ポリカーボネート樹脂に添加して成形品を製造した際に、摺動特性が改善されるとともに、金型汚染が十分に抑制され、且つ成形品の外観が良好となる改質剤及びその製造方法を提供すること。
エチレン系重合体(a)から構成される主鎖30〜80質量部及びビニル系単量体(b)由来の構造単位から構成されるグラフト鎖70〜20質量部を、主鎖とグラフト鎖の合計が100質量部となるように有するグラフト重合体(A)と、ゴム状重合体にビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト重合体(B)とを、質量比が(A):(B)=9〜98:91〜2となるように含有するポリカーボネート改質剤であって、ビニル系単量体(b)が所定の芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体を含む、ポリカーボネート改質剤。
エチレン系重合体(a)から構成される主鎖30〜80質量部及びビニル系単量体(b)由来の構造単位から構成されるグラフト鎖70〜20質量部を、主鎖とグラフト鎖の合計が100質量部となるように有するグラフト重合体(A)と、ゴム状重合体にビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト重合体(B)とを、質量比が(A):(B)=9〜98:91〜2となるように含有するポリカーボネート改質剤であって、
前記ビニル系単量体(b)が芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体を含み、
前記芳香族ビニル単量体由来の吸光度(α1)に対する前記シアン化ビニル単量体由来の吸光度(α2)の比(α2/α1)が0.1以上0.93未満であるポリカーボネート改質剤。
前記エチレン系重合体(a)は、数平均分子量が1万から5万、分子量分布が5〜15、分子量が1万以下の割合が5.5%以上である、請求項1又は2に記載のポリカーボネート改質剤。
エチレン系重合体(a)30〜80質量部の存在下に、ビニル系単量体(b)70〜20質量部(ただし、(a)及び(b)の合計は100質量部)をグラフト重合してグラフト重合体(A)を合成する重合工程であって、ビニル系単量体(b)は1質量%以上35質量%以下のシアン化ビニル系単量体を含有する重合工程と、
得られたグラフト重合体(A)と、ゴム状重合体にビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト重合体(B)とを混合する混合工程と、を有するポリカーボネート改質剤の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ポリカーボネート改質剤>
本実施形態のポリカーボネート改質剤(以下、単に「改質剤」ともいう。)は、グラフト重合体(A)及びグラフト重合体(B)を含有する。かかる改質剤は、特にポリカーボネート樹脂の摺動特性を改善する用途に用いられる。以下、各成分について説明する。
【0016】
[グラフト重合体(A)]
グラフト重合体(A)は、エチレン系重合体(a)から構成される主鎖及びビニル系単量体(b)由来の構造単位から構成されるグラフト鎖を有する。
【0017】
エチレン系重合体(a)としては、エチレン単独重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−環状オレフィン共重合体等、エチレンに基づく単量体単位が主単位(通常、重合体を構成する全単量体単位を100モル%として、エチレンに基づく単量体単位の含有量が50モル%以上)の重合体を挙げることができる。
【0018】
エチレン単独重合体としてはポリエチレンが挙げられる。また、エチレン−α−オレフィン共重合体のα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン等、炭素数3〜20のα−オレフィンが挙げられる。これらは1種又は2種以上用いることができる。
【0019】
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体等が挙げられる。
【0020】
エチレン系重合体(a)としては、共重合成分としてエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを含有するエチレン−α−オレフィン共重合体であることが好ましい。
【0021】
エチレン系重合体(a)のサイズに制限はないが、数平均換算粒子径[(長辺+短辺)/2]が、500〜4500μmであることが好ましく、700〜3500μmであることがより好ましく、1000〜3000μmであることが更により好ましく、1000〜2700μmであることが特に好ましい。
【0022】
エチレン系重合体(a)はペレット形状で用いることができる。この場合、ペレットの表面積が大きいほど芳香族ビニル系単量体等の単量体がグラフト重合しやすくなる。ペレットの数平均換算粒子径[(長辺+短辺)/2]は上記範囲内であることが好ましい。
【0023】
エチレン系重合体(a)は、ポリカーボネート樹脂の摺動特性をより向上させる観点から、数平均分子量が1万から5万、分子量分布が5〜15、分子量が1万以下の割合が5.5%以上であることが好ましい。
【0024】
エチレン系重合体(a)の数平均分子量、分子量分布及び分子量が1万以下の割合は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて求めることができる。具体的には、標準ポリスチレンを用いた校正曲線から換算した重量平均分子量及び数平均分子量を求め、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が算出される。分子量が1万以下の割合は、
図1に示すように、スライス分子量とスライス面積からなる分子量分布曲線から、スライス面積の積分値曲線を描き、スライス分子量が1万の時の積分値(%)である。
【0025】
エチレン系重合体(a)の流動の活性化エネルギーは、ポリカーボネート樹脂の摺動特性をより向上させる観点から、40〜120kJ/molであることが好ましく、50〜110kJ/molであることがより好ましく、60〜100kJ/molであることが更に好ましい。エチレン系重合体(a)の流動の活性化エネルギーは、例えば、特許第3344015号公報及び特許4543706号公報に記載された公知技術により調整可能である。
【0026】
エチレン系重合体(a)の流動の活性化エネルギーは、粘弾性測定装置(テイー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製溶融粘弾性測定装置 ARES)を用いて、下記測定条件で130℃、150℃、170℃及び190℃での溶融複素粘度−角周波数曲線を測定し、次に、得られた溶融複素粘度−角周波数曲線から、テイー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製計算ソフトウェア TA Orchestrator Software v7.0.8.23を用いて、活性化エネルギー(Ea)を求めることができる。なお、シフトファクター(a
T)のアレニウス型方程式は下記で表され、
log(a
T)=Ea/R(1/T−1/T
0)
[Rは気体定数であり、T
0は基準温度(463K)である。]
アレニウス型プロットlog(a
T)−(1/T)において、直線近似をした時に得られる相関係数r
2が0.99以上であるときのEa値を、本発明における流動の活性化エネルギーとする。
<測定条件>
ジオメトリー:パラレルプレート
プレート直径:25mm
プレート間隔(測定スタート時点):1.5mm
ストレイン :5%
角周波数 :0.1〜100rad/秒
測定雰囲気 :窒素下
【0027】
エチレン系重合体(a)の密度は、ポリカーボネート樹脂の摺動特性をより向上させる観点から、0.900g/cm
3以上0.966g/cm
3未満が好ましく、0.905g/cm
3以上0.951g/cm
3未満がより好ましく、0.910g/cm
3以上0.941g/cm
3未満が更に好ましく、0.915g/cm
3以上0.931g/cm
3未満が特に好ましい。なお、密度は、JIS K7112に準拠して測定される。
【0028】
エチレン系重合体(a)のメルトフローレイトは、摺動特性をより向上させる観点から、0.3〜5(g/10min)であることが好ましい。なお、ここでいうメルトフローレイトとは、JIS K7210に準拠した、温度190℃、荷重21.2Nの条件で測定される値をいう。
【0029】
ビニル系単量体(b)は、芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体を含む。
【0030】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上用いることができる。これらのうち、スチレン又はα−メチルスチレンが好ましい。
【0031】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上用いることができる。これらのうち、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルが好ましい。
【0032】
ビニル系単量体(b)は、芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体と共重合可能な他のビニル系単量体を更に含んでいてもよい。当該他のビニル系単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、4−t−ブチルフェニル(メタ)アクリレート、ブロモフェニル(メタ)アクリレート、ジブロモフェニル(メタ)アクリレート、2,4,6−トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、モノクロルフェニル(メタ)アクリレート、ジクロルフェニル(メタ)アクリレート、トリクロルフェニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体などが挙げられる。
【0033】
グラフト重合体(A)は、上記エチレン系重合体(a)から構成される主鎖30〜80質量部及びビニル系単量体(b)由来の構造単位から構成されるグラフト鎖70〜20質量部を、主鎖とグラフト鎖の合計が100質量部となるように有する。エチレン系重合体(a)から構成される主鎖の含有量が30質量部未満では、ポリカーボネート樹脂に配合した際に十分な摺動特性が得られにくくなり、80質量部を超えると、ポリカーボネート樹脂に配合した際にデラミネーションが発生しやすくなる。主鎖及びグラフト鎖の含有量は、それぞれ35〜75質量部及び65〜25質量部であることが好ましく、40〜70質量部及び60〜30質量部であることがより好ましい。
【0034】
グラフト重合体(A)においては、ビニル系単量体(b)由来の構造単位全体に対して、シアン化ビニル系単量体由来の構造単位の含有量が、1質量%以上25質量%未満であることが好ましく、5質量%以上24質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上23質量%以下であることが更に好ましい。
【0035】
グラフト重合体(A)のグラフト率に特に制限はないが、ポリカーボネート樹脂のデラミネーションを抑制する観点から、グラフト率は30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましい。
【0036】
グラフト重合体(A)の主鎖及びグラフト鎖における各構造単位の含有量、グラフト率は、グラフト重合体(A)の製造工程における仕込み比等の情報がある場合には、例えば、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0037】
また、グラフト重合体(A)の製造工程における仕込み比等の情報がない場合であっても、以下に示す方法により、グラフト重合体(A)の主鎖及びグラフト鎖における各構造単位の含有量を測定することができる。
【0038】
まず、エチレン系重合体から構成される主鎖及びビニル系単量体由来の構造単位から構成されるグラフト鎖を有し、エチレン系重合体やビニル系単量体由来の構造単位の組成比がそれぞれ異なり、且つ組成が既知である複数のグラフト重合体を用意する。これらのグラフト重合体について後述するガスクロマトグラフィー分析を行い、検量線を作成する。
次に、測定対象となるグラフト重合体を準備して、同様にガスクロマトグラフィー分析を行い、検量線を用いて各成分の組成比を求める。
(ガスクロマトグラフィー分析)
グラフト重合体を、井元製作所製一軸混練機(IMC−19D1)を用いて、スクリュー温度を混練機の入り口から出口に向かって170℃から200℃となるように設定し、スクリュー回転数が100rpmの条件で溶融混練を行い、ペレットを得る。得られたペレットについて下記の条件でガスクロマトグラフィー分析を行う。
(条件)
アジレントテクノロジー株式会社製 型式7890A GC System/5975C VL MSD
カラム:Ultra ALLOY−5
長さ(30m)×内径(0.25mm)×膜厚(0.25μm)
オーブン温度:70→320℃(20℃/min)(10minホールド)
注入口温度:320℃
インターフェース温度:320℃
キャリアーガス:ヘリウム(流量1ml/min)
スプリット比:1/150
マスレンジ:10〜425(m/z)
溶媒待ち時間:1.7min
サンプル量:3mg
ガス発生条件:260℃で6分間ホールド、INTF温度(320℃)
【0039】
グラフト重合体(A)においては、芳香族ビニル単量体由来の吸光度(α1)に対するシアン化ビニル単量体由来の吸光度(α2)の比(α2/α1)が0.1以上0.93未満である。α2/α1が0.93以上であると、ポリカーボネート樹脂に改質剤を添加した際の外観が悪化する。α2/α1は、0.3以上0.85以下であることが好ましく、0.5以上0.8以下であることがより好ましい。
【0040】
なお、芳香族ビニル単量体由来の吸光度及びシアン化ビニル単量体由来の吸光度は、以下に示す方法で測定することができる。
【0041】
グラフト重合体を、井元製作所製一軸混練機(IMC−19D1)を用いて、スクリュー温度を混練機の入り口から出口に向かって170℃から200℃となるように設定し、スクリュー回転数が100rpmの条件で溶融混練を行い、ペレットを得る。その後、熱プレス機を用いて得られたペレットの薄膜フィルムを作成し、フーリエ変換赤外分光装置(パーキンエルマー製Spectrum One)を用いて薄膜フィルムの吸光度を測定する。その際、芳香族ビニル単量体由来のピークのうち、芳香環に由来する1602cm
−1付近の波長における吸光度を「芳香族ビニル単量体由来の吸光度(α1)」とし、シアン化ビニル単量体由来のピークのうち、シアノ基に由来する2238cm
−1付近の波長における吸光度を「シアン化ビニル単量体由来の吸光度(α2)」とする。
【0042】
[グラフト重合体(B)]
グラフト重合体(B)は、ゴム状重合体にビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト重合体である。
【0043】
ゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン・スチレン共重合体、イソプレン・スチレン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、ブタジエン・イソプレン・スチレン共重合体、ポリクロロプレンなどのジエン系ゴム、ポリブチルアクリレートなどのアクリル系ゴム、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体、ポリオルガノシロキサン系ゴム、更にはこれらの2種以上のゴムからなる複合ゴム等が挙げられる。これらは一種又は二種以上組み合わせて用いることができる。
【0044】
ビニル系単量体としては、上記ビニル系単量体(b)と同様のものを用いることができる。
【0045】
グラフト重合体(B)の具体例としては、アクリロニトリル・ブタジエン系ゴム・スチレン重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル・アクリル系ゴム・スチレン重合体(AAS樹脂)、メタクリル酸メチル・ブタジエン系ゴム・スチレン樹脂(MBS樹脂)、アクリロニトリル・エチレン−プロピレン系ゴム・スチレン重合体(AES樹脂)等が挙げられる。これらの中で、ポリカーボネート樹脂のデラミネーションを抑制する観点から、MBS樹脂が好ましい。
【0046】
本実施形態の改質剤は、グラフト重合体(A)とグラフト重合体(B)とを、質量比が(A):(B)=9〜98:91〜2となるように含有する。グラフト重合体(A)の質量比が下限未満である場合には十分な摺動特性を得られず、グラフト重合体(A)の質量比が上限を超える場合には十分な金型汚染抑制効果が得られない。グラフト重合体(A)とグラフト重合体(B)との質量比は、15〜95:85〜5であることが好ましく、25〜90:75〜10であることがより好ましい。
【0047】
<改質剤の製造方法>
本実施形態の改質剤の製造方法は、エチレン系重合体(a)30〜80質量部の存在下に、ビニル系単量体(b)70〜20質量部(ただし、(a)及び(b)の合計は100質量部)をグラフト重合してグラフト重合体(A)を合成する重合工程であって、ビニル系単量体(b)は1質量%以上35質量%以下のシアン化ビニル系単量体を含有する重合工程と、得られたグラフト重合体(A)と、ゴム状重合体にビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト重合体(B)とを混合する混合工程と、を有する。
【0048】
本実施形態の製造方法により、上述の改質剤を製造することができ、エチレン系重合体(a)、ビニル系単量体(b)、グラフト重合体(B)としては、上述のものが用いられる。
【0049】
重合工程におけるエチレン系重合体(a)とビニル系単量体(b)との質量比は、35〜75:65〜25であることが好ましく、40〜70:60〜30であることがより好ましい。
【0050】
ビニル系単量体(b)は、5質量%以上33質量%以下のシアン化ビニル単量体を含有することが好ましく、10質量%以上31%質量%以下のシアン化ビニル単量体を含有することがより好ましい。また、ビニル系単量体(b)は、65質量%以上99質量%以下の芳香族ビニル単量体を含有することが好ましく、67質量%以上95質量%以下の芳香族ビニル単量体を含有することがより好ましく、69質量%以上90質量%以下の芳香族ビニル単量体を含有することが更に好ましい。
【0051】
重合工程における重合方法には特に制限はなく、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合又はこれらの組み合わせの方法により得ることができるが、懸濁重合法を用いることが好ましい。
【0052】
混合工程において、グラフト重合体(A)及びグラフト重合体(B)は、それぞれ別々にポリカーボネート樹脂に添加した後に混合しても、グラフト重合体(A)及びグラフト重合体(B)を予め混合したものをポリカーボネート樹脂に添加してもよい。なお、予め混合したものを用いる場合には、グラフト重合体(A)及びグラフト重合体(B)を溶融混練してペレット状としたものを用いることが、取り扱い性の観点から好ましい。
【0053】
混合工程においては、押出し機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の公知の混練装置を用いることができる。
【0054】
[ポリカーボネート樹脂]
本実施形態の改質剤を、ポリカーボネート樹脂に添加する量は、ポリカーボネート樹脂の用途等に合わせて適宜調整することができるが、例えばポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.5〜28質量部、好ましくは1〜25質量部、より好ましくは2〜20質量部とすることができる。
【0055】
ポリカーボネート樹脂とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン;“ビスフェノールA”から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0056】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビスビス(4−ヒドロキシジフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシジフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第3ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルファイド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルファイドのようなジヒドロキシジアリールスルファイド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。これらは単独又は2種類以上混合して使用することができる。
【0057】
上記の他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル類等を混合してもよい。
【0058】
更に、上記のジヒドロキシジアリール化合物と、以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしては、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン−2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタン及び2,2−ビス−(4,4’−(4,4’−ヒドロキシジフェニル)シクロヘキシル)−プロパン等が挙げられる。
【0059】
上記のポリカーボネート樹脂を製造する場合、重量平均分子量は、通常10000〜80000であり、好ましくは15000〜60000である。製造の際には、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0060】
ポリカーボネート樹脂には、本発明の目的を損なわない限りにおいて、目的に応じて樹脂の混合時、成形時等に顔料、染料、補強剤(タルク、マイカ、クレー、ガラス繊維等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、離型剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、無機及び有機系抗菌剤等の公知の添加剤を更に配合することもできる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中にて示す部及び%は質量に基づくものである。
【0062】
<グラフト重合体(A)の製造>
以下に示す方法で、グラフト重合体(A−1)〜(A−4)を製造した。なお、エチレン系重合体(住友化学(株)製、商品名「スミカセンEPGT140」)は「エチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体」であり、その物性は以下のとおりである。
流動性:0.9(g/10min)
密度:0.918(g/cm
3)
数平均分子量:18000
重量平均分子量:180000
分子量分布:10
分子量が1万以下の割合:9.6(%)
数平均換算粒子径:3700μm
流動の活性化エネルギー:70(kJ/mol)
数平均換算粒子径:3700μm
【0063】
[グラフト重合体(A−1)]
100Lの耐圧容器に脱イオン水300部、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(プルロニックF−68)0.12部、硫酸マグネシウム0.6部、及びエチレン系重合体(住友化学(株)製、商品名「スミカセンEP GT140」)60部を仕込み、攪拌しつつ槽内の窒素置換を行った。その後、スチレン28部、アクリロニトリル12部、tert−ブチルパーオキシピバレート(B(PV))1.1部、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(カヤエステルO)0.1部、及び1,4−ベンゾキノン0.05部から構成される混合モノマーと脱イオン水50部を仕込み、槽内の窒素置換を行った。槽内温度を85℃まで昇温後、85℃になってから1時間反応を継続させた。反応終了後、槽内温度を40℃まで冷却し、回収・洗浄・乾燥を行うことでグラフト重合体(A−1)を得た。
【0064】
[グラフト重合体(A−2)]
エチレン系重合体、スチレン、アクリロニトリルの仕込み量を、それぞれ52.6部、35.3部、12.1部に変更した他は、(A−1)と同様にしてグラフト重合体(A−2)を得た。
【0065】
[グラフト重合体(A−3)]
スチレン、アクリロニトリルの仕込み量を、それぞれ31.5部、8.5部に変更した他は、(A−1)と同様にしてグラフト重合体(A−3)を得た。
【0066】
[グラフト重合体(A−4)]
スチレン、アクリロニトリルの仕込み量を、それぞれ25.5部、14.5部に変更した他は、(A−1)と同様にしてグラフト重合体(A−4)を得た。
【0067】
<グラフト重合体の評価>
得られたグラフト重合体について、以下に示す方法で評価を行った。その結果を、表1に示す。
【0068】
[グラフト重合体のエチレン系重合体含有率(PE含有率)の測定]
グラフト重合体(A−1)を例として説明する。グラフト重合体(A−1)は乾燥後に92部得られた。エチレン系重合体は仕込み量の99%がグラフト重合体中に含有すると仮定することで、グラフト重合体(A−1)のエチレン系重合体含有率は下記式(1)より求めることができる。
エチレン系重合体含有率(%)=[{エチレン系重合体の仕込み量(部)×0.99}/グラフト重合体の質量(部)]×100 …(1)
=[(60×0.99)/92]×100
=64.5(%)
【0069】
[グラフト率の測定]
グラフト重合体(A−1)を例として説明する。グラフト重合体(A−1)をジクロロメタンを用いて分別作業を行うことでジクロロメタン不溶部の質量比率を求めたところ89.9%であった。エチレン系重合体はジクロロメタン不溶部に存在するので、グラフト率は下記式(2)より求めることができる。
グラフト率(%)=[{ジクロロメタン不溶部の質量比率(%)−エチレン系重合体含有率(%)}/エチレン系重合体含有率(%)]×100 …(2)
=(89.9−64.5)/64.5×100
=39.4(%)
【0070】
[グラフト重合体のアクリロニトリル由来の構造単位含有率(ACN含有率)の測定方法]
有機微量元素(CHN)分析装置JM10(株式会社ジェイサイエンスラボ製)を使用し、検量線作成用の標準試料としてアンチピリン、フェナセチン、アセトアニリドを用いることで、グラフト重合体中の窒素原子含有率を求めた。なお、グラフト重合体は一度溶融混練をすることで組成を均一にさせた試料を用いた。
グラフト重合体中に含まれる窒素原子は全てアクリロニトリル由来であることから、窒素原子含有率とアクリロニトリル含有率は比例関係にある。窒素原子の原子量が14、アクリロニトリルの分子量が53であることから、アクリロニトリル由来の構造単位含有率は下記式(3)より求めることができる。
アクリロニトリル由来の構造単位含有率(%)=窒素原子含有率(%)×53/14 …(3)
【0071】
[グラフト重合体のスチレン由来の構造単位含有率(STY含有率)の測定方法]
スチレン由来の構造単位含有率は、下記式(4)より求めることができる。
スチレン由来の構造単位含有率(%)=100−エチレン系重合体含有率(%)−アクリロニトリル由来の構造単位含有率(%) …(4)
【0072】
[グラフト重合体のアクリロニトリルとスチレンとの吸光度比の測定]
グラフト重合体を、井元製作所製一軸混練機(IMC−19D1)を用いて、スクリュー温度を混練機の入り口から出口に向かって170℃から200℃となるように設定し、スクリュー回転数が100rpmの条件で溶融混練を行い、ペレットを得た。その後、熱プレス機を用いて得られたペレットの薄膜フィルムを作成し、フーリエ変換赤外分光装置(パーキンエルマー製Spectrum One)を用いて薄膜フィルムの吸光度を測定し、スチレン由来の1602cm
−1付近の吸光度(STY)に対するアクリロニトリル由来の2238cm
−1付近の吸光度(ACN)の比(ACN/STY)を求めた。
【0073】
【表1】
【0074】
(実施例1〜8、比較例1〜4)
ポリカーボネート樹脂(住化スタイロンポリカーボネート(株)製カリバー 200−15(商品名))100部と、表2に示す比率でグラフト重合体(A)及びグラフト重合体(B)(MBS:カネカ株式会社製、カネエースM−711(商品名))から構成される改質剤(比較例1ではグラフト重合体(A)のみ)とを混合した後、35mm二軸押出機を用いて270℃にて溶融混練してペレットを得た。
得られたペレットを用いて、以下に示す方法で、270℃に設定した射出成形機にて種々の射出成形品を成形し、摩擦試験、デラミネーション試験、色彩評価、金型汚染性評価を行った。評価結果を表2に示す。
なお、グラフト重合体(A)及び(B)を別々に添加した場合と、グラフト重合体(A)及び(B)を混合した後に、40mm単軸押出機を用いて220℃にて溶融混練してペレットを作製して、これをポリカーボネート樹脂と混合する場合の二通りの方法で実験を行ったが、結果に差は見られなかった。
【0075】
[摺動特性の評価(摩擦試験)]
以下の下面試験片及び上面試験片を用意した。
・下面試験片:得られたペレットを射出成形して得られた平板試験片(縦×横×厚み=15cm×9cm×3mm、光沢面)。
・上面試験片:超耐熱ABS樹脂(KU−630R−3(日本エイアンドエル(株)製))を射出成形して得られた平板試験片(縦×横×厚み=15cm×9cm×3mm、光沢面)を(縦×横×厚み=4cm×4cm×3mm)に切り出したもの。
各試験片を23℃、湿度50%の恒温室に24時間静置させた後に、
図2に示すように上面試験片と下面試験片(図中の試験材)の2枚を重ね合わせ、上面試験片の上に1.389kgの荷重を乗せ、毎分50mmの一定速度で引っ張る時に生じる試験力をロードセルで計測し、下記式(5)より減少率を求め、3段階で評価した。
減少率(%)=[(a−b)/a]×100 …(5)
a:改質剤無添加での試験力
b:改質剤添加での試験力
(評価)
○:減少率30%以上
△:減少率10%以上30%未満
×:減少率10%未満
【0076】
[デラミネーション試験]
得られたペレットを射出成形して得られた平板試験片(縦×横×厚み=15cm×9cm×3mm、光沢面)のゲート部にカッターで切り込みを入れ、剥離するかどうかを判定した。
○:剥離なし
×:剥離あり
【0077】
[色彩評価]
以下の試験片を用意した。
・得られたペレットを射出成形して得られた平板試験片(縦×横×厚み=9cm×5.5cm×2.5mm、光沢面)。
試験片を23℃、湿度50%の恒温室に24時間静置させた後に、高速分光光度計(株式会社村上色彩技術研究所製CMS−35SP JC2型)を用いてSCE方式でYIを計測し、下記のとおり評価した。なお、YIが40以上であると、目視でも黄味が強いと判断される。
(評価)
○:YI=40未満
×:YI=40以上
【0078】
[金型汚染性評価]
得られたペレットを用い、成形機J110AD−180H(株式会社日本製鋼所製電動射出成形機)を使用して、成形温度270℃、金型温度60℃、成形サイクル30秒の条件にて1ショット38gの成形品を140枚成形した後、下記の判定基準により評価した。
(評価)
○:金型表面に変化が見られない。
×:金型表面に汚れが見られる。
【0079】
【表2】