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特開2018-162772遠心作動装置、及び内燃機関用動弁装置におけるカム位相可変機構
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-162772(P2018-162772A)
(43)【公開日】2018年10月18日
(54)【発明の名称】遠心作動装置、及び内燃機関用動弁装置におけるカム位相可変機構
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20180921BHJP
【FI】
   F01L1/356 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-61666(P2017-61666)
(22)【出願日】2017年3月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩田 航
【テーマコード(参考)】
3G018
【Fターム(参考)】
3G018AB02
3G018AB16
3G018BA09
3G018BA32
3G018CA08
3G018CA09
3G018DA05
3G018DA24
3G018DA30
3G018DA83
3G018DA85
3G018DA86
3G018EA03
3G018EA04
3G018FA04
3G018FA07
3G018FA09
3G018GA14
3G018GA18
(57)【要約】
【課題】入力回転部材の低・高速回転域に対応して被動部材を第1・第2作動態様に制御し、入力回転部材の第2高速回転域で被動部材の第1作動態様側への戻り動作を与える遠心作動装置を構造簡素化する。
【解決手段】アームAに対し遠心ウエイトWが揺動可能に連結され、アームが第2揺動位置に達した後、遠心力増大により遠心ウエイトがアームを第1揺動位置側に揺動させつつ第2相対位置側に揺動するようにウエイト移動経路が経路規制手段Kで規制され、入力回転部材の低速回転域では被動部材20が第1作動態様におかれ、入力回転部材が第1高速回転域に移行して遠心ウエイトと共にアームが第2揺動位置に向けて揺動するときは被動部材が第2作動態様におかれ、入力回転部材が第2高速回転域に移行して遠心ウエイトが第2相対位置に向けて揺動し且つアームが第1揺動位置に向けて揺動するときは被動部材が第1作動態様の位相に戻る側に変位する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力回転部材(30)にピボット軸(40)を介して支持されて所定の第1,第2揺動位置(1A,2A)間を該ピボット軸(40)回りに揺動可能なアーム(A)と、
前記アーム(A)に対し前記遠心ウエイト(W)が所定の第1,第2相対位置(1W,2W)間で揺動し得るように、該アーム(A)及び該遠心ウエイト(W)間を連結する連結機構(I)と、
前記入力回転部材(30)に対し相対回動可能であると共に、該入力回転部材(30)に対し位相が変化しない第1作動態様と進角側又は遅角側に変化する第2作動態様とをとり得る被動部材(20)と、
前記入力回転部材(30)が少なくとも低速回転域、及び該低速回転域よりも高速の第1高速回転域にあるときは前記アーム(A)に対し前記遠心ウエイト(W)を前記第1相対位置(1W)側に付勢し得る第1ばね部材(41)と、
前記遠心ウエイト(W)を前記第1ばね部材(41)の付勢力に抗して前記第1相対位置(1W)に保持し得る保持手段(H)と、
前記遠心ウエイト(W)の遠心力で前記アーム(A)が前記第2揺動位置(2A)に達した後、前記遠心ウエイト(W)の遠心力が更に増大したときに該遠心ウエイト(W)が、遠心力で前記アーム(A)を前記第1揺動位置(1A)側に揺動させつつ該アーム(A)に対し前記第2相対位置(2W)側に揺動するように、該遠心ウエイト(W)の移動経路を規制する経路規制手段(K)とを備え、
前記連結機構(I)は、前記入力回転部材(30)が前記低速回転域にあって前記アーム(A)が前記第1揺動位置(1A)に保持されるときは前記被動部材(20)が前記第1作動態様におかれ、また前記入力回転部材(30)が前記第1高速回転域に移行して前記遠心ウエイト(W)を前記第1相対位置(1W)に保持したまま前記アーム(A)が前記第2揺動位置(2A)に向けて揺動するときは前記被動部材(20)が前記第2作動態様におかれ、更に前記入力回転部材(30)が前記第1高速回転域よりも高速の第2高速回転域に移行して前記遠心ウエイト(W)が前記第2相対位置(2W)に向けて揺動し且つ前記アーム(A)が前記第1揺動位置(1A)に向けて揺動するときは、前記被動部材(20)が前記第1作動態様の位相に戻る側に変位するように、該アーム(A)及び該被動部材(20)間を連動、連結することを特徴とする、遠心作動装置。
【請求項2】
前記連結機構(I)は、前記アーム(A)及び前記遠心ウエイト(W)間を互いに揺動可能に連結する連結ピン(D)と、前記被動部材(20)に略径方向に延びるように形成されて前記連結ピン(D)を摺動可能に挿通させる長孔(21h)とを備えることを特徴とする、請求項1に記載の遠心作動装置。
【請求項3】
前記入力回転部材(30)には、前記連結ピン(D)の前記ピボット軸(40)回りの揺動を許容するように該連結ピン(D)を挿通させる孔(30h)が設けられることを特徴とする、請求項2に記載の遠心作動装置。
【請求項4】
前記第1ばね部材(41)は、前記アーム(A)に対し前記遠心ウエイト(W)が前記第1相対位置(1W)から前記第2相対位置(2W)へ揺動する途中で、該第1ばね部材(41)の前記遠心ウエイト(W)に対する付勢方向が前記第1相対位置(1W)側から前記第2相対位置(2W)側へ切り替わるように配置されることを特徴とする、請求項2又は3に記載の遠心作動装置。
【請求項5】
前記経路規制手段(K)は、前記入力回転部材(30)に突設したストッパ(60)と、前記遠心ウエイト(W)に設けられて前記アーム(A)の前記第1揺動位置(1A)から前記第2揺動位置(2A)への揺動により前記ストッパ(60)が進入可能な案内溝(Wg)とを備え、
前記案内溝(Wg)の一端は、前記遠心ウエイト(W)の径方向外方側の側面(Wf)に開口していて前記ストッパ(60)の出入口となっており、
前記案内溝(Wg)は、前記入力回転部材(30)が前記第2高速回転域で増速するときは、該案内溝(Wg)の径方向内方側の内側面(Wgi)を前記ストッパ(60)に摺接させ且つ該ストッパ(60)を支点とすることで前記遠心ウエイト(W)を前記第2相対位置(2W)に向けて揺動させ、また前記入力回転部材(30)が前記第2高速回転域で減速するときは、該案内溝(Wg)の径方向外方側の内側面(Wgo)を前記ストッパ(60)に摺接させ且つ該ストッパ(60)を支点とすることで前記遠心ウエイト(W)を前記第1相対位置(1W)に向けて揺動させることを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の遠心作動装置。
【請求項6】
前記入力回転部材(30)が前記低速回転域にあるときに、前記アーム(A)を前記第1揺動位置(1A)に、また前記遠心ウエイト(W)を前記第1相対位置(1W)にそれぞれ付勢、保持する第2ばね部材(42)を備えることを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の遠心作動装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の遠心作動装置を、動弁カム(20c)の位相の変更に用いた、内燃機関用動弁装置におけるカム位相可変機構であって、
内燃機関のクランク軸に駆動される前記入力回転部材(30)に、前記被動部材を構成するカム軸(20)が相対回動可能に連結され、
前記遠心作動装置は、前記入力回転部材(30)の前記低速回転域では前記カム軸(20)上の前記動弁カム(20c)が第1位相となるように、また前記入力回転部材(30)の前記第1高速回転域では前記動弁カム(20c)が前記第1位相より進角又は遅角した第2位相となるように、更に前記入力回転部材(30)の前記第2高速回転域では前記動弁カム(20c)の位相が該入力回転部材(30)の回転速度上昇に応じて前記第1位相の側に戻るように、前記カム軸(20)の前記入力回転部材(30)に対する相対回動位置を制御することを特徴とする、内燃機関用動弁装置におけるカム位相可変機構。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか1項に記載の遠心作動装置を、内燃機関の一部の動弁カム(20c)の位相の変更に用いた、内燃機関用動弁装置におけるカム位相可変機構であって、
内燃機関のクランク軸に駆動される前記入力回転部材(30)に、第1動弁カム(10c)を有する第1カム軸(10)が一体回転するよう連結されると共に、第2動弁カム(20c)を有して前記第1カム軸(10)に相対回動可能に嵌合した第2カム軸(20)で前記被動部材が構成され、
前記遠心作動装置は、前記入力回転部材(30)の前記低速回転域では前記第2動弁カム(20c)が第1位相となるように、また前記入力回転部材(30)の前記第1高速回転域では前記第2動弁カム(20c)が前記第1位相より進角又は遅角した第2位相となるように、更に前記入力回転部材(30)の前記第2高速回転域では前記第2動弁カム(20c)の位相が該入力回転部材(30)の回転速度上昇に応じて前記第1位相の側に戻るように、前記第2カム軸(20)の前記入力回転部材(30)に対する相対回動位置を制御することを特徴とする、内燃機関用動弁装置におけるカム位相可変機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力回転部材に支持した遠心ウエイトの遠心力を利用して、入力回転部材に連動する被動部材を第1作動態様から第2作動態様へ切換え可能とした遠心作動装置、並びに遠心作動装置を適用した内燃機関用動弁装置におけるカム位相可変機構に関する。
【背景技術】
【0002】
上記遠心作動装置を、動弁カムの位相変更制御に用いた内燃機関用動弁装置におけるカム位相可変機構は、例えば特許文献1に示されるように従来公知である。
【0003】
この特許文献1の遠心作動装置では、入力回転部材(第1従動部材41)と中間部材(第2従動部材42)との相対向面間に、周方向に並ぶ多数の球より構成され且つ遠心力増大により相対向面のカム溝(ガイド溝51,52)に沿って摺動することで相対向面を相対回動させる第1遠心ウエイト44を介装し、更に中間部材(第2従動部材42)と被動部材(ガイド部材43)との相対向面間に、周方向に並ぶ多数の球より構成され且つ遠心力増大により相対向面のカム溝(ガイド溝53,54)に沿って摺動することで相対向面を相対回動させる第2遠心ウエイト45を介装するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5353465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の遠心作動装置では、入力回転部材が低速回転域から第1高速回転域に移行するときは、第2遠心ウエイトを作動させて被動部材を第1位相(第1作動態様)から第2位相(第2作動態様)へと切換制御し、また入力回転部材が更に高速の第2高速回転域に移行すると、第1遠心ウエイトを作動させて被動部材を第1位相(第1作動態様)側に戻すような制御を行うことができる。
【0006】
ところが特許文献1の遠心作動装置は、入力回転部材が低速回転域から第1高速回転域を経て第2高速回転域に至る過程で被動部材の上記した特別な作動態様切換えを行うために、入力回転部材及び被動部材間に、多数のカム溝を両側面に各々有する中間部材を特別に設ける必要がある上、その中間部材及び入力回転部材間、並びに中間部材及び被動部材間に、多数の球より各々構成される第1,第2遠心ウエイトをそれぞれ介装する必要がある。そのため、遠心作動装置は、全体として部品点数が多く且つ構造複雑でコストが嵩み、組立作業性やメンテナンス作業性が良好でない等の問題があった。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、上記問題を解決し得る構造簡単な遠心作動装置、並びに上記遠心作動装置を適用した内燃機関用動弁装置におけるカム位相可変機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、入力回転部材にピボット軸を介して支持されて所定の第1,第2揺動位置間を該ピボット軸回りに揺動可能なアームと、前記アームに対し前記遠心ウエイトが所定の第1,第2相対位置間で揺動し得るように、該アーム及び該遠心ウエイト間を連結する連結機構と、前記入力回転部材に対し相対回動可能であると共に、該入力回転部材に対し位相が変化しない第1作動態様と進角側又は遅角側に変化する第2作動態様とをとり得る被動部材と、前記入力回転部材が少なくとも低速回転域、及び該低速回転域よりも高速の第1高速回転域にあるときは前記アームに対し前記遠心ウエイトを前記第1相対位置側に付勢し得る第1ばね部材と、前記遠心ウエイトを前記第1ばね部材の付勢力に抗して前記第1相対位置に保持し得る保持手段と、前記遠心ウエイトの遠心力で前記アームが前記第2揺動位置に達した後、前記遠心ウエイトの遠心力が更に増大したときに該遠心ウエイトが、遠心力で前記アームを前記第1揺動位置側に揺動させつつ該アームに対し前記第2相対位置側に揺動するように、該遠心ウエイトの移動経路を規制する経路規制手段とを備え、前記連結機構は、前記入力回転部材が前記低速回転域にあって前記アームが前記第1揺動位置に保持されるときは前記被動部材が前記第1作動態様におかれ、また前記入力回転部材が前記第1高速回転域に移行して前記遠心ウエイトを前記第1相対位置に保持したまま前記アームが前記第2揺動位置に向けて揺動するときは前記被動部材が前記第2作動態様におかれ、更に前記入力回転部材が前記第1高速回転域よりも高速の第2高速回転域に移行して前記遠心ウエイトが前記第2相対位置に向けて揺動し且つ前記アームが前記第1揺動位置に向けて揺動するときは、前記被動部材が前記第1作動態様の位相に戻る側に変位するように、該アーム及び該被動部材間を連動、連結することを第1の特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記第1の特徴に加えて、前記連結機構は、前記アーム及び前記遠心ウエイト間を互いに揺動可能に連結する連結ピンと、前記被動部材に略径方向に延びるように形成されて前記連結ピンを摺動可能に挿通させる長孔とを備えることを第2の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第2の特徴に加えて、前記入力回転部材には、前記連結ピンの前記ピボット軸回りの揺動を許容するように該連結ピンを挿通させる孔が設けられることを第3の特徴とする。
【0011】
また本発明は、第2又は第3の特徴に加えて、前記第1ばね部材は、前記アームに対し前記遠心ウエイトが前記第1相対位置から前記第2相対位置へ揺動する途中で、該第1ばね部材の前記遠心ウエイトに対する付勢方向が前記第1相対位置側から前記第2相対位置側へ切り替わるように配置されることを第4の特徴とする。
【0012】
また本発明は、第1〜第4の何れかの特徴に加えて、前記経路規制手段は、前記入力回転部材に突設したストッパと、前記遠心ウエイトに設けられて前記アームの前記第1揺動位置から前記第2揺動位置への揺動により前記ストッパが進入可能な案内溝とを備え、前記案内溝の一端は、前記遠心ウエイトの径方向外方側の側面に開口していて前記ストッパの出入口となっており、前記案内溝は、前記入力回転部材が前記第2高速回転域で増速するときは、該案内溝の径方向内方側の内側面を前記ストッパに摺接させ且つ該ストッパを支点とすることで前記遠心ウエイトを前記第2相対位置に向けて揺動させ、また前記入力回転部材が前記第2高速回転域で減速するときは、該案内溝の径方向外方側の内側面を前記ストッパに摺接させ且つ該ストッパを支点とすることで前記遠心ウエイトを前記第1相対位置に向けて揺動させることを第5の特徴とする。
【0013】
また本発明は、第1〜第5の何れかの特徴に加えて、前記入力回転部材が前記低速回転域にあるときに、前記アームを前記第1揺動位置に、また前記遠心ウエイトを前記第1相対位置にそれぞれ付勢、保持する第2ばね部材を備えることを第6の特徴とする。
【0014】
また本発明は、第1〜第6の何れかの特徴を有する遠心作動装置を、動弁カムの位相の変更に用いた、内燃機関用動弁装置におけるカム位相可変機構であって、内燃機関のクランク軸に駆動される前記入力回転部材に、前記被動部材を構成するカム軸が相対回動可能に連結され、前記遠心作動装置は、前記入力回転部材の前記低速回転域では前記カム軸上の前記動弁カムが第1位相となるように、また前記入力回転部材の前記第1高速回転域では前記動弁カムが前記第1位相より進角又は遅角した第2位相となるように、更に前記入力回転部材の前記第2高速回転域では前記動弁カムの位相が該入力回転部材の回転速度上昇に応じて前記第1位相の側に戻るように、前記カム軸の前記入力回転部材に対する相対回動位置を制御することを第7の特徴とする。
【0015】
また本発明は、第1〜第6の何れかの特徴を有する遠心作動装置を、内燃機関の一部の動弁カムの位相の変更に用いた、内燃機関用動弁装置におけるカム位相可変機構であって、内燃機関のクランク軸に駆動される前記入力回転部材に、第1動弁カムを有する第1カム軸が一体回転するよう連結されると共に、第2動弁カムを有して前記第1カム軸に相対回動可能に嵌合した第2カム軸で前記被動部材が構成され、前記遠心作動装置は、前記入力回転部材の前記低速回転域では前記第2動弁カムが第1位相となるように、また前記入力回転部材の前記第1高速回転域では前記第2動弁カムが前記第1位相より進角又は遅角した第2位相となるように、更に前記入力回転部材の前記第2高速回転域では前記第2動弁カムの位相が該入力回転部材の回転速度上昇に応じて前記第1位相の側に戻るように、前記第2カム軸の前記入力回転部材に対する相対回動位置を制御することを第8の特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の特徴によれば、入力回転部材が低速回転域から第1高速回転域へ移行したときは、遠心ウエイトを第1相対位置に保持したままアームが第1揺動位置から第2揺動位置に向けて揺動するのに連動して、低速回転域で第1作動態様にあった被動部材を、第1高速回転域では第2作動態様で作動させることができる。また入力回転部材が第1高速回転域から更に高速の第2高速回転域へと移行し、経路規制手段により移動経路を規制された遠心ウエイトが第1相対位置から第2相対位置へ揺動し且つアームが第2揺動位置から第1揺動位置側へ揺動するときは、そのアームの揺動に連動して被動部材を、第1作動態様の位相に戻る側に作動させることができる。従って、入力回転部材が低速回転域から第1高速回転域を経て第2高速回転域に至る過程で、被動部材の上記した特別な作動態様切換えを的確に行うことができる。
【0017】
特に入力回転部材にピボット軸を介して支持されるアームと、アームに対し遠心ウエイトが第1,第2相対位置間で揺動し得るようにアーム及び遠心ウエイト間を連結する連結機構であってアーム及び被動部材間の連動機構を兼ねる連結機構と、遠心ウエイトの遠心力でアームが第2揺動位置に達した後、遠心力で遠心ウエイトがアームを第1揺動位置側に揺動させつつアームに対し第2相対位置側に揺動するように、遠心ウエイトの移動経路を規制する経路規制手段とが互いに協働して、被動部材の上記特別な作動態様切換えを行うから、全体として遠心作動装置の構造が簡素化されて部品点数も低減され、コスト節減や組立作業性及びメンテナンス作業性の向上に寄与することができる。
【0018】
また第2の特徴によれば、連結機構は、アーム及び遠心ウエイト間を互いに揺動可能に連結する連結ピンと、被動部材に形成されて略径方向に延び、連結ピンを摺動可能に挿通させる長孔とを備えるので、アーム及び遠心ウエイト間の連動連結手段と、アーム及び被動部材間の連動連結手段を兼ねる連結構造を頗る簡素化することができ、更なるコスト節減に寄与することができる。
【0019】
また第3の特徴によれば、入力回転部材には、連結ピンのピボット軸回りの揺動を許容するように連結ピンを挿通させる孔が設けられるので、アームが入力回転部材に対し揺動しても、ピボット軸回りにアームと共に揺動する連結ピンが入力回転部材と干渉する虞れはない。
【0020】
また第4の特徴によれば、第1ばね部材は、アームに対し遠心ウエイトが第1相対位置から第2相対位置側へ揺動する途中で、第1ばね部材の遠心ウエイトに対する付勢方向が第1相対位置側から第2相対位置側へ切り替わるように配置されるので、第1ばね部材の付勢方向が第1相対位置側から第2相対位置側へ切り替わるのに応じて、遠心ウエイトの第2相対位置側への揺動が第1ばね部材により助勢されるようになり、従って、簡単な構造で、被動部材を第1作動態様の位相に戻る側へ迅速確実に変位させることができる。
【0021】
また第5の特徴によれば、経路規制手段は、入力回転部材に突設したストッパと、遠心ウエイトに設けられてアームの第1揺動位置から第2揺動位置への揺動によりストッパが進入可能な案内溝とを備えており、案内溝は、入力回転部材が第1高速回転域から更に高速の第2高速回転域で増速したときに、案内溝の径方向内方側の内側面をストッパに摺接させ且つストッパを支点とすることで遠心ウエイトを第2相対位置に揺動させるので、この遠心ウエイトの第2相対位置に向けての揺動が確実に行われる。また案内溝は、入力回転部材が第2高速回転域で減速したときに、案内溝の径方向外方側の内側面をストッパに摺接させ且つストッパを支点とすることで遠心ウエイトを第1相対位置に向けて揺動させるので、この第1相対位置への戻り揺動(従って被動部材の第2作動態様への復帰)が確実に行われる。しかもこの遠心ウエイトの第2相対位置への揺動を案内する案内溝を、同遠心ウエイトの第1相対位置への戻り揺動の案内手段にも兼用できるため、それだけ構造簡素化が図られる。またストッパは、空間的に比較的余裕のある遠心ウエイトの径方向外方側のスペースに配置されるため、それだけストッパの配置の自由度を高めることができる。
【0022】
また第6の特徴によれば、入力回転部材が低速回転域にあるときに、アームを第1揺動位置に、また遠心ウエイトを第1相対位置にそれぞれ付勢、保持する第2ばね部材を備えるので、入力回転部材の回転速度が低下したときに、第2ばね部材の付勢力により遠心ウエイト及びアームの各初期位置(即ち第1相対位置・第1揺動位置)への戻り動作をより確実にでき、また初期位置の遠心ウエイトが、入力回転部材の増速により拡径揺動し始める回転数を、第2ばね部材のセット荷重の調整により容易に設定、調整可能となる。
【0023】
また第7の特徴によれば、遠心作動装置は、入力回転部材の低速回転域ではカム軸上の動弁カムが第1位相となるように、また入力回転部材の第1高速回転域では動弁カムが第1位相より進角又は遅角した第2位相となるように、更に入力回転部材の第2高速回転域では動弁カムの位相が該入力回転部材の回転速度上昇に応じて第1位相の側に戻るように、カム軸の入力回転部材に対する相対回動位置を制御可能である。これにより、高速回転域のうち特に高速の第2高速回転域では、第1位相側へ戻すことが望ましい特性の内燃機関において好適な弁作動態様となり、機関性能の向上に寄与することができる。
【0024】
また第8の特徴によれば、遠心作動装置は、第1カム軸と一体回転する入力回転部材の低速回転域では第2カム軸上の第2動弁カムが第1位相となるように、また入力回転部材の第1高速回転域では第2動弁カムが第1位相より進角又は遅角した第2位相となるように、更に入力回転部材の第2高速回転域では第2動弁カムの位相が入力回転部材の回転速度上昇に応じて第1位相の側に戻るように、第2カム軸の入力回転部材に対する相対回動位置を制御可能である。これにより、高速回転域のうち特に高速の第2高速回転域では、第2動弁カムを第1位相側へ戻すことが望ましい特性のSOHC型内燃機関において好適な弁作動態様となり、機関性能の向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る動弁装置の要部縦断面図(図2の1−1線断面図)
図2】前記実施形態に係る動弁装置のカム位相変更機構を、遠心ウエイトが初期位置にある状態で示す要部端面図(図1の2矢視図)
図3】上記カム位相変更機構の要部を示す一部破断端面図であって、(a)はアームが第1揺動位置、遠心ウエイトが第1相対位置にある状態を示し、(b)はアームが第2揺動位置、遠心ウエイトが第1相対位置にある状態を示し、(c)はアームが第1揺動位置、遠心ウエイトが第2相対位置にある状態を示す
図4】前記実施形態のカムリフトと位相の関係図であって、(a)はカムスプロケットが低速回転域にあるときを示し、(b)はカムスプロケットが第1高速回転域にあるときを示し、(c)はカムスプロケットが第2高速回転域にあるときを示す
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0027】
先ず、図1図3を参照して、本発明の一実施形態の構造を説明する。本実施形態は、本発明の遠心作動装置を内燃機関用動弁装置におけるカム位相可変機構に適用した一例である。図1図3において、車両例えば自動二輪車に搭載される内燃機関としてのSOHC型単気筒内燃機関のシリンダヘッドCHには、複数の動弁用カム(即ち吸・排気カム20c・10c)のうちの一部(即ち吸気カム20c)のカム位相だけを機関回転数の増大変化に応じて変更させるカム位相可変機構が設けられる。次に、カム位相可変機構の一例を具体的に説明する。
【0028】
シリンダヘッドCHには、内燃機関の図示しないクランク軸にチェーン伝動機構33を介して連動回転する第1カム軸10が、軸受B1,B2を介して軸線X回りに回転自在に支持される。第1カム軸10の一端部には、スプロケット歯30tを外周に有するカムスプロケット30が、第1カム軸10と同軸且つ一体に回転するように適当な固定手段(例えばボルト37と、図示しない回り止め手段の併用等)により一体的に締結される。カムスプロケット30と、クランク軸に固定の駆動スプロケット(図示せず)と、その両スプロケット間に巻き掛けられる無端状チェーン34とによりチェーン伝動機構33が構成される。そして、カムスプロケット30は、本発明の入力回転部材の一例である。
【0029】
第1カム軸10の外周部には、第1動弁カムとしての排気カム10cが一体に形成される。排気カム10cには、シリンダヘッドCHに揺動可能に軸支されて排気弁(図示せず)に係合する排気側ロッカアームR1が摺動可能に当接しており、第1カム軸10の回転に連動して排気カム10cが排気側ロッカアームR1を介して排気弁を開閉駆動する。
【0030】
また、第1カム軸10の外周部には、第2動弁カムとしての吸気カム20cを一体に有する円筒状の第2カム軸20が同一軸線X回りに相対回動可能に嵌合、支持される。吸気カム20cには、シリンダヘッドCHに揺動可能に軸支されて吸気弁(図示せず)に係合する吸気側ロッカアームR2が摺動可能に当接しており、第2カム軸20の回転に連動して吸気カム20cが吸気側ロッカアームR2を介して吸気弁を開閉駆動する。そして、第2カム軸20は、本発明の被動部材の一例である。
【0031】
尚、本実施形態では、第1カム軸10を支持する複数の軸受B1,B2のうちの一部の軸受B2が、吸気カム20の外側方で第2カム軸20の外周部に装着される。即ち、第1カム軸10は、軸受B1,B2及び第2カム軸20を介してシリンダヘッドCHに回転自在に支持される。
【0032】
また第2カム軸20の外端部には、カムスプロケット30の内側面(図1で右側面)に隣接する従動フランジ21が、適当な固定手段(例えば圧入、溶接、スプライン圧入等)で一体的に連結される。尚、本実施形態では従動フランジ21を第2カム軸20と別々に制作して第2カム軸20に後付けで固定しているが、従動フランジ21を第2カム軸20に一体に形成してもよい。
【0033】
次にカムスプロケット30及び第2カム軸20間に設けられる遠心作動装置Mの一例を説明する。
【0034】
カムスプロケット30には、ピボット軸40を介してアームAの基部が支持されており、アームAは、径方向内方寄りの第1揺動位置1A(図2図3(a)(c)参照)と、径方向外方寄りの第2揺動位置2A(図3(b)参照)との間を、ピボット軸40回りに揺動可能である。ピボット軸40は、カムスプロケット30に固定(例えば圧入)されていて、カムスプロケット30の外側面より外方に突出する。ピボット軸40の中間部外周には、サークリップ等の止め輪51が係止されており、止め輪51は、アームAに係合してアームAのピボット軸40上での軸方向移動を規制する。
【0035】
アームAの先部には、ピボット軸40と平行な連結ピンDを介して遠心ウエイトWの基部が連結されており、遠心ウエイトWは、アームAに対し径方向内方寄りの第1相対位置1W(図2図3(a)(b)参照)と、径方向外方寄りの第2相対位置2W(図3(c)参照)との間を連結ピンD回りに屈伸、揺動可能である。遠心ウエイトWは、連結ピンDより離間したウエイト先部が基部よりも幅広に形成されており、これにより、遠心ウエイトWの重心位置は、遠心ウエイトWの先部寄りに偏在する。
【0036】
連結ピンDは、本実施形態では遠心ウエイトW、アームA及び従動フランジ21を回転可能に貫通しており、例えば連結ピンDの外端部外周に係止されて遠心ウエイトWの外側面に係合し得るサークリップ等の止め輪52と、連結ピンDの内端部外周に係止されて従動フランジ21の内側面に係合し得るサークリップ等の止め輪53とにより、連結ピンDの抜け止めがなされる。尚、連結ピンDは、上記止め輪52,53で抜け止めする代わりに、遠心ウエイトW又はアームAに軸方向移動不能に固定してもよい。
【0037】
遠心ウエイトW及びアームA間には、アームAが少なくとも第1揺動位置1AにあるときにアームAに対し遠心ウエイトWを第1相対位置1W側へ弾発、付勢し得る第1ばね部材41が介装される。第1ばね部材41は、例えば引張コイルばねで構成され、これの一端及び他端は、アームA及び遠心ウエイトWの各中間部に突設したばね受け軸45,46にそれぞれ係止される。
【0038】
またアームA及び遠心ウエイトW間には、第1ばね部材41の付勢力に抗して遠心ウエイトWを第1相対位置1Wに保持し得る保持手段Hが設けられる。保持手段Hは、本実施形態ではアームAの先部に一体に突設されて遠心ウエイトW側に張り出すストッパ突起Asと、遠心ウエイトWが第1相対位置1Wにあるときにストッパ突起Asを係合させるよう遠心ウエイトWの基部側面に凹設される被係合部Wsとを備える。尚、本実施形態とは逆に、遠心ウエイトWの基部にストッパ突起を、またアームAの先部に被係合部を設けるようにしてもよい。尚また、被係合部を突起状に形成してもよい。
【0039】
また本実施形態の第1ばね部材41は、アームAに対し遠心ウエイトWが第1相対位置1Wから第2相対位置2Wへ揺動する途中で、第1ばね部材41の遠心ウエイトWに対する付勢方向が、第1相対位置1W側から第2相対位置2W側へ切り替わるように、第1ばね部材41とアームA・遠心ウエイトWとの各係止部(即ちばね受け軸45,46)、並びに連結ピンDの相対位置が設定される。この設定態様として、例えば、本実施形態ではアームAに対し遠心ウエイトWが第1相対位置1Wから第2相対位置2Wへ揺動する途中(例えばその揺動過程の前半、望ましくは初期段階)で、連結ピンDが、ばね受け軸45,46相互を結ぶ仮想直線を横切るように設定される。
【0040】
このように遠心ウエイトWが第1相対位置1Wから第2相対位置2Wへ揺動する途中で、第1ばね部材41の付勢方向が第1相対位置1W側から第2相対位置2W側へ切り替わると、以後は、遠心ウエイトWの第2相対位置2W側への揺動が第1ばね部材41により助勢されるようになるため、後述するように第2カム軸20を第1作動態様(第1回転位相)の側へ速やかに変位させることが可能となる。
【0041】
尚、上記したように遠心ウエイトWの第1相対位置1Wから第2相対位置2Wへの揺動途中で第1ばね部材41の付勢方向が第1相対位置1W側から第2相対位置2W側へ切り替わる設定に代えて、第1ばね部材41の付勢方向が終始、第1相対位置1W側であるような設定(即ち遠心ウエイトWの第1相対位置1Wから第2相対位置2Wへの揺動途中でも連結ピンDが上記仮想直線を横切らない設定)も、変形例として実施可能である。
【0042】
カムスプロケット30には、連結ピンDのピボット軸40回りの揺動を許容するように連結ピンDを挿通させる孔としてのガイド孔30hが設けられる。ガイド孔30hは、ピボット軸40の軸線を中心とする円弧状に形成され、ガイド孔30hの長手方向一端にピボット軸40が係合することでアームAは第1揺動位置1Aに位置規制され、それ以上は径方向内方側に揺動不能となる。またガイド孔30hの長手方向他端にピボット軸40が係合することでアームAは第2揺動位置2Aに位置規制され、それ以上は径方向外方側に揺動不能となる。
【0043】
ガイド孔30hの特設によれば、アームAがカムスプロケット30に対しピボット軸40回りに揺動するときに、アームAと共に揺動する連結ピンDがカムスプロケット30と干渉せず、即ち、連結ピンDはガイド孔30hに沿ってスムーズに摺動可能である。また、ガイド孔30hを本実施形態のようにカムスプロケット30の概ね径方向に延びる長孔で構成すれば、連結ピンDが後述する如く従動フランジ21と連動連結され(従って第2カム軸20のトルク変動が連結ピンDに伝達され)ても、その変動トルクをガイド孔30hの内壁面で安定よく受け止めさせることができるため、連結ピンDの振動防止に有効である。
【0044】
尚、ガイド孔30hは、ピボット軸40の軸線を中心とする円弧状長孔とは曲率又は曲率中心が異なる長孔で形成してもよいが、その場合でも、連結ピンDのピボット軸40回りの揺動を許容する長孔とする必要がある。或いは、ガイド孔30hの形状を、本実施形態のような長孔に代えて、連結ピンDの揺動を許容しつつその揺動範囲を規定する機能を果たす別形状の孔、例えば円孔に形成してもよい。
【0045】
連結ピンDは、前述のようにアームAに対し遠心ウエイトWが第1,第2相対位置1W,2W間で屈伸、揺動し得るように、アームA及び遠心ウエイトW間を連結する機能を果たすものであるが、本実施形態では更にアームA及び従動フランジ21(従って第2カム軸20)間を連動連結する機能をも兼備するものである。そのために、従動フランジ21には、連結ピンDの内端部を摺動可能に挿通させる長孔21hが、径方向に延びるように形成される。そして、長孔21h及び連結ピンDは、互いに協働して本発明の連結機構Iの一例を構成する。尚、長孔21hの径方向外端は、本実施形態では閉じられているが、従動フランジ21の外周面に開口させてもよい。
【0046】
更に本実施形態の遠心作動装置Mは、遠心ウエイトWの遠心力で遠心ウエイトWと一体的に拡径揺動するアームAが第2揺動位置2Aに達した後、遠心ウエイトWの遠心力が更に増大したときに、その遠心力で遠心ウエイトWが、アームAを第1揺動位置1A側に揺動させつつアームAに対し第2相対位置2W側に屈折、揺動するように、遠心ウエイトWの移動経路を規制する経路規制手段Kを備えている。
【0047】
経路規制手段Kは、例えば、カムスプロケット30の外側面に突設したストッパとしてのストッパピン60と、遠心ウエイトWに設けられてアームAの第1揺動位置1Aから第2揺動位置2Aへの揺動に伴いストッパピン60が進入可能な略L字状の案内溝Wgとを備える。案内溝Wgの一端は、遠心ウエイトWの径方向外方側の側面Wfに開口していてストッパピン60の案内溝Wgへの出入口として機能する。
【0048】
案内溝Wgは、後述するように、カムスプロケット30が第1高速回転域から更に高速の第2高速回転域で増速(即ち回転速度が上昇)するときは、案内溝Wgの径方向内方側の内側面Wgiをストッパピン60に摺接させてストッパピン60を支点とすることにより、遠心ウエイトWを第1相対位置1Wから第2相対位置2Wに向けて確実に揺動させる。また、カムスプロケット30が第2高速回転域で減速(即ち回転速度が下降)するときは、案内溝Wgの径方向外方側の内側面Wgoをストッパピン60に摺接させてストッパピン60を支点とすることにより、遠心ウエイトWを第1相対位置1Wに向けて確実に戻り揺動させる。
【0049】
遠心作動装置Mは、以上説明した遠心ウエイトW、連動機構I、アームA、ピボット軸40及び経路規制手段Kの組を2組具備するものであり、その2組が、カムスプロケット30の回転軸線Xを挟んで点対称に配置される。
【0050】
また遠心作動装置Mは、カムスプロケット30が低速回転域にあるとき(即ち遠心ウエイトWに作用する遠心力が所定値以下の小さい場合)に、アームAを第1揺動位置1Aに、また遠心ウエイトWを第1相対位置1Wにそれぞれ付勢、保持する第2ばね部材42を備える。第2ばね部材42は、本実施形態では上記2組のうちの何れか一方の組の遠心ウエイトWの先部(本実施形態で先部に固定したばね受け軸47)と何れか他方の組のピボット軸40との間に介装される引張コイルばねで構成される。
【0051】
尚、第2ばね部材42の固定端を、本実施形態のようにピボット軸40に結合する代わりに、カムスプロケット30、又はカムスプロケット30上の適当な固定物に結合してもよい。
【0052】
而して、連結機構Iは、後述するように、第2カム軸20が第1作動態様におかれるカムスプロケット30の低速回転域(図2図3(a)参照)から、第2カム軸20が第2作動態様となる第1高速回転域(図3(b)参照)へ移行した状態でカムスプロケット30が増速したときは、遠心ウエイトWを第1相対位置1Wに保持したまま遠心ウエイトWと共にアームAが第1揺動位置1Aから第2揺動位置2Aまで揺動するのに連動して、連結ピンDが長孔21hを径方向外方側へ摺動しながら第2カム軸20をカムスプロケット30に対し一方向(図3で反時計方向)に相対回動させるものであり、その相対回動により第2カム軸20の位相が進角側に変化する。ここで第1作動態様とは、カムスプロケット30に対する第2カム軸20の位相が変化しない作動態様をいい、また第2作動態様とは、第2カム軸20の位相がカムスプロケット30の速度上昇に応じて進角側に変化する作動態様をいう。
【0053】
また連結機構Iは、後述するようにカムスプロケット30が第1高速回転域から更に高速の第2高速回転域(図3(c)参照)へと移行した状態で増速したときは、遠心ウエイトWが第1相対位置1Wから第2相対位置2Wへ揺動し且つアームAが第2揺動位置2Aから第1揺動位置1A側へ揺動するのに連動して、連結ピンDが長孔21hを径方向内方側に摺動しながら第2カム軸20をカムスプロケット30に対し他方向に相対回動(図3で時計方向)させることにより、第2カム軸20を第1作動態様の位相に戻る側(即ち遅角側)へ変位させる。
【0054】
次に、前記実施形態の作用について、図4も併せて参照して説明する。
【0055】
内燃機関が低速回転域、例えば機関回転数が4000rpm以下の回転域にあるとき(即ちクランク軸に連動回転するカムスプロケット30が低速回転域にあるとき)は、遠心ウエイトWは、遠心力が比較的小さいため、その遠心力を上回る第2ばね部材42の付勢力が、図2図3(a)に示す如く遠心ウエイトWを第1相対位置1Wに保持すると共にアームAを第1揺動位置1Aに保持する。これにより、遠心ウエイトW及びアームA間の連結ピンDがカムスプロケット30に対し定位置に保持されるため、連結ピンDに長孔21hを介して連結される従動フランジ21が、カムスプロケット30に対し所定の相対回動位置に固定され、従って、従動フランジ21に固定の第2カム軸20が、位相を変化させない第1作動態様で第1カム軸10と一体回転する。
【0056】
かくして、吸気カム20cを一体に有する第2カム軸20は、内燃機関の低速回転域においては第1作動態様、即ち低速回転域において好適な開弁特性で吸気弁を開閉駆動する作動態様(例えば、図4(a)に示す吸気弁のリフトカーブに対応した第1位相を参照)となる。
【0057】
また内燃機関が中速回転域、例えば機関回転数が4000rpmを超え且つ6000rpm以下の回転域に移行(即ちカムスプロケット30が第1高速回転域に移行)した状態で機関回転数が上昇すると、その上昇につれて増大する遠心力に応じて遠心ウエイトWは、第2ばね部材42の付勢力に抗して径方向外方側へアームAと一体的に揺動する。このとき、アームAは、遠心ウエイトWを第1相対位置1Wに保持しながら、第1揺動位置1Aから第2揺動位置2W(図3(b)参照)に向かって揺動する。これにより、アームAと共に揺動する連結ピンDに長孔21hを介して連動連結される第2カム軸20が、カムスプロケット30に対し進角側に相対回動する。そして、この相対回動によれば、カムスプロケット30に対し第1カム軸10の位相を変更させないで第2カム軸20の位相のみが進角側に変更され、その進角量は、内燃機関の中速回転域で機関回転数(従って遠心ウエイトWの遠心力)が増えるにつれて徐々に増加する。
【0058】
かくして、第2カム軸20は、内燃機関の中速回転域においては第2作動態様、即ち中速回転域で好適な開弁特性で吸気弁を開閉駆動する作動態様(例えば、図4(b)に示す吸気弁のリフトカーブに対応した第2位相を参照)に切換わる。そして、この第2作動態様においては、アームA(従って連結ピンD)が第1揺動位置1Aから第2揺動位置2Aに揺動するのに応じて、吸気カム20cの位相が第1位相から第2位相へと変化するため、吸気弁の開閉時期を機関回転数の上昇に応じて進角させることができる。一方、排気カム10cの位相は常に一定、即ち中速回転域になっても変化しないので、吸気弁の上記進角により、吸気弁及び排気弁が共に開いているバルブオーバラップ期間が長くなって掃気効率を高めることができる。これにより、内燃機関の中速運転性能を向上させることができる。
【0059】
また内燃機関が中速回転域から高速回転域(例えば機関回転数が6000rpmを超えた回転域)に達すると、図3(b)に示すようにアームAが第2揺動位置2Wで揺動停止すると共に、ストッパピン60が遠心ウエイトWの案内溝Wgに進入して案内溝Wgの径方向内方側の内側面Wgiに係合する。この係合によれば、遠心ウエイトWが更に拡径揺動しようとしても、遠心ウエイトWの移動経路がストッパピン60により制限される。そのため、この状態から機関回転数が更に上昇して遠心ウエイトWの遠心力が更に増大すると、遠心ウエイトWは、案内溝Wgの内側面Wgiにストッパピン60を摺接させ同ピン60を支点とすることで、第1相対位置1Wから第2相対位置2Wに向かって連結ピンD回りに拡径揺動する。このとき、遠心ウエイトWの基部に連結ピンDを介して連結されるアームAは、遠心ウエイトWの拡径揺動に連動して、それまでの第2揺動位置2Wから第1揺動位置1Wに向けて揺動(即ち遠心ウエイトWに対し屈折揺動)する。
【0060】
これにより、アームAと共に揺動する連結ピンDに長孔21hを介して連動連結される第2カム軸20が、カムスプロケット30に対し相対回動する。この相対回動によれば、カムスプロケット30に対し第1カム軸10の位相を変更させないで第2カム軸20の位相のみが遅角側に変更され、その遅角量(より具体的には上記第2作動態様で最も進角したときの第2位相に対する遅角量)は、内燃機関の高速回転域で機関回転数が上昇するにつれて増加し、最終的には第2カム軸20の位相が第1位相まで復帰可能である。
【0061】
かくして、内燃機関が高速回転域に移行後も機関回転数が更に上昇するときは、第2カム軸20の位相は、第1作動態様の位相(例えば図4の(c)に示す吸気弁のリフトカーブに対応した第1位相を参照)に近づく側へ戻るように変化する。即ち、内燃機関の高速回転域での吸気カム20cの位相は、中速回転域で最も進角したときの第2位相よりも遅角されるので、高速回転域でのバルブオーバラップ期間を中速回転域のときよりも短くすることができる。
【0062】
尚、高速回転域にある内燃機関が減速する場合には、遠心力の減少に伴い、遠心ウエイトWが第1相対位置1Wに向けて縮径揺動しようとする。このとき、遠心ウエイトWの案内溝Wgは、径方向外方側の内側面Wgoにストッパピン60を摺接させ同ピン60を支点とすることで、遠心ウエイトWを第2相対位置2Wから第1相対位置1Wに向けて揺動させるので、遠心ウエイトWの第1相対位置1Wへの戻り揺動(従って第2カム軸20の第2作動態様への復帰)が確実に行われる。しかも遠心ウエイトWの第2相対位置2Wへの揺動を案内する案内溝Wgを、遠心ウエイトWの第1相対位置1Wへの戻り揺動の案内手段にも兼用できるため、それだけ経路規制手段Kの構造簡素化が図られる。またストッパピン60は、空間的に比較的余裕のある遠心ウエイトWの径方向外方側のスペースに配置されるため、それだけ配置の自由度が高くなる。
【0063】
ところで内燃機関が特に高回転となる高速回転域(例えば6000rpm超え)では、吸気流が特に高速で燃焼室に供給されるため、仮にバルブオーバラップ期間を比較的長くする(例えば内燃機関の中速回転域(4000rpm〜6000rpm)でのバルブオーバラップ期間と同様にする)場合には、バルブオーバラップ期間中に燃焼室を素通りして排気系に流れる吸気の流量が増えることになって、寧ろ吸気効率が低下する恐れがある。一方、内燃機関の高速回転域では、慣性過給効果が十分に見込まれるため、バルブオーバラップ期間が比較的短く設定されても燃焼室に吸気を効率よく供給可能である。従って、内燃機関の高速回転域においては、本実施形態のように中速回転域よりも遅角、即ちバルブオーバラップ期間を比較的短くした方が、全体として吸気効率を効果的に高めることができ、これにより、内燃機関の高速運転性能を向上させることができる。
【0064】
かくして、本実施形態によれば、内燃機関の低速回転域(即ちカムスプロケット30の低速回転域)では吸気カム20cに低速回転域で好適な第1位相を与える第1作動態様となり、且つ内燃機関の中速回転域(即ちカムスプロケット30の第1高速回転域)では吸気カム20cに、第1位相よりも進角させた(即ち中速回転域で好適な)第2位相を与える第2作動態様となり、且つ内燃機関が高速回転域へ移行(即ちカムスプロケット30が第2高速回転域へ移行)したときは機関回転数の上昇に応じて吸気カム20cを第1位相の側に戻すように、第2カム軸20が作動制御される。これにより、内燃機関の中速〜高速回転域のうち特に高速回転域では、吸気カム20cを第1位相側へ戻すことが望ましい特性のSOHC型内燃機関において好適な弁作動態様となる。
【0065】
上記したように本実施形態では、カムスプロケット30の回転速度の上昇(即ち低速回転域→第1高速回転域→第2高速回転域)に伴い第2カム軸20の特別な作動態様切換え(即ち位相固定(第1作動態様)→進角制御(第2作動態様)→遅角制御)を、構造簡単な遠心作動装置Mを以て的確に行うことができる。
【0066】
即ち、遠心作動装置Mは、カムスプロケット30にピボット軸40を介して支持されるアームAと、アームAに対し遠心ウエイトWが第1,第2相対位置1W,2W間で揺動し得るようにアームA及び遠心ウエイトW間を連結する連結機構IであってアームA及び従動フランジ21間の連動機構を兼ねる連結機構Iと、アームAが第2揺動位置2Aに達した後も更に増大する遠心力で遠心ウエイトWが、アームAを第1揺動位置1A側に揺動させつつアームAに対し第2相対位置2W側に揺動するように、遠心ウエイトの移動経路を規制する経路規制手段Kとを具備しており、これらが互いに協働して遠心ウエイトWの拡径揺動に第2カム軸20を機械的に連係させて、第2カム軸20の上記特別な作動態様切換えを行うようにしている。
【0067】
これにより、特許文献1の従来装置と比べて遠心作動装置Mの構造が簡素化されると共に部品点数も低減されるから、コスト節減や組立作業性及びメンテナンス作業性の向上が図られる。また特に本実施形態の連結機構Iは、アームA及び遠心ウエイトW間を揺動可能に連結する連結ピンDと、従動フランジ21に形成されて連結ピンDを摺動可能に挿通させる長孔21hとを備えるため、アームA及び遠心ウエイトW間の連動連結手段とアームA及び従動フランジ21間の連動連結手段とを兼ねる連結構造を頗る簡素化することができ、更なるコスト節減が図られる。
【0068】
また本実施形態では、内燃機関が低速回転域(従ってカムスプロケット30が低速回転域)にあるときに、アームAを第1揺動位置1Aに、また遠心ウエイトWを第1相対位置1Wにそれぞれ付勢、保持する第2ばね部材42を備えている。これにより、カムスプロケット30が第1高速回転域から低速回転域に移行するように減速したときは、第2ばね部材42の付勢力により、遠心ウエイトW及びアームAを各初期位置(即ち第1相対位置1W・第1揺動位置1A)へスムーズ且つ確実に復帰動作させることができる。しかも、カムスプロケット30が低速回転域から第1高速回転域に移行するように増速する場合に、初期位置の遠心ウエイトWがアームAと共に拡径揺動を開始する回転数を、第2ばね部材42のセット荷重の調整により容易に設定、調整可能となる。
【0069】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0070】
例えば、前記実施形態では、本発明の遠心作動装置M付きカム位相可変機構を、動弁カムとしての吸気カム20cの位相変更に用いたものを示したが、本発明では、動弁カムとしての排気カム10cの位相変更に用いるようにしてもよい。その場合には、内燃機関の低速回転域では排気カム10cに低速回転域で好適な第1位相を与える第1作動態様となり、且つ第1高速回転域(中速回転域)では排気カム10cに、第1位相よりも遅角させた第2位相を与える第2作動態様となり、且つまた第1高速回転域から第2高速回転域へ移行するのに応じて排気カム10cを第1位相の側に戻す(即ち進角させる)ように、第1カム軸10を制御することが望ましく、その場合には、第1高速回転域において排気弁を遅角させることにより、バルブオーバラップ期間が長くなって掃気効率を高めることができる。
【0071】
また前記実施形態では、第1,第2動弁カム10c,20cのうちの何れか一方を排気カム10c、また何れか他方を吸気カム20cとしたものを示したが、本発明では、第1,第2動弁カム10c,20cを両方とも吸気カム(即ち第1,第2吸気カム)とし又は両方とも排気カム(即ち第1,第2排気カム)とした内燃機関に適用してもよい。
【0072】
また、前記実施形態では、動弁装置が設けられる内燃機関を単気筒エンジンとしたものを示したが、多気筒(例えば2気筒)エンジンに適用してもよい。この場合は、各気筒毎に本発明の遠心作動装置付きカム位相可変機構を設けるようにする。
【0073】
また、前記実施形態では、動弁装置が設けられる内燃機関をSOHC型エンジンとしたものを示したが、本発明は、DOHC型エンジンに適用してもよい。この場合は、吸気弁及び排気弁毎に設けられる吸気用カム軸及び排気用カム軸のうちの少なくとも一方のカム軸に本発明のカム位相可変機構を設けるようにする。
【0074】
また、前記実施形態では自動二輪車用内燃機関を示したが、本発明は、自動二輪車以外の車両に搭載される内燃機関に適用してもよく、或いは車両用以外の用途の内燃機関(例えば定置式の内燃機関)に適用してもよい。
【0075】
尚、機関回転数(特に車両用内燃機関の場合は車速)と吸,排気バルブの開閉タイミングとの最適な関係は、内燃機関の構造や仕様によって様々に設定可能である。例えば、内燃機関の機種や要求特性によっては、吸気カム20cを第1高速回転域では低速回転域のときよりも遅角させ、第2高速回転域では第1高速回転域のときよりも進角側に戻すようにしてもよい。
【0076】
また、前記実施形態では、遠心ウエイトWが、回転入力部材(カムスプロケット30)を挟んで従動フランジ21とは反対側、特にカムスプロケット30の軸方向外側に配置されるものを示したが、本発明では、遠心ウエイトWをカムスプロケット30の軸方向内側に配置してもよく、この場合は、カムスプロケット30の軸方向外側に配置した従動フランジ21と第1カム軸10との間を、カムスプロケット30を緩く貫通する連結腕で一体的に結合すればよい。
【0077】
また、前記実施形態では、内燃機関が第2高速回転域にあるときの第2カム軸20の位相を、第2位相(第1高速回転域での位相)から第1位相(低速回転域での位相)まで戻すようにしたものを示したが、本発明では、内燃機関が第2高速回転域にあるときの第2カム軸20の位相を、内燃機関の機種や要求特性によっては、第1位相の手前側(即ち第1位相と第2位相の間の位相)まで戻すように構成することも可能である。
【0078】
また前記実施形態では、経路規制手段Kの案内溝Wgがカムスプロケット30側に開放した有底溝であるものを示したが、本発明の案内溝Wgは、溝底の一部又は全部が抜けているもの(即ち案内溝Wgの一部又は全部が、第2カム軸20の軸方向に貫通した切欠き通路状に形成されるもの)も含む広い概念である。
【符号の説明】
【0079】
A・・・・・・アーム
D・・・・・・連結ピン
H・・・・・・保持手段
I・・・・・・連結機構
K・・・・・・経路規制手段
M・・・・・・遠心作動装置
W・・・・・・遠心ウエイト
Wf・・・・・側面
Wg・・・・・案内溝
Wgi・・・・径方向内方側の内側面
Wgo・・・・径方向外方側の内側面
1A,2A・・第1,第2揺動位置
1W,2W・・第1,第2相対位置
10・・・・・第1カム軸
10c・・・・排気カム(第1動弁カム)
20・・・・・第2カム軸(被動部材)
20c・・・・吸気カム(第2動弁カム)
21h・・・・長孔
30・・・・・カムスプロケット(回転入力部材)
30h・・・・ガイド孔(孔)
40・・・・・ピボット軸
41,42・・第1,第2ばね部材
60・・・・・ストッパピン(ストッパ)
図1
図2
図3
図4