は炭化水素基であり、Aは下記一般式(a)で表される基であり、Bは下記一般式(b)で表される基であり、sは0以上の数であり、mは0〜800であり、nは1〜700である。)
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の骨髄止血剤は、骨の断面からの出血を止めるために用いられる止血剤である。
本発明の骨髄止血剤は、以下に示す化合物(1)を含む。骨髄止血剤は、有機粉体および無機粉体からなる群より選ばれる1種以上(以下、単に「粉体」ともいう。)、骨化促進剤をさらに含むことが好ましい。
【0024】
<化合物(1)>
化合物(1)は、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物である。
【0026】
式(1)中、R
1は炭化水素基であり、Aは下記一般式(a)で表される基であり、Bは下記一般式(b)で表される基であり、sは0以上の数であり、mは0〜800であり、nは1〜700である。
【0027】
式(1)中、R
1は炭化水素基である。R
1の炭素数は1〜10が好ましく、1〜6がより好ましい。R
1の炭化水素基としては、直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基が挙げられる。
【0029】
式(a)中、R
2は置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキレン基である。アルキレン基は、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。
置換基としては、炭素数1〜10の直鎖または分岐鎖のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖または分岐鎖のアルケニル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、炭素数1〜10のアルキルアミノ基、カルボキシ基、アルキン基、歪環化アルキン基、メルカプト基、アルデヒド基、アジド基、アルコキシアミノ基、マレイミド基、フリル基などが挙げられる。
【0031】
式(b)中、R
3は水素原子または炭化水素基であり、R
4は炭化水素基である。
R
3およびR
4の炭素数は、それぞれ1〜10が好ましく、1〜6がより好ましい。R
3およびR
4の炭化水素基としては、それぞれ直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、または直鎖もしくは分岐鎖のアルケニル基が挙げられる。
R
3としては水素原子が好ましく、R
4としては炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基が好ましい。
【0032】
sは0以上の数であり、0〜20が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜6がさらに好ましい。
mは0〜800であり、1〜500が好ましく、2〜300がより好ましく、3〜150がさらに好ましく、5〜100が特に好ましい。
nは1〜700であり、1〜500が好ましく、2〜300がより好ましく、3〜100がさらに好ましく、5〜100が特に好ましい。
m+n=5〜1000が好ましく、10〜500がより好ましく、30〜300がさらに好ましく、50〜150が特に好ましい。
m:n=0:100〜99:1が好ましく、10:90〜90:10がより好ましく、20:80〜80:20がさらに好ましく、30:70〜70:30が特に好ましく、40:60〜60:40が最も好ましい。特に、m:n=30:70〜70:30の範囲内であれば、生体内での骨髄止血剤の分解性がより向上する。化合物(1)中のmとnの比率は、NMRにより測定できる。
【0033】
AとBが混在する場合、これらは交互に混在していてもよいし、ランダム状に混在してもよいし、ブロック状に混在してもよい。また、グラフト状に混在していてもよい。すなわち、式(1)中の[(A)
m/(B)
n]はAとBが交互、ランダム状、ブロック状およびグラフト状のいずれかに混在することを意味している。
例えば、AとBがランダム状に混在していれば、化合物(1)の融点が低くなる傾向にあり、ワックスのような手触りの骨髄止血剤が得られる。AとBがブロック状に混在していれば、化合物(1)の融点が高くなる傾向にあり、プラスチックのような手触りの骨髄止血剤が得られる。取り扱い性を考慮すると、AとBはランダム状に混在していることが好ましい。
AとBの混在状態は重合方法により容易に制御でき、AとBの混在比率はm+nの範囲を調製することで容易に制御できる。
【0034】
化合物(1)は、1つ以上のヒドロキシ基を有するアルコールの前記ヒドロキシ基の少なくとも一部が下記一般式(2)で表される置換基で置換された化合物(以下、「化合物(2)」ともいう。)であることが好ましい。
【0036】
式(2)中、Aは一般式(a)で表される基であり、Bは一般式(b)で表される基であり、mは0〜800であり、nは1〜700である。
式(2)中のA、B、mおよびnは、それぞれ一般式(1)中のA、B、mおよびnと同様であり、好ましい態様も同じである。
【0037】
1つ以上のヒドロキシ基を有するアルコールとしては、1価アルコール、2価アルコール、3価アルコール、4価アルコール、5価以上の多価アルコールが挙げられる。
1価のアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、1−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の炭素数1〜20の脂肪族アルコール;フェノール、クレゾール、ベンジルアルコール、ナフタノール、アントロール等の炭素数6〜30の芳香族アルコールなどが挙げられる。
2価のアルコールとしては、例えばエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、アゾベンゼンジオール(4,4’−ジヒドロキシアゾベンゼン、2,2’−ジヒドロキシアゾベンゼン等)、メソゲンジオールなどが挙げられる。
3価アルコールとしては、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、2−メチル−1,2,3−プロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、1,2,4−ベンゼントリオール、カルシトリオール(1,25−ジヒドロキシコレカルシフェロール)、トリエタノールアミン、ブチルトリヒドロキシシランなどが挙げられる。
4価アルコールとしては、例えばペンタエリスリトール、1,4−ソルビタンなどが挙げられる。
5価以上の多価アルコールとしては、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、キトサン、シクロデキストリン、キチン、セルロース、ヒアルロン酸、アミドエタノール表面基を有するデンドリマー(もしくはデンドロン)、ポリビニルアルコール等のヒドロキシル基含有ポリマーなどが挙げられる。
【0038】
これらアルコールは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、分岐鎖状のアルコールが好ましい。分岐鎖状のアルコールは、同じ分子量の直鎖状のアルコールに比べて化合物(2)の粘性が低くなる傾向にある。よって、骨髄止血剤を指等で混練して使用する際によりベタつきにくくなり、取り扱い性により優れる。
本発明において「分岐鎖状のアルコール」とは、主鎖から分岐した側鎖を1つ以上有するアルコールを意味し、該側鎖の1つ以上にもヒドロキシ基を有しているアルコールが好ましい。
【0039】
化合物(2)の具体例としては、例えば下記一般式(3)で表される化合物(以下、「化合物(3)」ともいう。)が挙げられる。
【0041】
式(3)中、R
1は炭化水素基であり、R
5は水素原子または炭化水素基であり、Aは一般式(a)で表される基であり、Bは一般式(b)で表される基であり、sは0以上の数であり、tは1〜4であり、mは0〜800であり、nは1〜700である。
式(3)中のR
1、A、B、s、mおよびnは、それぞれ一般式(1)中のR
1、A、B、s、mおよびnと同様であり、好ましい態様も同じである。
【0042】
式(3)中、R
5は炭化水素基である。R
5の炭素数は1〜10が好ましく、1〜6がより好ましい。R
5の炭化水素基としては、直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、または直鎖もしくは分岐鎖のアルケニル基が挙げられる。
R
5としては炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基が好ましい。
式(3)中、tは1〜4であり、2〜4が好ましく、3〜4がより好ましい。tは前記アルコールの価数に相当する。
【0043】
化合物(1)は、例えば以下のようにして製造される。
まず、アルコール開始剤および触媒の存在下、一般式(1)中のBの由来となる化合物(以下、「化合物(B)」ともいう。)を重合する。一般式(1)中のmが1以上の場合は、一般式(1)中のAの由来となる化合物(以下、「化合物(A)」ともいう。)と化合物(B)とを共重合する。
次いで、得られたポリマー(化合物(1))を含む反応溶液を良溶媒で希釈し、希釈液を貧溶媒に滴下してポリマーを再沈殿させて化合物(1)を回収する。
【0044】
アルコール開始剤としては、先に例示した1つ以上のヒドロキシ基を有するアルコールが挙げられる。
化合物(A)としては、例えばε−カプロラクトン、α−アセトラクトン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトンなどが挙げられる。
化合物(B)としては、例えばD−ラクチド、L−ラクチド、DL−ラクチドなどが挙げられる。
触媒としては、例えばオクチル酸スズ、スズアルコキシド等のスズ系触媒;アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムアルコキシド等のアルミニウム系触媒;マグネシウムアルコキシド等のマグネシウム系触媒;テトラブトキシチタン等のチタン系触媒などが挙げられる。
良溶媒としては、得られるポリマーに応じて決定すればよいが、例えばテトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチルなどが挙げられる。
貧溶媒としては、得られるポリマーに応じて決定すればよいが、例えばヘキサン、ジエチルエーテル、メタノールなどが挙げられる。
これらアルコール開始剤、化合物(A)、化合物(B)、触媒、良溶媒および貧溶媒は、それぞれ1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
化合物(A)と化合物(B)の割合(A:B)は、A:B=0:100〜99:1が好ましく、10:90〜90:10がより好ましく、20:80〜80:20がさらに好ましく、30:70〜70:30が特に好ましく、40:60〜60:40が最も好ましい。
重合温度は、50〜200℃が好ましく、100〜150℃がより好ましい。
重合時間は、1〜48時間が好ましく、10〜24時間がより好ましい。
重合の際には、化合物(A)が液体の場合、化合物(B)とアルコール開始剤が化合物(A)に溶解していることが好ましい。化合物(A)が液体でない場合や、化合物(B)およびアルコール開始剤が化合物(A)に溶解しにくい場合は、化合物(A)、化合物(B)およびアルコール開始剤が可溶な有機溶媒を併用してもよい。
【0046】
このようにして得られる化合物(1)は、1つ以上のヒドロキシ基を有するアルコールの前記ヒドロキシ基の少なくとも一部が一般式(2)で表される置換基で置換されたポリマー、すなわち化合物(2)に相当する。例えば、1つ以上のヒドロキシ基を有するアルコールとして1〜4価のアルコールを用いれば、化合物(3)が得られる。
【0047】
<粉体>
骨髄止血剤が、化合物(1)に加えて粉体(但し、化合物(1)を除く)を含んでいれば、骨髄止血剤の粘性が低くなる傾向にある。よって、骨髄止血剤を指等で混練して使用する際によりベタつきにくくなり、取り扱い性により優れる。加えて、骨髄止血剤を用いて止血した箇所において骨がより再生しやすくなる。
粉体は、無機粉体でもよいし、有機粉体でもよい。
【0048】
粉体の体積平均粒子径は10nm〜500μmが好ましく、100nm〜400μmがより好ましく、1〜300μmがさらに好ましく、20〜200μmが特に好ましく、40〜150μmが最も好ましい。粉体の体積平均粒子径が前記範囲内であれば、混合物(1)との混和性に優れる。
粉体の体積平均粒子径は、動的光散乱法より測定される。例えば粉体を分散媒に分散させ、粒子径分布測定装置を用いて体積基準の粒子径分布を測定し、得られた粒子径分布より体積平均粒子径を算出する。
【0049】
無機粉体としては、例えばハイドロキシアパタイト、β−リン酸三カルシウム、リン酸オクタカルシウムなどが挙げられる。
有機粉体としては、例えばポリ乳酸粒子、グリコール酸粒子、乳酸・グリコール酸共重合体の粒子などが挙げられる。
これら無機粉体および有機粉体は、それぞれ1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、無機粉体と有機粉体を併用してもよい。
これら粉体の中でも、ワックス状の手触りがより得られやすく、しかも骨の再生(形成)にも優位である観点から、ハイドロキシアパタイトが好ましい。
【0050】
粉体の含有量は、化合物(1)100質量部に対して、10〜250質量部が好ましく、30〜200質量部がより好ましく、50〜150質量部がさらに好ましい。粉体の含有量が前記下限値以上であれば、骨髄止血剤の取り扱い性がより向上する。しかし、粉体の含有量が前記上限値を超えると、取り扱い性の向上効果は頭打ちになる。
【0051】
<骨化促進剤>
骨髄止血剤が、化合物(1)に加えて骨化促進剤を含んでいれば、骨髄止血剤を用いて止血した箇所において骨がより再生しやすくなる。
骨化促進剤としてはペプチドが挙げられ、具体的には、8動物種、19種のBMPサブタイプの高相同性・高保存領域由来のアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられる。このようなペプチドとしては、骨芽細胞および間葉系幹細胞に対して高増殖能力を有し、かつ、線維芽細胞に対して低増殖能力を有するペプチド(RGD配列比較);骨芽細胞および間葉系幹細胞に対して高骨分化(高ALP活性)能力を有するペプチド(RGD配列比較)などが挙げられる。これらの中でも、骨の再生促進に必要な細胞(骨芽細胞、間葉系幹細胞)に対しては選択的に増殖・骨分化能を与え、再生促進を妨げる細胞(線維芽細胞)に対しては増殖を阻害する、細胞選択的な骨化促進ペプチドが好ましく、配列番号1〜3のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドが特に好ましい。
【0052】
骨化促進剤の含有量は、化合物(1)100質量部に対して、0.05〜1質量部が好ましく、0.1〜0.5質量部がより好ましく、0.1〜0.2質量部がさらに好ましい。骨化促進剤の含有量が上記範囲内であれば、骨の再生効果がより向上する。
【0053】
<任意成分>
骨髄止血剤は、本発明の効果を妨げない範囲内であれば、必要に応じて上述した化合物(1)、粉体および骨化促進剤以外の成分(任意成分)を含んでもよい。
任意成分としては、例えばアルギン酸等の人工骨助剤などが挙げられる。
【0054】
<製造方法>
化合物(1)は、そのまま骨髄止血剤として使用することもできるが、骨髄止血剤が化合物(1)に加えて、粉体、骨化促進剤および任意成分の少なくとも1つを含む場合は、これらを化合物(1)に添加し、混練することで骨髄止血剤を製造する。
【0055】
<作用効果>
以上説明した本発明の骨髄止血剤は、上述した特定の構造を有する化合物(1)を含む。該化合物(1)は、骨蝋(ボーンワックス)と同様に止血効果を有するので、止血処置の際に好適に使用できる。具体的には、外科的処置等により骨を切断したり破砕したりするなどして出血した箇所に、本発明の骨髄止血剤を塗り込むことで、止血することができる。
加えて、化合物(1)は適度な粘性を有するので、本発明の骨髄止血剤を指等で混練して使用する際にベタつきにくくなり、取り扱い性に優れる。しかも、化合物(1)は生体内での分解性に優れる。よって、本発明の骨髄止血剤を用いて止血した箇所において骨が再生しやすい。
【0056】
特に、本発明の骨髄止血剤がハイドロキシアパタイト等の粉体をさらに含んでいれば、取り扱い性がより良好となると共に、本発明の骨髄止血剤を用いて止血した箇所において骨がより再生しやすくなる。また、本発明の骨髄止血剤がペプチド等の骨化促進剤をさらに含んでいれば、本発明の骨髄止血剤を用いて止血した箇所において骨がより再生しやすくなる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
「試験1」
<例1−1:化合物(3−1)の製造>
一般式(3)中、R
1=メチレン基、R
2=ペンチレン基、R
3=水素原子、R
4=メチル基、s=1、m=80、n=20、t=4である化合物(3−1)を以下のようにして製造した。
ε−カプロラクトンにペンタエリスリトールおよびDL−ラクチドを溶解させた後、オクチル酸スズを触媒量添加し、140℃で24時間反応させ(開環重合)、ポリマーを得た。得られたポリマーを含む反応溶液をTHFで希釈し、得られた希釈液をヘキサンおよびジエチルエーテルの混合溶液(ヘキサン:ジエチルエーテル=50:50(質量比))に滴下してポリマーを再沈殿させて、化合物(3−1)を得た。
なお、ε−カプロラクトンとDL−ラクチドの比率(m:n)が80:20(m+n=100)となるように、ε−カプロラクトンおよびDL−ラクチドの使用量を調整した。また、ペンタエリスリトール1モルに対して、ε−カプロラクトンおよびDL−ラクチドを合計で400モル使用した。
【0059】
得られた化合物(3−1)を用い、以下のようにして生体内での分解試験を行った。
化合物(3−1)を指で混練して直径約1cm、厚さ約1mmの円形板状に成形し、丸型サンプルとした。該丸型サンプルをラットの皮下に埋入して、所定期間経過後に取り出し、その形状の比較を行った。
分解試験前の化合物(3−1)と、分解試験開始から1、3、6ヶ月経過後の化合物(3−1)の状態を
図1に示す。
【0060】
<例1−2:化合物(3−2)の製造>
ε−カプロラクトンとDL−ラクチドの比率(m:n)が70:30(m+n=100)となるように、ε−カプロラクトンおよびDL−ラクチドの使用量を変更した以外は化合物(3−1)と同様にして、一般式(3)中、R
1=メチレン基、R
2=ペンチレン基、R
3=水素原子、R
4=メチル基、s=1、m=70、n=30、t=4である化合物(3−2)を製造し、生体内での分解試験を行った。結果を
図1に示す。
【0061】
<例1−3:化合物(3−3)の製造>
ε−カプロラクトンとDL−ラクチドの比率(m:n)が60:40(m+n=100)となるように、ε−カプロラクトンおよびDL−ラクチドの使用量を変更した以外は化合物(3−1)と同様にして、一般式(3)中、R
1=メチレン基、R
2=ペンチレン基、R
3=水素原子、R
4=メチル基、s=1、m=60、n=40、t=4である化合物(3−3)を製造し、生体内での分解試験を行った。結果を
図1に示す。
【0062】
<例1−4:化合物(3−4)の製造>
ε−カプロラクトンを用いず、140℃で溶融させたDL−ラクチドに、ペンタエリスリトールを添加した以外は化合物(3−1)と同様にして、一般式(3)中、R
1=メチレン基、R
3=水素原子、R
4=メチル基、s=1、m=0、n=100、t=4である化合物(3−4)を製造し、生体内での分解試験を行った。結果を
図1に示す。
【0063】
<例1−5:化合物(3−5)の製造>
DL−ラクチドを用いなかった以外は化合物(3−1)と同様にして、一般式(3)中、R
1=メチレン基、R
2=ペンチレン基、s=1、m=100、n=0、t=4である化合物(3−5)を製造し、生体内での分解試験を行った。結果を
図1に示す。
【0064】
図1中、上から1段目は例1−5であり、2段目は例1−1であり、3段目は例1−2であり、4段目は例1−3であり、5段目は例1−4である。
図1の結果から明らかなように、化合物(3−1)〜(3−4)は、時間の経過とともに生体内で分解した。
対して、一般式(3)中、n=0である化合物(3−5)は、6ヶ月経過しても殆ど分解しなかった。
【0065】
「試験2」
<例2−1>
市販の骨蝋(LUKENS社製、商品名「BONE WAX」)について、レオメーター(Anton Paar社製、製品名「MCR301」)を用い、以下の測定条件にて貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G’’)を求めた。結果を
図2(a)に示す。
・試料寸法:幅30mm×長さ30mm×厚さ1mm。
・測定プレート:直径10mmのパラレルプレート。
・測定ギャップ(プレート間の距離):試料の厚み。
・周波数:0.01〜100Hz。
・負荷歪み:0.1%。
・測定温度:37℃
【0066】
<例2−2>
例1−3と同様にして化合物(3−3)を製造し、得られた化合物(3−3)とハイドロキシアパタイトとを質量比50:50で混合し、混合物(X)を得た。
得られた混合物(X)について、例2−1と同様にして貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G’’)を求めた。結果を
図2(b)に示す。
【0067】
図2の結果から明らかなように、化合物(3−3)は、市販の骨蝋と同様の貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G’’)の挙動を示した。よって、化合物(3−3)は、市販の骨蝋と同程度の取り扱い性を有することが示された。
【0068】
「試験3」
<例3−1>
ウサギの大腿骨に直径2mm、深さ8mmの穴をあけた。穴から漏れた骨髄液の量(漏れ量)を測定した。結果を
図3に示す。
【0069】
<例3−2>
例3−1と同様にしてウサギの大腿骨に穴をあけた。この穴に市販の骨蝋(LUKENS社製、商品名「BONE WAX」)を塗り込んだ後、穴から漏れた骨髄液の量を測定した。結果を
図3に示す。
【0070】
<例3−3>
例2−2と同様にして混合物(X)を得た。
例3−1と同様にしてウサギの大腿骨に穴をあけた。この穴に混合物(X)を塗り込んだ後、穴から漏れた骨髄液の量を測定した。結果を
図3に示す。
【0071】
<例3−4>
例2−2と同様にして混合物(X)を得た。得られた混合物(X)100質量部に対して、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド0.2質量部添加し、混合物(Y)を得た。
例3−1と同様にしてウサギの大腿骨に穴をあけた。この穴に混合物(Y)を塗り込んだ後、穴から漏れた骨髄液の量を測定した。結果を
図3に示す。
【0072】
図3の結果から明らかなように、例3−1では止血しなかったので、骨髄液の漏れ量は約0.6gであった。
対して、例3−2〜3−4では、骨髄液が殆ど漏れず、充分に止血できた。よって化合物(3−3)は、市販の骨蝋と同程度の止血の効果を有することが示された。
【0073】
「試験4」
<例4−1>
ウサギの大腿骨に直径2mm、深さ8mmの穴をあけた。止血することなく、2週間放置した。その後、卓上形精密万能試験機(株式会社島津製作所製、製品名「オートグラフ AGS−J 500N」)を用い、支点間距離8mm、折り曲げ速度10mm/分の条件で3点折り試験を行い、大腿骨の破断が起きるときの応力(最大破断荷重)を測定し、これを大腿骨の機械的強度とした。結果を
図4に示す。なお、穴をあけた部分を基点として破断するように大腿骨を試験機に設置した。機械的強度が高いほど、骨が再生したことを意味する。
また、2週間放置した後の大腿骨をコンピューター断層撮影(CT)した。結果を
図5に示す。また、得られた画像から仮骨の形成領域(Callus area)を求めた。結果を
図6に示す。仮骨の形成領域が大きいほど、治癒を促進させて骨が再生したことを意味する。
【0074】
<例4−2>
例4−1と同様にしてウサギの大腿骨に穴をあけた。この穴に市販の骨蝋(LUKENS社製、商品名「BONE WAX」)を塗り込んだ以外は、例4−1と同様にして2週間放置し、大腿骨の機械的強度を測定した。結果を
図4に示す。また、2週間放置した後の大腿骨をコンピューター断層撮影し、画像から仮骨の形成領域を求めた。結果を
図5、6に示す。さらに、16週間放置した後の大腿骨をコンピューター断層撮影した。結果を
図5に示す。
【0075】
<例4−3>
例2−2と同様にして混合物(X)を得た。
例4−1と同様にしてウサギの大腿骨に穴をあけた。この穴に混合物(X)を塗り込んだ以外は、例4−1と同様にして2週間放置し、大腿骨の機械的強度を測定した。結果を
図4に示す。また、2週間放置した後の大腿骨をコンピューター断層撮影し、画像から仮骨の形成領域を求めた。結果を
図5、6に示す。
【0076】
<例4−4>
例3−4と同様にして混合物(Y)を得た。
例4−1と同様にしてウサギの大腿骨に穴をあけた。この穴に混合物(Y)を塗り込んだ以外は、例4−1と同様にして2週間放置し、大腿骨の機械的強度を測定した。結果を
図4に示す。また、2週間放置した後の大腿骨をコンピューター断層撮影し、画像から仮骨の形成領域を求めた。結果を
図5、6に示す。さらに、16週間放置した後の大腿骨をコンピューター断層撮影した。結果を
図5に示す。
【0077】
図4〜6の結果から明らかなように、例4−3、4−4の場合、2週間経過後の大腿骨の機械的強度は、骨蝋などの止血剤を用いなかった例4−1と同程度であり、仮骨が形成した領域も例4−1と同程度であった。よって化合物(3−3)は、骨蝋などの止血剤を用いない場合と同程度に骨が再生しやすいことが示された。特に、ペプチドを配合した例4−4では、骨がより再生しやすく、16週間経過すると正常な形状と構造を有した骨の再生が認められた。
対して、市販の骨蝋を用いた例4−2の場合、例4−1、4−3、4−4に比べて2週間経過後の大腿骨の機械的強度が低く、仮骨が形成した領域も狭かった。また、16週間経過しても正常な形状と構造を有した骨の再生は認められなかった。例4−2の場合、止血箇所において骨が再生しにくかった。
【0078】
「試験5」
<例5−1>
ウサギの胸骨を縦に切断し、開胸した。次いで、切断した胸骨をシルク縫合糸で閉鎖し、筋組織、皮下組織および真皮を吸収糸で縫合し、閉胸した。閉胸後、2週間経過した後の胸骨をコンピューター断層撮影(CT)した。結果を
図7に示す。また、得られた画像から間隙領域(Crevice area)求めた。結果を
図8に示す。間隙領域が小さいほど、骨が再生したことを意味する。
【0079】
<例5−2>
例5−1と同様にしてウサギの胸骨を縦に切断し、開胸した。胸骨の切断表面に市販の骨蝋(LUKENS社製、商品名「BONE WAX」)を塗り込んだ以外は、例5−1と同様にして閉胸し、2週間放置した後の胸骨をコンピューター断層撮影し、画像から間隙領域を求めた。結果を
図7、8に示す。
【0080】
<例5−3>
例2−2と同様にして混合物(X)を得た。
例5−1と同様にしてウサギの胸骨を縦に切断し、開胸した。胸骨の切断表面に混合物(X)を塗り込んだ以外は、例5−1と同様にして閉胸し、2週間放置した後の胸骨をコンピューター断層撮影し、画像から間隙領域を求めた。結果を
図7、8に示す。
【0081】
<例5−4>
例3−4と同様にして混合物(Y)を得た。
例5−1と同様にしてウサギの胸骨を縦に切断し、開胸した。胸骨の切断表面に混合物(Y)を塗り込んだ以外は、例5−1と同様にして閉胸し、2週間放置した後の胸骨をコンピューター断層撮影し、画像から間隙領域を求めた。結果を
図7、8に示す。
【0082】
図7、8の結果から明らかなように、例5−3、5−4の場合、2週間経過後の胸骨の間隙領域は、骨蝋などの止血剤を用いなかった例5−1と同程度であった。よって化合物(3−3)は、骨蝋などの止血剤を用いない場合と同程度に骨が再生しやすいことが示された。
対して、市販の骨蝋を用いた例5−2の場合、例5−1、5−3、5−4に比べて胸骨の間隙領域が大きかった。例5−2の場合、止血箇所において骨が再生しにくかった。