長さ方向を前記第1のフェンスの長さ方向に対して直角方向に配置した第2のフェンスを重ねたフェンス体を有することを特徴とする建築物の外壁構造は、複数のフェンスを重ねて各階毎に懸架した構造であるので、若干の揺れが生じるので、柔らかさを表すことができる。一方、長さ方向が異なるようにフェンスを重ね、各フェンスの強度の特性に応じた支持、割付を行うことで、折れに対して柔軟性をもっている。また、採光も確保できる。
【背景技術】
【0002】
建築物の外壁は、風雨に対する耐久性や揺れに対する耐震性が求められる。したがって、コンクリート、タイル、木材、金属板といった素材が用いられている。また、近年では、景観を高めるために、高層ビルなどで外壁を全てガラスで構成した建物も見られる。このような建築物では、外壁は強固であり、当然見た目のイメージも「固い」イメージを感じさせるものである。
【0003】
建築物は、人が利用するものであるが、創作物としての一面もある。したがって、様々なイメージを発揮するために、様々な素材や構造の工夫が行われている。しかし、耐久性や耐震性を満足するために、どうしても「固い」イメージを払拭することができず、「柔らかい感じ」を求めることはできなかった。
【0004】
一方、建築現場で用いられる柔らかい素材としては、ある程度の採光性を有し、防音性を有する採光防音シートがある(特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
採光防音シートは、可撓性を有するシートであるので、柔らかさを表現できる可能性があるが、あくまで一時的な養生のためのものである。したがって、耐久性が要求される、外壁構造として用いることはできない。すなわち、外壁構造として、柔らかさ、揺らぎ、軽やかさ、採光制御、通風性を有しながら耐久性と強度を備えた外壁構造は存在しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、建築物の外壁に柔らかさを与えることのできる外壁構造を提供するものである。
【0008】
より具体的に本発明に係る建築物の外壁構造は、
建築物の外面に、
長さ方向を前記外面の幅方向に配置した第1のフェンスと、
長さ方向を前記第1のフェンスの長さ方向に対して直角方向に配置した第2のフェンスを重ねたフェンス体を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る建築物の外壁構造では、フェンスの長さ方向(製造時に編み込む方向)を直角に重ねた複数のフェンスを外壁構造として用いる。そのため、実際にわずかに揺れが起こり、建物の外観に柔らかさが見て取れる。
【0010】
また、フェンスは長さ方向に直角方向の曲げに対しては柔軟に追従できるが、幅方向に直角方向の曲げではフェンスが塑性変形をし、元の形状が維持できなくなる。その点本発明に係る建築物の外壁構造では、これらをそれぞれ直交にして重ねてあるので、柔軟な外壁構造を実現できる。
【0011】
また、複数枚のフェンスを重ねるので、室外から室内への視認性は低く、逆に室内から室外の視認性は確保することができる。
【0012】
さらに、太陽光線は、重ねたフェンスの隙間から室内に取り込まれるため、夏の季節であっても、柔らかい光を取り込むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明に係る建築物の外壁構造について図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0015】
図1には本発明に係る建築物の外壁構造1を施した建築物2を例示する。
図1(a)は建築物2の全体構成を示す図であり、
図1(b)は、一部拡大図である。
図1では、建築物2の外壁のうち、一面に本発明に係る建築物の外壁構造1を施している。この面を壁面Aとする。なお、
図1では、5階建てを示しているが、階層はこれに限ったものではない。各階は幅2sw、高さ2shの部分に外壁構造1が施されるとして説明する。
【0016】
壁面Aには、各階毎に建築物2の外部に向かって一定幅の枠構造10が突設されている。枠構造10で重要なのは、各階に設けられた庇部分10aである。この部分に後に詳述するフェンス体20を吊るすからである。もちろん、枠構造10として、壁面Aの側部から縦壁10bが建築物2の外部に向かって延設されていれば、より好ましい。
【0017】
枠構造10の内側にはガラス12の面が設けられている。ガラス12とガラス12の間には仕切り壁があってもよい。ここでは、各階とも壁面Aに面した部分で一部ガラス12の部分で突き出た構造3を有する建築物2を例示している。フェンス体20は、枠構造10を縁として壁面Aの最外面を形成する。すなわち、壁面Aは、最外面としてフェンス体20を有する。その内側には、枠構造10で形成された所定の幅の空間14と、ガラス12の面があり、室内2rmはガラス12の面の内側となる。
【0018】
なお、空間14において、「所定の幅」とは、ガラス12とフェンス体20との間の距離をいう。この距離は好ましくは人が入り込める程度の距離が望ましい。ガラス12の面を掃除する際に容易であるからである。また、ベランダ(若しくはルーフバルコニー)として使用することもできる。したがって、所定の幅は、ガラス12とフェンス体20の間にベランダ(若しくはルーフバルコニー)が存在するといってもよい。なお空間14は、外壁構造1が施される壁面Aの幅全体に亘って設けられていなくてもよい。
【0019】
フェンス体20は、各階毎に複数のフェンスを重ねて形成される。
図1では、説明のために3つのフェンスを重ねる構成を示している。以後、本明細書においては、建築物2の外側から順に第1フェンス21、第2フェンス22、第3フェンス23とする。ここでは3種のフェンスを重ねることでフェンス体20を構成している。
【0020】
また、壁面Aの屋上2tに設けられた固定端2rから地面側に設けたアンカー2gの間に、複数の支持ワイヤ30が配置されている。支持ワイヤ30は、各階毎に吊り下げられたフェンス体20の揺動を押さえるために用いられる。
【0021】
外壁構造1が、建築物2の最外面と室内2rmとの間とすれば、
図1に示した壁面Aにおける外壁構造1とは、フェンス体20と、枠構造10によって形成された空間14(
図5も参照)と、その内側のガラス12で構成されているといってもよい。外壁構造1として、枠構造10は少なくとも各階の庇部分10aがあればよく、支持ワイヤ30が含まれればより好ましい。
【0022】
本発明における建築物の外壁構造1としては、フェンス体20が建築物2の最外面に設置されていればよく、フェンス体20より建築物2の内側に、ガラス12の面だけでなく、通常のタイル面やコンクリート面といった遮光性の固い素材があってもよい。また、フェンス体20は、建築物2の壁面A全体に設けられる必要はなく、部分的に配置されていてもよい。
【0023】
次にフェンス体20の詳細図を示す。
図2は
図1で示した1つの階の部分を示したものである。また、
図3には、1枚のひし形フェンス29の平面図を示す。ひし形フェンス29はフェンスの説明のためのものであり、フェンス体20に用いられる3つのフェンス21、22、23と同じである。
【0024】
まず、
図3を参照する。よく知られているように、ひし形フェンス29は、端辺29eに形成されたひし形形状29fに、横糸に相当する線材29aを掛合させながら、連成される。したがって、連成方向Mdには、いくらでも伸ばすことができるが、幅29wは一定となる。ここで、作製時に連成される方向を「長さ方向」といい、幅とされる方向を「幅方向」とする。
【0025】
なお、長さ方向はフェンスの符号に「L」をつけ、幅方向はフェンスの符号に「W」を付ける。したがって、
図3のひし形フェンス29では連成方向が長さ方向29Lであり、それに直角な方向は、幅方向29Wとする。
【0026】
ひし形フェンス29にはいわゆる縦糸に相当するものはない。全て横糸に相当する線材29aを掛合することで形成されている。したがって、幅方向29Wと平行な方向への曲げには強い(
図3(b))。フェンスとして屈曲するが、線材29aとして屈曲する部分はほとんどないからである。
【0027】
一方、長さ方向29Lに平行な曲げには弱い(
図3(c))。織り込まれた線材29aにとっては、直角な方向への曲げとなり、1本の線材29aが途中で曲げられることになるからである。つまり、ひし形フェンス29では、強度に対して方向性が存在する。
【0028】
フェンス体20は、大きくは変形しないように、設置されるが、地震や台風といった大きな力が壁面Aにかかる際には、変形への追従性が必要である。そこで、本発明に係るフェンス体20では、直交する2方向のフェンス毎に支持方向を変えるようにし、各々のフェンスが重ねられることで変形を抑えるようにしつつ、変形への追従性を確保している。
【0029】
図2を参照する。ここでは、3枚のフェンス21、22、23を組み合わせてフェンス体20を作製した状態を示している。建築物2外側のフェンスから建築物2内側のフェンスに向かって、第1フェンス21、第2フェンス22、第3フェンス23と名付けるのはすでに説明したとおりである。
【0030】
第1フェンス21は、幅21wがほぼ1階分の高さ2sh(
図1参照)の長さを有している。後述するように各階毎に設けた枠構造10の庇部分10aにフェンスの一端を固定するからである。第1フェンス21の長さ21lnは壁面Aの幅2sw(
図1参照)とほぼ等しい。すなわち、長いフェンスを、長さ方向21Lを水平にして配置した状態である。
【0031】
一方、第2フェンス22は、長さ方向22Lが第1フェンス21の長さ方向21Lと直交するように配置する。すなわち、第2フェンス22の長さ方向22Lは壁面Aの上から下方向に配置される。また、この時の第2フェンス22の長さ22lnは、後述する支持ワイヤ30の配置間隔の略1/2の長さである。支持ワイヤ30は複数本設置されるので、第2フェンス22も複数枚配置される。ここでは6枚の第2フェンス22を並べて配置している。
【0032】
第3フェンス23は第1フェンス21と同じ大きさであり、第1フェンス21と同じ方向に配置する。すなわち、第3フェンス23の長さ23lnは、壁面Aの幅2swとほぼ同じである。
【0033】
なお、第3フェンス23はなくてもよい。しかし、壁面Aの幅方向には、複数の第2フェンス22が並設される。また、各フェンスは少なくとも配置した状態での上端が吊られていればよく、下端は固定されなくてもよい。したがって、固定されない第2フェンス22の縁が存在する場合もある。
【0034】
そのような場合に第3フェンス23があれば、第1フェンス21との間で第2フェンス22を挟んで、サンドイッチ状に支持することとなり、安定して配置させることができる。また、第3フェンス23があると、室外から室内への視認性がより低くでき、室内への太陽からの直接光の差し込みも抑制される。
【0035】
図4、
図5を用いてフェンス体20の支持について説明する。
図4は建築物2の1つの階の一部の正面図を示す。枠構造10(
図1参照)の庇部分10aが上下にある。フェンス体20の最外面には第1フェンス21が配置される。第1フェンス21の建築物2の内部側には第2フェンス22が配置されている。
図4では、第2フェンス22の1枚の幅22wを示した。
【0036】
また、
図5は側面図(
図5(a))と、その一部拡大図(
図5(b))を示す。符号3は壁面A(
図1参照)に面した部分で一部ガラス12の部分で突き出た構造である。各階の枠構造10の庇部分10aには、フェンス体20の上端を吊り下げるための部材が配置される。フェンス体20の上端を吊り下げるための方法は特に限定されるものではない。そこでこれをフェンス体20の上端固定手段32と呼ぶ。なお、
図5(a)では、下側の上端固定手段32に懸架されるフェンス体20は省略している。
【0037】
図5(b)を参照して、ここでは、庇部分10aにUボルト33を配置し、そこに3本の金属棒34を通したものを上端固定手段32として示す。各フェンスは配置された状態での上端をこの金属棒34に係止される。すなわち、第1フェンス21、第2フェンス22、第3フェンス23とも、上端を庇部分10a上端から吊り下げられた状態となる。
【0038】
ここで、各フェンスの下端を下側の庇部分10aを使って固定してもよい。しかし、上下とも固定すると揺動の余地が少なくなり、柔らかさはあまり表現できなくなる。一方、上端だけを揺動可能に固定しただけでは、下端側が風で揺れ、上端固定手段32に予想外の力が加わり、外面から剥離するおそれもある。そこで、支持ワイヤ30によって、各フェンス体20をさらに固定する。
【0039】
第1フェンス21、第3フェンス23は、固定具35によって、支持ワイヤ30と連結される。第2フェンス22は、支持ワイヤ30の位置に必ず端部が割り当てられるようにし、支持ワイヤ30に固定されない構造とする。固定具35は、一端が支持ワイヤ30に固定され、他端側で、第1フェンス21と第3フェンス23の2つのフェンスを挟持する。
【0040】
したがって、第2フェンス22は、庇部分10a上端から吊り下げられた状態で、第1フェンス21と第3フェンス23に挟まれただけの状態となる。したがって、第2フェンス22は、第1フェンス21と第3フェンス23の隙間で揺動する余地がある。
【0041】
次に支持ワイヤ30について説明する。支持ワイヤ30は、壁面Aの屋上2tに固定端2rを設け、壁面Aの地面側にアンカー2gが設けられ、この間に張られる(
図1参照)。支持ワイヤ30の設置幅31は、特に限定されるものではないが、フェンスが風などの力を受けた時に固定端2r、アンカー2gに張力が集中するのを回避するため、庇部分10a毎に固定する。
【0042】
より具体的には、
図5(b)を参照して、庇部分10aにUボルト33を固定するL型金具36と金属板材37で支持ワイヤ30を挟持する。この庇部分10a毎の固定幅も特に限定されるものではないが、建物自体の強度を踏まえて決定することができる。第2フェンス22の幅22wは、風による撓みが大きくなると第2フェンス22が塑性変形を起こすため、支持ワイヤ30の設置幅31の中で第2フェンス22は2分割に配置する。なお、分割数は2分割に限定されることはない。
【0043】
図4では、第2フェンス22の幅22wの間隔で、支持ワイヤ30が設けられている。また、この場合、支持ワイヤ30は第2フェンス22の幅22wの端に配置される。支持ワイヤ30と第1フェンス21および第3フェンス23は、Uボルト33などで互いに締結される。締結ポイントの数も特に限定されるものではないが、風圧を受けてフェンスが撓んだ際に、フェンスの線材29a(
図3参照)が、塑性変形をしないように複数個配置される必要がある。
【0044】
このように形成された外壁構造1では、最外面のフェンス体20は、支持ワイヤ30で揺動を押さえるように支持されているとはいえ、第2フェンス22が上端のみの支持となることで、若干は揺動する。したがって、全体として見たときには、微妙に動く壁として見える。
【0045】
また、枠構造10によって、フェンス体20とガラス12の間に形成された空間14は、ガラス12の外面を掃除する際に有効なスペースとなる。また、フェンスが多少揺動しても、ガラス12の面に当たることを防止している。