特開2018-164436(P2018-164436A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2018-164436植物細胞に遺伝子を導入するための複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-164436(P2018-164436A)
(43)【公開日】2018年10月25日
(54)【発明の名称】植物細胞に遺伝子を導入するための複合体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20180928BHJP
   C07K 14/195 20060101ALI20180928BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   C07K14/195
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-63568(P2017-63568)
(22)【出願日】2017年3月28日
(71)【出願人】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 崇
(72)【発明者】
【氏名】河野 強
(72)【発明者】
【氏名】上中 弘典
(72)【発明者】
【氏名】三浦 千裕
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 倫子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 明歳
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA30
4H045CA11
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】所望の遺伝子を幅広い植物種に効率よく導入するための手段を開発する。
【解決手段】下記タンパク質:(a)1個のVirD2タンパク質、(b)1個以上のVirE2タンパク質、または(c)1個のVirD2タンパク質および1個以上のVirE2タンパク質、および植物細胞に導入される遺伝子を含む複合体であって、VirD2タンパク質、VirE2タンパク質のいずれかまたは両方に細胞膜透過ペプチド(CPP)を融合させた複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記タンパク質:
(a)1個のVirD2タンパク質、
(b)1個以上のVirE2タンパク質、または
(c)1個のVirD2タンパク質および1個以上のVirE2タンパク質
および植物細胞に導入される遺伝子
を含む複合体であって、VirD2タンパク質、VirE2タンパク質のいずれかまたは両方に細胞膜透過ペプチド(CPP)を融合させた複合体。
【請求項2】
CPPの80%以上のアミノ酸残基がヒスチジン残基であり、CPPの長さが8アミノ酸以上である、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
CPPの長さが16アミノ酸以上である、請求項2記載の複合体。
【請求項4】
CPPのすべてのアミノ酸残基がヒスチジン残基である請求項1〜3のいずれか1項記載の複合体。
【請求項5】
下記の2つのプラスミド:
(a)1個のVirD2タンパク質、
(b)1個以上のVirE2タンパク質、または
(c)1個のVirD2タンパク質および1個以上のVirE2タンパク質
をコードする遺伝子を含むプラスミド;および
植物細胞に導入される遺伝子を含むプラスミド
をアグロバクテリウム属の細菌に導入し、該プラスミドを導入されたアグロバクテリウム属の細菌を培養し、次いでアグロバクテリウム属の細菌から該複合体を得ることを含む、請求項1記載の複合体の製造方法であって、VirD2タンパク質をコードする遺伝子、VirE2タンパク質をコードする遺伝子のいずれかまたは両方にCPPをコードするポリヌクレオチドが融合されている、方法。
【請求項6】
下記のプラスミド:
(a)1個のVirD2タンパク質をコードする遺伝子および植物細胞に導入される遺伝子を含むプラスミド、
(b)1個以上のVirE2タンパク質をコードする遺伝子および植物細胞に導入される遺伝子を含むプラスミド、または
(c)1個のVirD2タンパク質および1個以上のVirE2タンパク質をコードする遺伝子および植物細胞に導入される遺伝子を含むプラスミド
をアグロバクテリウム属の細菌に導入し、該プラスミドを導入されたアグロバクテリウム属の細菌を培養し、次いでアグロバクテリウム属の細菌から該複合体を得ることを含む、請求項1記載の複合体の製造方法であって、VirD2タンパク質をコードする遺伝子、VirE2タンパク質をコードする遺伝子のいずれかまたは両方にCPPをコードするポリヌクレオチドが融合されている、方法。
【請求項7】
CPPの80%以上のアミノ酸残基がヒスチジン残基であり、CPPの長さが8アミノ酸以上である、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
CPPの長さが16アミノ酸以上である請求項7記載の方法。
【請求項9】
CPPのすべてのアミノ酸残基がヒスチジン残基である請求項5〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項記載の複合体を植物細胞に導入することを含む、植物細胞への遺伝子導入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物細胞に遺伝子を導入するためのDNAとタンパク質の複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子導入技術は、基礎・応用研究を問わず多方面で利用されつつあり、現代における必須基盤技術である。しかし、植物を対象とした従来の遺伝子導入技術には、導入効率が必ずしも高くないという効率の悪さに加え、適用可能な生物種が限定されている汎用性の低さという二つの致命的な課題が存在している。
【0003】
この最大の理由として、従来の遺伝子導入技術では、アグロバクテリウムによる植物細胞への感染を介する植物細胞内への遺伝子導入を必須のプロセスとしている点が挙げられる。従来法では、アグロバクテリウムの細胞内で、DNAとタンパク質(VirD2、 VirE2)の複合体(これをT−DNA複合体と呼ぶ)を発現させ、アグロバクテリウムを植物細胞に感染させることで、このT−DNA複合体を植物細胞内に導入する手法がとられている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Gelvin SB. Agrobacterium-mediated plant transformation: the biology behind the "gene-jockeying" tool. Microbiol. Mol. Biol. Rev., 67, 16-37. (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
植物細胞側の防御反応によりアグロバクテリウムが感染しにくい植物種や、そもそもアグロバクテリウムが感染できない植物種では、遺伝子の導入効率が悪い、または遺伝子導入自体ができないという問題点が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、T−DNA複合体を形成するVirD2タンパク質、VirE2タンパク質のいずれかまたは両方に細胞膜透過ペプチド(CPP)を融合させることにより、アグロバクテリウムの感染を要することなく所望の遺伝子を植物細胞に直接導入できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち本発明は以下のものを提供する:
(1)下記タンパク質:
(a)1個のVirD2タンパク質、
(b)1個以上のVirE2タンパク質、または
(c)1個のVirD2タンパク質および1個以上のVirE2タンパク質
および植物細胞に導入される遺伝子
を含む複合体であって、VirD2タンパク質、VirE2タンパク質のいずれかまたは両方に細胞膜透過ペプチド(CPP)を融合させた複合体;
(2)CPPの80%以上のアミノ酸残基がヒスチジン残基であり、CPPの長さが8アミノ酸以上である、(1)記載の複合体;
(3)CPPの長さが16アミノ酸以上である、(2)記載の複合体;
(4)CPPのすべてのアミノ酸残基がヒスチジン残基である(1)〜(3)のいずれか記載の複合体;
(5)下記の2つのプラスミド:
(a)1個のVirD2タンパク質、
(b)1個以上のVirE2タンパク質、または
(c)1個のVirD2タンパク質および1個以上のVirE2タンパク質
をコードする遺伝子を含むプラスミド;および
植物細胞に導入される遺伝子を含むプラスミド
をアグロバクテリウム属の細菌に導入し、該プラスミドを導入されたアグロバクテリウム属の細菌を培養し、次いでアグロバクテリウム属の細菌から該複合体を得ることを含む、請求項1記載の複合体の製造方法であって、VirD2タンパク質をコードする遺伝子、VirE2タンパク質をコードする遺伝子のいずれかまたは両方にCPPをコードするポリヌクレオチドが融合されている、方法;
(6)下記のプラスミド:
(a)1個のVirD2タンパク質をコードする遺伝子および植物細胞に導入される遺伝子を含むプラスミド、
(b)1個以上のVirE2タンパク質をコードする遺伝子および植物細胞に導入される遺伝子を含むプラスミド、または
(c)1個のVirD2タンパク質および1個以上のVirE2タンパク質をコードする遺伝子および植物細胞に導入される遺伝子を含むプラスミド
をアグロバクテリウム属の細菌に導入し、該プラスミドを導入されたアグロバクテリウム属の細菌を培養し、次いでアグロバクテリウム属の細菌から該複合体を得ることを含む、請求項1記載の複合体の製造方法であって、VirD2タンパク質をコードする遺伝子、VirE2タンパク質をコードする遺伝子のいずれかまたは両方にCPPをコードするポリヌクレオチドが融合されている、方法;
(7)CPPの80%以上のアミノ酸残基がヒスチジン残基であり、CPPの長さが8アミノ酸以上である、(5)または(6)記載の方法;
(8)CPPの長さが16アミノ酸以上である、(7)記載の方法;
(9)CPPのすべてのアミノ酸残基がヒスチジン残基である(5)〜(8)のいずれか記載の方法;
(10)(1)〜(4)のいずれか記載の複合体を植物細胞に導入することを含む、植物細胞への遺伝子導入方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アグロバクテリウムの感染を要することなく所望の遺伝子を植物細胞に直接導入できる。したがって、植物細胞側の防御反応によりアグロバクテリウムが感染しにくい植物種や、そもそもアグロバクテリウムが感染できない植物種に対して、効率良く遺伝子を導入できる。すなわち、本発明の複合体を用いれば、所望の遺伝子を幅広い植物種に効率よく迅速に導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の複合体の製造に用いたプラスミドの模式図である。Aはプラスミド#1、Bはプラスミド#2、Cはこれらのプラスミドを導入したアグロバクテリウム菌体内での複合体の生成を示す。図中、H0〜H20はヒスチジン残基0個〜20個のCPP(ポリヒスチジン)を意味する。
図2図2は、アガロースゲル電気泳動による本発明により得られた複合体の同定結果を示す写真である。
図3図3は、様々な長さのポリヒスチジンを融合させた本発明の複合体(レポーター遺伝子としてルシフェラーゼを用いた)を植物細胞に導入して、植物細胞中のルシフェラーゼ活性を測定した結果を示すグラフである。VirD2−HnはVirD2タンパク質にヒスチジン残基n個からなるポリヒスチジンが融合していることを示す。VirE2−HnはVirE2タンパク質にヒスチジン残基n個からなるポリヒスチジンが融合していることを示す。縦軸はルシフェラーゼ活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、1の態様において、下記タンパク質:
(a)1個のVirD2タンパク質、
(b)1個以上のVirE2タンパク質、または
(c)1個のVirD2タンパク質および1個以上のVirE2タンパク質
および植物細胞に導入される遺伝子
を含む複合体であって、VirD2タンパク質、VirE2タンパク質のいずれかまたは両方に細胞膜透過ペプチド(CPP)を融合させた複合体(以下、「本発明の複合体」という)に関する。
【0011】
VirD2タンパク質およびVirE2タンパク質は、Tiプラスミドの毒性領域中の遺伝子によってコードされている。これらのタンパク質は、植物に導入される遺伝子と複合体を形成することができる。
【0012】
1の具体例において、本発明の複合体は、1個のVirD2タンパク質と植物に導入される遺伝子とを含む。この具体例において、VirD2以外のVirタンパク質(VirA、VirB、VirC、VirD、VirE、VirGタンパク質が知られている)が複合体に含まれていてもよい。この具体例において、複合体中の上記Virタンパク質の順序は任意であるが、植物に導入される遺伝子はVirD2タンパク質に結合している。
【0013】
さらなる具体例において、本発明の複合体は、1個以上のVirE2タンパク質と植物に導入される遺伝子とを含む。VirE2タンパク質の個数は1個ないし数個または数十個であってもよい。この具体例において、VirE2以外のVirタンパク質が複合体に含まれていてもよい。この具体例において、複合体中の上記Virタンパク質の順序は任意であるが、植物に導入される遺伝子はVirE2タンパク質に結合している。
【0014】
さらなる具体例において、本発明の複合体は、1個のVirD2タンパク質および1個以上のVirE2タンパク質と植物に導入される遺伝子とを含む。VirE2タンパク質の個数は1個ないし数個または数十個であってもよい。この具体例において、VirD2およびVirE2以外のVirタンパク質が複合体に含まれていてもよい。この具体例において、複合体中の上記Virタンパク質の順序は任意である。植物に導入される遺伝子はVirD2タンパク質またはVirE2タンパク質に結合している。
【0015】
本発明の複合体において、VirD2タンパク質、VirE2タンパク質のいずれかまたは両方にCPPが融合されている。融合とは化学結合によってCPPがVirD2タンパク質またはVirE2タンパク質に結合されることをいう。VirD2タンパク質またはVirE2タンパク質におけるCPPの結合位置はいずれの位置であってもよいが、好ましくは、CPPはこれらのタンパク質のN末端またはC末端に結合している。
【0016】
本発明の複合体中のCPPは、長さが数アミノ酸以上、好ましくは8アミノ酸以上で、構成アミノ酸の半数以上がヒスチジンであるペプチドを提供する。このようなCPPを融合させた本発明の複合体は、植物細胞への遺伝子導入効率が高い。
【0017】
本発明の複合体中のCPPの構成アミノ酸はヒスチジンが豊富であり、好ましくは構成アミノ酸残基の約80%以上がヒスチジン残基であり、より好ましくは構成アミノ酸残基の約90%以上がヒスチジン残基であり、さらに好ましくはすべての構成アミノ酸残基がヒスチジン残基である。
【0018】
本発明の複合体中のCPPの長さは8アミノ酸以上、好ましくは16アミノ酸以上、より好ましくは20アミノ酸以上である。したがって、本発明のペプチドの長さは、例えば、8アミノ酸〜数十アミノ酸、好ましくは16アミノ酸〜数十アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸〜数十アミノ酸の範囲であってもよい。ここで、数十アミノ酸とは、10〜100未満の範囲の任意のアミノ酸数を意味する。
【0019】
本発明の複合体中のCPPの特に好ましい例として、すべての構成アミノ酸残基がヒスチジン残基であるCPPが挙げられる。
【0020】
本発明のペプチドを構成するヒスチジン以外のアミノ酸残基はいずれのアミノ酸残基であってもよく、天然アミノ酸残基、非天然アミノ酸残基、修飾アミノ酸残基、あるいは合成アミノ酸残基であってもよい。アミノ酸の合成や修飾は当業者が適宜行いうることである。好ましくは、本発明のペプチドを構成するヒスチジン以外のアミノ酸残基は、アルギニン、リジンなどの塩基性アミノ酸残基、あるいはヒスチジンと類似の特性を有するアミノ酸残基である。
【0021】
植物に導入される遺伝子は1個であってもよく、複数個であってもよい。植物に導入される遺伝子の種類は1種類であってもよく、複数種類であってもよい。
【0022】
本発明の複合体を用いれば、アグロバクテリウムによる感染というプロセスを経ずに、所望の遺伝子を直接植物細胞に導入することができる。そのため、所望の遺伝子を幅広い植物種に効率よく迅速に導入することができる。
【0023】
本発明の複合体を遺伝子工学的手法によって製造してもよい。したがって、本発明は、さらなる態様において、下記の2つのプラスミド:
(a)1個のVirD2タンパク質、
(b)1個以上のVirE2タンパク質、または
(c)1個のVirD2タンパク質および1個以上のVirE2タンパク質
をコードする遺伝子を含むプラスミド;および
植物細胞に導入される遺伝子を含むプラスミド
をアグロバクテリウム属の細菌に導入し、該プラスミドを導入されたアグロバクテリウム属の細菌を培養し、次いでアグロバクテリウム属の細菌から該複合体を得ることを含む、本発明の複合体の製造方法であって、VirD2タンパク質をコードする遺伝子、VirE2タンパク質をコードする遺伝子のいずれかまたは両方にCPPをコードするポリヌクレオチドが融合されている、方法に関する。
【0024】
本発明の方法に用いられる、タンパク質をコードする遺伝子を含むプラスミドは、アグロバクテリウムの複製開始点を含む公知のプラスミド、例えばpBIN19、pPZP111、pGreen0029、またはこれらを骨格としたプラスミドなどを骨格として用いて構築することができる。プラスミド中のプロモーター等のエレメントは、当業者が適宜選択することができる。
【0025】
本発明の方法に用いられる、植物に導入される遺伝子をコードする遺伝子を含むプラスミドは、公知のプラスミド、例えばpBIN19、pPZP111、pGreen0029、またはこれらを骨格としたプラスミドなどを骨格として用いて構築することができる。プラスミド中のプロモーター等のエレメントは、当業者が適宜選択することができる。
【0026】
本発明の複合体の製造方法において、上記Virタンパク質をコードする遺伝子と植物細胞に導入される遺伝子とが1つのプラスミド中に含まれていてもよい。したがって、本発明は、さらなる態様において、下記のプラスミド:
(a)1個のVirD2タンパク質をコードする遺伝子および植物細胞に導入される遺伝子を含むプラスミド、
(b)1個以上のVirE2タンパク質をコードする遺伝子および植物細胞に導入される遺伝子を含むプラスミド、または
(c)1個のVirD2タンパク質および1個以上のVirE2タンパク質をコードする遺伝子および植物細胞に導入される遺伝子を含むプラスミド
をアグロバクテリウム属の細菌に導入し、該プラスミドを導入されたアグロバクテリウム属の細菌を培養し、次いでアグロバクテリウム属の細菌から該複合体を得ることを含む、請求項1記載の複合体の製造方法であって、VirD2タンパク質をコードする遺伝子、VirE2タンパク質をコードする遺伝子のいずれかまたは両方にCPPをコードするポリヌクレオチドが融合されている、方法に関する。
【0027】
本発明の複合体の製造方法において、VirE2タンパク質をコードする遺伝子、VirD2タンパク質をコードする遺伝子のいずれかまたは両方にCPPをコードするポリヌクレオチドを融合させる。融合は、VirE2タンパク質をコードする遺伝子またはVirD2タンパク質をコードする遺伝子の3’側で行ってもよく、5’側で行ってもよい。融合は、スペーサー配列を介して行ってもよく、介さずに行ってもよい。
【0028】
次いで、プラスミドをアグロバクテリウム属の細菌に導入する。プラスミドの導入は公知の方法にて行うことができる。例えばヘルパープラスミドを用いたMatingによる方法、ヒートショックを用いる方法、もしくはエレクトロポレーションを用いる方法などを用いてもよい。
【0029】
プラスミドを導入したアグロバクテリウム属の細菌を培養する。培養は公知の方法にて行うことができる。例えば、アグロバクテリウム属の細菌をLB培地中、28℃で適当時間培養してもよい。培養中にアグロバクテリウム属の細菌の菌体内で、プラスミドから発現したVirタンパク質と植物に導入される遺伝子が複合体を形成する。
【0030】
次いで、遠心分離等の公知の方法を用いて、培養物からアグロバクテリウム属の細菌を分離し、菌体を破砕することによって本発明の複合体を得ることができる。菌体の破砕は、超音波処理、ホモジナイザー、ミル等の公知の手段を用いて行うことができる。
【0031】
必要に応じて、カラムクロマトグラフィー等の公知の手段を用いて本発明の複合体を精製してもよい。
【0032】
本発明の複合体は、上記のような遺伝子工学的手法によって製造できるが、化学合成法によって、あるいは遺伝子工学的手法と化学合成法を併用することによって製造してもよい。
【0033】
さらに、本発明の複合体は、VirD2タンパク質および/またはVirE2タンパク質、ならびに植物細胞に導入される遺伝子をインビトロにて混合することによって製造してもよい(VirD2タンパク質、VirE2タンパク質のいずれかまたは両方にCPPが融合されている)。例えば、下記の組換えタンパク質:
(a)1個のVirD2タンパク質を含む組換えタンパク質、
(b)1個以上のVirE2タンパク質を含む組換えタンパク質、または
(c)1個のVirD2タンパク質および1個以上のVirE2タンパク質を含む組換えタンパク質
および
植物細胞に導入される遺伝子
をインビトロにて混合することにより、本発明の複合体を製造してもよい(VirD2タンパク質、VirE2タンパク質のいずれかまたは両方にCPPが融合されている)。
【0034】
本発明はさらなる態様において、本発明の複合体を植物細胞に導入することを含む、植物細胞への遺伝子導入方法に関する。本発明の複合体と植物細胞を培地中でインキュベーションすることにより、植物細胞に遺伝子を直接的に導入することができる。植物細胞への複合体の導入方法、培地の種類やインキュベーションの条件は、植物細胞の種類に応じて当業者が適宜選択、変更することができる。
【0035】
本発明の遺伝子導入方法は、アグロバクテリウムの感染という従来法のボトルネックを排除しているため、従来法の課題点であった導入効率の悪さと植物細胞の汎用性の低さを克服するものである。
【0036】
以下に実施例を示して本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0037】
1)供試細胞
ポリヒスチジン融合T−DNA複合体を発現させるアグロバクテリウムとしてGV3101株を使用した。一方で、植物細胞としてタバコ培養細胞であるBY−2株(rpc00001)を使用した。
【0038】
2)組換えアグロバクテリウムの構築
T−DNA複合体を構成するVirD2、VirE2の両タンパク質に、ポリヒスチジンを融合したポリヒスチジン融合VirD2、VirE2を発現するプラスミド「プラスミド#1」を構築した(図1A)。この際、VirD2とVirE2にそれぞれ5通りの鎖長のポリヒスチジン(ヒスチジン0、8、12、16、20残基)を融合した組み合わせを設計したため、プラスミド#1は全25種類(5種類×5種類)を構築した。また、遺伝子導入を評価するためのレポーター遺伝子として、ルシフェラーゼ遺伝子(Luc遺伝子)を導入したプラスミド「プラスミド#2」を構築した(図1B)。これらプラスミド#1および#2を一緒にアグロバクテリウムに導入することで、組換えアグロバクテリウム(全25種類)を構築した。
【0039】
プラスミド#1を以下のようにして構築した。pGreen0229プラスミドの536位をインバースPCRにより開環した。次いでこの開環部位に対して、5’側にVirE2発現カセット(VirE promoter−VirE2−CPP−NOS terminator)を、3’側にVirD2発現カセット(VirD promoter−VirD2−CPP−NOS terminator)をIn−Fusion Cloning法により導入することで、プラスミド#1を構築した。
【0040】
プラスミド#2を以下のようにして構築した。pPZP111を骨格としたpGWB402Ωプラスミドの1165位から2906位の間を、インバースPCRにより開環・除去した。次いでこの開環部位に対して、ルシフェラーゼをコードする遺伝子をIn−Fusion Cloning法により導入することで、プラスミド#2を構築した。
【0041】
アグロバクテリウムへのプラスミドの導入を以下のようにして行った。アグロバクテリウムのコンピテントセルを常温で溶解し、コンピテントセル20μL に対し、プラスミド#1とプラスミド#2をそれぞれ50ng加え、数回タッピングした。コンピテントセルとプラスミドの混合溶液を、あらかじめ氷上で冷やしておいたキュベットに移し、Gene Pulser エレクトロポレーションシステム(BioRad社製)を用いて、エレクトロポレーションを行った。このときのGene Pulserの設定は、25μF、200Ω、2,500Vの条件で行った。エレクトロポレーション後、キュベットに素早く1mLのSOC培地を加えた。3回ほどピペッティングし、1.5 mL容チューブに移した後に、28℃、2時間で振とうしながらインキュベーションを行った。その後、LB寒天培地(100μg/mL スペクチノマイシン、50μg/mL カナマイシン含有)に植菌し、28℃で一晩培養した。
【0042】
3)ポリヒスチジン融合T−DNA複合体の調製(図1C
上記で構築した全25種類の組換えアグロバクテリウムを、5mLのLB液体培地に植菌し、28℃で一晩振とう培養した(前培養)。一晩培養した前培養液4mLを、50mLのLB液体誘導培地[カナマイシン50μg/mL、スペクチノマイシン100μg/mL、アセトシリンゴン20μM、MES−KOH(pH5.7)10mM]に加え、28℃で一晩振とう培養した。その後、遠心分離(5,000g x 20分、室温)により沈殿を回収した後、Agro−infiltration Buffer[MgCl 10mM、MES−KOH(pH5.7)10mM、アセトシリンゴン200μM]にてOD600=0.5になるように懸濁した。次いで、遮光した状態で、室温で一晩インキュベーションした。その後、10mLを15mLファルコンチューブに移し、遠心分離(4,000rpm x 15分、4℃)により沈殿を回収した。沈殿に1mLのLS培地を加え懸濁した。この懸濁液を超音波破砕に供することで、菌体破砕液を得た。菌体破砕液を遠心分離(13,000rpm x 10分、4℃)に供し、上清を0.22μmシリンジフィルターに通過させることで、ポリヒスチジン融合T−DNA複合体抽出液を得た。
【0043】
生成された複合体(VirD2タンパク質+VirE2タンパク質+遺伝子)の確認は、Ni樹脂を用いたアフィニティー精製とPCRを用いて行った。
【0044】
まず、上記と同様の手法により、ポリヒスチジンが融合されていない複合体(VirD2−H0 + VirE2−H0 + Luc遺伝子)、ポリヒスチジンがVirD2のみに融合された複合体(VirD2−H8 + VirE2−H0 + Luc遺伝子)、ポリヒスチジンがVirE2のみに融合された複合体(VirD2−H0 + VirE2−H8 + Luc遺伝子)、ポリヒスチジンがVirD2とVirE2の両方に融合された複合体(VirD2−H8 + VirE2−H8 + Luc遺伝子)を調製した。
【0045】
次いで、これらの複合体を、Ni樹脂を用いたアフィニティー精製に供することで、ポリヒスチジンが融合された複合体を回収した。アフィニティー精製His Mag Sepharose Ni(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を用いた。
最後に、回収した複合体にLuc遺伝子が含まれているか(ポリヒスチジンが融合されたVirD2またはVirE2とLuc遺伝子が複合体を形成しているか)を、PCRで確認した。回収した複合体を鋳型として、またLuc遺伝子に選択的なプライマーを用いて、PCRを行った。
【0046】
その結果、ポリヒスチジンがVirD2のみに融合された複合体(VirD2−H8 + VirE2−H0 + Luc遺伝子)、ポリヒスチジンがVirE2のみに融合された複合体(VirD2−H0 + VirE2−H8 + Luc遺伝子)、ポリヒスチジンがVirD2とVirE2の両方に融合された複合体(VirD2−H8 + VirE2−H8 + Luc遺伝子)を、Ni樹脂を用いたアフィニティー精製に供し、PCRを行った結果、Luc遺伝子の検出が確認された。すなわち、ポリヒスチジンを融合したVirD2およびVirE2は、Luc遺伝子と複合体を形成していることが確認された(図2)。
【0047】
4)ポリヒスチジン融合T−DNA複合体の細胞内導入の評価
継代3日目のBY−2細胞(1mL)を2.0 mLエッペンドルフチューブに分注した。このBY−2細胞1mLに対して、上記で得たポリヒスチジン融合T−DNA複合体抽出液1mLを加え、28℃にて一晩振とう培養した。次いで、遠心分離(4,000rpm x 10分、4℃)によりBY−2細胞を回収し、100μLの×1 Passive lysis buffer(Promega社製品)に懸濁した後、室温で10分インキュベーションすることでBY−2細胞を破砕した。細胞破砕液を遠心分離(15,000rpm x 10分、室温)し、上清にセレンテラジンを終濃度2μMになるように添加し、室温で10分インキュベーションした。ルミノメーター(GENE LIGHT GL−220A)を用いて、細胞破砕液中のルシフェラーゼ活性を測定することで、BY−2細胞に対するポリヒスチジン融合T−DNA複合体の導入を評価した。
【0048】
5)結果
全25種類の組換えアグロバクテリウムから調製したポリヒスチジン融合T−DNA複合体について、BY−2細胞に対する遺伝子の直接導入を評価した。その結果、5種類のポリヒスチジン融合T−DNA複合体(VirD2−H8 + VirE2−H0、VirD2−H16 + VirE2−H0、VirD2−H8 + VirE2−H8、VirD2−H16 + VirE2−H12、VirD2−H20 + VirE2−H20)を処理したBY−2細胞において、ルシフェラーゼ活性が検出されたことから、これら5種類のポリヒスチジン融合T−DNA複合体はBY−2細胞に導入され、機能している(Luc遺伝子が発現している)ことが確認された(図3)。特に、VirD2−H20 + VirE2−H20から構成されるポリヒスチジン融合T−DNA複合体において、もっとも高いルシフェラーゼ活性が検出された。なお、上の表記、例えば「VirD2−H20 + VirE2−H20」という場合は、VirD2タンパク質に20個のヒスチジン残基からなるポリヒスチジンが融合し、VirE2タンパク質に20個のヒスチジン残基からなるポリヒスチジンが融合しているT−DNA複合体を意味する。
【0049】
これらの結果から、本発明の複合体を用いた遺伝子導入方法の効果が実証された。
【0050】
アグロバクテリウム感染を利用した従来の遺伝子導入法では、アグロバクテリウム感染から導入遺伝子の発現が確認されるまでに数日(3日以上)を要することが知られている。しかし、本発明の複合体を用いた遺伝子導入法においては、ポリヒスチジン融合T−DNA複合体を処理してから1日後には導入遺伝子の発現が確認された。直接導入法においてこのような即効性が確認された理由として、直接導入法ではアグロバクテリウムの感染というプロセスを必要とせず、効率的(迅速)な遺伝子導入が実現できたためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、植物の研究、育種、品種改良などに利用可能である。
図1
図2
図3