【解決手段】超常磁性金属酸化物粒子(A)及び非磁性体(B)を含む複合磁性粒子(C)と、熱可塑性樹脂(E)とを含有するマイクロ波加熱溶着用樹脂組成物を用いる。前記複合磁性粒子(C)は、非磁性体(B)及び超常磁性金属酸化物粒子(A)を含有するコア層(P)と、前記コア層(P)の表面上に形成された非磁性体(B)を含有するシェル層(Q)とから構成されるコア−シェル型の粒子であることが好ましい。
前記複合磁性粒子(C)が、非磁性体(B)及び超常磁性金属酸化物粒子(A)を含有するコア層(P)と、前記コア層(P)の表面上に形成されたシェル層(Q)とから構成されるコア−シェル型の粒子であり、前記シェル層(Q)が非磁性体(B)を含有し、超常磁性金属酸化物粒子(A)を含有しない層である請求項1又は2に記載のマイクロ波加熱溶着用樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のマイクロ波加熱溶着用樹脂組成物は、超常磁性金属酸化物粒子(A)及び非磁性体(B)を含む複合磁性粒子(C)と、熱可塑性樹脂(E)とを含有する。
【0010】
超常磁性金属酸化物粒子(A)としては、酸化鉄、酸化コバルト及び酸化ニッケル等が挙げられる。超常磁性とは、外部磁場の存在下で物質の個々の原子磁気モーメントが整列し誘発された一時的な磁場を示し、磁性粒子と異なり、外部磁場を取り除くと物質からの地場が消失し、部分的な磁気モーメントの整列が損なわれる性質をいう。そのため、磁性粒子を使用した場合と比較して、超常磁性粒子を用いた場合は、粒子の凝集を防ぐことができる。
超常磁性金属酸化物粒子(A)としては、飽和磁化が高く、磁界に対する感応性が優れていることから、酸化鉄を用いることが好ましい。
【0011】
酸化鉄としては、公知の種々の酸化鉄を用いることができる。酸化鉄の内、特に化学的な安定性に優れることから、フェライト[AFe
2O
4(A=Co、Ni、Mg、Cu、Li
0.5Fe
0.5等)]、マグネタイト(Fe
3O
4)、γ−ヘマタイト(γ−Fe
2O
3)、マグネタイト−α−ヘマタイト中間酸化鉄及びγ−ヘマタイト−α−ヘマタイト中間酸化鉄が好ましく、大きな飽和磁化を有し、外部磁場に対する感応性が優れていることから、マグネタイトが更に好ましい。
超常磁性金属酸化物粒子(A)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0012】
本発明における超常磁性金属酸化物粒子(A)の体積平均粒子径は、加熱効率及び接着後の強度の観点から1〜300nmであることが好ましく、更に好ましくは1〜20nmであり、特に好ましくは1〜15nmである。
【0013】
なお、本発明における超常磁性金属酸化物粒子(A)の体積平均粒子径とは、任意の200個の(A)について走査型電子顕微鏡で観察して測定された粒子径の平均値である。
本発明における超常磁性金属酸化物粒子(A)の体積平均粒子径は、後述の(A)作製時の金属イオン濃度を調節することにより制御することができる。また、公知の分級等の方法によっても超常磁性金属酸化物の体積平均粒子径を所望の値にすることができる。
【0014】
超常磁性金属酸化物粒子(A)の製造方法は、特に限定されないが、Massartにより報告されたものをベースとして水溶性鉄塩及びアンモニアを用いる共沈殿法(R.Massart,IEEE Trans.Magn.1981,17,1247)や水溶性鉄塩の水溶液中の酸化反応を用いた方法により合成することができる。
【0015】
非磁性体(B)とは、金属材料の場合には、強磁性体ではない物質、例えば常磁性体、反磁性体、反強磁性体をいい、非金属材料の場合には無機ポリマーなどの無機材料、有機ポリマーなどの有機材料をいう。本願では、超常磁性金属酸化物粒子(A)を熱可塑性樹脂(E)に分散させる際に、超常磁性粒子の表面に非磁性体(B)のコーティング層を形成するなどの表面処理を施しておくことで、超常磁性金属酸化物粒子(A)と熱可塑性樹脂(E)との親和性を高めて安定的な分散を実現することができるという観点から非金属材料を用いることが好ましい。
【0016】
無機材料としては、M−O−M結合を骨格として鎖状、平面状あるいは3次元状に重合したポリマーである。M−O−M結合が無機成分を表すものである。ここでMは、金属アルコキシドを形成することができるものに限定され、金属アルコキシド(b)の加水分解重縮合により、加水分解重縮合物が得られる。本発明の金属アルコキシドとは、化学式M(OR)
n で表されるものである。ここで、Mは金属あるいは半金属であり、例えばホウ素、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、イットリウム、コバルト等である。また、Rは炭素数1〜10の炭化水素基である。nは金属あるいは半金属Mの価数である。これらの金属アルコキシドは、1種または2種以上使用できる。
【0017】
炭素数1〜10の炭化水素基としては、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基(メトキシ基、エトキシ基、n−又はiso−プロピルオキシ基、n−、iso−又はtert−ブチルオキシ基、n−又はiso−ペンチルオキシ基及びビニルオキシ基等)、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基(フェノキシ基等)及び炭素数7〜10の芳香脂肪族基(ベンジルオキシ基等)等が挙げられる。
金属アルコキシドの中でも、加熱効率及び接着後の強度の観点及び超常磁性金属酸化物粒子(A)と非磁性体(B)の相溶性の観点から好ましいのは、シランアルコキシドであり、更に好ましいのはエトキシシランである。
【0018】
金属アルコキシド(b)の加水分解重縮合物は、有機− 無機ポリマーハイブリッド( 又は有機− 無機ポリマーコンポジット若しくはゾル・ゲル法など)と呼称される手法により、溶剤(水、有機溶剤及びこれらの混合物等)中で、加水分解重縮合する等の方法で得ることができる。中でも、超常磁性金属酸化物粒子(A)存在下で、前記の金属アルコキシド(b)を加水分解重縮合することが好ましい。
この場合得られる粒子は、後に詳述する、非磁性体(B)として金属アルコキシド(b)の加水分解重縮合物を含有する(ii)の構造の複合磁性粒子(C)である。
【0019】
有機材料としては、各種有機ポリマーが挙げられる。
【0020】
有機ポリマーとしては、(メタ)アクリレートモノマーの重合物、エポキシモノマーの重合物及びスチレンの重合物等が挙げられる。
なお、本出願において「(メタ)アクリレート」の表記は、アクリレートとメタクリレートを意味する。
【0021】
前記の有機ポリマーを構成する(メタ)アクリレートモノマーとしては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ヒドロキシエチル、モノメタクリル酸グリセロール、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸2−スルホエチル、メタクリル酸アシッドホスホキシエチル、メタクリル酸3−クロロ−2−アシッドホスホキシプロピル、メタクリル酸アシッドホスホキシシプロピル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸アミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、(メタ)アクリル酸グリシジル及び(メタ)アクリル酸メチルグリシジル等が挙げられる。
【0022】
前記の有機ポリマーを構成するエポキシモノマーとしては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、イソプロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(重量平均分子量:150〜1000)、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールプロポキシレートトリグリシジルエーテル、グリシドール、グリシジルメタクリレート及び2,2−ビス(4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル)−プロパン等が挙げられる。
【0023】
前記の非磁性体(B)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
前記の非磁性体(B)の内、加熱効率及び接着後の強度の観点から好ましいのは、金属アルコキシド(b)の加水分解重縮合物であり、更に好ましいのはシランアルコキシドの加水分解重縮合物である。
【0024】
本発明の複合磁性粒子(C)は、超常磁性金属酸化物粒子(A)及び非磁性体(B)の他に、必要により、本発明の効果を阻害しない範囲で添加剤〔分散剤、レベリング剤、可塑剤、帯電防止剤、荷電制御剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、耐熱安定剤、難燃剤及び充填剤等〕を含有していても良い。
上記の添加剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明における複合磁性粒子(C)の構造としては、以下の構造等が挙げられる。
(i)非磁性体(B)を含有するコア及び超常磁性金属酸化物粒子(A)を含有するシェルから構成されるコア−シェル型の粒子である。
(ii)非磁性体(B)マトリックス中に、超常磁性金属酸化物粒子(A)が分散した粒子である。
(iii)非磁性体(B)及び超常磁性金属酸化物粒子(A)を含有するコア層(P)と、前記コア層(P)の表面上に形成されたシェル層(Q)とから構成されるコア−シェル型の粒子であって、前記のシェル層(Q)が非磁性体(B)を含有し、超常磁性金属酸化物粒子(A)を含有しない層である粒子である。
なお、前記コア層(P)は、(i)又は(ii)の構造である粒子を用いることができる。
【0026】
これらの構造の内、加熱効率及び接着後の強度の観点から好ましいのは、(ii)及び(iii)であり、特に好ましいのは、非磁性体(B)としてシランアルコキシドの加水分解重縮合物を用いた(ii)及び(iii)であり、最も好ましいのは、非磁性体(B)としてシランアルコキシドの加水分解重縮合物を用い、かつ、コア層(P)として(ii)の構造の粒子を用いた(iii)である。
複合磁性粒子(C)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0027】
複合磁性粒子(C)の体積平均粒子径は、加熱効率及び接着後の強度の観点から、0.5〜50μmであることが好ましく、更に好ましくは0.5〜20μmであり、特に好ましくは1〜10μmであり、最も好ましくは1〜5μmである。
【0028】
複合磁性粒子(C)中の超常磁性金属酸化物粒子(A)の重量割合は、加熱効率及び接着後の強度の観点から、超常磁性金属酸化物粒子(A)及び非磁性体(B)の合計重量を基準として、30〜95重量%であることが好ましく、更に好ましくは60〜95重量%であり、特に好ましくは65〜80重量%である。
また、複合磁性粒子(C)中の非磁性体(B)の重量割合は、加熱効率及び接着後の強度の観点から、超常磁性金属酸化物粒子(A)及び非磁性体(B)の合計重量を基準として、5〜70重量%であることが好ましく、更に好ましくは5〜40重量%であり、特に好ましくは20〜35重量%である。
更に、複合磁性粒子(C)中の添加剤の重量割合は、超常磁性金属酸化物粒子(A)及び非磁性体(B)の合計重量を基準として、0.01〜100重量%が好ましく、更に好ましくは、接着強度の観点から0.02〜50重量%、特に好ましくは0.03〜30重量%である。
【0029】
複合磁性粒子(C)が上記の(iii)の構造をとる場合、加熱効率及び接着後の強度の観点から、下記の重量割合であることが好ましい。
前記コア層(P)に含まれる超常磁性金属酸化物粒子(A)の重量割合は、前記コア層(P)に含まれる非磁性体(B)及び超常磁性金属酸化物粒子(A)の合計重量を基準として、60〜95重量%であることが好ましい。
また、前記コア層(P)に含まれる非磁性体(B)の重量割合は、前記コア層(P)に含まれる非磁性体(B)及び超常磁性金属酸化物粒子(A)の合計重量を基準として、5〜40重量%であることが好ましい。
また、前記コア層(P)に含まれる添加剤の重量割合は、前記コア層(P)に含まれる非磁性体(B)及び超常磁性金属酸化物粒子(A)の合計重量を基準として、0.01〜100重量%が好ましい。
【0030】
また、前記の前記シェル層(Q)の平均膜厚が3〜3000nmであることが好ましい。
本発明におけるシェル層(Q)の平均膜厚は、複合磁性粒子(C)を樹脂に包埋してミクロトームで切断した断面を、透過型電子顕微鏡で観察して得られる像の画像解析から測定することが出来る。シェル層(Q)の平均膜厚とは、透過型電子顕微鏡(例えば(株)日立製作所製「H−7100」)で観察して測定された任意の100個の複合磁性粒子(C)のシェル層(Q)の厚みの平均値である。シェル層(Q)の厚みとは、1個の複合磁性粒子(C)における膜厚が最も薄い部分と最も厚い部分の平均値である。
【0031】
複合磁性粒子(C)の内、上記の(i)の構造である粒子は、公知の複合磁性粒子の製造方法[特許第2979414号公報に記載の磁性粒子の製造方法、及び、特開2009−219388号公報に記載の母粒子の製造方法等]により製造することができる。
複合磁性粒子(C)の内、上記の(ii)の構造である粒子は、公知の複合磁性粒子の製造方法[特許第5802237号に記載の磁性粒子(E)の製造方法、及び、特開2016−32052号公報記載の単一磁性複合粒子の製造方法等]により、製造することができる。
複合磁性粒子(C)の内、上記の(iii)の構造である粒子は、公知の複合磁性粒子の製造方法[特開2016−105066号公報に記載の磁性シリカ粒子(D)の製造方法、及び、特開2009−219388号公報に記載のイムノPCR用磁性粒子の製造方法等]により、製造することができる。
【0032】
本発明における複合磁性粒子(C)が、特開2016−105066号公報に記載の磁性シリカ粒子(D)の製造方法で製造した(iii)の構造の磁性粒子である場合、前記のシェル層(Q)は、シリカ層であり、表面にシラノール基を有する。
このため、複合磁性粒子(C)の表面を、種々の公知のシランカップリング剤を用いて修飾することができる。
上記の複合磁性粒子(C)の表面修飾により、複合磁性粒子(C)の極性を調整し、熱可塑性樹脂(E)との相溶性を向上させることで、加熱効率及び接着後の強度を向上させることができる。
この際用いるシランカップリング剤としては、エポキシシラン(3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン等)、アミノシラン(3−アミノプロピルトリエトキシシラン等)、(メタ)アクリルシラン[3−(メタ)アクリロイロキシプロピルトリエトキシシラン等]、ビニルシラン(ビニルトリエトキシシラン等)、フェニルシラン(フェニルトリエトキシシラン等)及びメルカプトシラン(3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等)等が挙げられる。
なお、本出願において「(メタ)アクリル」の表記はアクリルとメタクリルを意味し、「(メタ)アクリロイロキシ」の表記はアクリロイロキシとメタクリロイロキシを意味する。
【0033】
本発明における熱可塑性樹脂(E)としては、公知の熱可塑性材料[ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66及び芳香族ポリアミド等)、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド及びポリアミドイミド等]が挙げられる。
熱可塑性樹脂(E)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
本発明のマイクロ波加熱溶着用樹脂組成物が含有する複合磁性粒子(C)の重量割合は、加熱効率及び接着後の強度の観点から、マイクロ波加熱溶着用樹脂組成物の重量を基準として、0.1〜80重量%であることが好ましく、更に好ましくは30〜60重量%である。
また、本発明のマイクロ波加熱溶着用樹脂組成物が含有する熱可塑性樹脂(E)の重量割合は、加熱効率及び接着後の強度の観点から、マイクロ波加熱溶着用樹脂組成物の重量を基準として、20〜99.9重量%であることが好ましく、更に好ましくは40〜70重量%である。
【0035】
本発明のマイクロ波加熱溶着用樹脂組成物は、前記の複合磁性粒子(C)及び前記の熱可塑性樹脂(E)を、公知の混合機[ヘンシェルミキサー等]で混練する方法等で得ることができる。
また、本発明のマイクロ波加熱溶着用樹脂組成物は、成型することが可能であり、成型時の形態としては、フィルム状であることが好ましく、前記の混練後の樹脂組成物を、プレス成型機を用いてフィルム状にする方法等で得ることができる。
【0036】
本発明のマイクロ波加熱溶着用樹脂組成物は、以下の方法で2つの被着体(金属材料及び/又は有機材料等)を溶着させることができる。
本発明のマイクロ波加熱溶着用樹脂組成物を成型して得られたフィルムに、2つ被着体を接触させた状態で固定し、公知のマイクロ波加熱装置[例えば、四国計測工業(株)製μリアクター]を用いて、マイクロ波を照射することで、2つの被着体を、マイクロ波加熱溶着用樹脂組成物を介して接着することができる。
被着体の固定は、マイクロ波により加熱されないセラミックの治具を用いることが好ましい。
マイクロ波の周波数は、接着後の強度の観点から、0.1〜300GHzであることが好ましい。
【0037】
本発明のマイクロ波加熱溶着用樹脂組成物は、マイクロ波照射による加熱効率に優れることから、短時間で接着工程を完了することができる。
更に、本発明のマイクロ波加熱溶着用樹脂組成物は、接着後の強度も優れることから、自動車部品、自動車外部品の油圧制御が必要な部品の油圧制御ブロック、燃料電池のセパレータ等、多層の樹脂部品を固定して組み立てる成形品、インテークマニホールド、リザーバタンク等のように多数回の繰り返し溶着をしている成形品、複数の配管やホースをまとめてインテークマニホールドのように分岐させ、分割・接合する成形品、異種材料の接合が必要な部品の溶着に使用できる。
【0038】
このように、本発明のマイクロ波加熱溶着用樹脂組成物が、マイクロ波照射による加熱効率に優れ、かつ、接着後の強度に優れる理由としては、以下のメカニズムが考えられる。
マイクロ波加熱溶着用樹脂組成物が含有する磁性粒子として、本発明における複合磁性粒子(C)のように、超常磁性金属酸化物粒子(A)と非磁性体(B)の複合体ではなく、従来のように超常磁性金属酸化物粒子(A)を単独で用いた場合、マイクロ波加熱溶着用樹脂組成物の製造過程及び/又は接着工程において超常磁性金属酸化物粒子(A)同士の凝集が生じるため、マイクロ波を照射しても局部加熱となってしまい、加熱効率が低下し、また、接着後の樹脂組成物についても強度が不均一であるため、強度の低い箇所で破損が生じる事態を招いていたものと考えられる。
一方、マイクロ波加熱溶着用樹脂組成物が含有する磁性粒子として、本発明における複合磁性粒子(C)のように、超常磁性金属酸化物粒子(A)と非磁性体(B)の複合体を用いた場合は、複合磁性粒子(C)中の非磁性体(B)が、超常磁性金属酸化物粒子(A)の動きを抑制できるため、上記の超常磁性金属酸化物粒子(A)の凝集を抑制することで、加熱効率及び接着後の強度が向上したものと考えられる。
【実施例】
【0039】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下、特に記載がない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0040】
製造例1:複合磁性粒子(C−1)の作製
超常磁性金属酸化物粒子(A)の作製:
反応容器に塩化鉄(III)6水和物186部、塩化鉄(II)4水和物68部及び水1288部を仕込んで溶解させて50℃に昇温し、撹拌下温度50〜55℃を保持しながら、25%アンモニア水280部を1時間かけて滴下し、水中にマグネタイト粒子を得た。得られたマグネタイト粒子に分散剤であるオレイン酸64部を加え、2時間撹拌を継続した。室温に冷却後、デカンテーションにより固液分離して得られた、オレイン酸が吸着したマグネタイト粒子を水1000部で洗浄する操作を3回行い、更にアセトン1000部で洗浄する操作を2回行い、40℃で2日間乾燥させることで、超常磁性金属酸化物粒子(A−1)を得た。
【0041】
コア層(P)の作製:
超常磁性金属酸化物粒子(A−1)80部をテトラエトキシシラン240部に加えて分散し、分散液(X1)を調製した。次に、反応容器に水5050部、25%アンモニア水溶液3500部、ポリオキシエチレン(付加モル数20モル)アルキルエーテル(製品名「エマルミン200」、三洋化成工業株式会社製)400部を加えてクリアミックス(エムテクニック社製)を用いて混合し、溶液(X2)を得た。50℃に昇温後、クリアミックスを回転数6,000rpmで攪拌しながら、上記分散液(X1)を溶液(X2)に1時間かけて滴下後、50℃で1時間反応させた。反応後、2,000rpmで20分間遠心分離して微粒子の存在する上清を除き、非磁性体であるテトラエトキシシランからなるマトリックスへの超常磁性金属酸化物粒子の分散物粒子であるコア層(P−1)を得た。
【0042】
複合磁性粒子(C)の作製:
(1)シェル層(Q)の形成
反応容器にコア層(P−1)80部、脱イオン水2500部、25%アンモニア水溶液260部、エタノール2500部、テトラエトキシシラン1200部を加えてクリアミックス(エムテクニック社製)を用いて混合し、クリアミックスの回転数6,000rpmで攪拌しながら2時間反応させた。コア層の表面を非磁性体であるテトラエトキシシランからなるマトリックスでコーティング処理してシェル層を備えた複合磁性粒子(PC−1)を得た。
(2)分級操作
(i)反応後、2,000rpmで20分間遠心分離した後、磁石を用いて沈降粒子を集磁し、微粒子が含まれる上清液を除去し、更に水を500部加えて上清液を除く操作を10回行った。
(ii)次に、得られた沈降粒子に水5000部を加えて粒子を分散させて600rpmで10分間遠心分離後、微粒子の存在する上清液を除く操作を20回行った。
(iii)続いて得られた沈降粒子に水5000部を加えて粒子を分散させて300rpmで10分間遠心分離することにより、得られた沈降粒子を除去し、残った液を取り出すことで分級を行った。
(3)精製操作
更に、磁石を用いて粒子を集磁し上清を除く操作を10回行い、目的とする体積平均粒子径の複合磁性粒子(C−1)を得た。
【0043】
製造例2
製造例1と同様の操作で、複合磁性粒子(C)の作製工程である(2)分級操作(i)まで実施した。
その後、得られた固相に水5000部を加え、粒子を分散させて2500rpmで10分間遠心分離後、微粒子の存在する上清を除く操作を20回行い、続いて得られた固相に水5000部を加えて粒子を分散させて900rpmで10分間遠心分離することにより、大きな粒子径の粒子を沈降させて除去することで分級を行った。
その後、製造例1の複合磁性粒子(C)の作製(3)精製と同様の操作を実施して、複合磁性粒子(C−2)を得た。
【0044】
製造例3
製造例1のコア層(P)の作成において、テトラエトキシシランの添加量を360部に変更した以外は、製造例1と同様の操作を行い、コア層(P−2)を得た。その後、複合磁性粒子(C)の作製において、コア層(P−1)に代えてコア層(P−2)を用いた以外は製造例1と同様に行い、複合磁性粒子(C−3)を得た。
【0045】
製造例4
製造例1のコア層(P)の作成において、テトラエトキシシランの添加量を160部に変更した以外は、製造例1と同様の操作を行い、コア層(P−3)を得た。その後、複合磁性粒子(C)の作製において、コア層(P−1)に代えてコア層(P−3)を用いた以外は製造例1と同様に行い、複合磁性粒子(C−4)を得た
【0046】
製造例5
製造例1の超常磁性金属酸化物粒子(A)の作製において、25%アンモニア水280部のかわりに、1%アンモニア水5000部を用いた以外は、製造例1と同様の操作を行い、超常磁性金属酸化物粒子(A−2)を得た。その後、コア層(P)の作製において、超常磁性金属酸化物粒子(A−1)に代えて超常磁性金属酸化物粒子(A−2)を用いた以外は製造例1と同様に行い、コア層(P−4)を得た。その後、複合磁性粒子(C)の作製において、コア層(P−1)に代えてコア層(P−4)を用いた以外は製造例1と同様に行い、複合磁性粒子(C−5)を得た。
【0047】
製造例6
製造例1の超常磁性金属酸化物粒子(A)の作製において、25%アンモニア水280部のかわりに、25%アンモニア水140部を用いた以外は、製造例1と同様の操作を行い、超常磁性金属酸化物粒子(A−3)を得た。その後、コア層(P)の作製において、超常磁性金属酸化物粒子(A−1)に代えて超常磁性金属酸化物粒子(A−3)を用いた以外は製造例1と同様に行い、コア層(P−5)を得た。その後、複合磁性粒子(C)の作製において、コア層(P−1)に代えてコア層(P−5)を用いた以外は製造例1と同様に行い、複合磁性粒子(C−6)を得た。
【0048】
製造例7
製造例1の複合磁性粒子(C)の作製の(1)シェル層(Q)の形成において、脱イオン水の添加量を2500部から58000部に、エタノールの添加量を2500部から58000部に、テトラエトキシシランの添加量を1200部から25000部に変更したこと以外は製造例1と同様の操作で、(1)シェル層の形成まで実施した。
その後、上記反応後の溶液を2,000rpmで20分間遠心分離して微粒子の存在する上清を除き、磁石を用いて粒子を集磁し上清を除く操作を10回行い、その後、水5000部を加えて粒子を分散させて300rpmで1分間遠心分離後、微粒子の存在する上清を除く操作を20回行い、続いて得られた固相に水5000を加えて粒子を分散させて200rpmで1分間遠心分離することにより、大きな粒子径の粒子を沈降させて除去した。
その後、製造例1の複合磁性粒子(C)の作製(3)精製と同様の操作を実施して、複合磁性粒子(C−7)を得た。
【0049】
製造例8
100部の硫酸第一鉄を1,000部の水に溶解し、撹拌下、水500部に水酸化ナトリウム28.8部を溶解した水溶液を1時間かけて滴下後、撹拌しながら、85℃まで昇温して空気を懸濁液に吹き込み8時間酸化し、遠心分離することにより超常磁性金属酸化物粒子(A−4)を得た。
その後、製造例1のコア層(P)の作製において、超常磁性金属酸化物粒子(A−1)に代えて超常磁性金属酸化物粒子(A−4)を用いた以外は製造例1と同様に行い、コア層(P−6)を得た。その後、複合磁性粒子(C)の作製において、コア層(P−1)に代えてコア層(P−6)を用いた以外は製造例1と同様に行い、複合磁性粒子(C−8)を得た。
【0050】
製造例9
3−アミノプロピルトリエトキシシラン1重量%含有水溶液40mLの入った蓋付きポリエチレン製瓶に、製造例1で得た分級後の複合磁性粒子(C−1)5mgを加え、25℃で1時間反応させ、磁石で粒子を集磁後、液をアスピレーターで吸引除去した。次いで脱イオン水40mLを加えて磁性粒子を分散させ、磁石で粒子を集磁後、液をアスピレーターで吸引除去して磁性粒子を洗浄した。この洗浄操作を4回行い、複合磁性粒子(C−9)を得た。
【0051】
製造例1〜9で製造した複合磁性粒子(C−1)〜(C−9)の「体積平均粒子径」、「磁性粒子(C)中の超常磁性金属酸化物粒子(A)の含有量」及び「シェル層(Q)の膜厚」については、以下の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
<超常磁性金属酸化物粒子(A)の体積平均粒子径の測定方法> 任意の200個の超常磁性金属酸化物粒子(A)について、査型電子顕微鏡[型番:JSM−7000F、名日本電子(株)製]で観察し、画像解析式粒度分布ソフトウェア[Mac−View(株)マウンテック製]を用いて粒子径を測定し、体積平均粒子径を求めた。
<複合磁性粒子(C)の体積平均粒子径の測定方法>
任意の200個の複合磁性粒子(C)について、査型電子顕微鏡[型番:JSM−7000F、名日本電子(株)製]で観察し、画像解析式粒度分布ソフトウェア[Mac−View ver.4、(株)マウンテック製]を用いて粒子径を測定し、体積平均粒子径を求めた。
<複合磁性粒子中(C)の超常磁性金属酸化物粒子(A)の含有量の測定方法>
任意の20個の複合磁性粒子(C)について、上記走査型電子顕微鏡で観察し、エネルギー分散型X線分光装置(型番:INCAWave/Energy、メーカー名:オックスフォード)により、複合磁性粒子中(C)の重量に対する超常磁性金属酸化物粒子(A)の重量割合を測定し、その平均値を含有量とした。
【0054】
<シェル層(Q)の平均膜厚>
複合磁性粒子(C)をエポキシ樹脂に包埋してミクロトームで切断した断面を透過型電子顕微鏡[型番「H−7100」、(株)日立製作所製]で観察し、各複合磁性粒子の膜厚が最も厚い部分と最も薄い部分の平均値から膜厚を求めた。任意の100個の各複合磁性粒子について上記と同様にして膜厚を求め、その平均値を平均膜厚とした。
【0055】
<実施例1:マイクロ波加熱溶着用フィルムの作製>
製造例1で製造した複合磁性粒子(C−1)50部(マイクロ波加熱溶着用樹脂組成物の重量を基準として、50重量%)と、ナイロン6樹脂[UBEナイロン1022B、宇部興産(株)製]50部とを、ヘンシェルミキサー[商品名「ヘンシェルミキサーFM150L/B」、日本コークス工業(株)製]で3分間混合した後、ベント付き2軸押出機[型番「2D25S」、(株)東洋精機製作所製]にて、100rpm、240〜260℃、滞留時間5分の条件で溶融混練してマイクロ波加熱溶着用樹脂組成物を作製した。
【0056】
得られたマイクロ波加熱溶着用樹脂組成物を、プレス成形機を用いて成形することで、厚さ0.5mmのマイクロ波加熱溶着用フィルム(F−1)を得た。
【0057】
<実施例2〜9>
実施例1において、複合磁性粒子(C−1)に代えて、それぞれ、複合磁性粒子(C−2)〜(C−9)を用いる以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚さ0.5mmのマイクロ波加熱溶着用フィルム(F−2)〜(F―9)を得た。
<実施例10〜18>
実施例1において、複合磁性粒子(C−1)を50部から20部(マイクロ波加熱溶着用樹脂組成物の重量を基準として、20重量%)に変更し、ナイロン6樹脂[UBEナイロン1022B、宇部興産(株)製]を50部から80部に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚さ0.5mmのマイクロ波加熱溶着用フィルム(F−10)〜(F―18)を得た。
<実施例19〜27>
実施例1において、複合磁性粒子(C−1)を50部から30部(マイクロ波加熱溶着用樹脂組成物の重量を基準として、30重量%)に変更し、ナイロン6樹脂[UBEナイロン1022B、宇部興産(株)製]を50部から70部に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚さ0.5mmのマイクロ波加熱溶着用フィルム(F−19)〜(F―27)を得た。
【0058】
<比較例1>
実施例1において用いられる複合磁性粒子(C−1)に代えて、超常磁性金属酸化物粒子(A−1)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、厚さ0.5mmの比較用のマイクロ波加熱溶着用フィルム(F’−1)を得た。
【0059】
実施例1〜27で得たマイクロ波加熱溶着用フィルム(F−1)〜(F−27)及び比較用のマイクロ波加熱溶着用フィルム(F’−1)について、以下の方法で、接着強度評価及び加熱効率評価を実施した。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
<アルミニウム合金試験剤の調整>
厚さ2mm、幅50mm、長さ100mmのアルミニウム合金板を、そのまま1.2wt%塩酸溶液中に90g/L(塩化物イオン濃度:61g/L)の塩化アルミニウム六水和物を添加して調製したエッチング液中に40℃で4分間浸漬した後に水洗するエッチング処理を施し、その後120℃の熱風で5分間乾燥させ、アルミニウム合金試験材とした。
【0062】
<貼合体の作製>
上記のアルミニウム合金試験材と、厚さ10mm、幅50mm、長さ100mmのナイロン6樹脂板とで、15mmずつ重なりあうように重ね、更に、アルミニウム合金試験材とナイロン6樹脂板の間にマイクロ波加熱溶着用フィルム(F)を挟み、マイクロ波により加熱されないセラミックの治具により固定し、0.1〜5.0MPa程度の圧力で加圧し、その後、マイクロ波加熱装置[μリアクター、四国計測工業(株)製]を用いてマイクロ波(2.45GHz、500W)を30秒間照射し、アルミニウム合金試験材とナイロン6とを溶着することで、接着強度評価用の試験片を得た。
【0063】
<接着強度評価>
上記の接着強度評価用の試験片を、引張試験機[(株)島津製作所製オートグラフP−100]により、50mm/minの速度で引張り、せん断強度を測定した。
せん断強度の値により、以下の基準で接着強度を評価した。
◎:15Mpa以上
○:15Mpa未満〜10Mpa以上
×:10MPa未満
【0064】
<加熱効率評価>
上記の方法で作製した厚さ0.5mmのマイクロ波加熱溶着用フィルム(F)に、マイクロ波加熱装置[μリアクター、四国計測工業(株)製]を用いてマイクロ波(2.45GHz、500W)を照射し、フィルムの表面温度が200℃に達するまでの時間を測定し、以下の基準で加熱効率を評価した。
◎:15秒未満
○:15秒以上30秒未満
×:30秒以上