がんぎ歯車42と同等の高さ位置に達する程度、アンクル体91よりも下方に向けて延ばせばよい。
【0068】
アンクル体91のうち、第2回転方向M2側に位置する周端部91aには、第2回転方向M2側に突出すると共に、回動軸線O4の周方向に分岐した二股状の係合フォーク92が形成されている。この係合フォーク92の内側に衝撃アンクル51の係合ピン77が入り込んでいる。係合ピン77の外周面と係合フォーク92の内面とは、互いに摺動可能に係合している。これにより、衝撃アンクル51及び停止アンクル53は、相対変位可能に互いに連結され、互いに反対方向に向けて回動する。
【0069】
アンクル体91のうち、アンクル真90と係合フォーク92との間に位置する部分には、がんぎ車40側に向けて開口した第3爪石保持部93が設けられている。第3爪石保持部93は、この開口を利用して第1停止爪石62を保持している。
第1停止爪石62は、第3爪石保持部93よりもがんぎ車40側に突出した状態で保持されている。第1停止爪石62の突出した部分のうち、第2回転方向M2側を向いた側面は、がんぎ歯車42におけるがんぎ歯43の作用面43aが係合する第1係合面62aとされている。なお、第1停止爪石62は、いわゆる入爪石として機能する。
【0070】
なお、第1停止爪石62は、所定の引き角を有した状態で第1係合面62aががんぎ歯43の作用面43aに係合するように取り付けられている。
【0071】
アンクル体91のうち、第1回転方向M1側に位置する周端部91bには、がんぎ車40側に向けて開口した第4爪石保持部94が設けられている。第4爪石保持部94は、この開口を利用して第2停止爪石63を保持している。
第2停止爪石63は、第4爪石保持部94よりもがんぎ車40側に突出した状態で保持されている。第2停止爪石63の突出した部分のうち、第2回転方向M2側を向いた側面は、がんぎ歯車42におけるがんぎ歯43の作用面43aが係合する第2係合面63aとされている。なお、第2停止爪石63は、いわゆる出爪石として機能する。
【0072】
なお、第2停止爪石63は、第1停止爪石62と同様に、所定の引き角を有した状態で第2係合面63aががんぎ歯43の作用面43aに係合するように取り付けられている。
【0073】
このように構成された停止アンクル53は、先に述べたように、てんぷ30の往復回転に基づいて回動する衝撃アンクル51の回動に基づいて回動軸線O4回りに回動する。このとき、第1停止爪石62及び第2停止爪石63は、停止アンクル53の回動によってがんぎ歯車42の回転軌跡Rに対する進入と退避とを交互に繰り返す。
これにより、がんぎ歯車42におけるがんぎ歯43の作用面43aを、第1停止爪石62の第1係合面62a、或いは第2停止爪石63の第2係合面63aに対して係合させることが可能となる。
【0074】
特に、第1停止爪石62と第2停止爪石63とが回動軸線O4を挟んで配置されているので、第1停止爪石62ががんぎ歯車42に対して係合するときに第2停止爪石63ががんぎ歯車42から離脱し、第1停止爪石62ががんぎ歯車42から離脱したときに第2停止爪石63ががんぎ歯車42に係合する。
【0075】
上述のようにアンクルチェーン50は、衝撃アンクル51及び停止アンクル53が互いに一列状に繋がるように連結されることで構成され、てんぷ30の往復回転に基づいて各アンクル51、53が各別に回動するように変位する。すなわち、衝撃アンクル51がてんぷ30の回転方向とは反対の方向に向けて回動し、停止アンクル53が衝撃アンクル51の回動方向とは反対の方向に向けてそれぞれ回動する。
【0076】
なお、本実施形態の場合には、衝撃アンクル51及び停止アンクル53は、ともにアンクルチェーン50の連結端に位置するアンクルに相当する。このうち、衝撃アンクル51には、第1停止爪石62及び第2停止爪石63ががんぎ車40のがんぎ歯車42と係合したときに、衝撃アンクル51を位置決めしてアンクルチェーン50全体の変位を規制する規制部が形成されている。
【0077】
すなわち、衝撃アンクル51におけるアンクル体71のうち、がんぎ車40を向いた外側面とは反対側に位置する外側面100は、アンクル真70よりも第2回転方向M2側に配置された一方のドテピン102に対して接触することで、衝撃アンクル51の回動を規制して位置決めする上記規制部として機能する。
同様に、衝撃アンクル51におけるアンクルアーム72のうち、がんぎ車40を向いた外側面とは反対側に位置する外側面101は、アンクル真70よりも第1回転方向M1側に配置された他方のドテピン103に対して接触することで、衝撃アンクル51の回動を規制して位置決めする上記規制部として機能する。
一対のドテピン102、103は、例えば地板11から上方に向けて突出するように固定されている。
【0078】
アンクル体71の外側面100は、第1停止爪石62ががんぎ歯車42のがんぎ歯43と係合したときに、一方のドテピン102に接触して衝撃アンクル51を位置決めする。また、アンクルアーム72の外側面101は、第2停止爪石63ががんぎ歯車42のがんぎ歯43と係合したときに、他方のドテピン103に接触して衝撃アンクル51を位置決めする。
【0079】
(脱進機の動作)
次に、上述のように構成された脱進機13の動作について説明する。
なお、以下の説明における動作開始状態では、
図4に示すように、がんぎ歯43の作用面43aが第1停止爪石62の第1係合面62aに係合していると共に、衝撃アンクル51における外側面100が一方のドテピン102に対して接触して衝撃アンクル51が位置決めされている。これにより、がんぎ車40は回転が停止している。さらに、てんぷ30の自由振動によって振り石38が時計回りに移動し、アンクルハコ74の内側に進入している。
【0080】
また、第1衝撃爪石60は、がんぎ歯車42の回転軌跡Rに既に進入している。ただし、第1衝撃爪石60の第1衝撃面60aとがんぎ歯43の作用面43aとの間には隙間が確保されており、がんぎ歯43は第1衝撃爪石60に対して非接触とされている。
【0081】
このような動作開始状態から、てんぷ30の往復回転に伴う脱進機13の動作について、順を追って説明する。
【0082】
図4に示す状態から、てんぷ30がひげぜんまいに蓄えられた回転エネルギー(動力)によって時計回りにさらに回転すると、振り石38がアンクルハコ74の内面のうち、振り石38よりも該振り石38の進行方向側に位置するクワガタ73側の内面に接触して係合すると共に、アンクルハコ74を時計回りに押圧する。これにより、振り石38を介して、ひげぜんまいからの動力が衝撃アンクル51に伝わる。
なお、アンクルハコ74と振り石38との係合時、小つば37と剣先75とは互いに接触することがないので、てんぷ30からの動力を衝撃アンクル51に効率よく伝えることができる。
【0083】
これにより、
図7に示すように、衝撃アンクル51及び停止アンクル53がそれぞれ回動するように、アンクルチェーン50の全体が変位する。すなわち、衝撃アンクル51が回動軸線O3を中心として反時計回りに回動し、停止アンクル53が回動軸線O4を中心として時計回りに回動する。
【0084】
衝撃アンクル51が回動することで、該衝撃アンクル51における外側面100が一方のドテピン102から離間する。また、停止アンクル53が回動することで、第1停止爪石62ががんぎ歯43の作用面43a上を滑るように、がんぎ歯車42から離脱する方向(がんぎ歯車42の回転軌跡Rから退避する方向)に移動する。
そして、第1停止爪石62ががんぎ歯車42の回転軌跡Rから僅かに外れた位置まで移動することで、第1停止爪石62をがんぎ歯43から離脱させて、がんぎ歯43との係合を解除することができる。これにより、がんぎ車40の停止の解除を行うことができる。
【0085】
ところで、がんぎ歯43と第1停止爪石62との係合を解除する際、第1停止爪石62には引き角がついているので、
図7に示すように、がんぎ車40は本来の回転方向である第1回転方向M1(時計回り)ではなく、第2回転方向M2(反時計回り)に瞬間的に後退する。がんぎ車40は、この瞬間的な後退を経た後に、表輪列12を介して伝えられた動力によって第1回転方向M1に回転を再開する。
このように、がんぎ車40を瞬間的に後退させることで、表輪列12の噛み合いをより確実にすることができ、安定且つ高い信頼性で表輪列12を作動させることができる。
【0086】
そして、
図8に示すように、後退したがんぎ車40が第1回転方向M1に向けて回転を再開すると、がんぎ歯車42の回転軌跡Rに既に進入していた第1衝撃爪石60の第1衝撃面60aに対してがんぎ歯43の作用面43aが接触(衝突)する。
【0087】
これにより、がんぎ車40の回転力を衝撃アンクル51に伝えることができ、アンクルハコ74の内面のうち、振り石38よりも該振り石38の進行方向とは反対側に位置するクワガタ73側の内面が振り石38に接触して係合する。そのため、がんぎ車40に伝わった動力を、衝撃アンクル51を介しててんぷ30に間接的に伝えることができると共に、振り石38に追従するように、衝撃アンクル51を引き続き回動させることができる。
このように、がんぎ車40に伝わった動力を、衝撃アンクル51を介しててんぷ30に間接的に伝えることで、てんぷ30に回転エネルギーを補充することができる。
【0088】
上述のようにがんぎ歯43が第1衝撃爪石60に接触すると、がんぎ歯43は第1衝撃面60a上を滑るように第1回転方向M1に回転すると共に、第1衝撃爪石60は衝撃アンクル51の回動に伴って徐々にがんぎ歯車42から離脱する方向(がんぎ歯車42の回転軌跡Rから退避する方向)に移動する。
そして、第1衝撃爪石60ががんぎ歯車42の回転軌跡Rから僅かに外れた位置まで移動することで、上述したてんぷ30への間接的な衝撃が終了する。
また、衝撃アンクル51の回動によって第1衝撃爪石60ががんぎ歯車42から離脱する方向に移動している際、第2停止爪石63が停止アンクル53の時計回りの回動によってがんぎ歯車42の回転軌跡Rに進入する。
【0089】
そして、第1衝撃爪石60ががんぎ歯車42の回転軌跡Rから外れた位置まで移動した直後に、
図9に示すように、がんぎ歯車42の回転軌跡Rに進入していた第2停止爪石63の第2係合面63aに対してがんぎ歯43の作用面43aが接触する。
このとき、衝撃アンクル51は、反時計回りの回動に伴って他方のドテピン103に向かって移動しているが、この段階では他方のドテピン103に対して非接触とされている。そのため、がんぎ歯43と第2停止爪石63とが接触したまま、衝撃アンクル51及び停止アンクル53はそれぞれ僅かに回動する。
【0090】
そして、
図10に示すように、衝撃アンクル51における外側面101が他方のドテピン103に接触すると、衝撃アンクル51はそれ以上の回動が規制されて位置決めされる。そのため、アンクルチェーン50全体の変位が規制され、がんぎ歯43と第2停止爪石63とが係合した状態となる。これにより、がんぎ車40は回転が停止し、アンクルチェーン50は停止した状態となる。
【0091】
その後、振り石38はアンクルハコ74内から離脱し、てんぷ30の時計回りの回転に伴って衝撃アンクル51から離間する。これ以降、てんぷ30は慣性によって時計回りに回転し続けると共に、その回転エネルギーがひげぜんまいに蓄えられていく。そして、回転エネルギーが全てひげぜんまいに蓄えられると、てんぷ30は時計回りの回転を止めて、一瞬静止した後に、ひげぜんまいに蓄えられた回転エネルギーによって反時計回りに回転を開始する。
これにより、
図11に示すように、振り石38は、てんぷ30の反時計回りの回転に伴って衝撃アンクル51に向けて接近するように移動を開始する。
【0092】
そして、
図12に示すように、振り石38が衝撃アンクル51のアンクルハコ74内に進入すると、振り石38はアンクルハコ74の内面のうち、振り石38よりも該振り石の進行方向側に位置するクワガタ73側の内面に接触して係合すると共に、アンクルハコ74を反時計回りに押圧する。これにより、振り石38を介してひげぜんまいからの動力が衝撃アンクル51に伝わる。
【0093】
これにより、衝撃アンクル51及び停止アンクル53がそれぞれ回動するように、アンクルチェーン50の全体が再び変位する。すなわち、衝撃アンクル51が回動軸線O3を中心として時計回りに回動し、停止アンクル53が回動軸線O4を中心として反時計回りに回動する。
【0094】
なお、第2衝撃爪石61は、てんぷ30が反時計回りへの回転を開始して以降、がんぎ歯車42の回転軌跡Rに徐々に接近し、振り石38がアンクルハコ74を反時計回りに押圧した時点で、
図12に示すように、がんぎ歯車42の回転軌跡R内に進入する。
ただし、第2停止爪石63とがんぎ歯43とが係合し、且つ衝撃アンクル51における外側面101が他方のドテピン103に接触している段階では、第2衝撃爪石61の第2衝撃面61aとがんぎ歯43の作用面43aとの間には隙間が確保されている。これにより、がんぎ歯43は第2衝撃爪石61に対して非接触とされている。
【0095】
衝撃アンクル51が回動することで、該衝撃アンクル51における外側面101が他方のドテピン103から離間する。また、停止アンクル53が回動することで、第2停止爪石63はがんぎ歯43の作用面43a上を滑るように、がんぎ歯車42から離脱する方向(がんぎ歯車42の回転軌跡Rから退避する方向)に移動する。そして、第2停止爪石63ががんぎ歯車42の回転軌跡Rから僅かに外れた位置まで移動することで、第2停止爪石63をがんぎ歯車42から離脱させて、がんぎ歯43との係合を解除することができる。これにより、がんぎ車40の停止の解除を行うことができる。
【0096】
また、第1停止爪石62と同様に、第2停止爪石63には引き角がついているので、
図12に示すように、がんぎ車40は第2回転方向M2に瞬間的に後退した後に、表輪列12を介して伝えられた動力によって第1回転方向M1に回転を再開する。
【0097】
そして、
図13に示すように、後退したがんぎ車40が第1回転方向M1に向けて回転を再開すると、がんぎ歯車42の回転軌跡Rに進入していた第2衝撃爪石61の第2衝撃面61aに対してがんぎ歯43の作用面43aが接触(衝突)する。
【0098】
これにより、がんぎ車40の回転力を、第2衝撃爪石61を介しててんぷ30に直接的に伝えることができ、てんぷ30に回転エネルギーを補充することができる。また、振り石38に追従するように衝撃アンクル51を引き続き回動させることができる。
【0099】
上述のようにがんぎ歯43が第2衝撃爪石61に接触すると、がんぎ歯43は第2衝撃面61a上を滑るように第1回転方向M1に回転すると共に、第2衝撃爪石61はてんぷ30の回転に伴って徐々にがんぎ歯車42から離脱する方向(がんぎ歯車42の回転軌跡Rから退避する方向)に移動する。
そして、
図14に示すように、第2衝撃爪石61ががんぎ歯車42の回転軌跡Rから僅かに外れた位置まで移動することで、上述したてんぷ30への直接的な衝撃が終了する。
【0100】
また、てんぷ30の回転によって第2衝撃爪石61ががんぎ歯車42から離脱する方向に移動している際、第1停止爪石62が停止アンクル53の反時計回りの回動によってがんぎ歯車42の回転軌跡Rに進入する。
そして、第2衝撃爪石61ががんぎ歯車42の回転軌跡Rから外れた位置まで移動した直後に、がんぎ歯車42の回転軌跡Rに進入していた第1停止爪石62の第1係合面62aに対してがんぎ歯43の作用面43aが接触する。このとき、衝撃アンクル51は、時計回りの回動に伴って一方のドテピン102に向かって移動しているが、この段階では一方のドテピン102に対して非接触とされている。そのため、がんぎ歯43と第1停止爪石62とが接触したまま、衝撃アンクル51及び停止アンクル53はそれぞれ僅かに回動する。
【0101】
そして、
図15に示すように、衝撃アンクル51における外側面100が一方のドテピン102に接触すると、衝撃アンクル51はそれ以上の回動が規制されて位置決めされる。そのため、アンクルチェーン50全体の変位が規制され、がんぎ歯43と第1停止爪石62とが係合した状態となる。これにより、がんぎ車40は回転が停止し、アンクルチェーン50は停止した状態となる。
【0102】
これ以降、てんぷ30の往復回転に伴って上述した動作を繰り返すことにより、脱進機13はがんぎ歯43と第1停止爪石62及び第2停止爪石63との係脱を繰り返し行うと共に、がんぎ歯43と第1衝撃爪石60及び第2衝撃爪石61との接触を利用したてんぷ30への動力の伝達を行う。特に、第1衝撃爪石60を利用した間接的な動力伝達と、第2衝撃爪石61を利用した間接的な動力伝達と、を交互に行いながら(切換えながら)、がんぎ車40に伝わった動力をてんぷ30に伝えることができる。
【0103】
従って、直接衝撃及び間接衝撃を併用した、いわゆる半直接衝撃型の脱進機13として動作させることができ、安定した動作および動力の伝達を確保することができる。
【0104】
特に、本実施形態の脱進機13によれば、1つの共通するアンクルに衝撃爪石及び停止爪石が組み込まれていた従来のものとは異なり、衝撃アンクル51が第1衝撃爪石60を有し、停止アンクル53が第1停止爪石62及び第2停止爪石63を有している。
そのため、がんぎ車40に対する衝撃アンクルユニット52(衝撃アンクル51)の相対位置、及びがんぎ車40に対する停止アンクルユニット54(停止アンクル53)の相対位置をそれぞれ制約少なく自由に設計配置することができ、衝撃及び停止にそれぞれ最適なレイアウトで衝撃アンクルユニット52及び停止アンクルユニット54を配置することが可能である。
【0105】
ここで、停止アンクル53とがんぎ車40との作動関係について説明する。
図16は、がんぎ車40の回転中心(すなわち回転軸線O2)と、停止アンクル53の回動中心(すなわち回動軸線O4)と、がんぎ車40の退却角と、の関係を示す。
なお、
図16では、がんぎ車40の図示を省略しているが、がんぎ歯43の歯先が描く回転軌跡Rについては図示している。よって、回転軌跡Rはがんぎ歯車42の外径に対応する。
【0106】
さらに、
図16においては、停止アンクル53の回動中心を、がんぎ歯車42の回転軌跡Rに対して距離L1だけ離れた位置に配置した場合と、距離L1よりも遠い距離L2だけ離れた位置に配置した場合を図示している。
これらのいずれの場合であっても、第1停止爪石62は、がんぎ歯43が係合する係合位置X1と、がんぎ歯車42の回転軌跡Rから外れた位置に移動して、がんぎ歯43との係合が解除される解除位置X2と、の間を停止アンクル53の回動に伴って移動する。
【0107】
また、第1停止爪石62の第1係合面62aと停止アンクル53の回動中心とを結ぶ線分と、第1係合面62aに対する法線と、の間の角度が引き角α1となる。また、第1停止爪石62が、係合位置X1から解除位置X2まで移動する間に要する停止アンクル53の回動角度が作動角(或いは解除角)α2となる。さらに、第1停止爪石62が、係合位置X1から解除位置X2まで移動することに伴うがんぎ車40の後退角度を退却角α3という。
【0108】
上述した条件のもと、作動角α2を所定値に固定した場合において、停止アンクル53の回動中心とがんぎ歯車42の回転軌跡Rとの間の距離が、退却角α3にどのような影響を与えるかについて説明する。
図16に示すように、停止アンクル53の回動中心ががんぎ歯車42の回転軌跡Rに対して距離L2だけ離れている状態と、停止アンクル53の回動中心ががんぎ歯車42の回転軌跡Rに対して距離L1だけ離れている状態と、で停止アンクル53を同じ作動角α2だけそれぞれ回動させた場合には、距離L2よりも距離L1のときの方が退却角α3を小さくすることができる。すなわち、停止アンクル53の回動中心が回転軌跡Rに近い場合の方が退却角α3を小さくすることができる。
【0109】
従って、がんぎ歯車42の回転軌跡Rに対して停止アンクル53の回動中心をできるだけ接近させることで、がんぎ車40の退却角を小さくすることが可能となり、がんぎ車40の停止解除に必要なエネルギー(すなわち、後退したがんぎ車40を元の回転方向に戻すために必要なエネルギー)を小さくすることができる。
【0110】
なお、
図16では、第1停止爪石62に着目して説明したが、第2停止爪石63においても同様である。従って、がんぎ歯車42の回転軌跡R(すなわちがんぎ歯車42の外径)に対して停止アンクル53の回動中心をできるだけ接近させることが、停止に最適なレイアウトとなる。
【0111】
特に、脱進機13を作動させるうえで、アンクルの作動角は非常に重要なパラメータとされている。この点、本実施形態によれば、停止アンクル53に衝撃用の爪石が取り付けられておらず、停止用の爪石である第1停止爪石62及び第2停止爪石63だけが取り付けられているので、停止の作用だけに着目して停止アンクル53の作動角α2を最適な角度に設定することができると共に、停止アンクル53の回動中心をがんぎ歯車42の回転軌跡R側に接近させるように停止アンクル53を配置することが可能である。
従って、本実施形態によれば、がんぎ車40の停止解除に必要なエネルギーを小さくして、動力の伝達効率を向上させると共に、作動誤差を少なくすることができる。
【0112】
また、衝撃アンクル51とがんぎ車40との作動関係について説明する。
図17は、がんぎ歯車42のがんぎ歯43と第1衝撃爪石60とが接触している場合の関係を示す図である。なお、
図17では、がんぎ歯43の歯先と第1衝撃爪石60とが線接触に近い状態で接触するものとして説明する。
【0113】
がんぎ歯43と第1衝撃爪石60とが接触を開始してから接触が終了するまでに要するがんぎ車40の回動角度である作動角α4は、例えばがんぎ歯車42の歯数により決定される。そして、がんぎ車40の作動角α4に基づいて、がんぎ歯43と第1衝撃爪石60とが接触を開始してから接触が終了するまでに要する衝撃アンクル51の回動角度である作動角α5も決定される。
がんぎ歯43と第1衝撃爪石60との接触によって、がんぎ車40から第1衝撃爪石60に効率良く動力を伝達する際、例えば歯部同士の噛み合いにおけるピッチ点と同様に、がんぎ歯43と第1衝撃爪石60とのピッチ点P0で動力を伝達することが好ましい。
【0114】
なお、ピッチ点P0とは、がんぎ歯43と第1衝撃爪石60との接触開始時における接触点P1と、接触終了時における接触点P2とを結んだ作用線と、がんぎ車40の回転中心(すなわち回転軸線O2)と衝撃アンクル51の回動中心(すなわち回動軸線O3)とを結んだ中心線との交点に相当する。
【0115】
そして、ピッチ点P0で動力を伝達することを考慮した場合、がんぎ車40の回転中心とピッチ点P0との距離L3と、衝撃アンクル51の回動中心とピッチ点P0との距離L4と、の比率が決定される。
この場合、がんぎ車40の回転中心とピッチ点P0との間の距離L3と、衝撃アンクル51の回動中心とピッチ点P0との間の距離L4との比率が、がんぎ車40の作動角α4と衝撃アンクル51の作動角α5との比率に対して略逆比となる。つまり、(L3/L4)≒(α5/α4)をほぼ満たす関係となる。
【0116】
よって、このように設計することが、衝撃に最適なレイアウトになる。
本実施形態によれば、衝撃アンクル51に、停止用の爪石が取り付けられておらず、衝撃用の爪石である第1衝撃爪石60だけが取り付けられている。そのため、衝撃の作用だけに着目して、衝撃アンクル51の作動角を最適な角度に設定することが可能である。従って、がんぎ車40に伝わった動力をてんぷ30に対して効率良く間接的に伝えることができる。
【0117】
以上説明したように、本実施形態の脱進機13によれば、衝撃及び停止に最適化した設計が可能となり、動力の伝達効率に優れ、作動誤差の少ない脱進機とすることができる。
また、がんぎ歯43の作用面43aに対して、第1衝撃爪石60及び第2衝撃爪石61が接触し、第1停止爪石62及び第2停止爪石63が係合するので、がんぎ車40を単層構造にしておくことができる。従って、がんぎ車40の慣性が大きくなることを抑制することができ、これによっても動力の伝達効率を向上することができる。
【0118】
さらに、がんぎ歯43が第1停止爪石62或いは第2停止爪石63に係合して、がんぎ車40の回転が停止している場合、すなわち振り石38がアンクルハコ74から離脱しててんぷ30が自由振動している場合には、衝撃アンクル51が外側面100、101を利用して一対のドテピン102、103のいずれかに接触する。これにより、アンクルチェーン50の連結端に位置する衝撃アンクル51を位置決めすることができ、アンクルチェーン50全体の変位を規制することができる。
【0119】
従って、例えばてんぷ30が自由振動している最中に、何らかの外乱が入力されたとしても、アンクルチェーン50ががたつく、或いは振動してしまうことを抑制することができる。これにより、脱進機13を安定して作動させることができる。
【0120】
加えて、本実施形態の脱進機13は、いわゆる半直接衝撃型の脱進機であるので、てんぷ30とがんぎ車40とを互いに近い位置に配置することができる。従って、例えば本実施形態の脱進機13をトゥールビヨンに適用する場合には、脱進機13を含む機構が搭載されるキャリッジユニットの小型化に貢献できる。従って、トゥールビヨンに特に適した脱進機13とすることができる。
【0121】
また、本実施形態のムーブメント10及び時計1によれば、動力の伝達効率に優れ、作動誤差が少ない上述した脱進機13を備えているので、時刻誤差の少ない高性能なムーブメント及び時計となる。
【0122】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第1実施形態では、一対のドテピン102、103を利用して衝撃アンクル51を位置決めしたが、第2実施形態では、1つのドテピンを利用して衝撃アンクル51を位置決めしている。さらに第1実施形態では、停止アンクル53が衝撃アンクル51よりも下方に配置されていたが、第2実施形態では、衝撃アンクル51及び停止アンクル53が同一平面上に配置されるように構成されている。
【0123】
図18及び
図19に示すように、本実施形態の脱進機110は、衝撃アンクル51にドテピン111が挿通される位置決め孔112が形成されている。
衝撃アンクル51には、アンクル体71と第1爪石保持部76との間に、これらアンクル体71及び第1爪石保持部76を連結する連結片113が一体に形成されている。上記位置決め孔112は連結片113に形成されている。
具体的には、位置決め孔112は、連結片113を厚さ方向に貫通すると共に、衝撃アンクル51の回動方向(すなわち回動軸線O3回りを周回する方向)に沿って延びた平面視円弧状に形成されている。回動軸線O3の周方向に沿った位置決め孔112の長さ(周長)は、第1停止爪石62とがんぎ歯車42のがんぎ歯43とが係合した状態と、第2停止爪石63とがんぎ歯車42のがんぎ歯43とが係合した状態と、の間で衝撃アンクル51が回動する回動角度(作動角)に対応している。
【0124】
上述した位置決め孔112内にドテピン111が配設されている。ドテピン111は地板11に固定され、位置決め孔112内に下方から挿通されている。この際、ドテピン111の外周面は、位置決め孔112の内周面に対して摺接している。これにより、ドテピン111は衝撃アンクル51の回動に伴って位置決め孔112内を相対的に移動する。
【0125】
このとき、周方向に沿った位置決め孔112の長さが衝撃アンクル51の回動角度に対応しているので、
図18に示すように、第1停止爪石62とがんぎ歯43とが係合した場合には、位置決め孔112の内周面のうち第1衝撃爪石60側に位置する第1内周面112aとドテピン111とが接触する。これにより、衝撃アンクル51はドテピン111によって位置決めされる。
また、
図19に示すように、第2停止爪石63とがんぎ歯43とが係合した場合には、位置決め孔112の内周面のうちアンクル体71側に位置する第2内周面112bとドテピン111とが接触する。これにより、衝撃アンクル51はドテピン111によって位置決めされる。
【0126】
従って、1つのドテピン111であっても、衝撃アンクル51を位置決めすることが可能とされている。なお、位置決め孔112における第1内周面112a及び第2内周面112bは、ドテピン111に対して接触することで衝撃アンクル51を位置決めし、アンクルチェーン50全体の変位を規制する規制部として機能する。
【0127】
なお本実施形態では、衝撃アンクル51及び停止アンクル53が同一平面上に配置されているので、第1停止爪石62及び第2停止爪石63は、がんぎ歯車42と同等の高さ位置に達する程度、アンクル体91よりも下方に向けて延びた状態で保持されている。そのため、第1停止爪石62及び第2停止爪石63はがんぎ歯43に対して係脱可能とされている。
【0128】
また、衝撃アンクル51におけるアンクルアーム72の先端部には、係合ピン77に代わって、平面視円形状に形成された係合プレート115が形成されている。
係合プレート115は、一対の弾性部116で構成されている。一対の弾性部116は、それぞれ平面視半円形状に形成され、
図18及び
図19に示す矢印のように互いに離間し合うように付勢されている。
【0129】
停止アンクル53のアンクル体91は、係合フォーク92の内側に係合プレート115が係合した状態で、衝撃アンクル51のアンクル体71及びアンクルアーム72に対して同一平面上に配置されている。係合プレート115の外周面と係合フォーク92の内面とは、互いに摺動可能に係合している。これにより、衝撃アンクル51及び停止アンクル53は、同一平面上に配置された状態で相対変位可能に互いに連結され、互いに反対方向に向けて回動する。
特に、衝撃アンクル51の係合プレート115と、停止アンクル53の係合フォーク92とは、一対の弾性部116の外周面が係合フォーク92の内面に対して押し付けられた状態で互いに連結されている。
【0130】
(脱進機の動作)
このように構成されている本実施形態の脱進機110であっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏功することができる。
つまり、本実施形態の脱進機110であっても、がんぎ歯43と第1停止爪石62及び第2停止爪石63との係脱を交互に繰り返し行うことができると共に、第1衝撃爪石60を利用した間接的な動力伝達と第2衝撃爪石61を利用した間接的な動力伝達とを交互に行いながら、がんぎ車40に伝わった動力をてんぷ30に伝えることができる。
【0131】
また、
図18に示すように、がんぎ歯43と第1停止爪石62とが係合しているときに、位置決め孔112の第1内周面112aがドテピン111に接触して、衝撃アンクル51が位置決めされる。また、
図19に示すように、がんぎ歯43と第2停止爪石63とが係合しているときに、位置決め孔112の第2内周面112bがドテピン111に接触して、衝撃アンクル51が位置決めされる。
いずれの場合であっても、衝撃アンクル51は、アンクルチェーン50の連結端に相当するアンクルであるので、がんぎ歯43が第1停止爪石62或いは第2停止爪石63に係合して、がんぎ車40の回転が停止しているときに、アンクルチェーン50全体の変位を規制することができる。
【0132】
従って、本実施形態であっても、例えばてんぷ30が自由振動している最中に、何らかの外乱が入力されたとしても、アンクルチェーン50ががたつく、或いは振動してしまうことを抑制することができる。これにより、脱進機110を安定して作動させることができる。
特に第1実施形態とは異なり、ドテピン111が1つだけで良いうえ、衝撃アンクル51の平面スペース内にドテピン111を配置できるので、第1実施形態において一対のドテピン102、103が占有していたスペースを省略或いは有効利用することができる。
【0133】
さらに、衝撃アンクル51の係合プレート115と停止アンクル53の係合フォーク92とが、一対の弾性部116の外周面が係合フォーク92の内面に対して押し付けられた状態で互いに連結されているので、係合プレート115と係合フォーク92との間に隙間が生じることを抑制することができる。これにより、衝撃アンクル51と停止アンクル53とをがたつき少なく互いに連結させることができる。
従って、衝撃アンクル51と停止アンクル53との間との間に、バックラッシュが発生することを効果的に抑制することができ、衝撃アンクル51及び停止アンクル53を、反応良く回動させることができる。これにより、脱進機110をよりスムーズに作動させることができ、作動性能をさらに向上させることができる。
【0134】
なお、上記第2実施形態では、係合プレート115と係合フォーク92との係合によって、衝撃アンクル51と停止アンクル53とを相対変位可能に連結させたが、この場合に限定されるものではなく、例えば歯部同士の噛み合いによって連結させても構わない。
【0135】
例えば、
図20に示す脱進機120では、衝撃アンクル51における第1爪石保持部76に、衝撃アンクル51の回動方向に沿って並んだ複数の歯部121が第1回転方向M1側に向けて形成されている。これに対応して、停止アンクル53におけるアンクル体91の周端部91bには、第2実施形態の係合フォーク92に代えて、衝撃アンクル51側の歯部121に噛み合う複数の歯部122が形成されている。これにより、衝撃アンクル51は、歯部121、122同士の噛み合いによって停止アンクル53に対して連結されている。
【0136】
このように構成された脱進機120であっても、第2実施形態と同様の作用効果を奏功することができる。
【0137】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。各実施形態は、その他様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形例には、例えば当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものなどが含まれる。
【0138】
例えば上記各実施形態では、香箱車内に収容されたぜんまいの動力をがんぎ車に伝達する構成を例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではなく、例えば香箱車以外に設けられたぜんまいから、がんぎ車に動力が伝達されるように構成されても構わない。
【0139】
また、上記各実施形態では、リュウズを利用してぜんまいを手動で巻き上げる手巻き式のムーブメントとしたが、この場合に限定されるものではなく、例えば回転錘を備えた自動巻き式のムーブメントとしても構わない。
【0140】
また、上記各実施形態では、衝撃爪石及び停止爪石の各爪石をルビー等の人工宝石で形成する場合を例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではなく、例えばその他の脆性材料や鉄系合金等の金属材料で形成しても構わない。さらには、DeepRIE等の半導体加工技術により、シリコン等の半導体材料で爪石をアンクルと一体に形成しても構わない。いずれにしても、上述した爪石としての機能を奏功できれば、材質や形状等は、適宜変更して構わない。
【0141】
また、上記各実施形態では、衝撃アンクルユニットを1つのアンクルで構成したが、この場合に限定されるものではなく、例えば2つ以上のアンクルで構成し、いずれか1つのアンクルに第1衝撃爪石を取り付けても構わない。
同様に、上記各実施形態では、停止アンクルユニットを1つのアンクルで構成したが、この場合に限定されるものではなく、例えば2つ以上のアンクルで構成し、そのうちの2つのアンクルに停止爪石をそれぞれ取り付けても構わない。
【0142】
さらに、上記各実施形態では、単層構造のがんぎ車を利用する場合を例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではなく、例えば第1がんぎ歯車と第2がんぎ歯車とが同軸上に重なった二層構造のがんぎ車を採用し、いわゆるCoaxial脱進機に近い構成としても構わない。
【0143】
この場合であっても、本実施形態によれば衝撃アンクルが第1衝撃爪石を有し、停止アンクルが第1停止爪石及び第2停止爪石を有しているので、衝撃及び停止の作用が最適に行われるように、二層構造のがんぎ車に対して衝撃アンクル及び停止アンクルをそれぞれ配置させることができる。例えば、第1がんぎ歯車のがんぎ歯に対して、衝撃アンクルに取り付けられた第1衝撃爪石及びてんぷに取り付けられた第2衝撃爪石が接触可能となるように構成し、且つ第2がんぎ歯車のがんぎ歯に対して停止アンクルに取り付けられた第1停止爪石及び第2停止爪石が係脱可能となるように構成することができる。
従って、例えば第1実施形態と同様の作用効果を奏功することができる。ただし、上記各実施形態のように、単層構造のがんぎ車とした場合には、二層構造の場合に比べてがんぎ車の慣性が大きくなることを抑制することができるので、動力の伝達効率を向上させ易くなる。