【解決手段】止水剤は、石油樹脂とアクリル樹脂とレドックス系触媒の酸化剤成分と水からなるA液と、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとアニオン性電解質モノマーとレドックス系触媒の還元剤成分と水からなるB液と、を混合してなる。
石油樹脂とアクリル樹脂とレドックス系触媒の酸化剤成分と水からなるA液と、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとアニオン性電解質モノマーとレドックス系触媒の還元剤成分と水からなるB液と、
を混合してなる、
止水剤。
前記レドックス系触媒の酸化剤成分は、前記B液における前記ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートと前記アニオン性電解質モノマーの合計質量に対して、0.05〜50質量%である、
請求項1または2に記載の止水剤。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物、特に、地中送電用の洞道、トンネル、地下鉄等の地下コンクリート構造物において、鉄筋腐食又はコンクリートの劣化等による亀裂や、コンクリートの打ち継ぎ目等の間隙から水漏れが生じた場合の止水工法として、高圧注入工法が知られている。高圧注入工法は、水漏れの発生箇所付近を削孔し、削孔した孔部を介して高分子系止水剤を圧入して硬化させる工法であり、この工法に用いる止水剤としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に示す止水剤が知られている。
【0003】
特許文献1の止水剤は、石油樹脂とアクリル樹脂をポリビニルアルコールによって水に乳化させた水性ポリマー系分散液(A液)に、ウレタン組成物(B液)を混合してなる止水剤である。この止水剤は、止水後のコンクリートにおける間隙の変動に追従できる粘性を有し、硬化するまでの時間が、2〜28分、好ましくは10分前後となっている(段落[0044][0045]等)。この止水剤を用いた止水方法では、水漏れ発生箇所付近に削孔した注入孔に注入ピンを装着し、この注入ピンに注入装置のノズルを接続し、混合したA液とB液とをノズルを介して注入する。これにより、止水剤は、水漏れする打ち継目や亀裂等の間隙に行き亘り硬化して水漏れ原因の間隙を塞いで止水する。また、特許文献1の止水剤は、止水後にコンクリートの劣化による間隙の変動が生じても、これに追従し、再漏水の可能性を防止できる。
【0004】
特許文献2に示す止水剤は、水溶性のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートと、アニオン性電解質モノマーと、多価アルコールと、重合触媒とを含有する水溶液である。この止水剤も、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート及びアニオン性電解質モノマーを含むA液と、多価アルコールを含むB液との混合した後で水漏れ発生個所(止水箇所)に注入して硬化させて止水する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、止水剤を用いて、漏水が激しい又は、作業時間が限定された箇所での止水を行う場合を想定すると、止水剤は、より早く硬化する方が好ましく、つまり、止水剤のゲル化にかかる時間である硬化時間(ゲルタイム)は短い方が好ましい。
しかしながら、特許文献1の止水剤では、硬化するまでの時間が短くても実際には、5分〜10分であるため、作業時間が限定された場所での止水を行うことは困難である。
また、特許文献1の止水剤は、その粘性により、止水後のコンクリートにおける間隙の変動に追従できるものの、止水を行う際には、水漏れ発生箇所付近で注入した際には広範囲で浸透しにくい。よって、止水を行う際には、水漏れ発生箇所付近に、止水剤を注入するための注入ピンを狭いピッチで多く配置する必要があり、止水作業に時間がかかるという問題がある。
【0007】
また、特許文献2の止水剤は、ゲルタイムが特許文献1の止水剤よりも短いものの、漏水箇所に広く浸透するように注入して、止水剤におけるゲル体の膨潤により止水するため、構造物との付着性が小さく、再漏水防止対策として、仕上げ材で覆うという2工程が標準作業となり、作業時間がかかるとともに作業の手間がかかるという問題がある。
【0008】
よって、これら特許文献1の止水剤及び特許文献2の止水剤での問題を解決して、止水箇所である間隙の変動に追従する追従性の向上、ゲルタイムの短縮化、及び、止水箇所である隙間部分への付着性の向上に加え、環境温度変化への耐性(ヒートサイクル耐性)を向上させるという止水効果を発揮して、長期に亘り好適に止水できる止水剤が望まれている。
【0009】
本発明の目的は、仕上げの工程を必要とせず、止水を迅速に簡易に行うことができるとともに、長期に亘り好適に止水できる止水剤及びこれを用いた止水工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的の為に、本発明者らは鋭意検討した結果、課題を解決し、以下の本発明を完成させた。
本発明の止水剤の一つの態様は、
石油樹脂とアクリル樹脂とレドックス系触媒の酸化剤成分と水からなるA液と、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとアニオン性電解質モノマーとレドックス系触媒の還元剤成分と水からなるB液と、を混合してなる構成を採る。
【0011】
本発明の止水工法の一つの態様は、
止水対象物の止水剤注入箇所に至る注入孔を前記止水対象物に削孔する削孔工程と、
石油樹脂とアクリル樹脂とレドックス系触媒の酸化剤成分と水からなるA液と、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとアニオン性電解質モノマーとレドックス系触媒の還元剤成分と水からなるB液とを混合して、前記注入孔を介して前記止水剤注入箇所に注入する注入工程とを有するようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コンクリートの変形に追従し得る粘性を有しつつ素早く硬化して止水できるため、仕上げの工程を必要とせず、止水を迅速に且つ簡易に行うことができるとともに、長期に亘り好適に止水することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本実施の形態の止水剤は、石油樹脂系水性エマルジョン及びレドックス系触媒の酸化剤成分を含むA液と、アクリル系ゲル化剤及びレドックス系触媒の還元剤成分を含むB液とを用いる2液混合型の止水剤である。より具体的にはA液と、ゲル化剤としてのポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとアニオン性電解質モノマーと、促進剤としてのレドックス系触媒の還元剤成分と水からなるB液とを混合してなる。止水剤は、止水箇所に注入される前に混合されてなる。
【0015】
[A液]
A液は、石油樹脂とアクリル樹脂と、レドックス系触媒の酸化剤成分と、水とを有する。本実施の形態のA液では、石油樹脂及びアクリル樹脂は、A液の主材であり、レドックス系触媒は、硬化剤である。
【0016】
石油樹脂は、例えば芳香族(C9)系石油樹脂である。また、石油樹脂は、脂肪族/芳香族共重合(C5/C9)系石油樹脂(C410:Petroleum resins、CAS番号64742-16-1)であっても良い。また、水添石油樹脂あるいは天然ロジンであっても良い。なお、石油樹脂は、ナフサクラッカーから生成するC5留分やC9留分のカチオン重合により製造されてもよい。
【0017】
また、石油樹脂は、具体的には、石油アスファルト(ストレート、ブローンのいずれでもよい)単体、或いは、石油アスファルトに、ブタジエン樹脂、エチレン酢酸ビニル或いは石油樹脂)の単体あるいは2種類以上を組み合わせたものでもよい。
アクリル樹脂は、例えばアクリル酸ブチルエステルであり、主材におけるアクリル樹脂の含有量は、例えば6〜10Wt%であり、好ましくは8Wt%である。
【0018】
石油樹脂或いはアクリル樹脂を含む主材は、例えば、ナルライト(製品名;成瀬化学株式会社製)を用いても良い。
【0019】
レドックス系触媒の酸化剤成分は、A液とB液とを混合した際に、止水剤を硬化させる。レドックス系触媒の酸化剤成分としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。レドックス系触媒の酸化成分は、過硫酸ナトリウムであることが好ましい。
【0020】
本実施の形態のA液のレドックス系触媒の酸化剤成分の使用量は、B液のアクリル系ゲル化剤の質量に応じて設定される。具体的には、A液のレドックス系触媒の酸化剤成分の使用量は、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとアニオン性電解質モノマーの合計質量に対して、0.05〜50質量%であり、より好ましくは、0.5〜50質量%である。
【0021】
[B液]
B液は、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートと、アニオン性電解質モノマーと、レドックス系触媒の還元剤成分と水とを有する。ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとアニオン性電解質モノマーは、水溶液としてアクリル系ゲル化剤に含まれ、レドックス系触媒の還元剤成分と水とは、止水剤の硬化を促進させる促進剤に含まれる。
【0022】
ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、架橋触媒としての硬化剤(ここではA液のレドックス系触媒の酸化剤成分)を加えると直ちに架橋して含水性のゲル状固化物となる。また、ポリエチレングリコールジ(メタ)クリレートは、重合させて得られるゲル体のエステル部分が加水分解され難く、また、アルカリ性の条件下でも崩壊することなく、強度を十分に保持できる。
【0023】
ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートで重合度が2〜50の範囲のものであり、より好ましくは、重合度が18〜40の範囲のものである。
【0024】
アニオン性電解質モノマーは、止水剤のゲル化において、ゲル体に必要な弾力性および水膨潤性を付与する。アニオン性電解質モノマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、マレイン酸およびこれらの塩から選ばれた1種以上によりなる。アニオン性電解質モノマーは、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびこれらの塩から選ばれた1種以上によりなる。
【0025】
ここで、アニオン性電解質モノマーとして選択される塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。このうち、アニオン性電解質モノマーは、好ましくは、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩であり、より好ましくは、アニオン性電解質モノマーは、マグネシウム塩、カルシウム塩である。
【0026】
ここで、本実施の形態におけるポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとアニオン性電解質モノマーの使用量について説明する。
ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートの使用量をB1とし、アニオン性電解質モノマーの使用量をB2として説明すると、例えば、B1:B2=98:2〜40:60(質量比)であり、より好ましくは、B1:B2=90:10〜50:50(質量比)である。B2は、B液中のB1+B2+水の合計質量に対して、8〜13質量%であることが好ましい。なお、B2の量が決まれば、必然的にB1の量も決定されることになる。
【0027】
レドックス系触媒の還元剤成分は、例えば、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸塩、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、ヘキサメチレンテトラミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルヒドロキシエトキシエチルアミン、N−メチルジプロパノールアミン、ニトリロトリスプロピオンアミド、(イソ)アスコルビン酸およびそのナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、硫酸第一鉄等である。
レドックス系触媒の還元剤成分の使用量は、例えば、B1とB2の合計質量に対し0.1〜100質量%であり、より好ましくは、1〜100質量%である。
【0028】
[A液とB液との混合]
上記A液とB液とを混合して、コンクリート構造物(止水対象物)の水漏れ箇所(止水剤注入箇所)に注入する。
【0029】
図1は、本発明に係る一実施の形態の止水剤の説明に供する図である。
本実施の形態の止水剤は、これらA液とB液との混合比率が体積比で、1〜2:1である。例えば、A液とB液との混合比率は、1:1、1.5:1、2:1であってもよい。
【0030】
この構成による止水剤では、B液の比率が高いほど、硬化時間(ゲルタイム)が短くなる。例えば、止水剤のA液は、主材100質量部に対して石油樹脂40質量部、アクリル樹脂8質量部及び水52質量部とした主材と、レドックス酸化剤成分98〜100質量部であり、水0〜2質量部とした硬化剤とから調製した。ここでは硬化剤100質量部に対してレドックス酸化剤成分98質量部とし、水2質量部とした。
また、止水剤のB液は、ゲル化剤100質量部に対してポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート98質量部及びアニオン性電解質モノマー2質量部であるゲル化剤と、促進剤100質量部としてレドックス還元剤成分79質量部と水21質量部である促進剤とから調製した。
【0031】
また、主材(石油樹脂とアクリル樹脂)945g、硬化剤(レドックス系触媒の酸化剤成分)40g及び水75gで配合してA液を1リットル作成し、ゲル化剤(ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート)890g、促進剤(レドックス系触媒の還元剤成分)33.5g及び水149.5gで混合してB液を1リットル作成し、これらを混合した。この混合によりなる止水剤のゲルタイムは約10秒であった。また、このように配合された計2リットルの止水剤を、2倍の量(4リットル)、3倍の量(6リットル)、4倍の量(8リットル)としても、ゲルタイムは変わらず10秒であり、A液における主材、硬化剤、水と、B液におけるゲル化剤、促進剤、水とは、A液とB液との体積比の混合比率が変わらなければ、止水剤の全体量に関わらず、ゲルタイムも変わらない。
【0032】
A液とB液との混合比率が1:1であれば、混合する際に、A液、B液の量を同じ量で混合するようにすればよく、使用時に同じ量を消費することになり、それぞれを異なる比率で混合するように設定する必要がない。これにより、止水剤を使用する際に、混合作業及びA液、B液の補充などを容易に行うことができる。
A液は、主材、硬化剤、水を撹拌して混合して配合され、B液は、ゲル化剤、促進剤、水を撹拌して混合して配合されて、使用前に互いを混合して使用するが、以下のような順序で配合してもよい。
【0033】
A液は、まず、レドックス系触媒の酸化剤成分である硬化剤と水とを混ぜて溶かした(ステップS11)後で、この硬化剤と水を混合した混合液と、主材である石油樹脂とアクリル樹脂を水に分散させた樹脂エマルジョンとを撹拌して混ぜ合わせて(ステップS12)A液を配合する。このようにA液において主材を混合する前に硬化剤と水とを混ぜておくことで、粘性の高い主材との撹拌がし易くなり、A液の配合を好適に行うことができる。一方、B液は、レドックス系触媒の還元剤成分及び水を含有する促進剤と、水とを混ぜて溶かした(ステップS21)後で、この促進剤の水溶液に、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとアニオン性電解質モノマーとを水に溶解したゲル化剤を撹拌して混ぜ合わせること(ステップS22)によりB液を配合する。このようにB液においてゲル化剤を混合する前に促進剤と水とを先に混ぜておくことで、ゲル化剤を混ぜてA液配合する際に、好適に配合できる。そして、A液とB液とを混合して水漏れ躯体に注入する(ステップS30)。なお、水漏れ躯体は、止水剤注入箇所を有する止水対象物であり、例えば、水漏れ箇所(止水剤注入箇所)を有するコンクリート構造物(止水対象物)である。混合されたA液とB液は、水漏れ箇所に至る注入孔を介して、水漏れ箇所に注入され、当該水漏れ箇所を止水する。
【0034】
[止水剤による効果]
本実施の形態の止水剤は、硬化時間(ゲルタイム)を従来の止水剤と比較して短くすることができる。
【0035】
A液とB液とを混合してから硬化するゲルタイムは、10秒台〜数分台である。A液とB液との混合比率が体積比で、1〜2:1であれば、約10秒で硬化する。
ここで、A液とB液のゲルタイム毎の配合量g(at20℃)の一例を下記の表1で示す。なお、A液は、主材をナルライト(製品名:成瀬化学株式会社製)とし、レドックス系触媒の酸化還元剤を過硫酸ナトリウムとした。また、B液は、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートをポリエチレングリコールジメタクリレートとし、アニオン性電解質モノマーをアクリル酸マグネシウムとし、レドックス系触媒の還元剤成分をトリエタノールアミンとした。これらA液及びB液を混合して止水剤を調製した。
【0037】
表1に示すように、B液中の促進剤の添加量を減少させることにより、ゲルタイムを長くできる。つまり、亀裂漏水箇所の大きさ、亀裂の拡がりに対応して、注入箇所から亀裂の隅々まで止水剤が途中硬化せずに行き渡るように、注入する止水剤のゲルタイムを適宜設定することができる。
【0038】
また、付着強度は、A液とB液とを混合する際の作液温度に対する依存性は殆ど無く、止水作業時における温度に関係なく、止水対象であるコンクリート構造物の亀裂(隙間)の変形に追従し、効果的に止水剤で止水できる。
【0039】
[止水工法]
図2は本発明に係る一実施の形態の止水剤を用いた止水工法の順序を示す図である。
上述した止水剤を用いて、例えば、コンクリート構造物の亀裂から水漏れが発生した場合、亀裂漏水箇所付近に注入孔を削孔する(ステップS41)。注入孔は、亀裂漏水箇所に沿って複数設けても良く、亀裂漏水箇所と交差するように壁面に削孔される。例えば、注入孔は、壁面の法線に対して45度〜60度(ここでは45度)の角度で左右に傾けて左右交互に削孔して、コンクリート躯体(壁)の内側で亀裂漏水箇所と交わるように形成される。注入孔は、従来の高圧注入工法で用いられる削孔ドリル等を用いて削孔される。
【0040】
削孔後、注入孔を洗浄して、注入孔に止水剤を圧入する(ステップS42)。止水剤は、A液とB液とが亀裂漏水箇所に注入される直前に混合される。例えば、A液を貯留するタンクとB液を貯留するタンクが、それぞれのポンプを介して接続され、且つ、注入孔に挿入可能な注入用ノズルを用いる。この注入用ノズルが、注入孔に挿入され、A液とB液とを注入用ノズルの混合部で混合して、注入孔を介して亀裂漏水箇所に注入する。次いで、亀裂からの止水剤の溢れ出しを確認する(ステップS43)。亀裂から色が変化し止水剤が溢れ出ることにより、亀裂全体に止水剤が行き渡っていることを確認する。
【0041】
止水剤の注入後、注入孔に止水モルタル等の充填材を充填し、止水孔を塞ぐ(ステップS44)。このとき充填材は壁面と面一となるように注入孔に充填される。なお、注入用ノズルを用いて止水剤を注入する場合には、注入孔からノズルを引き抜いた後、注入孔に充填材を充填する。
【0042】
本実施の形態にかかる止水工法は、止水対象物の止水剤注入箇所に至る注入孔を止水対象物に削孔する削孔工程と、石油樹脂とアクリル樹脂とレドックス系触媒の酸化剤成分と水からなるA液及びポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとアニオン性電解質モノマーとレドックス系触媒の還元剤成分と水からなるB液を混合して、注入孔を介して止水対象箇所に注入する注入工程と、を有する。また、注入工程は、A液とB液とを混合する前に、レドックス系触媒の酸化剤成分に水を混合した後で、石油樹脂と前記アクリル樹脂を混合してA液を生成するA液生成工程と、レドックス系触媒の還元剤成分と水を混合した後でポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとアニオン性電解質モノマーを混合してB液を生成するB液生成工程とを含んでもよい。また、注入工程は、注入孔に、A液とB液とが送液される注入用ノズルを圧入し、注入用ノズルを介して、A液とB液を混合してなる止水剤を、止水剤注入箇所に圧入し、止水剤を硬化させる。
【0043】
このように、本実施の形態によれば、注入孔を介して亀裂漏水箇所に止水剤を注入した後、亀裂が発生した壁面全体の仕上げ作業を行うことなく、止水作業を終えることができる。
【0044】
止水剤のゲルタイムが従来の止水剤と比較して、短いため、止水作業を迅速に行うことができる。
また、本実施の形態の止水工法は、従来と異なり、止水剤を、注入孔を介して亀裂原因箇所に注入した後、注入孔に装着される注入ピンを注入孔内に置き捨てることなく止水できる。置き捨てられる注入ピンは、コンクリート構造物内に浮いた状態で残り、そこからコンクリートの亀裂が生じる恐れがある。
【0045】
また、本実施の形態では、止水剤は、水漏れの発生原因となる亀裂箇所に注入されると、分岐する亀裂の先端まで直ぐに到達して硬化し、漏水部分全体を止水する。これにより、本実施の形態では、止水剤の注入箇所を、直径(注入孔の外径)6〜32mm、注入間隔(注入孔の間隔)250〜350mmとして施工しても止水を行うことができた。
【0046】
よって、硬化後の粘着力が強い従来の止水剤を用いる場合(例えば、直径10mm、注入ピッチ200mm)と比較して、注入箇所のピッチを少なくできる。また、注入ピッチ毎に注入ピンを使用する工法と比較して、注入ピンの本数分のコストを削減できる。
また、水に濡れても発泡しないため、漏水箇所でも扱い易い。
さらに、本実施の形態の止水剤は、主材が水性であり水で流れるため、作業中或いは作業後の清掃がしやすい。
【0047】
このように、本実施の形態によれば、止水剤として、止水箇所である間隙の変動に追従する追従性の向上、ゲルタイムの短縮化、及び、止水箇所である隙間部分への付着性の向上に加え、環境温度変化への耐性(ヒートサイクル耐性)を向上させるという止水効果を発揮できる。これにより、仕上げの工程を必要とせず、止水を迅速に簡易に行うことができるとともに、長期に亘り好適に止水できる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について説明した。なお、以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されない。つまり、上記装置の構成や各部分の形状についての説明は一例であり、本発明の範囲においてこれらの例に対する様々な変更や追加が可能であることは明らかである。