【解決手段】ECU(600)は、アシストトルク又は反力トルクの大きさを制御するステアリング制御部(610)と、サスペンションの減衰力を制御するサスペンション制御部(650)とを備え、ステアリング制御部(610)はサスペンション制御部(650)が推定した車両状態を参照し、サスペンション制御部(650)は、操舵トルクを参照する。
前記第2の制御部は、前記車両の状態を推定し、推定した車両状態を少なくとも参照して、前記車両のサスペンションの減衰力を制御する請求項1又は2に記載の車両制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1について、詳細に説明する。
【0012】
(車両900の構成)
図1は、本実施形態に係る車両900の概略構成を示す図である。
図1に示すように、車両900は、懸架装置(サスペンション)100、車体200、車輪300、タイヤ310、操舵部材410、ステアリングシャフト420、トルクセンサ430、舵角センサ440、トルク印加部460、ラックピニオン機構470、ラック軸480、エンジン500、ECU(Electronic Control Unit)(車両制御装置)600、発電装置700およびバッテリ800を備えている。ここで、懸架装置100、及びECU600は、本実施形態に係るサスペンション装置を構成する。なお、車両900は、上述の構成の全てを含む必要はなく、上述の構成の一部を含む構成としてもよい。また、ここで説明した各構成を公知のものと置き換えることができる。
【0013】
タイヤ310が装着された車輪300は、懸架装置100によって車体200に懸架されている。車両900は、四輪車であるため、懸架装置100、車輪300およびタイヤ310については、それぞれ4つ設けられている。
【0014】
なお、左側の前輪、右側の前輪、左側の後輪および右側の後輪のタイヤ及び車輪をそれぞれ、タイヤ310A及び車輪300A、タイヤ310B及び車輪300B、タイヤ310C及び車輪300C、並びに、タイヤ310D及び車輪300Dとも称する。以下、同様に、左側の前輪、右側の前輪、左側の後輪および右側の後輪にそれぞれ付随した構成を、符号「A」「B」「C」及び「D」を付して表現することがある。
【0015】
懸架装置100は、油圧緩衝装置、アッパーアーム及びロアーアームを備えている。また、油圧緩衝装置は、当該油圧緩衝装置が発生させる減衰力を調整する電磁弁であるソレノイドバルブを備えている。ただし、これは本実施形態を限定するものではなく、油圧緩衝装置は、減衰力を調整する電磁弁として、ソレノイドバルブ以外の電磁弁を用いてもよい。例えば、上記電磁弁として、電磁流体(磁性流体)を利用した電磁弁を備える構成としてもよい。
【0016】
エンジン500には、発電装置700が付設されており、発電装置700によって生成された電力がバッテリ800に蓄積される。
【0017】
運転者の操作する操舵部材410は、ステアリングシャフト420の一端に対してトルク伝達可能に接続されており、ステアリングシャフト420の他端は、ラックピニオン機構470に接続されている。
【0018】
ラックピニオン機構470は、ステアリングシャフト420の軸周りの回転を、ラック軸480の軸方向に沿った変位に変換するための機構である。ラック軸480が軸方向に変位すると、タイロッド及びナックルアームを介して車輪300A及び車輪300Bが転舵される。
【0019】
トルクセンサ430は、ステアリングシャフト420に印加される操舵トルク、換言すれば、操舵部材410に印加される操舵トルクを検出し、検出結果を示すトルクセンサ信号をECU600に提供する。より具体的には、トルクセンサ430は、ステアリングシャフト420に内設されたトーションバーの捩れを検出し、検出結果をトルクセンサ信号として出力する。なお、トルクセンサ430として、ホールIC,MR素子、磁歪式トルクセンサなどの周知のセンサを用いてもよい。
【0020】
舵角センサ440は、操舵部材410の舵角を検出し、検出結果をECU600に提供する。
【0021】
トルク印加部460は、ECU600から供給されるステアリング制御量に応じたアシストトルク又は反力トルクを、ステアリングシャフト420に印加する。トルク印加部460は、ステアリング制御量に応じたアシストトルク又は反力トルクを発生させるモータと、当該モータが発生させたトルクをステアリングシャフト420に伝達するトルク伝達機構とを備えている。
【0022】
なお、本明細書における「制御量」の具体例として、電流値、デューティー比、減衰率、減衰比等が挙げられる。
【0023】
操舵部材410、ステアリングシャフト420、トルクセンサ430、舵角センサ440、トルク印加部460、ラックピニオン機構470、ラック軸480、及びECU600は、本実施形態に係るステアリング装置を構成する。
【0024】
なお、上述の説明において「トルク伝達可能に接続」とは、一方の部材の回転に伴い他方の部材の回転が生じるように接続されていることを指し、例えば、一方の部材と他方の部材とが一体的に成形されている場合、一方の部材に対して他方の部材が直接的又は間接的に固定されている場合、及び、一方の部材と他方の部材とが継手部材等を介して連動するよう接続されている場合を少なくとも含む。
【0025】
また、上記の例では、操舵部材410からラック軸480までが常時機械的に接続されたステアリング装置を例に挙げたが、これは本実施形態を限定するものではなく、本実施形態に係るステアリング装置は、例えばステア・バイ・ワイヤ方式のステアリング装置であってもよい。ステア・バイ・ワイヤ方式のステアリング装置に対しても本明細書において以下に説明する事項を適用することができる。
【0026】
ECU600は、車両900が備える各種の電子機器を統括制御する。より具体的には、ECU600は、トルク印加部460に供給するステアリング制御量を調整することにより、ステアリングシャフト420に印加するアシストトルク又は反力トルクの大きさを制御する。
【0027】
また、ECU600は、懸架装置100に含まれる油圧緩衝装置が備えるソレノイドバルブに対して、サスペンション制御量を供給することによって当該ソレノイドバルブの開閉を制御する。この制御を可能とするために、ECU600からソレノイドバルブへ駆動電力を供給する電力線が配されている。
【0028】
また、車両900は、車輪300毎に設けられ各車輪300の車輪速を検出する車輪速センサ320、車両900の横方向の加速度を検出する横Gセンサ330、車両900の前後方向の加速度を検出する前後Gセンサ340、車両900のヨーレートを検出するヨーレートセンサ350、エンジン500が発生させるトルクを検出するエンジントルクセンサ510、エンジン500の回転数を検出するエンジン回転数センサ520、及びブレーキ装置が有するブレーキ液に印加される圧力を検出するブレーキ圧センサ530を備えている。これらの各種センサによる検出結果は、ECU600に供給される。
【0029】
なお、図示は省略するが、車両900は、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐためのシステムであるABS(Antilock Brake System)、加速時等における車輪の空転を抑制するTCS(Traction Control System)、及び、旋回時のヨーモーメント制御やブレーキアシスト機能等のための自動ブレーキ機能を備えた車両挙動安定化制御システムであるVSA(Vehicle Stability Assist)制御可能なブレーキ装置を備えている。
【0030】
ここで、ABS、TCS、及びVSAは、推定した車体速に応じて定まる車輪速と、車輪速センサ320によって検出された車輪速とを比較し、これら2つの車輪速の値が、所定の値以上相違している場合にスリップ状態であると判定する。ABS、TCS、及びVSAは、このような処理を通じて、車両900の走行状態に応じて最適なブレーキ制御やトラクション制御を行うことにより、車両900の挙動の安定化を図るものである。
【0031】
また、上述した各種のセンサによる検出結果のECU600への供給、及び、ECU600から各部への制御信号の伝達は、CAN(Controller Area Network)370を介して行われる。
【0032】
(懸架装置100)
図2は、本実施形態に係る懸架装置100における油圧緩衝装置の概略構成例を示す概略断面図である。
図2に示すように、懸架装置100は、シリンダ101と、シリンダ101内に摺動可能に設けられたピストン102と、ピストン102に固定されたピストンロッド103とを備えている。シリンダ101は、ピストン102によって上室101aと下室101bとに仕切られており、上室101a及び下室101bは作動油によって満たされている。
【0033】
また、
図2に示すように、懸架装置100は、上室101aと下室101bとを連通させる連通路104を備えており、当該連通路104上には、懸架装置100の減衰力を調整するソレノイドバルブ105が設けられている。
【0034】
ソレノイドバルブ105は、ソレノイド105aと、ソレノイド105aによって駆動され、連通路104の流路断面積を変更するバルブ105bとを備えている。
【0035】
ソレノイド105aはECU600から供給されるサスペンション制御量に応じてバルブ105bを出し入れし、それにより連通路104の流路断面積が変更され、懸架装置100の減衰力が変更される。
【0036】
(ECU600)
以下では、参照する図面を替えて、ECU600について具体的に説明する。
図3は、ECU600の概略構成を示す図である。
【0037】
図3に示すように、ECU600は、ステアリング制御部(第1の制御部)610とサスペンション制御部(第2の制御部)650とを備えている。ステアリング制御部610とサスペンション制御部650とを合わせて、ステアリングサスペンション制御装置と呼ぶこともある。
【0038】
ステアリング制御部610は、CAN370に含まれる各種のセンサ検出結果を参照し、トルク印加部460に供給するステアリング制御量の大きさを決定する。
【0039】
なお、本明細書において「〜を参照して」との表現には、「〜を用いて」「〜を考慮して」「〜に依存して」などの意味が含まれ得る。
【0040】
サスペンション制御部650は、CAN370に含まれる各種のセンサ検出結果を参照し、懸架装置100に含まれる油圧緩衝装置が備えるソレノイドバルブに対して供給するサスペンション制御量の大きさを決定する。
【0041】
また、
図3に示すように、ECU600では、サスペンション制御部650によって取得又は算出された車両状態情報が、ステアリング制御部610に供給され、ステアリング制御量の大きさを決定するために参照される。また、ステアリング制御部610にて取得又は算出される操舵情報がサスペンション制御部650に供給され、サスペンションの減衰力を決定するために参照される。
【0042】
なお、操舵情報としては、操舵トルク、舵角、ラック変位、ラック推力などが挙げられ、車両状態情報としては、ロール、ピッチ、ヨーなどの各種情報や、これらの情報から推定された車両状態などが挙げられる。
【0043】
本実施形態では、操舵情報として、操舵トルク信号を用い、車両状態情報としてロールレート値を用いる。
【0044】
なお、後述するように、ロールレート値は、車両900の傾きが所定の微小時間変化しなかった場合の基準値として「0」をとる構成とし、当該基準値からのずれとしてロールレートを表すものであってもよい。
【0045】
また、「制御量の大きさを決定する」との処理には、制御量の大きさをゼロに設定する、すなわち、制御量を供給しない場合も含まれる。
【0046】
なお、ECU600は、ステアリング制御部610とサスペンション制御部650とを一体として備える構成としてもよいし、ステアリング制御部610とサスペンション制御部650とが別々のECUとして実現される構成であってもよい。後者の場合、ステアリング制御部610とサスペンション制御部650とが通信手段を用いて相互に通信を行うことにより、本明細書に記載の制御が実現される。
【0047】
(ステアリング制御部)
続いて、
図4を参照して、ステアリング制御部610についてより具体的に説明する。
図4は、ステアリング制御部610の構成例を示すブロック図である。
【0048】
図4に示すように、ステアリング制御部610は、信号処理部609、制御量算出部611、制御量補正部612、ωフィードバック部620、ゲイン算出部630、及び乗算部640を備えている。
【0049】
信号処理部609は、操舵トルクを示す操舵トルク信号に対して信号処理を行う。当該信号処理は、操舵トルク信号に対する位相補償処理を含んでいてもよい。これにより、更に快適な乗り心地を実現することが期待できる。
【0050】
制御量算出部611は、信号処理部609から供給される操舵トルクを参照し、アシストトルク又は反力トルクの大きさを制御するための制御量を算出する。制御量算出部611によって算出された制御量は、制御量補正部612によって補正されたうえで、ステアリング制御量としてトルク印加部460に供給される。
【0051】
(ωフィードバック部)
ωフィードバック部620は、舵角センサ440から供給される舵角、車輪速センサ320によって検出された車輪速に応じて定まる車速、及び、トルクセンサ430から供給される操舵トルクを参照し、補正制御量の値を決定する。
【0052】
ωフィードバック部620は、一例として、
図4に示すように、目標舵角速算出部621、実舵角速算出部622、減算部623、及び、補正制御量決定部624を備えている。
【0053】
目標舵角速算出部621は、舵角センサ440から供給される舵角、車輪速センサ320によって検出された車輪速に応じて定まる車速、及び、信号処理部609から供給される操舵トルクを参照し、目標舵角速を算出する。ここで、目標舵角速の具体的な算出方法は、本実施形態を限定するものではないが、目標舵角速を算出するにおいて、目標舵角速算出部621は、目標舵角速マップ、及びトルクレイシオマップを参照する構成とすることができる。
【0054】
実舵角速算出部622は、舵角センサ440から供給される舵角の時間変化を算出することによって、実舵角速を特定する。
【0055】
減算部623は、目標舵角速算出部621によって算出された目標舵角速から、実舵角速算出部622によって算出された実舵角速を減算し、減算した結果である舵角速偏差を、補正制御量決定部624に供給する。
【0056】
補正制御量決定部624は、舵角速偏差に応じて、補正制御量の値を決定する。補正制御量の値の具体的な決定方法は本実施形態を限定するものではないが、補正制御量の値を決定するにおいて、補正制御量決定部624は、舵角速偏差補正制御量マップを参照する構成とすることができる。
【0057】
(ゲイン算出部)
ゲイン算出部630は、ωフィードバック部620が算出した補正制御量に乗じるゲイン係数を、舵角センサ440から供給される舵角、及び、サスペンション制御部650から供給されるロールレート値を参照して、算出する。
【0058】
ゲイン算出部630は、一例として、
図4に示すように、切り戻し判定部631、転舵速判定部632、ロールレート判定部633、論理積算出部634、移動平均部635、及びゲイン決定部636を備えている。
【0059】
切り戻し判定部631は、舵角センサ440から供給される舵角と、当該舵角を参照して算出される舵角速とを参照して、操舵部材410が切り戻し状態にあるのか否かの判定を行う。操舵部材410が切り戻し状態にある場合、切り戻し判定部631は、判定結果として「1」を出力し、そうでない場合、判定結果として「0」を出力する。なお、車両900が舵角速センサを備え、切り戻し判定部631が、舵角センサ440から供給される舵角と、舵角速センサから供給される舵角速とを参照して、操舵部材410が切り戻し状態にあるのか否かの判定を行う構成としてもよい。
【0060】
なお、切り戻し判定部631による切り戻し状態の判定処理は上記の例に限定されるものではない。切り戻し判定部631は、トルクセンサ430による検出結果を示すトルクセンサ信号と、トルク印加部460が備えるモータの回転方向とを参照して、切り戻し状態であるか否かを判定する構成としてもよい。この構成の場合、例えば、トルクセンサ信号の符号とモータの回転方向の符号とが異なる場合に、切り戻し状態にあると判定する構成とすればよい。
【0061】
ここで、トルクセンサ信号の符号は、例えば、トーションバーが右回転方向に捩れている状態の場合のトルクセンサ信号の符号をプラスとし、トーションバーが左回転方向に捩れている状態の場合のトルクセンサ信号の符号をマイナスとすればよい。また、モータの回転方向の符号は、トーションバーが右回転方向に捩れている状態において、トーションバーの捩れを解消させる方向をプラスとし、トーションバーが左回転方向に捩れている状態において、トーションバーの捩れを解消させる方向をマイナスとすればよい。
【0062】
転舵速判定部632は、舵角センサ440から供給される舵角を参照して算出される舵角速又はその絶対値が、所定の値以上であるのか否かを判定する。転舵速判定部632は、舵角速又はその絶対値が所定の値以上である場合に、判定結果として「1」を出力し、そうでない場合に、判定結果として「0」を出力する。
【0063】
ロールレート判定部633は、サスペンション制御部650から供給されるロールレート値又はその絶対値が、所定の値未満であるのか否かを判定する。ロールレート判定部633は、ロールレート値又はその絶対値が、所定の値未満である場合に、判定結果として「1」を出力し、そうでない場合に、判定結果として「0」を出力する。
【0064】
論理積算出部634は、切り戻し判定部631、転舵速判定部632、及び、ロールレート判定部633からの判定結果の論理積をとり、その結果を出力する。換言すれば、論理積算出部634は、切り戻し判定部631、転舵速判定部632、及び、ロールレート判定部633が出力する判定結果がすべて「1」である場合に、「1」を出力し、それ以外の場合に「0」を出力する。
【0065】
移動平均部635は、論理積算出部634の出力の移動平均を算出し、その結果を出力する。なお、移動平均部635として、ローパスフィルタを用いてもよい。
【0066】
ゲイン決定部636は、移動平均部635の出力結果に応じて、ゲイン係数を決定し、決定したゲイン係数を乗算部640に供給する。より具体的には、移動平均部635による移動平均後の値が0より大きい場合、1よりも大きいゲイン係数を決定する。更に言えば、ゲイン決定部636は、移動平均部635による移動平均後の値が大きければ大きいほど、ゲイン係数を大きく設定する。換言すれば、ゲイン決定部は、移動平均部635による移動平均後の値が大きければ大きいほど、操舵部材410に印加される反力が大きくなるように、ゲイン係数を設定する。
【0067】
乗算部640は、補正制御量決定部624が決定した補正制御量に、ゲイン決定部636が決定したゲイン係数を乗算することによってゲイン後の補正制御量を制御量補正部612に供給する。
【0068】
制御量補正部612は、制御量算出部611が算出した制御量に対して、乗算部640から供給されるゲイン後の補正制御量を加えることによって、ステアリング制御量を生成する。換言すれば、制御量補正部612は、制御量算出部611が算出した制御量を、車体200のロールレートと、操舵部材410の舵角と、操舵部材410の舵角速とを参照して補正する。
【0069】
このように、制御量補正部612が、制御量算出部611が算出した制御量を、車体200のロールレートを参照して補正することにより、運転者にとって違和感の少ないアシストトルク又は反力トルクを操舵部材410に印加することができる。また、上記の補正は、操舵部材410の舵角と、操舵部材410の舵角速とを更に参照して行われるので、運転者にとってより違和感の少ないアシストトルク又は反力トルクを操舵部材410に印加することができる。
【0070】
また、上記の構成では、制御量補正部612は、操舵部材410が切り戻し状態にあり、操舵部材410の舵角速又はその絶対値が所定の値以上であり、かつ、サスペンション制御部650から供給されるロールレート値又はその絶対値が所定の値未満である場合に制御量を補正する。
【0071】
操舵部材が切り戻し状態にあり、操舵部材の舵角速又はその絶対値が所定の値以上であり、かつ、ロールレート値又はその絶対値が所定の値未満である場合に、所謂「トルク抜け」という現象が生じやすいことが発明者によって認識されている。
【0072】
ここで、「トルク抜け」が発生する具体的なプロセスを説明すれば以下の通りである。まず、運転者が転舵を行うと、車両900にロールが発生する。ロールが発生すると懸架装置100の備える油圧緩衝装置が収縮する。すると、タイロッドとロアーアームとの位置関係が変化し、その結果としてトー角が変化する。これにより、ラック軸480が、収縮した油圧緩衝装置側に引っ張られる。ゲイン算出部630を有しない構成において、この状態で運転者が操舵部材410の切り戻しを行うと、運転者が想定していたよりも小さい反力トルクしか発生せず、「トルク抜け」の現象が生じ得る。
【0073】
ゲイン算出部630を有する上記の構成によれば、「トルク抜け」の現象を好適に抑制することができるので、運転者にとってより違和感の少ないアシストトルク又は反力トルクを印加することができる。
【0074】
また、上記の構成では、制御量補正部612は、操舵部材410が切り戻し状態にあり、操舵部材410の舵角速又はその絶対値が所定の値以上であり、かつ、サスペンション制御部650から供給されるロールレート値又はその絶対値が所定の値未満である場合に、そうでない場合に比べて、操舵部材410に印加される反力が大きくなるように制御量を補正する。
【0075】
したがって、上記の構成によれば、「トルク抜け」の現象をより好適に抑制することができるので、運転者にとって更に違和感の少ないアシストトルク又は反力トルクを印加することができる。
【0076】
(サスペンション制御部)
続いて、
図5を参照してサスペンション制御部について説明する。
図5はサスペンション制御部650の構成例を示すブロック図である。
【0077】
サスペンション制御部650は、
図5に示すように、CAN入力部660、車両状態推定部670、操縦安定性・乗心地制御部680、及び制御量セレクト部690を備えている。
【0078】
CAN入力部660は、CAN370を介して各種の信号を取得する。
図5に示すように、CAN入力部660は、以下の信号を取得する(括弧書きは取得元を示す)。
【0079】
・4輪の車輪速(車輪速センサ320A〜D)
・ヨーレート(ヨーレートセンサ350)
・前後G(前後Gセンサ340)
・横G(横Gセンサ330)
・ブレーキ圧(ブレーキ圧センサ530)
・エンジントルク(エンジントルクセンサ510)
・エンジン回転数(エンジン回転数センサ520)
・舵角(舵角センサ440)
・操舵トルク(トルクセンサ430)
車両状態推定部670は、CAN入力部660が取得した各種の信号を参照して車両900の状態を推定する。車両状態推定部670は、推定結果として、4輪のバネ上速度、4輪のストローク速度、ピッチレート、ロールレート、転舵時ロールレート、及び、加減速時ピッチレートを出力する。
【0080】
車両状態推定部670は、
図5に示すように、加減速・転舵時補正量算出部671、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673、及び、状態推定用一輪モデル適用部674を備えている。
【0081】
加減速・転舵時補正量算出部671は、ヨーレート、前後G、4輪の車輪速、ブレーキ圧、エンジントルク、及びエンジン回転数を参照して、車体前後速度、内外輪差比、及び調整ゲインの算出を行い、算出結果を状態推定用一輪モデル適用部674に供給する。
【0082】
加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673は、前後G、及び横Gを参照して、転舵時ロールレート、及び加減速時ピッチレートを算出する。算出結果は、状態推定用一輪モデル適用部674に供給される。
【0083】
また、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673は、算出した転舵時ロールレートを、ロールレート値として、ステアリング制御部610に供給する。加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673は、制御量セレクト部690の出力するサスペンション制御量を更に参照する構成としてもよい。加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673の詳細については参照する図面を替えて後述する。
【0084】
このように、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673は、前後G、及び横Gを参照して算出した転舵時ロールレートをロールレート値としてステアリング制御部610に供給し、ステアリング制御部610は、当該ロールレート値を参照して、アシストトルク又は反力トルクの大きさを制御するための制御量を補正するので、ステアリング制御部610はより好適にアシストトルク又は反力トルクの大きさを補正することができる。
【0085】
また、上述のように、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673が、制御量セレクト部690の出力するサスペンション制御量を更に参照する構成とすれば、ステアリング制御部610は更に好適にアシストトルク又は反力トルクの大きさを補正することができる。
【0086】
状態推定用一輪モデル適用部674は、加減速・転舵時補正量算出部671による算出結果を参照して、各輪に対して状態推定用一輪モデルを適用し、4輪のバネ上速度、4輪のストローク速度、ピッチレート、及びロールレートを算出する。算出結果は、操縦安定性・乗心地制御部680に供給される。
【0087】
操縦安定性・乗心地制御部680は、スカイフック制御部681、ロール姿勢制御部682、ピッチ姿勢制御部683、及び、バネ下制御部684を備えている。
【0088】
スカイフック制御部681は、路面の凹凸を乗り越える際の車両の動揺を抑制し、乗り心地を高める乗り心地制御(制振制御)を行う。スカイフック制御部681は、一例として、4輪のバネ上速度、4輪のストローク速度、ピッチレート、及びロールレートを参照して、スカイフック目標制御量を決定し、その結果を制御量セレクト部690に供給する。
【0089】
より具体的な例として、スカイフック制御部681は、バネ上速度に基づいてバネ上−減衰力マップを参照することにより減衰力ベース値を設定する。また、スカイフック制御部681は、設定した減衰力ベース値に対してスカイフックゲインを乗じることによりスカイフック目標減衰力を算出する。そして、スカイフック目標減衰力とストローク速度とに基づいてスカイフック目標制御量を決定する。
【0090】
ロール姿勢制御部682は、転舵時ロールレート、舵角を示す舵角信号、操舵トルクを示す操舵トルク信号、及び4輪の車輪速を示す車輪速信号を参照して各目標制御量を算出することによってロール姿勢制御を行う。算出された各目標制御量は、制御量セレクト部690に供給される。ロール姿勢制御部682の具体的構成については後述する。
【0091】
また、
図5に示す例では、ロール姿勢制御部682が、CAN370から操舵トルク信号を取得する例を示しているが、後述するように、ロール姿勢制御部682は、ステアリング制御部610から操舵トルク信号を取得する構成としてもよい。この構成の場合、ロール姿勢制御部682が、操舵トルク信号を、CAN370を経由して取得する必要がない。そのため、本実施形態の構成によれば、CAN370の伝送負荷を低減することができる。
【0092】
なお、ロール姿勢制御部682は、舵角信号もステアリング制御部610から取得する構成としてもよい。これにより、CAN370の伝送負荷の更なる低減を図ることができる。
【0093】
このように、ロール姿勢制御部682は、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673が算出した転舵時ロールレートを参照してロール姿勢制御を行うので、好適な姿勢制御を行うことができる。また、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673が算出した転舵時ロールレートは、ロール姿勢制御部682によるロール姿勢制御のみならず、上述のように、ステアリング制御部610によるアシストトルク又は反力トルクの大きさの補正にも用いられるので、構成要素の増加を抑制しつつ、好適な姿勢制御と違和感のない操舵感を提供することができる。
【0094】
ピッチ姿勢制御部683は、加減速時ピッチレートを参照してピッチ制御を行い、ピッチ目標制御量を決定し、その結果を制御量セレクト部690に供給する。
【0095】
バネ下制御部684は、4輪の車輪速を参照して、車両900のバネ下の制振制御を行い、バネ下制振制御目標制御量を決定する。決定結果は、制御量セレクト部690に供給される。
【0096】
制御量セレクト部690は、スカイフック目標制御量、舵角比例目標制御量、舵角速度比例目標制御量、ロールレート比例目標制御量、ピッチ目標制御量、及び、バネ下制振制御目標制御量のうち、最も大きい値を有する目標制御量を選択し、サスペンション制御量として出力する。
【0097】
(加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部)
続いて、参照する図面を替えて、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673についてより具体的に説明する。
【0098】
図6は、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673の構成例を示すブロック図である。加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673は、
図6に示すように、減算部731、732、減衰力算出部733、モデル適用部740、増幅部751〜754を備えている。
【0099】
またモデル適用部740は、増幅部741、744、745、加算部742、及び遅延部743を備えている。
【0100】
減算部731は、前後Gを示す信号から増幅部753の出力信号を減算し、減算した結果を増幅部741に出力する。
【0101】
減算部732は、横Gを示す信号から増幅部754の出力信号を減算し、減算した結果を増幅部741に出力する。
【0102】
減衰力算出部733は、サスペンション制御量、及び、増幅部751の出力を参照し、各輪の減衰力を算出する。ここで、増幅部751の出力は、懸架装置100の備える油圧緩衝装置のストローク速度(ダンパ速度)に対する推定値に対応している。また、減衰力算出部733による各輪の減衰力の算出は減衰力マップを参照して行われる。
【0103】
モデル適用部740は、減算部731が出力する減算後の前後G、及び減衰力算出部733が出力する各輪の減衰力に対して、ピッチ挙動モデルを適用することによって、加減速時ピッチレートを算出する。
【0104】
モデル適用部740は、減算部732が出力する減算後の横G、及び減衰力算出部733が出力する各輪の減衰力に対して、ロール挙動モデルを適用することによって、転舵時ロールレートを算出する。
【0105】
モデル適用部740による加減速時ピッチレート及び転舵時ロールレートの算出は、増幅部741、744、745における増幅率、及び、遅延部743による遅延量を調整することによって行われる。
【0106】
増幅部741は、減算部731、減算部732、及び減衰力算出部733の出力を増幅し、加算部742に供給する。加算部742は、増幅部741の出力に、遅延部743の出力を増幅部745によって増幅したものを加算し、遅延部743に供給する。増幅部744は、遅延部743の出力を、加速時ピッチレート、又は、転舵時ロールレートとして出力する。
【0107】
増幅部751は、遅延部743の出力を増幅し、減衰力算出部733に供給する。増幅部752は、遅延部743の出力を増幅する。増幅部751の出力は、増幅部753又は増幅部754によって増幅されたうえで、それぞれ、減算部731又は減算部732に入力される。
【0108】
なお、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673は、車両900の傾きが所定の微小時間変化しなかった場合の転舵時ロールレートの基準値として「0」を出力してもよい。また、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673は、転舵時ロールレートに±0.5程度の不感帯を設けてもよい。ここで、符号は、例えば、車両900の左側を「+」、右側を「−」とする。
【0109】
(ロール姿勢制御部682)
ロール姿勢制御部682は、サスペンションの減衰力を制御するためのサスペンション制御量を、路面判定部による判定結果に応じて算出する。
【0110】
以下では、
図7を参照して、ロール姿勢制御部682の具体的構成について説明する。
図7は、ロール姿勢制御部682の構成例を示すブロック図である。ロール姿勢制御部682は、操舵トルク信号と、舵角信号と、車輪速信号とを参照して、サスペンション制御量の候補となる操舵由来目標制御量を算出する。ここで、ロール姿勢制御部682が算出する操舵由来目標制御量は、制御量セレクト部690によって選択された場合、サスペンション制御量となる。したがって、ロール姿勢制御部682は、サスペンション制御量を算出すると表現することもできる。
【0111】
図7に示すように、ロール姿勢制御部682は、ロールレート比例目標制御量算出部80、第1の目標制御量算出部81、第2の目標制御量算出部82、選択部83、路面判定部(路面判定装置)84、及び乗算部85を備えている。
【0112】
ロールレート比例目標制御量算出部80は、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673から供給される転舵時ロールレートを参照してロールレート比例目標制御量を算出する。
【0113】
第1の目標制御量算出部81は、操舵トルク信号を参照して第1の目標制御量を算出する。具体的には、第1の目標制御量算出部81は、操舵トルク信号を参照して、車両900のロールを抑え、車両900の姿勢がよりフラットに近づくような第1の目標制御量を算出する。例えば、操舵部材410がある転舵方向に転舵され、車両900が当該転舵方向に向かうカーブに沿って進行する場合、当該カーブの外側(すなわち転舵方向とは反対側)のサスペンションの減衰力が大きくなるように第1の目標制御量を算出する。換言すれば、転舵方向とは反対側のサスペンションが硬くなるような第1の目標制御量を算出する。更に言えば、カーブの外側のサスペンションの減衰力を大きくしたうえで、カーブの内側のサスペンションの減衰力も大きくするような第1の目標制御量を算出してもよい。
【0114】
第1の目標制御量算出部81は、
図7に示すように、トルク参照目標制御量算出部811、トルク速参照目標制御量算出部812、及び、第1の目標制御量選択部813を備えている。
【0115】
トルク参照目標制御量算出部811は、操舵トルク信号の示すトルクを参照してトルク参照目標制御量を算出する。トルク速参照目標制御量算出部812は、操舵トルク信号の示すトルクの時間変化を参照することによってトルク速を算出し、算出したトルク速を参照してトルク速参照目標制御量を算出する。
【0116】
第1の目標制御量選択部813は、トルク参照目標制御量とトルク速参照目標制御量とのうち、より高い値を有する目標制御量を、トルク由来の目標制御量(第1の目標制御量)として選択する。
【0117】
第2の目標制御量算出部82は、舵角信号を参照して第2の目標制御量を算出する。具体的には、第2の目標制御量算出部82は、舵角信号を参照して、車両900のロールを抑え、車両900の姿勢がよりフラットに近づくような第2の目標制御量を算出する。例えば、操舵部材410がある転舵方向に転舵され、車両900が当該転舵方向に向かうカーブに沿って進行する場合、当該カーブの外側(すなわち転舵方向とは反対側)のサスペンションの減衰力が大きくなるように第2の目標制御量を算出する。換言すれば、転舵方向とは反対側のサスペンションが硬くなるような第2の目標制御量を算出する。更に言えば、カーブの外側のサスペンションの減衰力を大きくしたうえで、カーブの内側のサスペンションの減衰力も大きくするような第2の目標制御量を算出してもよい。
【0118】
第2の目標制御量算出部82は、
図7に示すように、舵角参照目標制御量算出部821、舵角速参照目標制御量算出部822、及び、第2の目標制御量選択部823を備えている。
【0119】
舵角参照目標制御量算出部821は、舵角信号の示す舵角を参照して舵角参照目標制御量を算出する。舵角速参照目標制御量算出部822は、舵角信号の示す舵角の時間変化を参照することによって舵角速を算出し、算出した舵角速を参照して舵角速参照目標制御量を算出する。
【0120】
第2の目標制御量算出部82は、舵角参照目標制御量と舵角速参照目標制御量とのうち、より高い値を有する目標制御量を、舵角由来の目標制御量(第2の目標制御量)として選択する。
【0121】
路面判定部84は、車輪速信号を参照して、路面状況の判定を行い、判定結果を示す係数を乗算部85に供給する。路面判定部84の具体的な構成例については後述する。
【0122】
乗算部85は、第1の目標制御量算出部81によって算出された第1の目標制御量に対して、路面判定部84から供給された係数を乗算し、係数乗算後の第1の目標制御量を選択部83に供給する。
【0123】
選択部83は、係数乗算後の第1の目標制御量、第2の目標制御量、及びロールレート比例目標制御量のうち、より高い値を有する目標制御量を操舵由来目標制御量として選択し、出力する。
【0124】
以上のように、ロール姿勢制御部682は、サスペンション制御量の候補となる操舵由来目標制御量を、路面判定部による判定結果に応じて算出するので、サスペンションの減衰力の制御を路面状況に応じて適切に行うことができる。
【0125】
また、ロール姿勢制御部682は、第1の目標制御量を算出する第1の目標制御量算出部と、路面判定部84による判定結果に応じた係数を、第1の目標制御量の値に乗算する乗算部と、係数乗算後の第1の目標制御量を含む複数の候補からサスペンション制御量の候補である操舵由来目標制御量を選択する選択部83を備えているので、路面判定部による判定結果に応じて、目標制御量を好適に設定することができる。
【0126】
また、第1の目標制御量は、操舵部材410に対して印加される操舵トルクを表す操舵トルク信号を参照して算出され、前記路面判定の結果を示す係数は、当該第1の目標制御量に乗算される。したがって、路面状況に応じて、トルク由来の目標制御量である第1の目標制御量に1よりも小さな係数を乗算し、トルク由来の目標制御量がサスペンション制御量として選ばれにくくするといった制御が可能になる。
【0127】
(路面判定部)
続いて、
図8を参照して、路面判定部84についてより具体的に説明する。路面判定部84は、路面判定を行うための参照信号を参照して、路面状況を判定し、その判定結果を表す係数を出力する構成である。
【0128】
本実施形態では、上記参照信号として4輪の車輪速を示す車輪速信号を参照する構成について説明する。一般に、路面に凹凸が存在する場合、路面の凸部によってタイヤ310の半径が小さくなったり、路面の凹部によってタイヤ310の半径が大きくなったりする。このようにタイヤ310の半径が変動すると、それに応じて車輪速が変動する。したがって、車輪速信号は、路面状況を判定するために好適な信号であると言える。
【0129】
なお、車輪速信号以外の参照信号を参照する構成については実施形態3にて説明する。
【0130】
図8は、路面判定部84の構成例を示すブロック図である。
図8に示すように、路面判定部84は、ハイパスフィルタ(HPF)840、バンドストップフィルタ(BPF)841、絶対値算出部842、ローパスフィルタ(LPF)844、及び係数決定部846を備えている。
図8に示すようにハイパスフィルタ840には車輪速信号が入力され、ローパスフィルタ844はハイパスフィルタ840の後段に配置されている。
【0131】
なお、ハイパスフィルタ840及びバンドストップフィルタ841の順序は
図8に示すものとは逆であってもよい。その場合であっても、ローパスフィルタ844はハイパスフィルタ840及びバンドストップフィルタ841の後段に配置される。
【0132】
ハイパスフィルタ840は、車輪速信号に作用し、当該車輪速信号から第1のカッオフ周波数以下の周波数成分を除去又は逓減することによって路面状況由来の車輪速変動を抽出する。ここで、ハイパスフィルタ840が除去又は逓減する周波数成分には、操舵由来の車輪速変動等が含まれる。なお、ハイパスフィルタ840における第1のカットオフ周波数、及び第1の次数は、自由に設定することができ、実験値により好適な値を設定することができる。
【0133】
(バンドストップフィルタ841)
バンドストップフィルタ841がハイパスフィルタ840の下流に配置される場合、バンドストップフィルタ841は、ハイパスフィルタ840が作用した後の車輪速信号に作用する。バンドストップフィルタ841がハイパスフィルタ840の上流に配置される場合、バンドストップフィルタ841は、ハイパスフィルタ840が作用する前の車輪速信号に作用する。
【0134】
何れの場合であっても、バンドストップフィルタ841は、自身に入力される処理対象信号のうち、遮断周波数帯に含まれる周波数における信号を低減又は遮断し、それ以外の周波数帯における信号は変化させない。ここで、遮断周波数帯は、中心周波数及び帯域幅によって指定される。
【0135】
また、本実施形態に係るバンドストップフィルタ841には、遮断周波数帯を決定するための信号としても車両速信号が入力され、バンドストップフィルタ841は、当該車輪速信号に応じて遮断周波数帯を変更可能に構成されている。具体的には、バンドストップフィルタ841は、車輪速信号の示す車速に応じて遮断周波数帯の中心周波数を変更可能に構成されている。一例として、車輪速信号の示す車速をv(メートル/秒)、タイヤの直径をd(メートル)と表した場合、バンドストップフィルタ841は、遮断周波数帯の中心周波数Fc(Hz)を
Fc=v/(π×d)
に設定する。なお、バンドストップフィルタ841は、車輪速信号に応じて、遮断周波数帯の帯域幅を更に変更する構成としてもよい。
【0136】
このようにバンドストップフィルタ841が車輪速信号に応じた遮断周波数帯を有することによって、路面判定部84は、車輪速信号からタイヤ310の偏心に起因した車輪速変動の寄与を除去したうえで、路面状況の判定を行うことができる。したがって、路面判定を適切に行うことができる。
【0137】
絶対値算出部842は、ハイパスフィルタ840の出力信号の絶対値を算出し、ローパスフィルタ844に提供する。
【0138】
ローパスフィルタ844は、絶対値算出部842の出力から第2のカットオフ周波数以上の周波数成分を除去又は逓減することによって、車輪速の変動を示す信号を生成し出力する。換言すれば、ローパスフィルタ844は、車輪速の変動を、路面状況の指標となるある種のエネルギーとして算出する。ローパスフィルタ844における第2のカットオフ周波数、及び第2の次数は、自由に設定することができ、実験値により好適な値を設定することができる。
【0139】
係数決定部846は、ローパスフィルタ844の出力値に応じた係数を出力する。例えば、係数決定部846は、ローパスフィルタ844の出力値が所定の閾値以上である場合に出力する係数を、ローパスフィルタ844の出力値が所定の閾値未満である場合に出力する係数より小さく設定する。
【0140】
より具体的な例として、係数決定部846は、ローパスフィルタ844の出力値が所定の閾値以上であれば、係数として0を出力し、ローパスフィルタ844の出力値が所定の閾値未満であれば、係数として1を出力する。ローパスフィルタ844の出力値が所定の閾値以上である状況は、路面が悪路である場合に相当し、ローパスフィルタ844の出力値が所定の閾値未満である状況は、路面が悪路ではない場合に相当する。このように、係数決定部846は、路面状況に応じた値を有する係数を出力する。
【0141】
上記のように構成された路面判定部84によれば、ハイパスフィルタ840によって路面状況由来の車輪速変動を抽出し、バンドストップフィルタ841によってタイヤ310の偏心に起因した車輪速変動の寄与を除去し、ローパスフィルタ844によって車輪速変動を示す信号を出力し、第1の目標制御量に乗算する係数の値を、ローパスフィルタ844が出力した信号に応じて係数決定部が決定する。
【0142】
上記の構成によれば、車輪速信号を参照した路面状況判定結果に応じて、係数の値を好適に決定することができる。また、バンドストップフィルタ841によってタイヤ310の偏心に起因した車輪速変動の寄与を除去するのでより精度の高い判定を行うことができる。
【0143】
また、上述のように、係数決定部846は、ローパスフィルタ844の出力値が所定の閾値以上である場合に出力する係数を、ローパスフィルタ844の出力値が所定の閾値未満である場合に出力する係数より小さく設定する。
【0144】
一般に、路面状態によっては、トルク由来の目標制御量を出力せずに、舵角由来の目標制御量を出力することにより、より快適な乗り心地を実現できる場合がある。係数決定部846が上記のような構成をとることによって、路面状態に応じて、トルク由来の目標制御量よりも舵角由来の目標制御量を優先的に出力することができるので、より快適な乗り心地を実現することができる。
【0145】
図9は、ステアリング制御部610及びサスペンション制御部650を含むステアリングサスペンション制御装置によって行われるステアリングサスペンション協働制御に含まれる各種の処理の流れを示す処理フロー図である。
【0146】
図9に示す処理群S610は、ステアリング制御部610によって行われるステアリング制御処理であり、処理群S650は、サスペンション制御部650によって行われるサスペンション制御処理である。なお、以下に説明する各処理は、ステアリング制御部610及びサスペンション制御部650によって実行される各種の工程を示すものでもある。
【0147】
なお、
図9において、各種信号のやり取りを伴う各処理同士の関連性を実線の矢印で表し、それ以外の関連性を破線の矢印で表す。
【0148】
まず、
図9に示すように、運転者の操舵により操舵トルクが発生する。
【0149】
(ステップS609)
ステップS609において、操舵情報の一例としての操舵トルクを示す操舵トルク信号に対して信号処理が行われる。当該信号処理は、操舵トルク信号に対する位相補償処理を含んでいてもよい。本ステップは、例えば、上述した信号処理部609によって行われる。
【0150】
(ステップS611)
続いて、ステップS611において、信号処理後の操舵トルク信号を参照したベース制御量決定処理が行われる。本ステップは、例えば、上述した制御量算出部611が制御量(ベース制御量)を算出することによって行われる。
【0151】
(ステップS630)
一方で、ステップS630では、車両状態情報の一例としてのロールレート値を参照したロールレート応動制御処理が行われる。本ステップは、例えば、ωフィードバック部620、ゲイン算出部630、及び乗算部640によって行われ、上述したゲイン後の補正制御量が算出される。
【0152】
なお、本ステップで参照するロールレート値は後述するロールレート算出処理(ステップS673)にて算出される。
【0153】
(ステップ612)
続いて、ステップS612において、モータ出力決定処理が行われる。本ステップでは、ベース制御量決定処理によって算出したベース制御量と、ロールレート応動制御処理によって算出したゲイン後の補正制御量とを参照してモータ出力を規定するステアリング制御量を決定する。本ステップは、例えば、上述した制御量補正部612によって行われる。
【0154】
(ステップ682)
一方で、ステップS682では、S609において信号処理された操舵トルクを参照した操舵トルク応動制御処理が行われ、操舵トルクに関連した目標制御量が算出される。本ステップは、例えば、上述したロール姿勢制御部682によって行われる。なお、本ステップは、S609において信号処理する前の操舵トルクを参照してもよい。
【0155】
(ステップS671)
また、ステップS671では、車輪速を参照した、路面入力に対する制御処理が行われ、車輪速に関連した目標制御量が算出される。本ステップは、例えば、上述した加減速・転舵時補正量算出部671、状態推定用一輪モデル適用部674、及びスカイフック制御部681によって行われる。
【0156】
(ステップS673)
また、ステップS673では、横Gを参照したロールレート算出処理が行われ、ロールレート値、及び、横Gに関連した目標制御量が算出される。本ステップで算出されたロールレート値は、上述したロールレート応動制御処理(S630)にて参照される。本ステップは、例えば、上述した加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673によって行われる。
【0157】
(ステップS690)
ステップS690では、ステップS682、S671、及びS673にて算出された各目標制御量のうち、最も高い値を有する目標制御量を、サスペンションの減衰力を規定するサスペンション制御量として出力する。本ステップは、例えば、制御量セレクト部690によって行われる。
【0158】
図9に示すように、ステアリングサスペンション協働制御では、ステアリング制御処理S610にて参照される操舵トルクがサスペンション制御処理S650にて参照され、サスペンション制御処理S650にて算出された車両状態としてのロールレート値がステアリング制御処理S610にて参照されるので、以下に示すように、運転者の反応を含む少なくとも2つのフィードバックループが存在する。
【0159】
(第1のループ)
ドライバの操舵→操舵トルク→操舵トルク応動制御処理(S682)→減衰力発生→車両挙動→ドライバの操舵
(第2のループ)
ドライバの操舵→車両挙動→ロールレート算出処理(S673)→ロールレート値→ロールレート応動制御処理(S630)→モータ出力決定処理(S612)→アシストトルク(又は反力トルク)発生→操舵トルク→ドライバの操舵
上記説明した構成により、運転者にとって違和感の少ないアシストトルク(又は反力トルク)及びサスペンションの減衰力を提供することができるので、高い乗り心地を実現することができる。
【0160】
〔実施形態2〕
実施形態1及び2では、路面判定部84が、路面判定を行うための参照信号として、4輪の車輪速を示す車輪速信号を参照する構成について説明したが、本明細書の記載の発明はこれに限られない。以下では、路面判定部84が車輪速信号以外の参照信号を参照する場合について説明する。
【0161】
なお、路面判定部84が以下の参照信号を参照する場合、ハイパスフィルタ840及びローパスフィルタ844におけるカットオフ周波数等のパラメータを参照信号に応じた好適な値としておけばよい。
【0162】
また、路面判定部84は、ハイパスフィルタ840及びローパスフィルタ844を含む信号処理経路を複数備える構成とし、上述した車輪速信号及び以下に示す種々の参照信号のうち、複数の信号を参照して路面判定を行う構成としてもよい。このような構成とすれば路面判定の精度を向上させることができる。
【0163】
(例1)舵角信号
路面判定部84は、操舵部材410の舵角を示す舵角信号を参照して路面状態を判定してもよい。一般に、路面に凹凸が存在する場合、当該凹凸に起因して舵角が変動する。したがって、舵角信号は、路面状況を判定するために好適な信号であると言える。
【0164】
(例2)操舵トルク
路面判定部84は、操舵部材410に印加される操舵トルクを示す操舵トルク信号を参照して路面状態を判定してもよい。一般に、路面に凹凸が存在する場合、当該凹凸に起因して操舵トルクが変動する。したがって、操舵トルク信号は、路面状況を判定するために好適な信号であると言える。
【0165】
(例3)ステアリングアシストモータのモータ回転
路面判定部84は、トルク印加部460が備えているモータ(ステアリングアシストモータ)のモータ回転を参照して路面状態を判定してもよい。路面に凹凸が存在する場合、当該凹凸に起因してステアリングアシストモータのモータ回転数も変動する。したがって、ステアリングアシストモータのモータ回転数は、路面状況を判定するために好適な信号であると言える。
【0166】
(例4)ヨーレート信号
路面判定部84は、車両900のヨーレートを示すヨーレート信号を参照して路面状態を判定してもよい。路面に凹凸が存在する場合、当該凹凸に直接的に起因して、又は操舵トルク等を介して間接的に起因して車両900のヨーレートも変動する。したがって、ヨーレート信号は、路面状況を判定するために好適な信号であると言える。
【0167】
(例5)横G信号、前後G信号
路面判定部84は、車両900の横方向の加速度を示す横G信号、及び車両900の前後方向の加速度を示す前後G信号の少なくとも何れかを参照して路面状態を判定してもよい。路面に凹凸が存在する場合、当該凹凸に直接的に起因して、又は操舵トルク等を介して間接的に起因して、車両900の横方向の加速度や前後方向の加速度が変動する。したがって、横G信号及び前後G信号は、路面状況を判定するために好適な信号であると言える。
【0168】
(例6)上下G信号
車両900が、車両900の上下方向の加速度を検出する上下Gセンサを備える構成とし、路面判定部84が、当該上下方向の加速度を示す上下G信号を参照して路面状態を判定する構成としてもよい。
【0169】
路面に凹凸が存在する場合、当該凹凸に起因して、車両900の上下方向の加速度が変動する。したがって、上下G信号は、路面状況を判定するために好適な信号であると言える。
【0170】
(例7)ピッチレート
路面判定部84は、車両状態推定部670が算出したピッチレート、及び加減速・転舵時補正量算出部671が算出したピッチレートである加減速時ピッチレートの少なくとも何れかを参照して路面状態を判定してもよい。路面に凹凸が存在する場合、当該凹凸に直接的に起因して、又は操舵トルク等を介して間接的に起因してピッチレートが変動する。したがって、ピッチレートは路面状況を判定するために好適な信号であると言える。
【0171】
〔ソフトウェアによる実現例〕
ECU600の制御ブロック(ステアリング制御部610、サスペンション制御部650)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0172】
後者の場合、ECU600は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するCPU、上記プログラムおよび各種データがコンピュータ(またはCPU)で読み取り可能に記録されたROM(Read Only Memory)または記憶装置(これらを「記録媒体」と称する)、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを備えている。そして、コンピュータ(またはCPU)が上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0173】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。