【課題】表面平滑性が良好で、しかも、従来に比し、強度、剛性などの機械的物性に優れ、より軽量化、薄肉化を図ることができ、更には、電磁波透過性の高い電磁波透過領域を備えた繊維強化複合材料成形体、及び、斯かる繊維強化複合材料成形体を極めて作業性良く製造する。
【解決手段】薄層体とされる電磁波遮蔽部と電磁波透過部とを厚さ方向と直交する方向に接合した内側層繊維強化複合材13fと、内側層繊維強化複合材13fの両外側面に又は片側面に積層した、薄層体とされる電磁波遮蔽部のみにて形成した外側層繊維強化複合材15fと、を有し、外側層繊維強化複合材15fは、内側層繊維強化複合材13fの電磁波遮蔽部から電磁波透過部へと延在して、内側層繊維強化複合材13fの電磁波遮蔽部と電磁波透過部との接合部20を覆ってはいるが電磁波透過部の全領域は覆ってはおらず、繊維強化複合材料成形体1は、厚さ方向において外側層繊維強化複合材15fにて覆われていない電磁波透過領域2を有している。
前記外側層繊維強化複合材の前記電磁波遮蔽部にて覆われていない、該電磁波遮蔽部に隣接する領域は、厚さ方向に膨出された前記内側層繊維強化複合材の前記電磁波透過部にて形成され、
前記外側層繊維強化複合材の前記電磁波遮蔽部と、前記外側層繊維強化複合材の前記電磁波遮蔽部にて覆われていない前記内側層繊維強化複合材の前記電磁波透過部との隣接する境界領域は、厚さ方向に段差がなく、同一平面とされる外側表面を形成していることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化複合材料成形体。
前記外側層繊維強化複合材の前記電磁波遮蔽部と、前記外側層繊維強化複合材の前記電磁波遮蔽部にて覆われていない前記内側層繊維強化複合材の前記電磁波透過部との隣接する境界領域は、樹脂が充填されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維強化複合材料成形体。
前記外側層繊維強化複合材は、前記内側層繊維強化複合材の前記電磁波遮蔽部と前記電磁波透過部との接合部の全部の領域又は一部の領域を覆っていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の繊維強化複合材料成形体。
薄層体とされる前記電磁波遮蔽部及び前記電磁波透過部は、強化繊維を一方向に配列した強化繊維シート、或いは、強化繊維の織物である強化繊維シートと、マトリクス樹脂とを有した繊維強化樹脂複合材であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の繊維強化複合材料成形体。
薄層体とされる前記電磁波遮蔽部の強化繊維は炭素繊維であり、薄層体とされる前記電磁波透過部の強化繊維はガラス繊維或いは有機繊維であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の繊維強化複合材料成形体。
前記外側層プリプレグ積層体の前記電磁波遮蔽プリプレグは、前記内側層プリプレグ積層体の前記電磁波遮蔽プリプレグと前記電磁波透過プリプレグとの接合部の全部の領域又は一部の領域を覆っていることを特徴とする請求項8に記載の繊維強化複合材料成形体の製造方法。
前記電磁波遮蔽プリプレグ及び前記電磁波透過プリプレグは、連続した強化繊維を少なくとも一方向に引き揃えて配列した強化繊維シート、或いは、強化繊維の織物である強化繊維シートに樹脂が含浸されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の繊維強化複合材料成形体の製造方法。
前記電磁波遮蔽プリプレグの強化繊維は炭素繊維であり、前記電磁波透過プリプレグの強化繊維はガラス繊維或いは有機繊維であることを特徴とする請求項8〜9のいずれかの項に記載の繊維強化複合材料成形体の製造方法。
前記内側層プリプレグ積層体の前記電磁波遮蔽プリプレグと前記電磁波透過プリプレグとの接合部における前記外側層プリプレグ積層体の、前記内側層プリプレグ積層体の前記電磁波遮蔽プリプレグから前記電磁波透過プリプレグへの延在量は、3.5〜20mmであることを特徴とする請求項8〜13のいずれかの項に記載の繊維強化複合材料成形体の製造方法。
上記工程(d)における加熱温度は、120〜250℃であり、加圧力は0.1〜25MPaであることを特徴とする請求項8〜14のいずれかの項に記載の繊維強化複合材料成形体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが上記特許文献1に記載の繊維強化複合材料成形体及びその製造方法について検討したところ、繊維強化複合材料成形体を製造するに際して、繊維強化複合材料成形体の外表面に、電磁波透過部に相当するガラス繊維プリプレグと、電磁波遮蔽部に相当する炭素繊維プリプレグとの接合部が存在する場合、実作業としてガラス繊維プリプレグと炭素繊維プリプレグを隙間なく、且つ、互いの材料が重なることなく、即ち、一定の許容範囲内で離れ過ぎず、且つ、重なり合わないように貼り付ける必要がある。斯かる作業は極めて困難であり、許容範囲を超えた場合、筋状の溝又は凸状部ができてしまい、この接合部の外観品位が問題となる。また、接合するプリプレグの繊維方向によっても又接合部に微小な凹みが生じたり、繊維の乱れが生じることが考えられる。
【0006】
本発明者らは、多くの研究実験を行い、内側層としては、電磁波透過部に相当するガラス繊維プリプレグと、電磁波遮蔽部に相当する炭素繊維プリプレグとを接合して内側層プリプレグ積層体を形成し、この内側層プリプレグ積層体の外側層プリプレグ積層体として、この内側層プリプレグ積層体の最も外側層の炭素繊維プリプレグ領域、及び、ガラス繊維プリプレグと炭素繊維プリプレグとの接合部領域を覆い、残余のガラス繊維プリプレグ領域は覆わずに電磁波遮蔽プリプレグを積層して、加熱加圧成形することにより、
(1)成形体の最外層は、外側層プリプレグ積層体から成る炭素繊維強化プラスチック層と、一端が外側層プリプレグ積層体から成る炭素繊維強化プラスチック層にて強固に固定され、他端が外表面側へと膨出した内側層プリプレグ積層体から成るガラス繊維強化プラスチック層とにて形成され、且つ、成形体の最外層を成す炭素繊維強化プラスチック層とガラス繊維強化プラスチック層との接合部領域は、樹脂リッチ領域を介して一体に接合されており、それによって、成形体外表面に段差のない、また、微小の凹み、繊維乱れの発生もない平滑表面とされる良好な外観品位を有した繊維強化複合材料成形体が得られること。しかも、
(2)電磁波透過部に相当するガラス繊維プリプレグと、電磁波遮蔽部に相当する炭素繊維プリプレグとを接合することにより機械的特性が弱化している内側層積層体の接合部は、最外層を形成している高強度、高剛性の炭素繊維強化プラスチック複合材にて被覆されることにより強度、剛性などの機械的特性を増大させることができ、それにより、より軽量化、薄肉化を達成することができ、更には、電磁波透過性の高い領域を有した繊維強化複合材料成形体を製造し得ること。
を見出した。
【0007】
本発明は、本発明者らの斯かる新規な知見に基づきなされたものである。
【0008】
本発明の目的は、表面平滑性が良好で、しかも、従来に比し、強度、剛性などの機械的特性の点で優れ、より軽量化、薄肉化を図ることができ、更には、電磁波透過性の高い電磁波透過領域を備えた繊維強化複合材料成形体、及び、斯かる繊維強化複合材料成形体を極めて作業性良く製造することのできる繊維強化複合材料成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は本発明に係る繊維強化複合材料成形体及びその製造方法にて達成される。要約すれば、第1の本発明は、電磁波透過領域を有している薄板状の繊維強化複合材料成形体であって、
薄層体とされる電磁波遮蔽部と電磁波透過部とを厚さ方向と直交する方向に接合した内側層繊維強化複合材と、前記内側層繊維強化複合材の両外側面に又は片側面に積層した外側層繊維強化複合材であって、薄層体とされる電磁波遮蔽部のみにて形成した外側層繊維強化複合材と、を有し、
前記外側層繊維強化複合材は、前記内側層繊維強化複合材の前記電磁波遮蔽部から前記電磁波透過部へと延在して、前記内側層繊維強化複合材の前記電磁波遮蔽部と前記電磁波透過部との接合部を覆ってはいるが前記電磁波透過部の全領域は覆ってはおらず、
前記繊維強化複合材料成形体は、厚さ方向において前記外側層繊維強化複合材にて覆われていない電磁波透過領域を有していることを特徴とする繊維強化複合材料成形体である。
【0010】
第1の本発明の一実施態様によれば、前記外側層繊維強化複合材の前記電磁波遮蔽部にて覆われていない、該電磁波遮蔽部に隣接する領域は、厚さ方向に膨出された前記内側層繊維強化複合材の前記電磁波透過部にて形成され、
前記外側層繊維強化複合材の前記電磁波遮蔽部と、前記外側層繊維強化複合材の前記電磁波遮蔽部にて覆われていない前記内側層繊維強化複合材の前記電磁波透過部との隣接する境界領域は、厚さ方向に段差がなく、同一平面とされる外側表面を形成している。
【0011】
第1の本発明の他の実施態様によれば、前記外側層繊維強化複合材の前記電磁波遮蔽部と、前記外側層繊維強化複合材の前記電磁波遮蔽部にて覆われていない前記内側層繊維強化複合材の前記電磁波透過部との隣接する境界領域は、樹脂が充填されている。
【0012】
第1の本発明の他の実施態様によれば、前記外側層繊維強化複合材は、前記内側層繊維強化複合材の前記電磁波遮蔽部と前記電磁波透過部との接合部の全部の領域又は一部の領域を覆っている。
【0013】
第1の本発明の他の実施態様によれば、薄層体とされる前記電磁波遮蔽部及び前記電磁波透過部は、強化繊維を一方向に配列した強化繊維シート、或いは、強化繊維の織物である強化繊維シートと、マトリクス樹脂とを有した繊維強化樹脂複合材である。
【0014】
第1の本発明の他の実施態様によれば、薄層体とされる前記電磁波遮蔽部の強化繊維は炭素繊維であり、薄層体とされる前記電磁波透過部の強化繊維はガラス繊維或いは有機繊維である。
【0015】
第1の本発明の他の実施態様によれば、前記繊維強化複合材料成形体の厚さは、0.4〜3mmである。
【0016】
第2の本発明は、薄板状とされ、電磁波透過領域を有している繊維強化複合材料成形体の製造方法であって、
(a)導電性繊維にマトリクス樹脂を含浸し、半硬化した薄層体とされる電磁波遮蔽プリプレグと、非導電性繊維にマトリクス樹脂を含浸し、半硬化した薄層体とされる電磁波透過プリプレグとを準備し、
(b)1層又は複数層から成る前記電磁波遮蔽プリプレグと1層又は複数層から成る電磁波透過プリプレグとを厚さ方向と直交する方向に、接合位置が厚さ方向に一致するようにして接合して内側層プリプレグ積層体を作製し、
(c)前記内側層プリプレグ積層体の両外側面に又は片側面に、前記電磁波遮蔽プリプレグを1層又は複数層積層して形成される外側層プリプレグ積層体を、前記内側層プリプレグ積層体の前記電磁波遮蔽プリプレグから前記電磁波透過プリプレグへと延在して、前記内側層プリプレグ積層体の前記電磁波遮蔽プリプレグと前記電磁波透過プリプレグとの接合部を覆ってはいるが前記電磁波透過プリプレグの全領域は覆わないようにして積層して押圧し、前記内側層プリプレグ積層体及び前記外側層プリプレグ積層体を含むプリプレグ積層構造体を形成し、
(d)前記プリプレグ積層構造体を加熱加圧して、前記電磁波透過プリプレグの前記外側層プリプレグ積層体にて覆われていない領域を厚さ方向に膨出し、前記外側層プリプレグ積層体と同一の外表面とし、次いで、硬化する、
工程を有することを特徴とする、前記厚さ方向において前記外側層プリプレグ積層体にて覆われていない電磁波透過領域を有している繊維強化複合材料成形体の製造方法である。
【0017】
第2の本発明の一実施態様によれば、前記外側層プリプレグ積層体の前記電磁波遮蔽プリプレグは、前記内側層プリプレグ積層体の前記電磁波遮蔽プリプレグと前記電磁波透過プリプレグとの接合部の全部の領域又は一部の領域を覆っている。
【0018】
第2の本発明の他の実施態様によれば、前記電磁波遮蔽プリプレグ及び前記電磁波透過プリプレグは、連続した強化繊維を少なくとも一方向に引き揃えて配列した強化繊維シート、或いは、強化繊維の織物である強化繊維シートに樹脂が含浸されている。
【0019】
第2の本発明の他の実施態様によれば、前記電磁波遮蔽プリプレグの強化繊維は炭素繊維であり、前記電磁波透過プリプレグの強化繊維はガラス繊維或いは有機繊維である。
【0020】
第2の本発明の他の実施態様によれば、前記電磁波遮蔽プリプレグは、繊維目付量が25〜600g/m
2、繊維体積含有率が20〜70%であり、前記電磁波透過プリプレグは、繊維目付量が25〜600g/m
2、繊維体積含有率が20〜70%であり、
前記内側層プリプレグ積層体の総設計厚さは、0.1〜2.8mmであり、前記内側層プリプレグ積層体を構成する前記電磁波遮蔽プリプレグと前記電磁波透過プリプレグの設計厚さは、同じであってもよく、異なっていてもよく、
前記外側層プリプレグ積層体の総設計厚さは、0.02〜0.6mmであり、
前記繊維強化複合材料成形体の厚さは、0.4〜3mmである。
【0021】
第2の本発明の他の実施態様によれば、前記内側層プリプレグ積層体を構成する前記電磁波遮蔽プリプレグと前記電磁波透過プリプレグの設計厚さは、0.02〜0.6mmであり、
前記外側層プリプレグ積層体を構成する前記電磁波遮蔽プリプレグの設計厚さは、0.02〜0.3mmである。
【0022】
第2の本発明の他の実施態様によれば、前記内側層プリプレグ積層体の前記電磁波遮蔽プリプレグと前記電磁波透過プリプレグとの接合部における前記外側層プリプレグ積層体の、前記内側層プリプレグ積層体の前記電磁波遮蔽プリプレグから前記電磁波透過プリプレグへの延在量は、3.5〜20mmである。
【0023】
第2の本発明の他の実施態様によれば、上記工程(d)における加熱温度は、120〜250℃であり、加圧力は0.1〜25MPaである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の繊維強化複合材料成形体は、表面平滑性が良好で、しかも、従来に比し、より強度、剛性などの機械的特性に優れ、より軽量化、薄肉化を図ることができ、更には、電磁波透過性の高い電磁波透過領域を備えている。また、本発明の製造方法によれば、斯かる繊維強化複合材料成形体を極めて作業性良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る繊維強化複合材料成形体及びその製造方法を図面に則して更に詳しく説明する。
【0027】
実施例1
図1(a)〜(d)に示すように、本発明に係る繊維強化複合材料成形体1は、強化繊維とマトリクス樹脂とにて形成された薄板状の繊維強化複合材(FRP)とされ、例えば、スマートフォン、タブレット、携帯型パソコンなどに代表される情報端末機器、更には、外部と通信を行う電気機器装置、設備などの筐体或いは筐体ケースとして使用される。本発明に係る繊維強化複合材料成形体1は、少なくとも、薄板の一部分が厚さ方向に電磁波透過性の高い性質の、例えば、強化繊維としてガラス繊維などを使用した繊維強化複合材12fにて形成された電磁波透過領域2と、電磁波透過性の低い、即ち、電磁波遮蔽性を有する強化繊維として炭素繊維などを使用した繊維強化複合材11f、15af、15bfにて形成された電磁波遮蔽領域3とを有している。
【0028】
情報端末機器などのアンテナは、筐体或いは筐体ケースの長辺或いは短辺方向の端縁部領域に配置されることが多く、従って、例えば、電磁波透過領域2は、
図1(a)に示すように、筐体或いは筐体ケース1の端縁部平板部に、図面上y−y方向にてその全領域に渡って、或いは、
図1(b)に示すように、その一部領域に形成することができる。また、
図1(c)に示すように、筐体或いは筐体ケース1の湾曲部の一部に、或いは、図示してはいないが全部に形成することもできる。更には、
図1(d)に示すように、成形前においては、電磁波透過領域2は別部材として作製し、該部材を、別部材として作製された成形前の電磁波遮蔽領域3を作製する部材の切り欠き凹部に接合して嵌め込み一体に圧縮成形することもできる。勿論、上述のような電磁波透過領域2は、筐体或いは筐体ケース1の中央部に形成することもできる。
【0029】
次に、
図2(a)〜(d)、
図3(a)、(b)を参照して、本発明に係る繊維強化複合材料成形体1の製造方法の一実施例を説明する。以下に説明する本実施例では、本発明の特徴構成をより明確に且つ容易に理解し得るように、
図1(a)、(b)に示すような、平板状とされる筐体或いは筐体ケースとされる成形体1の端縁部に電磁波透過領域2が形成されるものとして説明するが、これに限定されるものではない。
【0030】
本実施例にて、本発明の繊維強化複合材料成形体1を製造するに際して、先ず、
図2(a)、(b)に示すように、強化繊維としての導電性繊維にマトリクス樹脂を含浸し、半硬化(Bステージ化)した薄層体(即ち、シート状)とされる電磁波遮蔽部を形成する電磁波遮蔽プリプレグ11と、強化繊維としての非導電性繊維にマトリクス樹脂を含浸し、半硬化した薄層体(即ち、シート状)とされる電磁波透過部を形成する電磁波透過プリプレグ12とを準備する。これらシート状のプリプレグ、即ち、プリプレグシートは、所望に応じて複数枚積層して使用され、硬化後において繊維強化複合材料成形体1の厚さ(T)(
図4(c)参照)が0.4〜3mm(0.4mm≦T≦3mm)となるようにする。繊維強化複合材料成形体1の厚さ(T)が0.4mm未満では、成形体1としての高強度、高剛性を達成するのが困難となる。また、3mmを超えると、軽量性の点で問題が生じてくる。
【0031】
電磁波遮蔽プリプレグ11は、強化繊維である導電性繊維としては、炭素繊維、金属繊維(例えば、鋼、ステンレススチール繊維)などが、単独で、或いは、混合して使用される。マトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又は、フェノール樹脂のいずれかが使用される。電磁波遮蔽プリプレグ11における強化繊維に対する樹脂の含浸量は、強化繊維の繊維体積含有率(Vf)で20〜70%である。強化繊維の繊維体積含有率(Vf)が20%未満では、繊維量が少なく、所望の強度及び剛性を得ることができないといった問題があり、70%を超えると、樹脂不足となり、本来の機械的物性が得られないといった問題が生じる。好ましくは、強化繊維の繊維体積含有率(Vf)は、40〜65%である。
【0032】
電磁波遮蔽プリプレグ11は、UD形状、即ち、繊維強化複合材料成形体1の、例えば長辺方向(x−x方向)に沿って一方向に強化繊維を配列した一方向(0°方向)プリプレグであってもよく、繊維強化複合材料成形体1の長辺方向(x−x方向)に直交する方向(y−y方向)に沿って一方向に強化繊維を配列した一方向(90°方向)プリプレグであってもよい。また、場合によっては、1種類或いは複数種類の強化繊維を織成して形成される、例えば、平織クロス、綾織クロス、朱子織クロスなどの織物(クロス)とされる強化繊維を使用することもできる。更には、UD形状とクロスとを併用することもできる。
【0033】
電磁波透過プリプレグ12は、その非導電性繊維としては、ガラス繊維、有機繊維(例えば、アラミド繊維、PBO繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維)などが、単独で、或いは、混合して使用される。マトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又は、フェノール樹脂のいずれかが使用される。電磁波透過プリプレグ12における強化繊維に対する樹脂の含浸量は、強化繊維の繊維体積含有率(Vf)で20〜70%である。強化繊維の繊維体積含有率(Vf)が20%未満では、繊維量が少なく、所望の強度及び剛性を得ることができないといった問題があり、70%を超えると、樹脂不足となり、本来の機械的物性が得られないといった問題が生じる。好ましくは、強化繊維の繊維体積含有率(Vf)は、40〜65%である。
【0034】
電磁波透過プリプレグ12は、電磁波遮蔽プリプレグ11と同様に、UD形状、即ち、繊維強化複合材料成形体1の長辺方向(x−x方向)に沿って一方向に強化繊維を配列した一方向(0°方向)プリプレグであってもよく、繊維強化複合材料成形体1の長辺方向(x−x方向)に直交する方向(y−y方向)に沿って一方向に強化繊維を配列した一方向(90°方向)プリプレグであってもよい。また、場合によっては、織物(クロス)とされる強化繊維を使用することもできる。更には、UD形状とクロスを併用することもできる。
【0035】
次に、上記電磁波遮蔽プリプレグ11と電磁波透過プリプレグ12とを有した内側層プリプレグ積層体14について説明する。
【0036】
内側層プリプレグ積層体14は、
図2(c)、(d)に示すように、電磁波遮蔽プリプレグ11と電磁波透過プリプレグ12とを厚さ方向(z−z方向)と直交する方向、本実施例ではy−y方向に沿って接合位置(接合線)Jにて、即ち、両プリプレグ11、12の端面を互いに当接接合して作製する。
【0037】
本実施例では、
図2(c)、(d)に示すように、所定形状に切り出された電磁波遮蔽プリプレグ11Aと電磁波透過プリプレグ12Aとを、厚さ方向(z−z方向)と直交する方向(y−y方向)に接合線Jを介して、即ち、両プリプレグ11A、12Aの端面を互いに当接接合してシート状の内側層プリプレグ13Aを作製する。同様にして、シート状の内側層プリプレグ13B、13Cを作製する。このようにして作製された内側層プリプレグ13A、13B、13Cを積層して、内側層プリプレグ積層体14が作製される。
【0038】
このとき、厚さ方向(z−z方向)に積層される内側層プリプレグ13A、13B、13Cは、各内側層プリプレグ13A、13B、13Cにおける電磁波遮蔽プリプレグ11(11A、11B、11C)と電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)との接合位置、即ち、接合線Jが、厚さ方向(z−z方向)において一致するように積層されることが必要である。
【0039】
本実施例では、3層の内側層プリプレグ13A、13B、13Cを積層して内側層プリプレグ積層体14が作製されるものとして説明したが、内側層プリプレグ積層体14は、所望の特性が得られるのであれば、1層或いは2層であっても良く、更には、4層以上に内側層プリプレグ13を積層することによって作製することができる。
【0040】
上述のようにして作製した内側層プリプレグ積層体14の両外側面に、電磁波遮蔽プリプレグ11(11a、11b)にて形成される外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)が積層され、プリプレグ積層構造体1Pが作製される。
【0041】
図2に示す本実施例のプリプレグ積層構造体1Pでは、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)は、1層のみの電磁波遮蔽プリプレグ11(11a、11b)とされるが、複数層にて形成することも可能である。外側層プリプレグ積層体15a、15bは同じ構成であっても良く、異なる構成とすることもできる。また、所望により、外側層プリプレグ積層体15は、内側層プリプレグ積層体14の片方の外側面にのみ、即ち、外側層プリプレグ積層体15a又は15bのいずれかを積層することもできる。
【0042】
なお、
図2(c)、(d)に示す上記実施例では、プリプレグ積層構造体1Pは、第1、第2、第3の内側層プリプレグ13A、13B、13Cを作製し、これら内側層プリプレグ13A、13B、13Cを積層し、その後、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)を両側面に積層することによって作製するものとして説明したが、プリプレグ積層構造体1Pの作製方法は、上記方法に限定されるものではない。
【0043】
例えば、
図3(a)に示すように、所定形状に切り出された電磁波遮蔽プリプレグ11(11A、11B、11C)と電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)とを、接合線Jが厚さ方向において一致するよう接合しながら、外側層プリプレグ積層体15aの上に順次積層して、内側層プリプレグ積層体14を形成し、次いで、外側層プリプレグ積層体15bを内側層プリプレグ積層体14の他の側面に積層することができる。
【0044】
また、別法として、
図3(b)に示すように、先ず、電磁波遮蔽プリプレグ11(11A、11B、11C)及び電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)をそれぞれ個別に積層して電磁波遮蔽プリプレグ積層体11P及び電磁波透過プリプレグ積層体12Pを作製し、次いで、これら電磁波遮蔽プリプレグ積層体11P及び電磁波透過プリプレグ積層体12Pを、端面同志を突き合わせて接合して、即ち、接合線Jが厚さ方向において一致するようにして接合して内側層プリプレグ積層体14を作製し、その後、内側層プリプレグ積層体14の両側面に外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)を積層することができる。
【0045】
本発明の繊維強化複合材料成形体1を製造するに際して、内側層プリプレグ積層体14は、電磁波遮蔽プリプレグ11と電磁波透過プリプレグ12とは、厚さ方向に直交する方向に接合位置が一致するように接合すれば良く、上記いずれかの積層方法を採用することができ、繊維強化複合材料成形体1の製造が極めて容易であり、且つ、両プリプレグ11、12を正確に接合することができるという利点を有している。
【0046】
内側層プリプレグ積層体14を構成する各電磁波遮蔽プリプレグ11及び電磁波透過プリプレグ12は、製造される繊維強化複合材料成形体1に必要とされる強度、剛性を得るために、プリプレグシート11、12の所要の設計厚さ、繊維目付量、繊維体積含有率、繊維の配向、積層枚数などが種々に選択して、決定される。
【0047】
通常、成形後の繊維強化複合材料成形体1の厚さ(T)は、上述したように、0.4〜3mmとされ、そのために、内側層プリプレグ積層体14を構成するシート状電磁波遮蔽プリプレグ11及びシート状電磁波透過プリプレグ12は、繊維目付量が25〜600g/m
2、繊維体積含有率が20〜70%とされ、設計厚さは0.02〜0.6mmのものが使用され、
図2(d)を参照して言えば、内側層プリプレグ積層体14(即ち、積層された内側層プリプレグ13A、13B、13C全体)の総設計厚さ(T14)は、0.1〜2.8mmとされ、製品の要求仕様によって適宜選択される。
【0048】
また、外側層プリプレグ積層体15を構成する電磁波遮蔽プリプレグ11(11a、11b)は、繊維目付量が25〜600g/m
2、繊維体積含有率が20〜70%とされ、設計厚さは0.02〜0.3mmとされる。特に、各外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)の総設計厚さ(T15a、T15b)は、成形後の繊維強化複合材料成形体1の、強度及び剛性を増大させ、且つ、外表面に段差を生じることなく良好な表面平滑性を提供するために、0.02〜0.6mm、好ましくは、0.1〜0.3mmとされる。
【0049】
本発明によれば、繊維強化複合材料成形体1は、接合線Jを介して接合されている接合部20が弱くなるので、その補強のために、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)は、内側層プリプレグ積層体14の最外層にて電磁波遮蔽プリプレグ11(11A、11C)から電磁波透過プリプレグ12(12A、12C)へと、接合部20を覆って延在量(Le)だけ延在している。
【0050】
このとき、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)は、
図2(c)、(d)に示すように、接合部20のy−y方向にて全部の領域を覆って積層することができる。一方、
図3(c)、(d)に示すように、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)は、接合部20のy−y方向にて全幅(Lw0)の領域の一部の領域(Lw)を覆って積層することもできる。
【0051】
ただし、上述のように、外側層プリプレグ積層体15は、内側層プリプレグ積層体14の電磁波遮蔽プリプレグ11と電磁波透過プリプレグ12との接合部20の領域の全領域(Lw0)、或いは、一部領域(Lw)を覆ってはいるが、電磁波透過プリプレグ12の全領域S(
図2(d)、
図3(d)にて接合線Jより左側領域)に相当する領域は覆わないようにして積層される。
【0052】
外側層プリプレグ積層体15が、内側層プリプレグ積層体14の電磁波遮蔽プリプレグ11から電磁波透過プリプレグ12の方へと延在する延在量(Le)、即ち、外側層プリプレグ積層体15の、内側層プリプレグ積層体14の電磁波透過プリプレグ12に対する重なり量(Le)は、3.5〜20mmとされる。この重なり量(Le)が3.5mm未満では、外側層プリプレグ積層体15と、内側層プリプレグ積層体14の電磁波透過プリプレグ12との間の接合強度が十分ではなく、外側層プリプレグ積層体15による内側層プリプレグ積層体14の電磁波遮蔽プリプレグ11と電磁波透過プリプレグ12との接合部20の補強強度、剛性が十分には達成されず、また、20mmを超えると、成形体1の電磁波透過領域2を必要以上に狭くすることとなる。なお、
図3(c)、(d)に示すように、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)が接合部20のy−y方向にて一部の領域(Lw)を覆って積層される場合は、接合部20領域の接合強度の点から、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)のy−y方向の長さ(Lw)は、全領域(Lw0)の50%以上とされるのが好ましい。但し、これに限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更し得る。
【0053】
内側層プリプレグ積層体14の電磁波透過領域2を形成する、電磁波遮蔽プリプレグ11にて被覆されない領域の長さ、即ち、電磁波透過プリプレグ12の長さ(L12−Le)の領域Sは、内蔵アンテナのサイズ等に合わせて適宜設定される。
【0054】
次に、上述のようにして各プリプレグシートを所望の形状、構造にて積層し、
図2(c)、(d)或いは
図3(c)に示す構造とされたプリプレグ積層構造体1Pを、例えば、
図4(a)に示すような下型101と上型102から成る金型100内に設置する。湾曲部を備えた成形体を形成する場合は、金型100の下型101、上型102は、型の一部が所定の湾曲形状とされる。
【0055】
図4(b)は、上述のようにして作製されたプリプレグ積層構造体1Pを下型101内に設置し、上型102をプリプレグ積層構造体1Pに当接させた状態であって、未だ加熱加圧する前の状態を示す。
【0056】
図2(c)、(d)、
図3(c)を参照して上述したように、本発明によれば、金型100による加熱加圧前のプリプレグ積層構造体1Pにおいては、両外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)は、内側層プリプレグ積層体14の最も外側の電磁波遮蔽プリプレグ11A、11Cから電磁波透過プリプレグ12A、12Cへと延在して、それぞれ、内側層プリプレグ積層体14の電磁波遮蔽プリプレグ11Aと電磁波透過プリプレグ12Aとの接合線J、及び、電磁波遮蔽プリプレグ11Cと電磁波透過プリプレグ12Cとの接合線Jにて示される接合位置の接合部20を所定長さLeだけ覆ってはいるが電磁波透過プリプレグ12A、12Cの領域Sの全ての領域は覆わないようにして積層されている。即ち、L12−Leの長さ部分の領域は被覆されていない。従って、プリプレグ積層構造体1Pは、両外側層プリプレグ積層体15a、15bと、内側層プリプレグ積層体14の最も外側の電磁波透過プリプレグ12A、12Cとの間には、それぞれ厚さ方向(z−z方向)に、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)の設計厚さ(T15a、T15b)に相当する段差△Tp(
図2(d)参照)が生じている。そのため、プリプレグ積層構造体1Pは、
図4(a)、(b)に示すように、内側層プリプレグ積層体14の電磁波透過プリプレグ12Aの下表面と下型101の上面との間、及び、内側層プリプレグ積層体14の電磁波透過プリプレグ12Cの上表面と上型102の下面との間には、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)が存在しない領域、即ち、空間部Vpが存在している。
【0057】
成形金型100内に設置されたプリプレグ積層構造体1Pは、次いで、プレス機200により金型内100内で下型101と上型102により押圧力Pで押圧され、且つ、加熱される。この成形金型100による加熱加圧により、プリプレグ積層構造体1Pは、所定温度にて加熱されると共に、厚さ方向(z−z方向)に所定圧力Pにて加圧される。
【0058】
図5(a)(a−1)は、プリプレグ積層構造体1Pを金型100の閉空間内にて加熱加圧する前の状態における断面構造を模式的に示し、
図5(a)(a−2)は、加熱加圧状態におけるプリプレグ積層構造体1Pの断面構造を模式的に示す。
図5(a)(a−1)、(a−2)にて、プリプレグ積層構造体1Pは、成形金型100による加熱加圧により、両外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)により挟持された、領域L3に相当する電磁波遮蔽プリプレグ11(11A、11B、11C)の領域L4、及び、電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)の一部領域(
図5(a)(a−1)、(a−2)にて右側端部領域L5)が厚さ方向(z−z方向に)圧縮され、加熱加圧前のプリプレグ積層構造体1Pの厚さ(Tp)から成形後の成形体1の厚さ(T)へとその厚みが減少される。
【0059】
これにより、
図5(a)(a−1)、(a−2)に示すように、加熱圧縮された領域L3の外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)、内側層プリプレグ積層体14の電磁波遮蔽プリプレグ11(11A、11B、11C)、圧縮された領域L5の電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)のマトリクス樹脂が隣接する、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)が配置されておらず加圧されていない、或いは、加圧程度の低い領域L2に相当する領域の電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)及び空間部Vpへと流動する。つまり、領域L3に相当する電磁波遮蔽プリプレグ11(11A、11B、11C)の領域L4及び電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)の一部領域L5においては、溶融した樹脂が電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)のL2領域中へと流動することにより繊維体積含有率(Vf)が増大する。一方、領域L2に相当する電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)においては、隣接する領域L3のプリプレグ11、12からの樹脂が流入することにより、繊維体積含有率(Vf)が減少する。即ち、領域L2に相当する電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)に流入したマトリクス樹脂は、領域L2の電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)の体積を増大させ、領域L2の電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)、特に、外側のプリプレグ12A、12Cの強化繊維を、樹脂と共に空間部Vp内へと膨出させる、即ち、強制的に押し込むこととなる。従って、空間部Vpは、成形金型100が押圧することによりその容積は若干減少するとしても、領域L2の電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)からの膨出した強化繊維と樹脂が押し込まれ、圧縮成形された外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)の外側表面と同一平面となる(
図5(a)(a−2)参照)。
【0060】
次いで、加熱加圧工程の完了に伴い脱型することにより、マトリクス樹脂が硬化して、所定の厚さ(T)の繊維強化複合材料成形体1が成形される(
図4(c)参照)。即ち、加熱加圧工程前に両外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)に隣接して形成されていた領域L2の空間部Vp対応領域には、内側層プリプレグ積層体14の電磁波透過プリプレグ12が膨出することにより、電磁波透過プリプレグ12中の強化繊維とマトリクス樹脂が押入して成形される。また、領域L2の領域L3と隣接した境界領域には、
図4(c)、
図5(a)(a−2)に示すように、プリプレグ中のマトリクス樹脂が充填されて成形された樹脂リッチの領域Rが形成されて、繊維強化複合材料成形体1の外表面を一様な平滑平面としている。
【0061】
成形時の温度は、使用されるプリプレグのマトリクス樹脂に応じて選択され、120〜250℃とされる。また、加圧力Pは、使用するプリプレグの繊維目付量、繊維体積含有率(Vf)、使用するプリプレグ積層数、寸法形状、等により適宜設定されるが、通常、0.1〜25MPaとされる。加圧力Pが0.1MPa未満だと、表面平滑性が得られなかったり、プリプレグ層間の空気が成形中に抜けボイド(空隙)が残り、物性低下の懸念がある。また、加圧力Pが25MPaを超えると、高圧力により樹脂と繊維が乱れて流動し、結果的に製品の反りや捩れを誘発する懸念がある。
【0062】
上述したように、本発明によれば、成形後の繊維強化複合材料成形体1の外側表面は、
図4(c)、
図5(a)(a−2)から理解されるように、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)にて形成された外側層繊維強化樹脂複合材15f(15af、15bf)に隣接して、内側層プリプレグ積層体14の電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)の
図4(c)にて左側端部(L2領域)が膨出して形成されている。従って、本発明では、成形体1の外表面を形成する電磁波透過複合材12Af、12Cfは、一端(図面上右側端部領域L2)が外側層繊維強化複合材15af、15bfにて強固に挟持されて接着固定されている。また、電磁波透過複合材12Af、12Cfの一端を固定する外側層繊維強化複合材15af、15bfは、電磁波遮蔽特性のある強化繊維として高強度、高剛性の炭素繊維強化プラスチック複合材とすることができ、強度、剛性などの機械的特性に優れた繊維強化複合材料成形体を得ることができる。しかも、外側層繊維強化樹脂複合材15f(15af、15bf)と隣接する境界部には、樹脂領域Rが一体に形成されることとなる。従って、成形後の繊維強化複合材料成形体1の表面層に段差が生じることがなく、また、溝も、微小な凹部も発生せず、平滑表面を形成することができる。
【0063】
本発明者らの研究実験の結果によれば、
図2(d)に示すように、プリプレグ積層構造体1Pにおいて、内側層プリプレグ積層体14の上に(或いは、下に)長さの異なる外側層プリプレグ積層体15を積層することにより生じた、外側層プリプレグ積層体15の設計厚さ(T15a、T15b)に起因する段差△Tpは、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)の設計厚さ(T15a、T15b)が0.25mm以下とされる場合においては解消され、成形後の繊維強化複合材料成形体1の外側表面に段差が生じないことが分かった。勿論、上述したように、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)は、接合部20の強度を保持することが重要であり、設計厚さ(T15a、T15b)は、0.02mm以上は必要とされる。
【0064】
上記説明では、プリプレグ積層構造体1Pは、下型101と上型102から成る金型100内に設置され、プレス機200にて加熱加圧することにより、繊維強化複合材料成形体1を成形するものとして説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。当業者には周知のオートクレーブ装置を使用して、同様に繊維強化複合材料成形体1を成形することができる。
【0065】
図5(b)には、オートクレーブ装置300の概略構成を示す。オートクレーブ装置300は、
図4(a)、(b)を参照して説明したようにプリプレグ積層構造体1Pが設置された下型101と上型102から成る金型100をプレス機200により加圧する代わりに、プリプレグ積層構造体1Pが設置された下型101と上型102から成る金型100をバギングフィルムプ301内に設置し、その後、バギングフィルム301内を真空引きすることにより、プリプレグ積層構造体1Pの周囲に密閉した閉空間を形成し、プリプレグ積層構造体1Pを下型101と上型102にて加圧し、加熱する構造とされる。
【0066】
更に説明すれば、
図5(b)に示すオートクレーブ装置300は、シーラント302(302a、302b)で密閉接合されたバギングフィルム301(301a、301b)にて形成された密閉空間内に、プリプレグ積層構造体1Pが配置された下型101と上型102から成る金型100が設置される。
図5(b)には、下型101及び上型102は、例えばアルミニウム製の平板(アルミプレート)とされているが、
図4(a)、(b)を参照して説明した下型(雌型)101と上型(雄型)102とすることもできる。なお、通常、プリプレグ積層構造体1Pと、下型101及び上型102との間には、離型フィルム303(303a、303b)が配置される。
【0067】
このように、金型100が設置されたバギングフィルム301は、図示してはいないオートクレーブ(圧力釜)内に装入される。なお、バギングフィルム301内には、クッション、空気通路確保のために、アクスター或いはブリーザ304が投入されている。
【0068】
次いで、バギングフィルム301内を真空引きすることにより、下型101及び上型102は互いの方へと押圧され、プリプレグ積層構造体1Pは、下型101及び上型102にて形成される閉空間内にて加圧される。更に、オートクレーブ内をも加圧することにより、プリプレグ積層構造体1Pは、バギングフィルム301内を真空引きすることによる真空圧と、オートクレーブによる加圧により、閉空間内にて所定の圧力Pにて加圧され、且つ加熱される。この加熱加圧によりプリプレグ積層構造体1Pが本発明に従った構成の繊維強化複合材料成形体1に成形されることは、
図5(a)を参照して説明した上記成形原理と同じである。
【0069】
上述のようにして作製される本発明の繊維強化複合材料成形体1は、
図4(c)を参照すると、
(1)薄層体とされる電磁波遮蔽部を形成する繊維強化複合材11f(11Af、11Bf、11Cf)と、電磁波透過部を形成する繊維強化複合材12f(12Af、12Bf、12Cf)とを厚さ方向と直交する方向(y−y方向)に接合した内側層繊維強化複合材13f(13Af、13Bf、13Cf)と、
(2)内側層繊維強化複合材13fの両外側面に又は片側面に積層した外側層繊維強化複合材15f(15af、15bf)と、
を備えている。
【0070】
また、上述より理解されるように、外側層繊維強化複合材15f(15af、15bf)は、内側層繊維強化複合材13fの電磁波遮蔽部11fから電磁波透過部12fへと延在して、内側層繊維強化複合材13fの電磁波遮蔽部11fと電磁波透過部12fとの接合部20のy−y方向の全領域或いは一部領域は覆ってはいるが電磁波透過部12fのx−x方向の全ての領域(S)は覆ってはいない構成とされる。
【0071】
更に説明すれば、本発明によれば、
(1)
図2(c)、(d)に示すように、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)は、接合部20のy−y方向にて全部の領域を覆って積層することができ、即ち、
図2(c)、(d)に示すように、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)が、内側層プリプレグ積層体14の電磁波遮蔽プリプレグ11と電磁波透過プリプレグ12との接合部20のy−y方向の全部の領域を覆う構成とし、
図4(c)に示すように、外側層繊維強化複合材15f(15af、15bf)から成る電磁波遮蔽部が、内側層繊維強化複合材13f(13Af、13Bf、13Cf)の電磁波遮蔽部11fと電磁波透過部12fとの接合部20の全部の領域を覆っている繊維強化複合材料成形体1(
図1(a))を作製する。
(2)一方、
図3(c)に示すように、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)は、接合部20のy−y方向にて一部の領域を覆って積層することができ、この場合は、外側層繊維強化複合材15f(15af、15bf)から成る電磁波遮蔽部が、内側層繊維強化複合材13f(13Af、13Bf、13Cf)の電磁波遮蔽部11fと電磁波透過部12fとの接合部20の一部の領域を覆っている繊維強化複合材料成形体1(
図3(d))を作製することとなる。
(3)また、上述したように、外側層プリプレグ積層体15は、内側層プリプレグ積層体14の電磁波遮蔽プリプレグ11と電磁波透過プリプレグ12との接合部領域20の全領域或いは一部領域を覆ってはいるが、電磁波透過プリプレグ12の全領域S(
図2(d)、
図3(d)にて接合線Jより左側領域の全ての領域)は覆わないようにして積層される。これにより、外側層繊維強化複合材(電磁遮蔽領域3)は、内側層繊維強化複合材(電磁波透過領域2)の全ての領域は覆ってはいない構成とされる。
【0072】
これによって、本発明の繊維強化複合材料成形体1は、厚さ方向において電磁波透過部12fによって形成される電磁波透過領域2を有することとなる。この電磁波透過領域2には、無線LANなどのアンテナ装置が配置されることとなる。また、成形後の本発明の繊維強化複合材料成形体1は、外表面が平らとされ、一定の厚さ(T)(T=0.4〜3mm)を有した薄板状とされる。
【0073】
次に、
図6〜
図10を参照して、本発明の繊維強化複合材料成形体1の製造例、比較例について説明する。
【0074】
(製造例1)
以下に説明する製造例1においては、電磁波遮蔽プリプレグ11としては、強化繊維としてモノフィラメント平均径が9μmの繊維を多数本収束したPAN系炭素繊維ストランドを使用し、マトリクス樹脂としてはエポキシ樹脂を使用して繊維に含浸させて半硬化させた設計厚さ0.24mm、繊維目付量250g/m
2、繊維体積含有率(Vf)57.2%とされる一方向PAN系炭素繊維プリプレグ(三菱レイヨン株式会社製:商品名「TR380G250」)を使用した。
【0075】
また、電磁波透過プリプレグ12としては、強化繊維としてのガラス繊維クロスに、マトリクス樹脂としてエポキシ樹脂を含浸させ、半硬化させた設計厚さ0.24mm、繊維目付量290g/m
2、繊維体積含有率(Vf)46.7%とされるシート状のガラス繊維クロスプリプレグ(三菱レイヨン株式会社製:商品名「GF9132 331DM」)を使用した。
【0076】
製造例1においては、
図6(a)に示すように、内側層プリプレグ13は、電磁波遮蔽プリプレグ11である90°方向の一方向PAN系炭素繊維プリプレグ11と、電磁波透過プリプレグ12である織物タイプのガラス繊維クロスプリプレグ12と、を厚さ方向と直交する方向に接合位置(接合線J)にて接合して作製した。つまり、本製造例1では、内側層プリプレグ13は、
図6(b)、(c)に示すように、電磁波遮蔽プリプレグ11(11A、11B、11C)と電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)とを接合した3層の内側層プリプレグ13(13A、13B、13C)にて構成され、この3層の内側層プリプレグ13(13A、13B、13C)を、各プリプレグの接合線Jが厚さ方向に一致するようにして積層した内側層プリプレグ積層体14を得た。
【0077】
なお、本製造例1にて、内側層プリプレグ13の長さLpは150mm(電磁波遮蔽プリプレグ11の部分の長さL11が125mm、電磁波透過プリプレグ12の部分の長さL12が25mm)であり、幅Wpは、80mm、とした。
【0078】
次に、
図6(c)に示すように、上述のようにして作製した3層の内側層プリプレグ13A、13B、13Cから成る内側層プリプレグ積層体14の両外側面に電磁波遮蔽プリプレグ11にて形成される外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)を配置して積層し、プリプレグ積層構造体1Pを作製した。
【0079】
なお、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)は、本製造例1では、上述した設計厚さ0.24mm、繊維目付量250g/m
2、繊維体積含有率(Vf)57.2%の電磁波遮蔽プリプレグである0°方向の一方向PAN系炭素繊維プリプレグ11(0°)であり、1層のみとした。外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)、即ち、外側層電磁波遮蔽プリプレグ11は、長さL15は135mmであり、幅は内側層プリプレグ13と同じ80mm、とした。
【0080】
本製造例1によれば、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)は、最も外側に配置した内側層プリプレグ13A、13Cにて、電磁波遮蔽プリプレグ11A、11Cから電磁波透過プリプレグ12A、12Cへと延在して、内側層プリプレグ13(13A、13C)の電磁波遮蔽プリプレグ11A、11Cと電磁波透過プリプレグ12A、12Cとの接合線Jにて示される接合部領域20を、本例ではy−y方向の全領域にわたって覆って配置した。しかし、電磁波透過プリプレグ12(12A、12C)の全領域(
図6(c)にて接合線Jよりx−x方向左側領域の全領域)は覆わないようにして積層した。本製造例1では、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)の、電磁波遮蔽プリプレグ11A、11Cから電磁波透過プリプレグ12A、12Cへと延在する延在量(Le)は、10mmとした。
【0081】
本製造例1においては、上述のようにして作製した
図6(c)に示すプリプレグ積層構造体1Pを、
図5(b)に示すようなオートクレーブ装置300を使用して、130℃、90分間、4気圧(0.4MPa)の圧力Pを付与することで、プリプレグ積層構造体1Pを成形し、硬化した。これにより、
図6(d)に示す繊維強化複合材料成形体1を得た。成形体1の厚さ(T)は、1.2mmであった。
【0082】
更に説明すると、このようにして成形した繊維強化複合材料成形体1の断面構成を、
図6(d)(及び
図4(c))に示す。
図4(b)に示すように、金型100による加熱加圧前の、プリプレグ積層構造体1Pは、内側層プリプレグ13の電磁波透過プリプレグ12A、12Cの上方、下方には、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)が存在しない空間部Vpが存在していた。しかし、加熱加圧後の繊維強化複合材料成形体1においては、加熱加圧前においては存在していた内側層プリプレグ積層体14の上方及び下方における空間部Vpに相当する領域、即ち、段差領域は存在しておらず、即ち、繊維強化複合材料成形体1の外側表面は段差のない一様な平面とされた。
【0083】
つまり、上述したように、プリプレグ積層構造体1Pは、金型100により加熱加圧されることによって、成形前のプリプレグ積層構造体1Pの厚さ(Tp)から成形後の成形体1の厚さ(T)へと圧縮され、それによって、両外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)、及び、内側層プリプレグ積層体14の電磁波遮蔽プリプレグ11(11A、11B、11C)、更には、内側層プリプレグ積層体14の電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)中のマトリクス樹脂が流動して、上記空間部Vpに、強化繊維とマトリクス樹脂が膨出することとなる。その結果、成形後の繊維強化複合材料成形体1の外側表面は、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)にて形成された外側層繊維強化樹脂複合材15f(15af、15bf)とされる電磁波遮蔽部に隣接して、樹脂領域Rを介して、外表面へと膨出した内側層繊維強化複合材(電磁波透過部)12f(12Af、12Cf)が一体に形成されることとなり、成形後の繊維強化複合材料成形体1の表面層に段差が生じることがなく、また、溝も、微小な凹部も発生せず、平滑表面を形成することができる。更に、本製造例では、成形体1の外表面を形成する電磁波透過複合材12Af、12Cfは、一端(図面上右側端部)が外側層繊維強化複合材15af、15bfにて強固に接着固定されており、成形体1の外表面を形成する電磁波透過複合材12Af、12Cfに付与される外力に対する強度の増大を可能とする。
【0084】
また、成形後の繊維強化複合材料成形体1においては、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)である電磁波遮蔽プリプレグ11にて作製された電磁波遮蔽繊維強化複合材15f(15af、15bf)が、電磁波遮蔽繊維強化複合材11fと電磁波透過繊維強化複合材12fとの接合部20を覆って形成されており、また、電磁波遮蔽繊維強化複合材15f(15af、15bf)に隣接しては樹脂領域Rが形成されている。従って、得られた繊維強化複合材成形体1は、厚さ方向(z−z方向)に電磁波遮蔽繊維強化複合材11f、15fを有していない電磁波透過領域2を有しており、十分な強度、剛性及び電磁波透過性を備えている。
【0085】
(比較例1)
図7(a)〜(d)に比較例1としての繊維強化複合材料成形体10を示す。比較例1では、内側層プリプレグ積層体14は、製造例1と同じ構成とした。つまり、
図7(b)に示すように、内側層プリプレグ積層体14は、電磁波遮蔽プリプレグ11(11A、11B、11C)と電磁波透過プリプレグ12(12A、12B、12C)とを接合した3層の内側層プリプレグ13(13A、13B、13C)の3層にて構成し、この3層の内側層プリプレグ13(13A、13B、13C)における各プリプレグの接合線Jは厚さ方向に一致するようにして積層した。
【0086】
一方、外側層プリプレグ積層体13a、13bは、
図7(a)、(c)に示すように、製造例1で使用した設計厚0.24mmの電磁波遮蔽プリプレグ11と同じ電磁波遮蔽プリプレグである0°方向の一方向PAN系炭素繊維プリプレグ15a、15bと、内側層プリプレグ13で使用した電磁波透過プリプレグ12と同じ電磁波透過プリプレグである織物タイプのガラス繊維クロスプリプレグ12a、12bと、を厚さ方向と直交する方向に接合線Jを介して接合して作製した。
【0087】
比較例1では、
図7(b)、(c)に示すように、外側層プリプレグ積層体13a、13bの電磁波透過プリプレグ12a、12bは、内側層プリプレグ積層体14の最も外側に配置した内側層プリプレグ13(13A、13C)にて、電磁波透過プリプレグ12(12A、12C)から電磁波遮蔽プリプレグ11A、11Cへと延在して配置され、内側層プリプレグ13(13A、13C)の電磁波透過プリプレグ12(12A、12C)の全領域、及び、内側層プリプレグ13(13A、13C)の電磁波遮蔽プリプレグ11(11A、11C)と電磁波透過プリプレグ12(12A、12C)との接合線Jにて示される接合部領域20覆って積層される。この比較例1では、外側層プリプレグ13a、13bの電磁波透過プリプレグ12a、12bが内側層プリプレグ積層体14の電磁波透過プリプレグ12(12A、12C)から電磁波遮蔽プリプレグ11(11A、11C)へと延在する延在量(Le)は、10mmとした。
【0088】
上述のようにして積層して作製された
図7(c)に示すプリプレグ積層構造体10Pを、上記製造例1と同様に、
図5(b)に示すようなオートクレーブ装置300を使用して130℃、90分間、4気圧(0.4MPa)の圧力Pを付与することで、プリプレグ積層体10Pを成形し、硬化した。これにより、
図7(d)に示す繊維強化複合材料成形体10を得た。成形体10の厚さ(T)は、1.2mmであった。
【0089】
繊維強化複合材料成形体10の外側表面は、外側層電磁波遮蔽プリプレグ15a、15bにて形成された電磁波遮蔽繊維強化樹脂複合材15af、15bfと、外側層電磁波透過プリプレグ12a、12bにて形成された外側層繊維強化樹脂複合材12af、12bf)が一体に形成されてはいるが、電磁波遮蔽部と電磁波透過部とにて形成された表面層の接合部20において僅かな段差、溝等が生じており、本発明の製造例1による繊維強化複合材料成形体1に比べると、表面平滑性において劣っていた。また、比較例1の繊維強化複合材料成形体10は、略同じ構成とされる製造例1による繊維強化複合材料成形体1に比べると、強度、剛性などの機械的特性において劣っていることが分かった。
【0090】
比較試験結果
本発明の繊維強化複合材料成形体1が有する性能を確認するために、上記製造例1で作製した成形体1と、上記比較例1で製造した成形体10との曲げ強度試験を行った。
【0091】
図8は、今回行った試験方法の概略説明図である。サンプルSを支持台50(50a、50b)で支持した。サンプルSの外表面における電磁波透過領域2に隣接する電磁波透過領域3の境界位置に所定の荷重PWを付与した。
【0092】
試験の結果は、本発明の製造例1で作製した成形体1の曲げ強度を100とした場合に、比較例1で作製した比較例の成形体10の曲げ強度は、78程度とされ、本発明に従った繊維強化複合材料成形体1が機械的特性において優れていることが分かった。
【0093】
(製造例2)
図9を参照して、本発明に従った製造方法の他の実施例について説明する。以下に説明する製造例2においては、内側層プリプレグ積層体14の電磁波遮蔽プリプレグ11としては、製造例1と同様に、強化繊維としてモノフィラメント平均径が9μmの繊維を多数本収束したPAN系炭素繊維ストランドを使用し、マトリクス樹脂としてはエポキシ樹脂を使用して繊維に含浸させて半硬化させた設計厚さ0.24mm、繊維目付量250g/m
2、繊維体積含有率(Vf)57.2%とされる一方向PAN系炭素繊維プリプレグ(三菱レイヨン株式会社製:商品名「TR380G250」)を使用した。
【0094】
また、電磁波透過プリプレグ12としては、製造例1と同様に、設計厚さ0.24mm、繊維目付量290g/m
2、繊維体積含有率(Vf)46.7%とされるシート状のガラス繊維クロスプリプレグ(三菱レイヨン株式会社製:商品名「GF9132 331DM」)を使用した。
【0095】
更に説明すると、本製造例2においては、
図9(a)、(b)、(c)に示すように、内側層プリプレグ積層体14として、
(1)電磁波遮蔽プリプレグ11である0°方向の一方向PAN系炭素繊維プリプレグ11(0°)と、電磁波透過プリプレグ12である織物タイプのガラス繊維クロスプリプレグ12と、を厚さ方向と直交する方向、即ち、シート状プリプレグの延在方向に接合線Jを介して接合したシート状の内側層プリプレグ13a(
図9(a))と、
(2)電磁波遮蔽プリプレグ11である90°方向の一方向PAN系炭素繊維プリプレグ11(90°)と、電磁波透過プリプレグ12である織物タイプのガラス繊維クロスプリプレグ12と、を厚さ方向と直交する方向、即ち、シート状プリプレグの延在方向に接合線Jを介して接合したシート状の内側層プリプレグ13b(
図9(b))と、
を作製した。
【0096】
本製造例2では、
図9(c)、(d)に示すように、上記内側層プリプレグ13a、13bを使用して、10層から成る内側層プリプレグ13(13A〜13J)にて内側層プリプレグ積層体14を作製したが、内側層プリプレグ13A、B、E、F、I、Jは内側層プリプレグ13aを使用して作製し、内側層プリプレグ13C、D、G、Hは内側層プリプレグ13bを使用して作製した。これら内側層プリプレグ13A〜13Jは、
図8(c)に示すように、内側層プリプレグ13(13A〜13J)の電磁波遮蔽プリプレグ11(11A〜11J)の繊維方向が(0°/0°/90°/90°/0°/0°/90°/90°/0°/0°)となるようにして、且つ、各プリプレグの接合線Jが厚さ方向に一致するようにして、10層分積層して内側層プリプレグ積層体14を得た。
【0097】
本製造例2では、内側層プリプレグ13(13a、13b)の長さLpは150mm(電磁波遮蔽プリプレグ11の部分の長さL11が125mm、電磁波透過プリプレグ12の部分の長さL12が25mm)であり、幅Wpは、80mm、とした。
【0098】
次に、
図9(d)に示すように、10層の内側層プリプレグ13A〜13Jから成る内側層プリプレグ積層体14の両外側面に電磁波遮蔽プリプレグ11とされる外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)を配置して積層した。
【0099】
外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)は、本製造例2では、0°方向の一方向PAN系炭素繊維プリプレグである電磁波遮蔽プリプレグ11(0°)であり、外側層プリプレグ11は、1層のみとした。外側層プリプレグ11は、設計厚さ0.24mm、繊維目付量250g/m
2、繊維体積含有率(Vf)57.2%の三菱レイヨン株式会社製(商品名「TR380G250」)を使用した。また、外側層プリプレグ積層体15、即ち、外側層電磁波遮蔽プリプレグ11は、長さL14が135mmであり、幅は、内側層プリプレグ積層体14と同じ80mm、とした。
【0100】
本製造例2においては、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)は、内側層プリプレグ積層体14の最も外側に配置した電磁波遮蔽プリプレグ11(11A、11J)から電磁波透過プリプレグ12(12A、12J)へと延在して、電磁波遮蔽プリプレグ11(11A、11J)と電磁波透過プリプレグ12(12A、12J)との接合線Jにて示される接合領域20を、本例ではy−y方向(幅方向)の全領域(Wp)にわたって覆ってはいるが電磁波透過プリプレグ12(12A、12J)の全領域(
図9(d)にてx−x方向左側領域の全領域)は覆わないようにして積層される。つまり、本製造例2では、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)の、内側層プリプレグ積層体14の電磁波遮蔽プリプレグ11(11A、11J)から電磁波透過プリプレグ12(12A、12J)へと延在する延在量(Le)は、4.0mmとした。
【0101】
上述のようにして作製された
図9(d)に示すプリプレグ積層構造体1Pを、例えば
図4に示すような上下型101、102を備えた金型100内にセットし、
図5(b)に示すようなオートクレーブ装置300を用いて130℃で135分間、0.4MPaの圧力を負荷することで、プリプレグ積層構造体1Pを圧縮成形し、繊維強化複合材料成形体1を得た。
【0102】
このようにして成形された繊維強化複合材料成形体1の断面構成を、
図9(e)に示す。
図4(a)、(b)及び
図9(d)に示すように、金型による加熱加圧前の、プリプレグ積層構造体1Pは、内側層プリプレグ積層体14の電磁波透過プリプレグ12(12A、12J)の上方及び下方には、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)が存在しない空間部Vpが存在していたが、
図9(e)に示すように、加熱加圧後の繊維強化複合材料成形体1においては、当該空間部Vpに相当する領域は存在していない。即ち、繊維強化複合材料成形体1の外側表面は段差のない一様な平面とされる。
【0103】
つまり、
図5(a)(a−1)、(a−2)を参照して上述したように、プリプレグ積層構造体1Pは、金型100の閉空間内にて加熱加圧されることによって、成形前のプリプレグ積層構造体1Pの厚さ(Tp)から成形後の成形体1の厚さ(T)へと圧縮され、それによって、両外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)、及び、内側層プリプレグ積層体14の電磁波遮蔽プリプレグ11(11A〜11J)中のマトリクス樹脂、更には、内側層プリプレグ積層体14の電磁波透過プリプレグ12(12A〜12J)の
図9(d)にてy−y方向右側端部領域中のマトリクス樹脂が電磁波透過プリプレグ12(12A〜12J)の
図9(d)にてy−y方向左側領域に流動し、該電磁波透過プリプレグ12の左側領域のマトリクス樹脂及び強化繊維が上記空間部Vpへと膨出し、即ち、押し込まれる。
【0104】
次いで、加熱加圧工程の完了に伴い脱型することにより、マトリクス樹脂が硬化して、所定の厚さ(T)の繊維強化複合材料成形体1が成形される(
図9(e)参照)。即ち、加熱加圧工程前に両外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)に隣接して形成されていた空間部Vp対応領域には、内側層プリプレグ積層体14の電磁波透過プリプレグ12が膨出することにより、電磁波透過プリプレグ12中の強化繊維とマトリクス樹脂が押入して成形される。また、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)に隣接した膨出した電磁波透過プリプレグ12A、12Jとの境界領域には、
図9(e)及び
図5(a)(a−2)に示すように、プリプレグ中のマトリクス樹脂が充填されて成形された樹脂領域Rが形成されて、繊維強化複合材料成形体1の外表面を一様な平滑平面としている。
【0105】
また、本発明では、
図9(e)に示すように、成形体1の外表面を形成する電磁波透過複合材12Af、12Jfは、一端(図面上右側端部)が外側層繊維強化複合材15af、15bfにて強固に接着固定されており、成形体1の外表面を形成する電磁波透過複合材12Af、12Jfに付与される外力に対する強度の増大を図ることができる。また、電磁波透過複合材12Af、12Jfの一端を固定する外側層繊維強化複合材15af、15bfは、電磁波遮蔽特性のある強化繊維として高強度、高剛性の炭素繊維強化プラスチック複合材とすることができ、強度、剛性などの機械的特性に優れた繊維強化複合材料成形体を得ることができる。しかも、上述したように、外側層繊維強化樹脂複合材15f(15af、15bf)と隣接する境界部には、樹脂領域Rが一体に形成されることとなる。従って、成形後の繊維強化複合材料成形体1の表面層に段差が生じることがなく、また、溝も、微小な凹部も発生せず、平滑表面を形成することができる。
【0106】
(変更製造例1)
上記製造例1、2では、内側層プリプレグ積層体14の複数層を成す内側層プリプレグ13(13A〜13J)は、電磁波遮蔽プリプレグ11と電磁波透過プリプレグとは実質的に同じ設計厚さ、同じ積層数とされ、そのため、積層された電磁波遮蔽プリプレグ11と、積層された電磁波透過プリプレグとの積層厚さが同じである場合について説明した。
【0107】
しかしながら、例えば筐体などとして使用される繊維強化複合材料成形体1は、要求される仕様を満足させるためには、使用する各プリプレグはその設計仕様を異ならせた設計とされることがある。従って、内側層プリプレグ積層体14を構成する各電磁波遮蔽プリプレグ11及び電磁波透過プリプレグ12は、製造される繊維強化複合材料成形体1に必要とされる強度、剛性を得るために、プリプレグシート11、12の所要の設計厚さ、繊維目付量、繊維体積含有率、繊維の配向、積層枚数などを種々に選択して、決定されることがある。この場合、内側層プリプレグ積層体14において、必ずしも、電磁波遮蔽プリプレグ11と電磁波透過プリプレグ12との積層数が同じであるとは限らない。
【0108】
本発明では、内側層プリプレグ積層体14は、1層又は複数層から成る電磁波遮蔽プリプレグ11と、1層又は複数層から成る電磁波透過プリプレグ12とを厚さ方向と直交する方向に、接合位置Jが厚さ方向に一致するようにして接合して作製されれば良く、この内側層プリプレグ積層体14の両外側面に又は片側面に、電磁波遮蔽プリプレグ11(11a、11b)を1層又は複数層積層して形成される外側層プリプレグ積層体14が積層されれば良い。従って、電磁波遮蔽プリプレグ11と電磁波透過プリプレグ12との積層数が異なる場合においても、最も効率的な作業手順を選択して本発明の繊維強化複合材料成形体1を容易に作製することができる。
【0109】
本変更製造例1においては、
図10(a)に示すように、電磁波遮蔽プリプレグ11(11A〜11J)及び電磁波透過プリプレグ12(12A〜12H)をそれぞれ個別に積層して電磁波遮蔽プリプレグ積層体11P及び電磁波透過プリプレグ積層体12Pを作製し、次いで、これら電磁波遮蔽プリプレグ積層体11P及び電磁波透過プリプレグ積層体12Pを、接合線Jが厚さ方向において一致するようにして接合して内側層プリプレグ積層体14を作製する。その後、
図10(b)に示すように、内側層プリプレグ積層体14の両側面に外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)を積層し、プリプレグ積層構造体1Pを得ることができる。
【0110】
上述のようにして積層された
図10(b)に示すプリプレグ積層構造体1Pを、例えば
図4に示すような上下型101、102を備えた金型100内にセットし、
図5(b)に示すようなオートクレーブ装置300を用いて130℃で135分間、0.4MPaの圧力を負荷することで、プリプレグ積層構造体1Pを圧縮成形し、繊維強化複合材料成形体1を得ることができる。
【0111】
本変更製造例1においても、
図5(a)(a−1)、(a−2)を参照して上述したように、プリプレグ積層構造体1Pは、金型100により加熱加圧されることによって、成形前のプリプレグ積層構造体1Pの厚さ(Tp)から成形後の成形体1の厚さ(T)へと圧縮され、それによって、両外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)、及び、内側層プリプレグ積層体14の電磁波遮蔽プリプレグ11(11A〜11J)中のマトリクス樹脂、更には、内側層プリプレグ積層体14の電磁波透過プリプレグ12(12A〜12H)の
図10(b)にて右側端部領域中のマトリクス樹脂が電磁波透過プリプレグ12(12A〜12H)の
図10(b)にて左側領域に流動し、該電磁波透過プリプレグ12の左側領域のマトリクス樹脂及び強化繊維が上記空間部Vpへと膨出し、即ち、押し込まれる。
【0112】
また、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)と、該積層体15に隣接した膨出した電磁波透過プリプレグ12A、12Jの左側端部との境界領域には、
図5(a)(a−2)及び
図9(e)に示すように、プリプレグ中のマトリクス樹脂が充填されて成形された樹脂領域Rが形成されて、繊維強化複合材料成形体1の外表面を一様な平滑平面としている。
【0113】
従って、本変更製造例1において作製した繊維強化複合材料成形体1もまた、上記製造例1、2にて作製した繊維強化複合材料成形体1と同様の特徴を有した構成とされ、同様の作用効果を達成し得る。
【0114】
尚、本変更製造例1によれば、
図10(a)に示すように、電磁波遮蔽プリプレグ積層体11Pと電磁波透過プリプレグ積層体12Pとの積層厚を必ずしも同じとすることができない場合が生じ、内側層プリプレグ積層体14の側面と、外側層プリプレグ積層体15との間に僅かの段差△tpが生じることがある。
【0115】
しかしながら、本発明者らの研究実験結果によると、プリプレグ積層構造体1Pにおいて、内側層プリプレグ積層体14の上に(或いは、下に)長さの異なる外側層プリプレグ積層体15を積層することにより生じた、外側層プリプレグ積層体15の設計厚さ(T15)及び上記段差△tpに起因する段差△Tpaは、上述したように、製造例1、2の場合と同様に、段差△Tpaが0.25mm以下とされる場合においては解消され、成形後の繊維強化複合材料成形体1の外側表面に段差が生じないことが分かった。勿論、上述したように、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)は、接合部20の強度を保持することが重要であり、設計厚さ(T15a、T15b)は、0.02mm以上は必要とされる。
【0116】
(変更製造例2)
上記変更製造例1では、電磁波遮蔽プリプレグ11(11A〜11J)及び電磁波透過プリプレグ12(12A〜12H)をそれぞれ個別に積層して電磁波遮蔽プリプレグ積層体11P及び電磁波透過プリプレグ積層体12Pを作製し、次いで、これら電磁波遮蔽プリプレグ積層体11P及び電磁波透過プリプレグ積層体12Pを、接合線Jが厚さ方向において一致するようにして接合して内側層プリプレグ積層体14を作製し、その後、内側層プリプレグ積層体14の両側面に外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)を積層するものとして説明した。
【0117】
しかし、上記製造法に限定されるものではなく、例えば、
図10(c)に示すように、所定形状に切り出された、内側層プリプレグ積層体14を構成する電磁波遮蔽プリプレグ11(11A〜11J)と電磁波透過プリプレグ12(12A〜12H)とを、接合線Jが厚さ方向において一致するよう接合しながら、外側層プリプレグ積層体15aの上に順次積層して、内側層プリプレグ積層体14を形成し、次いで、外側層プリプレグ積層体15bを内側層プリプレグ積層体14の他の側面に積層することができる。
【0118】
尚、この変更製造例2によれば、
図10(c)に示すように、電磁波遮蔽プリプレグ積層体11Pと電磁波透過プリプレグ積層体12Pとの積層厚とが異なる場合には、プリプレグ積層構造体1Pにおいて、内側層プリプレグ積層体14の下に、長さの異なる外側層プリプレグ積層体15aを積層することにより生じた、外側層プリプレグ積層体15aの設計厚さ(T15a)に起因する段差△Tpaが生じ、一方、内側層プリプレグ積層体14の上に、長さの異なる外側層プリプレグ積層体15bを積層することにより生じた、外側層プリプレグ積層体15bの設計厚さ(T15b)及び上記段差(2×△tp)(
図10(a)参照)に起因する段差△Tpbが生じる。
【0119】
しかしながら、本発明者らの研究実験結果によると、プリプレグ積層構造体1Pにおいて、内側層プリプレグ積層体14の上、下に生じる段差△Tpa、△Tpbは、上述したように、段差△Tpa、△Tpbが0.25mm以下とされる場合においては解消され、成形後の繊維強化複合材料成形体1の外側表面に段差が生じないことが分かった。勿論、上述したように、外側層プリプレグ積層体15(15a、15b)は、接合部20の強度を保持することが重要であり、設計厚さ(T15a、T15b)は、0.02mm以上は必要とされる。