特開2018-155305(P2018-155305A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-155305(P2018-155305A)
(43)【公開日】2018年10月4日
(54)【発明の名称】ラックガイドおよびギア機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 19/04 20060101AFI20180907BHJP
   B62D 3/12 20060101ALI20180907BHJP
【FI】
   F16H19/04 G
   B62D3/12 501D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-51957(P2017-51957)
(22)【出願日】2017年3月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】中川 昇
(72)【発明者】
【氏名】菊池 宏之
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA07
3J062AA36
3J062AB05
3J062AC07
3J062BA17
3J062CA15
3J062CA24
(57)【要約】
【課題】ラックバーとの接触領域を広くしつつ、ラックバーの背面等の曲率半径の製作ばらつきによる影響を小さくする。
【解決手段】ラックガイドシート32の摺動面33として、ラックバー20の軸心方向に垂直なYZ断面において、ラックバー20の中心Oと摺動面33の底部中央Cを結ぶ直線O3に対して線対称な2つの接触位置TA、TBをラックバー20の背面22との接触位置とし、接触位置TA、TBから摺動面33の周縁側320に配され、直線O3に対して線対称な一対の第一円弧面331A、331Bと、接触位置TA、TBから摺動面33の底部側321に配され、直線O3に対して線対称な一対の第二円弧面332A、332Bと、を含む凹面330を用いた。そして、接触位置TA、TBから同距離だけ離れた位置におけるラックバー20の背面22とのギャップについて、第一円弧面331A、331Bを第二円弧面332A、332bより大きくした。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピニオンギアと噛み合うラックギアが形成されたラックバーを、前記ラックギアの反対側から摺動可能に支持し、前記ピニオンギアの回転に応じて移動する前記ラックバーを当該ラックバーの軸心方向に案内するラックガイドであって、
前記ラックバーにおいて前記ラックギアの反対側に形成された円弧状の背面を摺動可能に支持する摺動面を備え、
前記摺動面は、
前記ラックバーの軸心方向に垂直な断面において、前記ラックバーの中心と前記摺動面の底部中央とを結ぶ直線に対して線対称な2つの位置を前記ラックバーの背面との接触位置とする凹面を有し、
前記凹面は、
前記ラックバーの軸心方向に垂直な断面において、前記接触位置から前記摺動面の周縁側に配され、前記直線に対して線対称な一対の第一円弧面と、前記接触位置から前記摺動面の底部側に配され、前記直線に対して線対称な一対の第二円弧面と、を含み、
前記第一の円弧面は、
前記ラックバーの軸心方向に垂直な断面において、前記接触位置から同距離だけ離れた位置における前記ラックバーの背面とのギャップが前記第二円弧面より大きい
ことを特徴とするラックガイド。
【請求項2】
請求項1に記載のラックガイドであって、
前記第一円弧面および前記第二円弧面は、
前記ラックバーの背面の断面形状の曲率中心よりも前記ラックギア側の位置を曲率中心とし、かつ前記ラックバーの背面の断面形状よりも曲率半径の大きな断面形状を有しており、
前記第一円弧面は、
前記第二円弧面の断面形状よりも曲率半径の大きな断面形状を有する
ことを特徴とするラックガイド。
【請求項3】
移動体の進行方向を、ステアリングホイールの回転に応じて変更するギア機構であって、
前記ステアリングホイールの回転に応じて回転するピニオンギアと、
前記ピニオンギアとかみ合うラックギアが形成され、前記ピニオンギアと前記ラックギアとの噛み合いにより、前記ピニオンギアの回転に応じて往復移動して前記移動体の車輪の向きを変えるラックバーと、
前記ラックバーを当該ラックバーの軸心方向に摺動可能に支持する請求項1または2に記載のラックガイドと、
前記ピニオンギアに前記ラックギアを押し当てる方向に前記ラックガイドを付勢する弾性体と、を備える
ことを特徴とするギア機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のステアリング装置等に用いられるラックアンドピニオンにおいて、ラックバーをその軸心方向にガイドしながらピニオンに押し当てるラックガイド(サポートヨーク)、およびこれを用いたギア機構に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のステアリング装置等に用いられるラックアンドピニオンにおいて、ラックケース内でラックバーの背面(ラックギアの反対側の円弧面)側に配置され、ラックバーをその軸心方向にガイドしながらピニオンに押し当てるラックガイドとして、例えば、特許文献1に記載のラックガイドが知られている。
【0003】
このラックガイドは、ラックケースのキャップとの間に挿入されたコイルスプリングの弾性力によってラックバーの背面に向けて付勢されるラックガイド本体と、ラックバーの背面とラックガイド本体との間に介在し、ラックバーの背面を摺動可能に支持するラックガイドシート(サポートヨークシート)と、を備えている。
【0004】
ラックガイドシートは、ラックバーの背面の形状に倣って湾曲した部材であり、ラックバーの背面を支持する摺動面として、ラックバーの軸心方向に垂直な断面において、ラックバーの中心とラックガイドシートの底部中央とを結ぶ直線に対して線対称な一対の円弧面を含む凹面を有している。この一対の円弧面は、ラックバーの背面の断面形状(円弧形状)の曲率中心よりもラックギア側の位置を曲率中心とする、ラックバーの背面の断面形状よりも曲率半径の大きな円弧状の断面形状を有している。ラックバーの背面は、ラックバーの軸心方向に垂直な断面において、ラックバーの中心とラックガイドシートの底部中央とを結ぶ直線に対して線対称な2つの位置で、摺動面に接触する。また、このラックガイドシートの裏面(摺動面の反対側の面)側には、このラックガイドシートをラックガイド本体に固定するためのボスが形成されている。
【0005】
ラックガイド本体には、ラックガイドシートの裏面の形状に倣った曲面形状の凹部が形成されており、ラックガイドシートは、この凹部の内側に隙間なく収容されている。また、ラックガイド本体の凹部の中央領域にはラックガイドシート固定用の貫通穴が形成されており、ラックガイドシートは、この貫通穴へのボスの圧入によりラックガイド本体に固定されている。
【0006】
特許文献1に記載のラックガイドは、上述したように、ラックバーの背面が、ラックバーの軸心方向に垂直な断面において、ラックバーの中心とラックガイドシートの中心とを結ぶ直線に対して線対称な2つの位置で、摺動面に接触する。このため、ラックバーの軸心方向に垂直な断面において、ラックバーの中心とラックガイドシートの底部中央とを結ぶ直線に対して垂直な方向におけるラックバーのガタツキを防止することができ、これにより、ラックバーの背面を安定して摺動可能に支持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−177604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ラックガイドシートの摺動面とラックバーの背面との接触が線接触であると、荷重が1点に集中して摩耗しやすい。このため、ラックガイドシートの摺動面の曲率半径をラックバーの背面の曲率半径に近づけて、両者の接触領域を広げることにより、荷重を分散させることが好ましい。しかしながら、ラックガイドシートの摺動面あるいはラックバーの背面の曲率半径の製作ばらつきにより、両者の接触領域がラックガイドシートの開口(周縁)側に広がる可能性がある。この場合、つぎのような問題が生じる。
【0009】
すなわち、ラックガイドシートの摺動面におけるラックバーの背面との接触位置にかかる垂直荷重をW、この接触位置におけるラックバーからラックガイドに入力する入力荷重(ラックバーの中心とラックガイドシートの中心とを結ぶ直線方向の荷重)をP、垂直荷重Wの荷重方向と入力荷重Pの荷重方向とのなす角をθ、摩擦係数をμ、そして、この接触位置に生じるラックガイドシートの摺動面の摩擦力をFとした場合、F=μW=μP/cosθとなる。したがって、入力荷重Pおよび摩擦係数μが一定の場合、なす角θが大きくなるほど、摩擦力Fが大きくなる(くさび効果)。このため、ラックガイドシートの摺動面におけるラックバーの背面との接触領域がラックガイドシートの開口側に広がると、接触位置におけるなす角θが大きくなって摩擦力Fが大きくなり(くさび効果が増大し)、ラックガイドの摺動性能が低下する。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ラックバーとの接触領域を広くしつつ、ラックガイドシートの摺動面あるいはラックバーの背面の曲率半径の製作ばらつきによる、ラックバーの背面とラックガイドシートの摺動面との摩擦力への影響を小さくすることができるラックガイドおよびこのラックガイドを用いたギア機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明では、ラックバーの円弧状の背面を摺動可能に支持する摺動面として、ラックバーの軸心方向に垂直な断面において、ラックバーの中心と摺動面の底部中央とを結ぶ直線に対して線対称な2つの位置をラックバーの背面との接触位置とする凹面を用いた。そして、この凹面に、ラックバーの軸心方向に垂直な断面において、上述の接触位置から摺動面の周縁側に配され、上述の直線に対して線対称な一対の第一円弧面と、上述の接触位置から摺動面の底部側に配され、上述の直線に対して線対称な一対の第二円弧面と、を含めた。また、ラックバーの軸心方向に垂直な断面において、上述の接触位置から同距離だけ離れた位置におけるラックバーの背面とのギャップについて、第一円弧面を第二円弧面より大きくした。
【0012】
例えば、本発明のラックガイドは、
ピニオンギアと噛み合うラックギアが形成されたラックバーを、前記ラックギアの反対側から摺動可能に支持し、前記ピニオンギアの回転に応じて移動する前記ラックバーを当該ラックバーの軸心方向に案内するラックガイドであって、
前記ラックバーにおいて前記ラックギアの反対側に形成された円弧状の背面を摺動可能に支持する摺動面を備え、
前記摺動面は、
前記ラックバーの軸心方向に垂直な断面において、前記ラックバーの中心と前記摺動面の底部中央とを結ぶ直線に対して線対称な2つの位置を前記ラックバーの背面との接触位置とする凹面を有し、
前記凹面は、
前記ラックバーの軸心方向に垂直な断面において、前記接触位置から前記摺動面の周縁側に配され、前記直線に対して線対称な一対の第一円弧面と、前記接触位置から前記摺動面の底部側に配され、前記直線に対して線対称な一対の第二円弧面と、を含み、
前記第一の円弧面は、
前記ラックバーの軸心方向に垂直な断面において、前記接触位置から同距離だけ離れた位置における前記ラックバーの背面とのギャップが前記第二円弧面より大きい。
【0013】
また、本発明のギア機構は、
移動体の進行方向を、ステアリングホイールの回転に応じて変更するギア機構であって、
前記ステアリングホイールの回転に応じて回転するピニオンギアと、
前記ピニオンギアとかみ合うラックギアが形成され、前記ピニオンギアと前記ラックギアとの噛み合いにより、前記ピニオンギアの回転に応じて往復移動して前記移動体の車輪の向きを変えるラックバーと、
前記ラックバーを当該ラックバーの軸心方向に摺動可能に支持する上述のラックガイドと、
前記ピニオンギアに前記ラックギアを押し当てる方向に前記ラックガイドを付勢する弾性体と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
ラックガイドシートの摺動面あるいはラックバーの背面の曲率半径に製作ばらつきが含まれる場合において、両者の実際の接触位置が摺動面の底部側にずれる場合は、上述のなす角θが小さくなる方向へのずれであり、特に問題とならないが、摺動面の開口(周縁)側にずれる場合は、なす角θが大きくなる方向へのずれであり、問題となる。しかし、本発明では、ラックバーの背面を摺動可能に支持する摺動面を、ラックバーの軸心方向に垂直な断面において、ラックバーの背面との接触位置から摺動面の周縁側に配され、ラックバーの中心と摺動面の底部中央とを結ぶ直線に対して線対称な一対の第一円弧面と、この接触位置から摺動面の底部側に配され、ラックバーの中心と摺動面の底部中央とを結ぶ直線に対して線対称な一対の第二円弧面と、を含んで構成している。そして、ラックバーの軸心方向に垂直な断面において、この接触位置から同距離だけ離れた位置におけるラックバーの背面とのギャップについて、第一円弧面が第二円弧面よりも大きくなるようにしている。このため、ラックガイドシートの摺動面とラックバーの背面との実際の接触位置が摺動面の開口側にずれた場合におけるなす角θの増加を低く抑えることができ、これにより両者間の摩擦力の増加を低く抑えることができる。したがって、本発明によれば、ラックバーとの接触領域を広くしつつ、ラックガイドシートの摺動面あるいはラックバーの背面の曲率半径の製作ばらつきによる、ラックバーの背面とラックガイドシートの摺動面との摩擦力への影響を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係るステアリング装置のギア機構1の断面図である。
図2図2(A)、(B)、(C)および(D)は、ラックガイド30の外観図、平面図、正面図および底面図であり、図2(E)は、図2(B)のA−A断面図である。
図3図3は、摺動面33の形状を説明するための図である。
図4図4は、ラックガイド30のくさび効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る一実施の形態について、添付の図面を参照して説明する。なお、以下の説明の便宜上、ラックバー20の軸心方向(ラックバー20の移動方向)をX方向、ピニオンギア11に対するラックギア21の押当て方向をZ方向、XおよびZ方向に垂直な方向をY方向と定義し、これらの方向を各図に適宜表示する。
【0017】
図1は、本実施の形態に係るステアリング装置のギア機構1の断面図である。
【0018】
本実施の形態に係るステアリング装置は、ステアリングシャフトの回転運動を直線運動に変換し、この直線運動を、車輪の向きを変えるリンク機構に伝達するラックアンドピニオン式のギア機構1を有する。
【0019】
図示するように、このギア機構1は、ピニオンギア11が形成されたピニオンシャフト10と、ピニオンギア11と噛み合うラックギア21が形成されたラックバー20と、ピニオンシャフト10を回転可能に支持するベアリング50と、ピニオンギア11の回転に伴いX方向に往復移動するラックバー20を案内するラックガイド30と、ピニオンギア11にラックギア21を押し当てるようにラックガイド30をZ方向に付勢するコイルスプリング40と、これらの部品10〜50が組み込まれたハウジング70およびキャップ60と、を備えている。なお、後述するように、ハウジング70のシリンダケース部の内壁面78とラックガイド30のベース部31の外周面との間に介在する環状の弾性部材(例えばOリング)80をさらに備えていてもよい。
【0020】
ピニオンシャフト10は、Y方向に対して軸心O1が傾斜するように配置された円柱状の部材である。ピニオンシャフト10の外周面12には、ピニオンギア11として例えばヘリカルギアが形成されている。ピニオンギア11は、ハウジング70のピニオンギア収容部73に収容されており、ピニオンシャフト10は、ピニオンギア11の両側の位置において、ハウジング70にベアリング50を介して軸心O1周りに回転可能に支持されている。また、ピニオンシャフト10の一方の端部13は、ハウジング70に形成された開口74からピニオンギア収容部73の外側に突き出し、不図示のステアリングシャフトに連結されている。これにより、ピニオンギア11が、ステアリングホイールの操作に応じて回転するステアリングシャフトに連動して回転する。
【0021】
ラックバー20は、X方向に沿って配置された円柱状の部材であり、図示していないが、その両端は、ボールジョイントを介して、車輪の向きを変えるリンク機構に連結されている。ラックギア21を構成する複数の歯は、ラックバー20の外周面にX方向に並んで形成されており、ハウジング70のピニオンギア収容部73において、ピニオンギア11の歯と所定の噛み合い位置で噛み合っている。そして、このラックバー20は、ラックギア21の反対側の円弧状の背面(ラックガイド30の摺動面33に対向する、YZ断面形状が円弧状の外周面)22でラックガイド30の摺動面33により摺動可能に支持されている。ステアリングシャフトとともにピニオンシャフト10が回転すると、ピニオンギア11とラックギア21との噛み合いにより、ラックバー20は、ラックガイド30の摺動面33に案内されてX方向に往復移動してリンク機構を揺動させる。これにより、ステアリングホイールの操作に応じて車輪の向きが変わる。
【0022】
ハウジング70は、X方向に沿って配置された円筒状のラックケース部71と、ラックケース部71の外周からZ方向に突き出した円筒状のシリンダケース部72と、を有する。
【0023】
ラックケース部71の内部には、ラックバー20がX方向に移動可能に収容されている。また、このラックケース部71の内部には、ピニオンギア収容部73が設けられている。このピニオンギア収容部73には、上述したように、ピニオンギア11と、このピニオンギア11が所定の噛み合い位置でラックギア21と噛み合うようにピニオンシャフト10を回転可能に保持するベアリング50と、が収容されている。また、このラックケース部71には、ピニオンギア収容部73と外部とをつなぐ開口74が、不図示のステアリングシャフト側に向けて形成されており、不図示のステアリングシャフトに連結されるピニオンシャフト10の一方の端部13は、この開口74からピニオンギア収容部73の外部に突き出している。
【0024】
一方、シリンダケース部72は、ラックバー20に対してピニオンギア11の反対側(ラックバー20の背面22側)に位置するようにラックケース部71に一体的に形成されており、シリンダケース部72の内部とラックケース部71の内部とは、ピニオンギア収容部73内のピニオンギア11に面した開口75を介して繋がっている。また、シリンダケース部72の開放端部76の内壁面78には、キャップ60を固定するためのネジ部77が形成されている。
【0025】
ラックガイド30は、ラックバー20の背面22を摺動可能に支持する摺動面33が設けられた一方の端面(図2におけるベース部31の一方の端面38B)をラックバー20の背面22側に向けて、シリンダケース部72の内部にZ方向にスライド可能に収容され、ラックバー20に対してピニオンギア11の反対側(ピニオンギア11とラックギア21との噛み合い位置におけるラックバー20の背面22側)に位置付けられている。また、ラックガイド30の他方の端面(図2におけるベース部31の他方の端面38A)側には、コイルスプリング40用のスプリングガイド(底付きの穴)35が設けられている。なお、このラックガイド30の詳細な構造については後述する。
【0026】
コイルスプリング40は、ラックガイド30のスプリングガイド35内に挿入されるようにハウジング70のシリンダケース部72内に収容されている。ハウジング70のシリンダケース部72の開放端部76にキャップ60がはめ込まれると、コイルスプリング40は、ハウジング70のシリンダケース部72内において、ラックガイド30とキャップ60の内側面61との間に位置付けられる。コイルスプリング40の自然長はラックガイド30のスプリングガイド35の深さよりも長いため、コイルスプリング40の一方の端部41は、ラックガイド30のスプリングガイド35からキャップ60の内側面(シリンダケース部72の内側に向けられる一方の面)61側に突き出している。
【0027】
キャップ60は、シリンダケース部72の開放端部76にはめ込み可能な円板形状を有し、そのキャップ60の外周にはネジ部62が形成されている。ハウジング70のシリンダケース部72内にラックガイド30を挿入してから、さらにラックガイド30のスプリングガイド35内にコイルスプリング40を収容した後に、キャップ60のネジ部62を、シリンダケース部72の開放端部76のネジ部77にねじ込むことにより、シリンダケース部72の開放端部76にキャップ60が固定されてシリンダケース部72が塞がれるともに、キャップ60の内側面61とラックガイド30のスプリングガイド35の底面351との間でコイルスプリング40が圧縮される。これにより、コイルスプリング40の復元力でラックバー20がピニオンギア11側に付勢され、ラックギア21がピニオンギア11に押圧されるため、ラックギア21とピニオンギア11の噛み合い位置における歯の離間が防止される。
【0028】
つぎに、ラックガイド30の詳細な構造について説明する。
【0029】
図2(A)、(B)、(C)および(D)は、ラックガイド30の外観図、平面図、正面図および底面図であり、図2(E)は、図2(B)のA−A断面図である。
【0030】
図示するように、ラックガイド30は、耐久性および耐衝撃性に優れた金属材料等で形成された円柱状のベース部31と、ベース部31の一方の端面38B側に固定されたラックガイドシート32と、を有する。
【0031】
ベース部31の他方の端面38Aには、スプリングガイド35として底付きの穴が形成されている。上述したように、コイルスプリング40は、このスプリングガイド35に挿入され、シリンダケース部72の開放端部76へのキャップ60のねじ込みによりスプリングガイド35の底面351とキャップ60の内側面61との間で圧縮される。
【0032】
ベース部31の一方の端面38Bの中央領域(ベース部31の軸心O2を囲む領域)には、ラックガイドシート32の裏面(ベース部31側の面)326の形状に倣った曲面形状の溝部37が形成されている。さらに、この溝部37の中央領域(ベース部31の軸心O2を囲む領域)には、ラックガイドシート32のボス部34を圧入するためのシート固定用貫通穴36が形成されている。
【0033】
なお、ベース部31の外周面39に周方向の溝391を少なくとも1本形成し、この溝391の内部に、この溝391の深さ寸法よりも線径の大きなOリング等の環状の弾性部材80を嵌め込んでもよい。これにより、ベース部31を周方向に囲む環状の弾性部材80が、ハウジング70のシリンダケース部72の内壁面78とベース部31の外周面39との間で圧縮されるため、その弾性力によってラックガイド30のガタツキが抑制される。
【0034】
ラックガイドシート32は、ラックバー20の背面22の曲面形状に倣って湾曲した部材であり、ラックバー20の背面22を摺動可能に支持する摺動面33を有する。
【0035】
図3は、摺動面33の形状を説明するための図である。
【0036】
図示するように、摺動面33は、ラックバー20の軸心方向に垂直な断面であるYZ断面において、ラックバー20の中心Oと摺動面33の底部中央Cとを結ぶ直線O3に対して線対称な2つの接触位置TA、TBをラックバー20の背面22との接触位置とする凹面330を有する。
【0037】
凹面330は、YZ断面において、それぞれ接触位置TA、TBに接続して、接触位置TA、TBから摺動面33の周縁側320に配され、直線O3に対して線対称な一対の第一円弧面331A、331Bと、それぞれ接触位置TA、TBに接続して、接触位置TA、TBから摺動面33の底部側321に配され、直線O3に対して線対称な一対の第二円弧面332A、332Bと、を含む。
【0038】
ここで、接触位置TA、TBは、ラックバー20の中心Oおよび接触位置TA、TBを結ぶ直線と、直線O3とのなす角(図4に示すなす角θに該当)が50度以下となる範囲内に設定されることが好ましく、より好ましくは15度〜45度の範囲にされる。
【0039】
また、第一円弧面331A、331Bは、YZ断面において、接触位置TA、TBから同距離だけ離れた位置におけるラックバー20の背面22とのギャップが第二円弧面332A、332Bよりも大きくなるように設定されている。
【0040】
具体的には、YZ断面において、第一円弧面331A、331Bの曲率中心OA1、OB1は、ラックバー20の背面22の曲率中心Oよりもラックギア11側の位置であって、かつ直線O3に関して線対称な位置にあり、同様に、第二円弧面332A、332Bの曲率中心OA2、OB2は、ラックバー20の背面22の曲率中心Oよりもラックギア11側の位置であって、かつ直線O3に関して線対称な位置にある。そして、第一円弧面331A、331Bの曲率半径R1および第二円弧面332A、332Bの曲率半径R2は、ラックバー20の背面22の曲率半径Rよりも大きい。また、第一円弧面331A、331Bの曲率半径R1は、第二円弧面332A、332Bの曲率半径R2よりも大きい。
【0041】
ラックガイドシート32の裏面326には、摺動面33の反対側に突き出したボス部34が形成されている。ラックガイドシート32は、ベース部31の溝部37の内側に収容されるとともに、このボス部34をベース部31のシート固定用貫通穴36に圧入することによってベース部31に固定される。
【0042】
以上、本発明の一実施の形態について説明した。
【0043】
本実施の形態では、ラックガイドシート32の摺動面33を、ラックバー20の軸心方向に垂直な断面であるYZ断面において、ラックバー20の中心Oと摺動面33の底部中央Cとを結ぶ直線O3に対して線対称な2つの接触位置TA、TBでラックバー20の背面22に接触する凹面330としている。そして、この凹面330を、YZ断面において、それぞれ接触位置TA、TBに接続して、接触位置TA、TBから摺動面33の周縁側320に配され、直線O3に対して線対称な一対の第一円弧面331A、331Bと、それぞれ接触位置TA、TBに接続して、接触位置TA、TBから摺動面33の底部側321に配され、直線O3に対して線対称な一対の第二円弧面332A、332Bと、を含んで構成するとともに、ラックバー20の背面22との接触位置TA、TBから同距離だけ離れた位置におけるラックバー20の背面22とのギャップについて、第一円弧面331A、331Bを第二円弧面332A、332Bよりも大きくしている。
【0044】
ここで、図4に示すように、ラックガイドシート32の摺動面33におけるラックバー20の背面22との接触位置にかかる垂直荷重をW、この接触位置におけるラックバー20からラックガイドシート32に入力する入力荷重(直線O3方向の荷重)をP、垂直荷重Wの荷重方向と入力荷重Pの荷重方向とのなす角をθ、摩擦係数をμ、そして、ラックガイドシート32の摺動面33の接触位置に生じる摩擦力をFとした場合、F=μW=μP/cosθとなり、入力荷重Pおよび摩擦係数μが一定の場合、なす角θが大きくなるほど、摩擦力Fが大きくなる(くさび効果)。このため、接触位置TA、TBにおける摩擦力Fと比べて、接触位置TA、TBよりも摺動面33の周縁側320の接触位置SA、SBにおける摩擦力Fは大きくなり、接触位置TA、TBよりも摺動面33の底部側321の接触位置UA、UBにおける摩擦力Fは小さくなる。
【0045】
上述したように、本実施の形態では、ラックガイドシート32の摺動面33あるいはラックバー20の背面22の曲率半径に製作ばらつきが含まれる場合において、両者の接触位置が第一円弧面331A、331Bと第二円弧面332A、332Bとの境界(すなわち接触位置TA、TB)より底部側321(すなわち第二円弧面332A、332B側)にずれる場合は、なす角θが小さくなる方向へのずれであり、特に問題とならないが、周縁側320(すなわち第一円弧面331A、331B側)にずれる場合は、なす角θが大きくなる方向へのずれであり、問題となる。しかし、本実施の形態では、接触位置TA、TBから同距離だけ離れた位置におけるラックバー20の背面22とのギャップについて、第一円弧面331A、331Bを第二円弧面332A、332Bより大きくしているので、周縁側320にずれた場合におけるなす角θの増加を低く抑えることができ、ラックガイドシート32の摺動面33とラックバー20の背面22との間の摩擦力の増加を低く抑えることができる。これにより、ラックバー20との接触領域を広くしつつ、ラックガイドシート32の摺動面33あるいはラックバー20の背面22の曲率半径の製作ばらつきによる影響を小さくすることができる。
【0046】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0047】
例えば、上記の実施の形態では、ラックガイドシート32の摺動面33の凹面330を構成する第一円弧面331A、331Bおよび第二円弧面332A、332Bについて、ラックバー20の軸心方向に垂直な断面であるYZ断面において、第一円弧面331A、331Bの曲率中心OA1、OB1および第二円弧面332A、332Bの曲率中心OA2、OB2が、それぞれ、ラックバー20の背面22の曲率中心Oよりもラックギア11側の位置であって、かつ直線O3に関して線対称な位置にあり、第一円弧面331A、331Bの曲率半径R1および第二円弧面332A、332Bの曲率半径R2がラックバー20の背面22の曲率半径Rよりも大きく、さらに、第一円弧面331A、331Bの曲率半径R1が第二円弧面332A、332Bの曲率半径R2よりも大きくなるように設定している。
【0048】
しかし、本発明はこれに限定されない。摺動面33の凹面330を構成する第一円弧面331A、331Bおよび第二円弧面332A、332Bは、ラックバー20の背面22との接触位置TA、TBから同距離だけ離れた位置におけるラックバー20の背面22とのギャップについて、第一円弧面331A、331Bが第二円弧面332A、332Bよりも大きくなるものであればよい。
【0049】
また、上記の実施の形態において、ステアリング装置は、ピニオンギア11またはラックバー20の動きをモータでアシストするパワーステアリング機構が搭載されているものでもよい。
【0050】
また、上記の実施の形態では、車両のステアリング装置への適用例を挙げているが、本発明は、車両のステアリング装置に限らず、例えば光学機器のピント合わせ機構等、ラックアンドピニオン式のギア機構を利用している機器に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1:ラックアンドピニオン式のギア機構、 10:ピニオンシャフト、 11:ピニオンギア、 12:ピニオンシャフトの外周面、 13:ピニオンシャフトの端部、 20:ラックバー、 21:ラックギア、 22:ラックバーの背面、 30:ラックガイド、 31:ベース部、 32:ラックガイドシート、 33:摺動面、 34:ボス部、 35:スプリングガイド、 36:ベース部のシート固定用貫通穴、 37:ベース部の溝部、 38A:ベース部の底面、38B:ベース部の上面、 39:ベース部の外周面、 50:ベアリング、40:コイルスプリング、60:キャップ、 61:キャップの内側面、 62:キャップのネジ部、 70:ハウジング、 71:ラックケース部、 72:シリンダケース部、 73:ピニオンギア収容部、 74、75:開口、 76:シリンダケース部の開放端部、 77:シリンダケース部のネジ部、 78:シリンダケース部の内壁面、 80:弾性部材、 320:摺動面33の周縁側、 321:摺動面33の底部側、 326:ラックガイドシート32の裏面、 330:凹面、 331A、331B:第一円弧面、 332A、332B:第二円弧面
図1
図2
図3
図4