【実施例1】
【0011】
本発明のスクロール圧縮機の実施例1を、従来のスクロール圧縮機におけるリリース弁装置を示す
図5〜
図8を参照しつつ、
図1〜
図4を用いて説明する。
まず、
図1により、本実施例1のスクロール圧縮機の全体構成を説明する。
図1は本実施例1のスクロール圧縮機を示す縦断面図である。なお、本実施例1におけるスクロール圧縮機は、空気調和機などの冷凍サイクル装置に使用され、作動流体としてR32を70重量%以上含んだ冷媒ガス等を圧縮する冷媒圧縮機である。
【0012】
スクロール圧縮機1は、圧縮機構部2と、該圧縮機構部2を駆動するための電動機10を備える駆動部3と、前記圧縮機構部2及び前記駆動部3などを収納する密閉容器4などにより構成されている。また、本実施例では、前記密閉容器4内の上部に前記圧縮機構部2を、中部には前記駆動部3を、下部には油溜り16を設けた縦型のスクロール圧縮機に構成されている。
【0013】
前記密閉容器4は、円筒状チャンバ4aと、この円筒状チャンバ4aの上側に溶接された蓋キャップ4bと、下側に溶接された底キャップ4cにより構成されている。前記蓋キャップ4bには冷凍サイクルからの冷媒ガス(作動流体)を吸入する吸入パイプ4dが取り付けられ、前記円筒状チャンバ4aの側面には圧縮した冷媒ガスを冷凍サイクルに送り出す吐出パイプ4eが取り付けられている。前記密閉容器4内には前記圧縮機構部2と前記駆動部3が収納されており、この密閉容器4内は吐出圧力となる吐出圧空間18に形成されている。
【0014】
前記圧縮機構部2は、固定スクロール5、旋回スクロール6及びフレーム7などを基本要素として構成されている。前記固定スクロール5は前記フレーム7にボルト等により固定されており、前記旋回スクロール6は前記固定スクロール5と前記フレーム7との間に配置されて前記フレーム7に支持されている。前記フレーム7は、その外周側が前記密閉容器4の円筒状チャンバ4a内壁面に溶接などの手段で固定されている。
【0015】
前記固定スクロール5は、円板状の台板部5b、この台板部5bの上部端面である天板面5e、前記台板部5bの下部(内周下部)に立設された渦巻状のラップ(固定ラップ)5a、前記台板部5bの外周側に形成され前記吸入パイプ4dが接続される吸入口5c、前記台板部5bの略中央に形成された吐出口5dなどにより構成されている。
【0016】
前記旋回スクロール6は、円板状の台板部6b、この台板部6bに立設され前記固定ラップ5aと噛み合う渦巻状のラップ(旋回ラップ)6a、前記台板部6bの反ラップ側(背面側)の略中央に形成されたボス部6c、このボス部6cに設けられた旋回軸受6dなどにより構成されている。前記ボス部6cの旋回軸受6dには、後述するクランク軸9の偏心ピン部9bが挿入されて前記クランク軸9と連結されている。
【0017】
前記固定スクロール5と前記旋回スクロール6は、それらのラップ5a,6aが互いに噛み合うことで圧縮室17が形成され、前記旋回スクロール6が前記固定スクロール5に対して旋回運動することにより、前記圧縮室17はその容積を次第に減少させながら中央側に移動し、冷媒ガスの圧縮動作が行われる。前記圧縮室17が、前記固定スクロール5に形成された吐出口5dに開口すると、圧縮された冷媒ガスは前記吐出口5dから前記吐出圧空間18の吐出室18aに吐出される。吐出室18aに吐出された冷媒ガスは、前記固定スクロール5及び前記フレーム7の外周面と前記密閉容器4内面との間に形成されている軸方向の通路(図示せず)を介して、前記電動機10が配置されている中部空間18b側に流れ、その後前記吐出パイプ4eから冷凍サイクルに送り出される。
【0018】
前記フレーム7には、その中心に、前述したクランク軸9を回転自在に支持する主軸受8が設けられている。また、このフレーム7と、前記旋回スクロール6の背面側との間には、オルダムリング11が配設されている。このオルダムリング11は、前記フレーム7に形成されたキー溝7aと、前記旋回スクロール6の背面側に形成されたキー溝6eに係合し、前記旋回スクロール6が自転することなく、前記クランク軸9の偏心ピン部9bの偏心回転を受けて公転運動するように構成されている。
【0019】
前記電動機10は、ロータ10aとステータ10bを備え、前記ステータ10bは前記密閉容器4に圧入や焼き嵌めなどの手段で固定されている。前記ロータ10aは前記ステータ10bの内側に回転可能に配置されており、このロータ10aの中心には前記クランク軸9が挿入されて固定され、前記クランク軸9は前記ロータ10aと一体で回転する。このロータ10aが回転することにより、前記クランク軸9を介して前記旋回スクロール6を旋回運動させる。
【0020】
前記クランク軸9は、主軸部9aと、この主軸部9aの上端に偏心して設けられ前記旋回スクロール6と連結される偏心ピン部9bなどから構成され、このクランク軸9は、フレーム7に設けられた前記主軸受8と、前記密閉容器4内の下側に固定された下フレーム12にハウジング13を介して取り付けられた副軸受14により支持されている。前記副軸受14は、すべり軸受や転がり軸受或いは球面軸受などで構成され、前記クランク軸9の主軸部9aにおける前記油溜り16側の端部を回転自在に支持している。
【0021】
前記偏心ピン部9bは、クランク軸9の主軸部9aに対して偏心させて一体に形成されており、前記旋回スクロール6の背面に設けられている前記ボス部6cの旋回軸受6dに挿入されている。前記クランク軸9が前記電動機10により回転され、前記偏心ピン部9bが主軸9aに対して偏心回転運動することにより、前記旋回スクロール6は旋回運動される。
【0022】
前記電動機10が駆動され、前記旋回スクロール6が旋回運動されると、前記固定スクロール5と前記旋回スクロール6の両ラップ5a,6aにより前記圧縮室17が形成されて、冷媒ガスを圧縮する。即ち、冷凍サイクルの冷媒ガスが前記吸入パイプ4dを介してスクロール圧縮機1に吸入されると、冷媒ガス(以下、作動流体またはガスともいう)は、固定スクロール5の吸入口5cを経て、固定スクロール5及び旋回スクロール6により形成される圧縮室17に導かれる。この冷媒ガスは、前記圧縮室17が固定スクロール5の中心側に移動するに従い容積が減少することにより、圧縮される。
【0023】
この圧縮された冷媒ガスは、前記固定スクロール5の台板部5bの中央に設けられた前記吐出口5dから前記密閉容器4内の吐出圧空間18の吐出室18aへ吐出され、前記圧縮機構部2の外周側を通って、この圧縮機構部2下方の前記中部空間18bに流れ、前記圧縮機構部2下方の前記円筒状チャンバ4aに設けられている前記吐出パイプ4eから冷凍サイクルに吐出される。
【0024】
20は前記固定スクロール5の台板部5bに設けられたリリース弁装置である。このリリース弁装置20は、前記圧縮室17内の圧力が前記吐出圧空間18(吐出室18a)の圧力よりも高くなる過圧縮発生時に、圧縮室17のガスを吐出圧空間18に逃がし、これにより必要以上に圧縮するのを防止して無駄なエネルギの消費を回避するものである。前記リリース弁装置20は、固定スクロール5と旋回スクロール6で形成される複数の圧縮室17に対応して、固定スクロール5の複数箇所に配設されている。
【0025】
前記固定スクロール5の吸入口5cからは、冷媒ガスだけでなく、ミスト状の潤滑油や、運転条件によっては液冷媒等が作動流体として前記圧縮室17に吸入される。従って液圧縮が発生することがある。また、圧縮機の起動時など、吸入側の圧力が比較的高く、吐出側の圧力が低い運転条件、即ち圧力比の低い運転条件で運転されることもある。このように液圧縮が発生する場合や、圧力比の低い運転条件では、圧縮室17内の圧力が吐出圧空間18よりも高くなる過圧縮が発生することがある。
【0026】
リリース弁装置20は通常運転時は閉路しているが、このような過圧縮時には、前記リリース弁装置20が開路する。これにより圧縮室17と吐出圧空間18とが連通し、前記圧縮室17から前記吐出圧空間18に圧力を逃がすことができる。
【0027】
ここで、本発明の実施例1におけるリリース弁装置20を説明する前に、従来のスクロール圧縮機におけるリリース弁装置の構成を
図5〜
図8を用いて説明する。
図5は従来のスクロール圧縮機におけるリリース弁装置付近の要部拡大断面図、
図6は
図5に示す弾性体保持部材とボルトを上方から見た平面図、
図7は
図5に示す弾性体保持部材のみを下方から見た底面図、
図8は
図5に示すリリース弁装置における開弁時での作動流体の流れを説明する図である。
【0028】
図5に示すように、従来のスクロール圧縮機におけるリリース弁装置20は、固定スクロール5に設けられ圧縮室17に連通するリリース穴22の開閉を行うリリース弁21と、前記リリース穴22を閉じる方向に前記リリース弁21を押付ける弾性体25と、この弾性体25を保持すると共に、前記リリース弁21の開弁時に該リリース弁21を受けるためのリリース弁受部26aを有する弾性体保持部材26を備えている。また、前記弾性体保持部材26が吐出圧空間18側に移動しないように押える押え部26bが前記弾性体保持部材26に一体に形成され、ボルト19で固定スクロール5の台板部5bに固定されている。
【0029】
上記リリース弁装置20は、圧縮室17と吐出圧空間18とを連通するように、固定スクロール5の台板部5bに形成されたリリース弁室24に配置されている。
前記弾性体保持部材26は、焼結金属や炭素鋼材などで成形され、
図6、
図7に示すように、押え部26bの部分を除いて円柱状の部材で構成されている。前記押え部26bの部分は横長の平板状に構成されている。円筒状部材で構成された前記弾性体保持部材26の中心部には中央逃し通路26cが形成され、前記中央逃し通路26cの周囲には複数(この例では3個)の外周逃し通路26dが等間隔に形成されている。
【0030】
また、
図5に示すように、前記弾性体保持部材26の中央下部には、前記圧縮室17側に凸となる凸部26eが形成されており、この凸部26eに前記弾性体25の一端が圧入などで一体に組み込まれ、固定されている。前記弾性体25は、前記リリース弁21を、前記リリース穴22を閉じる方向に押付けるもので、前記リリース弁21の閉弁時には、該リリース弁21が前記リリース穴22を塞ぐように弾性体25は作用し、
図5に示すように、前記リリース弁室底部の円環状の弁シート部23に、前記リリース弁21は当接する。
【0031】
前記圧縮室17が過圧縮状態になると、この過圧縮状態のガス(作動流体)は前記リリース弁21を押し上げるように作用し、前記弾性体の押付力に打ち勝つと、前記リリース弁21は、
図8に示すように、弁シート部23から離れ、上方に移動して開弁し、前記弾性体保持部材26の凸部26e先端の前記リリース弁受部26aに向かって移動し、受け止められる。前記リリース弁受部26aは、前記リリース弁21を受け止めることによって、前記リリース弁21や該リリース弁受部26aに過度な応力を発生させないように、十分な接触面積を確保するように構成されている。
【0032】
なお、前記リリース弁室24は前記リリース穴22よりも大径の穴で形成されている。即ち、前記圧縮室17に過圧縮が発生したとき、過圧縮されたガスを逃がす機能を損なわないように、前記リリース弁室24の穴径を十分大きくして十分なリリース流路を確保できるようにしている。
【0033】
前記リリース弁21が前記弾性体25を縮めるように作用して、このリリース弁21が開くと、
図8の矢印に示すように、圧縮室17のガスはリリース弁室24における前記リリース弁21の下面に流れ込み、前記リリース弁21の外周部と前記リリース弁室24の内壁面との間に形成される隙間27を通過した後、前記弾性体保持部材26の中央逃がし通路26cや外周逃がし通路26dを通って吐出圧空間18へ流出する。このようにリリース流路が形成されることにより、前記圧縮室17は過圧縮状態から解放される。
【0034】
上述したように、前記リリース弁21はリリース穴22を塞ぐようにリリース弁室24内に配置されているが、前記リリース弁21の外周部と前記リリース弁室24の内壁面との間には、作動流体が通過できるように前述した隙間27が形成されている。この隙間27の存在により、前記リリース弁21は、弾性体25に付勢される上下方向以外に、径方向(左右方向)や斜め方向等へ、前記隙間27の分の移動が可能となっている。このため、前記リリース弁21は前記リリース弁室24の内壁面に衝突することがあり、リリース弁21がリリース弁室24に衝突すると、両者のうちの低強度部材に過度な摩耗や破損等が発生する虞がある。
【0035】
前記リリース弁21は、焼結金属や炭素鋼材などで成形されている前記弾性体保持部材26のリリース弁受部26aと接触するため、このリリース弁21にも高強度材を使用し、該リリース弁21の信頼性を確保している。これに対し、前記リリース弁室24の内壁面は、固定スクロール5の鋳物素材で形成されている場合が多い。このため前記リリース弁21に対し、リリース弁室24の内壁面が相対的に低強度となり、過度の摩耗や損傷が発生し易く、信頼性低下を招く課題があることがわかった。
【0036】
次に、上記従来の課題を解決する本実施例1のスクロール圧縮機1におけるリリース弁装置の構成を、
図2〜4を用いて説明する。
図2は
図1に示すリリース弁装置付近の要部拡大断面図、
図3は
図2に示すリリース弁装置の部分を上方(吐出圧力空間18側)から見た平面図、
図4は
図2に示す弾性体保持部材のみを下方から見た底面図である。本実施例1におけるリリース弁装置20の説明において、上述した
図5〜
図8と同一或いは相当する部分には同一符号を付して説明する。
【0037】
図2に示すように、本実施例におけるリリース弁装置20は、固定スクロール5に設けられ圧縮室17に連通するリリース穴22の開閉を行うリリース弁(弁板)21と、前記リリース穴22を閉じる方向に前記リリース弁21を押付ける弾性体25と、この弾性体25を保持すると共に前記リリース弁21の開弁時に該リリース弁21を受けるためのリリース弁受部(内側リリース弁受部)26aを有する弾性体保持部材26を備えている。
【0038】
また、前記弾性体保持部材26が吐出圧空間18側に移動しないように押える押え部26bが前記弾性体保持部材26に一体に形成され、六角穴付のボルト19で固定スクロール5の台板部5bに固定されている。
【0039】
上記リリース弁装置20は、前記圧縮室17と前記吐出圧空間18とを連通するように、前記固定スクロール5の台板部5bにおける天板面5eとリリース穴22との間に形成されたリリース弁室24に配置されている。
【0040】
前記弾性体保持部材26は、焼結金属や炭素鋼材などで成形され、
図3、
図4に示すように、押え部26bの部分を除いて円柱状に構成されており、この円柱状の部分は前記リリース弁室24に収容されている。前記押え部26bの部分は横長の平板状に構成されている。円柱状部材で構成された前記弾性体保持部材26の中心部には中央逃し通路(逃し通路)26cが形成されている。
【0041】
また、
図2に示すように、前記弾性体保持部材26の中央下部には前記圧縮室17側に凸となる凸部26eが形成されており、この凸部26eにコイルばねなどで構成された前記弾性体25の一端が圧入などで一体に組み込まれ、固定されている。前記凸部26eは、圧縮室17側に向かうにつれて径が小さくなるように形成されており、この凸部26eの前記圧縮機17側端部には前記リリース弁受部26aが設けられている。
【0042】
前記弾性体25は、前記リリース弁21を、前記リリース穴22が閉じられる方向(圧縮室17側)に押付ける(付勢する)もので、前記リリース弁21の閉弁時には、該リリース弁21が前記リリース穴22を塞ぐように前記弾性体25は作用し、
図2に示すように、前記リリース弁室24底部の前記リリース穴22の周囲に設けられた円環状の弁シート部23に、前記リリース弁21は当接する。
【0043】
また、本実施例では、前記弾性体保持部材26における円柱状部分の外周部が下方(圧縮室17側)に延長されて前記弁シート部23の外周側まで伸びる筒状の弁ガイド部(外周壁)26fが設けられている。この弁ガイド部26fは、その内径が前記リリース弁21の外径よりも僅かに大きく形成され、前記リリース弁21の稼動範囲を覆うように構成されている。この弁ガイド部26fに前記リリース弁21が案内されて、その稼働範囲で上下動する。
【0044】
従って、本実施例によれば、前記リリース弁21が、径方向(左右方向)や斜め方向等へ移動するのを防止できるため、弾性体25に付勢される上下方向にのみスムーズに動作する。また、前記リリース弁21は前記弁ガイド部26fに案内されて上下動するので、前記リリース弁室24の内壁面に衝突することがなく、リリース弁室24の摩耗や破損を確実に防止できる。
【0045】
更に、本実施例では、上記弁ガイド部26fの内壁面上部にもリリース弁受部(外側リリース弁受部)26gがリング状に設けられている。前記リリース弁受部26gの内径は前記弁ガイド部26fの内径よりも小さく形成されており、前記凸部26eに設けられている前記内側リリース弁受部26aと共に前記リリース弁21を受け止めることができるように構成されている。なお、前記内側リリース弁受部26aと前記外側リリース弁受部26gは、それらの両方を設けるようにしても或いはそれらの何れか一方を設けるようにしても良い。
【0046】
また、本実施例においても
図5〜
図8に示す従来のものと同様に、前記圧縮室17が過圧縮状態になると、この過圧縮状態の作動流体は前記リリース弁21を押し上げるように作用し、前記弾性体の押付力に打ち勝つと、前記リリース弁21は、弁シート部23から離れ、上方に移動して開弁し、前記弾性体保持部材26の凸部26e先端の前記内側リリース弁受部26a及び前記弁ガイド部26f上部の前記外側リリース弁受部26gに向かって移動し、受け止められる。本実施例では、前記リリース弁受部が26aと26gの二か所設けられているので、リリース弁21やリリース弁受部26a,26gに過度な応力を発生させず、十分な接触面積を確保でき、且つ安定してリリース弁21を受けることができる。
【0047】
なお、本実施例では、前記リリース穴22を、前記固定ラップ5aの幅よりも小さい径となるように形成している。
【0048】
また、前記リリース弁室24は前記リリース穴22よりも十分に大径の穴で形成されている。特に、本実施例では、前記リリース弁室24の内径(穴径)を前記弾性体保持部材26の円柱状部分の外周部の径よりも大きく形成して、前記弾性体保持部材26の前記外周部と前記リリース弁室24の内壁面との間にリリース弁室内壁面流路24aを形成している。
【0049】
このように、前記リリース弁室24の穴径を前記弾性体保持部材26の外周部外径より十分大きく構成することにより、前記リリース弁室内壁面流路24aを十分な大きさのリリース流路として確保できるので、前記圧縮室17に過圧縮が発生したとき、過圧縮された作動流体を逃がす機能を十分に確保することができる。
なお、前記リリース弁21は本実施例では円板状に構成されているが、多角形や楕円形などの異径円状の弁板で構成しても良い。
【0050】
また、本実施例においては、前記リリース弁装置20が、
図2及び
図4に示すように、弾性体保持部材26に、前記リリース弁21を案内する前述した弁ガイド部(外周壁)26fを設けているが、この弁ガイド部26fは、前記リリース弁21の外周を覆っている。このため、前記リリース弁21の開弁時にリリース弁21が弾性体保持部材26に向かって押上げられても、前記リリース弁21の外周部と前記弁ガイド部26f内周面との隙間が小さいため、リリース穴22からのガスは前記リリース弁21を超えて上方へ流れ難く、前記中央逃し通路26cや前記リリース弁室内壁面流路24aからガスを前記吐出圧空間18に流出し難い構成となる。
【0051】
そこで、本実施例では、
図2及び
図4に示すように、前記弁ガイド部26fの周方向に等間隔に切欠き部26hを形成している。また、本実施例1では、前記弾性体保持部材26の押え部26bに、前記リリース弁室内壁面流路24aを流れるガスを前記吐出圧空間18に吐出させるための押え部流路26iが形成されている。また、
図3に示すように、リリース弁装置20の押え部26bの幅を、前記リリース弁室24の内径(リリース弁室24が円形でない場合はその幅)よりも小さく形成して、リリース弁室24の一部が、直接前記吐出圧空間18に開口する開口部24bとなるように構成されている。この開口部24bは前記リリース弁室内壁面流路24aと連通している。
【0052】
従って、前記リリース弁21が開弁してリリース弁21が押し上げられると、リリース弁21の下面の空間と前記リリース弁室内壁面流路24aとが前記切欠き部26hを介して連通し、リリース穴22からのガスを前記リリース弁室内壁面流路24aから、前記開口部24bや前記押え部流路26iを介して前記吐出圧空間18に流出させることができる。
【0053】
また、前記リリース弁21が押し上げられて前記リリース弁受部26a,26gに押し付けられるまでは、リリース弁21の下面の空間と前記中央逃し通路26cとは前記切欠き部26hを介して連通するので、前記中央逃し通路26cからもリリース穴22からのガスを前記吐出圧空間18に流出させることができる。
【0054】
以上のように、リリース弁21が押し上げられると、圧縮室17のガスはリリース穴22から前記リリース弁21の下面を通って前記切欠き部26hに到達し、このガスは前記切欠き部26hを通過して前記リリース弁室内壁面流路24aや前記中央逃し流路26cに流出する。前記リリース弁室内壁面流路24aに流出したガスは直線状に上昇し、前記押え部流路26iや前記開口部24bを介して前記吐出圧空間18に吐出される。また、前記中央逃し通路26c側に流出したガスは、この中央逃し通路26cから前記吐出圧空間18に吐出される。これにより、前記圧縮室17は過圧縮状態から解放される。
【0055】
なお、前記弾性体保持部材26の前記弁ガイド部26fは、前記リリース弁21の外周の一部若しくは複数個所覆っていれば良いが、前記リリース弁21が前記弾性体保持部材26の弁ガイド部26f内に常に収まるよう構成し、且つリリース弁21の外周縁との接触面積もなるべく大きくなるように構成すると良い。
【0056】
本実施例1では、前記弾性体保持部材26の外周面と前記リリース弁室24の内壁面との間に前記リリース弁室内壁面流路24aを設けているので、
図5に示す従来のように、前記弾性体保持部材26の内部に外周逃し通路26dを設けなくて良い。
【0057】
以上説明したように、本実施例では、弾性体保持部材26の外周部下側に、リリース弁体21の外周を覆う弁ガイド部26fを設けているので、前記リリース弁21は前記弁ガイド部26fに案内されて上下動する。従って、リリース弁21がリリース弁室24の内壁面と接触或いは衝突するのを防止できるため、リリース弁室24の摩耗や破損を確実に防止できる。
【0058】
また、本実施例によれば、前記弁ガイド部26fに切欠き部26hを設けたことから、前記リリース弁21の外周部(外周縁)と前記弁ガイド部26fとの隙間を小さくしてもリリース穴22からのガスを、前記切欠き部26hを介してリリース弁室内壁面流路24a等に流出させることができる。従って、リリース弁21外周部の隙間を小さくできるため、前記リリース弁21が、径方向(左右方向)や斜め方向等へ移動するのを防止でき、弾性体25に付勢される上下方向にのみスムーズに動作させることができる。これにより、リリース弁の動作を安定化させ、リリース弁21の上下方向以外への挙動による衝撃力を緩和できる。
【0059】
更に、前記リリース弁21が接触する前記弾性体保持部材26の材料として、炭素鋼やステンレス鋼等を使用できるので、前記リリース弁21と、このリリース弁21が接触する弾性体保持部材26との強度差を低減でき、これらの部材に過度な摩耗が発生することも防止できる。
【0060】
また、本実施例によれば、ガイド部26fの上部にも円筒状の外側リリース弁受部26gを設けているので、凸部26eに設けられている内側リリース弁受部26aと共に前記リリース弁21を受け止めることができる。従って、リリース弁受部の面積を拡大でき、且つリリース弁21を安定して受け止めることができる。
よって、リリース弁21が接触する箇所の信頼性を向上できる。
【0061】
また、弾性体保持部材26に弁ガイド部26fを設けているので、弾性体保持部材の形状変更のみで前記弁ガイド部26fを設けることができるため、部品点数が増加せず、コストアップや作業工数の増加も抑制できる。
【0062】
更に、リリース穴22からのガス(作動流体)を、リリース弁室24の内周壁に沿って直線状に延びる前記リリース弁室内壁面流路24aを介して吐出圧空間18に排出できるので、ガスの流れをスムーズにすることができる。従って、圧縮室17のガスを前記リリース弁装置20を介して吐出圧空間18に流出させる際の流路抵抗をより低減できる効果も得られる。
【0063】
以上のように、本発明によれば、リリース弁室の内壁面の摩耗を防止してリリース弁の動作を安定化させ、且つ圧縮室のガスを、リリース弁装置を介してスムーズに吐出圧空間に流出させることができるため、信頼性が高く且つ高性能のスクロール圧縮機を得ることができる効果がある。
【0064】
特に、前記作動流体として、R32を70重量%以上含んだ冷媒を用いた場合、R32が70%未満の冷媒を用いる場合に比較して、断熱指数が高く、圧縮室内の圧力が上昇し易いため、過圧縮状態になり易いので、上述した本実施例を採用することにより、スクロール圧縮機の信頼性をより向上させ、高性能化を図ることができる。
【0065】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。