特開2018-16672(P2018-16672A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-16672(P2018-16672A)
(43)【公開日】2018年2月1日
(54)【発明の名称】グリース状エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/58 20060101AFI20180105BHJP
   C08G 59/24 20060101ALI20180105BHJP
【FI】
   C08G59/58
   C08G59/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-145612(P2016-145612)
(22)【出願日】2016年7月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉山 真貴
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AA01
4J036AA04
4J036AD08
4J036AJ05
4J036DB15
4J036DC02
4J036DC22
4J036FA05
4J036JA06
4J036JA14
(57)【要約】
【課題】夏場の高い温度下でも経時的に揺変性が低下してたれが生じることがなく、また主剤と硬化剤の粘度の差異が少なくて混合をスムーズに行うことができ、さらには揺変性を得るために配合する、エポキシ樹脂やアミン化合物以外の他の成分が少ないため硬化物の物性の低下が無い、グリース状エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂と疎水性微粉シリカとから成る主剤部と、アミン化合物と親水性微粉シリカとポリカルボン酸塩とから成る硬化剤部と、から成ることを特徴とするグリース状エポキシ樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と疎水性微粉シリカとから成る主剤部と、アミン化合物と親水性微粉シリカとポリカルボン酸塩とから成る硬化剤部と、から成ることを特徴とするグリース状エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
アミン化合物は、ポリアミドアミンと、脂肪族アミン化合物とから成ることを特徴とする請求項1に記載のグリース状エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
脂肪族アミン化合物は、変性脂肪族ポリアミンとポリエーテルポリアミンを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のグリース状エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
エポキシ樹脂はビスフェノールA型液状エポキシ樹脂化合物と反応性エポキシ樹脂希釈剤から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のグリース状エポキシ樹脂組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下地コンクリートの目止めや目地に充填し、またコンクリートのひび割れ部分に注入し、さらにはコンクリート構造物等の壁面部に貼着されたタイル等に浮きが生じた際に該タイル等を壁面部に接着させるために使用するグリース状エポキシ樹脂組成物に関し、特には、経時的に安定した揺変値を有しダレが生じないグリース状エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、混合前のエポキシ樹脂を主成分とする主剤、アミン組成物の作業性に優れ、かつ混合後の揺変性が大きくたれ落ちの起こりにくい二液型補修・補強剤として、少なくとも要素[A]アミン化合物および要素[B]疎水性のシリカ粒子を含有する室温で液状のアミン組成物と、エポキシ樹脂を主成分とする主剤とから成ることを特徴とする二液型補修・補強剤が提案されている(特許文献1参照)。
また、塗り床材、目止め材、目地材、注入材等に用いられる、2液硬化型のエポキシ樹脂組成物として、主剤と硬化剤とからなる2液硬化型のエポキシ樹脂組成物において、上記主剤が、揺変性付与剤としての微粉状フィラーを含有していると共に、硬化剤が、高分子ポリカルボン酸塩を主成分とするたれ防止剤を含有していることを特徴とするエポキシ樹脂組成物が提案されている(特許文献2参照)。
また、揺変性に優れたエポキシ樹脂組成物として、(A)成分:エポキシ樹脂、(B)成分:エポキシ硬化剤、(C)成分:微粉末ケイ酸化合物、(D)成分:カルボン酸,カルボン酸亜鉛及びカルボン酸鉛よりなる群から選ばれた1種以上の化合物、を含有することを特徴とする揺変性持続型エポキシ樹脂組成物が提案されている(特許文献3参照)。
また、垂直面あるいは傾斜面に塗布した場合、たれを生じることがない塗面が得られるエポキシ樹脂組成物として、エポキシ樹脂、エポキシ硬化剤及び揺変性付与剤を含有するエポキシ樹脂組成物において、たれ防止剤としてポリイミン類、ポリオール類あるいはこれらの両者を配合したことを特徴とするエポキシ樹脂組成物が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−160641号公報
【特許文献2】特開平3−172343号公報
【特許文献3】特開2002−226674号公報
【特許文献4】特開平6−345942号公報
【0004】
しかしながら、特許文献1の二液型補修・補強剤はアミン化合物の組成によっては経時的に揺変性が低下してたれ落ちが生じる場合があるという課題があり、特許文献2のエポキシ樹脂組成物は、十分な揺変性を得るために主剤に微粉状フィラーを多く配合すると主剤の粘度が高くなり、微粉状シリカを配合せず高分子ポリカルボン酸塩を配合した硬化剤との粘度の差異が大きくなって、主剤と硬化剤の混合がスムーズに行うことが出来ないという課題がある。
【0005】
また、特許文献3のエポキシ樹脂組成物においては、エポキシ樹脂とエポキシ硬化剤の合計量100重量部に対してカルボン酸、カルボン酸亜鉛及びカルボン酸鉛よりなる群から選ばれた1種以上の化合物が最大で10重量部配合される場合があり、その場合硬化物の物性が低下する場合があるという課題がある。
【0006】
また、特許文献4のエポキシ樹脂組成物においては、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤のほか、ポリイミン類やポリオール類が比較的多めに配合されるため硬化物の物性が低下する場合があるという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、夏場の高い温度下でも経時的に揺変性が低下してたれが生じることがなく、また主剤部と硬化剤部の粘度の差異が少なくて混合をスムーズに行うことができ、さらには揺変性を得るために配合する、エポキシ樹脂やアミン化合物以外の他の成分が少ないため硬化物の物性の低下が無い、グリース状エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため請求項1記載の発明は、エポキシ樹脂と疎水性微粉シリカとから成る主剤部と、アミン化合物と親水性微粉シリカとポリカルボン酸塩とから成る硬化剤部と、から成ることを特徴とするグリース状エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0009】
また請求項2記載の発明は、アミン化合物は、ポリアミドアミンと、脂肪族アミン化合物とから成ることを特徴とする請求項1に記載のグリース状エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0010】
また請求項3記載の発明は、脂肪族アミン化合物は、変性脂肪族ポリアミンとポリエーテルポリアミンを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のグリース状エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0011】
また請求項4記載の発明は、エポキシ樹脂はビスフェノールA型液状エポキシ樹脂化合物と反応性エポキシ樹脂希釈剤から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のグリース状エポキシ樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のグリース状エポキシ樹脂組成物は、夏場の高い温度下でも経時的に揺変性が低下してたれが生じることがないという効果があり、また主剤部と硬化剤部の双方に微粉シリカを含んでいるため主剤部と硬化剤部の粘度の差異が小さく、このため使用の際の主剤部と硬化剤部の混合がスムーズに手早く行うことが出来る効果がある。さらには揺変性を得るために配合する、エポキシ樹脂やアミン化合物以外の他の成分は高分子ポリカルボン酸塩で配合量も10%以下であるため硬化後の物性低下が殆ど無いという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明に係るグリース状エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と疎水性微粉シリカとから成る主剤部と、アミン化合物と親水性微粉シリカとポリカルボン酸塩とから成る硬化剤部と、から成ることを特徴とするグリース状エポキシ樹脂組成物であり、必要に応じてこれらの他に、顔料や分散剤、消泡剤等の添加剤が配合される。
【0015】
<エポキシ樹脂>
本発明に係るグリース状エポキシ樹脂組成物に使用するエポキシ樹脂とは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂化合物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂化合物、ビスフェノールS型エポキシ樹脂化合物、ビフェニル型エポキシ樹脂化合物、ナフタレン型エポキシ樹脂化合物、ノボラック型エポキシ樹脂化合物、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂化合物、フェノール化合物とジシクロペンタジエンの共重合体を原料とするエポキシ樹脂化合物等、従来公知の種々のエポキシ樹脂化合物とエポキシ樹脂希釈剤の混合物を言う。エポキシ樹脂化合物としては、主剤部と硬化剤部との混合が容易で硬化物として高い強度得ることが出来るビスフェノールA型エポキシ樹脂化合物を使用することが好ましく、また主剤部と硬化剤部を所定の配合比で混合する作業を容易にするために主剤部を低粘度とするためにビスフェノールF型エポキシ樹脂化合物や、例えばC12−C13のアルキルグリシジルエーテル等の1官能エポキシ樹脂希釈剤や、1,6ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の2官能エポキシ樹脂希釈剤を使用することが好ましい。
【0016】
エポキシ樹脂化合物100重量部に対するエポキシ樹脂希釈剤の配合量は、硬化物の強度及び接着力の観点より、15〜25重量部が好ましい。
【0017】
<アミン化合物>
本発明に使用するアミン化合物としては、ポリアミドアミンや脂肪族アミン化合物を使用することが出来る。ポリアミドアミンは、主として硬化物の脆性を抑え可撓性を付与するために用いるもので、合成脂肪酸、天然脂肪酸のカルボン酸とポリエチレンポリアミン等に代表されるエチレンアミンとの反応生成物であり、これらは原料の種類や合成時の温度勾配、反応時間により種々のものが得られ、本発明に係るアミン化合物の一つとして使用することが出来る。
【0018】
また、脂肪族アミン化合物としては、メタキシレンジアミン、ポリエーテルポリアミン、メタキシレンジアミンとスチレンの反応生成物等の脂肪族アミンや、該脂肪族アミンにエポキシ樹脂を付加したアダクト変性物や、フェノールとホルマリンによるマンニッヒ変性物等の変性脂肪族ポリアミンを使用することが出来、必要とする硬化時間や硬化物の強度、接着力等により、種々の脂肪族アミン化合物を使用することが出来る。
【0019】
本発明に使用するアミン化合物は、エポキシ樹脂の硬化剤として作用し、上記アミン化合物以外にも例えば脂環式アミンやこの変性アミン等の種々のアミン化合物を使用することが出来る。エポキシ樹脂とアミン化合物の配合比は、主剤部中のエポキシ基1個に対する硬化剤部の活性水素基の数は0.9〜1.2が硬化後の強度と接着力の点で好ましい。
【0020】
アミン化合物は、ポリアミドアミンと脂肪族アミン化合物を併用することが高い接着力を得るためには好ましく、ポリアミドアミン100重量部に対する脂肪族アミン化合物の配合量は150〜250重量部が好ましい。また脂肪族アミン化合物には主剤部と硬化剤部の混合後の組成物の作業性の観点よりポリエーテルポリアミンを含むことが好ましく、脂肪族アミン化合物100重量部中のポリエーテルポリアミンの配合量は20〜45重量部が好ましい。
【0021】
アミン化合物の活性水素当量は硬化物の強度、接着力の観点より30〜150が好ましく、また硬化剤部と組み合わされる主剤部のエポキシ樹脂のエポキシ当量は同様の観点より150〜250が好ましい。
【0022】
<微粉シリカ>
本発明に使用する微粉シリカは、乾式法あるいは湿式法で得られる球状の二酸化ケイ素の微粒子である。該微粉シリカの比表面積(BET法)は、乾式法では50〜400m/g程度であり、湿式法では50〜1000m/g程度であるが、どちらの微粉シリカも本発明に使用することができる。微粉シリカには、表面を処理していない親水性タイプのものと、表面を処理した疎水性タイプのものとがあり、本発明では、疎水性タイプの疎水性微粉シリカはエポキシ樹脂と混練して主剤部として使用し、親水性タイプの親水性微粉シリカは上記アミン化合物と以下に示すポリカルボン酸塩と混練して硬化剤部として使用する。
【0023】
エポキシ樹脂100重量部に対する疎水性微粉シリカの配合量は、5〜10重量部が好ましく、アミン化合物に対する親水性微粉シリカの配合量は3〜10重量部が好ましい。
【0024】
<ポリカルボン酸塩>
本発明に使用するポリカルボン酸塩は、硬化剤部に配合され、アミン化合物と混練される親水性微粉シリカによって発現される揺変性を安定したものとする効果がある。該ポリカルボン酸塩は高分子量であり、例えば高沸点の芳香族化合物やメトキシプロパノール等の有機溶媒中に溶解させた液状のものを使用することが出来る。該液状のポリカルボン酸塩の市販品としてはANTI−TERRA−204(商品名、BYK CHEMIE社製)がある。ポリカルボン酸塩の配合量は親水性微粉シリカ100重量部に対して30〜100重量部が好ましい。
【0025】
以下,実施例及び比較例にて具体的に説明する。
【実施例】
【0026】
<実施例及び比較例>
エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂化合物 エピクロン850(商品名、DIC社製、エポキシ当量 190)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂化合物 エピクロン830(商品名、DIC社製、エポキシ当量171)、C12−C13のアルキルグリシジルエーテルAED−9(商品名、PTIジャパン、エポキシ当量290)、1、6ヘキサンジオールジグリシジルエーテルED503(商品名、ADEKA社製、エポキシ当量165)を使用し、親水性微粉シリカとしてHDK−N20(商品名、比表面積(BET法)170〜230m/g、旭化性ワッカーシリコーン社製)を、疎水性微粉シリカとしてREOLOSIL PM−20L(商品名、比表面積(同)80〜120m/g、トクヤマ社製)を使用し、表1に示す配合にて均一に混合し実施例又は比較例の主剤部とした。
【0027】
【表1】
【0028】
アミン化合物として、ポリアミドアミンとしてグランマイド645(商品名、活性水素当量100、ADEKA社製)を、脂肪族アミン化合物として脂肪族アミンのガスカミン240(商品名、活性水素当量103、メタキシレンジアミンとスチレンとの化合物)、同変性脂肪族ポリアミンであるハードナーPH−770(商品名、活性水素当量94、PTIジャパン社製)、同ポリエーテルポリアミンであるジェファーミンD−230(商品名、活性水素当量60、ハンツマン社製)を使用し、親水性微粉シリカとして上記HDK−N20を、ポリカルボン酸塩としてANTI−TERRA−204を使用し表2に示す配合にて均一に混合し実施例又は比較例の硬化剤部とした。
実施例又は比較例に係るグリース状エポキシ樹脂組成物は、各々の主剤部と硬化剤部を100/50(重量部)で均一に混合し、以下に示す評価方法によって評価した。
【0029】
【表2】
【0030】
<評価項目及び評価方法>
【0031】
<粘度>
主剤部及び硬化剤及び主剤部と硬化剤部を混合した混合物について、23℃においてBH型回転粘度計 7号ローター20rpmにて粘度を測定した。
【0032】
<揺変値>
主剤部及び硬化剤及び取材部と硬化剤部を混合した混合物について、23℃においてBH型回転粘度計 7号ローター2rpmにて粘度を測定し、該粘度を上記20rpm時の粘度で除した値を揺変値として算出した。
【0033】
<23℃タレ性>
主剤部60gと硬化剤部30gをカップに取ってへらにて1分間混合して混合物とする。該混合物のうち6gを、水平状態の鋼板上に直径約3cmに塗り付け、直ちに鋼板を垂直に保持する。塗り付けたものにタレが生じるものを×、わずかにタレが生じるものを△、タレが無いものを○として評価した。また混合直後のほか、混合後30分、60分、75分、90分、105分、120分後に、それぞれカップ内の混合物を都度100回(約30秒)へらにて混合し直して、同様に水平状態の鋼板上に直径約3cmに塗り付け、直ちに鋼板を垂直に保持する。塗り付けたものにタレが生じるものを×、わずかにタレが生じるものを△、タレが無いものを○として評価した。
【0034】
<35℃タレ性>
23℃タレ性と同様の方法で35℃にてタレ性を評価した。評価は主剤部と硬化剤部の混合直後、15分、30分、45分、60分後のタレ性を評価した。
【0035】
<評価結果>
評価結果を表3に示す。
【0036】
【表3】