【解決手段】パラメトリックスピーカ1は、仮想曲面S上に配置され、音波帯域の搬送波を可聴帯域の信号波により変調した変調波を放射する複数の超音波発生素子11を有する。仮想曲面Sの焦点位置F1が、仮想曲面Sにおける複数の超音波発生素子11が配置された素子配置領域AR10とパラメトリックスピーカ1の受聴領域AR1またはAR2との間に存在するように、仮想曲面Sの曲率を設定する。このとき、素子配置領域AR10および焦点位置F1に対して素子配置領域AR10側とは反対側において、受聴領域AR1、AR2は、素子配置領域AR10から離れるほど大きくなる。
前記曲面の曲率と、前記受聴領域の大きさ、前記パラメトリックスピーカと前記受聴領域との間のスピーカ受聴領域間距離および前記素子配置領域の大きさとの間に成立する関係式に基づいて、前記曲面の曲率を設定する
請求項2記載の音響空間設定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載されたパラメトリックスピーカでは、複数の超音波発生素子が平面上に配列されており、その受聴領域の大きさも略パラメトリックスピーカの大きさ程度となる。従って、被聴者の人数の増減に対応すべく、受聴領域を変更できるようにしようとした場合、例えば複数のパラメトリックスピーカの受聴領域を集合させて1つの受聴領域を構成するようにすることが考えられる。この場合、被聴者の人数の増減に合わせて使用するパラメトリックスピーカを増減することにより受聴領域の大きさを変化させることができる。
【0005】
しかしながら、複数のパラメトリックスピーカの受聴領域を集合させて1つの受聴領域を構成するようにするには、複数のパラメトリックスピーカの相対的な位置関係等を把握しながら各パラメトリックスピーカの向きを設定する必要があり、設定作業が複雑でありユーザが煩わしさを感じる虞がある。
【0006】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、比較的簡単に受聴領域の大きさを変化させることができるパラメトリックスピーカを用いた音響空間設定方法、パラメトリックスピーカおよび音響システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る音響空間設定方法は、音波帯域の搬送波を可聴帯域の信号波により変調した変調波を放射する複数の超音波発生素子を有するパラメトリックスピーカを用いた音響空間設定方法であって、複数の超音波発生素子が、曲面上に配置され、曲面の焦点位置は、曲面における複数の超音波発生素子が配置された素子配置領域とパラメトリックスピーカの受聴領域との間、および、素子配置領域に対して受聴領域側とは反対側のいずれか一方に存在するように、曲面の曲率を設定することにより、受聴領域が、焦点位置からパラメトリックスピーカの中心軸に沿って離れるほど大きくなるようにする。
【0008】
本構成によれば、曲面の焦点位置は、曲面における複数の超音波発生素子が配置された素子配置領域とパラメトリックスピーカの受聴領域との間、および、素子配置領域に対して受聴領域側とは反対側のいずれか一方に存在するように、曲面の曲率を設定することにより、素子配置領域および焦点位置に対して素子配置領域側とは反対側において、受聴領域が、素子配置領域から離れるほど大きくなるようにしている。これにより、素子配置領域および焦点位置に対して素子配置領域側とは反対側において、受聴領域の大きさを大きくし易くなっている。従って、例えば複数のパラメトリックスピーカの受聴領域を集合させて1つの受聴領域を構成するようにし、使用するパラメトリックスピーカの数の増減により受聴領域の大きさを変化させる方法に比べて、受聴領域の大きさを比較的簡単に変化させることができる。
【0009】
(2)本発明に係る音響空間設定方法は、上記受聴領域の大きさに基づいて、上記曲面の曲率を設定してもよい。
本構成によれば、音を聞かせるべき被聴者が存在する領域が受聴領域に含まれるように曲面の曲率を設定すれば、被聴者に確実に音を聞かせることができる。
【0010】
(3)本発明に係る音響空間設定方法は、上記曲面の曲率と、上記受聴領域の大きさ、上記パラメトリックスピーカと受聴領域との間のスピーカ受聴領域間距離および上記素子配置領域の大きさとの間に成立する関係式に基づいて、曲面の曲率を設定してもよい。
本構成によれば、上記関係式に基づいて簡単な数値解析を行うことにより曲面の曲率を設定することができるので、実際に被聴者の聞こえ具合に基づいて曲面の曲率を試行錯誤しながら設定する場合に比べて、曲面の曲率を比較的簡単に設定することができる。
【0011】
(4)本発明に係る音響空間設定方法は、上記関係式が、下記式(1)で表されてもよい。
【数1】
・・・式(1)
A1:上記素子配置領域の前記パラメトリックスピーカの中心軸に直交する平面への投影領域の大きさ、A2:上記受聴領域の前記平面への投影領域の大きさ、L1:上記スピーカ受聴領域間距離、r1:上記曲面の曲率半径
本構成によれば、前述と同様に、曲面の曲率を比較的簡単に設定することができる。
【0012】
(5)本発明に係る音響空間設定方法は、上記関係式が、下記式(2)で表されてもよい。
【数2】
・・・式(2)
A1:上記素子配置領域の前記パラメトリックスピーカの中心軸に直交する平面への投影領域の大きさ、A2:上記受聴領域の前記平面への投影領域の大きさ、L1:上記スピーカ受聴領域間距離、r1:上記曲面の曲率半径
本構成によれば、前述と同様に、曲面の曲率を比較的簡単に設定することができる。
【0013】
(6)本発明に係る音響空間設定方法は、上記受聴領域の大きさが、上記素子配置領域の大きさよりも大きくてもよい。
本構成によれば、受聴領域の大きさが、上記素子配置領域の大きさよりも大きいので、例えば素子配置領域よりも広い範囲に存在する複数の被聴者に対して音を聞かせることが可能となる。
【0014】
(7)他の観点から見た本発明に係るパラメトリックスピーカは、超音波帯域の搬送波を可聴帯域の信号波により変調した変調波を放射する複数の超音波発生素子と、複数の超音波発生素子が曲面上に配置される形で取り付けられ且つ曲面の曲率が可変である支持部材と、を備える。
本構成によれば、曲面の曲率半径を変更することができることにより、曲面の焦点位置を変更することができるので、パラメトリックスピーカの受聴領域の大きさを変更することが可能となる。
【0015】
(8)また、本発明に係るパラメトリックスピーカは、上記支持部材が、細長の棒状に形成され且つその長手方向に沿って複数の超音波発生素子が固定された複数の固定部材と、細長の板状に形成され、短手方向における片端面同士が対向するように配置されるとともに、上記複数の固定部材の長手方向における両端部を支持する2つの可撓部材と、を備え、2つの可撓部材が撓むことにより、上記曲面の曲率が変化するものであってもよい。
本構成によれば、可撓部材を撓ませる機構を設けることにより、焦点位置を変化させることができるので、パラメトリックスピーカの受聴領域を機械的に変化させることが容易になる。
【0016】
(9)他の観点から見た本発明に係る音響システムは、可聴帯域の信号波を生成する信号生成装置と、超音波帯域の搬送波を生成する搬送波発生部と、この搬送波を前記信号波によって変調した変調波を放射する複数の超音波発生素子を有するパラメトリックスピーカと、複数の超音波発生素子が配置される曲面の曲率を調整することにより、パラメトリックスピーカに対応する受聴領域の大きさを設定する曲率設定部と、を備える。
本構成によれば、複数の超音波発生素子が、曲面上に配置され、曲率設定部が、パラメトリックスピーカの向きおよび曲面の曲率を調整することにより、受聴領域の大きさを設定することができる。これにより、受聴領域の大きさを比較的簡易に変更することが可能となる。
【0017】
(10)また、本発明に係る音響システムは、上記曲率設定部が、要求される上記受聴領域の大きさに応じて上記曲面の曲率を調整するものであってもよい。
本構成によれば、音を聞かせるべき被聴者が存在する領域が受聴領域に含まれるように曲面の曲率を設定すれば、被聴者に確実に音を聞かせることができる。
【0018】
(11)また、本発明に係る音響システムは、被聴者の存在位置および被聴者の人数を検出する被聴者検出部を更に備え、上記曲率設定部が、上記被聴者検出部により検出される被聴者の存在位置および被聴者の人数に基づいて、上記曲面の曲率を調整するものであってもよい。
本構成によれば、被聴者の存在する位置や被聴者の人数に合わせて受聴領域の位置および大きさを適宜設定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施形態>
<1>構成
まず、本実施形態に係る音響システムの構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る音響システムの概略構成図である。
音響システムは、パラメトリックスピーカ1と、焦点位置制御部(曲率設定部)2と、信号生成装置3と、被聴者検出部4と、を備える。
パラメトリックスピーカ1は、複数の超音波発生素子11と、超音波発生素子11を支持する支持部材12と、支持部材12の形状を変化させる支持部材可変部13と、を備える。
【0021】
超音波発生素子11は、20kHz以上の高い周波数で人間が音として知覚できない超音波を搬送波とし、音声等の可聴帯域の信号波で拡幅変調された変調波を、非線形性が生じる大きな振幅で空気中に放射する。変調波は、空気中を伝播する過程で空気の非線形性により歪を生じるため、この歪によって可聴音である信号波が自己復調し、指向性の高い音場が形成されるようになっている。なお、超音波発生素子11としては、例えばSPL(Hong Kong)Limited社製UT1007−Z325Rを採用することができる。この超音波発生素子11は、共振周波数が40kHz、出射面の直径が約9.9mmである。
【0022】
支持部材12は、複数(
図1では9本)の固定部材12aと、2つの可撓部材12bと、を備える。
固定部材12aは、細長の棒状に形成され、その長手方向に沿って複数(
図1では10個)の超音波発生素子11が固定されている。ここで、複数の超音波発生素子11は、超音波の出射方向が固定部材12aの長手方向に直交する一方向を向くように固定部材12aに固定されている。
可撓部材12bは、細長の矩形板状に形成されており、短手方向における片端面同士が対向するように配置されている。そして、2つの可撓部材12bが、複数の固定部材12aの長手方向における両端部を支持している。
【0023】
支持部材可変部13は、支持部材12の可撓部材12bを撓ますことにより、複数の超音波発生素子11が配置される仮想曲面(曲面)Sの焦点位置を変化させることができる。
なお、「仮想曲面」とは、厳密に断面円弧状のものだけを意味するのではなく、例えば、断面が多角形状、即ち、複数の直線を繋ぎ合わせた形状も含む意味である。
【0024】
図2(a)〜(c)は、本実施形態に係るパラメトリックスピーカ1の概略側面図である。
複数の超音波発生素子11は、仮想曲面S上に配置された状態で、支持部材12に固定されている。
支持部材可変部13は、矩形箱状の本体部13aと、本体部13aに対して、本体部13aの可撓部材12bに対応する面に直交する方向に位置変更が可能となっている可撓部材12bを支持する複数の可撓部材支持部13bとを備える。可撓部材支持部13bは、本体部13aに内蔵されたモータ(図示せず)により位置変更することができる。これにより、可撓部材支持部13bの本体部13aから可撓部材12b側への突出量を変化させることができる。
【0025】
図2(a)に示すように、複数の可撓部材支持部13bにおいて、本体部13aから可撓部材12b側への突出量が略等しいとする。この場合、複数の超音波発生素子11は、平坦な仮想平面S内に配置された状態となる。
【0026】
図2(b)に示すように、複数の可撓部材支持部13bにおいて、本体部13aから可撓部材12b側への突出量が、それらの先端部の包絡形状が本体部13a側に凸となる曲面状であるとする。この場合、複数の超音波発生素子11は、本体部13a側に凸となるように湾曲した仮想曲面Sの内面に配置された状態となる。
【0027】
図2(c)に示すように、複数の可撓部材支持部13bにおいて、本体部13aから可撓部材12b側への突出量が、それらの先端部の包絡形状が本体部13a側から離れる方向に凸となる曲面状であるとする。この場合、複数の超音波発生素子11は、本体部13aから離れる方向に凸となるように湾曲した仮想曲面Sに配置された状態となる。
【0028】
図3は、本実施形態に係る音響システムのブロック図である。
パラメトリックスピーカ1は、前述の超音波発生素子11や支持部材可変部13等に加えて、更に、変調部15と、搬送波生成部16と、複数の増幅部14と、を備える。
【0029】
増幅部14は、複数の超音波発生素子11毎に設けられている。この増幅部14は、例えば超音波帯域の増幅特性が良好なオペアンプ等を用いて構成されている。
【0030】
搬送波生成部16は、所定の周波数の超音波から成る搬送波を生成し、変調部15に出力する。この搬送波生成部16は、例えば水晶振動子等を用いた高周波発振器を含んで構成されている。
【0031】
変調部15は、信号生成装置3から入力された信号波によって、搬送波生成部16から入力された搬送波を拡幅変調し、変調波を生成する。そして、この変調波は、増幅部14によって増幅された状態で、超音波発生素子11から放射される。
ここで、変調部15および搬送波生成部16は、例えばCPU等の演算部やメモリ等の記憶部、その他、入出力インターフェース等を備えたコンピュータから構成されている。そして、演算部が、記憶部に読み込まれたコンピュータプログラムを実行することにより、変調部15および搬送波生成部16が実現されている。
【0032】
焦点位置制御部2は、支持部材可変部13に対して制御信号を入力することにより、支持部材12の一部を構成する可撓部材12bを撓ませて、複数の超音波発生素子11が配置された仮想曲面Sの曲率を調節する。具体的には、焦点位置制御部2は、支持部材可変部13の本体部13aに内蔵されたモータを制御信号により制御することにより、支持部材12の可撓部材支持部13bの位置を適宜設定することにより、複数の超音波発生素子11が配置される仮想曲面(仮想平面)の形状を変化させる。
【0033】
信号生成装置3は、信号源31と、フィルタ処理部32と、を備える。
信号源31は、音声信号やオーディオ信号等の可聴帯域の信号波を生成し、フィルタ処理部32に出力する。
フィルタ処理部32は、信号波に所定の特性を付与したうえで当該信号波をパラメトリックスピーカ1へ出力する。
【0034】
図1に戻って、被聴者検出部4は、画像処理部41と、カメラ42と、を備える。ここで、画像処理部41は、例えばカメラ42が撮影した被聴者を含む景色の画像をカメラ42から取得し、取得した画像に基づいて被聴者の存在位置や被聴者の人数等を特定する。ここにおいて、画像処理部41は、例えば、画像中の各部分における特徴量を算出し、算出した特徴量が被聴者の特徴を示す特徴量に近い部分があれば当該部分に被聴者の画像と認定する。そして、画像処理部41は、画像中における被聴者の画像と認定した場所に基づいて、カメラ42と被聴者との位置関係を特定する。このようにして、画像処理部41は、被聴者の存在位置や被聴者の人数に関する情報を算出する。その後、画像処理部41は、算出した被聴者の存在位置や被聴者の人数等を示す情報を焦点位置制御部2へ送る。
【0035】
なお、焦点位置制御部2、信号生成装置3および被聴者検出部4の一部を構成する画像処理部41は、例えばCPU等の演算部やメモリ、HDD等の記憶部、その他、入出力インターフェース等を備えたパーソナルコンピュータから構成されている。そして、このパーソナルコンピュータにインストールされたコンピュータプログラムを実行することにより、パーソナルコンピュータが、焦点位置制御部2、信号生成装置3および画像処理部41を構成する各機能部を実現している。
【0036】
<2>音響空間設定方法について
次に、本実施形態に係る音響システムを用いた音響空間設定方法について説明する。
図4は、本実施形態に係る音響空間における、素子配置領域AR10と受聴領域AR1,AR2,AR3との関係を示した模式図である。
図4(a)および(b)は、パラメトリックスピーカ1の焦点位置F1が、素子配置領域AR10と受聴領域AR1(AR2)との間に位置する場合を示している。そして、
図4(a)および(b)では、パラメトリックスピーカ1(素子配置領域AR10)と受聴領域AR1(AR2)との間の距離(スピーカ受聴領域間距離)L1が同じである。
この場合、パラメトリックスピーカ1の焦点距離L21(L22)が短いほど受聴領域AR1(AR2)は大きくなる。従って、例えば受聴者Pの人数が増加し、受聴領域AR1(AR2)を広くする必要がある場合、焦点距離L21(L22)を短くすればよい。なお、「受聴領域AR1,AR2の大きさ」とは、パラメトリックスピーカ1の中心軸に直交する面への投影領域の面積に相当する。
【0037】
図4(c)は、パラメトリックスピーカ1の焦点位置F0が、素子配置領域AR10に対して受聴領域AR0側とは反対側に位置する場合を示している。
この場合、
図4(a)および(b)に示すような、パラメトリックスピーカ1の焦点位置F1が、素子配置領域AR10と受聴領域AR1(AR2)との間に位置する場合に比べて、受聴領域AR0を大きくし易い。そして、受聴者Pの人数が増加し、受聴領域AR0を広くする必要がある場合、焦点距離L23を短くすればよい。
【0038】
発明者らは、本実施形態に係る音響システムを用いて、音響空間設定方法について実際に検討を行っている。以下、この結果について説明する。
図5は、本実施形態に係る音響空間の音圧分布評価方法を示す模式図である。ここで、横軸は、パラメトリックスピーカ1から測定点までの、パラメトリックスピーカ1の中心軸に直交する方向における距離を示す。また、縦軸は、パラメトリックスピーカ1から測定点までの、パラメトリックスピーカ1の中心軸方向における距離を示す。
ここにおいて、パラメトリックスピーカ1の形状を変化させながら、パラメトリックスピーカ1の周囲に位置する20箇所の測定点において、復調音(0〜20kHz)の音圧測定を行っている。具体的には、パラメトリックスピーカ1の焦点位置が、パラメトリックスピーカ1と受聴領域AR1との間に存在する場合と、パラメトリックスピーカ1に対して受聴領域AR1側とは反対側に存在する場合とについて評価している。
【0039】
図6は、本実施形態に係るパラメトリックスピーカ1について、その焦点位置F1がパラメトリックスピーカ1と受聴領域AR1との間に存在する場合を示す模式図である。
図6において、パラメトリックスピーカ1の短手方向における両端部の位置B1,C1の間の距離がx11、受聴領域AR1(AR2)の両端部の位置D1,E1の間の距離がx12である。また、位置B1,C1から焦点位置F1までの距離(仮想曲面Sの曲率半径)がr1、位置D1,E1から焦点位置F1までの距離がr2である。そして、パラメトリックスピーカ1と受聴領域AR1との間のスピーカ受聴領域間距離L1が、r1+r2に等しいとする。この場合、x11,x12,r1,r2,L1の間には、下記式(3)の関係式が成立する。
【数3】
・・・式(3)
【0040】
更に、素子配置領域AR10のパラメトリックスピーカ1の中心軸J1に直交する平面への投影領域の大きさA1と、受聴領域AR1(AR2)の上記平面への投影領域の大きさA2とが、距離x11,x12に比例するとする。この場合、下記式(1)の関係式が成立する。
【数1】
・・・式(1)
式(1)および(3)に示すように、パラメトリックスピーカ1の仮想曲面Sの曲率を変えることにより、距離x11および距離r1を変化させると、受聴領域AR1(AR2)の長さx12、受聴領域AR1(AR2)の大きさを変化させることが可能となる。
【0041】
図7(a)および(b)並びに
図8は、本実施形態に係る音響空間の音圧分布を示す図である。ここで、(a)は、距離r1が30cmの場合の結果を示し、(b)は、距離r1が10cmの場合の結果を示す。また、
図7は、複数の超音波発生素子11が、平坦な仮想平面S上に配置されている場合の結果を示す。
図7(a)および(b)並びに
図8の結果から、パラメトリックスピーカ1の焦点位置が、パラメトリックスピーカ1と受聴領域との間に存在する場合は、複数の超音波発生素子11が平坦な仮想平面S上に配置されている場合に比べて、指向性が広くなることが判る。
また、
図7(a)および(b)の結果から、距離r1が小さいほど指向性が広くなることも判る。
【0042】
なお、
図6に示す構成において、被聴者は、パラメトリックスピーカ1から少なくとも2m以上離れた場所に存在することが多い。このことを考慮すると、上記式(3)において、距離x11と、曲率半径r1とについて下記式(4)の関係式が成立することが好ましい。ここにおいて、距離x11は、パラメトリックスピーカ1の大きさを表す指標となる長さである。
【数4】
・・・式(4)
ここで、曲率半径r1の長さは、距離x11の3倍以下が好ましく、更には、距離x11の1.5倍以下がより好ましい。また、曲率半径r1の長さは、距離x11と等しいのがより好ましく、距離x11の0.7倍以下が最も好ましい。
また、曲率半径r1の長さは、50cm以下が好ましく、更には、25cm以下がより好ましい。また、曲率半径r1の長さは、20cm以下がより好ましく、10cm以下が最も好ましい。
ここにおいて、例えば距離x11を0.15m、曲率半径r1を0.67mに設定すると、距離r2は、1.33m、距離x12は、0.3mとなる。このとき、距離r2は、曲率半径r1の3倍となる。
また、例えば距離x11を0.15m、曲率半径r1を0.18mに設定すると、距離r2は、1.82m、距離x12は、1.5mとなる。このとき、距離r2は、曲率半径r1の10倍となる。
更に、例えば距離x11を0.15m、曲率半径r1を0.09mに設定すると、距離r2は、1.91m、距離x12は、3.31mとなる。このとき、距離r2は、曲率半径r1の21倍となる。このとき、焦点位置F1から仮想曲面Sを臨む角度は、約120°となる。
【0043】
このように、距離x11と曲率半径r1とを設定することにより、パラメトリックスピーカ1の仮想曲面Sの焦点位置F1を、素子配置領域AR10側に近づけることができる分、焦点位置F1から素子配置領域AR10を臨む角度が大きくなる。これにより、複数の超音波発生素子11から放射される変調波の、焦点位置F1から素子配置領域AR10側とは反対側への広がり角が大きくなるので、受聴領域AR1(AR2)を大きくすることができる。
【0044】
図9は、本実施形態に係るパラメトリックスピーカ1について、その焦点位置F2がパラメトリックスピーカ1に対して受聴領域AR1側とは反対側に存在する場合を示す模式図である。
図9において、パラメトリックスピーカ1の短手方向における両端部の位置B2,C2の間の距離がx21、受聴領域AR1の両端部の位置D2,E2の間の距離がx22である。また、位置B2,C2から焦点位置F2までの距離(仮想曲面Sの曲率半径)がr1、位置D2,E2から焦点位置F2までの距離がr2である。そして、パラメトリックスピーカ1と受聴領域AR1との間のスピーカ受聴領域間距離L1が、r2−r1に等しいとする。この場合、x21,x22,r1,r2の間には、下記式(5)の関係式が成立する。
【数5】
・・・式(5)
【0045】
更に、素子配置領域AR10のパラメトリックスピーカ1の中心軸J2に直交する平面への投影領域の大きさA1と、受聴領域AR0の上記平面への投影領域の大きさA2とが、距離x11,x12に比例するとする。この場合、下記式(2)の関係式が成立する。
【数2】
・・・式(2)
式(2)および(4)に示すように、パラメトリックスピーカ1の仮想曲面Sの曲率を変えることにより、距離x21および距離r1を変化させると、焦点位置F2から距離r2の位置にある位置D2,E2で規定される受聴領域AR0の長さ、受聴領域AR0の大きさA2を変化させることが可能となる。
【0046】
図10は、本実施形態に係る音響空間の音圧分布を示す図である。ここで、距離r1が30cmの場合の結果を示している。
図10並びに
図8の結果から、パラメトリックスピーカ1の焦点位置F2がパラメトリックスピーカ1に対して受聴領域AR2側とは反対側に存在する場合、複数の超音波発生素子11が平坦な仮想平面S1上に配置されている場合に比べて、指向性が広くなることが判る。
【0047】
図11は、本実施形態に係るパラメトリックスピーカ1について、パラメトリックスピーカ1から当該パラメトリックスピーカ1の中心軸方向に200cmだけ離間した位置における音圧分布を示す図である。ここで、「Def」は、複数の超音波発生素子11が平坦な仮想平面S上に配置されている場合を示す。また、(1)および(2)は、パラメトリックスピーカ1の焦点位置F1がパラメトリックスピーカ1と受聴領域AR1との間に存在する場合を示す。(3)は、パラメトリックスピーカ1の焦点位置F2がパラメトリックスピーカ1に対して受聴領域AR1側とは反対側に存在する場合を示す。そして、(1)および(2)は、距離r1を30cm,10cmに設定した場合に対応し、(3)は、距離r1を30cmに設定した場合に対応する。
【0048】
図11に示すように、複数の超音波発生素子11が平坦な仮想平面S上に配置されている場合、最大音圧と最小音圧との音圧差が、17.7dBである。これに対して、パラメトリックスピーカ1の仮想曲面Sの焦点位置F1がパラメトリックスピーカ1と受聴領域AR1との間に存在する場合、上記音圧差が、14.1dB、7.2dBにまで低下している。更に、パラメトリックスピーカ1の仮想曲面Sの焦点位置F2がパラメトリックスピーカ1に対して受聴領域AR1側とは反対側に存在する場合、上記音圧差が、7.7dBにまで低下している。これらのことからも、パラメトリックスピーカ1の形状が湾曲している場合は、複数の超音波発生素子11が平坦な仮想平面S1上に配置されている場合に比べて、指向性が広くなることが判る。
【0049】
図11の結果から、仮想曲面Sの焦点位置が、素子配置領域AR10と受聴領域AR1(AR2)との間に位置する場合、素子配置領域と焦点位置F1との間における変調波の損失を低減することができる。
一方、仮想曲面Sの焦点位置が、素子配置領域AR10に対して受聴領域AR0側とは反対側に位置する場合、素子配置領域AR10と受聴領域AR0との間の距離(スピーカ受聴領域間距離)L1が小さくても受聴領域AR0の大きさを大きくし易いという利点がある。
【0050】
また、前述のように、大きさA1,A2と、スピーカ受聴領域間距離L1、と仮想曲面Sの曲率半径r1との間には、式(1)や式(2)の関係式が成立する。ここで、大きさA1は、素子配置領域AR10のパラメトリックスピーカ1の中心軸J1(J2)に直交する平面への投影領域の大きさである。また、大きさA2は、受聴領域AR1(AR2,AR0)の上記平面への投影領域の大きさである。
以上のように、仮想曲面Sの曲率半径r1は、受聴領域AR1,AR2,AR0の大きさに基づいて設定される。これにより、音を聞かせるべき被聴者が存在する領域が受聴領域に含まれるように曲面の曲率を設定すれば、被聴者に確実に音を聞かせることができる。
【0051】
また、前述のように、式(1)および(2)の関係式に基づいて、仮想曲面Sの曲率半径r1を設定すれば、当該関係式に基づいて簡単な数値解析を行うことにより仮想曲面Sの曲率半径r1を設定することができる。従って、実際に被聴者の聞こえ具合に基づいて曲面の曲率を試行錯誤しながら設定する場合に比べて、曲面の曲率を比較的簡単に設定することができる。
【0052】
<3>動作
次に、本実施形態に係る音響システムの動作について説明する。
図12は、本実施形態に係る音響システムの焦点位置制御部2の動作を示すフローチャートである。また、
図13は、本実施形態に係る音響システムの一使用例を示す図である。
まず、焦点位置制御部2は、対象領域の位置情報を取得する(ステップS1)。ここでは、焦点位置制御部2は、被聴者検出部4から被聴者Pの存在する領域(対象領域)AR3,AR4を示す位置情報を取得する。
図13(a)および(b)に示すように、この「対象領域の位置情報」は、対象領域AR3,AR4の中心部CE3,CE4の位置を示す情報に相当する。
【0053】
次に、焦点位置制御部2は、対象領域AR3,AR4の中心部CE3,CE4を向くように、パラメトリックスピーカ1の向きを設定する(ステップS2)。ここでは、
図13(a)および(b)に示すように、焦点位置制御部2は、パラメトリックスピーカ1の向きを規定方向J3から中心部CE3に対応する角度θ30だけ傾けたり、規定方向J3から中心部CE4に対応する角度θ40だけ傾けたりする。
【0054】
続いて、焦点位置制御部2は、対象領域AR3,AR4の広がりに関する情報を取得する(ステップS3)。
図13(a)に示すように、被聴者Pが6人存在する場合、対象領域AR3は、6人の被聴者Pを含む領域にまで広がっていることになる。一方、
図13(b)に示すように、被聴者Pが2人だけの場合、対象領域AR4は、2人の被聴者Pだけを含む領域に広がっていることになる。
【0055】
その後、焦点位置制御部2は、対象領域AR3,AR4内における音圧が規定の音圧以上となるように、パラメトリックスピーカ1の仮想曲面Sの曲率を設定する(ステップS4)。ここにおいて、
図13(a)および(b)に示すように、焦点位置制御部2は、パラメトリックスピーカ1の仮想曲面Sの曲率半径r1を、対象領域AR3の大きさに対応する長さR3に設定したり、対象領域AR4に対応する長さR4に設定したりする。ここで、対象領域AR3は、対象領域AR4に比べて大きい。従って、曲率半径R3は、曲率半径R4に比べて小さく設定される。
【0056】
次に、焦点位置制御部2は、対象領域AR3,AR4の位置や広がりを変更する旨の指令が有るか否かを判定する(ステップS5)。この指令は、被聴者検出部4から入力される。
【0057】
ステップS5において、対象領域の位置や広がりを変更する旨の指令があると判定されると(ステップS5:Yes)、焦点位置制御部2は、ステップS1の処理を行う。
一方、ステップS5において、対象領域の位置や広がりを変更する旨の指令がないと判定されると(ステップS5:No)、焦点位置制御部2は、終了指令があるか否かを判定する(ステップS6)。この終了指令は、例えば焦点位置制御部2に接続されたユーザインターフェース(図示せず)から入力される。
【0058】
ステップS6において、終了指令がないと判定されると(ステップS6:No)、焦点位置制御部2は、再びステップS5の処理を行う。
一方、ステップS6において、終了指令があると判定されると(ステップS6:Yes)、焦点位置制御部2は、処理を終了する。
【0059】
以上のように、本実施形態に係る音響システムでは、複数の超音波発生素子11が、仮想曲面S上に配置されている。そして、焦点位置制御部(曲率設定部)2が、パラメトリックスピーカの曲面の曲率半径r1を調整することにより、対象領域(受聴領域)AR3,AR4の大きさを設定することができる。これにより、対象領域(受聴領域)AR3,AR4の大きさを比較的簡易に変更することが可能となる。
【0060】
焦点位置制御部2が、要求される対象領域(受聴領域)AR3,AR4の大きさに応じて仮想曲面Sの曲率半径r1を調整する。これにより、音を聞かせるべき被聴者が存在する領域が受聴領域に含まれるように曲面の曲率を設定すれば、被聴者に確実に音を聞かせることができる。
【0061】
また、本実施形態に係る音響システムでは、被聴者検出部4が、被聴者Pの存在位置および被聴者Pの人数を検出する。そして、焦点位置制御部2が、被聴者検出部4により検出される被聴者Pの存在位置および被聴者Pの人数に基づいて、パラメトリックスピーカ1の仮想曲面Sの曲率半径r1を調整する。これにより、被聴者Pの存在する位置や被聴者Pの人数に合わせて対象領域AR3,AR4の大きさを適宜設定することが可能となる。
【0062】
<4>まとめ
結局、本実施形態に係る音響空間設定方法は、複数の超音波発生素子11が配置される仮想曲面Sの曲率半径R1(R2,R0)を変えることにより、受聴領域の大きさを変化させる。従って、例えば複数のパラメトリックスピーカを用いて受聴領域の大きさを変化させる音響空間設定方法に比べて、受聴領域の大きさを比較的簡単に変化させることができる。なお、仮想曲面Sの曲率半径R1(R2,R0)は、スピーカ受聴領域間距離L1、素子配置領域AR10の大きさおよび受聴領域AR1(AR2,AR0)の大きさとの間に成立する関係式(式(1))に基づいて設定する。
【0063】
また、受聴領域AR1(AR2,AR0)の大きさが、素子配置領域AR10の大きさよりも大きいので、例えば素子配置領域よりも広い範囲に存在する複数の被聴者に対して音を聞かせることが可能となる。
【0064】
また、本実施形態に係るパラメトリックスピーカ1は、複数の超音波発生素子11が仮想曲面S上に配置される形で取り付けられ、仮想曲面Sの曲率を変更することができる支持部材12を備える。これにより、仮想曲面Sの曲率半径r1を変更することにより、仮想曲面Sの焦点位置F1(F2)を変更することができるので、パラメトリックスピーカ1の受聴領域AR1(AR2,AR0)の大きさを変更することが可能となる。
【0065】
更に、本実施形態に係るパラメトリックスピーカ1は、支持部材12が、複数の固定部材12aと、複数の固定部材12aの長手方向における両端部を支持する2つの可撓部材12bと、を備えている。そして、2つの可撓部材12bが撓むことにより、複数の超音波発生素子11から出射される変調波の焦点位置F1(F2)が変化する。これにより、可撓部材12bを撓ませる機構を設けることにより、焦点位置F1(F2)を変化させることができるので、パラメトリックスピーカ1の受聴領域AR1(AR2,AR0)を機械的に変化させることが容易になる。
【0066】
<変形例>
(1)実施形態では、複数の超音波発生素子11が配置される仮想曲面Sの曲率を変化させる例について説明したが、例えば、仮想曲面の曲率が異なる複数種類の支持部材それぞれに複数の超音波発生素子11が取り付けられた構成であってもよい。
図14は、本変形例に係る音響システムのブロック図である。
本変形例に係る音響システムは、パラメトリックスピーカ201と、向き制御部202と、信号生成装置3と、を備える。なお、実施形態と同様の構成については同一の符号を付して適宜説明を省略する。
パラメトリックスピーカ201は、複数のサブスピーカ211A〜211Cと、複数のサブスピーカ211A〜211Cの全てが取り付けられた1つの主支持部材213と、切替部217と、を備える点が実施形態に係るパラメトリックスピーカ1とは相違する。
【0067】
サブスピーカ211A(211B,211C)は、複数の超音波発生素子11と、当該複数の超音波発生素子11を支持する副支持部材212A(212B,212C)と、を備える。そして、複数のサブスピーカ211A〜211Cは、複数の超音波発生素子11が配置される仮想曲面SA〜SCの曲率半径R21A〜R21Cが互いに異なっている。例えば、サブスピーカ211Aに対応する仮想曲面SAの曲率半径R21Aが最も小さく、サブスピーカ211Cに対応する仮想曲面SCの曲率半径R21Cが最も大きくなっている。そして、サブスピーカ211Bを含む複数のサブスピーカそれぞれに対応する仮想曲面の曲率半径が、上記曲率半径R21A〜R21Cの間の大きさに設定されている。
【0068】
切替部(曲率設定部)217は、変調部15から入力される変調波を入力するサブスピーカ211A〜211Cを切り替える。具体的には、切替部217は、受聴領域を大きくする旨の指令情報を受け付けると、変調波を曲率半径の小さいサブスピーカに入力する。一方、切替部217は、受聴領域を小さくする旨の指令情報を受け付けると、変調波を曲率半径の大きいサブスピーカに入力する。
向き制御部202は、主支持部材213における複数のサブスピーカ211A〜211Cの取付面の向きを制御する。
【0069】
本構成によれば、実施形態に係る音響システムのような、複数の超音波発生素子11が固定された支持部材12の曲率半径を変化させる支持部材可変部13のような機構が不要となるので、パラメトリックスピーカ201の構造の簡素化を図ることができる。
【0070】
(2)実施形態では、支持部材12の形状を変化させることにより、複数の超音波発生素子11が配置される仮想曲面Sの曲率を変化させる例について説明したが、仮想曲面Sの曲率を変化させる構成はこれに限定されるものではない。例えば、所定の曲率を有する型部材に、パラメトリックスピーカ本体を取り付けると、当該型部材に沿ってパラメトリックスピーカ本体が変形するものであってもよい。
【0071】
図15は、本変形例に係るパラメトリックスピーカ301を示し、(a)はパラメトリックスピーカ本体301aの形状を変化させるための作業を示す概略斜視図、(b)はパラメトリックスピーカ本体301aの形状が決定された状態を示す概略斜視図である。
本変形例に係るパラメトリックスピーカ301は、パラメトリックスピーカ本体301aと、型部材301bと、を備える。ここで、型部材301bは、パラメトリックスピーカ本体301aが配置される第1部位323と、第1部位323に連続しパラメトリックスピーカ本体301aを第1部位323に案内する第2部位324とから構成される。そして、第1部位323におけるパラメトリックスピーカ本体301aが当接する当接面は、アーチ状に湾曲している。そして、第1部位323における上記当接面の曲率半径は、受聴領域の大きさやパラメトリックスピーカ301から受聴領域までの距離に基づいて予め設定されている。
【0072】
また、型部材301bの幅方向における両端部には、パラメトリックスピーカ本体301aの幅方向における両端部を保持する保持部321が設けられている。
図15(a)に示すように、使用する前に、まず、パラメトリックスピーカ本体301aを、型部材301bの第2部位324側から第1部位323へ保持部321により幅方向における両端部が保持された状態で摺動させる。
そして、
図15(b)に示すように、パラメトリックスピーカ本体301aが、型部材301bの第1部位323に配置される。
【0073】
本構成によれば、形状が互いに異なる複数種類の型部材を準備しておけば、受聴領域の大きさを変更することが可能となる。
【0074】
(3)実施形態に係る音響システムにおいて、例えば、映画館等のように予め座席位置が把握できているような場合、焦点位置制御部2が、当該座席位置に基づいてパラメトリックスピーカ1の向きおよび焦点距離を制御してもよい。具体的には、焦点位置制御部2が、各座席の座席識別情報と、パラメトリックスピーカ1から見たときの座席それぞれの方向との関係を示すテーブルデータを保持するようにすればよい。そして、焦点位置制御部2が、このテーブルデータを参照して、パラメトリックスピーカ1の向きを制御するようにすればよい。
【0075】
図16は、本変形例に係る音響システムの一使用例を示す図である。また、
図17は、変形例に係る焦点位置制御部2が保持するテーブルデータの一例を示す図である。
ここで、焦点位置制御部2が、例えばパラメトリックスピーカ1の向きを、鉛直方向(縦方向)と、鉛直方向に直交する方向(横方向)とに変えることができるとする。そして、焦点位置制御部2が、パラメトリックスピーカ1の鉛直方向に直交する断面の曲率半径のみを変化させることが可能とする。
【0076】
この場合、
図17に示すように、テーブルデータは、各座席の座席識別情報と、各座席の方向(例えば、各座席の中心部の方向)を指定する2種類の角度との関係を示すものとすればよい。
そして、焦点位置制御部2は、このテーブルデータを参照して、パラメトリックスピーカ1の向き(横の角度)を例えば下記式(6)に示す関係式に基づいて算出する。
【数6】
・・・式(6)
ここで、θsは、受聴領域の中心部の横方向の位置を示す角度、θjは、識別番号jの座席の横方向の位置を示す角度、m1,m2は、受聴領域の両端部の横方向の位置を示す識別番号である。
つまり、焦点位置制御部2は、パラメトリックスピーカ1の向きを、角度座標(θs,φk)で表される向きに設定する。
また、焦点位置制御部2は、上記式(1)の関係式に基づいて、受聴領域に含まれる座席数に応じて、パラメトリックスピーカ1における複数の超音波発生素子11が配置される仮想曲面Sの曲率半径を設定する。
【0077】
例えば、
図16の一点鎖線で示すように、パラメトリックスピーカ1から「3−C」〜「3−E」の3つの座席に座っている人に対して音を届けるとする。この場合、焦点位置制御部2は、テーブルデータおよび上記式(6)に基づいて、パラメトリックスピーカ1の向きを、角度座標((θ3+θ4+θ5)/3,φ3)で表される向きに設定する。また、焦点位置制御部2は、受聴領域AR41内に3つの座席「3−C」〜「3−E」が入るように、上記仮想曲面Sの曲率半径R41を設定する。
【0078】
また、
図16の破線で示すように、パラメトリックスピーカ1から「5−B」の1つの座席に座っている人のみに対して音を届けるとする。この場合、焦点位置制御部2は、テーブルデータおよび上記式(6)に基づいて、パラメトリックスピーカ1の向きを、角度座標(θ2,φ5)で表される向きに設定する。また、焦点位置制御部2は、受聴領域AR42内に1つの座席「5−B」が入るように、上記仮想曲面Sの曲率半径R42を設定する。
【0079】
なお、本変形例では、焦点位置制御部2が、パラメトリックスピーカ1の鉛直方向に平行な断面の曲率半径のみを変化させることが可能であってもよい。この場合、焦点位置制御部2は、このテーブルデータを参照して、パラメトリックスピーカ1の縦方向の角度を例えば下記式(7)に示す関係式に基づいて算出するようにすればよい。
【数7】
・・・式(7)
ここで、φsは、受聴領域の中心部の縦方向の位置を示す角度、φkは、識別番号kの横方向の位置を示す角度、n1,n2は、受聴領域の両端部の横方向の位置を示す識別番号である。
【0080】
本構成によれば、例えば、受聴領域に含める予定のある受聴領域予定場所が予め分かっている場合、当該受聴領域予定場所を示す情報をテーブルデータに登録しておけば、焦点位置制御部2は、テーブルデータを参照して受聴領域に含めることができる。従って、焦点位置制御部2において、パラメトリックスピーカ1の向きを算出する処理を省略することができるので、焦点位置制御部2における処理負荷の軽減を図ることができる。
【0081】
(4)実施形態に係るパラメトリックスピーカ1では、複数の超音波発生素子11が配置される仮想曲面Sが、円柱側面状である例について説明したが、この仮想曲面Sの形状はこれに限定されるものではない。例えば、仮想曲面Sの形状が、放物曲面状であってもよいし、或いは、球面状であってもよい。更には、仮想曲面Sの形状が、円錐側面状であってもよい。
特に、仮想曲面Sが円錐側面状である場合、複数の超音波発生素子11の中から、変調波を発生させる超音波発生素子11をその位置に基づいて選択することにより、パラメトリックスピーカの受聴領域を変化させることができる。
【0082】
具体的には、パラメトリックスピーカ1と受聴領域との間の距離(スピーカ受聴領域間距離)が一定であるとする。この場合、仮想曲面Sにおける円錐先端部側に位置する超音波発生素子11のみから変調波を発生させるようにすれば、仮想曲面Sの焦点位置がパラメトリックスピーカ1に比較的近い位置に設定され、受聴領域が大きくなる。一方、仮想曲面Sにおける円錐基端部側に位置する超音波発生素子11のみから変調波を発生させるようにすれば、仮想曲面Sの焦点位置がパラメトリックスピーカ1から比較的遠い位置に設定され、受聴領域が小さくなる。
【0083】
(5)実施形態に係るパラメトリックスピーカ1では、支持部材可変部13が、可撓部材支持部13bの位置を適宜変更することにより、可撓部材12bを所定の曲率半径を持つように撓ませて仮想曲面Sを形成する例について説明した。但し、仮想曲面Sを形成する機構は、これに限定されるものではない。例えば、可撓部材12bをバイメタルから構成してもよい。この場合、パラメトリックスピーカは、当該バイメタルから構成された可撓部材12bに対する印加電圧を調整することにより、可撓部材12bを所定の形状に変形させて仮想曲面Sを形成する印加電圧調整部(図示せず)を備える構成とすればよい。
【0084】
本構成によれば、パラメトリックスピーカの構造の簡素化を図ることができる。
【0085】
(6)実施形態に係る音響システムでは、被聴者検出部4が、カメラ42で撮影して得られる画像から被聴者の存在位置や人数等に関する情報を取得する例について説明した。但し、被聴者検出部4の構成は、これに限定されるものではなく、例えば、被聴者それぞれが保持しているタグ装置から送信される無線信号を検出して被聴者の存在位置や人数等に関する情報を取得するものであってもよい。
【0086】
この場合、被聴者検出部4は、例えば、複数の無線受信機と、信号解析装置と、を備える構成とすればよい。ここで、複数の無線受信機は、パラメトリックスピーカ1から放射される音が届く範囲内の複数箇所に設置されている。また、信号解析装置は、各無線受信機で受信される無線信号の強度を取得するとともに、各無線受信機が受信した無線信号を解析して各タグ装置に付与された識別情報を取得する。
ここで、信号解析装置は、複数の無線受信機それぞれの位置情報と、各無線受信機で受信される電波強度とに基づいて、タグ装置の存在位置や個数に関する情報を取得する。
【0087】
本構成によれば、タグ装置を所持する被聴者の位置や人数を正確に把握することができるので、被聴者へ確実に音を届けることができる。
【0088】
<付記>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において適宜変更可能である。