【解決手段】まず、既知の生体試料を中心波長の異なる複数の波長帯域で撮影することにより、複数の学習用画像を取得する。次に、取得した学習用画像について、画素ごとに、波長プロファイルを得る。続いて、波長プロファイルに応じて、学習用画像の各画素を複数のクラスターに分類する。その後、学習用画像に含まれる領域ごとに、クラスターの情報を学習する。一方、観察対象の生体試料についても、同様に画像を取得し、得られた画像の各画素を、複数のクラスターに分類する。そして、当該クラスターの情報と、上述した学習の結果とに基づいて、観察対象画像に含まれる複数種類の領域を判定する。これにより、観察対象画像に含まれる複数種類の領域を自動的に判定できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
<1.細胞観察装置の構成>
図1は、本発明の領域判定方法を実行する装置の一例である細胞観察装置1の構成を示した概略図である。この細胞観察装置1は、細胞92の画像を取得するとともに、得られた画像を解析する装置である。細胞観察装置1の使用時には、装置内の所定の撮影位置Pに、培養容器9が配置される。培養容器9内には、培養液91とともに、生体試料である細胞92が保持される。
【0021】
図2は、培養容器9の斜視図である。培養容器9は、複数の窪部900を有するウェルプレートである。複数の窪部900は、二次元的に規則的に配列されている。また、各窪部900は、光透過性の底部を有する。培養容器9は、各窪部900内に、培養液91を収容するとともに、観察対象である細胞92を培養液91内に保持する。各窪部900の内部において細胞92を培養することにより、窪部900の底部に沿って細胞92が培養される。以下では、培養容器9と、培養容器9内の培養液91および細胞92を併せて試料90と称する。なお、培養容器9は、ウェルプレートに代えて、ガラスや樹脂等で形成された光透過性のシャーレであってもよい。
【0022】
図1に示すように、細胞観察装置1は、照明部20と、撮像光学系30と、撮像部40と、コンピュータ60とを有する。照明部20、撮像光学系30および撮像部40は、装置本体(図示せず)に支持される。
【0023】
照明部20は、光源21と、照明光学系22とを含む。照明部20は、撮影位置Pの上方に配置される。照明部20は、細胞92の撮影時に、撮影対象となる試料90に対して上側から照明光を照射する。
【0024】
本実施形態の光源21は、ハロゲンランプである。このため、光源21は、多数の波長の光が混在する白色光を出射する。
【0025】
照明光学系22は、バンドパスフィルタ50と、コレクタレンズ221、視野絞り222、開口絞り223、およびコンデンサレンズ224とを有する。光源21から出射された照明光は、コレクタレンズ221、視野絞り222、バンドパスフィルタ50、開口絞り223およびコンデンサレンズ224を順に通過した後、試料90に照射される。
【0026】
バンドパスフィルタ50は、特定の狭波長帯域を通過帯域とする光学フィルタである。バンドパスフィルタ50は、光源21から出射された、広い波長帯を有する白色光のうち、狭波長帯の光(単色光)のみを通過させる。照明光学系22がバンドパスフィルタ50を含むことにより、照明部20は、試料90に対して、狭波長帯の照明光を照射する。また、本実施形態のバンドパスフィルタ50には、通過帯域を変化させることが可能なフィルタ(例えば、液晶チューナブルフィルタ)が用いられる。
【0027】
コレクタレンズ221は、光源21から出射された照明光の向きを調整するレンズである。視野絞り222は、撮影位置Pにおける照明領域を調節する。開口絞り223は、照明光学系22の開口数NAを調整する。コンデンサレンズ224は、照明光を集光させる。照明光学系22の開口数NAは、例えば、0.3以下とすることが好ましい。
【0028】
撮像光学系30は、撮影位置Pと撮像部40との間に配置される。撮像光学系30は、対物レンズ31、開口絞り32、結像レンズ33、ビームスプリッター34および接眼レンズ35を有する。対物レンズ31は、観察対象を拡大して像を映し出すためのレンズである。開口絞り32は、撮像光学系30の開口数NAを調整する。結像レンズ33は、撮像部40の受光面および接眼レンズ35に撮像対象物の像を結像させる。ビームスプリッター34は、結像レンズ33を通過した光を撮像部40側と接眼レンズ35側とに分岐させる。
【0029】
照明部20により照射され、試料90を透過した光は、対物レンズ31、開口絞り32および結像レンズ33を介して進む。そして、ビームスプリッター34において接眼レンズ35へと向かう光と、撮像部40へと向かう光とに分かれる。ビームスプリッター34は、接眼レンズ35へ向かう光と撮像部40へ向かう光との比率を、切り替え可能であってもよい。接眼レンズ35は、結像位置350よりもビームスプリッター34から離れた位置に配置される。接眼レンズ35は、観察者が観察を行う際に覗くレンズである。対物レンズ31で拡大した像を接眼レンズ35でさらに拡大して観察できる。
【0030】
なお、
図1において、照明光学系22および撮像光学系30を構成する各部は、光軸に沿って一列に配列されている。しかしながら、照明光学系22および撮像光学系30における光路は、反射鏡等によって折り返されてもよい。
【0031】
撮像部40は、受光面に結像した試料90の二次元画像を、デジタル画像データとして取得する。すなわち、撮像部40は、撮影位置Pに配置された細胞92を撮像する。撮像部40には、例えば、CCDカメラや、CMOSカメラが用いられる。
【0032】
この細胞観察装置1では、照明部20が、上述したバンドパスフィルタ50によって、白色光よりも波長帯域が小さい狭波長帯の照明光を試料90へ照射する。また、この細胞観察装置1は、バンドパスフィルタ50の通過帯域を変化させることができる。このため、撮像部40は、中心波長の異なる複数の波長帯域において、細胞92の画像を取得することが可能である。
【0033】
なお、本実施形態では、照明部20が試料90の上方から照明光を照射し、撮像部40が試料90の下方からの映像を撮像する。しかしながら、本発明の細胞観察装置は、このような構造に限られない。照明部20が試料90の下方から照明光を照射し、撮像部40が試料90の上方からの映像を撮像してもよい。
【0034】
コンピュータ60は、細胞観察装置1内の各部を動作制御する制御部としての機能と、撮像部40により取得された画像を処理して、画像に含まれる複数種類の領域を判定する画像処理部としての機能と、を有する。
図1中に概念的に示したように、コンピュータ60は、CPU等のプロセッサ601、RAM等のメモリ602、およびハードディスクドライブ等の記憶部603を有する。記憶部603には、動作制御プログラムP1と画像処理プログラムP2とが、記憶されている。また、コンピュータ60は、上述した光源21、バンドパスフィルタ50、および撮像部40と、電気的に接続されている。
【0035】
コンピュータ60は、動作制御プログラムP1に従って動作することにより、上述した光源21、バンドパスフィルタ50、および撮像部40を動作制御する。これにより、細胞観察装置1における細胞92の撮影処理が進行する。後述の通り、この細胞観察装置1では、バンドパスフィルタ50の通過帯域を変化させつつ、複数回の撮影を行う。これにより、コンピュータ60は、撮像部40から、複数の撮影画像I1〜Inを取得する。また、コンピュータ60は、複数の撮影画像I1〜Inに、画像処理プログラムP2に基づく画像処理を行う。これにより、1つのクラスター画像Ioを生成するとともに、クラスター画像Ioに含まれる複数種類の領域を判定する。
【0036】
<2.細胞観察装置を用いた細胞観察について>
続いて、上述した細胞観察装置1を用いて細胞92の観察を行うときの手順について、より詳細に説明する。
【0037】
図3は、細胞観察装置1を用いた観察処理の大まかな流れを示したフローチャートである。
図3に示すように、この細胞観察装置1を用いて細胞92の観察を行うときには、学習工程(ステップS1)と、実行工程(ステップS2)とが行われる。学習工程では、既知の細胞92の画像を取得し、画像の特徴を学習する。実行工程では、未知の細胞92の画像を取得し、ステップS1の学習により得られた情報に基づいて、未知の細胞92の画像に含まれる複数種類の領域を判定する。
【0038】
<2−1.学習工程について>
図4は、学習工程の流れを示したフローチャートである。学習工程では、まず、既知の細胞92が保持された培養容器9を、細胞観察装置1の撮影位置Pにセットする。そして、コンピュータ60に撮影開始の指示を入力する。すると、コンピュータ60は、光源21を点灯させて、細胞92に照明光を照射する。そして、コンピュータ60は、バンドパスフィルタ50と撮像部40とを動作させて、細胞92のマルチスペクトル撮影(多波長撮影)を行う(ステップS11)。すなわち、バンドパスフィルタ50の通過帯域を変化させつつ、撮像部40による細胞92の撮影を、複数回行う。
【0039】
図5は、ステップS11における撮影処理の流れを、より詳細に示したフローチャートである。
図5に示すように、ステップS11では、撮像部40による1回の細胞92の撮影(ステップS111)を実行した後、撮影すべき次の波長帯域があるか否かが、コンピュータ60によって判断される(ステップS112)。撮影すべき波長帯域の数は、例えば、4つ以上とすればよい。撮影すべき次の波長帯域がある場合には(ステップS112においてyes)、バンドパスフィルタ50の通過帯域を、その波長帯域に切り替えて(ステップS113)、再び細胞92の撮影を行う(ステップS111)。そして、予め設定された全ての波長帯域の撮影画像が取得されるまで、ステップS111〜S113の処理を繰り返す。やがて、撮影すべき波長帯域が無くなると(ステップS112においてno)、細胞観察装置1は、細胞92の撮影を終了する。これにより、中心波長の異なる複数の波長帯域において撮影された、複数の撮影画像I1〜In(n:2以上の整数)が得られる。以下では、この学習工程のマルチスペクトル撮影により得られる複数の撮影画像I1〜In(学習用画像)を、符号IAn〜IAnで表す。
【0040】
なお、
図5は、培養容器9内の1つの撮影視野についての撮影手順である。複数の撮影視野において学習用の撮影画像IA1〜IAnを取得したい場合には、細胞観察装置1は、撮影視野ごとに、
図5の処理を実行すればよい。
【0041】
図6は、ステップS11で取得された複数の撮影画像IA1〜IAnを、概念的に示した図である。複数の撮影画像IA1〜IAnは、それぞれ、複数の画素pにより構成される。コンピュータ60は、まず、複数の撮影画像IA1〜IAnについて、同一の座標に位置する画素p同士(例えば、
図5中に示した画素p同士)を比較する。そして、画素pが存在する座標(以下、「画素座標C」と称する)ごとに、波長プロファイルWを作成する(ステップS12)。具体的には、同一の画素座標Cに位置する画素p同士を比較して、輝度の変化を表す波長プロファイルWを作成する。そして、このような波長プロファイルWを、全ての画素座標Cについて作成する。
【0042】
その結果、例えば、
図7のように、波長帯域の変化に対する輝度の変化を表す波長プロファイルWが、画素座標Cごとに得られる。
図7の横軸は、撮影時の波長帯域の中心波長を示す。
図7の縦軸は、輝度を示す。
【0043】
図4に戻る。複数の波長プロファイルWが得られると、続いて、コンピュータ60は、各画素座標Cを、複数のクラスターに分類する(ステップS13)。ここでは、画素座標Cごとに、ステップS12で得られた波長プロファイルWを参照する。そして、各画素座標Cを、波長プロファイルWの特徴に応じて、予め用意された複数のクラスターの1つに分類する。このとき、コンピュータ60は、波長プロファイルWの特徴が近い画素座標Cを、同一のクラスターに分類する。例えば、波長プロファイルWの傾き、変曲点の数、変曲点の位置、輝度の平均値、輝度の最大値、輝度の最小値等の複数の要素を考慮して、画素座標Cを、複数のクラスターに分類する。
【0044】
また、ステップS13のクラスターの分類には、k−means法を用いてもよい。k−means法を用いる場合には、まず、複数の画素座標Cを、予め決められた数のクラスターに、ランダムまたは所定の法則に従って分類する。次に、各クラスターに属する波長プロファイルWの中心を求める。このとき、中心位置の計算に、各画素座標Cの波長プロファイルWの要素を含める。その後、複数の画素座標Cを、波長プロファイルWの中心が最も近いクラスターに分類し直す。コンピュータ60は、このような処理を、各画素座標Cの分類結果が変動しなくなるまで、あるいは、所定の停止条件を満たすまで繰り返す。このようなk−means法を用いれば、各画素座標Cを、波長プロファイルWに応じて、複数のクラスターに適切かつ自動的に分類できる。
【0045】
その後、コンピュータ60は、ステップS13の分類結果に基づいて、クラスター画像Ioを生成する(ステップS14)。以下では、この学習工程において生成されるクラスター画像Io(学習用画像)を、符号IAoで表す。ここでは、クラスター画像IAoの各画素に(すなわち各画素座標Cに)、分類されたクラスターに対応する階調値を割り当てる。階調値は、クラスターごとに予め決められた値であってもよく、撮影画像IA1〜IAnがもつ輝度値を使って、クラスターごとに算出された値であってもよい。これにより、1つの視野におけるクラスター画像IAoが得られる。
【0046】
図8は、ステップS11において取得される撮影画像IA1〜IAnの例を示した図である。
図9は、ステップS14において生成されるクラスター画像IAoの例を示した図である。
図8と
図9とを比較すると、
図8の撮影画像よりも、
図9のクラスター画像IAoの方が、細胞92の位置や形を明瞭に把握できる。すなわち、上述した波長プロファイルWに基づくクラスター分けによって、撮影画像IA1〜IAnよりも領域の分類に適したクラスター画像IAoが生成されていることが分かる。
【0047】
続いて、クラスター画像IAoに含まれる既知の複数種類の領域が指定される(ステップS15)。
図10は、ステップS15の領域指定の例を示した図である。ここでは、細胞観察装置1のユーザが、クラスター画像IAo内に存在する各領域を指定する。例えば、クラスター画像IAo内において、大型細胞の細胞質が存在する領域、大型細胞の核が存在する領域、小型細胞が存在する領域、細胞が存在しない領域、等の複数種類の領域をそれぞれ指定する。
図10の例では、クラスター画像IAoに対して、3種類の領域T1,T2,T3が指定されている。領域の指定は、例えば、ユーザが、コンピュータ60のディスプレイに表示されるクラスター画像IAoを見ながら、コンピュータ60の入力部を操作することにより、行えばよい。
【0048】
なお、上述したステップS11において、複数の撮影視野でマルチスペクトル撮影を行った場合には、上述したステップS14において、撮影視野ごとにクラスター画像IAoが生成される。その場合、ユーザは、ステップS15において、生成された各クラスター画像IAoについて、複数種類の領域を指定する。
【0049】
ユーザによる既知の領域の指定が完了すると、コンピュータ60は、指定された領域ごとに、クラスターの構成比率を学習する(ステップS16)。ここでは、まず、領域ごとに、クラスターの構成比率を示すヒストグラムHを作成する。
図11は、領域ごとに作成されたヒストグラムHの例を示した図である。ヒストグラムHの横軸は、ステップS13において分類されるクラスターを示す。
図11の縦軸は、画素数を示す。ヒストグラムHは、当該領域において、どのクラスターにどれだけの画素が属しているかを表す情報となる。
【0050】
コンピュータ60は、ステップS15において指定された領域ごとに、このようなヒストグラムHを作成する。そして、当該領域ごとに、ヒストグラムHの特徴を学習する。すなわち、クラスターの構成比率として任意の情報が入力されたときに、1つの領域を出力できるように、ヒストグラムHの特徴を一般化する。ステップS16の処理には、例えば、ランダムフォレストなどの機械学習の手法を用いることができる。ランダムフォレストを用いれば、クラスターの構成比率から各領域へ辿り着くための複数の条件分岐を、自動的に作成することができる。
【0051】
ステップS1の学習工程では、以上のステップS11〜S16を、既知の細胞92を含む複数の視野について行うことが好ましい。より多くの視野について学習を行えば、画像に含まれる複数種類の領域の特徴を、より精度よく得ることができる。したがって、後述する実行工程において、観察対象の画像に含まれる複数種類の領域を、より精度よく判定できる。
【0052】
<2−2.実行工程について>
以上の学習工程(ステップS1)が終了すると、次に、コンピュータ60は、実行工程(ステップS2)を行う。
【0053】
図12は、実行工程の流れを示したフローチャートである。実行工程では、まず、観察対象となる細胞92が保持された培養容器9を、細胞観察装置1の撮影位置Pにセットする。そして、コンピュータ60に撮影開始の指示を入力する。すると、コンピュータ60は、光源21を点灯させて、細胞92に照明光を照射する。そして、コンピュータ60は、バンドパスフィルタ50と撮像部40とを動作させて、細胞92のマルチスペクトル撮影を行う(ステップS21)。すなわち、バンドパスフィルタ50の通過帯域を変化させつつ、撮像部40による細胞92の撮影を、複数回行う。これにより、中心波長の異なる複数の波長帯域において撮影された、複数の撮影画像I1〜In(n:2以上の整数)が得られる。以下では、この実行工程のマルチスペクトル撮影により得られる複数の撮影画像I1〜In(観察対象画像)を、符号IBn〜IBnで表す。
【0054】
なお、マルチスペクトル撮影の詳細な手順については、ステップS11と同様であるため、重複説明を省略する。
【0055】
次に、コンピュータ60は、複数の撮影画像IB1〜IBnについて、上述したステップS12と同様に、画素座標Cごとに、波長プロファイルWを作成する(ステップS22)。すなわち、同一の画素座標Cに位置する画素p同士を比較して、波長帯域の変化に対する輝度の変化を表す波長プロファイルWを作成する。そして、このような波長プロファイルWを、全ての画素座標Cについて作成する。
【0056】
複数の波長プロファイルWが得られると、続いて、コンピュータ60は、上述したステップS13と同様に、各画素座標Cを、複数のクラスターに分類する(ステップS23)。ここでは、画素座標Cごとに、ステップS22で得られた波長プロファイルWを参照する。そして、各画素座標Cを、波長プロファイルWの特徴に応じて、予め用意された複数のクラスターの1つに分類する。ステップS23のクラスターの分類には、ステップS13と同様に、k−means法を用いてもよい。
【0057】
その後、コンピュータ60は、ステップS23の分類結果に基づいて、上述したステップS14と同様に、クラスター画像Ioを生成する(ステップS24)。以下では、この実行工程において生成されるクラスター画像Io(観察対象画像)を、符号IBoで表す。ここでは、クラスター画像IBoの各画素に(すなわち各画素座標Cに)、分類されたクラスターに対応する階調値を割り当てる。階調値は、クラスターごとに予め決められた値であってもよく、撮影画像IB1〜IBnがもつ輝度値を使って、クラスターごとに算出された値であってもよい。これにより、観察対象の撮影視野におけるクラスター画像IBoが得られる。
【0058】
続いて、コンピュータ60は、クラスター画像IBoに含まれる複数種類の領域を判定する(ステップS25)。ここでは、観察対象のクラスター画像IBoにおけるクラスターの分布と、上述したステップS16の学習結果とに基づいて、領域の判定が行われる。具体的には、観察対象のクラスター画像IBoを複数の小領域に分割し、各小領域のクラスターの構成比率に、ステップS16で得られた学習結果を適用して、各小領域が、上述したステップS15で指定された複数の領域のうち、どの領域に最も近似するかが判定される。例えば、ステップS16で、ランダムフォレストによる条件分岐を取得した場合には、クラスター画像IBoの各小領域のクラスターの分布を、当該条件分岐に当てはめて、辿り着く領域を判定結果とする。
【0059】
その後、コンピュータ60は、領域の判定結果を画面に表示する。例えば、クラスター画像IBoに、領域に応じた着色を施すことによって、各領域を、ユーザに対して視覚的に明示する。
【0060】
このように、この細胞観察装置1では、既知の細胞92の画像のクラスター分布を学習して、観察対象の細胞92のクラスター分布と比較することにより、観察対象の画像に含まれる複数種類の領域を判定する。これにより、観察対象の画像に含まれる複数種類の領域を、自動的かつ精度よく判定することができる。
【0061】
特に、この細胞観察装置1では、撮影画像の輝度そのもので領域を判定するのではなく、マルチスペクトル撮影により得られる複数の撮影画像から、クラスター分布を導出し、そのクラスター分布に基づいて、複数種類の領域を判定する。これにより、透明な細胞92の画像に含まれる複数種類の領域を、より精度よく判定することができる。
【0062】
<3.撮影条件について>
続いて、上述したステップS11およびステップS21における、好ましい撮影条件について、説明する。この細胞観察装置1では、無染色の細胞92を観察することを想定している。一般的に細胞92は無色透明に近いため、無染色状態の細胞92を明視野下で観察しようとすると、その構成要素の輪郭を特定しにくい。このため、ステップS11およびステップS21のマルチスペクトル撮影においては、コヒーレンスファクターσ、照明光の波長帯域の半値幅、および焦点位置を、適切に設定して、撮影画像のコントラストを高めることが好ましい。
【0063】
<3−1.コヒーレンスファクターについて>
初めに、コヒーレンスファクターσの条件について、
図13を参照しつつ説明する。
図13は、コヒーレンスファクターσの値を変化させて撮像部40が取得した撮影画像を示した図である。
【0064】
コヒーレンスファクターσは、照明光学系22の開口数NAと、撮像光学系30の開口数NAとの比である。具体的には、コヒーレンスファクターσは、照明光学系22の開口数NAを撮像光学系30の開口数NAで割った値である。コヒーレンスファクターσを小さくすることにより、撮像部40で取得できる画像のコントラストを向上できる。
【0065】
図13には、コヒーレンスファクターσの値をσ=1.00、σ=0.83、σ=0.58、σ=0.36、σ=0.26、およびσ=0.14とした場合の細胞92の撮影画像の例が示されている。
図13の例の細胞92は、細胞体921と、細胞体921から突出した突起922と、細胞体921の内部の微細構造923とを有する。なお、このときのバンドパスフィルタ50の中心波長は550nmであり、半値幅は39nmである。したがって、細胞92に照射される狭波長帯の照明光の中心波長は550nm、半値幅は39nmである。
【0066】
図13に示すように、コヒーレンスファクターσの値が小さくなるにつれ、細胞92の撮影画像のコントラストが向上する。特に、σ=0.83の場合にはぼやけていた細胞体921の輪郭が、σ=0.58の場合にははっきりと視認できる。また、σ=0.83の場合には視認が困難な突起922の輪郭や、細胞体921の微細構造923の輪郭の存在を、σ=0.58の場合には視認できる。このように、コヒーレンスファクターσの値をσ=0.6以下とすることにより、明視野において透明な細胞92の各部を視認できる程度まで、撮影画像のコントラストを向上できる。
【0067】
また、σ=0.58の場合にはぼやけていた突起922の輪郭や、細胞体921の微細構造923の輪郭を、σ=0.36の場合には視認できる。このように、コヒーレンスファクターσの値をσ=0.4以下とすることにより、明視野において透明な細胞92の各部をより鮮明に視認できる程度まで、撮影画像のコントラストをより向上できる。
【0068】
σ=0.26の場合には、σ=0.36の場合と同様、細胞体921の輪郭を鮮明に視認できる。また、σ=0.26の場合には、σ=0.36の場合よりもさらに撮影画像のコントラストが向上する。一方、σ=0.14の場合では、σ=0.26の場合と比べて明らかな視認性およびコントラストの向上は見られなかった。
【0069】
以上の結果より、上述したステップS11およびステップS21においては、コヒーレンスファクターσが0.6以下となるように、照明光学系22および撮像光学系30を調整して、マルチスペクトル撮影を行うことが好ましいと言える。また、コヒーレンスファクターσを0.4以下とすれば、より好ましいと言える。また、コヒーレンスファクターσを0.3以下とすれば、さらに好ましいと言える。
【0070】
<3−2.照明光の波長帯域の半値幅について>
次に、照明光の波長帯域の半値幅について、説明する。照明部20から照射される照明光は、細胞92の表面において屈折する。このとき、照明光が、白色光よりも波長帯域が小さい狭波長帯の光である場合には、白色光の場合よりも、屈折箇所における光の拡がりが少ない。すなわち、狭波長帯の照明光は、屈折後もほぼ同一方向へ進行する。このため、狭波長帯の照明光を用いれば、視認性が高く,領域の判定に必要な高精度な情報を含む撮影画像を得ることができる。
【0071】
図14には、バンドパスフィルタ50を使用しない場合と、バンドパスフィルタ50の半値幅を153nm、124nm、および10nmとした場合との細胞92の撮影画像の例が示されている。バンドパスフィルタ50の半値幅が小さいほど、バンドパスフィルタ50を通過した照明光の波長帯域は小さくなる。
図14の例の細胞92は、細胞体921と、細胞体921から突出した突起922とを有する。なお、このときのコヒーレンスファクターσの値はσ=0.26であり、バンドパスフィルタ50の中心波長は550nmである。
【0072】
図14に示すように、バンドパスフィルタ50を使用しない白色光における撮影画像と比べて、バンドパスフィルタ50を使用した狭波長帯における3つの撮影画像では、細胞92の各部を視認しやすい。特に、白色光における撮影画像では、細胞体921から延びる突起922を視認するのが困難であるのに対し、狭波長帯における3つの撮影画像では、突起922を視認できる。このように、狭波長帯における細胞92の像を撮像することにより、コントラストが高い撮影画像を得ることができる。このように、バンドパスフィルタ50が介在することにより、細胞92による拡がりが生じにくい狭波長帯の光のみを撮像部40が撮像する。したがって、コントラストの高い撮影画像を取得できる。
【0073】
また、
図14に示すように、狭波長帯における3つの撮影画像を比較すると、狭波長帯の半値幅が小さくなるにつれ、画像のコントラストが向上する。特に、半値幅が124nmの場合には、半値幅が153nmの場合と比べて、突起922の輪郭の視認性が大きく向上している。このように、狭波長帯の半値幅は、150nm以下であることが好ましい。一方、半値幅が10nmの場合には、半値幅124nmの場合と比べて、突起922の輪郭の視認性がさらに向上する。したがって、狭波長帯の半値幅は、100nm以下であることがより好ましい。すなわち、狭波長帯の半値幅を150nm以下や、100nm以下とすることにより、よりコントラストの高い細胞画像を取得できる。
【0074】
以上の結果より、上述したステップS11およびステップS21においては、マルチスペクトル撮影に用いられる各波長帯域の半値幅を、150nm以下とすることが好ましいと言える。また、マルチスペクトル撮影に用いられる各波長帯域の半値幅を、100nm以下とすれば、より好ましいと言える。これにより、上述したステップS12およびステップS22において、変化の大きい波長プロファイルWを得ることができる。その結果、上述したステップS13およびステップS23において、各画素をより適切に分類できる。
【0075】
<3−3.焦点位置について>
最後に、焦点位置の条件について、
図15を参照しつつ説明する。
図15は、焦点位置と細胞92の見え方との関係を模式的に示した図である。
図15中に模式的に示したように、細胞92は透明であるため、撮像光学系30の焦点位置を細胞92に合わせた合焦点位置とすると、撮像部40により取得された画像において、細胞内部と細胞外部との輝度は近似する。このため、合焦点位置では、細胞92が視認しにくくなる。
【0076】
撮像光学系30の焦点位置を合焦点位置から近距離方向(撮像部40側)へとずらすと、細胞内部が細胞外部よりも白く見える。そして、撮像光学系30の焦点位置を合焦点位置から一定距離近距離方向へずらした第1位置において、エッジの強さが極大値をとる。このため、第1位置において、細胞92および細胞92の各部の視認性が高くなる。撮像光学系30の焦点位置を第1位置よりもさらに近距離方向へずらすと、画像がぼけて、エッジが弱くなり、細胞92の視認性が低下する。
【0077】
一方、撮像光学系30の焦点距離を合焦点位置から遠距離方向(照明部20側)へとずらすと、細胞内部が細胞外部よりも黒く見える。そして、撮像光学系30の焦点位置を合焦点位置から一定距離遠距離方向へずらした第2位置において、エッジの強さが極大値をとる。このため、第2位置において、細胞92および細胞92の各部の視認性が高くなる。撮像光学系30の焦点位置を第2位置よりもさらに遠距離方向へずらすと、画像がぼけて、エッジが弱くなり、細胞92の視認性が低下する。
【0078】
したがって、上述したステップS11およびステップS21においては、撮像光学系30の焦点位置を、合焦点位置から一定距離ずらした第1位置または第2位置として、マルチスペクトル撮影を行うことが好ましい。これにより、より高いコントラストの撮影画像I1〜Inを取得できる。なお、合焦点位置から第1位置または第2位置までの距離は、細胞92の種類ごとに予め決めた所定の距離であってもよい。また、合焦点位置から第1位置または第2位置までの距離は、観察しながら調整して決定してもよい。
【0079】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0080】
上記の実施形態では、学習工程におけるクラスターの分類処理(ステップS13)と、実行工程におけるクラスターの分類処理(ステップS23)とを、個別の処理によって行っていた。しかしながら、学習工程におけるクラスターの分類処理と、実行工程におけるクラスターの分類処理とを、共通の処理によって行ってもよい。例えば、複数の視野の学習用画像について、まとめてk−means法を適用し、構成したモデルに基づいて、観察用画像について、クラスターの分類処理を行ってもよい。このようにすれば、同一の波長プロファイルWをもつ画素は同一のクラスターに分類される。したがって、分類の精度を向上させることができる。
【0081】
ただし、学習用の撮影画像IA1〜IAnと観察用の撮影画像IB1〜IBnとで、撮影条件の違い等により、同種の領域の波長プロファイルWが異なる場合がある。そのような場合には、上記の実施形態のように、学習工程におけるクラスターの分類処理と、実行工程におけるクラスターの分類処理とを、個別に行うことによって、生体試料の違いや撮影条件の違いを吸収できる。このため、学習工程におけるクラスターの分類処理と、実行工程におけるクラスターの分類処理とを、個別に行う方が、精度のよい結果が得られる場合がある。なお、学習工程および実行工程を通して、全視野を個別に処理してもよい。また、学習工程では複数の視野について個別に処理し、実行工程では複数の視野を個別に処理してもよい。
【0082】
また、上記の実施形態では、各領域におけるクラスターの構成比率に基づいて、領域を判定していた。しかしながら、学習用画像の領域ごとに、クラスターの配置状態などの、構成比率以外の情報を学習し、当該情報と、観察対象画像におけるクラスターの情報とに基づいて、観察対象画像に含まれる複数種類の領域を判定してもよい。
【0083】
また、照明光学系22および撮像光学系30の構成は、上記の実施形態と異なっていてもよい。例えば、照明光学系22および撮像光学系30が、他の要素を有していてもよいし、上記の実施形態に含まれる要素が省略されていてもよい。また、照明光学系22または撮像光学系30におけるバンドパスフィルタ50の位置は、上記の実施形態と異なっていてもよい。
【0084】
上記の実施形態では、照明光学系22にバンドパスフィルタ50が設けられていた。しかしながら、撮像光学系30にバンドパスフィルタ50を設けてもよい。その場合、細胞92には、照明光として白色光が照射されるが、撮像光学系30のバンドパスフィルタ50によって、撮像部40に到達する光の波長帯域を変更することができる。したがって、撮像部40において、複数の波長帯域における撮影画像I1〜Inを取得することができる。
【0085】
また、上記の実施形態では、光源21としてハロゲンランプを用い、バンドパスフィルタ50によって、照明光の波長帯域を変化させていた。しかしながら、光源21として、波長変調が可能なレーザ発振器またはLEDを用いてもよい。そうすれば、光源21からの出射光自体の波長帯域を変化させることができるため、バンドパスフィルタ50を省略することができる。
【0086】
また、上記の実施形態の細胞観察装置1は、観察者が直接観察を行うための接眼レンズ35を有していた。しかしながら、接眼レンズ35は省略されてもよい。
【0087】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。