(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-162242(P2018-162242A)
(43)【公開日】2018年10月18日
(54)【発明の名称】匍匐害虫防除用エアゾール剤、及びこれを用いた匍匐害虫防除方法
(51)【国際特許分類】
A01N 25/06 20060101AFI20180921BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20180921BHJP
A01N 53/06 20060101ALI20180921BHJP
A01N 53/08 20060101ALI20180921BHJP
A01N 53/04 20060101ALI20180921BHJP
A01M 7/00 20060101ALI20180921BHJP
【FI】
A01N25/06
A01P7/04
A01N53/06 110
A01N53/08 125
A01N53/06 150
A01N53/04 510
A01M7/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-209701(P2017-209701)
(22)【出願日】2017年10月30日
(31)【優先権主張番号】特願2017-60360(P2017-60360)
(32)【優先日】2017年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原田 悠耶
(72)【発明者】
【氏名】菊田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】川尻 由美
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA16
2B121CB07
2B121CC02
2B121CC25
2B121CC31
2B121EA03
2B121EA05
2B121EA22
4H011AC01
4H011BA01
4H011BA06
4H011BB15
4H011BC01
4H011BC06
4H011DA21
4H011DB05
4H011DE16
4H011DF04
4H011DG08
(57)【要約】
【課題】トランスフルトリンと難揮散性ピレスロイド化合物を併用し、その含有比率に応じ必要ならば特定の化合物を添加することによって、匍匐害虫のなかでも特に多足類やハサミムシ類に対して効率的な防除を実現可能な匍匐害虫防除用エアゾール剤、及びこれを用いた匍匐害虫防除方法の提供。
【課題の解決手段】エアゾール原液と噴射剤とからなる匍匐害虫防除用エアゾール剤であって、前記エアゾール原液は、エアゾール原液量に対して、(a)トランスフルトリンを0.01〜2.0w/v%、並びに(b)難揮散性ピレスロイド系化合物を0.05〜5.0w/v%含む害虫防除成分と、(c)常温液状で沸点が180℃以上である高級脂肪酸エステルを10w/v%以下と、(d)飽和炭化水素系溶剤とを含有し、
前記エアゾール原液が30〜70v/v%と、前記噴射剤が70〜30v/v%とからなる匍匐害虫防除用エアゾール剤、及びこれを用いた匍匐害虫防除方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアゾール原液と噴射剤とからなる匍匐害虫防除用エアゾール剤であって、
前記エアゾール原液は、エアゾール原液量に対して、(a)トランスフルトリンを0.01〜2.0w/v%、並びに(b)難揮散性ピレスロイド系化合物を0.05〜5.0w/v%含む害虫防除成分と、(c)常温液状で沸点が180℃以上である高級脂肪酸エステルを10w/v以下%と、(d)飽和炭化水素系溶剤とを含有し、
前記エアゾール原液が30〜70v/v%と、前記噴射剤が70〜30v/v%とからなる匍匐害虫防除用エアゾール剤。
【請求項2】
前記(b)難揮散性ピレスロイド系化合物は、シフルトリン、ビフェントリン及びフタルスリンから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の匍匐害虫防除用エアゾール剤。
【請求項3】
前記(b)難揮散性ピレスロイド系化合物は、シフルトリン及びフタルスリンである請求項2に記載の匍匐害虫防除用エアゾール剤。
【請求項4】
前記(a)成分の前記(b)成分に対する含量比[(a)/(b)]は、1.0〜10倍量であって、かつ、前記(c)成分の前記(a)成分に対する含量比[(c)/(a)]は、5.0倍量以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の匍匐害虫防除用エアゾール剤。
【請求項5】
前記(a)成分の前記(b)成分に対する含量比[(a)/(b)]は、0.1〜1.0倍量であって、かつ、前記(c)成分の前記(a)成分に対する含量比[(c)/(a)]は、1.0〜100倍量である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の匍匐害虫防除用エアゾール剤。
【請求項6】
前記(c)成分は、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸メチル、ラウリン酸ヘキシル、及びパルミチン酸イソプロピルから選ばれる少なくとも1種である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の匍匐害虫防除用エアゾール剤。
【請求項7】
前記(c)成分は、ミリスチン酸イソプロピルである請求項6に記載の匍匐害虫防除用エアゾール剤。
【請求項8】
前記匍匐害虫は、多足類及び/又はハサミムシ類である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の匍匐害虫防除用エアゾール剤。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の匍匐害虫防除用エアゾール剤を施用して匍匐害虫の行動を停止せしめ、その防除効率を増強させる匍匐害虫防除方法。
【請求項10】
前記匍匐害虫は、多足類及び/又はハサミムシ類である請求項9に記載の匍匐害虫防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匍匐害虫、特に多足類やハサミムシ類を対象にした匍匐害虫防除用エアゾール剤、及びこれを用いた匍匐害虫防除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、都市郊外の農地や山林等の宅地化開発が進むなかで、ムカデ、ヤスデ等の多足類害虫やハサミムシ類、アリ類等の不快害虫が住宅地の近隣に出没することが多くなり、また、ファミリーキャンプ等の郊外型レジャーが普及し、野外での活動が日常化したことに伴い、これらの不快害虫と遭遇する機会が増えている。ムカデは落葉の下や朽木の中、石垣の隙間等に潜み、昆虫を常食としているが、夏場、山林に近い民家等では、ゴキブリなどを捕食するためにムカデがしばしば家屋内に侵入する。そして、靴の中や寝具に潜んでいたムカデによって咬害の被害が発生するので、非常に厄介な虫として認識されている。ヤスデやハサミムシ類についても家屋内に侵入して問題となるケースが報告されている。
【0003】
従来より、ムカデ等の多足類害虫の駆除方法として様々な提案がなされている。例えば、特開2016−155774号公報(特許文献1)は、難揮散性のピレスロイド系化合物から選ばれる害虫防除成分と飽和炭化水素系溶剤を含むエアゾール原液と噴射剤とからなるエアゾール剤につき、これに装着される噴射用ボタンと噴射用ノズルを最適に設計することによって、多足類害虫を直撃噴射で速効的に殺虫駆除できるとともに、家屋内への害虫の侵入に対しても優れた侵入阻止効果を示し得ることを開示している。
【0004】
一方、前記特許文献1とは別のアプローチとして、害虫防除成分の種類の選択、組合わせを詳細に検討することも重要である。例えば、特開2014−152132号公報(特許文献2)には、エアゾール原液中にトランスフルトリン0.3w/v%とシフルトリン0.5w/v%含有するエアゾール剤が、20cm離れた距離からの噴射力が20〜50gf/25℃で、かつ積算体積90%の粒子径が60〜150μm/25℃の範囲で、鱗翔目飛翔害虫に対して優れた速効性を示したことが記載されている。しかしながら、トランスフルトリンとシフルトリンの混合物の害虫に対する作用効果は、対象害虫の種類毎に検証することを不可欠とし、特許文献2の知見が直ちに多足類やハサミムシ類に対して適用できるわけではない。
【0005】
そこで、本発明者らは、トランスフルトリンとシフルトリン等との含有比率に基づく相乗効果について鋭意検討し、(a)トランスフルトリンと、(b)シフルトリン及び/又はビフェントリンとを、(a)/(b)の質量比として1/1〜10/1の割合で含有する害虫防除成分と、飽和炭化水素系溶剤を含むエアゾール原液と、噴射剤とからなる不快害虫防除用エアゾール剤が、不快害虫のなかでも特に多足類及び/又はハサミムシ類に対して速効的かつ相乗的な殺虫駆除効果を奏することを見出し、先に特許を出願した(特願2017−060360)。
その後、本発明者らは更に検討を続けた結果、先の出願特許とは逆に、(a)トランスフルトリンの含有量が(b)シフルトリンやビフェントリン等の難揮散性ピレスロイドの含有量より小さい場合においても、特に多足類やハサミムシ類のような匍匐害虫に対しては、速効性の一つの指標であるノックダウン効果の前段階として行動を停止させる作用が際立つようになり、しかもこの行動停止効果が特定の化合物を添加することによって相乗的に増強することを認め、結果として先の出願特許と同様、これら害虫の効率的な防除を実現できることを知見して本発明を達成するに至ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−155774号公報
【特許文献2】特開2014−152132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、トランスフルトリンと難揮散性ピレスロイド化合物を併用し、その含有比率に応じ必要ならば特定の化合物を添加することによって、匍匐害虫のなかでも特に多足類やハサミムシ類に対して効率的な防除を実現可能な匍匐害虫防除用エアゾール剤、及びこれを用いた匍匐害虫防除方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出し、本発明の完成に至ったものである。
(1)エアゾール原液と噴射剤とからなる匍匐害虫防除用エアゾール剤であって、
前記エアゾール原液は、エアゾール原液量に対して、(a)トランスフルトリンを0.01〜2.0w/v%、並びに(b)難揮散性ピレスロイド系化合物を0.05〜5.0w/v%含む害虫防除成分と、(c)常温液状で沸点が180℃以上である高級脂肪酸エステルを10w/v%以下と、(d)飽和炭化水素系溶剤とを含有し、
前記エアゾール原液が30〜70v/v%と、前記噴射剤が70〜30v/v%とからなる匍匐害虫防除用エアゾール剤。
(2)前記(b)難揮散性ピレスロイド系化合物は、シフルトリン、ビフェントリン及びフタルスリンから選ばれる少なくとも1種である(1)に記載の匍匐害虫防除用エアゾール剤。
(3)前記(b)難揮散性ピレスロイド系化合物は、シフルトリン及びフタルスリンである(2)に記載の匍匐害虫防除用エアゾール剤。
(4)前記(a)成分の前記(b)成分に対する含量比[(a)/(b)]は、1.0〜10倍量であって、かつ、前記(c)成分の前記(a)成分に対する含量比[(c)/(a)]は、5.0倍量以下である(1)ないし(3)のいずれか1に記載の匍匐害虫防除用エアゾール剤。
(5)前記(a)成分の前記(b)成分に対する含量比[(a)/(b)]は、0.1〜1.0倍量であって、かつ、前記(c)成分の前記(a)成分に対する含量比[(c)/(a)]は、1.0〜100倍量である(1)ないし(4)のいずれか1に記載の匍匐害虫防除用エアゾール剤。
(6)前記(c)成分は、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸メチル、ラウリン酸ヘキシル、及びパルミチン酸イソプロピルから選ばれる少なくとも1種である(1)ないし(5)のいずれか1に記載の匍匐害虫防除用エアゾール剤。
(7)前記(c)成分は、ミリスチン酸イソプロピルである(6)に記載の匍匐害虫防除用エアゾール剤。
(8)前記匍匐害虫は、多足類及び/又はハサミムシ類である(1)ないし(7)のいずれか1に記載の匍匐害虫防除用エアゾール剤。
(9)(1)ないし(8)のいずれか1に記載の匍匐害虫防除用エアゾール剤を施用して匍匐害虫の行動を停止せしめ、その防除効率を増強させる匍匐害虫防除方法。
(10)前記匍匐害虫は、多足類及び/又はハサミムシ類である(9)に記載の匍匐害虫防除方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の匍匐害虫防除用エアゾール剤は、トランスフルトリンと難揮散性ピレスロイド化合物を併用し、その含有比率に応じ必要ならば特定の高級脂肪酸エステル化合物を添加することによって、匍匐害虫のなかでも特に多足類やハサミムシ類に対して効率的な防除を実現可能なので、その実用性は極めて高い。また、これを用いた匍匐害虫防除方法も有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の匍匐害虫防除用エアゾール剤は、エアゾール原液と噴射剤とからなり、前記エアゾール原液は、害虫防除成分として、エアゾール原液量に対して(a)トランスフルトリンを0.01〜2.0w/v%、並びに(b)難揮散性ピレスロイド系化合物を0.05〜5.0w/v%含有する。
(a)トランスフルトリンは常温揮散性ピレスロイドに該当し、そのエアゾール噴霧液が害虫に対して直接的なノックダウン効果や殺虫効果を奏することに加え、噴射後、処理表面から揮散して処理面周囲に害虫防除空間を形成し得るという効果を期待できる。更に、今般、匍匐害虫のなかでも特に多足類やハサミムシ類に対し、ノックダウン効果を発現する前段階としてその行動を停止せしめる作用を惹起し多足類やハサミムシ類の効率的な防除に寄与しうることが明らかとなった。
(a)トランスフルトリンの含有量は、エアゾール原液量に対して0.01〜2.0w/v%の範囲が適当である。0.01w/v%未満であると防除効果が不足するし、一方、2.0w/v%を超えて配合しても含有量に相応する防除効果は得られない。
【0011】
本特許において(b)難揮散性ピレスロイド系化合物とは、25℃における蒸気圧が1×10
−5mmHg未満の化合物を指し、具体的にはシフルトリン、ビフェントリン、フタルスリン、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、シペルメトリン、トラロメトリン、レスメトリン、イミプロトリン、モンフルオロトリン及びエトフェンプロックス等があげられる。
(b)難揮散性ピレスロイド系化合物は、(a)トランスフルトリンと同様、そのエアゾール噴霧液が害虫に対して直接的なノックダウン効果や殺虫効果を示すほか、残留噴霧処理を施用することによって長期間にわたり害虫侵入防止効果を付与することも可能である。これらのなかでは、シフルトリン、ビフェントリン及びフタルスリンから選ばれる少なくとも一種であるのが好ましく、なかんずく、総合的にみてシフルトリン及びフタルスリンの併用が好ましい。
【0012】
(b)難揮散性ピレスロイド系化合物の含有量は、エアゾール原液量に対して0.05〜5.0w/v%の範囲が適当である。0.05w/v%未満であると防除効果が不足するし、一方、5.0w/v%を超えて配合しても防除効果が含有量に相応して向上するわけではない。
なお、(a)成分や(b)成分のようなピレスロイド系化合物の酸部分やアルコール部分において、不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在する場合、これらの各々や任意の混合物も本発明に包合されることは勿論である。
【0013】
ある種の害虫に対する防除効果を向上させる目的で、常温揮散性ピレスロイド系化合物と難揮散性ピレスロイド系化合物を組合わせる試みはこれまで行われており、例えば、特開2014−152132号公報(特許文献2)には、エアゾール原液中にトランスフルトリン0.3w/v%とシフルトリン0.5w/v%含有するエアゾール剤が、20cm離れた距離からの噴射力が20〜50gf/25℃で、かつ積算体積90%の粒子径が60〜150μm/25℃の範囲で、鱗翔目飛翔害虫に対して優れた速効性を示したことが記載されている。しかしながら、トランスフルトリンとシフルトリンの混合物の害虫に対する作用効果は、対象害虫の種類毎に検証することを不可欠とし、特許文献2の知見が直ちに多足類やハサミムシ類のような匍匐害虫に対して適用できるわけではない。
【0014】
そこで、本発明者らは、トランスフルトリンとシフルトリン等との含量比に基づく相乗効果について鋭意検討し、先の出願特許(特願2017−060360)に記載のとおり、(a)トランスフルトリンと、(b)シフルトリン及び/又はビフェントリンとを、(a)/(b)の質量比として1/1〜10/1の割合で含有する害虫防除成分と、飽和炭化水素系溶剤を含むエアゾール原液と、噴射剤とからなる不快害虫防除用エアゾール剤が、不快害虫のなかでも特に多足類及び/又はハサミムシ類に対して速効的かつ相乗的な殺虫駆除効果を奏することを見出した。
【0015】
その後、本発明者らは更に検討を続けた結果、先の出願特許とは逆に、(a)トランスフルトリンの含有量が(b)シフルトリンやビフェントリン等の難揮散性ピレスロイドの含有量より小さい場合においても、特に多足類やハサミムシ類のような匍匐害虫に対しては、噴射後ノックダウンに至るまでの移動距離が短くなるという、行動停止作用が際立つようになった。しかも、この行動停止効果は、後記する特定の化合物を添加することによって相乗的に増強することを認め、結果として先の出願特許と同様、これら害虫の効率的な防除を実現できることを知見して本発明を達成するに至ったのである。
【0016】
前記行動停止作用の明確なメカニズムは不明であるが、本件の場合、トランスフルトリンの速効性とシフルトリン等の難揮散性ピレスロイドの遅効性作用が何らかの形で相互に関与して発現したものと推察される。従って、行動停止作用は、速効性の一指標であるノックダウン効果に至る前段階の事象として通常観察されるものの、両者は必ずしも相関するものではないと言える。
ここで、先に出願した特許(特願2017−060360)の内容を踏まえて考察するに、(a)トランスフルトリンと(b)シフルトリン及び/又はビフェントリンの含量比[(a)/(b)]が1.0〜10倍量であれば、多足類やハサミムシ類に対して速効的なノックダウン効果が殺虫駆除効果に寄与するのに対し、他方、[(a)/(b)]の含量比が1.0倍量より小さい場合、これらの害虫に対し、ノックダウン効果が発現する前段階としての行動停止作用が際立つようになり、効率的な防除を実現させ得るものと推察される。
【0017】
本発明では、発明の趣旨に支障を来たさない限りにおいて、(a)トランスフルトリン以外の常温揮散性ピレスロイド、例えば、メトフルトリン、プロフルトリン、エムペントリンや、(b)難揮散性ピレスロイド系化合物以外の害虫防除成分を適宜配合しても構わない。かかる害虫防除成分としては、例えば、シラフルオフェン等のケイ素系化合物、ジクロルボス、フェニトロチオン等の有機リン系化合物、プロポクスル等のカーバメート系化合物、ジノテフラン、イミダクロプリド、クロチアニジン等のネオニコチノイド系化合物、その他のフィプロニル、インドキサカルブ等などがあげられる。
【0018】
本発明は、エアゾール原液中に、更に(c)常温液状で沸点が180℃以上である高級脂肪酸エステルを10w/v%以下含有することを特徴とし、かかる化合物としては、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸メチル、ラウリン酸ヘキシル、及びパルミチン酸イソプロピル等があげられ、なかんずくミリスチン酸イソプロピルが好適である。
(c)成分は、前記(a)成分や(b)成分、特に(a)成分と協働して匍匐害虫、特に多足類やハサミムシ類に対する行動停止効果を増強し、また(a)成分や(b)成分の防除効果の持続性アップにも貢献する。
(c)成分のエアゾール原液量に対する含有量は10w/v%以下であり、10w/v%を超えて配合してもその効果が含有量に相応して増強するわけではない。
【0019】
(c)成分は行動停止効果に対してその増強作用が顕著なので、(a)成分の前記(b)成分に対する含量比[(a)/(b)]が0.1〜1.0倍量の場合、すなわち行動停止作用が際立って発現するような状況において配合メリットが高い。そして、(c)成分の(a)成分に対する含量比[(c)/(a)]を1.0〜100倍量の範囲に設定すれば、行動停止効果が著しく増強され、優れた防除効果が達成される。
【0020】
一方、(a)成分の(b)成分に対する含量比[(a)/(b)]が1.0〜10倍量、すなわち、(a)成分の含有量が(b)成分に比べて大きい場合、(a)成分自体、ならびに(a)成分と(b)成分の相乗効果に基づく高い速効性作用によって行動停止効果は薄れるものの優れた防除効果は確保される。従って、行動停止効果の増強の観点からは必ずしも(c)成分の配合を必要としないが、防除効果の持続性アップのためにこれを配合することに何ら支障はなく、一連の試験の結果、(c)成分の(a)成分に対する含量比[(c)/(a)]として5.0倍量以下で十分効果的であることが確認された。
【0021】
本発明においては、前記各成分とともに、(d)飽和炭化水素系溶剤を配合してエアゾール原液を構成する。飽和炭化水素系溶剤は、本発明で用いる害虫防除成分の溶解性に優れるだけでなく、防除対象である匍匐害虫、特に多足類やハサミムシ類に対する皮膚浸透性にも優れている。従って、上記エアゾール原液が対象害虫に付着した際に、飽和炭化水素系溶剤は害虫防除成分の害虫体内浸透を促進し、防除効果を高め得るのである。
具体的な飽和炭化水素系溶剤を例示すると、ノルマルパラフィンとして、中央化成株式会社製のネオチオゾール[沸点:219℃]、新日本石油株式会社製のソルベントM[沸点:219℃]及びソルベントH[沸点:244℃]、ジャパンエナジー株式会社製のN12[沸点:209℃]、N13[沸点:226℃]及びN14[沸点:243℃]等があげられる。
また、イソパラフィンとしては、出光興産株式会社製のIPソルベント1620[沸点:166℃]、IPソルベント2028[沸点:213℃]及びIPソルベント2835[沸点:277℃]、エクソンモービル株式会社製のアイソパーL[沸点:184℃]、アイソパーM[沸点:229℃]及びアイソパーH[沸点:276℃]、新日本石油株式会社製のアイソゾール300[沸点:173℃]及びアイソゾール400[沸点:210℃]等があげられるが、これらに限定されない。
【0022】
前記エアゾール原液には、本発明の作用効果に支障を来たさない限りにおいて、害虫忌避剤、殺ダニ剤、カビ類、菌類等を対象とした防カビ剤、抗菌剤や殺菌剤等を適宜配合してももちろん構わない。害虫忌避剤としては、ディート、3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル[以降、IR3535と称す]、1−メチルプロピル 2−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペリジンカルボキシラート[以降、イカリジンと称す]、p−メンタン−3,8−ジオール、ジメチルフタレート、ユーカリプトール、α―ピネン、ゲラニオール、シトロネラール、カンファー、リナロール、カランー3,4−ジオール等があげられ、殺ダニ剤としては、5−クロロ−2−トリフルオロメタンスルホンアミド安息香酸メチル、サリチル酸フェニル、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート等があり、一方、防カビ剤、抗菌剤や殺菌剤としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−(4−チアゾリル)ベンツイミダゾール、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、トリホリン、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、オルト−フェニルフェノール等を例示できる。
【0023】
更に、本発明では、飽和炭化水素系溶剤以外の溶剤(エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール類やグリコールエーテル類、ケトン系溶剤、エステル系溶剤等)、安定剤、紫外線吸収剤、消臭剤、帯電防止剤、消泡剤、香料、賦形剤等の補助剤を必要に応じて配合することも可能である。
【0024】
本発明の匍匐害虫防除用エアゾール剤は、上記したエアゾール原液をエアゾール容器に入れた後、噴射剤を充填して調製される。噴射剤としては、液化ガス、例えば、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)等が用いられる。そのうちの一種であっても混合ガスであってもよいが、通常LPGを主体としたものが使いやすい。なお、フルオロカーボンガスや、噴射圧の調整のために、窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素、圧縮空気等の圧縮ガスを適宜添加しても構わない。
【0025】
上記エアゾール原液と噴射剤との配合比率は、害虫の侵入防止を目的にした残留噴霧処理用途に使用する場合の塗布効率を考慮し、容量比として30/70〜70/30に規定される。
【0026】
こうして得られた本発明の匍匐害虫防除用エアゾール剤は、その用途、使用目的、対象害虫等に応じて、適宜バルブ、噴口、ノズル等の形状を選択することができ、種々の実施の形態が可能である。例えば、噴射処理範囲に薬液を集中的に処理したい場合は、芯部を形成するような噴霧パターンを有する形態が好ましい。また、テラスやベランダ等の床面に噴霧しやすい倒立仕様を採用したり、誤噴射の際誤って顔にかからないように噴口角を工夫したりすることもできるし、あるいはキャンプ場などのテントの周囲に対して広範囲に噴霧するために広角ノズルを採用してもよい。
【0027】
本発明の匍匐害虫防除用エアゾール剤は、家屋、屋外において人に被害や不快感を与えるムカデ、ヤスデ、ゲジ等の多足類、ハサミムシ類、アリ類、ダンゴムシ、ワラジムシ類等のほか、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ等のゴキブリ類等に対しても有効である。特に、多足類、及びハサミムシ類に効果的であり、そのエアゾール噴霧液は、対象とする害虫の行動を停止せしめる作用を伴って、これらを効率的に防除しうる。また、トランスフルトリンは、噴射後、処理表面から揮散して処理面周囲に害虫防除空間を形成し得るという効果を期待でき、一方、シフルトリン、ビフェントリン等の難揮散性ピレスロイド系害虫防除成分は残留噴霧処理を施すことによって、長期間にわたり害虫侵入防止効果を付与させることも可能である。
更に、本発明の匍匐害虫防除用エアゾール剤は、他の種類の害虫、例えば、フタモンアシナガバチ、セグロアシナガバチ、コガタスズメバチ、モンスズメバチ、ヒメスズメバチ、オオスズメバチ、キイロスズメバチ等のハチ類、アカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類、イエバエ、ヒメイエバエ、センチニクバエ、クロバエ、キンバエ、キイロショウジョウバエ、チョウバエ、ノミバエ等のハエ類等の飛翔害虫に対しても有効であり、多目的防除剤としても有用性が高い。
【0028】
つぎに具体的実施例ならびに試験例に基づいて、本発明の匍匐害虫防除用エアゾール剤を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
(a)トランスフルトリンを0.08w/v%と、(b)シフルトリンを0.18w/v%及びd−T80−フタルスリンを0.30w/v%と、(c)ミリスチン酸イソプロピルを3.5w/v%、及び残部をネオチオゾールとするエアゾール原液150mLをエアゾール容器に入れ、噴射剤としてのLPG150mLを加圧充填した。噴射用ボタンをこのエアゾール容器に装填して、本発明の多足類害虫防除用エアゾール剤を得た。なお、本エアゾール剤における(a)/(b)の含量比は0.17倍量で、(c)/(a)の含量比は44倍量であり、エアゾール原液/噴射剤比率は容量比として50/50であった。
【0030】
面積が約3m
2の玄関に侵入したムカデに対し、前記エアゾール剤を約3mL噴射したところ、10秒程度でムカデの移動が停止し、しばらくしてノックダウンした後致死に至った。更に、玄関のとびら付近及びテラスに前記エアゾール剤を約10mL/m
2(トランスフルトリン:約4mg/m
2、シフルトリン:約9mg/m
2、d−T80−フタルスリン:約15mg/m
2、ミリスチン酸イソプロピル:約175mg/m
2)残留噴霧処理した。この対象処理面は、ムカデ、ヤスデ、ゲジ等の多足類害虫やハサミムシ類のほか、ゴキブリ類、アリ類、ダンゴムシ、ワラジムシなどの匍匐害虫の家屋内への浸入を1ケ月以上の長期間にわたって防止できた。
【実施例2】
【0031】
実施例1に準じて表1及び表2に示す各種エアゾール剤を調製し、下記に示す試験を行った。結果を表3に示す。
(1)直撃噴射によるムカデの防除効果
アクリル容器(縦:50cm、横:70cm、高さ:9cm)の中央付近にトビズムカデ1匹を置き、上方約20cmの位置から各供試エアゾール剤を1秒間噴射し、トビズムカデの移動距離(cm)及びトビズムカデがノックダウンするまでの時間を測定した。試験は2回行いその平均値を求めた。
(2)残留噴霧処理によるヤスデ及びハサミムシの侵入阻止効果
直径9cmのガラスシャーレの右半分を各供試エアゾールで処理し、一方左半分を無処理区とした。所定期間経過後、シャーレ内にアカヤスデ又はハサミムシ3匹を放ち、エアゾール処理区に侵入するかどうかを観察した。1日後のアカヤスデ又はハサミムシの状態に基づき、下記の評価結果で示した。試験は、処理直後と、処理後30日目の時点で行った。
○:3匹とも無処理区に移動、 ×:3匹とも明らかに処理区、無処理区の区別なく行動、△:前記○及び×の間の評価。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
試験の結果、本発明の匍匐害虫防除用エアゾール剤、すなわち、エアゾール原液量に対して、(a)トランスフルトリンを0.01〜2.0w/v%、並びに(b)難揮散性ピレスロイド系化合物を0.05〜5.0w/v%含む害虫防除成分と、(c)常温液状で沸点が180℃以上である高級脂肪酸エステルを10w/v%以下と、(d)飽和炭化水素系溶剤とを含有し、エアゾール原液が30〜70v/v%と、噴射剤が70〜30v/v%とからなる匍匐害虫防除用エアゾール剤は、(1)ムカデに対する直撃噴射試験の結果、その速効的作用と移動停止作用が組み合わさって、効率的な高い防除効果を奏することが確認された。また、(2)ヤスデやハサミムシに対する残留噴霧処理試験の結果から、本発明のエアゾール剤は長期間にわたり害虫の侵入を防止できることも明らかとなった。
具体的には、(a)成分の(b)成分に対する含量比[(a)/(b)]が0.1〜1.0倍量の場合、前記移動停止効果は(c)成分の配合によって顕著に増強し高い防除効果に繋がり、(c)成分の(a)成分に対する含量比[(c)/(a)]としては1.0〜100倍量の範囲が好ましかった。
一方、(a)成分の(b)成分に対する含量比[(a)/(b)]が1.0〜10倍量の場合、高い防除効果は主に(a)成分と(b)成分の相乗的な速効的作用に依拠し、(c)成分の配合は移動停止効果よりむしろ防除効果の持続性アップの点でメリットがあり、その含量比[(c)/(a)]が5.0倍量以下の範囲で十分効果的であった。
【0036】
これに対し、比較例1〜2に示されるように、(a)成分及び(b)成分のいずれを欠いても多足類害虫の防除効果は劣った。比較例3の如く、d,d−T80-プラレトリンは難揮散性ピレスロイド系化合物として適合せず、また、沸点が180℃未満のヘキサン酸エチル(比較例4:沸点;168℃)には当該行動停止効果を増強させる作用は殆ど観察されなかった。更に、比較例5〜6に基づき、エアゾール原液と噴射剤の比率は容量比で30/70〜70/30に設定する必要があった。
【実施例3】
【0037】
実施例1に準じて表4に示す各種エアゾール剤を調製し、(a)成分と(b)成分の含量比による速効性作用の相乗効果への影響を調べるため下記に示す試験を行った。結果を表5に示す。
(3)直撃噴射によるヤスデ又はハサミムシの駆除効果
アクリルリング(直径:9cm、高さ:9cm)の中央付近にアカヤスデ又はハサミムシ1匹を置き、上方約20cmの位置から各供試エアゾール剤を1秒間噴射し、アカヤスデ又はハサミムシがノックダウンするまでの時間を測定した。試験は2回行いその平均値を求めた。
また、理論値は、試験番号8及び11、又は試験番号8及び12の測定値に基づく相加計算値として算出した。更に、相乗指数は、[測定値/理論値]の逆数として求めた。
【0038】
【表4】
【0039】
【表5】
【0040】
(a)トランスフルトリンと(b)シフルトリン又はビフェントリンの併用によるヤスデ又はハサミムシに対する速効的作用を調べた。その結果、含量比[(a)/(b)]が1.0〜10倍量の場合、特に顕著な相乗効果を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の匍匐害虫防除用エアゾール剤は、家屋内、屋外を問わず広範な害虫防除を目的として利用することが可能である。