【解決手段】清澄管41と、熔融ガラスを加熱するためのフランジ形状の電極板50a、50bと、電極板50a、50bを冷却する冷却管と、清澄管41に電流を供給する配線と、を備え、清澄管41は、電極板50a、50bの配置位置において、配線の電極板50a、50bとの接続位置の側にある清澄管41の白金族金属が第1の厚さを有する第1領域58Aと、接続位置と反対側にある清澄管41の白金族金属が第1の厚さに比べて厚い第2の厚さを有する第2領域58Bと、を有し、第1領域58Aと第2領域58Bは、清澄管41の長手方向に延在し、第1領域58Aの電流密度を第2領域58Bの電流密度より高くする過熱を制御する方法。
前記第1の厚さは、前記清澄管の長手方向に沿って一定であるか、前記電極板から離れるほど厚くなり、前記第2の厚さが前記清澄管の長手方向に沿って一定であるか、前記電極板から離れるほど薄くなる、請求項1または2に記載の熔融ガラスの清澄装置。
前記第1領域と前記第2領域は、前記清澄管の長手方向と直交する管の周方向に延びており、前記第1の厚さは、前記周方向に沿って一定であるか、前記接続位置から遠ざかるほど厚くなり、前記第2の厚さは、前記周方向に沿って一定であるか、前記接続位置に近づくほど薄くなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熔融ガラスの清澄装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、ガラス基板に含まれる白金異物が、問題となっている。
例えば、液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ(FPD)に使用されるガラス基板(FPD用ガラス基板)に含まれる白金異物は、近年特に厳しく制限されている。また、フラットパネルディスプレイ用に限らず、他の用途でも問題となっている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に記載されているように、フランジ状の電極板を水冷管(冷却管)で冷却すると、清澄管の電極板近傍の位置では、局所的に温度が低下する。具体的に説明すると、フランジ状の電極板では、電極板の外周部を通水冷却(水冷)する場合が多い。電極板のうち、水冷されている部分では、電気抵抗がきわめて小さい銅を電極に用いることができるので、このような構成の電極板は、大電流が必要な清澄槽の電極板として効率よく用いることができる。しかし、電極板は溶損や銅の酸化に対する安全性を確保するために十分に冷却される必要があるので、この冷却により清澄管の熔融ガラスや気相空間の温度が、電極板の近傍で局所的に低くなる。一方、清澄管のうち、電極板から離れた位置(清澄管の長手方向の位置)では、気相空間に接している部分が過熱し高温になりやすい。過熱し易い理由は、流れる熔融ガラスに接している部分では、清澄管の抵抗によって生じる発熱がすみやかに熔融ガラスに受け渡されるのに対して、気相空間に接している部分では、熔融ガラスとの間に存在する気相(空気層)を介して熔融ガラスに熱を伝えなければならず、清澄管の発熱が熔融ガラスに伝わりにくいためである。
【0008】
一方、清澄管本体の内部表面が、白金または白金合金(白金族金属)から構成されている場合、気相空間(酸素を含む雰囲気)に接している部分が揮発する。揮発した白金または白金合金は、清澄管の電極板近傍の局所的に温度が低下した位置で凝縮し、凝縮物となって付着する。この凝縮物の一部は脱泡工程中の熔融ガラス中に落下して混入し、ガラス基板に白金異物として混入する恐れがあった。このため、温度が低い清澄管の天頂部分は、特に凝縮物が形成されやすく、凝縮物の一部が熔融ガラス中に落下して混入し、ガラス基板に白金異物として混入する恐れが高くなる。
【0009】
本発明は、以上の点を鑑み、凝縮物の形成を生じ難くし、ガラス製品の白金異物を低減するために、清澄管において、温度が局所的に低くなり易い電極板近傍の清澄管の周状の位置における清澄管の温度を高め、かつ、清澄管の長手方向の、電極板から離れた位置において天頂部分の過熱を制御することが可能な熔融ガラスの清澄装置及びガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、熔融ガラスを清澄する清澄装置である。当該清澄装置は、
少なくとも一部が白金族金属で構成された清澄管と、
前記清澄管に電流を流して発生する発熱により熔融ガラスを加熱するために、前記清澄管の外周を囲むように設けられたフランジ形状を有する電極板と、
前記電極板を冷却する冷却管と、
前記電極板に一方向から接続した、前記電極板を通して前記清澄管に電流を供給する配線と、を備える。
前記清澄管は、前記清澄管の長手方向における前記電極板の配置位置において、前記配線の前記電極板との接続位置の側にある前記清澄管の白金族金属が第1の厚さを有する第1領域と、前記接続位置と反対側にある前記清澄管の白金族金属が前記第1の厚さに比べて厚い第2の厚さを有する第2領域と、を有し、前記第1領域と前記第2領域は、前記清澄管の長手方向に延在する。前記第1領域の電流密度を前記第2領域の電流密度より高くして前記第1領域を発熱させることにより、前記冷却管による前記第1領域における温度の低下を抑制する。
【0011】
前記電極板は、前記清澄管の長手方向における異なる位置に少なくとも2箇所設けられ、
前記清澄管は、前記電極板のそれぞれの配置位置に、前記第1領域及び前記第2領域を有する、ことが好ましい。
【0012】
前記第1の厚さは、前記清澄管の長手方向に沿って一定であるか、前記電極板から離れるほど厚くなり、前記第2の厚さが前記清澄管の長手方向に沿って一定であるか、前記電極板から離れるほど薄くなる、ことが好ましい。
【0013】
前記第1領域と前記第2領域は、前記清澄管の長手方向と直交する管の周方向に延びており、前記第1の厚さは、前記周方向に沿って一定であるか、前記接続位置から遠ざかるほど厚くなり、前記第2の厚さは、前記周方向に沿って一定であるか、前記接続位置に近づくほど薄くなる、ことが好ましい。
【0014】
前記熔融ガラスは、前記熔融ガラスの上方に気相空間を有するように前記清澄管の内部空間に供給され、
前記配線は下方向に延びて前記電極板に接続されており、
前記第1領域の前記内部空間側の面は、前記気相空間と接し、前記第2領域の前記内部空間側の面は、前記熔融ガラスと接する、ことが好ましい。
【0015】
本発明の他の一態様はガラス基板の製造方法である。当該製造方法は、
熔融ガラスを作る熔解工程と、
少なくとも一部が白金族金属で構成された清澄管を通電加熱することにより前記清澄管内で前記熔融ガラスを清澄する清澄工程と、を有する。
前記清澄管には、前記清澄管の外周を囲むように設けられたフランジ形状を有する電極板が設けられ、前記電極板には、前記電極板に一方向から接続した、前記電極板を通して前記清澄管に電流を供給する配線が設けられる。
前記清澄管は、前記清澄管の長手方向における前記電極板の配置位置において、前記配線の前記電極板との接続位置の側にある前記清澄管の白金族金属が第1の厚さを有する第1領域と、前記接続位置と反対側にある前記清澄管の白金族金属が前記第1の厚さに比べて厚い第2の厚さを有する第2領域と、を有し、前記第1領域と前記第2領域は、前記清澄管の長手方向に延在する。前記第1領域の電流密度を前記第2領域の電流密度より高くして前記第1領域を発熱させることにより、前記冷却管による前記第1領域における温度の低下を抑制する。
【発明の効果】
【0016】
上述の熔融ガラスの清澄装置及びガラス基板の製造方法によれば、清澄管の電極板近傍において、温度が局所的に低くなり易い清澄管の周状の位置における清澄管の温度を高めることができ、これにより、凝縮物の形成を生じ難くし、ガラス基板中の白金異物を低減することができる。しかも、電極板から離れた位置における天頂部分の過熱を制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明のガラス基板の製造方法及び熔融ガラスの清澄装置の一実施形態について説明する。
【0019】
図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程を示すフロー図である。
図1に示すように、ガラス基板は、主に熔解工程(ST1)、清澄工程(ST2)、均質化工程(ST3)、供給工程(ST4)、成形工程(ST5)、徐冷工程(ST6)、切断工程(ST7)を経て作製される。
また、
図2は、上述の熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を経て作製される本実施形態のガラス基板の製造方法で用いる装置の概略図であり、各工程において使用される装置の配置を概略的に示している。
図2に示すように、ガラス基板製造装置200は、ガラス原料を加熱して熔融ガラスを生成する熔解装置40と、熔融ガラスを清澄する清澄管41と、熔融ガラスを撹拌して均質化するための撹拌装置100と、ガラス基板に成形する成形装置42とを備えている。また、熔融ガラスを上述の装置間に移送するガラス供給管43a、43b、43cを有する。熔解装置40以降、成形装置42までの各装置間を接続するガラス供給管43a、43b、43cおよび清澄管41と撹拌装置100は、白金族金属で構成されている。
【0020】
熔解装置40は、耐火煉瓦等の耐火物により構成されている。また、熔解装置40には、図示されない燃料と酸素等を混合した燃焼ガスが燃焼して火炎を発するバーナー等の加熱手段が設けられている。
熔解工程(ST1)では、たとえばSnO
2等の清澄剤が添加されて熔解装置40内に供給されたガラス原料を、上述の加熱手段で加熱して熔解することで熔融ガラスMGを得る。具体的には、図示されない原料投入装置を用いてガラス原料が熔融ガラスの液面に供給される。ガラス原料は、バーナーの火炎からの輻射熱により、加熱される。ガラス原料は、上述の加熱手段により加熱されて徐々に熔解し、熔融ガラスMG中に溶ける。
また、上記加熱手段は、例えばモリブデン、白金または酸化スズ等で構成された少なくとも1対の電極であってもよい。この場合、熔融ガラスMGは、上記電極間に電流を流すことにより通電加熱されて、昇温されてもよい。
【0021】
熔解装置40に投入されるガラス原料は、製造するべきガラス基板の組成に応じて適宜調製される。一例として、TFT型LCD用基板として用いるガラス基板を製造する場合を挙げると、ガラス基板を構成するガラス組成物を質量%で表示して、
SiO
2:50〜70%、
Al
2O
3:0〜25%、
B
2O
3:1〜15%、
MgO:0〜10%、
CaO:0〜20%、
SrO:0〜20%、
BaO:0〜10%、
RO:5〜30%(ただし、RはMg、Ca、Sr及びBaの合量)、
を含有する無アルカリガラスであることが、好ましい。
【0022】
なお、本実施形態では無アルカリガラスとしたが、ガラス基板はアルカリ金属を微量含んだアルカリ微量含有ガラスであってもよい。アルカリ金属を含有させる場合、R’
2Oの合計が0.10%以上0.5%以下、好ましくは0.20%以上0.5%以下(ただし、R’はLi、Na及びKから選ばれる少なくとも1種であり、ガラス基板が含有するものである)含むことが好ましい。勿論、R’
2Oの合計が0.10%より低くてもよい。
また、本発明のガラス基板の製造方法を適用する場合は、ガラス組成物が、上記各成分に加えて、質量%で表示して、SnO
2:0.01〜1%(好ましくは0.01〜0.5%)、Fe
2O
3:0〜0.2%(好ましくは0.01〜0.08%)を含有し、環境負荷を考慮して、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含有しないようにガラス原料を調製しても良い。
【0023】
次の清澄工程(ST2)は、清澄管41において行われる。清澄工程では、清澄管41内の気相空間を有するように熔融ガラスMGの液位を調整して熔融ガラスMGを通過させる。このとき、清澄管41内の熔融ガラスMGが所定温度(上記組成のガラスの場合は例えば1600℃以上)に昇温されることにより、熔融ガラスMG中に含まれるO
2、CO2あるいはSO
2を含んだ泡が、例えばSnO
2等の清澄剤の還元反応により生じたO
2を吸収して成長し、熔融ガラスMGの液面に浮上して放出される。その後、ガラス供給管43b等において熔融ガラスMGの温度を低下させることにより、SnO
2等の清澄剤が還元反応して得られたSnOが酸化反応をすることにより、熔融ガラスMGに残存する泡中のO
2等のガス成分が熔融ガラスMG中に吸収されて、泡が消滅する。清澄剤による酸化反応および還元反応は、熔融ガラスMGの温度を制御することにより行われる。
【0024】
均質化工程(ST3)では、ガラス供給管43bを通って供給された撹拌装置100内の熔融ガラスMGを、後述する攪拌機を用いて撹拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。攪拌装置100は、1つの攪拌機を用いて熔融ガラスMGを攪拌するが、2つ以上の攪拌機を用いて熔融ガラスMGを攪拌することもできる。
【0025】
供給工程(ST4)では、ガラス供給管43cを通して熔融ガラスMGが成形装置42に供給される。熔融ガラスは、清澄管41から成形装置に送られる際のガラス供給管43cにおいて、成形に適した温度(上記組成のガラスの場合は例えば1200℃程度)となるように冷却される。
成形装置42では、成形工程(ST5)および徐冷工程(ST6)が行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスMGをシート状ガラス44に成形し、シート状ガラス44の流れを作る。徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシート状ガラス44が所望の厚さになり、内部歪みが生じないように冷却される。
切断工程(ST7)では、図示しない切断装置において、成形装置42から供給されたシート状ガラス44を所定の長さに切断することで、板状のガラス基板を得る。切断されたガラス基板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作製される。この後、ガラス基板の端面の研削、研磨およびガラス基板の洗浄が行われ、さらに、泡やキズ、汚れ等の欠点の有無が検査された後、検査合格品のガラス基板が最終製品として梱包される。
【0026】
[清澄管の構成]
次に、
図3を用いて、清澄管41の構成を説明する。
図3は、本実施形態で用いる清澄管41の構成を示す概略図である。
図3に示すように、清澄管41は、筒状の形状を有しており、白金又は白金合金から構成されている。清澄管41の両端の外周面には、フランジ形状の電極板50a,50bが溶接されている。電極板50a,50bは、清澄管41を通電加熱するために用いられ、電源装置52に接続されている。電極板50a,50bの間に電圧が印加されることにより、電極板50a,50bの間の清澄管41に電流が流れて、清澄管41が通電加熱される。この通電加熱により、清澄管41は例えば、1650℃〜1700℃程度に加熱され、ガラス供給管43aから供給された熔融ガラスMGは、脱泡に適した温度、例えば、1600℃〜1700℃程度に加熱される。
【0027】
また、電極板50a,50bの外周には冷却管502a,502bが設けられている。
なお、電極板50aは電極板50bと、冷却管502aは冷却管502bと、冷媒供給装置54aは冷媒供給装置54bと、それぞれ同じ構成を有するので、以下、電極板50a,50bを電極50と総称し、冷媒供給装置54a,54bを冷媒供給装置54と総称し、冷却管502a,502bを冷却管502と総称して説明する。
【0028】
電極板50は、白金または白金合金から構成されている。なお、本実施形態では、電極板50が白金または白金合金から構成されている場合を具体例として説明するが、電極板50の一部が、パラジウム,銀,銅などの他の金属から構成されていてもよい。例えば、白金または白金合金は高価であるため、電極板50の比較的温度が低い場所では、パラジウム,銀,銅などを使用してもよい。電極板50は、板状に形成され、清澄管41の両端の外周面に互いの電極板50(50a,50b)がほぼ平行になるように溶接されて設置される。また、電極板50は、電源装置52と接続するための配線52が設けられている。配線52は、清澄管41から突出しているために、清澄管41の外気により冷却される。このため、電極板50近傍の清澄管41が冷却される。
なお、電極板50の設置位置、設置方法は、電源装置52から流れた電流が電極50、清澄管41を流れて、熔融ガラスMGを加熱できればよく、任意である。
【0029】
冷却管502は、冷媒供給装置54に接続されている。冷却管502は、管状に構成されており、冷媒供給装置54から供給された冷媒を受け入れる流入口と、供給された冷媒を冷媒供給装置54に対して排出する排出口とを有する。すなわち、冷却管502は、冷媒供給装置54から供給された冷媒を通過させることにより、冷却管502に接触するように設けられている電極板50を冷却するように構成されている。
【0030】
上記冷媒は、水などの液体であってもよいし、空気などの気体であってもよい。
一実施形態によれば、上記冷媒は、気体であることがより好ましい。冷媒が水などの液体である場合は、冷却能が高いため、清澄管41の電極50の近傍では局所的に温度が低下する。
清澄管において局所的な温度低下が起きると、清澄が十分に行なわれず、泡品質が低下するおそれがあった。また、白金又は白金合金から構成された清澄管では気相空間を有するので白金又は白金合金が揮発する。揮発した白金又は白金合金(白金揮発物という)は、電極板近傍の局所的に温度が低下した位置で凝縮し、凝縮物となって付着する。凝縮物の一部は脱泡工程中の熔融ガラスMG中に落下して混入し、ガラス基板の品質の低下を招くおそれがあった。したがって、一実施形態によれば、上記冷媒は、気体であることが好ましい。
【0031】
冷却管502は、金属から構成される。冷媒供給装置54から供給される冷媒が水などの液体である場合は、冷却能が高いため、上記金属に、銅やニッケルなどを用いてもよく、使用に耐え得る。しかしながら、冷媒供給装置54から供給される冷媒が気体である場合は、液体と比較して冷却能が低いため、上記金属に、高温の空気中で酸化されない材料を用いることが好ましい。具体的には、白金、ロジウム、銀、パラジウム、金、またはこれらの合金が好ましい。銀は、これらの材質のうち、最も価格が安く、また電気抵抗が小さいので発熱を抑えることができる。したがって、上記金属は銀を含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましい。また、例えば、清澄管に通電する電流が3000アンペアを超えるときは,冷却管材料は電気抵抗率が小さく,電流のバイパスとして機能する材質が望ましく、例えば、銅、銀、白金を用いることができる。また、通電する電流が3000アンペアより小さいときは,冷却管材料の抵抗発熱についての問題は小さいので,ステンレスやニッケル、コバルトなどを用いることもできる。すなわち、冷却管502は、銀、白金、銅、ロジウム、パラジウム、金、鉄、コバルト、ニッケルのいずれかを含むように構成されていてよい。なお、冷却管502に白金より融点が低い銀等の材料を用いる場合、冷却管502の周囲を耐火煉瓦等の耐火物で覆い、冷却管502を保護することもできる。
【0032】
このように、清澄管41の周囲には、電極板500、電源装置52、冷媒供給装置54、配線56、冷却管502が設けられて熔融ガラスMGの清澄装置を形成している。すなわち、本実施形態の清澄装置は、少なくとも一部が白金族金属で構成された清澄管41;清澄管41に電流を流して発生する発熱により熔融ガラスMGを加熱するために、清澄管41の外周を囲むように設けられたフランジ形状を有する電極板50;電極板50を冷却する冷却管502;電極板50に一方向から接続した、電極板50を通して清澄管41に電流を供給する配線56、を備える。
図3には示されていないが、清澄管41の外周には、清澄管41を囲むように放熱を抑制するために断熱材及び耐火煉瓦等の耐火物が設けられている。
【0033】
このような清澄管41における温度分布の一例を
図4に示す。
図4は、清澄管41の長手方向の(清澄管41の天頂部における)温度分布を説明する図である。
図4では、最高温度がT2であり、最低温度がT1である。
図4に示すように、電極板50(50a,50b)の近傍では、清澄管41の温度は低下する。これは、主に、冷却管50による冷却等によって電極板50近傍の清澄管41の部分も熱を奪われるためである。
特に、電極板50から電流が清澄管41に最初に流入する部分には、電流は流れ難い。
図4に示す例では、電流は、配線56を介して上方から清澄管41に流れるため、電極板50近傍における清澄管41の天頂部分に流れる電流は、電極板50近傍における清澄管41の底部分に流れる電流に比べて少ない。このため、電極板50近傍における清澄管41の天頂部分の発熱量は低く温度は低い。このため、清澄管41の天頂部分では、白金族金属の揮発物が凝縮し易くなり、この凝縮物が熔融ガラスMG中に落下してガラス製品の白金異物となり易い。
【0034】
清澄管41の電流は、上方から供給されることが好ましい。この場合、電極板50から電流が清澄管41に最初に流入する場所では、電流は上方の天頂部分に偏っている。このため、上部の気相空間における電極板50付近の温度低下は、天頂部分に偏って流れる電流による発熱によって、ある程度打ち消される。しかし、気相空間における電極板50近傍の温度は他の部分と比べると低く、白金族金属が凝集しやすい。本実施形態では、天頂部分の厚みを薄くすることにより、電流の偏りによる電極板50付近における温度補償効果を増幅し、電極板50付近の温度低下をより軽減する。すなわち、清澄管41は、清澄管41の長手方向における電極板50の配置位置において、配線56の電極板50との接続位置の側にある清澄管41の白金族金属が第1の厚さTh1(本実施形態によれば、天頂部分の厚さ)を有する第1領域58A(
図5参照)と、配線56の電極板50との接続位置と反対側にある清澄管41の白金族金属が第1の厚さTh1に比べて厚い第2の厚さTh2(本実施形態によれば、底部分の厚さ)を有する第2領域58B(
図5参照)と、を有する構成とする。これにより、第1領域58Aの電流密度を第2領域58Bの電流密度より高くして第1領域58Aを発熱させることにより、冷却管502による第1領域58Aにおける温度の低下を抑制する。また、第1領域58Aと第2領域58Bは電極板50の配置位置から清澄管41の長手方向に延在する構成となっている。
図5は、本実施形態における清澄管41の電流密度と清澄管41の厚さを説明する図である。図中、電流密度の高低は矢印の長さの大小で示している。清澄管41の天頂部分の厚さを底部分の厚さに比べて薄くすることにより、
図5に示すように、清澄管41の天頂部分の電流が流れる面積を底部分の面積に比べて小さくすることができ、その結果、清澄管41の天頂部分の電流密度i1を高くすることができる。清澄管41における発熱は、電流密度の2乗に比例するので、電流密度が高くなった天頂部分では発熱量は大きくなる。このため、電極板50近傍における清澄管41の温度の低下を抑制することができる。
【0035】
本実施形態によれば、
図3,4に示すように、電極板50は、清澄管41の長手方向における異なる位置に少なくとも2箇所設けられる。このとき、清澄管41は、電極板50のそれぞれの配置位置に、厚さの異なる上記第1領域58A及び第2領域58Bを有することが好ましい。電極板50が設けられる清澄管41の位置近傍では、清澄管41の温度が低下するため、電極板50が設けられる清澄管41の位置のそれぞれにおいて、厚さの異なる上記第1領域58A及び第2領域58Bを備えることにより、電極板50の位置近傍における清澄管41の温度の低下を抑制することができる。本実施形態によれば、白金族金属の厚さが異なる第1領域58Aと第2領域58Bは電極板50の配置位置から清澄管41の長手方向に延在する構成となっているので、以下に説明するように、気相空間全体の温度差を軽減することができる。具体的に説明すると、清澄管41のうち、電極板50近傍から離れた位置(清澄管41の長手方向の位置)では、清澄管41内の電流密度は均一に近づくので、清澄管41の周方向の発熱量の分布は、白金板の厚さに比例するようになり、天頂部分の発熱が小さくなる。すなわち、発熱の分布は、電極板50の近傍と、電極板50から離れた位置では逆の傾向となる。一方、清澄管41のうち熔融ガラスMGと接している部分では熱がすみやかに熔融ガラスMGに受け渡されるのに対して、気相空間に接している部分では、清澄管41と熔融ガラスMGの間に気相(空気層)が存在するので、熔融ガラスMGに熱が伝わり難く、熔融ガラスMGに接している部分に較べて蓄熱されて過熱し易い。この結果、清澄管41内の気相空間全体の温度差はつき易い。この温度差は、電極板50の近傍から離れにつれて大きくなる。しかし、清澄管41の長手方向の、電極板50近傍から離れた位置では、清澄管41の周方向の発熱量の分布は、白金族金属の厚さに比例するようになり、気相空間に接している部分に対応する天頂部分の発熱が小さくなるので、気相空間に接している部分における上記過熱は抑制される。これにより、気相空間全体の温度差が軽減される。
【0036】
本実施形態では、天頂部分の厚さTh1を従来よりも薄くし、底部分の厚さTh2を従来よりも厚くし、かつ、Th2>Th1とすることにより、天頂部分への電流密度の偏りを、従来よりもさらに大きくすることができるため、電極板50の近傍の気相空間の温度低下を、効果的に小さくすることができる。
【0037】
一実施形態によれば、
図5に示すように、厚さが異なる第1領域58A及び第2領域58Bは、清澄管41の長手方向に沿って延在してもよい。この場合、第1の厚さTh1は、清澄管41の長手方向に沿って一定であるか、電極板50から離れるほど厚くなり、第2の厚さTh2が清澄管41の長手方向に沿って一定であるか、電極板50から離れるほど薄くなることが好ましい。電極板50の近傍(電極板50から長手方向で50cm離間した範囲内)から離れても、電流密度i1>電流密度i2を維持することにより、清澄管41の周上の温度分布を均一に近づけることができる。
しかし、電極板50から離れるほど電流は清澄管41の周上に均一に流れようとする。このため、清澄管41の気相空間に接している部分における上述した過熱の程度が小さい場合、電極板50の近傍から十分に外れた電極板50間の中間部分では、清澄管41の天頂部分と底部分の厚さを揃えて、電流密度も揃え、これにより清澄管41の周上の発熱量及び温度分布を均一にすることが好ましい。すなわち、
図3に示すように、電極板50の中間部分では、天頂部分と底部分の厚さを同じ値のTh3に揃えることが好ましい。この場合、第1の厚さTh1は、電極板50の位置近傍の第1領域58Aから離れにつれて、厚さTh3に近づくように漸増し、第2の厚さTh2は、電極板50の位置近傍の第2領域58Bから離れにつれて、厚さTh3に近づくように漸減することが好ましい。
【0038】
また、一実施形態によれば、第1領域58Aと第2領域58Bは、
図6に示すように、清澄管41の長手方向と直交する管の周方向Cに延びており、第1の厚さTh1は、周方向Cに沿って一定であるか、配線52と電極板50の接続位置から遠ざかるほど厚くなり、第2の厚さTh2は、周方向Cに沿って一定であるか、配線52と電極板50の接続位置に近づくほど薄くなることが好ましい。厚さの異なる第1領域58Aと第2領域58Bが清澄管41の周方向Cに延びることにより、清澄管41の周上の温度分布を効率よく均一に近づけることができる。
図6は、一実施形態における清澄管41の管の厚さの周状の分布を説明する図である。清澄管41の周上の発熱量の分布を滑らかに変化させるためには、第1の厚さTh1は、配線52と電極板50の接続位置から遠ざかるほど徐々に厚くなり、第2の厚さTh2は、配線52と電極板50の接続位置に近づくほど徐々に薄くなることが好ましい。
【0039】
図2,4に示すように、熔融ガラスMGは、熔融ガラスMGの上方に気相空間GPを有するように清澄管41の内部空間に供給される。配線56は、
図3に示されるように、上方向から下方向に延びて電極板50に接続される。このとき、第1領域58Aの内部空間側の面は、気相空間GPと接し、第2領域58Bの内部空間側の面は、熔融ガラスMGと接することが好ましい。気相空間GPの熱容量は低いので、気相空間GPと接する清澄管41の部分の温度は、冷却管502の冷却によって低くなり易いので、気相空間と接する清澄管41の部分を、第1領域58Aとして発熱量を増化させることで、気相空間と接する清澄管41の部分の温度の低下を効率よく抑制することができる。したがって、第1領域58Aと第2領域58Bの接続部分が、熔融ガラスMGの液面の位置に対応するように、第1領域58A及び第2領域58Bが設けられることが好ましい。
【0040】
なお、本明細書において、「白金又は白金合金(白金族金属)」は、白金族元素からなる金属を意味し、単一の白金族元素からなる金属のみならず白金族元素の合金を含む用語として使用する。ここで、白金族元素とは、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)の6元素を指す。
【0041】
また、本実施形態は、酸化錫(SnO
2)を清澄剤として使用するガラス基板の製造に特に適している。清澄剤は従来ヒ素(AS
2O
3)が一般的であったが、近年の環境負荷の観点から、酸化錫(SnO
2)が使用されている。酸化錫は亜ヒ酸と比較して脱泡工程時に泡を放出する力が弱いため、ガラスの粘性を低くして脱泡効果を上げる必要があり、結果として高い温度で清澄を行う必要がある。したがって、清澄剤として酸化錫(SnO
2)を使用する場合、ヒ素(亜ヒ酸;AS
2O
3)を使用する場合と比較して、清澄管を高い温度に加熱する必要があるが、清澄管において局所的に温度が低下した場合、温度差がより大きくなるので、上述した白金異物の問題がより顕著となる。したがって本実施形態は、酸化錫(SnO
2)を清澄剤として使用するガラス基板の製造に特に適している。
【0042】
また、本実施形態で用いるガラスは、無アルカリガラスやアルカリを微量しか含まないアルカリ微量含有ガラスであり、ガラス基板の製造に特に適している。無アルカリガラスやアルカリ微量含有ガラスは、アルカリ微量含有ガラスに比べてアルカリを多く含有するガラスに比べて、粘性が高いため、より高い温度で清澄を行う必要があり、清澄管を高い温度に加熱する必要がある。
清澄管を高い温度に加熱すると、清澄管において局所的に温度が低下した場合、上述した白金異物の問題がより顕著となる。したがって、本実施形態で用いるガラスは、無アルカリガラスやアルカリを微量しか含まないアルカリ微量含有ガラスであり、ガラス基板の製造に特に適している。また、無アルカリガラスやアルカリを微量しか含まないアルカリ微量含有ガラスが用いられる、液晶表示装置用ガラス基板や有機EL用ガラス基板などのフラットパネルディスプレイ(FPD)用ガラス基板の製造に特に適している。
FPD用ガラス基板として、例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板や有機ELディスプレイ用ガラス基板が挙げられる。FPD用ガラス基板は、例えば、厚さが0.1〜0.7mmで、サイズが300×400mm〜2850×3050mmであり、本実施形態のガラス基板の製造方法及び熔融ガラスの清澄装置では、泡や白金異物の欠陥が改善されることから、よりサイズの大きなガラスの製造に適している。
【0043】
本実施形態は、低温ポリシリコン(LTPSS)用ガラス基板を製造する場合に特に適している。低温ポリシリコン(LTPS)用ガラス基板は、一般的にガラス基板をエッチング等によりスリミングして使用する。ガラス基板をエッチング等によりスリミングすると、ガラス基板の内部に含まれる白金異物が表面に表れ、ガラス表面に凹凸を形成するため問題となる。したがって、のガラス基板の製造方法及び熔融ガラスの清澄装置は、低温ポリシリコン(LTPS)用ガラス基板を製造する場合に特に適している。低温ポリシリコン(LTPS)用ガラス基板は、歪点が高いガラス基板であり、例えば、歪点が675℃以上、好ましくは、680℃以上、更に好ましくは、690℃以上のガラス基板が挙げられる。
【0044】
本実施形態は、FPD用ガラス基板を製造する場合に特に適している。近年、フラットパネルディスプレイでは、より高コントラストが求められており、従来問題となっていなかった白金異物が、高コントラスト化に伴い問題となっている。したがって、本実施形態のガラス基板の製造方法及び熔融ガラスの清澄装置は、FPD用ガラス基板を製造する場合に特に適している。
【0045】
以上、本発明の熔融ガラスの清澄装置、及びガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。