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特開2018-158959難燃性マスターバッチ、難燃性樹脂組成物、及び難燃性繊維
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-158959(P2018-158959A)
(43)【公開日】2018年10月11日
(54)【発明の名称】難燃性マスターバッチ、難燃性樹脂組成物、及び難燃性繊維
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20180914BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20180914BHJP
   C08K 5/5313 20060101ALI20180914BHJP
   D01F 1/07 20060101ALI20180914BHJP
   D01F 6/60 20060101ALI20180914BHJP
【FI】
   C08J3/22CFG
   C08L77/00
   C08K5/5313
   D01F1/07
   D01F6/60 311Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-55236(P2017-55236)
(22)【出願日】2017年3月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】野中 篤
(72)【発明者】
【氏名】山下 正芳
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4L035
【Fターム(参考)】
4F070AA54
4F070AC20
4F070AD04
4F070AE07
4F070DC11
4F070FA01
4F070FA03
4F070FB03
4F070FB06
4F070FC03
4F070FC05
4J002CL011
4J002CL021
4J002CL031
4J002EW136
4J002FD136
4J002GK01
4J002HA09
4L035EE14
4L035JJ04
4L035JJ25
4L035LC02
(57)【要約】
【課題】溶融混練などの製造時における加工性が良好であり、かつ、難燃性に優れているとともに、高温水で洗浄しても収縮しにくい繊維を製造することが可能な難燃性マスターバッチ、及びそれを用いて製造される難燃性繊維を提供する。
【解決手段】難燃性繊維を紡糸する原材料となる難燃性樹脂組成物を調製するために用いる難燃性マスターバッチである。ポリアミド系樹脂及びホスフィン酸金属塩系難燃剤を含有し、ホスフィン酸金属塩系難燃剤の含有量が、15〜50質量%である。また、この難燃性マスターバッチを含有する難燃性樹脂組成物からなる難燃性繊維である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃性繊維を紡糸する原材料となる難燃性樹脂組成物を調製するために用いる難燃性マスターバッチであって、
ポリアミド系樹脂及びホスフィン酸金属塩系難燃剤を含有し、
前記ホスフィン酸金属塩系難燃剤の含有量が、15〜50質量%である難燃性マスターバッチ。
【請求項2】
前記ホスフィン酸金属塩系難燃剤が、下記一般式(1)で表される化合物である請求項1に記載の難燃性マスターバッチ。
(前記一般式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を示す)
【請求項3】
前記ホスフィン酸金属塩系難燃剤が、レーザー回折法により測定される粒度分布における積算値95%粒径(D95)が15μm以下の粒状物であり、
前記一般式(1)中のR1及びR2が、それぞれ独立にエチル基又はブチル基である請求項2に記載の難燃性マスターバッチ。
【請求項4】
ポリアミド系樹脂と、請求項1〜3のいずれか一項に記載の難燃性マスターバッチとを含有する難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ホスフィン酸金属塩系難燃剤の含有量が、4.5〜15質量%である請求項4に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の難燃性樹脂組成物からなる難燃性繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性マスターバッチ、難燃性樹脂組成物、及び難燃性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、列車、航空機、船舶等の乗物に用いられる座席(シート)・カーペット等の内装材を構成する繊維材料として、従来、羊毛(ウール)繊維が用いられている。羊毛繊維は、それ自体が燃えにくい性質を有するため、乗物用の内装材を構成する繊維材料として有用である。また、チタンやジルコニウムの錯塩で加工処理する、いわゆるザプロ加工を羊毛繊維に施すことで、羊毛繊維の難燃性をさらに向上させている。
【0003】
しかし、羊毛繊維は嵩密度が高いため、羊毛繊維を用いて製造される製品は高重量物となりやすい。したがって、羊毛繊維製の内装材を装備した乗物は、燃費性能が低下する傾向にある。また、ザプロ加工に用いるチタン等の貴金属や羊毛繊維自体が高価であるといった課題がある。さらに、羊毛繊維をザプロ加工することによって生ずる、貴金属を含有する多量の廃液を処理する手間が掛かるといった課題もあった。
【0004】
このような羊毛繊維に代替する繊維材料として、ある種の熱可塑性樹脂からなる繊維(いわゆる化繊)が検討されている。例えば、ポリエステル樹脂及び有機リン酸金属塩を含有する難燃性マスターバッチ、及びこの難燃性マスターバッチを用いて得られる繊維等の成形品が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、ポリアミド系樹脂及びメラミンシアヌレート系難燃剤を含有するマスターバッチ、及びこのマスターバッチを用いて得られる、電子部品やヒンジ等の機械部品をはじめとする難燃性成形品が提案されている(特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−63646号公報
【特許文献2】特開平8−245875号公報
【特許文献3】特開2016−155924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で提案された難燃性マスターバッチを用いて得られる繊維は、適度な難燃性を示すものではあった。しかしながら、乗物用の座席(シート)・カーペット等の内装材に用いる繊維材料としては、耐摩耗性や強度等の耐久性の面でさらなる改良の余地があった。
【0008】
ところで、繊維用の樹脂組成物を調製するためのマスターバッチを製造する際には、得られる繊維の糸切れ等を防止すべく、溶融混練時に少なくとも250メッシュのスクリーンを通過させる必要がある。しかしながら、特許文献2及び3で提案されたマスターバッチを製造する際に250メッシュのスクリーンを通過させようとすると、凝集物によりスクリーンが目詰まりを起こしやすいことが判明した。
【0009】
また、ナイロン等のポリアミド樹脂は、耐摩耗性や強度等の耐久性の面でポリエステル樹脂よりも優れた繊維材料である。しかしながら、ポリアミド樹脂からなる繊維製の布帛等は、高温水で洗浄すると収縮しやすいと言った課題を有するものであった。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、溶融混練などの製造時における加工性が良好であり、かつ、難燃性に優れているとともに、高温水で洗浄しても収縮しにくい繊維を製造することが可能な難燃性マスターバッチを提供することにある。さらに、本発明の課題とするところは、上記の難燃性マスターバッチを用いて得られる難燃性樹脂組成物、及びこの難燃性樹脂組成物を用いて得られる難燃性繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明によれば、以下に示す難燃性マスターバッチが提供される。
[1]難燃性繊維を紡糸する原材料となる難燃性樹脂組成物を調製するために用いる難燃性マスターバッチであって、ポリアミド系樹脂及びホスフィン酸金属塩系難燃剤を含有し、前記ホスフィン酸金属塩系難燃剤の含有量が、15〜50質量%である難燃性マスターバッチ。
[2]前記ホスフィン酸金属塩系難燃剤が、下記一般式(1)で表される化合物である前記[1]に記載の難燃性マスターバッチ。
【0012】
(前記一般式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を示す)
【0013】
[3]前記ホスフィン酸金属塩系難燃剤が、レーザー回折法により測定される粒度分布における積算値95%粒径(D95)が15μm以下の粒状物であり、前記一般式(1)中のR1及びR2が、それぞれ独立にエチル基又はブチル基である前記[2]に記載の難燃性マスターバッチ。
【0014】
また、本発明によれば、以下に示す難燃性樹脂組成物及び難燃性繊維が提供される。
[4]ポリアミド系樹脂と、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の難燃性マスターバッチとを含有する難燃性樹脂組成物。
[5]前記ホスフィン酸金属塩系難燃剤の含有量が、4.5〜15質量%である前記[4]に記載の難燃性樹脂組成物。
[6]前記[4]又は[5]に記載の難燃性樹脂組成物からなる難燃性繊維。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶融混練などの製造時における加工性が良好であり、かつ、難燃性に優れているとともに、高温水で洗浄しても収縮しにくい繊維を製造することが可能な難燃性マスターバッチを提供することができる。さらに本発明によれば、この難燃性マスターバッチを用いて得られる難燃性樹脂組成物及び難燃性繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
<難燃性マスターバッチ>
本発明の難燃性マスターバッチは、難燃性繊維を紡糸する原材料となる難燃性樹脂組成物を調製するために用いるマスターバッチであり、ポリアミド系樹脂及びホスフィン酸金属塩系難燃剤を含有する。以下、本発明の難燃性マスターバッチを構成する成分などの詳細について説明する。
【0018】
(ホスフィン酸金属塩系難燃剤)
本発明の難燃性マスターバッチに用いるホスフィン酸金属塩系難燃剤は、いわゆる有機リン酸金属塩である。このホスフィン酸金属塩系難燃剤を用いると、樹脂成分(ポリアミド系樹脂)と混合して溶融混練する際にハイメッシュ(例えば250メッシュ)のスクリーンを通過させた場合であっても、スクリーンが目詰まりしにくい。さらに、溶融混練時に過度の増粘が生ずることもない。このため、ホスフィン酸金属塩系難燃剤を難燃剤として用いることで、溶融混練などの製造時における加工性を向上させることができる。
【0019】
また、その理由については必ずしも明らかではないが、ポリアミド系樹脂にホスフィン酸金属塩系難燃剤を配合することで、ポリアミド系樹脂を主成分としながらも、高温水で洗浄しても収縮しにくい繊維を製造可能な難燃性マスターバッチとすることができる。
【0020】
ホスフィン酸金属塩系難燃剤としては、下記一般式(1)で表される化合物を用いることが好ましい。また、ホスフィン酸金属塩系難燃剤は、レーザー回折法により測定される粒度分布における積算値95%粒径(D95)が15μm以下の粒状物であることが好ましい。D95が15μm以下の粒状物を用いることで、溶融混練時のスクリーンの目詰まりをさらに抑制することができ、加工性をさらに向上させることができる。なお、ホスフィン酸金属塩系難燃剤は、D95が10μm以下の粒状物であることがさらに好ましく、D95が7μm以下の粒状物であることが特に好ましい。
【0021】
【0022】
一般式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を示す。また、R1及びR2は、それぞれ独立にエチル基又はブチル基であることが好ましい。
【0023】
ホスフィン酸金属塩系難燃剤としては、合成物や市販品を用いることができる。ホスフィン酸金属塩系難燃剤の市販品としては、商品名「Exolite(登録商標) OP シリーズ」(クラリアントケミカルズ社製)を挙げることができる。なかでも、商品名「Exolit OP−945」(アルミニウム=トリス{ジエチル[及びブチル(エチル)]ホスフィナート}、クラリアントケミカルズ社製、CAS No.225789−38−8、D95≦5μm)を用いることが好ましい。なお、ホスフィン酸金属塩系難燃剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
難燃性マスターバッチ中のホスフィン酸金属塩系難燃剤の含有量は、15〜50質量%であり、好ましくは20〜40質量%、さらに好ましくは25〜35質量%である。ホスフィン酸金属塩系難燃剤の含有量が15質量%未満であると、十分な難燃性を有する樹脂組成物や繊維を製造することが困難になるとともに、高温水洗浄時の収縮抑制効果が不足する。一方、ホスフィン酸金属塩系難燃剤の含有量が50質量%超であると、加工性が低下する。
【0025】
(ポリアミド系樹脂)
本発明の難燃性マスターバッチは、ポリアミド系樹脂を含有する。ポリアミド系樹脂は、多数のモノマーがアミド結合により結合したポリマーである。ポリアミド系樹脂を用いることで、耐摩耗性や強度等の耐久性に優れ、車両用の内装材等を構成する材料として好適な、ポリアミド系樹脂を主体とする難燃性繊維を製造しうるマスターバッチとすることができる。
【0026】
ポリアミド系樹脂としては、主として、脂肪族骨格を含むナイロンを用いることが好ましい。また、ナイロンとしては、例えば、ナイロン6、11、12、66、610、6T、6I、9T、M5Tなどを挙げることができる。なかでも、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6T、ナイロン9Tを用いることが好ましい。これらのポリアミド系樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
(その他の成分)
難燃性マスターバッチには、本発明の目的を損なわない限り、必要に応じてその他の成分を含有させることができる。その他の成分としては、例えば、難燃助剤、機械物性等の諸特性を向上させるための充填材、及びその他の添加剤等を挙げることができる。
【0028】
難燃助剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化カルシウム等の金属水酸化物を挙げることができる。充填材としては、例えば、シリカ、タルク、クレー、マイカ、酸化チタン、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス繊維、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、チタン酸カリウム、硼酸アルミニウム、硼酸マグネシウム、及び炭素繊維等を挙げることができる。その他の添加剤としては、例えば、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、硬化剤、硬化促進剤、帯電防止剤、導電性付与剤、離型剤、潤滑剤、染料、及び顔料等を挙げることができる。これらのその他の成分の1種又は2種以上が難燃性マスターバッチに含有されていてもよい。
【0029】
(難燃性マスターバッチの製造方法)
難燃性マスターバッチは、ポリアミド系樹脂及びホスフィン酸金属塩系難燃剤、並びに必要に応じて配合されるその他の成分を溶融混練して製造することができる。なお、本発明の難燃性マスターバッチは、難燃性繊維を紡糸する原材料となる難燃性樹脂組成物を調製するために用いるマスターバッチである。このため、通常、各成分を溶融混練したもの(溶融混練物)をハイメッシュのスクリーンに通過させる。スクリーンの目開き(JIS Z 8801:1987)は、好ましくは200メッシュ以上、さらに好ましくは250メッシュ以上とすればよい。
【0030】
溶融混練の方法は特に限定されず、公知の溶融混練方法を採用することができる。具体例を挙げると、各成分を例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの高速ミキサー等の各種混合機を用いて予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、プラストグラフ、単軸押出機、二軸押出機、及びニーダー等の混練装置で溶融混練する方法を挙げることができる。これらのなかでも、生産効率がよいことから、押出機を用いて溶融混練する製造方法が好ましく、二軸押出機を用いる製造方法がさらに好ましい。押出機を使用して各成分を溶融混練し、混練物をストランド状に押し出した後、ストランド状に押し出した混練物をペレット状やフレーク状等の形態に加工することができる。なお、マスターバッチの形態は、顆粒状、タブレッド状、ペレット状、フレーク状、及び繊維状が好ましく、ペレット状がさらに好ましい。
【0031】
溶融混練の際の温度は、例えば、230〜330℃であり、使用するポリアミド系樹脂に応じて適宜選択される。ポリアミド系樹脂として、PA6樹脂(ナイロン6)を用いる場合、溶融混練の際の温度は、200〜280℃が好ましく、230〜270℃が好ましい。
【0032】
<難燃性樹脂組成物>
難燃性マスターバッチは、難燃性を有する製品の全部又は一部を構成するための熱可塑性樹脂、すなわち、難燃性を付与する対象となる熱可塑性樹脂に、難燃性を付与するために添加される成分である。すなわち、本発明の難燃性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂であるポリアミド系樹脂と、上述の難燃性マスターバッチとを含有する、難燃性繊維を紡糸する原材料となる樹脂組成物である。ここで、「難燃性繊維を紡糸する原材料となる樹脂組成物」とは、難燃性樹脂組成物が、難燃性繊維の全部又は一部として紡糸される際に、その紡糸にそのまま用いることが可能な組成物をいう。また、難燃性マスターバッチは、ポリアミド系樹脂に難燃性を付与するだけでなく、高温水で洗浄しても収縮しにくい繊維を構成しうる、といった特性を付与することもできる。
【0033】
熱可塑性樹脂としては、難燃性マスターバッチの基材である樹脂成分と同様に、ポリアミド系樹脂を用いる。なかでも、難燃性マスターバッチ中の基材であるポリアミド系樹脂と同種のポリアミド系樹脂が好ましい。なお、難燃性樹脂組成物の形態としては、例えば、粉末状、顆粒状、タブレット(錠剤)状、ペレット状、フレーク状、繊維状、及び液状等を挙げることができる。
【0034】
難燃性樹脂組成物中のホスフィン酸金属塩系難燃剤の含有量は、4.5〜15質量%であることが好ましく、4.7〜13質量%であることがさらに好ましく、4.8〜12質量%であることが特に好ましい。ホスフィン酸金属塩系難燃剤の含有量が4.5質量%未満であると、得られる繊維の難燃性がやや不足するとともに、高温水洗浄時の収縮抑制効果がやや不足する場合がある。一方、ホスフィン酸金属塩系難燃剤の含有量が15質量%超であると、加工性がやや低下する場合がある。
【0035】
難燃性繊維を製造する際に、難燃性を付与する対象となる熱可塑性樹脂に難燃剤を直接添加するよりも、予め調製した前述の難燃性マスターバッチを添加する方が、難燃剤等の成分が飛散しにくいとともに、紡糸機を汚染しにくくなり、作業性が向上する点で好ましい。また、難燃性マスターバッチを用いることで所望とする難燃性樹脂組成物を手軽に調製することができる。このため、安価でかつ小量生産にも対応可能な、経済的利点のある難燃性樹脂組成物を得ることができる。
【0036】
<難燃性繊維>
本発明の難燃性繊維は、前述の難燃性樹脂組成物からなるものである。すなわち、本発明の難燃性樹脂組成物を紡糸等して繊維状に成形することにより、難燃性を有するともに、高温水で洗浄しても収縮しにくい繊維を製造することができる。なお、紡糸等して得られた難燃性繊維を常法にしたがって加工することで、自動車、列車、航空機、船舶等の乗物に用いられる座席(シート)・カーペット等の内装材などの難燃性製品を製造することができる。
【0037】
本発明の難燃性繊維は、ポリアミド系樹脂を主成分とする繊維であることから、ザプロ加工された羊毛繊維に比して軽量であるとともに、貴金属を含有する多量の廃液が生ずることもない。また、ザプロ加工された羊毛繊維と同等以上の難燃性を示す繊維である。具体的には、JIS K7201−2:2007に規定される方法に準拠して測定される酸素指数(LOI値)が、好ましくは25以上である。さらに、ポリアミド系樹脂を主成分とする繊維でありながら、高温水で洗浄しても収縮しにくい性質を有することから、本発明の難燃性繊維は、自動車、列車、航空機、船舶等の乗物に用いられる座席(シート)・カーペット等の内装材の構成材料として好適である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を参考例及び試験例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの試験例に限定されるものではない。
【0039】
<使用材料>
以下に示すメラミンシアヌレートA〜D、難燃剤A〜E、及びPA6樹脂(ナイロン)を使用した。
【0040】
(メラミンシアヌレート)
・メラミンシアヌレートA:商品名「MC−6000」(日産化学工業社製、粒径2μm)
・メラミンシアヌレートB:商品名「MC−4500」(日産化学工業社製、粒径10μm)
・メラミンシアヌレートC:商品名「MC−4000」(日産化学工業社製、粒径14μm)
・メラミンシアヌレートD:商品名「MC−20S」(堺化学工業社製、粒径4μm)
【0041】
(難燃剤A)
ポリリン酸化合物(ポリリン酸のメラミン、メラム、及びメレムの塩、商品名「PHOSMEL−200」、日産化学工業社製、CAS No.880647−20−1)を「難燃剤A」として用いた。
【0042】
(難燃剤B)
ホスフィン酸金属塩(アルミニウム=トリス{ジエチル[及びブチル(エチル)]ホスフィナート}、商品名「Exolit OP−945」、クラリアントケミカルズ社製、CAS No.225789−38−8、D95≦5μm)を「難燃剤B」として用いた。
【0043】
(難燃剤C)
芳香族縮合リン酸エステル(商品名「PX−200」、大八化学工業社製、CAS No.139189−30−3)を「難燃剤C」として用いた。
【0044】
(難燃剤D)
ホスファゼン誘導体(商品名「SPS−100」、大塚化学社製)を「難燃剤D」として用いた。
【0045】
(難燃剤E)
エポキシリン系化合物を「難燃剤E」として用いた。
【0046】
(PA6樹脂(ナイロン))
商品名「UBEナイロン 1013B」(宇部興産社製)を「PA6樹脂」として用いた。
【0047】
<マスターバッチの製造(1)>
(参考例1)
PA6樹脂80質量部、及びメラミンシアヌレートA20質量部を配合し、ヘンシェルミキサーを用いて十分に混合して混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機を使用して250℃で混練し、スクリーン(250メッシュ以上)を通過させて混練物をストランド状に押し出した。ストランド状に押し出された混練物を水冷した後、ペレタイザーを用いて加工し、ペレット状のマスターバッチを製造した。
【0048】
(参考例2〜8)
表1に示す配合(単位:質量部)としたこと以外は、前述の参考例1と同様にして、ペレット状のマスターバッチを製造した。
【0049】
<マスターバッチの評価(1)>
(加工性)
以下に示す評価基準にしたがってマスターバッチの加工性を評価した。結果を表1に示す。
○:二軸押出機の脱気孔(ベント)から溶融樹脂がふき出すことなく、混練物を押し出すことができた。
△:二軸押出機の脱気孔(ベント)から溶融樹脂が少しふき出したが、混練物を押し出すことができた。
×:混練物を押し出す際に、二軸押出機の脱気孔(ベント)から溶融樹脂がふき出した。
【0050】
(作業環境性)
マスターバッチ製造時に不快な臭気が発生したか否かを確認し、以下に示す評価基準したがって作業環境性を評価した。結果を表1に示す。
○:臭気はほとんど感じられなかった。
△:わずかに臭気の発生を感じたが、作業困難となるほどの臭気は感じられなかった。
×:はっきりと感じられる臭気が発生した。
【0051】
(相溶性)
マスターバッチ製造時の水槽へのブリード物の発生状況を確認し、以下に示す評価基準にしたがって難燃剤と樹脂との相溶性を評価した。結果を表1に示す。
○:水槽中にブリード物がほとんど発生することなく、相溶性が良好なマスターバッチを製造できた。
△:水槽中にブリード物の発生が確認されたが、発生したブリード物は少量であったため、相溶性がまずまずのマスターバッチを製造できた。
×:水槽中に多量のブリード物の発生が確認されたため、相溶性はあまり良くないがマスターバッチを製造できた。
【0052】
【0053】
<マスターバッチの製造(2)>
(試験例1)
PA6樹脂73質量部、及び難燃剤A27部を配合し、ヘンシェルミキサーを用いて十分に混合して混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機を使用して250℃で混練し、スクリーン(250メッシュ以上)を通過させて混練物をストランド状に押し出した。ストランド状に押し出された混練物を水冷した後、ペレタイザーを用いて加工し、ペレット状のマスターバッチ1を製造した。
【0054】
(試験例2〜10)
表2に示す配合(単位:質量部)としたこと以外は、前述の試験例1と同様にして、ペレット状のマスターバッチ2〜10を製造した。
【0055】
<マスターバッチの評価(2)>
マスターバッチ製造時の作業環境性及び相溶性については、前述の「マスターバッチの評価(1)」と同様の評価基準により評価した。また、加工性については、以下に示す評価基準にしたがって評価した。結果を表2に示す。
(加工性)
○:二軸押出機のノズルから混練物が安定して吐出された。
△:二軸押出機のノズルから混練物が時折不安定に吐出された。
×:溶融混練時に増粘が生じ、二軸押出機のノズルから混練物が吐出されなかった。
【0056】
【0057】
<繊維の製造>
(試験例11〜14)
前述の試験例3で製造したマスターバッチ3を用いて、製品を製造する際の組成を想定した難燃性樹脂組成物を調製した。具体的には、マスターバッチ3と、マスターバッチ3に用いたPA6樹脂と同一の樹脂とをドライブレンドし、難燃剤Bの含有量が3質量%、5質量%、及び10質量%である難燃性樹脂組成物を調製した(但し、試験例14についてはマスターバッチ3を配合していない)。調製した難燃性樹脂組成物の組成を表3に示す。次いで、紡糸機を使用して難燃性樹脂組成物を紡糸し、3デニールの糸(繊維)を作製した。筒編み機を使用して作製した糸を編み上げて、試験例11〜14の試験片(長さ14cm×幅5cm×厚さ0.1mm)を製造した。
【0058】
(試験例15)
羊毛を編み上げて試験例15の試験片とした。
【0059】
(試験例16)
ザプロ加工した羊毛を編み上げて試験例16の試験片とした。
【0060】
<繊維の評価>
(酸素指数の測定)
JIS K7201−2:2007に準拠し、燃焼性試験器(商品名「酸素指数 燃焼性試験器 ON−1」、スガ試験機社製)を使用して製造した各試験片の酸素指数(LOI値)を測定した。結果を表3に示す。なお、酸素指数(LOI値)が22以下のものを「可燃性」、22を超えて27以下のものを「自己消火性」、27を超えたものを「難燃性」と評価することができる。
【0061】
(収縮率の測定)
製造した各試験片を水で10分間煮沸し、煮沸前後の試験片の長さを比較して収縮率(%)を算出した。結果を表3に示す。
【0062】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の難燃性マスターバッチを用いれば、ナイロンなどのポリアミド系繊維の難燃性等の特性を有効に高めることができる。