【課題】 気孔率が高く、微細な気孔を有し、かつ耐湿性に優れた多孔質ポリアミドイミド(PAI)フィルム形成用のPAI溶液およびこれを用いた多孔質PAIフィルムの製造方法を提供する。
<2> 前記PAI溶液を、基材上に塗布して塗膜を形成し、しかる後、乾燥により、前記塗膜中の溶媒を除去する際、塗膜中に残存する貧溶媒の作用を利用して塗膜内で相分離を起こさせて、基材上のPAIを多孔質化することを特徴とする多孔質PAIフィルムの製造方法。
請求項1記載のPAI溶液を、基材上に塗布して塗膜を形成し、しかる後、乾燥により、前記塗膜中の溶媒を除去する際、塗膜中に残存する貧溶媒の作用を利用して塗膜内で相分離を起こさせて、基材上のPAIを多孔質化することを特徴とする多孔質PAIフィルムの製造方法。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド系の多孔質フィルムは、その優れた耐熱性と高い気孔率を利用して、電子材料や光学材料、リチウム二次電池用セパレータ、リチウム二次電池用電極被覆材、フィルタ、分離膜、電線被覆等の産業用材料、医療用素材等の分野で利用されている。ポリイミド系の多孔質フィルムの中で、フィルムや被膜を成形する際、高温を必要としないPAIについては、この多孔質PAIフィルムを製造する方法として、特許文献1〜3には、PAI溶液を基材上に塗布することにより形成されたPAI塗膜を、水、メタノール等、PAIの貧溶媒を含む凝固液に浸漬または晒すことにより、相分離を起こさせて多孔質化を図る方法が提案されている。この方法は、多孔質PAIフィルムを製造する際に、凝固液を使用するために、凝固浴等から凝固液を含む廃液が多量に発生するために、環境適合性、経済性において問題があった。また、このような凝固液を用いる方法では、均一で微細な気孔を有する多孔質PAIは得られていなかった。
【0003】
そこで、基材上に形成されたPAI塗膜を、乾燥または熱処理するだけで、気孔を形成させ、多孔質PAI被膜やフィルムを製造する方法が提案されている。 例えば、特許文献4、5には、特定の溶媒を含有するPAI溶液を、銅線やアルミ条等の基材上に塗布後、500℃程度の高温で熱処理することによって、多孔質PAI被膜やフィルムを得る方法が提案されている。これらの方法は、高温での溶媒の分解と揮発に起因する発泡現象を利用して多孔質PAI被膜を得ようとするものである。しかしながら、このような発泡PAIフィルムは、気孔率が低く、かつ独立気孔が多いため透過性の低いものであった。また、フィルム表面に気孔を形成させることは困難であった。
【0004】
このような発泡現象を利用する方法に対し、特許文献6〜8には、PAIに対する良溶媒と貧溶媒とを含有するPAI溶液を、基材上に、塗布、乾燥することにより、多孔質PAIフィルムを形成させる方法が開示されている。 この方法は、乾燥過程において、塗膜中に残存する貧溶媒の作用を利用して塗膜内で相分離を起こさせてPAIの多孔質化を図ろうとするものであり、塗膜を乾燥するのみで多孔質被膜が得られるので、凝固液が不要となる。そのため、凝固液を含む大量の廃液が発生しないので、環境適合性の観点から優れた方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献6、7に記載された方法で得られる多孔質PAI被膜の平均気孔径は3〜5μmレベルであり、例えば、平均気孔径が2μm以下の微細な気孔を有する多孔質PAIフィルムを得ることは容易ではなかった。また、特許文献8に記載された方法で得られる多孔質PAIフィルムを構成するPAIは、オキシアルキレンユニットを有するものであり、それがために、吸湿性を有することがあり、耐湿性を求められる用途においては、その適応が難しいことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明は、前記課題を解決するものであって、気孔率が高く、微細な気孔を有し、かつ耐湿性に優れた多孔質PAIフィルムを形成するためのPAI溶液およびこの塗液を用いた多孔質PAIフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、PAIの化学構造を特定のものとした上で、PAI溶液の溶媒組成を規定することで、前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
本発明は下記を趣旨とするものである。
<1> 以下の特徴を有する多孔質PAIフィルム形成用の均一なPAI溶液。
(1) PAIは、ダイマー酸および/またはダイマージアミン成分を含む共重合PAIである。
(2) 溶媒が、前記PAIに対する貧溶媒と良溶媒とからなる。
<2> 前記PAI溶液を、基材上に塗布して塗膜を形成し、しかる後、乾燥により、前記塗膜中の溶媒を除去する際、塗膜中に残存する貧溶媒の作用を利用して塗膜内で相分離を起こさせて、基材上のPAIを多孔質化することを特徴とする多孔質PAIフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のPAI溶液から気孔率が高く、微細な気孔を有し、かつ耐湿性に優れた多孔質PAIフィルムを容易に得ることができる。従い、電子材料や光学材料、リチウム二次電池用セパレータ、リチウム二次電池用電極被覆材、フィルタ、分離膜、電線被覆等の産業用材料、医療用素材等の分野で好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明は多孔質PAIフィルム形成用PAI溶液およびこれを用いた多孔質PAIフィルムの製造方法に関するものである。
【0013】
PAIは、主鎖にイミド結合とアミド結合の両方を有する高分子であり、固有粘度が0.5dl/g以上であり、かつガラス転移温度(Tg)が150℃以上であるものが、耐熱性や強度の点で好ましい。本発明の多孔質PAIフィルム製造方法で用いられるPAIは、ダイマー酸および/またはダイマージアミン成分を含む共重合PAIである。このようなPAIは、公知のPAIであり、例えば、特開平11−21454号公報、特開2014−28921号公報等に記載されている方法により得ることができる。すなわち、カルボン酸成分であるトリメリット酸無水物およびダイマー酸と、ジイソシアネートとを重合溶媒に溶解して加熱撹拌して重合反応を進めることにより得ることができる。カルボン酸成分とジイソシアネートとは、通常、等モルを用いることにより重合反応するが、必要に応じ、一方の成分を多少増減させてもよい。
【0014】
重合温度は、通常50℃〜220℃であり、80℃〜200℃がより好ましい。
【0015】
PAIの重合に際しては、例えば、トリエチルアミンやルチジン、ピコリン、トリエチレンジアミン等のアミン類、リチウムメトキサイド、ナトリウムメトキサイド、カリウムブトキサイド、フッ化カリウム、フッ化ナトリウムなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属化合物、あるいはコバルト、チタニウム、スズ、亜鉛などの金属、半金属化合物の触媒の存在下に行ってもよい。
【0016】
PAIの重合に用いられるカルボン酸成分としては、トリメリット酸無水物が用いられるが、この一部を、ダイマー酸に置き換えることにより、ダイマー酸成分を含む共重合PAIとすることができる。トリメリット酸無水物は、その一部を他の多価カルボン酸無水物に置き換えられていてもよい。多価カルボン酸無水物の具体例としては、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルテトラカルボン酸無水物、4,4′−オキシジフタル酸無水物等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
ダイマー酸は、炭素数が36の飽和または不飽和のジカルボン酸を主として含むジカルボン酸の混合物であり、市販品を用いることができる。市販品の具体例としては、クローダジャパン社製の「PRIPOL」、ハリマ化成株式会社製の「ハリダイマー」、BASFジャパン社製の「EMPOL」、築野食品化学工業社製の「ツノダイム」等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
ダイマー酸の共重合比率は、全カルボン酸成分に対し、0.1モル%以上、30モル%以下とすることが好ましく、0.5モル%以上、20モル%以下とすることがより好ましい。
【0019】
ジイソシアネートの具体例としては、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等を挙げることができ、MDIが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの一部を、ダイマー酸ジイソシアネートに置き換えることにより、ダイマージアミン成分を含む共重合PAIとすることができる。
【0020】
ダイマー酸ジイソシアネートは、ダイマー酸を還元的にアミノ化してダイマージアミンとし、これをジシソシアネート化して得ることができる。ダイマー酸ジイソシアネートの共重合比率は、全ジイソシアネート成分に対し、0.1モル%以上、30モル%以下とすることが好ましく、0.5モル%以上、20モル%以下とすることがより好ましい。
【0021】
本発明の溶液で用いられるPAIの重合においては、PAIに対する良溶媒を用いて行うことが好ましい。ここで、良溶媒とは、PAIに対する25℃での溶解度が1質量%以上の溶媒のことである。良溶媒としては、アミド系溶媒、尿素系溶媒を挙げることができる。アミド系溶媒の具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等を挙げることができる。また、尿素系溶媒の具体例としては、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、ジメチルエチレン尿素、ジメチルプロピレン尿素等を挙げることができる。これらの中で、NMPおよびDMAcが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本発明のPAI溶液には、PAIに対する貧溶媒を含有することが必要である。このような溶液とするには、これらの貧溶媒を、重合の際、重合溶媒に混合すればよい。 また、良溶媒を用いて得られた重合後のPAI溶液を、大量の水、メタノール等に投入して、PAIを再沈殿させた後、濾過、乾燥してPAI粉体を採取後、前記混合溶媒に再溶解すればよい。重合溶媒として用いられた良溶媒を、減圧蒸留去して、PAI固形分濃度を高めてから、貧溶媒を混合してもよい。なお、貧溶媒とは、PAIに対する25℃での溶解度が1質量%未満の溶媒のことである。
【0023】
貧溶媒は、良溶媒よりも沸点が高いものを用いることが好ましく、その沸点差は、5℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、30℃以上が更に好ましい。混合溶媒中における貧溶媒の混合量としては、混合溶媒質量に対し、5〜90質量%とすることが好ましく、10〜80質量%とすることがより好ましい。このようにすることにより、後述する塗膜乾燥工程において、塗膜内に残存する貧溶媒の作用により効率よく相分離が起こり、高い気孔率を有する多孔質PAIフィルムを得ることができる。これらの貧溶媒としては、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒等を挙げることができ、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒が好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
PAIに対し貧溶媒となるエーテル系溶媒の具体例としては、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ペンタグライム等を挙げることができ、トリグライムおよびテトラグライムが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
PAIに対し貧溶媒となるアルコール系溶媒の具体例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール(TPG)、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングルコールモノメチルエーテル等を挙げることができ、TPGが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
PAIに対し貧溶媒となるエステルル系溶媒の具体例としては、γ―ブチロラクトン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
前記のようにして得られたPAI溶液は、均一な溶液である。均一な溶液とは、可視光線に対して透明な溶液をいう。このような均一溶液を用いることにより、塗膜乾燥時に均一な相分離現象が誘起される。従い、例えば、特開2007−269575号公報に開示されたような、ミクロ相分離した、不均一なPAI溶液は好ましくない。
【0028】
前記のようにして得られたPAI溶液には、フィラを配合することができる。フィラを配合することにより、多孔質PAIフィルムの剛性を向上させることができる。また、気体や液体の透過性を向上させることができる。
【0029】
フィラの種類に制限は無く、有機フィラ、無機フィラおよびその混合物等を用いることができる。有機フィラの具体例の具体例としては、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独重合体または2種類以上の共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等の重合体からなる粉体を挙げることができる。有機フィラは、単独または2種以上を混合して用いることができる。無機フィラの具体例としては、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩等の無機物からなる粉体を挙げることができる。具体例としては、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、硫酸バリウムまたは炭酸カルシウム等からなる粉体を挙げることができる。無機フィラは、単独または2種以上を混合して用いることができる。これらの無機フィラの中では、化学的安定性の観点から、アルミナ粉体が好ましい。
【0030】
フィラの形状に制限はなく、略球状、板状、柱状、針状、ウィスカー状、繊維状等の粒子を用いることができ、略球状粒子が好ましい。略球状粒子のアスペクト比(粒子の長径/粒子の短径)は1以上、1.5以下とすることが好ましい。
【0031】
フィラの平均粒子径に制限はないが、0.01μm以上、2μm以下であることが好ましい。平均粒子径はレーザ回折散乱法に基づく測定装置により測定することができる。
【0032】
フィラは、その表面が、界面活性剤やシランカップラのような表面処理剤で処理されていてもよい。
【0033】
フィラ混合量に制限はないが、通常、PAI固形分に対し、10〜1000質量%であり、50〜600質量%とすることが好ましい。
【0034】
PAI溶液中におけるPAI固形分濃度は、1〜50質量%が好ましく、2〜30質量%がより好ましい。
【0035】
PAI溶液には、必要に応じて、各種界面活性剤やシランカップラ等、公知の添加物を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。また、PAI溶液には、必要に応じて、PAI以外のポリマーを、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0036】
前記のようにして得られたPAI溶液を、基材の表面に塗布後、乾燥することにより、多孔質PAIフィルムを形成させることができる。その後、基材から多孔質PAIフィルムを剥離して多孔質PAIフィルム単体とすることができる。また、基材上に形成された多孔質PAIフィルムは、基材から剥離することなく、基材と積層一体化して使用することもできる。
【0037】
前記乾燥工程において、塗膜内に残存している貧溶媒の作用により相分離が起こり、多孔質PAI被膜が形成される。乾燥温度の上限値に制限は無いが、200℃以下とすることが好ましく、180℃以下とすることがより好ましい。乾燥温度の下限値にも制限は無いが、100℃以上とすることが好ましい。なお、乾燥の際、加湿雰囲気で乾燥を行うこともできる。また、多孔質PAIフィルムは、耐熱性に優れるので、乾燥後、200℃以上の温度、例えば、250℃程度で熱処理を行ってもよい。
【0038】
前記基材の具体例としては、金属箔、金属線、ガラス板、熱可塑性樹脂フィルム(ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート等)、ポリイミド等の熱硬化性樹脂フィルム、各種織物、各種不織布(ポリエステル、セルロース等)等を挙げることができる。前記金属としては、金、銀、銅、白金、アルミニウム等を挙げることができる。基材は、多孔質であっても非多孔質であってもよい。これら基材への塗液の塗布方法としては、ディップコータ、バーコータ、スピンコータ、ダイコータ、スプレーコータ等を用い、連続式またはバッチ式で塗布することができる。
【0039】
多孔質PAIフィルムの厚みに制限はないが、通常、1〜1000μm程度であり、10〜500μm程度が好ましい。
【0040】
前記のようにして得られた多孔質PAIフィルムの気孔率は、20体積%以上が好ましく、30体積%以上がより好ましく、40体積%以上であることが更に好ましい。また、この気孔率は、95体積%以下であることが好ましく、80体積%以下がより好ましく、70体積%以下であることが更に好ましい。ここで、PAIフィルムの気孔率は、以下の式を用いて算出された値を用いることができる。
気孔率(体積%)= 100−100×(W/D)/(S×T)
式中のSは多孔質PAIフィルムの面積、Tはその厚み、Wはその質量、Dは対応する非多孔質PAIフィルムの密度を示す。
【0041】
また、多孔質PAIフィルムの平均気孔径は、0.01μm以上、2μm以下であることが好ましく、0.1μm以上、1μm以下であることがより好ましい。平均気孔径は、多孔質PAIフィルム断面のSEM(走査型電子顕微鏡)像を倍率5000〜20000倍で取得することにより確認することができる。なお、多孔質PAIフィルムの気孔は、連続気孔であっても、独立気孔であってもよい。
【0042】
以上述べた如く、本発明のPAI溶液を用いることにより、高い気孔率を有し、かつ平均気孔径が極めて小さい多孔質PAIフィルムを、簡単なプロセスで容易に製造することができる。なお、多孔質PAIフィルムが適用される用途に応じ、良溶媒および貧溶媒の混合比率、ダイマー酸の共重合比率等を選ぶことにより、前記気孔率や平均気孔径を適宜設定することができる。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。なお本発明は実施例により限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
特開平11−21454号公報、実施例の記載に準拠して、ダイマー酸を含む共重合PAI溶液を調製した。すなわち、ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、TMA:0.95モル、ダイマー酸(クローダジャパン社製、商品名:PRIPOL1009):0.05モル、 MDI:1.0モル、NMPを投入して攪拌した。得られた溶液を、120℃で2時間反応させた後、180℃に昇温して6時間反応させることによりPAI溶液を得た。この溶液を、攪拌下、大量の水に投入して、PAIを再沈殿させた後、これを濾過、乾燥して、PAI粉体(A−1)を得た。A−1を、NMPとTPGとからなる混合溶媒に再溶解することにより、PAI固形分濃度が15質量%、NMPとTPGとの質量比をNMP/TPG=75/25としたPAI溶液(L−1)を得た。この溶液は均一であった。L−1を、ガラス板上に、ドクターブレードを用いて塗布し、150℃で30分乾燥することにより、ガラス板上に積層された厚み85μmの多孔質PAIフィルム(P−1)を得た。P−1の気孔率は65体積%であり、平均気孔径1.2μmの均一な気孔が形成されていた。
【0045】
<実施例2>
NMPとTPGとの質量比をNMP/TPG=90/10としたこと以外は、実施例1と同様にして、PAI溶液(L−2)を得た。この溶液は均一であった。L−2を用い、実施例1と同様にしてガラス板上に積層された厚み96μmの多孔質PAIフィルム(P−2)を得た。P−2の気孔率は54体積%であり、平均気孔径1.6μmの均一な気孔が形成されていた。
【0046】
<実施例3>
A−1を、NMPとテトラグライムとからなる混合溶媒に再溶解することにより、PAI固形分濃度が15質量%、NMPとテトラグライムとの質量比をNMP/テトラグライム=25/75としたPAI溶液(L−3)を得た。この溶液は均一であった。L−3を用い、実施例1と同様にしてガラス板上に積層された厚み72μmの多孔質PAIフィルム(P−3)を得た。P−3の気孔率は62体積%であり、平均気孔径0.9μmの均一な気孔が形成されていた。
【0047】
<実施例4>
A−1を、NMPとテトラグライムとからなる混合溶媒に再溶解することにより、PAI固形分濃度が12質量%、NMPとテトラグライムとの質量比をNMP/テトラグライム=15/85としたPAI溶液(L−4)を得た。この溶液は均一であった。L−4を用い、実施例1と同様にしてガラス板上に積層された厚み56μmの多孔質PAIフィルム(P−4)を得た。P−4の気孔率は69体積%であり、平均気孔径0.7μmの均一な気孔が形成されていた。
【0048】
<比較例1>
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、TMA:1.0モル、MDI:1.0モル、NMPを投入して攪拌した。 得られた溶液を、120℃で2時間反応させた後、180℃に昇温して6時間反応させることによりPAI溶液を得た。この溶液を、攪拌下、大量の水に投入して、PAIを再沈殿させた後、これを濾過、乾燥して、PAI粉体(A−2)を得た。A−2を、NMPとTPGとからなる混合溶媒に再溶解することにより、PAI固形分濃度が15質量%、NMPとTPGとの質量比をNMP/TPG=75/25としたPAI溶液(L−5)を得た。この溶液は均一であった。L−5を用い、実施例1と同様にしてガラス板上に積層された厚み85μmの多孔質PAIフィルム(P−5)を得た。P−5の気孔率は57体積%であり、平均気孔径は、4.5μmであった。
【0049】
<比較例2>
A−2を、NMPとテトラグライムとからなる混合溶媒に再溶解することにより、PAI固形分濃度が15質量%、NMPとテトラグライムとの質量比をNMP/テトラグライム=25/75としたPAI溶液(L−6)を得た。L−6を用い、実施例1と同様にしてガラス板上に積層された厚み75μmの多孔質PAIフィルム(P−6)を得た。この溶液は均一であった。P−6の気孔率は62体積%であり、平均気孔径3.6μmの均一な気孔が形成されていた。
【0050】
<比較例3>
A−1を、NMPとDMAcとからなる混合溶媒に再溶解することにより、PAI固形分濃度が15質量%、NMPとDMAcとの質量比をNMP/DMAc=25/75としたPAI溶液(L−7)を得た。この溶液は均一であった。L−7を用い、実施例1と同様にしてガラス板上に積層された厚み59μmのPAIフィルム(P−7)を得たが、P−7には、気孔が形成されていなかった。
【0051】
実施例で示したように、本発明のPAI溶液L−1〜4から、平均気孔径が2μm以下の気孔が均一に形成された多孔質PAIフィルムが得られる。これに対し、比較例のPAI溶液L−5、L−6からは、相当量の気孔は形成されていても、平均気孔径が2μm以下の微細な気孔は形成されていないことが判る。