【解決手段】被測定アンテナ素子を含む複数のアンテナ素子(110)に接続され、前記被測定アンテナ素子より無線信号を送信信号として送信させる送信部(100)と、前記被測定アンテナ素子から出力された送信信号を受信信号として受信する受信アンテナを有する受信部(300)と、前記被測定アンテナ素子と前記受信アンテナの間に位置し、前記被測定アンテナ素子からの送信信号を前記受信アンテナに向かって収斂させるためのレンズ(200)とを備えた構成を有している。
前記レンズの光軸における前記被測定アンテナ素子とレンズの距離をa、前記光軸における前記レンズと前記受信アンテナの距離をb、前記レンズの焦点距離をf、とすると、
1/f=1/a+1/bであることを特徴とする請求項1のアンテナ測定装置。
前記被測定アンテナ素子と前記受信アンテナと前記レンズのそれぞれの相対位置を可変する駆動機構(401、402、403)と駆動機構制御部(103)を有する請求項1から5のいずれかに記載のアンテナ測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遠方界測定においては、アレイアンテナに備えられている全てのアンテナ素子から送信される無線信号が干渉した状態で測定を行うため、測定対象となるアンテナ素子一つ一つの励振状態を特定するのに工夫を要する。そこで、特許文献1のように移相器にて各素子の位相を調整しながら特定のアンテナ素子の励振状態を測定する方法が提案されている。しかしながら、16×16や64×64あるいはそれ以上の多量なアンテナ素子を有するアレイアンテナにおいては各素子の位相の調整に膨大な時間がかかってしまう。
【0006】
また、極近傍にて測定対象となるアンテナ素子一つ一つの励振状態を特定しようとすると、アンテナ素子からの放射に寄与しない電磁界成分も測定することとなり、指向性を正確に確認することができなくなる。
【0007】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、アレイアンテナにおいてアンテナ素子の振幅や位相などの励振状態を容易に特定することができるアンテナ測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1に係るアンテナ測定装置は、被測定アンテナ素子を含む複数のアンテナ素子に接続され、前記被測定アンテナ素子より無線信号を送信信号として送信させる送信部と、前記被測定アンテナ素子から出力された送信信号を受信信号として受信する受信アンテナを有する受信部と、前記被測定アンテナ素子と前記受信アンテナの間に位置し、前記被測定アンテナ素子からの送信信号を前記受信アンテナに向かって収斂させるためのレンズとを備えた構成である。
【0009】
この構成により、被測定アンテナ素子から送信される無線信号が収斂する位置に受信アンテナを配置することができ、被測定アンテナ素子の放射に寄与しない電磁界成分が除かれた状態で受信できるため、被測定アンテナ素子の放射に寄与する振幅などの励振状態を特定することが可能となる。
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の請求項2に係るアンテナ測定装置は、前記レンズの光軸における前記被測定アンテナ素子とレンズの距離をa、前記光軸における前記レンズと前記受信アンテナの距離をb、前記レンズの焦点距離をf、とすると、1/f=1/a+1/bである構成であってもよい。
【0011】
この構成により、被測定アンテナ素子とレンズと受信アンテナをレンズの公式を満たす位置に配置することで、被測定アンテナ素子から送信される無線信号が結像した位置で受信することが可能となる。
【0012】
前記目的を達成するために、本発明の請求項3に係るアンテナ測定装置は、前記被測定アンテナ素子と前記受信アンテナはそれぞれ複数で隣接した配置をとり、前記被測定アンテナ素子の個数はM個、前記受信アンテナの個数はN個、M≧2かつN≧2かつM≧Nであり、前記N個の受信アンテナはそれぞれ前記M個の被測定アンテナ素子のいずれかに対応し、前記隣接する被測定アンテナ素子の間隔をλ
T、前記隣接する受信アンテナの間隔をλ
Rとすると、a<bである構成であってもよい。
【0013】
この構成により、複数の受信アンテナを複数の被測定アンテナ素子が結像する位置に配置することで、レンズの公式に従って被測定アンテナ素子のb/a倍に像倍された像が複数の受信アンテナの位置で形成されるため、受信アンテナ間の距離を広げて受信することが可能となる。したがって、受信アンテナ間の結合による測定の精度の低下を防止して、被測定アンテナ素子の励振状態を特定することが可能となる。
【0014】
前記目的を達成するために、本発明の請求項4に係るアンテナ測定装置は、前記複数の被測定アンテナ素子と前記複数の受信アンテナは前記レンズの光軸に垂直な面内において前記レンズの光軸に対して対称に位置し、前記受信部は前記複数の受信アンテナで受信した複数の受信信号の位相差を算出する位相差算出部と、前記複数の受信信号の振幅の分布と前記位相算出部にて算出した前記複数の受信信号の位相差の分布を算出する振幅位相差分布算出部を有する構成であってもよい。
【0015】
この構成により、被測定アンテナ素子のそれぞれのアンテナ素子が送信する無線信号の振幅と位相を算出することが可能となる。
【0016】
前記目的を達成するために、本発明の請求項5に係るアンテナ測定装置は、前記受信アンテナは、前記被測定アンテナ素子と前記レンズの中心を通る直線上に位置し、前記複数の受信アンテナの他方は、前記複数の被測定アンテナ素子の他方と前記レンズの中心を通る直線上に位置し、前記被測定アンテナ素子と前記受信アンテナの距離と前記他方の被測定アンテナ素子と前記他方の受信アンテナの距離との差に応じて前記他方の被測定アンテナ素子からの送信信号の位相を補正する位相補正部をさらに有する構成であってもよい。
【0017】
この構成により、複数の被測定アンテナ素子からの送信される無線信号の伝搬距離が異なる場合に、その伝搬距離の差に応じて位相の値を補正することにより被測定アンテナ素子の励振状態を高精度に特定することができる。
【0018】
前記目的を達成するために、本発明の請求項6に係るアンテナ測定装置は、前記被測定アンテナ素子と前記受信アンテナと前記レンズのそれぞれの相対位置を可変する駆動機構と駆動機構制御部を有する構成であってもよい。
【0019】
この構成により、被測定アンテナ素子と受信アンテナとレンズの光学系における最適な配置からずれが生じた場合にそれぞれの相対位置を可変することができるため、光学系における最適な配置で被測定アンテナ素子の一つ一つのアンテナ素子が送信する無線信号を受信することが可能となる。
【0020】
前記目的を達成するために、本発明の請求項7に係るアンテナ測定装置は、前記被測定アンテナ素子に接続された移相器と、前記受信信号と前記送信信号の情報を反映した基準信号が入力され、前記受信信号と前記基準信号との位相差を算出する比較部と、前記比較部と前記移相器に接続され、前記比較部にて算出された位相差に基づいて前記移相器の移相量を調整する移相設定部と、をさらに備える構成であってもよい。
【0021】
この構成により、被測定アンテナ素子から送信される無線信号と受信アンテナが受信した受信信号の位相を比較することにより同期をとることが可能となる。
【0022】
前記目的を達成するために、本発明の請求項8および請求項9に係るアンテナ測定装置は、前記レンズと前記受信アンテナの間に、前記光軸に対して45度の傾斜を有するハーフミラーと、前記ハーフミラーに向けて参照信号として無線信号を送信する参照アンテナと、前記参照アンテナに接続され、参照信号を発生させる参照信号発生部と、をさらに備え、前記参照信号は前記送信信号をダウンコンバートさせ、前記受信アンテナは該ダウンコンバートされた送信信号を受信信号として受信する構成であってもよい。
【0023】
この構成により、受信アンテナで受信する信号が被測定アンテナ素子から送信される無線信号よりも低い周波数にダウンコンバートされた信号となるため、受信アンテナの後段に接続される高周波対応のミキサやA/D変換器などの部品を削減することができる。
【0024】
前記目的を達成するために、本発明の請求項10に係るアンテナ測定装置は、前記ハーフミラーを挟んで前記参照アンテナの反対側に位置する基準アンテナをさらに備え、前記基準アンテナは前記ハーフミラーによって反射された前記送信信号を前記基準信号として検出する構成であってもよい。
【0025】
この構成により、被測定アンテナ素子から送信される信号が未知である場合に、ハーフミラーで反射された被測定アンテナ素子から送信された無線信号と受信アンテナで受信した受信信号の位相差を移相器にて調整することができる。
【0026】
前記目的を達成するために、本発明の請求項11に係るアンテナ測定方法は、複数のアンテナ素子のうちの被測定アンテナ素子より無線信号を送信させる送信ステップと、前記送信ステップにより送信された無線信号を受信アンテナがレンズを介して受信する受信ステップと、を備え、前記レンズの光軸における前記被測定アンテナ素子とレンズの距離をa、前記光軸における前記レンズと前記受信アンテナの距離をb、前記レンズの焦点距離をf、とすると、1/f=1/a+1/bである構成であってもよい。
【0027】
この測定方法により、被測定アンテナ素子から送信される無線信号が結像する位置に受信アンテナを配置することができ、被測定アンテナ素子の放射に寄与しない電磁界成分が除かれた状態で受信できるため、被測定アンテナ素子の放射に寄与する振幅などの励振状態を特定すること可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、複数のアンテナ素子のうちのアンテナ素子が接続される送信部から受信アンテナを有する受信部の間にアンテナ素子から出力される無線信号が受信アンテナに向かって収斂するようにレンズを配置することで、アンテナ素子の放射に寄与しない電磁界成分を取り除いて、複数のアンテナ素子のうちのアンテナ素子の励振状態を特定することができるアンテナ測定装置およびアンテナ測定方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面に基づいて本発明の第1の実施形態を説明する。
【0031】
図1は、本発明を適用したアンテナ測定装置1の構成を示している。
【0032】
このアンテナ測定装置1は、送信機100に備えられたアレイアンテナ110の各アンテナ素子T
11、T
21・・・T
NN(以下T
ij)から送信されるミリ波帯の無線信号(以下、送信信号)を受信機300に備えられた受信アンテナR
N1、R
N2・・・R
NN(以下R
ij)がレンズ200を介して受信し、その受信した信号に基づいてアレイアンテナ110の各アンテナ素子T
ijの振幅や位相といった励振状態を求めるものである。
【0033】
送信機100、レンズ200を保持するレンズ保持部210および受信機100はベース部400に保持されている。受信アンテナR
ijは平面状の受信アンテナ保持部310に複数配列されている。ここでは受信アンテナとして、先端を開放した導波管を用いている。他にも光電界変換を用いた光プローブを用いることも可能である。
【0034】
ここで、送信機に備えられた被測定アンテナとしてのアレイアンテナ110は複数のアンテナ素子T
ijが等間隔で縦横に配列された平面形アレイアンテナである。今回は縦横の素子数が同数のN=8の例で説明する。
【0035】
レンズ200は誘電体からなるミリ波対応の収斂レンズであり、ここでは両凸レンズとしている。レンズの焦点距離をfとすると、アンテナ素子とレンズの中心点O
L(以下レンズ中心)と受信アンテナが一直線になり、かつ、アンテナ素子とレンズ中心の光軸上の距離aとレンズ中心と受信アンテナの光軸上の距離bの間に、レンズの公式1/f=1/a+1/bの関係が成立するようにアレイアンテナ110とレンズ200と受信アンテナ保持部310を配置する。
【0036】
受信アンテナR
ijは受信アンテナ保持部310に保持され、縦横に配列されている。受信アンテナの配列は、アレイアンテナのアンテナ素子の配列に対応したものとなっている。
【0037】
図2(a)には、送信機100に備えられたアレイアンテナ110と、
図2(b)には受信機300の受信アンテナ保持部310内の受信アンテナR
ijの配列を示す。
【0038】
図2(a)はレンズの中心点O
Lからアレイアンテナ110をみたときの平面図である。アレイアンテナにはアンテナ素子が正方格子に配列されている。アンテナ素子の間隔λ
Tはアンテナ素子が送信する信号周波数から求まる波長λ
0の半分とする。一番上の行を1行目、1番左の列を1列目とすると、左上から下方向にλ
0/2の間隔でT
11、T
21・・・T
81と配置され、その次にλ
0/2の間隔をとった2列目にT
21、T
22・・・T
82とλ
0/2間隔で配置されている。以下同様に配置され、最後の8列目に、T
81、T
82・・・T
88と配置される。なお、アンテナ素子の配列の中心となる点O
Tはレンズ中心を通る光軸上に位置する。
【0039】
図2(b)はレンズ中心O
Lから受信アンテナ保持部310をみたときの平面図である。受信アンテナ保持部には受信アンテナが正方格子に配列されている。受信アンテナの間隔λ
Rは送信信号の周波数から求まる波長λ
0の2倍程度とする。一番上の行を1行目、1番左の列を1列目とすると、左上から下方向にR
11、R
21・・R
81と、2λ
0の間隔で配置され、その次に1列目と2λ
0の間隔をとった2列目にR
21、R
22・・・R
82と2λ
0の間隔で配置されている。以下同様に配置され、最後の8列目に、R
81、R
82・・・R
88と配置される。なお、受信アンテナの配列の中心となる点O
Rはレンズ中心を通る光軸上に位置する。
【0040】
ここで、アレイアンテナのアンテナ素子とそのアンテナ素子に対応する受信アンテナはレンズの中心点O
Lを通る直線上に配置される。例えば、
図2(a)にて黒塗りにしたアンテナ素子T
11より送信信号は、受信アンテナR
88にて受信される。アンテナ素子T
21は、受信アンテナR
78に対応し、
i行j列のアンテナ素子T
ijは受信アンテナT
8−i+1 8−j+1に対応することとなる。
【0041】
アンテナ素子とそのアンテナ素子に対応する受信アンテナはレンズの公式1/f=1/a+1/bを満たすように配置されているため、受信アンテナ保持部のあるx=bの位置で結像して生じる像は無線信号源としての各アンテナ素子T
11、T
21・・・T
NNの各アンテナ素子の間隔がb/a倍に像倍されたものとなる。今回はλ
R/λ
T=2λ
0/(λ
0/2)としているので、a=5f/4、b=5fとすれば、受信アンテナ保持部ではアレイアンテナの4倍の像が生じ、各受信アンテナは各アンテナ素子と対応する8×8の正方格子の配列で配置しているので、アレイアンテナの全てのアンテナ素子から出力される送信信号を一度に全て受信することができる。
【0042】
なお、受信アンテナ保持部にて結像して生じる像は、i行j列のアンテナ素子T
ijは受信アンテナT
8−i+1 8−j+1に対応することとため、アレイアンテナのアンテナ素子が生成する像をアレイアンテナの配列の中心となる点O
Rに対して180°回転させたものとなる。
【0043】
このようにアンテナ素子とレンズと受信アンテナで光学系を形成することで、アンテナ素子の放射に寄与しない電磁界成分を取り除いて、アレイアンテナの各アンテナ素子から送信信号を受信アンテナで受信することができる。
【0044】
また、アンテナ素子に直接受信アンテナを近接させて信号を受信する場合と比較して、受信アンテナ保持部の受信アンテナの間隔を広くすることができるため、アンテナ間の結合を軽減した状態で測定することが可能となる。
【0045】
図3は送信機100および送信機100付近のベース部400の詳細な構成を示したものである。送信機100はベース部400に接続され、信号発生部101、移相設定部102、駆動機構制御部103、比較部104、移送器P
11、P
21、・・・P
NN(以下P
ij)からなる移相部105を備える。ベース部は送信機の付近に、送信機の駆動装置401を備える。
【0046】
信号発生部101は周波数f
0の信号を生成する。信号発生部にて生成した信号は、移相部105の前で全てのアンテナ素子に入力されるように分岐され、移相器P
11、P
21、・・・P
NNを通過して、送信機に接続されたアレイアンテナ110のアンテナ素子T
11、T
21・・・T
NNに入力される。
【0047】
なお、移相器P
11、P
21、・・・P
NNはアレイアンテナ110内に備えられ、アレイアンテナと一体化されたものでもよい。また、信号発生部101がアレイアンテナ内に備えられていてもよい。
【0048】
移相設定部102は移相器P
11、P
21、・・・P
NNを制御して各アンテナ素子T
ijに入力される送信信号の位相量を可変する。
【0049】
駆動機構制御部103はアレイアンテナ駆動機構401を制御することにより、アレイアンテナを含めた送信機を可動させることができる。
図3には光軸方向に送信機が駆動する例を図示した。レンズ系を形成するアンテナ素子とレンズと受信アンテナの相対位置がずれた場合に、アレイアンテナ駆動機構401にてアレイアンテナの位置を制御することにより、アレイアンテナ110に備えられたアンテナ素子T
ijからの送信信号が結像する最適な位置で受信アンテナが送信信号を受信することが可能となる。図示していないが、アレイアンテナ駆動機構401は光軸の他に光軸との垂直な2軸や仰角や方位角を可変させる制御機構が付加されていてもよい。
【0050】
この例ではアレイアンテナ駆動機構401はベース部の内部に備わっているものとしたが、アレイアンテナに接続されるものであればよく、送信機100とアレイアンテナ110の間の距離を変化させてアレイアンテナ110とレンズ200の間の距離を可変させるものでもよい。
【0051】
比較部104は受信機300に備わる受信アンテナで測定された受信信号が入力され、さらに信号発生部にて生成された周波数f
0の信号が基準信号として入力される。受信信号と基準信号の比較を行い、主としては受信信号と基準信号の間の、位相差や減衰量を算出する。ここで算出した位相差や減衰量は移相設定部102に出力される。
【0052】
比較部104から移相設定部102に出力された位相差に基づいて、移相設定部は移相部105に備えられた移相器の移相量を設定することで、各アンテナ素子から送信される各無線信号の位相を最適な値とすることができる。
【0053】
また、比較部104にて算出した受信信号の振幅の減衰量を駆動機構制御部に出力して、駆動機構制御部はその振幅の減衰量に基づいてアレイアンテナとレンズを光学系の最適な位置に移動させることで、光学系の位置ずれを補償することが可能となる。
【0054】
図4はレンズ200およびレンズ200付近のベース部400の詳細な構成を示したものである。レンズ200はレンズ保持部210に保持されている。レンズ保持部210はベース部400に接続される。レンズ駆動機構402はレンズ200付近のベース部400に備えられている。
【0055】
レンズ駆動機構402は、駆動機構制御部103から出力された情報に基づいてレンズ保持部を介してレンズの位置を可変させる。駆動装置から出力された情報は比較部104にて算出された受信信号の振幅の減衰量を補正するためのものである。
【0056】
図5は受信機300と受信機300付近のベース部400の詳細な構成を示したものである。受信機300はベース部400に接続されており、ローカル信号源301、N×N個の周波数変換器M
11、M
21・・・M
NN(以下M
ij)からなる周波数変換部302、N×N個のA/D変換器AD
11、AD
21・・・AD
NN(以下AD
ij)からなるA/D変換部303、(N×N−1)個の位相比較器C
11、C
21・・・C
N―1 N(以下C
ij)からなる位相比較部304、振幅位相分布算出部305を備える。受信アンテナ保持部310は受信機に接続され、受信アンテナ駆動機構は受信機300付近のベース部に備えられている。
【0057】
ローカル信号発生部301はローカル信号を発生させる。ローカル信号源にて発生したローカル信号は、周波数変換部302に入力される。
【0058】
周波数変換部302は複数の受信アンテナR
ijのそれぞれに接続された周波数変換器M
ijからなる。ローカル信号源にて発生したローカル信号が周波数変換部に入力され、ローカル信号は複数の周波数変換器M
ijにローカル信号が入力されるように分岐され、受信アンテナR
ijのそれぞれで測定した受信信号をより低い周波数に周波数変換する。
【0059】
A/D変換部303には周波数変換部302にて周波数変換された受信信号が入力される。A/D変換部303は複数のA/D変換器AD
11、AD
21・・・AD
NNからなる。A/D変換部により周波数変換された受信信号はそれぞれデジタル信号へと変換され、位相比較部304に入力される。
【0060】
位相比較部304ではA/D変換部303にて変換したそれぞれのデジタル信号の位相差を算出する。この例ではAD
NNから出力されたデジタル信号と他のAD
11、AD
21・・・AD
N−1 Nとの信号を移相比較器C
ijにて比較して、AD
NNから出力されたデジタル信号とのその他のそれぞれのデジタル信号との位相差δφを算出する。位相比較器C
11は、δφ
11(N、N)、C
21はδφ
21(N、N)、C
N―1 Nはδφ
N−1 N(N、N)を算出する。ここでのδφ
11(N、N)はデジタル信号に変換された受信アンテナR
NNにて受信した信号と、受信アンテナR
11との位相差を算出したことを示す。位相差δφ
11(N、N)、δφ
21(N、N)・・・・、δφ
N−1 N(N、N)は振幅位相分布算出部に入力される。
【0061】
振幅位相分布算出部305では位相差δφ
11(N、N)、δφ
21(N、N)、δφ
N−1 N(N、N)と受信アンテナの位置情報に基づいて、位相分布を算出する。指向性を算出するには位相の相対値で足りるため、受信アンテナR
NNの初期位相は任意に設定できる。例えば、初期位相をゼロとすれば、受信アンテナの位相分布が算出できる。
【0062】
また、振幅位相分布算出部では、受信アンテナの位置をデータ上で受信アンテナ保持部を中心として180°回転の変換をすることができる。先に述べたように、アレイアンテナ110のアンテナ素子T
ijは受信アンテナ保持部の受信アンテナR
N+1−i N+1−jに対応しているため、受信アンテナ保持部の中心に対して180°回転させる処理を行えば、アレイアンテナの位相分布を求めることができる。
【0063】
振幅位相分布算出部305では、位相差の他に受信アンテナで受信した振幅A
11、A
21、・・A
NN(以下A
ij)も入力され、先に求めた位相分布とともに振幅位相分布を算出する。
【0064】
振幅位相分布算出部305で算出した位相分布結果は送信機内の移相設定部102に出力される。移相設定部102では受信機にて算出した振幅位相分布結果から測定時点でのアレイアンテナの指向性を認識して、所望の指向性を実現するように移相器の移相量を設定する。
【0065】
位相補正部306は振幅位相分布算出部に入力された位相差δφ
11(N、N)、δφ
21(N、N)、δφ
N−1 N(N、N)や振幅A
ijを各アンテナ素子からの送信される無線信号の伝搬距離に応じて補正して、補正した振幅位相分布を振幅位相分布算出部に出力する。
【0066】
例えば、アンテナ素子T
11からR
NNまで伝搬した信号の光路L
11と、T
21からR
N−1 Nのまで伝搬した信号の光路L
21の差L
11−L
21について説明する。
図6に示すように、光軸をx軸とし、光軸に垂直な軸をy軸、z軸とする座標系でのアンテナ素子T
ijの方向を示す仰角α
ij方位角β
ijとすると、アンテナ素子φ
ijからの信号が伝搬する光路L
ijは
L
ij=(a+b)/sinα
ijcosβ
ijとなる。
したがって、T
11から出る信号を基準としたときのアンテナ素子T
ijから出る信号の光路差ΔL(1,1)は、
ΔL
ij(1,1)=(a+b)(1/sinα
ijcosβ
ij−1/sinα
11cosβ
11)となる。このΔL
ijに基づいて、各アンテナ素子から出る信号の位相量と振幅を補正することにより、アレイアンテナの各アンテナ素子の励振状態をより高精度で再現することができる。
【0067】
受信アンテナ駆動機構403は、駆動機構制御部103から出力された情報に基づいて受信機を介して受信アンテナの位置を可変させる。駆動装置から出力された情報は比較部104にて算出された送信信号と受信信号の振幅の減衰量を補正するためのものである。
【0068】
アレイアンテナ駆動機構401、レンズ駆動機構402および受信アンテナ駆動機構403はアンテナ素子とレンズと受信アンテナの相対位置を可変するものであり、全てを有する必要はなく、任意の組み合わせで構成可能である。
【0069】
ここではアレイアンテナの例を挙げて説明したが、単一のアンテナ素子の励振状態を単一の受信アンテナで測定することも可能である。この場合は送信信号の振幅の減衰率や送信信号と受信信号の位相差が求まり、移相設定部にて位相差を補正することが可能となる。信号発生部とアンテナ素子の間に、増幅器や減衰器等を設置して受信アンテナにおける受信信号のレベルを一定にすることも可能である。
【0070】
また、アレイアンテナと受信アンテナの配列が同一の例を挙げて説明したが、受信アンテナがアレイアンテナの配列の一部を有している構成でもよい。この場合は、受信アンテナ駆動装置にてアレイアンテナの全アンテナ素子を受信するように受信アンテナを走査させればよい。
【0071】
また、各々のアンテナ素子の間、各々の受信アンテナの間、レンズとアンテナ素子と受信アンテナの光路に電波吸収体を設置して、測定対象以外のアンテナ素子や受信アンテナもしくはレンズからの多重反射の影響を軽減することも可能である。
【0072】
受信アンテナ保持部の受信アンテナ間隔を固定すれば、正方格子状の等間隔アレイに対しては、アンテナ素子から送信される無線信号の周波数が異なりアンテナ素子の間隔が変わった場合でも、アンテナ素子とレンズと受信アンテナを適切に配置することでアレイアンテナの励振状態を測定することが可能となる。アンテナ素子の間隔が変わった場合には、受信アンテナの間隔とアンテナ素子の間隔との比が変わるため、それに伴い像倍率が変化する。このため、光軸のb/aが適切になるようにアンテナ素子とレンズと受信アンテナを配置すればよい。
【0073】
また、測定対象のアンテナ素子、レンズ、受信アンテナの形状が既知であれば、対象周波数について、あらかじめアンテナ素子やレンズや受信アンテナの適切な配置を算出できる。これを初期の設定値として、例えば、レンズを上下左右および前後に動かして受信信号の電力が最大となるレンズの位置を探索することが可能となり、この配置で測定を行うことが可能である。
【0074】
この場合は、アレイアンテナ駆動機構401、レンズ駆動機構402、受信アンテナ駆動機構403を適宜走査させ、受信電力と走査量の関係を図示してガウス関数等でフィッティングを行い最適な走査量を求めてから、受信電力が最大となる配置で測定を行うことができる。
【0075】
また、ここではアレイアンテナの縦横のアンテナ素子と受信アンテナ保持部の縦横の受信アンテナが同数である正方格子の例を挙げたが、受信アンテナの素子数がアレイアンテナの素子数よりも少なくてもよい。その場合は受信アンテナ保持部に接続された駆動装置を駆動させることで、受信アンテナ保持部の位置を可変させて、アレイアンテナに備えられたアンテナ素子の励振状態を特定すればよい。
【0076】
また、アレイアンテナの縦と横の素子数が異なる場合でも、同様の効果が期待できる。
【0077】
以下、本実施形態のアンテナ測定装置1を用いるアンテナ測定方法について
図7のフローチャートを参照しながら説明する。
【0078】
まず、信号発生部101が送信機100の複数の被測定アンテナ素子T
ijの一つに周波数f
0の信号を入力し、被測定アンテナ素子T
ijより周波数f
0の無線信号が送信信号として送信される(ステップS1−1)。
【0079】
次に、被測定アンテナ素子T
ijに対応する受信アンテナは、レンズ200を介して被測定アンテナ素子T
ijからの送信信号を受信信号として受信する(ステップS1−2)。
【0080】
次に、受信アンテナで受信した受信信号の受信電力が最大値となるように、必要に応じて駆動機構制御部にてアレイアンテナ駆動機構やレンズ駆動機構や受信アンテナ駆動機構を可動させて、被測定アンテナ素子やレンズや受信アンテナを光学系の最適な位置に移動させる(ステップS1−3)。
【0081】
次に光学系の最適な位置に被測定アンテナ素子と受信アンテナを移動させた後、信号発生部101が送信機100の複数の被測定アンテナ素子T
ijに周波数f
0の信号を入力し、被測定アンテナ素子T
ijより周波数f
0の無線信号が送信信号として送信され、各被測定アンテナ素子T
ijに対応する各受信アンテナR
ijは、レンズ200を介して被測定アンテナ素子T
ijからの送信信号を受信信号として受信する(ステップS1−4)。
【0082】
各受信アンテナR
ijは、各受信アンテナR
ijに備えられた周波波数変換器M
ijにて受信信号をダウンコンバートする(ステップS1−5)。
【0083】
次に、各周波波数変換器M
ijにてダウンコンバートされた受信信号は、各受信アンテナに接続されたA/D変換器AD
ijによってデジタイズされる(ステップS1−6)。
【0084】
次に、各A/D変換器AD
ijにてデジタイズされた信号のうちの一つを基準として、他のデジタイズされた受信信号との位相差を算出する(ステップS1−7)。
【0085】
必要に応じて、ステップ7で算出された位相差を各アンテナ素子から各受信アンテナまでの距離の差に応じて補正する。(ステップS1−8)。
【0086】
次に、アンテナ素子の位置情報と位相差(ステップS1−8にて補正された場合も含む)に基づいて位相分布を算出する。また、各受信アンテナでの受信信号の振幅とアンテナ素子の位置情報に基づいて振幅分布を算出する(ステップS1−9)。
【0087】
次に、振幅分布と位相分布に基づいて、アレイアンテナが所望の指向性を実現するように、各アンテナ素子に接続された移相量を調整する。(ステップS1−10)。
【0088】
(第2の実施形態)
図8に本発明の第2の実施形態を示す。第1の実施形態と共通する構成については説明を省略する。
【0089】
アンテナ測定装置2は基準信号検出器120、ハーフミラー220、ハーフミラー保持部230、ローカル信号送信器320、ローカル信号発生部321をさらに備える。
【0090】
基準信号検出器120は、アンテナ素子T
ijから送信されハーフミラー220にて反射された信号を基準信号として検出する。任意の位置に基準信号検出器を移動できるように、駆動機構を備えていてもよい。
【0091】
ハーフミラー220はアンテナ素子T
ijから送信された無線信号やローカル信号送信器から送信された信号の一部を透過させ、残りの成分を反射させる。ここでは光軸に対して、45°の傾斜を有するように配置されている。ハーフミラー保持部230はハーフミラーを保持する。ハーフミラーの大きさは全てのアンテナ素子から送信される無線信号が全て通過する程度のものが望ましい。一部のアンテナ素子から送信される無線信号のみが通過する程度の大きさのときは、任意の位置にハーフミラーを移動できるように駆動機構を備えればよい。
【0092】
ローカル信号送信器321はハーフミラー220に向けて、ローカル信号源321から発生するローカル信号を無線信号にて送信する。
【0093】
アンテナ素子T
ijからの送信信号と、ローカル信号源321から発生する無線のローカル信号は、送信信号とローカル信号の光路が交わる部分で干渉する。干渉して生成される信号の周波数は送信信号の周波数とローカル信号の周波数の差となるため、空間内でダウンコンバートされた信号が生成される。以下、空間内でダウンコンバートされた信号を干渉信号とする。また、ローカル信号と送信信号の周波数が等しい場合は、干渉信号はDC成分のみを有する直流信号となる。
【0094】
受信アンテナR
ijは干渉信号を受信する。既に低い周波数にダウンコンバートされているために、受信機内の周波数変換器は不要となる。したがって、受信機内の部品点数を減らすことが可能となり、受信機の小型化やコストダウンが実現できる。
【0095】
受信アンテナR
ijにて受信された干渉信号は、位相比較部304を経て、振幅位相分布算出部305にて位相分布を算出する。振幅位相分布算出部にて算出された位相分布に基づいて移相設定部102にて各アンテナ素子の移相量を調整し、アレイアンテナの位相量を調整することが可能となる。
【0096】
基準信号検出器120にて検出された基準信号と受信アンテナで受信した干渉信号が比較部106に入力される。比較部106は、基準信号と干渉信号との位相差を求めることができ、比較部106にて算出した位相差に基づいて移相設定部102にて位相量を調整して、位相調整が可能となる。
【0097】
基準信号検出器で検出した基準信号と干渉信号との位相差を比較部106にて算出することで、信号発生部101で生成されアンテナ素子に入力される信号の情報が未知の場合においても送信信号の位相調整が可能となる。
【0098】
基準信号検出器120はハーフミラーから反射される送信信号が結像する焦点に配置される。ローカル信号から送信されるローカル信号は基準信号検出器の位置では波のスポットサイズが広がった平面波をなすため、基準信号検出器では結像している送信信号を主に検出する。
【0099】
基準信号検出器120におけるローカル信号の影響を低減するためには、スリットを有する遮蔽板などを検出器の手前に配置して、結像する送信信号のみを主に検出すればよい。
【0100】
干渉信号が直流信号の場合は、受信アンテナの数だけ必要なA/D変換器が不要となる。干渉信号が直流信号となるため、各受信アンテナR
ijでの電圧レベルとなる振幅を比較することにより位相分布を算出することができる。したがって、位相比較部は不要となり、振幅位相分布算出部で算出する振幅分布はアンテナ素子の位相分布を反映したものとなる。
【0101】
このときに、移相設定部102にて各アンテナ素子から発生する送信信号の位相を360°回しながら各受信アンテナの移相量に対する直流信号レベルをプロットすることにより、直流信号の移相量に対する振幅を求めることができる。この振幅を用いて、各受信アンテナの直流信号の電圧レベルを振幅で規格化すれば、各アンテナの位相を求めることができ、アレイアンテナの位相分布を求めることができる。
【0102】
以下、本実施形態のアンテナ測定装置2を用いるアンテナ測定方法について
図9のフローチャートを参照しながら説明する。
【0103】
まず、信号発生部101が送信機100の複数の被測定アンテナ素子T
ijの一つに周波数f
0の信号を入力し、被測定アンテナ素子T
ijより周波数f
0の無線信号が送信信号として送信される(ステップS2−1)。
【0104】
次に、被測定アンテナ素子T
ijに対応する受信アンテナは、レンズ200を介して被測定アンテナ素子T
ijからの送信信号を受信信号として受信する(ステップS2−2)。
【0105】
次に、受信アンテナで受信した受信信号の受信電力が最大値となるように、必要に応じて駆動機構制御部にてアレイアンテナ駆動機構やレンズ駆動機構や受信アンテナ駆動機構を可動させて、被測定アンテナ素子やレンズや受信アンテナを光学系の最適な位置に移動させる(ステップS2−3)。
【0106】
次に光学系の最適な位置に被測定アンテナ素子と受信アンテナを移動させた後、信号発生部101が送信機100の複数のアンテナ素子T
ijに周波数f
0の信号を入力し、アンテナ素子T
ijより周波数f
0の無線信号が送信信号として送信する(ステップS2−4)。
【0107】
次に周波数f
0の信号を送信するローカル信号送信器321が、ハーフミラー220に向けてローカル信号を送信し、送信信号とローカル信号とを干渉させる。各受信アンテナR
ijは、干渉により直流信号となった信号を受信する(ステップS2−5)。
【0108】
次にアンテナ素子に接続された移相器の位相を360°回転させ、移相量に対する直流信号の振幅を求める(ステップS2−6)。
【0109】
次に直流の受信信号の電圧レベルを移相量に対して求めた直流信号の振幅にて規格化することにより、各受信アンテナでの位相を求め、一つの受信アンテナを基準として他の受信アンテナとの位相差を求める(ステップS2−7)。
【0110】
各アンテナ素子から各受信アンテナまでの光路の違いに応じて、各受信アンテナの位相を補正する(ステップS2−8)。
【0111】
各受信アンテナの移相量に対して求めた直流信号の振幅と位相差および各受信アンテナ素子の位置情報により、各受信アンテナの振幅分布と位相分布を求める(ステップS2−9)。
【0112】
次に、S2−9で算出した振幅分布と位相分布に基づいて、アレイアンテナが所望の指向性を実現するように、各アンテナ素子に接続された移相器を調整する。(ステップS2−10)。
【0113】
なお、基準信号検出器にて検出した基準信号と、第1の実施形態での受信信号を比較部にて比較すれば、信号発生部にて発生する信号の情報が未知な場合でも送信信号の位相調整が可能となる。