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特開2018-153150発酵種及びこれを用いたベーカリー食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-153150(P2018-153150A)
(43)【公開日】2018年10月4日
(54)【発明の名称】発酵種及びこれを用いたベーカリー食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 8/04 20060101AFI20180907BHJP
【FI】
   A21D8/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-54021(P2017-54021)
(22)【出願日】2017年3月21日
(71)【出願人】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】特許業務法人IPアシスト特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 良二
(72)【発明者】
【氏名】八十川 大輔
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DG02
4B032DK12
4B032DK54
4B032DK59
(57)【要約】
【課題】
本発明は、ベーカリー食品の酸味を制御することを目的とするものである。
【解決手段】
本発明は、水、穀粉、混合物1gあたり10〜10個のペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌、混合物1gあたり10〜10個のパン酵母及び混合物1gあたり5〜20mgのペントースを含有する混合物を発酵させて発酵種を得る工程を含む、発酵種の製造方法、並びに該発酵種を用いたベーカリー食品の製造方法及びベーカリー食品の酸味の調節方法に関する。本発明によれば、発酵種の製造において使用するペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌及び/又はパン酵母の量を調節することにより、多様な酸味を有するベーカリー食品を製造することが可能になる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、穀粉、混合物1gあたり10〜10個のペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌、混合物1gあたり10〜10個のパン酵母及び混合物1gあたり5〜20mgのペントースを含有する混合物を発酵させて発酵種を得る工程を含む、発酵種の製造方法。
【請求項2】
ペントースがアラビノース及び/又はキシロースである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌がラクトバチルス・ペントーサス又はラクトバチルス・プランタラムである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌が受託番号NITE P−02348として寄託されているL.ペントーサス HOKKAIDO株である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
水、穀粉、混合物1gあたり10〜10個のペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌、混合物1gあたり10〜10個のパン酵母及び混合物1gあたり5〜20mgのペントースを含有する混合物を発酵させて発酵種を得る工程、発酵種を用いて焼成用生地を調製する工程、並びに焼成用生地を焼成する工程を含む、ベーカリー食品の製造方法。
【請求項6】
ペントースがアラビノース及び/又はキシロースである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌がラクトバチルス・ペントーサス又はラクトバチルス・プランタラムである、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌が受託番号NITE P−02348として寄託されているL.ペントーサス HOKKAIDO株である、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項9】
水、穀粉、混合物1gあたり10〜10個のペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌、混合物1gあたり10〜10個のパン酵母及び混合物1gあたり5〜20mgのペントースを含有する混合物を発酵させて発酵種を得る工程、発酵種を用いて焼成用生地を調製する工程、並びに焼成用生地を焼成する工程を含む、ベーカリー食品の酸味の調節方法。
【請求項10】
ペントースがアラビノース及び/又はキシロースである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌がラクトバチルス・ペントーサス又はラクトバチルス・プランタラムである、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌が受託番号NITE P−02348として寄託されているL.ペントーサス HOKKAIDO株である、請求項9又は10に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌とパン酵母とを共発酵させることを特徴とする発酵種の製造方法、当該発酵種を利用したベーカリー食品の製造方法及びベーカリー食品の酸味を調節する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パンは、小麦粉を主とする穀粉を原料とする生地を焼成して製造するベーカリー食品の代表例である。小麦粉やライ麦等の穀粉の種類を変更したり、生地の発酵に要するパン酵母の種類を変えたり又はパン酵母以外の微生物を組み合わせて共発酵したりすることで、パンに様々な風味を加える工夫がなされている。
【0003】
パン酵母と乳酸菌とを共発酵させて製造される発酵種を用いたパンは、共発酵によって生成される有機酸、特に酢酸による酸味や風味を有する。このようなパンは一般にサワーブレッドと、またサワーブレッドを製造するための発酵種はサワー種(サワードウ)と呼ばれている。
【0004】
パンの酸味等の風味改善を目的として様々な取り組みがなされている。例えば、特許文献1〜4には、サワー種等の乳酸菌を含む発酵種を用いたパンの製造方法が示されている。しかしながら、これらの従来技術は、使用する乳酸菌株の特性に依存した技術であり、一定の酸味しか付与することができない。
【0005】
パン類には多種多様なものがあり、それぞれ求められる酸味の度合いが異なる。例えば、香りとして酸味の高いもの或いはやや弱いもの、味として酸味の高いもの或いは弱いもの、後味に酸味を感じるようなもの等、様々であるが、それらの要求に応えるパン及び発酵種の製造方法が依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4402633号公報
【特許文献2】特許第4775689号公報
【特許文献3】特開2006−325480号公報
【特許文献4】特許第5334530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ベーカリー食品の酸味を制御することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌及びペントースを用いた発酵種の製造において、ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌の添加量に対するパン酵母の添加量を調節することにより、発酵種の酸味及び該発酵種を用いて製造したパンの酸味を調節できることを見いだし、以下の発明を完成させた。
【0009】
(1)水、穀粉、混合物1gあたり10〜10個のペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌、混合物1gあたり10〜10個のパン酵母及び混合物1gあたり5〜20mgのペントースを含有する混合物を発酵させて発酵種を得る工程を含む、発酵種の製造方法。
(2)ペントースがアラビノース及び/又はキシロースである、(1)に記載の製造方法。
(3)ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌がラクトバチルス・ペントーサス又はラクトバチルス・プランタラムである、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌が受託番号NITE P−02348として寄託されているL.ペントーサス HOKKAIDO株である、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(5)水、穀粉、混合物1gあたり10〜10個のペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌、混合物1gあたり10〜10個のパン酵母及び混合物1gあたり5〜20mgのペントースを含有する混合物を発酵させて発酵種を得る工程、発酵種を用いて焼成用生地を調製する工程、並びに焼成用生地を焼成する工程を含む、ベーカリー食品の製造方法。
(6)ペントースがアラビノース及び/又はキシロースである、(5)に記載の製造方法。
(7)ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌がラクトバチルス・ペントーサス又はラクトバチルス・プランタラムである、(5)又は(6)に記載の製造方法。
(8)ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌が受託番号NITE P−02348として寄託されているL.ペントーサス HOKKAIDO株である、(5)又は(6)に記載の製造方法。
(9)水、穀粉、混合物1gあたり10〜10個のペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌、混合物1gあたり10〜10個のパン酵母及び混合物1gあたり5〜20mgのペントースを含有する混合物を発酵させて発酵種を得る工程、発酵種を用いて焼成用生地を調製する工程、並びに焼成用生地を焼成する工程を含む、ベーカリー食品の酸味の調節方法。
(10)ペントースがアラビノース及び/又はキシロースである、(9)に記載の方法。
(11)ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌がラクトバチルス・ペントーサス又はラクトバチルス・プランタラムである、(9)又は(10)に記載の方法。
(12)ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌が受託番号NITE P−02348として寄託されているL.ペントーサス HOKKAIDO株である、(9)又は(10)に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発酵種の製造において使用するペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌及び/又はパン酵母の量を調節することにより、多様な酸味を有するベーカリー食品を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】パン酵母の添加量を変化させたときの発酵種中の有機酸生成量を示すグラフである。
図2】ペントース資化性通性へテロ発酵型乳酸菌の添加量を変化させたときの発酵種中の有機酸生成量を示すグラフである。
図3】3種類の異なるペントース資化性通性へテロ発酵型乳酸菌を用いた場合の発酵種中の有機酸生成量を示すグラフである。
図4】パンの有機酸含有量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第1の態様は、水、穀粉、混合物1gあたり10〜10個のペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌、混合物1gあたり10〜10個のパン酵母及び混合物1gあたり5〜20mgのペントースを含有する混合物を発酵させて発酵種を得る工程を含む、発酵種の製造方法に関する。
【0013】
本発明の第1の態様における混合物は、水、穀粉、ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌、パン酵母及びペントースを含有する。
【0014】
水は、食品用途で用いられるものであれば特に制限はない。また穀粉は、ベーカリー食品、特にパン類の製造に利用される穀粉であれば特に制限はなく、例えば小麦粉、ライ麦粉、大麦粉又は米粉等のイネ科植物の穀物を挽いたもの又はそれらを適宜混合したものである。本発明において好ましい穀粉は小麦粉又はライ麦粉であり、特に小麦粉が好ましい。
【0015】
通性ヘテロ発酵型乳酸菌は、グルコースを炭素源とした場合はホモ型発酵を行って乳酸を生成し、またペントースやグルコン酸等のグルコース以外の糖類を炭素源とした場合はヘテロ型発酵を行って乳酸、酢酸、エタノール、CO等を生成するという乳酸発酵形式を有する乳酸菌であり、条件的ヘテロ発酵型乳酸菌とも呼ばれる。通性ヘテロ発酵型乳酸菌の例としては、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・パラプランタラム(Lactobacillus paraplantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバチルス・カルバタス(Lactobacillus curbatus)、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)等を挙げることができる。
【0016】
ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌とは、ペントースを分解する能力を有する通性ヘテロ発酵型乳酸菌をいう。通性ヘテロ発酵型乳酸菌はその多くが生来ペントース資化性であり、上で例示した通性ヘテロ発酵型乳酸菌はペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌として用いることができる。通性ヘテロ発酵型乳酸菌がペントース資化性を有するか否かは、糖源としてペントースのみを含む培地中で乳酸菌を培養し、酸の産生を確認することにより、判定することができる。
【0017】
本発明において好ましいペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌はL・ペントーサス(L.pentosus)及びL.プランタラム(L.plantarum)であり、特に、独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センターに受託番号NITE P−02348として寄託されているL.ペントーサス HOKKAIDO株(識別の表示Lactobacillus pentosus HOKKAIDO)及び受託番号FERM P−19645として寄託されているL.プランタラム HOKKAIDO株(識別の表示Lactobacillus plantarum HOKKAIDO)が好ましい。
【0018】
パン酵母は、パン類の製造に用いられる酵母であれば特に制限はなく、生イースト、ドライイースト、インスタントドライイースト等の工業的に生産されている市販のパン酵母でも、また発酵種の発酵に適している限り、いわゆる果物や穀物等から自家採捕した酵母でも良い。
【0019】
ペントース(五炭糖)は、ペントース資化性通性へテロ発酵型乳酸菌が資化することができるものであればよく、例としてリボース、アラビノース、キシロース、リキソース、リブロース又はキシルロースを挙げることができる。本発明において好ましいペントースはアラビノース又はキシロースであり、アラビノースが特に好ましい。
【0020】
本発明の第1の態様における混合物は、混合物1gあたり10〜10個のペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌、10〜10個のパン酵母及び5〜20mgのペントースを含有する。これらの値は、いずれも発酵させる前の混合物におけるものである。発酵前の混合物における各成分の含有量を上記の範囲内で調節することによって、混合物を発酵させて得られる発酵種における有機酸、特に酢酸の含有量を変化させることができ、この発酵種を用いて製造されるベーカリー食品の酸味及び風味を変化させることができる。発酵前の混合物における各成分の含有量が上記の範囲から外れると、その発酵種を用いて製造されるベーカリー食品は、発酵に必要な酵母数が不足した発酵不十分なものとなる、あるいは酸味が強すぎる等、風味や酸味が嗜好性の点で劣るものとなる。
【0021】
本発明において用いられるペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌は、グルコースとペントースとが培地中に共存するときはグルコースを優先的に資化して乳酸を生成するが、グルコースが不足又は欠乏すると、グルコース以外の炭素源例えばペントースを資化して乳酸、酢酸等を生成する。以下は推論であり、発明を限定的に解するものではないが、水、穀粉及びペントースを含有する混合物中でペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌と酵母との共発酵を行うと、穀粉由来のグルコースをめぐってペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌とパン酵母とが競合することでグルコースの不足又は欠乏が生じ、ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌がペントースを資化して酢酸が生成され、また競合の程度によって酢酸の生成量が変化するものと考えられる。
【0022】
後の実施例において示すように、発酵前の混合物においてペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌に対するパン酵母の相対量を増加させると、発酵種に含まれる酢酸の含有量が増加する傾向が認められ、発酵前の混合物においてパン酵母の量に対するペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌の相対量を増加させると、発酵種に含まれる酢酸の含有量が減少する傾向が認められる。かかる傾向は上記の推論に沿うものである。
【0023】
混合物中のペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌の量は、発酵前の混合物1gあたり10〜10個、好ましくは2×10〜1×10個の範囲内で調節される。また、混合物中のパン酵母の量は、発酵前の混合物1gあたり10〜10個、好ましくは1×10〜5×10個、より好ましくは3×10〜5×10個の範囲内で調節される。本発明における微生物の個数はCFU(Colony Forming Unit)で定義され、また実際の混合物においてCFUを指標として調節される。
【0024】
酢酸の含有量が少ない発酵種は、ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌の量を上記の範囲内でより多くする、及び/又はパン酵母の量を上記の範囲内でより少なくすることにより製造することができる。また、酢酸の含有量が多い発酵種は、ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌の量を上記の範囲内でより少なくする、及び/又はパン酵母の量を上記の範囲内でより多くすることにより製造することができる。
【0025】
混合物は、1gあたり5〜20mgのペントースを含有する。混合物中のペントースの含有量は、ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌及びパン酵母の量、発酵時間、所望の酸味及び風味等に応じて、上記の範囲内で適宜設定することができる。なお、通常、食品用途に用いられる穀粉において、ペントースは多糖であるペントサンの構成糖として存在しており、単糖形態のペントースはほとんど含まれない。したがって、このようなペントースがほとんど含まれない穀粉が用いられる場合は、上記量のペントースの添加により、上記量のペントースを含有する混合物が調製される。一方、例えばペントサン分解酵素処理によりペントースが強化された穀粉等の、ペントースを予め含む穀粉が用いられる場合は、ペントースの添加量は穀粉に内在するペントースの量に応じて適宜調節される。さらに、ペントサン分解酵素処理等によって穀粉中のペントース含有量を高めることで、ペントースを別途添加することなく、上記量のペントースを含有する混合物を調製してもよい。
【0026】
混合物中の水と穀粉との配合比は、穀粉の種類や発酵種から製造されるベーカリー食品の種類等に応じて適宜設定することができ、例えば30:70〜70:30、好ましくは40:60〜60:40である。
【0027】
混合物は、水、穀粉、ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌及びパン酵母の量を、混合後の各成分の含有量が上記の範囲となるように調節して混合することにより調製される。混合物は、乳酸菌及びパン酵母の栄養成分となるタンパク質、アミノ酸類、ミネラル類等をさらに含んでもよい。好適な混合物は、水、穀粉、ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌、パン酵母及びペントース以外の成分を含まない、これらからなる混合物である。
【0028】
典型的には、混合物は、上記各成分を混練することによって調製される混練物である。各成分の混合順序には特に制限はなく、全て乾燥粉末または顆粒状態の穀粉、ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌、パン酵母及びペントースを混合後、水を加えて混練してもよいが、乾燥粉末又は顆粒状態の穀粉に水を加えて混練した後、ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌、パン酵母及びペントースを加えてさらに混練することが好ましい。混練の程度は、一般的な発酵種と同程度であれば良い。
【0029】
発酵は、ペントース資化性ヘテロ発酵型乳酸菌とパン酵母との共発酵が可能となる環境に混合物を置くことにより行うことができるが、かかる環境は一般的な発酵種を調製するときのものと実質的に異ならない。例えば、温度は室温〜35℃程度、好ましくは25〜30℃であればよく、時間は数時間〜72時間、好ましくは24〜48時間の範囲で適宜調節すればよい。また、発酵中の過度の乾燥を防ぐために湿度を調節するか、または混合物の表面を適当な布等で覆うことが好ましい。
【0030】
本発明の第2の態様は、水、穀粉、混合物1gあたり10〜10個のペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌、混合物1gあたり10〜10個のパン酵母及び混合物1gあたり5〜20mgのペントースを含有する混合物を発酵させて発酵種を得る工程、発酵種を用いて焼成用生地を調製する工程、並びに焼成用生地を焼成する工程を含む、ベーカリー食品の製造方法に関する。すなわち、第2の態様は、第1の態様において説明した方法で製造される発酵種を利用したベーカリー食品の製造方法であり、水、穀粉、ペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌、パン酵母及びペントースを含有する混合物とその調製方法及び発酵条件等は、第1の態様において説明したとおりである。
【0031】
ベーカリー食品は、パン、ケーキ、クッキー、ペイストリー、パイ等の焼成によって調理される、穀粉を利用した食品を意味する。本発明において特に好ましいベーカリー食品はパンである。
【0032】
本発明の第2の態様における、発酵種以外の焼成用生地の成分には特別な制限はなく、穀粉の他に食塩、糖類、澱粉類、卵、粉乳、油脂、グルテン、添加剤その他の任意の副原料を含めることができる。また、果物、ナッツ類その他の食材を嗜好に応じて添加してもよい。
【0033】
焼成用生地の調製及び焼成は、目的とするベーカリー食品毎に用いられる一般的な条件又は方法を採用して行えばよい。例えば、焼成用生地は、上記の成分を発酵種に添加して混練することで調製してもよく、また発酵種とは別に上記の成分を含む混合物を用意し、この混合物と発酵種とを混練することで調製してもよい。また、焼成用生地の調製中に生地の発酵を行うために、発酵後の発酵種に又は焼成用生地の調製時にパン酵母を追加して加えても良い。
【0034】
本発明の第2の態様にかかる方法で製造されるベーカリー食品は、酢酸を含む有機酸による風味又は酸味を有する。この風味又は酸味は、本発明の第1の態様にかかる方法によって発酵種中の有機酸、特に酢酸の量を変化させることを通じて、調節することができる。このように、本発明の第2の態様にかかる方法は、水、穀粉、混合物1gあたり10〜10個のペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌、混合物1gあたり10〜10個のパン酵母及び混合物1gあたり5〜20mgのペントースを含有する混合物を発酵させて発酵種を得る工程、発酵種を用いて焼成用生地を調製する工程、並びに焼成用生地を焼成する工程を含む、ベーカリー食品の酸味の調節方法と表すことができる。当該調節方法は、本発明の第3の態様を構成する。
【0035】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0036】
実施例1 パン酵母添加量の調節による発酵種中の酢酸生成量の調節
1)通性へテロ発酵型乳酸菌の培養
L.ペントーサス HOKKAIDO株(以下、ペントーサスHOKKAIDO株と表す)をMRS液体培地に接種して、30℃で24時間静置培養した。培養終了後、遠心分離で菌体を回収し、生理食塩水に懸濁した液を作製し、細胞数(CFU)を確認した後に、以下の実験に用いた。同様にして、L.プランタラム(L.plantarum)No.3株(以下、プランタラムNo.3株と表す)及びL.プランタラム HOKKAIDO株(以下、プランタラムHOKKAIDO株と表す)の懸濁液を作製した。
【0037】
2)発酵種の調製
小麦粉、小麦粉と同量の水、アラビノース、ペントーサスHOKKAIDO株及び市販パン酵母を混練して、混合物1gあたり10mgのアラビノース、2×10CFUのペントーサスHOKKAIDO株、及び1×10、3×10、5×10又は1×10CFUの市販パン酵母を含有する混合物を調製し、30℃で48時間発酵させて、発酵種を調製した。発酵種1gあたり9mLの蒸留水を添加混合し、遠心分離により得た上清をフィルターろ過した後、HPLC有機酸分析システム(株式会社 島津製作所)を用いて、各発酵種中のコハク酸、乳酸及び酢酸を定量した。
【0038】
図1に示されるように、発酵種中の酢酸濃度は、混合物中のパン酵母量の増加とともに増加する傾向が認められた。したがって、混合物中のパン酵母の数を調節することで、酢酸の生成量を変化させることができることが確認された。
【0039】
実施例2 乳酸菌添加量の調節による発酵種中の酢酸生成量の調節
小麦粉、小麦粉と同量の水、アラビノース、ペントーサスHOKKAIDO株及び市販パン酵母を混練して、混合物1gあたり10mgのアラビノース、3×10CFUの市販パン酵母及び2×10、2×10又は1×10CFUのペントーサスHOKKAIDO株を含有する混合物を調製し、30℃で48時間発酵させて、発酵種を調製した。実施例1と同様にして、各発酵種中のコハク酸、乳酸及び酢酸を定量した。
【0040】
図2に示されるように、発酵種中の酢酸濃度は混合物中の乳酸菌量の増加とともに減少する傾向が認められた。したがって、混合物中のペントース資化性通性へテロ発酵型乳酸菌の数を調節することでも、酢酸の生成量を変化させることができることが確認された。
【0041】
実施例3 ペントース資化性通性へテロ発酵型乳酸菌による酢酸生成
小麦粉、小麦粉と同量の水、アラビノース、市販パン酵母及びペントーサスHOKKAIDO株、プランタラムNo.3株又はプランタラムHOKKAIDO株を混練して、混合物1gあたり10mgのアラビノース、2×10CFUの乳酸菌、及び3×10CFUの市販パン酵母を含有する混合物を調製し、30℃で48時間発酵させて、発酵種を調製した。また、上記組成からアラビノースを除いた発酵種も同様に調製した。実施例1と同様にして、各発酵種中のリンゴ酸、コハク酸、乳酸及び酢酸を定量した。
【0042】
図3に示されるように、ペントーサスHOKKAIDO株と同じくペントース資化性通性へテロ発酵型乳酸菌であるプランタラムNo.3株及びプランタラムHOKKAIDO株はいずれもペントーサスHOKKAIDO株と同様にアラビノース存在下で酢酸を生成することが確認された。この結果は、ペントーサスHOKKAIDO株と同様にプランタラムNo.3株及びプランタラムHOKKAIDO株についても、混合物中でのパン酵母との競合によるグルコース不足又は欠乏、並びにこれに応じたペントースの資化及び酢酸産生が生じたことを示しており、これらのペントース資化性通性ヘテロ発酵型乳酸菌が発酵種の酸味の調節に利用可能であることを示唆するものである。
【0043】
実施例4 パン酵母添加量の調節によるパンの酢酸含有量の調節
実施例1で調製した、発酵前の混合物1gあたりのアラビノース含有量が10mg、ペントーサスHOKKAIDO株含有量が2×10CFU、市販パン酵母含有量が5×10CFUである発酵種200gに、小麦粉150g、バター10g、砂糖17g、食塩5g、水80mL及びドライイースト4gを加えて混練して調製した焼成用生地を、市販のホームベーカリー(パナソニック製)を用いて食パンモードで焼成して、アラビノース添加発酵種使用パンを製造した。また、上記発酵種にかかる混合物組成からアラビノースを除いた発酵種と、ペントーサスHOKKAIDO株及びアラビノースをいずれも除いた発酵種とを用意し、上記と同様に小麦粉等を加えて混練、焼成して、比較用のアラビノース無添加発酵種使用パン及びコントロールパンを製造した。パン1gあたり9mLの蒸留水を添加混合し、遠心分離により得た上清をフィルターろ過した後、HPLC有機酸分析システム(株式会社 島津製作所)を用いて、パン中のリンゴ酸、コハク酸、乳酸及び酢酸を定量した。
【0044】
図4に示されるように、アラビノース及び通性ヘテロ発酵型乳酸菌を含む発酵種を使用することで、これを焼成して得られるパンの酢酸含有量を増加させることができることが確認された。
【0045】
アラビノース添加発酵種使用パン、アラビノース無添加発酵種使用パン及びコントロールパンについて、高速アミノ酸分析計(L−8900、株式会社 日立ハイテクサイエンス)を用いてアミノ酸含量(mg/g)を定量した結果を表1に示す。
【表1】
【0046】
本発明の発酵種を焼成して得られるアラビノース添加発酵種使用パンは、アラビノース無添加発酵種使用パン又はコントロールパンよりも多くの種類のアミノ酸の含有量が増加していることが確認され、アミノ酸含有量の増加が風味の付与に寄与しているものと推測された。

図1
図2
図3
図4