(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-168420(P2018-168420A)
(43)【公開日】2018年11月1日
(54)【発明の名称】アルカリ水電解装置
(51)【国際特許分類】
C25B 15/00 20060101AFI20181005BHJP
C25B 9/00 20060101ALI20181005BHJP
【FI】
C25B15/00 302Z
C25B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-66276(P2017-66276)
(22)【出願日】2017年3月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000105040
【氏名又は名称】ティッセンクルップ・ウーデ・クロリンエンジニアズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】大岩 武弘
(72)【発明者】
【氏名】川西 孝治
(72)【発明者】
【氏名】井頭 賢一郎
(72)【発明者】
【氏名】亀井 裕次
(72)【発明者】
【氏名】石川 七彩
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 明義
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021BA02
4K021BA17
4K021CA13
4K021DB05
4K021DB40
4K021DB46
(57)【要約】
【課題】アルカリ水溶液の漏洩を防止したアルカリ水電解装置を提供する。
【解決手段】陽極室12を画定する陽極室枠11と、陰極室18を画定する陰極室枠17と、陽極室枠11と陰極室枠17との間に配置され、陽極室12と陰極室18とを区画する多孔質隔膜16と、を有するアルカリ水電解装置10において、陽極室枠11に陽極ガスケット15が配置され、陰極室枠17に陰極ガスケット21が配置され、陽極室枠11と陰極室枠17とが締め付けられた時に陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21を介して多孔質隔膜16が陽極室枠11と陰極室枠17とに挟持されるとともに、陽極ガスケット15と陰極ガスケット21とが圧縮され、多孔質隔膜16の周端部で陽極ガスケット15と陰極ガスケット21とが接触する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極室を画定する陽極室枠と、陰極室を画定する陰極室枠と、前記陽極室に収容される陽極と、前記陰極室に収容される陰極と、前記陽極室枠と前記陰極室枠との間に配置され、前記陽極室と前記陰極室とを区画する多孔質隔膜と、を有するアルカリ水電解装置において、
前記陽極室枠の前記多孔質隔膜が配置される面に陽極ガスケットが配置され、前記陰極室枠の前記多孔質隔膜が配置される面に陰極ガスケットが配置され、
前記陽極室枠と前記陰極室枠とが締め付けられた時に前記陽極ガスケット及び前記陰極ガスケットを介して前記多孔質隔膜が前記陽極室枠と前記陰極室枠とに挟持されるとともに、前記陽極ガスケットと前記陰極ガスケットとが圧縮され、前記多孔質隔膜の周端部で前記陽極ガスケットと前記陰極ガスケットとが接触するアルカリ水電解装置。
【請求項2】
前記陽極ガスケット及び前記陰極ガスケットが同一形状を有し、前記陽極ガスケット及び前記陰極ガスケットのガスケット幅をW、圧縮前の前記陽極ガスケット及び前記陰極ガスケットの厚さをD、圧縮後の前記陽極ガスケット及び前記陰極ガスケットの内周側の厚さをD’、前記陽極ガスケット及び前記陰極ガスケットと前記多孔質隔膜との接触幅をA、圧縮時の前記多孔質隔膜の厚さをTとしたときに、式(1)〜(3)の条件を満足する請求項1に記載のアルカリ水電解装置。
A≧3mm …(1)
W−A≧3mm …(2)
(D−D’)×2−T≧0.01mm …(3)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ水電解装置に関し、詳しくは、アルカリ水溶液の漏洩を防止した多孔質隔膜を用いたアルカリ水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ水電解やアルカリ金属塩水溶液の電解(例えば食塩電解)で用いられる電解槽として、陽極室と陰極室との間に隔膜が配置された構造が知られている。アルカリ水電解の場合は隔膜として多孔質隔膜が用いられ、アルカリ金属塩水溶液の電解では隔膜としてイオン交換膜が用いられる。隔膜は、陽極室を構成する枠体の表面と陰極室を構成する枠体の表面とにそれぞれ配置されたガスケットに挟持されている。このガスケットにより、陽極室及び陰極室からの電解液の漏れ等が防止されている。
【0003】
例えば、特許文献1及び特許文献2に図示されるように、隔膜はガスケットよりも大きく、ガスケットを介して陽極室及び陰極室で隔膜を挟んだ際に隔膜が電解槽枠体よりも外側にはみ出る。特許文献1及び特許文献2はアルカリ金属塩の電解が例示されているが、アルカリ水電解の場合も同じ構成が採用される。特に大型の電解槽では、隔膜に確実に張力を掛けながら隔膜を挟むため、上記の構造が採用される。
しかしながら、腐食性の高いアルカリ溶液が電解液に用いられるため、ガスケットが経年劣化することが欠点である。特許文献3ではこの問題を解決策として、長期間に亘りガスケット交換の必要のないシール構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−221944号
【特許文献2】特開2012−193437号
【特許文献3】特開平05−9772号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多孔質隔膜を用いたアルカリ水電解装置においては、ガスケットを用いているにもかかわらず、アルカリ水溶液の漏洩が生じてしまうという問題が生じている。一般に大型装置では室枠の締め付け面圧が不均一になりやすいため、漏洩が発生しやすい。電解液の漏洩は数日程度で発生しており、さらなる改善が求められているのが現状である。
【0006】
そこで、本発明の目的は、アルカリ水溶液の漏洩を防止したアルカリ水電解装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、以下の知見を得た。すなわち、アルカリ水電解装置においては、アルカリ水溶液の漏洩は、ガスケットの劣化や腐食によるものではなく、多孔質隔膜を浸透したアルカリ水溶液が原因であることを見出した。かかる知見に基づき、本発明者らは、さらに鋭意検討した結果、アルカリ水電解装置の構造を下記のとおりとすることで、上記課題を解消し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明のアルカリ水電解装置は、陽極室を画定する陽極室枠と、陰極室を画定する陰極室枠と、前記陽極室に収容される陽極と、前記陰極室に収容される陰極と、前記陽極室枠と前記陰極室枠との間に配置され、前記陽極室と前記陰極室とを区画する多孔質隔膜と、を有するアルカリ水電解装置において、
前記陽極室枠の前記多孔質隔膜が配置される面に陽極ガスケットが配置され、前記陰極室枠の前記多孔質隔膜が配置される面に陰極ガスケットが配置され、
前記陽極室枠と前記陰極室枠とが締め付けられた時に前記陽極ガスケット及び前記陰極ガスケットを介して前記多孔質隔膜が前記陽極室枠と前記陰極室枠とに挟持されるとともに、前記陽極ガスケットと前記陰極ガスケットとが圧縮され、前記多孔質隔膜の周端部で前記陽極ガスケットと前記陰極ガスケットとが接触することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の電解装置においては、前記陽極ガスケット及び前記陰極ガスケットが同一形状を有し、前記陽極ガスケット及び前記陰極ガスケットのガスケット幅をW、圧縮前の前記陽極ガスケット及び前記陰極ガスケットの厚さをD、圧縮後の前記陽極ガスケット及び前記陰極ガスケットの内周側の厚さをD’、前記陽極ガスケット及び前記陰極ガスケットと前記多孔質隔膜との接触幅をA、圧縮時の前記多孔質隔膜の厚さをTとしたときに、式(1)〜(3)の条件を満足することが好ましい。
A≧3mm …(1)
W−A≧3mm …(2)
(D−D’)×2−T≧0.01mm …(3)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルカリ水電解装置において多孔質隔膜の端部からの電解液の漏れを簡易な方法で防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一好適な実施の形態に係るアルカリ水電解装置の陽極室枠及び陰極室枠を締め付ける前の片側断面図である。
【
図2】
図1における多孔質隔膜の周端部側での拡大断面図である。
【
図3】本発明の一好適な実施の形態に係るアルカリ水電解装置の陽極室枠及び陰極室枠を締め付けた後の片側断面図である。
【
図4】
図3における多孔質隔膜の周端部側での拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて詳細に説明する。
図1〜
図4は、本発明の一好適な実施の形態に係るアルカリ水電解装置を説明するための断面図である。
図1は、陽極室枠及び陰極室枠を締め付ける前の状態を表す。
図2は
図1における多孔質隔膜の周端部側での拡大断面図である。アルカリ水電解装置10は、陽極室12を画定する陽極室枠11、陰極室18を画定する陰極室枠17、陽極室枠11と陰極室枠17との間に配置され、陽極室12と陰極室18とを区画する多孔質隔膜16とを有する。陽極室12内に陽極13が収容される。陰極室18内に陰極19が収容される。図示例においては、陽極13及び陰極19は、それぞれ支持体14、20に、それぞれ支持されている。
【0013】
陽極室枠11及び陰極室枠17は一面が開口した槽体である。図示されていないが、陽極室枠11と陰極室枠17には、電解液の供給口と、電解後のアルカリ水溶液と気体の排出口とが設けられる。多孔質隔膜16が配置される陽極室枠11の面(ガスケット面)11aに陽極ガスケット15が配置される。また、多孔質隔膜16が配置される陰極室枠17の面(ガスケット面)17aに陰極ガスケット21が配置される。具体的に、陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21は各室枠のフランジ部に配置される。多孔質隔膜16は、陽極ガスケット15と陰極ガスケット21とに挟持されている。
【0014】
陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21は、陽極室枠11及び陰極室枠17のガスケット面に対応する形状を有する。例えば、ガスケット面が矩形であれば、陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21は中央部に矩形の開口を有する矩形の枠状体である。あるいは、ガスケット面が円形であれば、陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21はリング状の枠状体であっても良い。陽極ガスケット15と陰極ガスケット21とは、互いに同一形状や厚さを有していても良いが、形状や厚さが異なっていても良い。陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21は平板形状であることが好ましいが、多孔質隔膜16の位置決めのために、多孔質隔膜16と接触する側の面において、ガスケット15,21の内周側の厚さが薄くなるような段差が設けられていても良い。
【0015】
本発明において、多孔質隔膜16は陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21よりも小さく、陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21の開口よりも大きい。従って、多孔質隔膜16を陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21で挟んだときに、多孔質隔膜16の端部はガスケット15,21の外側にはみ出ていない。陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21の内周側では多孔質隔膜16と各ガスケット15,21とが接触するが、外周側では多孔質隔膜16は各ガスケット15,21と接触していない。
【0016】
図3は、本発明の一好適な実施の形態に係るアルカリ水電解装置を説明するための断面図であり、陽極室枠及び陰極室枠を締め付けた後の状態を表す。
図4は
図3における多孔質隔膜の周端部側での拡大断面図である。本発明のアルカリ水電解装置10においては、
図3及び
図4に示すように、陽極室枠11と陰極室枠17とが締め付けられることにより、多孔質隔膜16が陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21を介して陽極室枠11及び陰極室枠17に挟持される。この時、陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21が圧縮されて変形し、陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21は外周部が互いに接触する。これにより、多孔質隔膜16の周端部の外側が各ガスケット15,21により囲まれた状態になり、陽極室12及び陰極室18に電解液を充填した際に陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21により液密状態が保持される。
【0017】
従来の多孔質隔膜を備えたアルカリ水電解装置において、陽極室及び陰極室に電解液(アルカリ水溶液)を充填すると、アルカリ水溶液が多孔質隔膜に浸透し、端部からアルカリ水溶液が外部に漏出する。本発明のアルカリ水電解装置10においては、陽極室枠11と陰極室枠17とを締め付けることにより多孔質隔膜16の周端部側で陽極ガスケット15と陰極ガスケット21とが接触して液密状態が保持されているため、アルカリ水溶液の外部への漏洩を防止している。
【0018】
図2に示すように、陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21の幅(ガスケット幅)をW、陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21と多孔質隔膜16との接触幅をAと定義する。多孔質隔膜16を各ガスケット15,21で挟持するためには、接触幅はA≧3mm(式(1))である。一方、Aが大きくなることは陽極室枠11及び陰極室枠17のフランジ部の幅が増大することに繋がる。アルカリ水電解装置10の設置面積等を考慮して、接触幅Aの上限値が適宜規定される。
【0019】
ガスケット幅Wと接触幅Aとの差W−Aは、陽極ガスケット15と陰極ガスケット21との接触代に相当する。陽極ガスケット15と陰極ガスケット21とを接触させるためには、陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21が多孔質隔膜16よりも大きくなければならない。ガスケットを配置する際の位置決め精度及び作業性を考慮するとともに、陽極ガスケット15と陰極ガスケット21との接触により多孔質隔膜16の周端部側で液密状態を確保するために、ガスケット接触代はW−A≧3mm(式(2))であることが好ましい。ガスケット接触代W−Aが大きければ陽極ガスケット15と陰極ガスケット21との接触面積が多くなり、より確実に液密状態を確保することができる。ただし、W−Aが大きくなることはアルカリ水電解装置10の設置面積を増大することに繋がる。このため、電解液の漏洩と設置面積等を考慮して、接触代W−Aの上限値が適宜設定される。
【0020】
図2に示すように、圧縮前の陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21の厚さをDと定義する。また、
図4に示すように、圧縮後の陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21の内周側の厚さをD’、圧縮後の多孔質隔膜16の厚さをTと定義する。本発明において電解液の漏出を防止するためには、式(1)、式(2)に加えて式(3)の関係を満たすことが好ましい。
(D−D’)×2−T≧0.01mm …(3)
【0021】
式(3)を満足する圧縮量を得るように、陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21にかかる圧力(締め付け面圧)を調整する。ガスケット幅Wを一定とすると、ガスケット接触代W−Aと電解液の漏出との間に以下の関係がある。ガスケット接触代W−Aが大きくなると接触幅Aが小さくなり、ガスケットの受圧面積が小さくなる。このため、陽極室枠11と陰極室枠17とを締め付けたときに陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21にかかる「圧力(ガスケット面圧)」が大きくなり、陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21の圧縮量が大きくなる。すなわち、締め付け面圧が小さくても電解液の漏出を防止することができる。一方、ガスケット接触代W−Aが小さくなると接触幅Aが大きくなり、ガスケットの受圧面積が大きくなる。このため、陽極室枠11と陰極室枠17とを締め付けたときに陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21にかかる「圧力(ガスケット面圧)」が小さくなり、陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21の圧縮量が小さくなる。すなわち、電解液の漏出を防止するためには、締め付け面積をある程度大きくしなければならない。
【0022】
本発明のアルカリ水電解装置10では、陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21と多孔質隔膜16との配置関係、多孔質隔膜16の周端部が陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21に囲まれること以外の構成については、既知の構成を採用することができる。
【0023】
本発明のアルカリ水電解装置10においては、多孔質隔膜16としては、一般に入手可能なアルカリ水電解用隔膜を用いることができる。アルカリ水電解用隔膜は、シート状の多孔性支持体と、前記支持体に含浸している有機高分子樹脂とを含む多孔膜である。支持体は、不織布、織布、又は、不織布と織布の複合布である。支持体は、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、フッ素系樹脂、ポリケトン、ポリイミド、及び、ポリエーテルイミドからなる群から選択される少なくとも1種の繊維で形成される。有機高分子樹脂は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、及び、 ポリエーテルイミドからなる群から選択される少なくとも1種からなる。
【0024】
本発明のアルカリ水電解装置10の陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21の具体例としては、額縁状のゴム製シート等が挙げられる。陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21には、腐食性の電解液や生成するガス等に対して耐性を有し、長期間使用できることが求められるので、耐薬品性や硬度の点から、陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21の材質としては、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、エチレン・プロピレンゴム(EPM)の加硫品や過酸化物架橋品等を好ましく用いることができる。また、必要に応じて液体に接する領域(接液部)をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等のフッ素系樹脂で被覆したガスケットを用いることもできる。陽極ガスケット15及び陰極ガスケット21の厚さは、例えば1mm〜4mm程度である。
【0025】
本発明のアルカリ水電解装置10においては、陽極13及び陰極19として、導電性基材上に触媒層を備えたものを好適に用いることができる。
【0026】
図1〜4では一対の陽極室枠及び陰極室枠からなる1ユニットのアルカリ水電解装置の構造が示されているが、本発明はこれに限定されない。本発明は、1つのユニットの陽極室枠と別ユニットの陰極室枠とを一体化することによって、複数のユニットを有するアルカリ水電解装置にも適用することができる。
【0027】
本発明のアルカリ水電解装置10は、締め付け面圧が不均一になり易く、電解液の漏洩が発生し易い大型のアルカリ水電解装置に特に好適に適用することができる。ここで、大型のアルカリ水電解装置とは、電極面積が3m
2以上のものをいう。
【0028】
本発明のアルカリ水電解装置10を用いてアルカリ水の電解を行う場合、陽極室12及び陰極室18の内部を電解液で満たし、陽極13と陰極19の間に直流電流を印加して行う。電解液としては、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのアルカリ水溶液が用いられる。アルカリ水溶液の濃度は、特に限定されるものではないが、15〜40質量%が好ましく、20〜35質量%がより好ましい。15〜40質量%の範囲とすることで、溶液のイオン伝導性が十分発現され、溶液による電気抵抗を軽減することができる。
【0029】
また、アルカリ水溶液の電解を行うときの温度についても、特に制限されるものではないが、40℃〜90℃が好ましく、60℃〜90℃の範囲がより好ましい。かかる温度範囲であれば、溶液のイオン伝導性が十分発現され、アルカリ水溶液の電解を効率的に行うことができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0031】
電解面積1dm
2(10cm×10cm)のセルを用い、アルカリ水電解用隔膜を陽極ガスケット及び陰極ガスケットを介して陽極室枠及び陰極室枠で挟んで締結し、電解セルを組み立てた。各構成の材質、寸法、及び締め付け条件は以下の通りである。
ガスケット仕様
外寸:150mm×150mm
内寸:104mm×104mm(ガスケット開口に相当)
ガスケット幅(
図1中の符号W):23mm
厚さ:3mm
材質:EPDM
ガスケット同士の接触代(W−Aに相当):0、3、5、10、15、20mm
ガスケット締め付け面圧:10〜50kgf/cm
2
【0032】
陽極室及び陰極室内に25wt%KOH水溶液を液張りした。多孔質隔膜からの液の染み出しを促進させるために、陽極室内及び陰極室内の加圧条件を2000mmH
2Oとした。この状態で15分放置した後、ガスケット周縁部からのKOH水溶液の漏出を目視及びpH試験紙で確認した。ガスケット同士の接触代及びガスケット面圧をパラメータとしたときの漏出状況を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
ガスケット接触代が0mm(W−A=0)の場合は、面圧を高くしてもKOH水溶液の漏出が確認された。この条件では多孔質隔膜の周縁部を陽極ガスケット及び陰極ガスケットで囲まれていないことが目視でも確認できた。
【0035】
ガスケット接触代W−Aが3mm以上でKOH水溶液の漏出を防止できる条件があった。ガスケット面圧の調整によりKOH水溶液の漏出が防止できることが分かる。表1から明らかなように、ガスケット接触代W−Aが大きくなるほど、低いガスケット面圧でも漏出を防止することができる。
【0036】
表1に示したガスケット接触代及びガスケット面圧の条件での各ガスケットの圧縮量(式(3)におけるD−D’に相当)及び圧縮後の多孔質隔膜の膜厚を計算した。表2に各条件における式(3)の左辺(D−D’)×2−T(単位:mm)を示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表1と表2とを比較すると、(D−D’)×2−Tが正、すなわち、0.01mm以上の場合に漏出が防止でき、(D−D’)×2−Tが負の場合に電解液が漏出することが分かる。表1,2の結果から、(D−D’)×2−T≧0.01mmとの条件が電解液の漏出を防止することができる条件であると言える。なお、多孔質隔膜の種類を変えた場合でも、表1,2と同じ傾向があることが確認された。
【符号の説明】
【0039】
10 アルカリ水電解装置
11 陽極室枠
11a 陽極室枠の面
12 陽極室
13 陽極
14 支持体
15 陽極ガスケット
16 多孔質隔膜
17 陰極室枠
17a 陰極室枠の面
18 陰極室
19 陰極
20 支持体
21 陰極ガスケット