特開2018-168289(P2018-168289A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三洋化成工業株式会社の特許一覧

特開2018-168289カルボキシメチルエチルセルロース又はその塩の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-168289(P2018-168289A)
(43)【公開日】2018年11月1日
(54)【発明の名称】カルボキシメチルエチルセルロース又はその塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 11/12 20060101AFI20181005BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20181005BHJP
   A61K 8/73 20060101ALN20181005BHJP
【FI】
   C08B11/12
   A61K47/38
   A61K8/73
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-66902(P2017-66902)
(22)【出願日】2017年3月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀江 誠司
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C090
【Fターム(参考)】
4C076EE32A
4C076EE32P
4C076FF17
4C083AD271
4C083CC01
4C083EE03
4C083FF01
4C090AA03
4C090BA29
4C090BD15
4C090CA45
4C090DA22
4C090DA26
4C090DA27
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、カルボキシメチルエチルセルロースの粘度低下を抑制しつつ、白色度が高いカルボキシメチルエチルセルロース又はその塩を得る製造方法を提供することにある。
【解決手段】漂白されたカルボキシメチルエチルセルロース又はその塩の製造方法であって、カルボキシメチルエチルセルロース(A)の塩と有機溶剤(B)と水とを含有するpHが9.00〜9.10である混合液(C)と、過酸化水素とを混合する工程を有する製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
漂白されたカルボキシメチルエチルセルロース又はその塩の製造方法であって、カルボキシメチルエチルセルロース(A)の塩と有機溶剤(B)と水とを含有するpHが9.00〜9.10である混合液(C)と、過酸化水素とを混合する工程を有する製造方法。
【請求項2】
前記混合液(C)と過酸化水素との混合時間が、300〜1500分である請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルボキシメチルエチルセルロース又はその塩の製造方法に関する。更に詳しくは、漂白されたカルボキシメチルエチルセルロース又はその塩の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カルボキシメチルエチルセルロース(以下、CMECと略記することがある)は、医薬品の分野において、腸溶性のフィルムコーティング基剤として、用いられている。
かかる用途において、CMECは、白色度が高いものが、医薬品添加物規格の観点から好まれる。
【0003】
しかし、従来CMECは、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと略記することがある)が水酸基をエチルエーテル化して製造するが、製造されたCMECは、ある程度の着色が生じる。これは、エチルエーテル化反応の際に用いる触媒(トリエチルアミン等)が原因物質と考えられる。よって、白色度が高いCMECを製造するためには、漂白剤による漂白工程を実施する必要がある。
前記の漂白剤としては、取扱いが容易である過酸化水素を用いることができるが、過酸化水素によるセルロースの解重合も併発してしまうため(例えば、特許文献1参照)、漂白工程によりCMECの粘度が変化してしまい、医薬品添加物規格等の特定の規格に適合させることが困難になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−119303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、カルボキシメチルエチルセルロースの粘度低下を抑制しつつ、白色度が高いカルボキシメチルエチルセルロース又はその塩を得る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
即ち本発明は、漂白されたカルボキシメチルエチルセルロース又はその塩の製造方法であって、カルボキシメチルエチルセルロース(A)の塩と有機溶剤(B)と水とを含有するpHが9.00〜9.10である混合液(C)と、過酸化水素とを混合する工程を有する製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法は、着色したカルボキシメチルエチルセルロースを用いて、粘度低下を抑制しつつ、白色度の高いカルボキシメチルエチルセルロースを製造できるという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の製造方法は、漂白されたカルボキシメチルエチルセルロース又はその塩の製造方法であって、カルボキシメチルエチルセルロース(A)の塩と有機溶剤(B)と水とを含有するpHが9.00〜9.10である混合液(C)と、過酸化水素とを混合する工程(以下、混合工程と略記する)を有する。
なお、本発明における漂白されたカルボキシメチルエチルセルロースとは、ハーゼン単位色数が300以下であるカルボキシメチルエチルセルロースであることが好ましく、250以下であることが更に好ましく、200以下であることが特に好ましい。
本発明において、ハーゼン単位色数は、乾燥させたカルボキシメチルエチルセルロース又はその塩10部と、メタノール及びジクロロメタンの混合溶液[重量比1:1]90部とを混合した溶液を試料として、JIS K4101に準拠して測定することができる。
【0009】
カルボキシメチルエチルセルロース(A)の塩は、一般式(1)で表されるセルロースであることが好ましい。
【0010】
【化1】
【0011】
一般式(1)において、Aは、Cで表される無水グルコース単位骨格である。
一般式(1)において、Mは、アルカリ金属塩であり、好ましいものとしてはナトリウムが挙げられる。
【0012】
一般式(1)において、a及びbは正数であり、かつ0<a+b≦3の関係を満たす。
m個あるaの平均値は、製造の結果得られるCMECの白色度及び粘度の観点から、2.0〜2.4であることが好ましい。
m個あるbの平均値は、製造の結果得られるCMECの白色度及び粘度の観点から、0.45〜0.55であることが好ましい。
一般式(1)において、mは、150≦m≦350を満たす正数であることが好ましい。
【0013】
カルボキシメチルエチルセルロース(A)の塩は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0014】
本発明におけるCMEC(A)の塩は、カルボキシメチルセルロース(以下CMCと略記する)の塩を、エチルクロライドでエチルエーテル化する方法等で製造することができる。
CMCの塩は、セロゲンPL−15[CMCのナトリウム塩、第一工業製薬(株)製]等として市場から入手することができる。
上記のエチルエーテル化反応は、公知の方法(特開平05−017501号公報及び特開平06−009701号公報等に記載の方法)を用いることができる。
【0015】
CMECの塩の製造に用いるCMCの塩は、取り扱いやすさの観点から、苛性アルカリ(水酸化ナトリウム等)により、解重合により低分子化させたものを用いることが好ましい。
上記の解重合反応は、例えば、CMCの塩の水溶液に水酸化ナトリウムを添加し、100〜120℃で加熱することで実施することができる。
【0016】
本発明において、有機溶剤(B)としては、アルコール系溶剤(イソプロピルアルコール、2−ブタノール、3−ブタノール、tert−ブチルアルコール及びジエチレングリコールモノメチルエーテル等)、エーテル系溶剤(エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジオキサン及びテトラヒドロフラン等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ−n−ブチルケトン及びシクロヘキサノン等)、芳香族炭化水素系溶剤(トルエン、キシレン、エチルベンゼン及びテトラリン等)、脂肪族炭化水素系溶剤(n−ペンタン、n−ヘキサン、n−へプタン及びシクロヘキサン等)、ハロゲン系溶剤(塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、メチレンジクロライド、四塩化炭素、トリクロロエチレン及びパークロロエチレン等)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート及びエチルセロソルブアセテート等)、アミド系溶剤(ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミド等)、スルホキシド系溶剤(ジメチルスルホキシド等)及び複素環式化合物系溶剤(N−メチルピロリドン等)等が挙げられる。
有機溶剤(B)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
これらの有機溶剤の内、製造の結果得られるCMECの白色度及び粘度の観点から好ましいのは、アルコール系溶剤であり、更に好ましいのはtert−ブチルアルコールである。
【0017】
混合液(C)が含有するCMEC(A)の塩の重量割合は、製造の結果得られるCMECの白色度及び粘度の観点から、前記の混合液(C)の重量を基準として、1〜30重量%であることが好ましく、更に好ましくは2〜20重量%であり、特に好ましくは5〜15重量%である。
混合液(C)が含有する前記の有機溶剤(B)の重量割合は、製造の結果得られるCMECの白色度及び粘度の観点から、前記の混合液(C)の重量を基準として、1〜50重量%であることが好ましく、更に好ましくは5〜30重量%であり、特に好ましいのは10〜20重量%である。
【0018】
本発明において、前記の混合工程に用いる混合液(C)のpHは、上述の通り、9.00〜9.10である。pH9.00未満であれば、製造の結果得られるCMECのハーゼン単位色数が十分でなく、pH9.10を超えると、製造の結果得られるCMECのハーゼン単位色数が十分でない上に、粘度が大幅に低下してしまう。
また、製造の結果得られるCMECの白色度及び粘度の観点から、前記の混合液(C)のpHは、9.02〜9.08であることが好ましい。
混合液(C)のpHは、公知の酸(酢酸及び硫酸等)及び/又は塩基(水酸化ナトリウム等)を用いることで調整することができる。
【0019】
前記の混合工程において、過酸化水素は過酸化水素水として投入することが好ましい。
【0020】
前記の混合工程における、過酸化水素水の濃度は、製造の結果得られるCMECの白色度及び粘度の観点から、1〜40重量%であることが好ましく、更に好ましくは30〜38重量%である。
【0021】
前記の混合工程で用いる過酸化水素の投入重量は、製造の結果得られるCMECの白色度及び粘度の観点から、CMEC(A)の塩の重量を基準として、5〜20重量%であることが好ましい。
【0022】
前記の混合工程において、前記の混合液(C)と過酸化水素との混合時間は、製造の結果得られるCMECの白色度及び粘度の観点から、300〜1500分であることが好ましく、更に好ましくは、360〜1300分である。
なお、本願において、前記の混合時間は、混合液(C)に過酸化水素を投入した時を、開始時間とする。
また、前記の混合工程は、混合液(C)を撹拌しながら、過酸化水素を投入することが好ましく、過酸化水素の投入開始から投入終了までの時間が、前記の好ましい混合時間の範囲内であることが更に好ましい。
また、前記の混合工程は、後述の過酸化水素分解工程を開始することで、終了[混合液(C)と過酸化水素との混合の終了]することが好ましい。
【0023】
前記の混合工程において、前記の混合液(C)と過酸化水素の混合物の温度は、40〜80℃であることが好ましく、55〜65℃であることが更に好ましく、57〜62℃であることが特に好ましい。
温度が40℃以上であると過酸化水素の酸化効果が高まる観点から好ましく、温度が80℃以下であると、過酸化水素の自己分解を抑制できる観点から好ましい。
【0024】
前記の混合工程を実施することで、漂白されたCMECの塩を含有する混合液を製造することができる。
本発明の製造方法において、漂白されたCMECを製造する場合は、CMECの塩を酸型であるCMEC(以下単にCMECと表記することがある)にする酸性化工程を実施する必要がある。
【0025】
酸性化工程は、前記の混合工程で得た、CMECの塩を含有する混合液を、公知の酸(硫酸及びリン酸等)で酸性(pHが2.5〜3.0であることが好ましい)にする工程である。酸性化工程を実施することで、漂白されたCMECを含有する混合液を製造することができる。
【0026】
本発明の製造方法は、前記の混合工程及び酸性化工程以外に、過酸化水素分解工程、水洗工程、脱溶剤工程を有していてもよい。
【0027】
前記の過酸化水素分解工程は、前記の混合工程で得た混合物に、亜硫酸ナトリウム等を投入し、前記混合工程で用いた過酸化水素を分解する工程である。
亜硫酸ナトリウムの投入重量の割合は、製造の結果得られるCMECの白色度及び粘度の観点から、投入した過酸化水素の重量を基準として、10〜50重量%であることが好ましい。
前記の過酸化水素分解工程は、混合工程実施直後、他の工程実施前に、実施することが好ましい。
【0028】
前記の水洗工程は、CMEC及び/又はその塩の混合液から、塩類等の不純物を除去する工程である。
水洗工程は、例えば、前記の混合工程で得た、漂白されたCMECの塩を含有する混合液のpHを2.5〜3.0とすることで、CMECの塩を、酸型のCMECとし、更に、目的物である酸型のCMECを含有する有機溶剤相と、不純物である塩類等を含有する水相に分離させ、その後、水相を除去することで実施できる。
pHは、公知の酸(酢酸及び硫酸等)及び/又は塩基(水酸化ナトリウム等)を用いることで調整することができる。
また、必要に応じて、再度水を投入し、撹拌した後に、再度水相を除去する操作を繰り返してもよい。
上記の水洗工程後に得られるのは、酸型のCMECを含有する有機溶剤相であり、水洗工程後の酸型のCMECを含有する有機溶剤相に、公知の塩基(水酸化ナトリウム等)及び水を投入し、CMECの塩に戻すことができる。
【0029】
上記の方法による水洗工程は、混合工程実施後、酸性化工程実施前に、実施することができる。
酸性化工程後に水洗工程を実施する場合には、前記の酸性化工程で酸型のCMECを含有する混合液とした後に、水を投入、撹拌し、水相を除去することで実施できる。
【0030】
前記の脱溶剤工程は、前記の混合工程で得た混合物から溶剤を除去する工程である。
溶剤を除去する手段としては、減圧乾燥等公知の手段が挙げられる。
脱溶剤工程において、溶剤を完全に除去した場合は、漂白されたCMEC又はその塩の粉末を得ることができる。
脱溶剤工程において、全ての溶剤を完全に除去する場合は、他の工程をあらかじめ実施した後に、最後に実施することが好ましい。
【0031】
本発明の製造方法により製造したCMEC又はその塩は、白色度が高いため、ゼリー食品、化粧品、医薬品、飼料等の添加剤として使用される。また、本発明の製造方法は、CMECの粘度低下を抑制できるため、特に医薬品に用いる腸溶性のフィルムコーティング基剤等の医薬品添加物規格の観点から特定の白色度及び粘度が求められる用途において、特に有用である。
【実施例】
【0032】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
尚、以下において部は重量部を表す。
【0033】
<製造例1:未漂白のCMECの製造>
反応容器に、CMCのナトリウム塩[セロゲンPL−15、第一工業製薬(株)製]423.5部、tert−ブチルアルコール750.0部、水30.0部、水酸化ナトリウム183.0部及びトリエチルアミン17.0部を投入し、110℃で13時間撹拌して解重合反応を行った。
その後、エチルクロライド295.0部を投入し、110℃で13時間反応させた。
その後、48重量%水酸化ナトリウム水溶液を760.0部投入し、更にエチルクロライド621.0部を投入し、110℃で9時間反応させた。
次に、水2300.0部と62重量%硫酸水溶液20.0部とを投入し、中和することで、CMECのナトリウム塩(A−1)を含有する混合液(C−1)を得た。
(A−1)は、一般式(1)において、Mがナトリウムであり、aの平均値が2.2であり、bの平均値が0.45であるCMECのナトリウム塩であった。
【0034】
<実施例1〜4及び比較例1〜4:CMECの漂白>
製造例1で得た混合液(C−1)に、62重量%硫酸水溶液及び/又は30重量%水酸化ナトリウム水溶液を投入することで(投入する62重量%硫酸水溶液及び30重量%水酸化ナトリウム水溶液の合計重量を500部以下とする)、pHが表1記載の値となるように調整した。なお、前記のpH調整は混合液の温度を60±3℃に保って実施した。
その後、混合液の温度を60±3℃に保ったまま撹拌しつつ、35重量%過酸化水素水120.0部を表1記載の時間をかけて投入した。
その後、水1510.0部と無水亜硫酸ナトリウム14.0部とを投入し、60℃で30分撹拌することで、過酸化水素を分解させた。
次に、水2712.0部と62重量%硫酸水溶液265.3部とを投入することで、CMECのナトリウム塩を酸型のCMECに変換した。
続いて、水1000.0部を投入し、30分撹拌後に、分液した水相を除去する操作を3回繰り返した。
その後、減圧乾燥することで、tert−ブチルアルコールを除去し、CMECの粉末を得た。
【0035】
実施例1〜4で得たCMECの粉末、及び、比較例1〜4で得た比較用のCMECの粉末について、以下の方法で、白色度及び粘度を評価した。結果を表1に示す。
【0036】
<白色度の評価>
CMECの粉末10部と、メタノール及びジクロロメタンの混合溶液[重量比1:1]90部とを混合した溶液を試料として、JIS K4101に準拠して、ハーゼン単位色数を測定した。
ハーゼン単位色数の値が小さい程、白色度が高く、CMECとして品質が高いことを示す。
【0037】
<粘度の評価>
CMECの粉末10部と、メタノール及びジクロロメタンの混合溶液[重量比1:1]90部とを混合した溶液を試料として、ウベローデ型粘度計を用いて、20±0.1℃の条件での粘度を測定した。
【0038】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の製造方法により製造したCMECは、白色度が高いため、ゼリー食品、化粧品、医薬品、飼料等の添加剤として使用される。また、本発明の製造方法は、CMECの粘度低下を抑制できるため、特に医薬品に用いる腸溶性のフィルムコーティング基剤等の医薬品添加物規格の観点から特定の白色度及び粘度が求められる用途において、特に有用である。