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特開2018-158907ヒルスチンを有効成分とする治療薬、食品及び化粧品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-158907(P2018-158907A)
(43)【公開日】2018年10月11日
(54)【発明の名称】ヒルスチンを有効成分とする治療薬、食品及び化粧品
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4375 20060101AFI20180914BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20180914BHJP
   A61P 9/08 20060101ALI20180914BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20180914BHJP
   A61P 15/10 20060101ALI20180914BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20180914BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20180914BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20180914BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20180914BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20180914BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20180914BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180914BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20180914BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20180914BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20180914BHJP
   A61Q 1/06 20060101ALI20180914BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20180914BHJP
   A61K 36/74 20060101ALI20180914BHJP
   A61K 36/45 20060101ALI20180914BHJP
   A61K 36/46 20060101ALI20180914BHJP
   A61K 36/70 20060101ALI20180914BHJP
   A61K 36/24 20060101ALI20180914BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180914BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20180914BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20180914BHJP
【FI】
   A61K31/4375ZNA
   A61P9/12
   A61P9/08
   A61P9/04
   A61P15/10
   A61P13/08
   A61P25/28
   A61P25/24
   A61P17/02
   A61P17/00
   A61P19/00
   A61P35/00
   A61P25/18
   A61K8/49
   A61Q19/00
   A61Q1/06
   A61Q1/10
   A61K36/74
   A61K36/45
   A61K36/46
   A61K36/70
   A61K36/24
   A61P43/00 111
   A23L33/10
   C12Q1/68 A
【審査請求】有
【請求項の数】33
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-57470(P2017-57470)
(22)【出願日】2017年3月23日
(71)【出願人】
【識別番号】508263604
【氏名又は名称】株式会社リアルメイト
(71)【出願人】
【識別番号】517101757
【氏名又は名称】東洋開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山本 健一
(72)【発明者】
【氏名】高田 敦士
(72)【発明者】
【氏名】田沼 靖一
【テーマコード(参考)】
4B018
4B063
4C083
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD18
4B018MD48
4B018ME08
4B018MF01
4B018MF10
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ20
4B063QR36
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
4C083AC851
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC11
4C083CC12
4C083CC13
4C083CC14
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086MA52
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA12
4C086ZA15
4C086ZA18
4C086ZA37
4C086ZA39
4C086ZA42
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZA96
4C086ZB26
4C088AB12
4C088AB14
4C088AB31
4C088AB43
4C088AB44
4C088AC03
4C088AC04
4C088AC05
4C088AC06
4C088AC07
4C088AC11
4C088BA08
4C088BA33
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA12
4C088ZA15
4C088ZA18
4C088ZA37
4C088ZA39
4C088ZA42
4C088ZA81
4C088ZA89
4C088ZA96
4C088ZB26
(57)【要約】
【課題】本発明は、ヒルスチンを有効成分とする治療薬、食品及び化粧品を提供することを目的とする。
【解決手段】一酸化窒素産生促進剤、cGMP産生促進剤、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強剤、平滑筋弛緩剤、血管拡張剤、血行促進剤、または勃起不全症、肺動脈性肺高血圧症、前立腺肥大症、心不全、脳卒中、統合失調症、うつ病、血行障害、肌荒れ、皮膚障害、軟骨無形成症および軟骨低形成症などの軟骨異常症、扁平上皮癌、胃癌、大腸癌、甲状腺癌、前立腺癌などの腫瘍からなるグループから選択される疾患を治療する治療剤などを、ヒルスチンを有効成分とするものとし、それらの剤を含有する治療薬、食品及び化粧品とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒルスチンを有効成分とする、一酸化窒素産生促進剤。
【請求項2】
ヒルスチンを有効成分とする、cGMP産生促進剤。
【請求項3】
ヒルスチンを有効成分とする、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強剤。
【請求項4】
ヒルスチン以外のcGMP依存性プロテインキナーゼ活性化物質が併用される、請求項3に記載されたcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強剤。
【請求項5】
前記ヒルスチン以外のcGMP依存性プロテインキナーゼ活性化物質をさらに含む、請求項3に記載されたcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強剤。
【請求項6】
ヒルスチンを有効成分とする、平滑筋弛緩剤。
【請求項7】
ヒルスチンを有効成分とする、血管拡張剤。
【請求項8】
ヒルスチンを有効成分とする、血行促進剤。
【請求項9】
ヒルスチンを有効成分とし、勃起不全症、肺動脈性肺高血圧症、前立腺肥大症、心不全、脳卒中、統合失調症、うつ病、血行障害、肌荒れ、皮膚障害、軟骨異常症、腫瘍からなるグループから選択される疾患を治療する治療薬。
【請求項10】
ヒルスチンを有効成分とする、勃起不全症、肺動脈性肺高血圧症、前立腺肥大症、心不全、脳卒中、統合失調症、うつ病、血行障害、肌荒れ、皮膚障害、軟骨異常症、腫瘍の治療用食品組成物。
【請求項11】
ヒルスチンを有効成分とする、一酸化窒素産生促進用食品組成物。
【請求項12】
ヒルスチンを有効成分とする、cGMP産生促進用食品組成物。
【請求項13】
ヒルスチンを有効成分とする、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強用食品組成物。
【請求項14】
ヒルスチンを有効成分とする、平滑筋弛緩用食品組成物。
【請求項15】
ヒルスチンを有効成分とする、血管拡張用食品組成物。
【請求項16】
ヒルスチンを有効成分とする、血行促進用食品組成物。
【請求項17】
請求項10〜16に記載の食品組成物を含有する食品。
【請求項18】
食品添加物、補助食品またはサプリメントである、請求項17に記載の食品。
【請求項19】
ヒルスチンを有効成分とする、血行障害、肌荒れ、皮膚障害、軟骨異常症、メラノーマの治療用化粧品組成物。
【請求項20】
ヒルスチンを有効成分とする、一酸化窒素産生促進用化粧品組成物。
【請求項21】
ヒルスチンを有効成分とする、cGMP産生促進用化粧品組成物。
【請求項22】
ヒルスチンを有効成分とする、プロテインキナーゼG遺伝子発現増強用化粧品組成物。
【請求項23】
ヒルスチンを有効成分とする、平滑筋弛緩用化粧品組成物。
【請求項24】
ヒルスチンを有効成分とする、血管拡張用化粧品組成物。
【請求項25】
ヒルスチンを有効成分とする、血行促進用化粧品組成物。
【請求項26】
請求項19〜25に記載の化粧品組成物を含有する化粧品。
【請求項27】
ローション、クリーム、化粧水、美容液、乳液、ファンデーション、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ、頬紅、眉墨、口紅である、請求項26に記載の化粧品。
【請求項28】
請求項1〜8に記載の剤、請求項9に記載の治療薬、請求項10〜16に記載の食品組成物、請求項17〜18に記載の食品、請求項19〜25に記載の化粧品組成物、及び請求項26〜27に記載の化粧品からなる群から選択されるものの製造における、ヒルスチンの使用。
【請求項29】
前記ヒルスチンがカギカズラ、トウカギカズラ、レッコウトケン、トチュウ、ヒメツルソバ、およびチョウジソウからなる群から選択される植物に由来する、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
in vitroで用いられる試薬であって、請求項1に記載の一酸化窒素産生促進剤、請求項2に記載のcGMP産生促進剤、または請求項3に記載のcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強剤を含有する試薬。
【請求項31】
ヒルスチンを有効成分とする、外用剤。
【請求項32】
ヒルスチン類縁体に対し、一酸化窒素産生促進活性、cGMP産生促進活性、またはプロテインキナーゼG遺伝子発現増強活性を調べる方法であって、
前記ヒルスチン類縁体は以下の構造を有する方法。
【化1】
(式中、
は、それぞれ独立に、水素、C−Cアルキル、C−Cアルケン、又は−C(C(O)OR)CHORから選択され、
及びRは、それぞれ独立に、水素又はC−Cアルキルから選択される。)
【請求項33】
一酸化窒素産生促進活性、cGMP産生促進活性、またはcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強活性を有するヒルスチン類縁体のスクリーニング方法であって、
以下の構造を有するヒルスチン類縁体に対し、一酸化窒素産生促進活性、cGMP産生促進活性、またはcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強活性を調べ、
【化2】
(式中、
は、それぞれ独立に、水素、C−Cアルキル、C−Cアルケン、又は−C(C(O)OR)CHORから選択され、
及びRは、それぞれ独立に、水素又はC−Cアルキルから選択される。)
前記いずれかの活性を有するヒルスチン類縁体を特定する、スクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒルスチンを有効成分とする治療薬、食品及び化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
カルモジュリンが一酸化窒素合成酵素(Nitric Oxide Synthase;NOS)を活性化すると、活性化されたNOSがL−アルギニンのグアニジノ基の酸化反応を触媒し、一酸化窒素とL−シトルリンが産生される。産生された一酸化窒素(NO)は生体内で種々のシグナル伝達に関与する。
【0003】
例えば、NOは、血管内皮細胞の周囲にある血管平滑筋細胞へ濃度勾配に従って拡散すると、グアニレートシクラーゼを活性化する。活性化されたグアニレートシクラーゼは、GTPからcGMPを産生する反応を促進する。cGMPはcGMP依存性プロテインキナーゼ(プロテインキナーゼG、Gキナーゼ、PKGとも呼ばれる)を活性化する機能を有し、活性化されたcGMP依存性プロテインキナーゼは、Ca2+の細胞外への汲み出しの促進等により、平滑筋細胞内のCa2+の濃度を低下させることで、血管平滑筋を弛緩させ、血管を拡張する作用を有する。しかし、通常は、cGMPはホスホジエステラーゼ5(PDE5)によって分解されるため、平滑筋弛緩や血管拡張は長時間は続かない。そこで、PDE5を阻害してcGMP濃度の低下を抑制し、平滑筋弛緩や血管拡張を持続的に生じさせることによって、うつ病患者等の性機能障害を含む勃起不全症、肺動脈性肺高血圧症、前立腺肥大症に伴う排尿障害、などの治療が行われている。このようなPDE5阻害剤の例として、シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィルが知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、PDE5阻害剤が、心不全予防・治療(非特許文献1)、末梢血中の血管内皮前駆細胞増加(非特許文献2)、血管内皮機能の向上(非特許文献3)、統合失調症(非特許文献4)、認知機能の増強(非特許文献5)のために用いられること、神経保護作用(非特許文献6)、抗がん作用(非特許文献7〜10)を有することが知られている。最近、C型及びB型ナトリウム利尿ペプチド(CNP及びBNP)が軟骨無形成症や軟骨低形成症などの骨伸長のネガティブレギュレーターである線維芽細胞成長因子受容体(fibroblast growth factor receptor 3 (EGFR3))の強力なアンタゴニストであることが明らかになった(非特許文献11〜12)。このことは、ナトリウム利尿ペプチド受容体(内在性グアニレートシクラーゼ)を活性化することによる、細胞内cGMPの上昇が上記の骨系統疾患治療になりうることを示している。事実、CNPアナログであるBMN111が開発され、軟骨無(低)形成症モデルマウスへの皮下注射によって軟骨の成長に有意な改善が見られることが報告されている。(非特許文献13)
【0004】
一方、皮膚組織においては、PDE5阻害剤は、血行促進作用によって、皮膚のツヤとハリなどの皮膚状態の改善、皮膚障害の改善、肌荒れの改善、肌のトラブル防止、血行障害の改善などがみられることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−102085
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Guazzi M et al. PDE5 inhibition with sildenafil improves left ventricular diastolic function, cardiac geometry, and clinical status in patients with stable systolic heart failure: results of a 1-year, prospective, randomized, placebo-controlled study. Circ Heart Fail 2011 vol.4 pp.8-17
【非特許文献2】Foresta C et al. 2009 The PDE5 inhibitor sildenafil increases circulating endothelial progenitor cells and CXCR4 expression. J Sex Med vol.6 pp.369-372
【非特許文献3】Rosano GM et al. Chronic treatment with tadalafil improves endothelial function in men with increased cardiovascular risk. 2005 Eur Urol vol.47 pp.214-220.
【非特許文献4】Duinen MV et al. Treatment of Cognitive Impairment in Schizophrenia: Potential Value of Phosphodiesterase Inhibitors in Prefrontal Dysfunction. 2015 Curr Pharm Des. vol.21 pp.3813-28.
【非特許文献5】Prickaerts J et al. Phosphodiesterase type 5 inhibition improves early memory consolidation of object information. 2004 Neurochem Int. vol.45 pp.915-28.
【非特許文献6】Zhang R et al. Sildenafil (Viagra) induces neurogenesis and promotes functional recovery after stroke in rats. 2002 Stroke vol.33 pp.1675-1680
【非特許文献7】Booth L et al. PDE5 inhibitors enhance chemotherapy killing in gastrointestinal/genitourinary cancer cells. 2013 Nol Pharmacol vol.85 pp.408-419.
【非特許文献8】Kumazoe M et al. 2013 67 kDa laminin receptor increases cGMP to induce cancer-selective apoptosis 2013 J. Clin Invest vol.123 pp.787-799.
【非特許文献9】Chaves AH et al. 2013 Incidence rate of prostate cancer in men treated for erectile dysfunction with phosphodiesterase type 5 inhibitors: retrospective analysis. 2013 Aseian J Androl vol.15 pp.246-248.
【非特許文献10】Sponziello M et al. 2015 PDE5 expression in human thyroid tumors and effects of PDE5 inhibitors on growth and migration of cancer cells. Endocrine vol.50 pp.434-441.
【非特許文献11】Krejci P et al. Interaction of fibroblast growth factor and C-natriuretic peptide signaling in regulation of chondrocyte proliferation and extracellular matrix homeostasis. J Cell Sci. 2005 Nov 1;118(Pt 21):5089-100.
【非特許文献12】Yasoda A et al. Overexpression of CNP in chondrocytes rescues achondroplasia through a MAPK-dependent pathway. Nat Med. 2004 Jan;10(1):80-6.
【非特許文献13】Lorget F et al. Evaluation of the therapeutic potential of a CNP analog in a Fgfr3 mouse model recapitulating achondroplasia. Am J Hum Genet. 2012 Dec 7;91(6):1108-14.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヒルスチンを有効成分とする治療薬、食品及び化粧品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様は、ヒルスチンを有効成分とする、一酸化窒素産生促進剤、cGMP産生促進剤、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強剤、平滑筋弛緩剤、血管拡張剤、または血行促進剤である。cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強剤は、ヒルスチン以外のcGMP依存性プロテインキナーゼ活性化物質が併用されるか、前記ヒルスチン以外のcGMP依存性プロテインキナーゼ活性化物質をさらに含んでもよい。
【0009】
本発明の他の実施態様は、ヒルスチンを有効成分とし、勃起不全症、肺動脈性肺高血圧症、前立腺肥大症、心不全、脳卒中、統合失調症、うつ病、血行障害、肌荒れ、皮膚障害、軟骨異常症、および腫瘍からなるグループから選択される疾患を治療する治療薬である。
【0010】
本発明のさらなる実施態様は、ヒルスチンを有効成分とする、勃起不全症、肺動脈性肺高血圧症、前立腺肥大症、心不全、脳卒中、統合失調症、うつ病、血行障害、肌荒れ、皮膚障害、軟骨異常症、または腫瘍の治療用食品組成物である。
【0011】
本発明のさらなる実施態様は、ヒルスチンを有効成分とする、一酸化窒素産生促進用食品組成物、cGMP産生促進用食品組成物、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強用食品組成物、平滑筋弛緩用食品組成物、血管拡張用食品組成物、または血行促進用食品組成物である。上記いずれかの食品組成物を含有する食品であってもよい。この食品は、食品添加物、補助食品またはサプリメントであってもよい。
【0012】
本発明のさらなる実施態様は、ヒルスチンを有効成分とする、血行障害、肌荒れ、皮膚障害、軟骨異常症、メラノーマの治療用化粧品組成物、一酸化窒素産生促進用化粧品組成物、cGMP産生促進用化粧品組成物、プロテインキナーゼG遺伝子発現増強用化粧品組成物、平滑筋弛緩用化粧品組成物、血管拡張用化粧品組成物、または血行促進用化粧品組成物である。上記いずれかの化粧品組成物を含有する化粧品であってもよい。この化粧品は、ローション、クリーム、化粧水、美容液、乳液、ファンデーション、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ、頬紅、眉墨、または口紅であってもよい。
【0013】
本発明のさらなる実施態様は、上記いずれかの剤、上記いずれかの治療薬、上記いずれかの食品組成物、上記いずれかの食品、上記いずれかの化粧品組成物、及び上記いずれかの化粧品からなる群から選択されるものの製造における、ヒルスチンの使用である。前記ヒルスチンがカギカズラ、トウカギカズラ、レッコウトケン、トチュウ、ヒメツルソバ、およびチョウジソウからなる群から選択される植物に由来してもよい。
【0014】
本発明のさらなる実施態様は、in vitroで用いられる試薬であって、上記いずれかの一酸化窒素産生促進剤、上記いずれかのcGMP産生促進剤、または上記いずれかのcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強剤を含有する試薬である。
【0015】
本発明のさらなる実施態様は、ヒルスチンを有効成分とする、外用剤である。
【0016】
本発明のさらなる実施態様は、ヒルスチン類縁体に対し、一酸化窒素産生促進活性、cGMP産生促進活性、またはプロテインキナーゼG遺伝子発現増強活性を調べる方法であって、前記ヒルスチン類縁体は以下の構造を有する方法である。
【化1】
(式中、
は、それぞれ独立に、水素、C−Cアルキル、C−Cアルケン、又は−C(C(O)OR)CHORから選択され、
及びRは、それぞれ独立に、水素又はC−Cアルキルから選択される。)
【0017】
本発明のさらなる実施態様は、一酸化窒素産生促進活性、cGMP産生促進活性、またはcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強活性を有するヒルスチン類縁体のスクリーニング方法であって、以下の構造を有するヒルスチン類縁体に対し、一酸化窒素産生促進活性、cGMP産生促進活性、またはcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強活性を調べ、
【化2】
(式中、
は、それぞれ独立に、水素、C−Cアルキル、C−Cアルケン、又は−C(C(O)OR)CHORから選択され、
及びRは、それぞれ独立に、水素又はC−Cアルキルから選択される。)
前記いずれかの活性を有するヒルスチン類縁体を特定する、スクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、ヒルスチンを有効成分とする治療薬、食品及び化粧品を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施例において得られた、ヒト血管平滑筋細胞におけるヒルスチンの一酸化窒素の産生促進効果を示すグラフである。
図2】本発明の一実施例において得られた、ヒト血管平滑筋細胞におけるヒルスチンのcGMPの産生促進効果を示すグラフである。
図3】本発明の一実施例において得られた、ヒト血管平滑筋細胞におけるヒルスチンのcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子の発現増強効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の目的、特徴、利点、およびそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態および具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示または説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0021】
==ヒルスチン==
ヒルスチンは、インドール骨格を基本としたインドールアルカロイドの一種であり、下記構造式を有する。
【化3】
【0022】
本発明において、ヒルスチンは、一酸化窒素産生促進剤、cGMP産生促進剤、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強剤、平滑筋弛緩剤、血管拡張剤、血行促進剤、または勃起不全症、肺動脈性肺高血圧症、前立腺肥大症、心不全、脳卒中、統合失調症、うつ病、血行障害、肌荒れ、皮膚障害、軟骨無形成症および軟骨低形成症などの軟骨異常症、扁平上皮癌、胃癌、大腸癌、甲状腺癌、前立腺癌、メラノーマなどの腫瘍からなるグループから選択される疾患を治療する治療剤、の有効成分として用いられる。
【0023】
ここで、一酸化窒素産生促進剤、cGMP産生促進剤、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強剤、平滑筋弛緩剤、血管拡張剤、血行促進剤、または勃起不全症、肺動脈性肺高血圧症、前立腺肥大症、心不全、脳卒中、統合失調症、うつ病、血行障害、肌荒れ、皮膚障害、軟骨無形成症および軟骨低形成症などの軟骨異常症、扁平上皮癌、胃癌、大腸癌、甲状腺癌、前立腺癌、メラノーマなどの腫瘍からなるグループから選択される疾患を治療する治療剤に含まれるヒルスチンは、化学合成品であっても、植物由来であってもよい。
【0024】
ヒルスチンが植物由来の場合、植物の種類は、ヒルスチンを含む植物であれば特に限定されず、例えば、カギカズラ(Uncaria rhynchophylla (Miq.) Miq.)、トウカギカズラ(Uncaria sinensis (Oliv.) Havil)、レッコウトケン(Rhododendron anthopogoides)、トチュウ(Eucommia ulmoides Oliv.)、ヒメツルソバ(Polygonum caspitatum)、チョウジソウ(Amsonia elliptica (Thunb.) Roem. et Schult)などが挙げられる。抽出に用いるのは、植物全体の内どの部分でも良く、例えば、果実、花、種子、葉、枝、樹皮、幹、茎、棘、または根であってもよい。
【0025】
植物からヒルスチンの抽出に用いる溶媒の種類は、当業者であれば適切に選択することができるが、例えば、水、エタノール、メタノール、アセトン、酢酸エチル、グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、2−プロパノール、1,4−ジオキサン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、または、これらから選択される2以上の溶媒の混合溶媒であっても良く、水、エタノール、または、水およびエタノールの混合溶媒であることがより好ましい。
【0026】
水、または水との混合溶媒は塩を含んでいてもよく、例えば生理食塩水、緩衝液(バッファー)などが挙げられる。バッファーに用いられる塩の種類は特に限定されず、例として、クエン酸塩、リンゴ酸塩、リン酸塩、酢酸塩および炭酸塩などが挙げられる。
【0027】
抽出の程度は特に限定されず、純粋なヒルスチンにまで精製してもよいが、粗精製であってもよい。本明細書では、純粋なヒルスチンに至るいずれの抽出段階であっても、植物から抽出されたものを植物抽出物と称する。植物抽出物は、溶媒を除去しない抽出液であってもよく、溶媒を除去して固体にしてもよい。抽出液から溶媒を除去する方法は特に限定されず、減圧留去、凍結乾燥、スプレードライ(噴霧乾燥)など、公知の方法を用いることができる。
【0028】
化学合成したヒルスチンまたは植物抽出物を用いることによって一酸化窒素産生促進剤、cGMP産生促進剤、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強剤、平滑筋弛緩剤、血管拡張剤、血行促進剤、または勃起不全症、肺動脈性肺高血圧症、前立腺肥大症、心不全、脳卒中、統合失調症、うつ病、血行障害、肌荒れ、皮膚障害、軟骨無形成症および軟骨低形成症などの軟骨異常症、扁平上皮癌、胃癌、大腸癌、甲状腺癌、前立腺癌、メラノーマなどの腫瘍からなるグループから選択される疾患を治療する治療剤を製造することができる。製造方法は、当業者に周知の方法を用いればよい。
【0029】
cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強剤は、ヒルスチン以外のcGMP依存性プロテインキナーゼ活性化物質が併用されてもよく、ヒルスチン以外のcGMP依存性プロテインキナーゼ活性化物質をさらに含んでもよい。cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子の発現を増強するとともに、タンパク質量が増大したcGMP依存性プロテインキナーゼを活性化することによって、これらの物質の相乗効果が期待できる。cGMP依存性プロテインキナーゼ活性化物質としては、例えば、インシュリン、心房性ナトリウム利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide;ANP)、B型ナトリウム利尿ペプチド、C型ナトリウム利尿ペプチド、Ca2+、高濃度グルコース、過酸化水素等がある。また、シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィルなどの、cGMPの分解を抑制するPDE5阻害剤を併用することもできる。
【0030】
なお、本明細書で、「cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現」とは、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子の転写産物レベルでの発現をいうものとする。また、「cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強」とは、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子の転写産物が増えることであって、例えば、遺伝子の転写の活性化、転写産物の安定性の向上、転写産物分解の阻害などのメカニズムは問わないものとする。従って、「cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強剤」とは、そのメカニズムに関わらず、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子の転写産物レベルを亢進させることができる剤をいう。
【0031】
これらの一酸化窒素産生促進剤、cGMP産生促進剤、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強剤、平滑筋弛緩剤、血管拡張剤、血行促進剤、勃起不全症、肺動脈性肺高血圧症、前立腺肥大症、心不全、脳卒中、統合失調症、うつ病、血行障害、肌荒れ、皮膚障害、軟骨無形成症および軟骨低形成症などの軟骨異常症、扁平上皮癌、胃癌、大腸癌、甲状腺癌、前立腺癌、メラノーマなどの腫瘍からなるグループから選択される疾患を治療する治療剤は、医薬や試薬などの薬剤、食品(特にサプリメント)、または化粧品などに用いることができる。従って、剤形としては、経口剤であっても非経口剤であってもよいが、非経口剤の場合、塗布剤などの外用剤であることが好ましい。以下、各用途について詳述する。
【0032】
==ヒルスチンを有効成分とする治療薬==
本発明の一実施形態に係る治療薬は、ヒルスチンを有効成分とし、勃起不全症、肺動脈性肺高血圧症、前立腺肥大症、心不全、脳卒中、統合失調症、うつ病、血行障害、肌荒れ、皮膚障害、軟骨無形成症および軟骨低形成症などの軟骨異常症、扁平上皮癌、胃癌、大腸癌、甲状腺癌、前立腺癌、メラノーマなどの腫瘍からなるグループから選択される疾患を治療する治療薬である。
【0033】
治療薬は、公知の方法で剤型化し、個体に投与できる。投与経路は特に限定されないが、塗布剤などの外用剤、経口剤または局所注射剤であることが好ましい。投与量は医師などの投与者が適宜判断できる。
【0034】
==ヒルスチンを有効成分とする試薬==
ヒルスチンを有効成分として含有する、一酸化窒素産生促進剤、cGMP産生促進剤、およびcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強剤は、試薬としてin vitroで用いることができる。例えば、培養細胞、培養組織、培養器官などの培養物に対して、ヒルスチンを投与することによって、その培養物において、一酸化窒素産生促進、cGMP産生促進、またはcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強などの効果が得られる。投与方法としては、培地にヒルスチンを含有させればよく、その濃度は特に限定されないが、0.1〜100μg/mLが例示できる。
【0035】
==ヒルスチンを有効成分とする食品==
本発明の一実施形態に係る食品組成物は、ヒルスチンを有効成分とする、勃起不全症、肺動脈性肺高血圧症、前立腺肥大症、心不全、脳卒中、統合失調症、うつ病、血行障害、肌荒れ、皮膚障害、軟骨無形成症および軟骨低形成症などの軟骨異常症、扁平上皮癌、胃癌、大腸癌、甲状腺癌、前立腺癌、メラノーマなどの腫瘍などの治療用食品組成物、一酸化窒素産生促進用食品組成物、cGMP産生促進用食品組成物、cGMP依存性プロテインキナーゼ発現増強用食品組成物、平滑筋弛緩用食品組成物、または血管拡張用食品組成物である。
【0036】
本発明の一実施形態に係る食品は、ヒルスチンを有効成分とする、勃起不全症、肺動脈性肺高血圧症、前立腺肥大症、心不全、脳卒中、統合失調症、うつ病、血行障害、肌荒れ、皮膚障害、軟骨無形成症および軟骨低形成症などの軟骨異常症、扁平上皮癌、胃癌、大腸癌、甲状腺癌、前立腺癌、メラノーマなどの腫瘍などの治療用食品組成物を含有する食品、一酸化窒素産生促進用食品組成物を含有する食品、cGMP産生促進用食品組成物を含有する食品、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強用食品組成物を含有する食品、平滑筋弛緩用食品組成物を含有する食品、または血管拡張用食品組成物を含有する食品である。食品は、食品添加物、補助食品またはサプリメントであってもよい。
【0037】
==ヒルスチンを有効成分とする化粧品==
本発明の一実施形態に係る化粧品組成物は、ヒルスチンを有効成分とする、血行障害、肌荒れ、皮膚障害、軟骨無形成症および軟骨低形成症などの軟骨異常症、扁平上皮癌、メラノーマなどの治療用化粧品組成物、一酸化窒素産生促進用化粧品組成物、cGMP産生促進用化粧品組成物、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強用化粧品組成物、平滑筋弛緩用化粧品組成物、または血管拡張用化粧品組成物である。
【0038】
本発明の一実施形態に係る化粧品は、ヒルスチンを有効成分とする、血行障害、肌荒れ、皮膚障害、軟骨無形成症および軟骨低形成症などの軟骨異常症、メラノーマなどの治療用化粧品組成物を含有する化粧品、一酸化窒素産生促進用化粧品組成物を含有する化粧品、cGMP産生促進用化粧品組成物を含有する化粧品、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強用化粧品組成物を含有する化粧品、平滑筋弛緩用化粧品組成物を含有する化粧品、または血管拡張用化粧品組成物を含有する化粧品である。
【0039】
化粧品は、公知の方法で剤型化し、塗布剤などの外用剤として使用できる。特に、ローション、クリーム、化粧水、美容液、乳液、ファンデーション、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ、頬紅、眉墨、口紅などであってもよい。
【0040】
==ヒルスチンを有効成分とする剤、治療薬、食品組成物、化粧品組成物、食品及び化粧品の製造における、ヒルスチンの使用==
本発明の一実施形態に係るヒルスチンの使用は、ヒルスチンを有効成分とする剤、治療薬、食品組成物、化粧品組成物、食品及び化粧品からなる群から選択されるものの製造における、ヒルスチンの使用である。ここで用いるヒルスチンは、カギカズラ、トウカギカズラ、レッコウトケン、トチュウ、ヒメツルソバ、およびチョウジソウのいずれかの植物に由来してもよい。
【0041】
==ヒルスチン類縁体==
本発明の一実施形態に係る方法は、ヒルスチン類縁体に対し、一酸化窒素産生促進活性、cGMP産生促進活性、またはcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強活性を調べる方法であって、ヒルスチン類縁体は以下の構造を有する。
【化4】
(式中、
は、それぞれ独立に、水素、C−Cアルキル、C−Cアルケン、又は−C(C(O)OR)CHORから選択され、
及びRは、それぞれ独立に、水素又はC−Cアルキルから選択される。)
【0042】
一酸化窒素産生促進活性、cGMP産生促進活性、及びcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強活性を調べる方法は、それぞれ公知の方法を用いることができ、特にin vitroの培養細胞を用い、培地にヒルスチン類縁体を添加して培養した後、その細胞における一酸化窒素濃度、cGMP濃度、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現レベルの増減を調べることが好ましい。ヒルスチン類縁体の濃度は特に限定されないが、0.1〜100μg/mLが例示できる。
【0043】
また、この方法を用いて、一酸化窒素産生促進活性、cGMP産生促進活性、またはプロテインキナーゼG遺伝子発現増強活性を有するヒルスチン類縁体をスクリーニングすることができる。すなわち、本発明の一実施形態に係るスクリーニング方法は、一酸化窒素産生促進活性、cGMP産生促進活性、またはcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強活性を有するヒルスチン類縁体のスクリーニング方法であって、上記構造を有するヒルスチン類縁体に対し、一酸化窒素産生促進活性、cGMP産生促進活性、またはcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強活性を調べ、いずれかの活性を有するヒルスチン類縁体を特定することによって、目的のヒルスチン類縁体を得ることができる。
【実施例】
【0044】
(1)ヒト大動脈平滑筋細胞におけるヒルスチンの一酸化窒素産生促進について
本実施例では、ヒト大動脈平滑筋細胞の培地中のヒルスチン濃度(μg/mL)の増加に伴う、ヒト大動脈平滑筋細胞内の一酸化窒素産生の変化を評価した。ヒト大動脈平滑筋細胞内の一酸化窒素の産生は、一酸化窒素の酸化代謝物である亜硝酸塩(NO)と反応することにより蛍光を発するDAN蛍光プローブの相対蛍光強度(RFU)を指標に評価した。
【0045】
ヒト大動脈平滑筋細胞(Human Aortic Smooth Muscle Cells (HAoSMC);PromoCell社)を専用培地(平滑筋細胞増殖培地2;PromoCell社)を用いて培養した。24ウェル平底プレートに5×10個の細胞を播種し、80%コンフルエントまで培養した。その後0.1,1,10,100・g/mLのヒルスチンを含む培地またはヒルスチンを含まない対照培地に交換し、1時間後、培養上清を回収した。総NO産生量はOxiSelect In Vitro Nitric Oxide(Nitrite/Nitrate) Assay Kit (CELL BIOLABS社)の標準プロトコールに従って測定した。
【0046】
図1に示すように、ヒト大動脈平滑筋細胞の培地中のヒルスチン濃度が0から1.0μg/mLまで増加すると、DAN蛍光プローブの相対蛍光強度が約200から約400RFUと、約2倍に増加した。このように、ヒルスチンは一酸化窒素産生促進効果を有する。
【0047】
(2)ヒト大動脈平滑筋細胞におけるヒルスチンのcGMP産生促進について
ヒト大動脈平滑筋細胞の培地中のヒルスチン濃度(μg/mL)の増加に伴う、ヒト大動脈平滑筋細胞内のcGMPの産生の変化をELISA法により評価した。
【0048】
(1)と同様の方法で、HAoSMCをヒルスチンで処理した後、培養上清を回収した。細胞内cGMP量はcGMP complete ELISA kit (Enzo Life Science社)の標準プロトコールに従って測定した。
【0049】
図2に示すように、ヒト大動脈平滑筋細胞の培地中のヒルスチン濃度の増加に伴い、cGMPに対する基質の相対蛍光強度(RFU)が増加した。このように、ヒルスチンはcGMP産生促進効果を有する。
【0050】
(3)ヒト大動脈平滑筋細胞におけるヒルスチンのcGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子の発現増強について
本実施例では、ヒト大動脈平滑筋細胞の培地中のヒルスチンがプロテインキナーゼG遺伝子の発現に与える影響を、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子から転写されたmRNAを用いたRT−PCR法により評価した。
【0051】
12ウェル平底プレートに1×10個の細胞を播種した以外は、(1)と同様にHAoSMCを培養し、ヒルスチンで1時間処理した後、HAoSMC専用DetachKit (PromoCell社)で細胞を懸濁した後、遠心分離によって上清を除いて、細胞を回収した。RNeasy Mini Kit(QUIAGEN社)により総RNAを抽出し、OneStep RT-PCR Kit(QUIAGEN社)による逆転写反応を行った後、NO合成酵素遺伝子、グアニレートシクラーゼ(GCase)遺伝子およびcGMP依存性プロテインキナーゼ(PKG)遺伝子の増幅を行った。増幅に使用したプライマーは以下のとおりである。
NO合成酵素
5’−ACCATATTCCCCCAGAGGAC−3’ (配列番号1)
5’−GAAGAGCTCAGGGTCATTGC−3’ (配列番号2)
GCase
5’−CGCTGGTTCGTCCTCATATT−3’ (配列番号3)
5’−CCTTGTCAAATCGTCCAGGT−3’ (配列番号4)
PKG
5’−CAGGCCCAGATCCTATGAAA−3’ (配列番号5)
5’−CCCTCAAACCATTTGTGCTT−3’ (配列番号6)
得られたCt値をΔΔCt法によってNO合成酵素のヒルスチン未処理のサンプルのmRNA量を1とした相対値で示した。
【0052】
図3に示すように、ヒト血管平滑筋細胞の培地にヒルスチンを添加した場合、cGMP依存性プロテインキナーゼ(PKG)遺伝子の発現はグアニレートシクラーゼ(GCase)遺伝子の発現と比較して約5倍増加したことが確認された。このように、ヒルスチンは、cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子発現増強効果を有する。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]