【解決手段】軸線方向でポートブロックと対向するシリンダブロック23,33側の対向摺接面40のうち、アキシャルプランジャへの圧油の給排ポート24,34が形成された箇所から外れた位置の対向摺接面40に、給排ポート24,34から対向摺接面40に漏れ出した圧油を一時的に溜める油溜まり凹部41を形成した。
前記油溜まり凹部は、前記給排ポートが形成された箇所よりも、前記シリンダブロックの内周側寄りの箇所と、前記シリンダブロックの外周側寄りの箇所と、に分けて形成されている請求項1又は2記載の油圧装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1には、作業車の走行駆動系に、油圧装置として油圧ポンプと油圧モータを備えた静油圧式無段変速装置が示されている。
この特許文献1に記載の静油圧式無段変速装置には、シリンダブロックとポートブロックの対向摺接面の具体構造については、特に明示されてはいないが、一般的にシリンダブロックとポートブロックとは、互いの対向摺接面同士が面接触する状態で相対回転している。
このとき、シリンダブロックとポートブロックとの対向摺接面同士の間には、アキシャルプランジャへの圧油の給排ポートから漏れ出た圧油が入り込んで、対向摺接面における摩擦抵抗を軽減し、駆動効率を向上させている。しかし、それ以上の駆動効率の向上に関する技術は開示されていない。
【0005】
本発明は、シリンダブロックの対向摺接面における簡単な構造改良によって、油圧装置のさらなる駆動効率の向上を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による油圧装置は、複数本のアキシャルプランジャを内装して回転駆動されるシリンダブロックと、前記アキシャルプランジャの軸線方向で、前記シリンダブロックに対向するポートブロックと、が備えられ、前記ポートブロックと対向する前記シリンダブロック側の対向摺接面のうち、前記アキシャルプランジャへの圧油の給排ポートが形成された箇所から外れた位置の対向摺接面に、前記給排ポートから前記対向摺接面に漏れ出した圧油を一時的に溜める油溜まり凹部が形成された点に特徴がある。
【0007】
本構成によると、ポートブロックと対向するシリンダブロック側の対向摺接面のうち、アキシャルプランジャへの圧油の給排ポートが形成された箇所から外れた位置の対向摺接面に、給排ポートから漏れ出した圧油を一時的に溜める油溜まり凹部が形成されている。
これにより、対向摺接面に生じる油膜上でシリンダブロックが回転運動をするに伴い、給排ポートから漏れ出した圧油が油溜まり凹部内で、シリンダブロックを浮かせる方向に動圧を作用させて、シリンダブロックの回転抵抗を軽減すると考えられる。その結果、トルク効率が向上するに伴い駆動効率も向上し得る利点がある。
【0008】
本発明においては、前記油溜まり凹部は、長溝によって形成され、その長径方向が前記シリンダブロックの回転中心から放射方向に沿って設けられていると好適である。
【0009】
本構成によれば、漏れ出た圧油の動圧がシリンダブロックの回転方向にも上手く作用してトルク効率が上昇し易い。
【0010】
本発明においては、前記油溜まり凹部は、前記給排ポートが形成された箇所よりも、前記シリンダブロックの内周側寄りの箇所と、前記シリンダブロックの外周側寄りの箇所と、に分けて形成されていると好適である。
【0011】
本構成によれば、給排ポートからシリンダブロックの対向摺接面における内周側へ漏れ出た圧油も外周側へ漏れ出た圧油も有効利用して、より一層トルク効率を増すことができる。
【0012】
本発明においては、前記油溜まり凹部は、前記シリンダブロックの周方向で隣り合う前記給排ポート同士の周方向間隔幅内に形成されていると好適である。
【0013】
本構成によれば、給排ポート同士の周方向間隔幅を利用して、給排ポートから比較的遠い位置に油溜まり凹部を形成し易い。
これにより、給排ポートから漏れ出た圧油が対向摺接面上を移動して油溜まり凹部へ到達するまでの距離を、給排ポートから対向摺接面外へ到達するまでの距離に比べて短くしすぎることを避けられる。その結果、給排ポートから漏れ出た圧油が対向摺接面上の広域にムラの少ない状態で拡がり易く、圧油による摩擦軽減効果を高め易い。
【0014】
本発明における作業車は、前記油圧装置を備えていると好適である。
【0015】
本構成によれば、駆動効率の良い油圧装置を備えた作業車を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面の記載に基づいて説明する。
〔静油圧式無段変速装置の構成〕
図1は、油圧装置の一例である静油圧式無段変速装置の断面を示している。この静油圧式無段変速装置は、作業車の一例である田植機等に用いられるものである。
静油圧式無段変速装置は、田植機のミッションケース(図示せず)に取り付けたケーシング1を備えている。そして、ケーシング1の上部にポンプ軸20が回転自在に支持された油圧ポンプ2と、ケーシング1の下部にモータ軸30が回転自在に支持された油圧モータ3とを備えている。
【0018】
油圧ポンプ2は、可変容量形のアキシャルプランジャポンプによって構成され、油圧モータ3は、定容量形のアキシャルプランジャモータによって構成されている。
ポンプ軸20の一端側はケーシング1の上部から外方へ突出した状態に設けられ、他端側はポートブロック10に回転自在に枢支されている。ケーシング1から突出した部位のポンプ軸20に対して、図外のエンジンから動力が伝達されるように、入力用プーリ(図外)が取り付けられている。つまり、ポンプ軸20が油圧ポンプ2への入力軸を兼ねている。
【0019】
油圧ポンプ2は、
図1に示されるように、入力軸を兼ねるポンプ軸20と、そのポンプ軸20に対する交差角を変更可能な可動式の斜板21と、複数本(
図3に示す例では7本)のアキシャルプランジャ22を周方向で所定間隔置きに配置したシリンダブロック23と、そのシリンダブロック23に対向するポートブロック10とを備えている。
ポンプ軸20の長さ方向の中間位置にスプライン部20aが設けられ、このスプライン部20aがシリンダブロック23の内周面に形成されたスプライン溝23aにスプライン嵌合し、ポンプ軸20の回転に伴ってシリンダブロック23が回転駆動される。
シリンダブロック23に内装された各アキシャルプランジャ22は、付勢スプリング22aによって斜板21側へ押圧付勢されている。また、ポンプ軸20に装着されたサークリップ20bとシリンダブロック23との間にもコイルスプリング23bが装着され、シリンダブロック23がポートブロック10側へ押し付け付勢されている。
【0020】
斜板21は、図示しない周知の斜板操作機構によって、ポンプ軸20に対する交差角を適宜に変更操作可能に構成されている。
図1に示すように、斜板21がポンプ軸20に対して直交した姿勢では、各アキシャルプランジャ22による圧油の給排が行われていない。つまり、この姿勢が油圧ポンプ2の中立状態である。
斜板21がポンプ軸20に対して直交姿勢から離れる側に傾倒するほど、各アキシャルプランジャ22による圧油の給排量が増加し、油圧ポンプ2からの吐出量が増加する。
【0021】
油圧モータ3は、定容量形のアキシャルプランジャモータによって構成してある。油圧モータ3は、ポートブロック10の内部に形成された油路(図示せず)を介して、油圧ポンプ2から供給される圧油によって駆動される。油圧モータ3のモータ軸30は、ケーシング1が取り付けられたミッションケース内に出力端側を突入させ、静油圧式無段変速装置からミッションケース内へ変速動力を出力する出力軸を兼ねている。
モータ軸30を介してミッションケース内に導入された動力は、ミッションケース内に備えたギヤ変速機構(図外)で構成される副変速装置(図外)等を経て、走行駆動系や苗植付装置(図外)などの作業駆動系へ伝達される。
【0022】
油圧モータ3は、
図1に示されるように、出力軸を兼ねるモータ軸30と、そのモータ軸30に対する交差角を所定角度に設定した固定斜板31と、複数本のアキシャルプランジャ32を周方向に配置したシリンダブロック33と、そのシリンダブロック33に対向するポートブロック10とを備えている。
モータ軸30の長さ方向の中間位置にスプライン部30aが設けられ、このスプライン部30aがシリンダブロック33の内周面に形成されたスプライン溝33aにスプライン嵌合し、シリンダブロック33の回転に伴ってモータ軸30が回転駆動される。
シリンダブロック33に内装された各アキシャルプランジャ32は、付勢スプリング32aによって固定斜板31側へ押圧付勢されている。また、モータ軸30に装着されたサークリップ30bとシリンダブロック33との間にもコイルスプリング33bが装着され、シリンダブロック33がポートブロック10側へ押し付け付勢されている。
【0023】
〔油溜まり凹部〕
静油圧式無段変速装置の油圧ポンプ2及び油圧モータ3の各シリンダブロック23,33は、同一構造のもので構成されている。このシリンダブロック23,33には、
図2乃至
図4に示すように、ポートブロック10と対向する位置の対向摺接面40に、ポートブロック10の内部に形成された油路と連通する、まゆ形の給排ポート24,34が形成されている。この給排ポート24,34を介して、ポートブロック10の内部に形成された油路とシリンダブロック23内の各アキシャルプランジャ22の内部とが連通している。
【0024】
そして、この対向摺接面40には、圧油の給排ポート24,34が形成された箇所から外れた位置に、給排ポート24,34から対向摺接面40に漏れ出した圧油を一時的に溜める油溜まり凹部41が形成されている。
この油溜まり凹部41は、
図3に示すように、長径方向がシリンダブロック23の回転中心から放射方向に沿って設けられた長溝によって構成されている。また、長溝状の油溜まり凹部41は、放射方向では、給排ポート24,34が形成された箇所よりも、シリンダブロック23の内周側寄りの箇所と、シリンダブロック23の外周側寄りの箇所と、の二箇所に分けて形成されている。
さらにまた、この油溜まり凹部41は、シリンダブロック23の周方向では、互いに隣り合う給排ポート24,34同士の周方向間隔幅内に形成されている。
【0025】
シリンダブロック23の前記対向摺接面40では、
図2乃至
図4に示すように、シリンダブロック23の内周面側の端部が、シリンダブロック23の軸線方向で、ポートブロック10から少し離れる方向に凹入した凹入段部42に形成されている。
また、対向摺接面40におけるシリンダブロック23の外周面側の位置には、シリンダブロック23の外周面に沿う、外周面の径よりも少し小径の環状油溝43が形成され、その環状油溝43の外側に、放射方向に沿う排出溝44が形成されている。
上記の環状油溝43や排出溝44は、給排ポート24,34から漏れ出た圧油が、対向摺接面40の周方向の一部分から偏って短絡的に排出されることなく、周方向の広域に拡散し易くするためのものである。この環状油溝43や排出溝44によっても、対向摺接面40に漏れ出た圧油が広範囲にムラなく広がるようにして、摩擦抵抗を軽減し易くしている。
【0026】
給排ポート24,34と油溜まり凹部41は、シリンダブロック23の径方向で、上記の凹入段部42と環状油溝43との間に設けられている。つまり、凹入段部42よりも外側で、環状油溝43よりも内側箇所に、給排ポート24,34と油溜まり凹部41が形成されている。
油溜まり凹部41のうち、給排ポート24,34が形成された箇所よりも、シリンダブロック23の内周側寄りの箇所に設けられた油溜まり凹部41は、その内径側端部が凹入段部42に開放されている。また、給排ポート24,34が形成された箇所よりも、シリンダブロック23の外周側寄りの箇所に設けられた油溜まり凹部41は、その外径側端部が環状油溝43に連通している。
【0027】
図7乃至
図9は、上記の油溜まり凹部41を設けたシリンダブロック23を備える静油圧式無段変速装置の性能試験の結果をグラフ化したものである。
この試験は、
図3に示すように油溜まり凹部41の放射方向長さL1が長いシリンダブロック23を備えた場合と、
図5に示すように油溜まり凹部41の放射方向長さL2が短いシリンダブロック23を備えた場合と、このような油溜まり凹部41を備えていないシリンダブロック23とを比較したものである。
【0028】
図7はトルク効率を比較したものである。
図中の線分a0は、油溜まり凹部41を備えていないシリンダブロック23におけるトルク効率を示している。同図の線分a1は、油溜まり凹部41の放射方向長さL1が長いシリンダブロック23を備えた場合のトルク効率を示し、同図の線分a2は、油溜まり凹部41の放射方向長さL2が短いシリンダブロック23を備えた場合のトルク効率を示している。
この試験結果では、油溜まり凹部41の放射方向長さL2が短い場合、及び油溜まり凹部41の放射方向長さL1が長い場合の何れにおいても、油溜まり凹部41を備えていない場合に比べて明らかにトルク効率が向上している。特に、油溜まり凹部41の放射方向長さL1が長い場合には、低圧域では約5〜10%、中圧域では3〜4%、高圧域でも1〜3%と大きく向上している。そして、静油圧式無段変速装置の有効圧が低い領域、つまり、低圧域や中圧域は、作業車の作業走行中における常用領域として使われることが多く、使用時間も長く使われる傾向があるため、トルク効率の向上がより一層有効に作用する。
【0029】
図8は容積効率を比較したものである。
図中に示されるように、容積効率に関しては、僅かに、油溜まり凹部41を備えていないシリンダブロック23における容積効率を示す線分b0の値が最も良い。油溜まり凹部41の放射方向長さL2が短いシリンダブロック23を備えた場合の容積効率を示す線分b2、及び油溜まり凹部41の放射方向長さL1が長いシリンダブロック23を備えた場合の容積効率を示す線分b1の値は、ともに同程度で、油溜まり凹部41を備えていないシリンダブロック23に比べて僅かに劣るが、ほとんど差異はない。
【0030】
図9は、油圧ポンプ2からの流体の出力とポンプ軸20に入力された動力と比に基づく全効率(駆動効率に相当する)を比較したものである。
図中に示されるように、油溜まり凹部41を備えていないシリンダブロック23における全効率を示す線分c0に比べて、油溜まり凹部41の放射方向長さL2が短いシリンダブロック23を備えた場合の全効率を示す線分c2、及び油溜まり凹部41の放射方向長さL1が長いシリンダブロック23を備えた場合の全効率を示す線分c1は、共に向上している。
この全効率の試験結果に関しても、油溜まり凹部41の放射方向長さL1が長い場合には、低圧域では約5〜10%、中圧域では3〜4%、高圧域でも0〜2%と向上している。そして、トルク効率の場合と同様に、静油圧式無段変速装置の有効圧が低い領域、つまり、低圧域や中圧域は、作業車の作業走行中における常用領域として使われることが多く、使用時間も長く使われる傾向があるため、全効率の向上がより一層有効に作用する。
【0031】
〔別実施形態の1〕
図5に示すように、シリンダブロック23の対向摺接面40に形成される油溜まり凹部41としては、
図3に示すような放射方向長さL1が長いものに限らず、放射方向長さL2が短く形成されたものであってもよい。
また、放射方向長さL1が長いものと放射方向長さL2が短く形成されたものとが混在したものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0032】
〔別実施形態の2〕
シリンダブロック23の対向摺接面40に形成される油溜まり凹部41としては、油溜まり凹部41の端部が、シリンダブロック23の径方向で、凹入段部42や環状油溝43に連通するように形成されたものに限られるものではない。
例えば、
図6に示すように、油溜まり凹部41が、凹入段部42と環状油溝43との間で、凹入段部42や環状油溝43から離れた箇所に位置するように設けられたものであってもよい。その油溜まり凹部41の形状も、円形や長円形のものに限らず、任意の形状のものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0033】
〔別実施形態の3〕
シリンダブロック23の対向摺接面40に形成される油溜まり凹部41としては、放射方向でシリンダブロック23の内周側寄りの箇所と、シリンダブロック23の外周側寄りの箇所と、の二箇所に分けて形成されるものに限られるものではない。
例えば、シリンダブロック23の内周側寄りの箇所のみ、あるいはシリンダブロック23の外周側寄りの箇所のみの一箇所に設けたものであってもよい。また、シリンダブロック23の内周側寄りの箇所から外周側寄りの箇所にわたって連続した長尺の凹部であってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0034】
〔別実施形態の4〕
上記の実施形態では、油溜まり凹部41をシリンダブロック23の対向摺接面40に形成した構造のものを例示したが、この構造に限定されるものではない。
例えば、油溜まり凹部41をポートブロック10側の対向摺接面40に形成した構造のもの、あるいは、シリンダブロック23の対向摺接面40とポートブロック10側の対向摺接面40との両方に形成した構造のものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0035】
〔別実施形態の5〕
上記実施形態では、油圧装置を作業車の一例である田植機のミッションケースに取り付けた構造のものを例示したが、油圧装置としては、作業車に取り付けられていない状態で用いられるものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。