【解決手段】減衰機構110は、下部構造体12と上部構造体14との間に水平方向を長手方向(軸方向)として設けられ、上部構造体14と下部構造体12との水平方向の相対変位を長手方向の伸縮で吸収するダンパー102と、下部構造体12と上部構造体14との間に設けられ下部構造体12と上部構造体14との水平方向の相対変位量よりも長手方向の伸縮量を低減してダンパー102に伝達する伸縮量低減機構120と、を備えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記を事実考慮し、減衰機構の鉛直方向の大きさを抑えつつ、ダンパーの軸方向の伸縮量を小さくすることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、下部構造体と上部構造体との間に水平方向を軸方向として設けられ、前記上部構造体と前記下部構造体との水平方向の相対変位を前記軸方向の伸縮で吸収するダンパーと、前記下部構造体と前記上部構造体との間に設けられ、前記下部構造体と前記上部構造体との水平方向の相対変位量よりも前記軸方向の伸縮量を低減して前記ダンパーに伝達する伸縮量低減機構と、を備え、前記伸縮量低減機構は、水平方向を長手方向として配置され両端部が水平方向に回転可能に連結された四本のアームが、平面視で矩形状に配置されたリンク部を有し、矩形状に配置された前記リンク部の長い方の対角線の二つの角部に前記ダンパーの両端部が水平方向に回転可能に連結され、前記リンク部の短い方の対角線の二つの角部の一方が前記下部構造体に連結され、前記角部の他方が前記上部構造体に連結されている、減衰機構である。
【0009】
請求項1に記載の発明では、下部構造体と上部構造体とが相対的に水平方向に変位すると、下部構造体と上部構造体とに連結された減衰機構における伸縮量低減機構のリンク部の短い方の対角線の二つの角部の水平方向の距離が伸縮する。また、これに伴いリンク部の長い方の対角線の二つの角部の水平方向の距離が伸縮、すなわちこれらの角部に両端部が連結されたダンパーが軸方向に伸縮し、エネルギーを吸収する。
【0010】
このとき、幾何学的な特性から減衰機構における伸縮量低減機構のリンク部の短い方の対角線の二つの角部の水平方向の伸縮量、すなわち下部構造体と上部構造体との水平方向の相対的な変位量よりも、リンク部の長い方の対角線の二つの角部の水平方向の伸縮量、すなわちダンパーの軸方向の伸縮量は小さくなる。つまり、伸縮量低減機構によって、下部構造体と上部構造体との水平方向の相対変位量よりも軸方向の伸縮量が低減されてダンパーに伝達される。
【0011】
よって、下部構造体と上部構造体との水平方向の相対変位量が大きくても、ダンパーの軸方向の伸縮が抑えられる。
【0012】
ここで、本減衰機構は、ダンパーは水平方向を軸方向として設けられている。また、伸縮量低減機構は、水平方向を長手方向として配置され両端部が水平方向に回転可能に連結された四本のアームで構成されている。よって、アームが鉛直方向若しくは略鉛直方向を長手方向として配置され、上下方向に回転する構成と比較し、減衰機構の鉛直方向の大きさが抑えられる。また、理論上、アームにはダンパー抵抗による曲げ応力が発生しない。
【0013】
したがって、減衰機構の鉛直方向の大きさを抑えつつ、ダンパーの軸方向の伸縮量を小さくすることができる。
【0014】
請求項2の発明は、前記伸縮量低減機構の前記リンク部は、平面視において、四本の前記アームが菱形状に配置されている、請求項1に記載の減衰機構である。
【0015】
請求項2に記載の発明では、伸縮量低減機構のリンク部は、平面視において、四本のアームが菱形状に配置されているので、菱形で無い場合と比較し、ダンパーの伸縮量がより低減される。
【0016】
請求項3の発明は、下部構造体と上部構造体との間に水平方向を軸方向として設けられ、前記上部構造体と前記下部構造体との水平方向の相対変位を前記軸方向の伸縮で吸収するダンパーと、前記下部構造体と前記上部構造体との間に設けられ、前記下部構造体と前記上部構造体との水平方向の相対変位量よりも前記軸方向の伸縮量を低減して前記ダンパーに伝達する伸縮量低減機構と、を備え、前記伸縮量低減機構は、水平方向を長手方向として配置され両端部が水平方向に回転可能に連結された二本のアームが平面視で角度を持って配置されたリンク部を有し、前記リンク部を構成する一方の前記アームの一端部と他方の前記アームの一端部とが連結された連結部に前記ダンパーの一端部が水平方向に回転可能に連結され、前記下部構造体及び前記上部構造体の一方に前記ダンパーの他端部が水平方向に回転可能に連結され、前記リンク部を構成する一方の前記アームの他端部は前記下部構造体に連結され、他方の前記アームの他端部は前記上部構造体に連結されている、減衰機構である。
【0017】
請求項3に記載の発明では、下部構造体と上部構造体とが相対的に水平方向に変位すると、下部構造体と上部構造体とに連結された減衰機構における伸縮量低減機構のリンク部の一方のアームと他方のアームとの連結部に一端部が接続され、他端部が下部構造体及び上部構造体の一方に連結されたダンパーが伸張する。
【0018】
このとき、幾何学的な特性から減衰機構における伸縮量低減機構のリンク部の一方のアームの他端部と他方のアームの他端部の変位量、すなわち下部構造体と上部構造体との水平方向の相対的の変位量よりも、一方のアームの一端部と他方のアームの一端部との連結部に連結されたダンパーの伸縮量は小さくなる。つまり、伸縮量低減機構によって、下部構造体と上部構造体との水平方向の相対変位量よりも軸方向の伸縮量が低減されてダンパーに伝達される。
【0019】
よって、下部構造体と上部構造体との水平方向の相対変位量が大きくても、ダンパーの軸方向の伸縮が抑えられる。
【0020】
ここで、本減衰機構は、ダンパーは水平方向を軸方向として設けられている。また、伸縮量低減機構は、水平方向を長手方向として配置され両端部が水平方向に回転可能に連結された二本のアームで構成されている。よって、アームが鉛直方向若しくは略鉛直方向を長手方向として配置され、上下方向に回転する構成と比較し、減衰機構の鉛直方向の大きさが抑えられる。また、理論上、アームにはダンパー抵抗による曲げ応力が発生しない。
【0021】
したがって、減衰機構の鉛直方向の大きさを抑えつつ、ダンパーの軸方向の伸縮量を小さくすることができる。
【0022】
また、二本のアームのアーム長の比を変えることで、ダンパーの伸縮量を調整することができる。
【0023】
請求項4の発明は、前記伸縮量低減機構の前記リンク部は、平面視において、二本の前記アームがL状に配置され、前記ダンパーは、平面視において、二本の前記アームの一方と同一直線状に配置されている、請求項3に記載の減衰機構である。
【0024】
請求項4に記載の発明では、平面視において、二本の前記アームがL状に配置され、ダンパーは、二本のアームの一方と同一直線状に配置されている、すなわち二本のアームとダンパーとでT字形状をなしているので、T字形状をなしていない場合と比較し、ダンパーの伸縮量がより低減される。
【0025】
また、二本のアームとダンパーとでT字形状をなしているので、ダンパーは必ず伸張し、収縮しない。
【0026】
請求項5の発明は、下部構造体と上部構造体との間に設けられ、前記下部構造体に前記上部構造体を水平方向に相対移動可能に支持する支持部材と、前記下部構造体と前記上部構造体との間に設けられた請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の減衰機構と、を備える構造物である。
【0027】
請求項5に記載の発明では、下部構造体と上部構造体との水平方向の相対変位量が大きくても、ダンパーの軸方向の伸縮が抑えられるので、地震動の入力レベルが大きくても効果的にダンパー機能を発揮することができる。
【0028】
また、減衰機構の鉛直方向の大きさを抑えつつ、ダンパーの軸方向の伸縮量を小さくすることができるので、アームが鉛直方向又は略鉛直方向を長手方向として配置され、上下方向に回転する構成と比較し、下部構造体と上部構造体との鉛直方向の間隔を、広く確保する必要がなく、狭くできる。また、減衰機構のアームには、理論上、ダンパー抵抗による曲げ応力が発生しない。
【0029】
請求項6の発明は、前記下部構造体には、前記減衰機構の変形に追従しつつ、前記減衰機構を支持する支持機構が設けられている、請求項5に記載の構造物である。
【0030】
請求項6に記載の発明では、下部構造体には、減衰機構の変形に追従しつつ、減衰機構を支持する支持機構が設けられているので、減衰機構の自重による変形が防止又は抑制される。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、減衰機構の鉛直方向の大きさを抑えつつ、ダンパーの軸方向の伸縮量を小さくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態に係る構造物について説明する。なお、各図において適宜示される矢印X及び矢印Yは水平方向における直交する2方向を示し、矢印Zは鉛直方向を示している。
【0034】
[構造]
本実施形態の構造物の全体構造について説明する。
【0035】
図1及び
図2(A)に示すように、構造物10は下部構造体12と上部構造体14(
図2(A)参照)との間に、免震装置100が設置された免震層16が設けられている。
【0036】
なお、本実施形態の構造物10は、下部構造体12が図示されていない地盤に構築された免震ピットである基礎免震構造となっている。しかし、基礎免震構造に限定されるものではなく、例えば中間免震構造であってもよい。
【0037】
図1に示すように、免震装置100を構成する支持部材の一例としての積層ゴム50は、上部構造体14を鉛直方向に支持しつつ水平方向に相対移動可能に支持している。積層ゴム50は、円板状の下部フランジ52と上部フランジ54との間に、ゴム板と鋼板とが厚み方向に交互に積層された本体部56が設けられた構成とされている。なお、
図2(A)に示す積層ゴム50は、一例であって、このような構成に限定されない。他の構成の積層ゴムであってもよい。
【0038】
下部構造体12の底部13に設けられた下側架台22と、上部構造体14の下面部15に設けられた上側架台24と、の間に積層ゴム50が配置されている。そして、積層ゴム50の下部フランジ52及び上部フランジ54が、それぞれ下側架台22及び上側架台24に接合されている。
【0039】
積層ゴム50は、上部構造体14の図示していない柱の直下に位置し、かつ図示していない杭の直上に位置するように設置されている。なお、積層ゴム50の設置位置は、これに限定されるものではない。例えば、上部構造体14の図示していない柱の直下以外に積層ゴム50が設置されていてもよい。
【0040】
図1に示すように、減衰機構110は、伸縮量低減機構120及びダンパー102を含んで構成されている。本実施形態のダンパー102は、長手方向(軸方向)に伸縮することでエネルギーを吸収するオイルダンパーである。
【0041】
伸縮量低減機構120は、水平方向を長手方向として配置され両端部が水平方向に回転可能に連結された四本の略同じ長さのアーム122A、122B、122C、122Dが、平面視において、菱形状に配置されているリンク部124を有している(
図9(A)も参照)。
【0042】
リンク部124は、アーム122Aの一端部123Aとアーム122Bの一端部123Bとが連結部材130にそれぞれ回転可能に連結されている。同様にアーム122Cの一端部123Cとアーム122Dの一端部123Dとが連結部材140にそれぞれ回転可能に連結されている。また、アーム122Aの他端部121Aとアーム122Dの他端部121Dとが回転可能に連結されている。同様にアーム122Bの他端部121Bとアーム122Cの他端部121Cとが回転可能に連結されている。
【0043】
アーム122Aの一端部123Aとアーム122Bの一端部123Bとが回転可能に連結された連結部材130は、下部構造体12の底部13に設けられた下側接合部132に接合されている。また、アーム122Cの一端部123Cとアーム122Dの一端部123Dとが回転可能に連結された連結部材140は、上部構造体14の下面部15(
図2(A)参照)に設けられた上側接合部142に接合されている。なお、連結部材130が上部構造体14に接合され、連結部材140が下部構造体12に接合されていてもよい。
【0044】
また、アーム122Bの他端部121Bに設けられた連結部125Bとアーム122Dの他端部121Dに設けられた連結部125Dとに、ダンパー102の端部103A、103Bがそれぞれ回転可能に連結されている。なお、連結部125B、125Dは、他端部121A、121Cに設けられていてもよい。
【0045】
別の観点から説明すると、
図9(A)に示す菱形状のリンク部124の短い方の対角線T2の二つの角部K2の一方が下部構造体12(
図2(A)参照)に連結され、二つの角部K2の他方が上部構造体14(
図2(A)参照)に連結されている。また、菱形状のリンク部124の長い方の対角線T1の二つの角部K1には、ダンパーの端部103A、103B(
図1参照)が水平方向に回転可能に連結されている
【0046】
なお、本実施形態では、
図1に示すように、下部構造体12の底部13における二つの角部K1(
図9(A)参照)の下側(アーム122Aの他端部121Aとアーム122Dの他端部121Dとが回転可能に連結されている部位及びアーム122Bの他端部121Bとアーム122Cの他端部121Cとが回転可能に連結されている部位の下側)には、それぞれ支持機構150が設けられている(
図2(A)及び
図2(B)も参照)。
【0047】
図2(B)に示すように、支持機構150は、台部152と、支承部154と、を含んで構成されている。台部152は、下部構造体12の底部13に設けられている。支承部154の下面には、フッ素樹脂等で構成されたシート状の滑材156が設けられている。滑材156は、台部152の上面152Aに接触している。また、支承部154の上端部は、角部K1(
図9(A))に回転可能に連結されている。
【0048】
よって、後述するように、角部K1(
図9(A))が移動しても、支承部154が台部152の上面152A上を滑って移動する。このように、減衰機構110は、支持機構150(支承部154によって下部構造体12に設けられた台部152)によって支持されているので、減衰機構110の自重による変形が防止又は抑制される。
【0049】
[作用及び効果]
つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0050】
免震層16に設けられた積層ゴム50は、上部構造体14を鉛直方向に支持しつつ水平方向に相対移動可能に支持している。よって、地震などの外乱が作用すると、下部構造体12と上部構造体14とが水平方向に相対変位する。
【0051】
ここで、前述したように、減衰機構110の伸縮量低減機構120のリンク部124を構成するアーム122Aの一端部123Aとアーム122Bの一端部123Bとが回転可能に連結された連結部材130は、下部構造体12の底部13に設けられた下側接合部132に接合されている。また、アーム122Cの一端部123Cとアーム122Dの一端部123Dとが回転可能に連結された連結部材140は、上部構造体14の下面部15に設けられた上側接合部142に接合されている。別の観点から説明すると、菱形状のリンク部124の短い方の対角線T2の二つの角部K2の一方が下部構造体12に連結され、二つの角部K2の他方が上部構造体14に連結されている。
【0052】
よって、下部構造体12と上部構造体14とが水平方向に相対変位すると、リンク部124のアーム122Aの一端部123Aとアーム122Bの一端部123Bとが回転可能に連結された連結部材130と、アーム122Cの一端部123Cとアーム122Dの一端部123Dとが回転可能に連結された連結部材140との、距離が伸縮する。すなわち、菱形状のリンク部124の短い方の対角線T2の二つの角部K2の水平方向の距離が伸縮する。
【0053】
そして、これに伴いリンク部124の長い方の対角線T1の二つの角部K1の水平方向の距離が伸縮する。すなわち、アーム122Aの他端部121Aとアーム122Dの他端部121Dとが回転可能に連結されている部位(連結部125D)と、アーム122Bの他端部121Bとアーム122Cの他端部121Cとが回転可能に連結されている部位(連結部125B)とに、端部103A,103Bが連結されたダンパー102が長手方向に伸縮し、エネルギーを吸収する。
【0054】
このとき、幾何学的な特性から減衰機構110における伸縮量低減機構120のリンク部124の短い方の対角線T2の二つの角部K1の水平方向の伸縮量、すなわち下部構造体12と上部構造体14との水平方向の相対的な変位量よりも、リンク部124の長い方の対角線T1の二つの角部K1の水平方向の伸縮量、すなわちダンパー102の長手方向の伸縮量は小さくなる。つまり、伸縮量低減機構120によって、下部構造体12と上部構造体14との水平方向の相対変位量よりも長手方向の伸縮量が低減されてダンパー102に伝達される。
【0055】
よって、下部構造体12と上部構造体14との水平方向の相対変位量が大きくても、ダンパー102の長手方向の伸縮が抑えられる。
【0056】
ここで、本減衰機構110においては、ダンパー102は水平方向を長手方向として設けられている。また、伸縮量低減機構120は、水平方向を長手方向として配置され両端部が水平方向に回転可能(回転軸が鉛直)に連結された四本のアーム122A、122B、122C、122Dで構成されている。よって、例えば、四本のアーム122A、122B、122C、122Dが鉛直方向又は略鉛直方向を長手方向として配置され、回転軸方向が水平方向で上下方向に回転する構成と比較し、減衰機構110の鉛直方向の大きさが抑えられる。
【0057】
したがって、減衰機構110の鉛直方向の大きさを抑えつつ、ダンパー102の長手方向の伸縮量を小さくすることができる。
【0058】
また、伸縮量低減機構120のリンク部124は、平面視において、四本のアーム122A、122B、122C、122Dが菱形状に配置されているので、菱形でない場合と比較し、ダンパー102の長手方向の伸縮量をより小さくすることができる。
【0059】
また、四本のアーム122A、122B、122C、122Dには、理論上、ダンパー102の抵抗による曲げ応力が発生しないので、アーム122A、122B、122C、122Dには曲げ応力に対抗するための剛性を確保する必要がない。
【0060】
(変形状態)
図3は、上部構造体14が下部構造体12に対して矢印R方向に相対移動した場合のダンパー102の伸縮量を示している。矢印Rは、上部構造体14が下部構造体12に対して相対移動した方向を示している。また、ΔLはダンパー102の伸縮量を示している。ΔLの値が+(プラス)の場合はダンパー102が伸張していることを示し、ΔLの値が−(マイナス)の場合はダンパー102が収縮していることを示している。βは、「矢印R方向の変位量(本例では200mm)/ΔL」の絶対値、つまり伸縮量の低減率を示している。
【0061】
図4は、上部構造体14の下部構造体12に対するX方向及びY方向の相対変位量に対するダンパー102の伸縮量を示している。なお、本例では、X方向の初期倍率は0.8倍、四本のアーム122A、122B、122C、122Dのアーム長は2242mm、ダンパー102の長さは3500mmとした。
【0062】
これら
図3及び
図4から、本実施形態の伸縮量低減機構120によって、上部構造体14と下部構造体12との水平方向の相対変位量よりも長手方向の伸縮量が低減されてダンパー102に伝達されることが判る。なお、本実施形態の伸縮量低減機構120では、X方向の相対変位ではダンパー102は大きく伸縮する。XY方向の相対変位でもダンパー102は伸縮し伸縮量が低減される。Y方向の相対変位ではダンパー102の伸縮量は極めて小さい。よって、上部構造体14の下部構造体12に対する全方向の相対変位に対して、ダンパー102の伸縮量が低減される。
【0063】
[第一実施形態の他の例]
本実施形態では、伸縮量低減機構120のリンク部124は、水平方向を長手方向として配置され両端部が水平方向に回転可能に連結された四本の略同じ長さのアーム122A、122B、122C、122Dが、平面視において、菱形状に配置されている。
【0064】
しかし、リンク部は、このような構成に限定されない。
【0065】
例えば、
図9(B)のように、二本の略同じ長さのアーム222A、222B及び二本の略同じ長さのアーム223C、223Dが、平面視において、矩形状に回転可能に連結されて配置されているリンク部224を有する伸縮量低減機構220であってもよい。
【0066】
なお、アーム222A、222Bよりもアーム223C、223Dのほうが長い。そして、リンク部224の短い方の対角線T2の二つの角部K2の一方が下部構造体12(
図1参照)に連結され、二つの角部K2の他方が上部構造体14(
図1参照)に連結されている。また、菱形状のリンク部124の長い方の対角線T1の二つの角部K1には、ダンパーの端部103A、103B(
図1参照)が水平方向に回転可能に連結されている。
【0067】
要は、伸縮量低減機構は、水平方向を長手方向として配置され両端部が水平方向に回転可能に連結された四本のアームが、平面視で矩形状に配置されたリンク部を有し、矩形状に配置されたリンク部の長い方の対角線の二つの角部にダンパーの両端部が水平方向に回転可能に連結され、リンク部の短い方の対角線(
図9のT2を参照(T1>T2))の二つの角部の一方が下部構造体に連結され、角部の他方が上部構造体に連結されていればよい。
【0068】
<第二実施形態>
本発明の第二実施形態に係る構造物について説明する。なお、各図において適宜示される矢印X及び矢印Yは水平方向における直交する2方向を示し、矢印Zは鉛直方向を示している。また、第一実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0069】
[構造]
本実施形態の構造物の全体構造について説明する。
【0070】
図5及び
図6(A)に示すように、構造物11は下部構造体12と上部構造体14(
図6(A)参照)との間に、免震装置300が設置された免震層19が設けられている。
【0071】
なお、本実施形態の構造物11は、下部構造体12が図示されていない地盤に構築された免震ピットである基礎免震構造となっている。しかし、基礎免震構造に限定されるものではなく、例えば中間免震構造であってもよい。
【0072】
図5に示すように、減衰機構310は、伸縮量低減機構320及びダンパー102を含んで構成されている。伸縮量低減機構320は、水平方向を長手方向として配置され両端部が水平方向に回転可能に連結された二本の長さの異なるアーム322A、322Bが、水平方向を長手方向として配置され両端部が水平方向に回転可能に連結されているリンク部324を有している(
図10(A)も参照)。リンク部324を構成する二本のアームは、平面視で角度を持って、本実施形態では平面視でL字状に配置されている(
図10(A)も参照)。なお、アーム322Aとアーム322Bのアーム長は同じでもよい。
【0073】
リンク部324は、短い方のアーム322Aの一端部323Aは、連結部材331を介して下部構造体12の底部13に設けられた下側接合部332に接合されている。長い方のアーム322Bの一端部323Bは、連結部材341を介して上部構造体14の下面部15に設けられた上側接合部342に接合されている。アーム322Aの他端部321Aとアーム322Bの他端部321Bは、回転可能に連結されている。
【0074】
そして、アーム322Aの他端部321Aとアーム322Bの他端部321Bとの連結部位に、ダンパー102の端部103Aが回転可能に連結されている。また、ダンパー102は、平面視において、アーム322Aと同一直線状に配置されている。
【0075】
別の観点から説明すると、二本のアーム322A、322Bとダンパー102とでT字状を成している。
【0076】
ダンパー102の端部103Bは、連結部材351を介して下部構造体12の底部13に設けられた下側接合部352に接合されている。
【0077】
なお、本実施形態では、下部構造体12の底部13におけるアーム322Aの他端部321Aとアーム322Bの他端部321Bとダンパー102の端部103Aとが回転可能に連結されている部位の下側には、それぞれ支持機構150が設けられている(
図6(A)及び
図6(B)も参照)。よって、減衰機構310を支持機構150が支持しているので、減衰機構310の自重による変形が防止又は抑制される。
【0078】
[作用及び効果]
つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0079】
地震などの外乱が作用すると、下部構造体12と上部構造体14とが水平方向に相対変位する。
【0080】
ここで、前述したように、減衰機構310の伸縮量低減機構320のリンク部324を構成するアーム322Aの一端部323Aは下部構造体12の底部13に設けられた下側接合部332に接合されている。また、アーム322Bの一端部323Bは上部構造体14の下面部15に設けられた上側接合部342に接合されている。そして、ダンパー102の端部103Aは、アーム322Aの他端部321Aとアーム322Bの他端部321Bとの連結部位に回転可能に連結され、ダンパー102の端部103Bは、下部構造体12の底部13に設けられた下側接合部352に接合されている。また、二本のアーム322A、322Bとダンパー102とでT字状を成している。
【0081】
よって、下部構造体12と上部構造体14とが水平方向に相対変位すると、リンク部324のアーム322Aの他端部321Aとアーム322Bの他端部321Bとの連結部位が、水平方向に変位する。そして、この連結部位と上部構造体14とに接合されたダンパー102が長手方向に伸張し、エネルギーを吸収する。
【0082】
このとき、幾何学的な特性から減衰機構310におけるダンパー102の伸張量は、下部構造体12と上部構造体14との水平方向の相対的な変位量よりも小さくなる。つまり、伸縮量低減機構320によって、下部構造体12と上部構造体14との水平方向の相対変位量よりも長手方向の伸縮量が低減されてダンパー102に伝達される。
【0083】
よって、下部構造体12と上部構造体14との水平方向の相対変位量が大きくても、ダンパー102の長手方向の伸縮が抑えられる。
【0084】
ここで、本減衰機構310においては、ダンパー102は水平方向を長手方向として設けられている。また、伸縮量低減機構320は、水平方向を長手方向として配置され両端部が水平方向に回転可能に連結された二本のアーム322A、322Bで構成されている。よって、例えば、二本のアーム322A、322Bが鉛直方向又は略鉛直方向を長手方向として配置され、上下方向に回転する構成と比較し、減衰機構310の鉛直方向の大きさが抑えられる。
【0085】
したがって、減衰機構310の鉛直方向の大きさを抑えつつ、ダンパー102の長手方向の伸縮量を小さくすることができる。
【0086】
更に、本実施形態の減衰機構310は、Z方向から見た平面視で二本のアーム322A、322Bとダンパー102とでT字形状をなしているので、ダンパー102は、必ず伸張し収縮しない。よって、ダンパー102の最縮長での設置が可能となる。
【0087】
また、本実施形態の減衰機構310は、Z方向から見た平面視で二本のアーム322A、322Bとダンパー102とでT字形状をなしているので、T字形状をなしていない場合と比較し、ダンパー102の長手方向の伸縮量をより小さくすることができる。
【0088】
また、アーム322Aのアーム長が長くなるほど、ダンパー102の伸張量が低減される。つまり、アーム322Aのアーム長とアーム322Bのアーム長との比を変えることによって、ダンパー102の伸張量を調整することができる。
【0089】
また、二本のアーム322A、322Bには、理論上、ダンパー102の抵抗による曲げ応力が発生しないので、アーム322A、322Bには曲げ応力に対抗するための剛性を確保する必要ない。
【0090】
(変形状態)
図7は、上部構造体14が下部構造体12に対して矢印R方向に相対移動した場合のダンパー102の伸縮量を示している。なお、矢印Rは、上部構造体14が下部構造体12に対して相対移動した方向を示している。また、ΔLは、ダンパー102の伸縮量を示している。ΔLの値が+(プラス)の場合はダンパー102が伸張していることを示している。βは、「矢印R方向の変位量(本例では200mm)/ΔL」の絶対値、つまり伸縮量の低減率を示している。
【0091】
図8は、上部構造体14の下部構造体12に対するX方向及びY方向の相対変位量に対するダンパー102の伸縮量を示している。なお、アーム322A及びアーム322Bのアーム長は1500mm、ダンパー102の長さは1500mmとした。
【0092】
これら
図7及び
図8から、本実施形態の伸縮量低減機構320によって、下部構造体12と上部構造体14との水平方向の相対変位量よりも長手方向の伸縮量が低減されてダンパー102に伝達されることが判る。
【0093】
更に、本実施形態では、ダンパー102は、必ず伸張し、収縮しないことがわかる。また、上部構造体14の下部構造体12に対する全方向の相対変位に対して、ダンパー102の伸縮量が低減される。
【0094】
[第二実施形態の他の例]
本実施形態では、伸縮量低減機構320は、水平方向を長手方向として配置され両端部が水平方向に回転可能に連結された二本の長さの異なる二本のアーム322A、322Bとダンパー102とでT字状を成しているが、これに限定されない。
【0095】
例えば、
図10(B)に示すリンク部424を有する伸縮量低減機構420のように、水平方向を長手方向として配置され両端部が水平方向に回転可能に連結された二本の略同じ長さのアーム422A、422Bと、ダンパー102とが、放射状に配置されていてもよい。
【0096】
要は、伸縮量低減機構は、水平方向を長手方向として配置され両端部が水平方向に回転可能に連結された二本のアームが平面視で角度を持って配置されたリンク部を有し、リンク部を構成する一方のアームの一端部と他方のアームの一端部とが連結された連結部にダンパーの一端部が水平方向に回転可能に連結され、下部構造体及び上部構造体の一方にダンパーの他端部が水平方向に回転可能に連結され、リンク部を構成する一方のアームの他端部は下部構造体に連結され、他方のアームの他端部は上部構造体に連結されていればよい。なお、二本のアームのアーム長の比によって、ダンパーの伸張量を容易に調整することができる。
【0097】
<その他>
本実施形態は、上記実施形態に限定されない。
【0098】
例えば、上記実施形態の免震装置100(免震層16)及び免震装置300(免震層19)は、上部構造体14を鉛直方向に支持しつつ水平方向に相対移動可能に支持するアイソレータ(一例として積層ゴム50)を設置することで、上部構造体14が下部構造体12の動きに追随しない又は追従しにくくする装置全般が含まれる。
【0099】
また、前述したように、構造物10、11は、下部構造体12が図示されていない地盤に構築された免震ピットである基礎免震構造となっているが、基礎免震構造に限定されるものではなく、例えば中間免震構造であってもよい。
【0100】
また、本発明が適用された構造物10、11は、建築基準法で認定される免震構造物以外の構造物も含まれる。
【0101】
要は、下部構造体12と上部構造体14との間に、下部構造体12に上部構造体14を水平方向に相対移動可能に支持させる支持部材と減衰機構とを備える構造物全般に、本発明を適用することができる。
【0102】
また、上記実施形態では、ダンパー102は、オイルダンパーであったが、オイルダンパーに限定されない。例えば、回転慣性質量を利用した回転慣性質量ダンパーでもよいし、摩擦ダンパーであってもよい。軸方向の伸縮でエネルギーを吸収することができるダンパーであればよい。なお、ダンパーの軸方向とは、ダンパーが伸縮する方向であり、伸縮する際の軸芯の方向である。
【0103】
また、上記実施形態では支持機構150は、台部152と、下面に滑材156が設けられた支承部154と、を含んで構成されていたが、これに限定されない。減衰機構110、310の変形に追従しつつ、減衰機構110、310を支持する構成であればよい。また、支持機構は、必須の機構ではなく、設けられていなくてもよい。
【0104】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。