(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-168935(P2018-168935A)
(43)【公開日】2018年11月1日
(54)【発明の名称】噛み合い式クラッチ機構
(51)【国際特許分類】
F16D 11/10 20060101AFI20181005BHJP
F16D 23/02 20060101ALI20181005BHJP
【FI】
F16D11/10 A
F16D11/10 C
F16D23/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-66228(P2017-66228)
(22)【出願日】2017年3月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】淺井 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝尚
(72)【発明者】
【氏名】吉田 圭宏
【テーマコード(参考)】
3J056
【Fターム(参考)】
3J056AA03
3J056AA04
3J056AA22
3J056BA01
3J056BB15
3J056BE09
3J056CA02
(57)【要約】
【課題】クラッチ機構のスムーズな噛み合いを補償しながらも、加工が容易で、しかも歯の数や形状に制約を受け難い噛み合い式クラッチ機構を提供する。
【解決手段】
回転軸2に移動可能且つ相対回転不能に支持された第1動力伝達部材4の第2動力伝達部材6側への移動により、第1,第2動力伝達部材4,6の対向面に設けられた第1,第2凸部7,9が係合し、第2動力伝達部材6の回転が第1動力伝達部材4の回転と同期するとともに、該同期した第2動力伝達部材6側へのスリーブ12の移動により、第1動力伝達部材4の第1スプライン8と第2動力伝達部材6の第2スプライン10とが、スリーブ12の被係合スプライン11を介して連結され、回転軸2または第2動力伝達部材6の一方の回転が、回転軸2または第2動力伝達部材6の他方に伝達される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸(2)に、該回転軸(2)と一体回転可能且つ該回転軸(2)の軸線(L)方向に移動可能に支持された第1動力伝達部材(4)と、
前記第1動力伝達部材(4)に隣接して前記回転軸(2)に、該回転軸(2)と相対回転可能且つ前記軸線(L)方向に移動不能に支持された第2動力伝達部材(6)と、
前記第1動力伝達部材(4)の前記第2動力伝達部材(6)との対向面に設けられた第1凸部(7)と、
前記第1動力伝達部材(4)の外周面に設けられた第1スプライン(8)と、
前記第2動力伝達部材(6)の前記第1動力伝達部材(4)との対向面に設けられた、前記第1凸部(7)と係合可能な第2凸部(9)と、
前記第2動力伝達部材(6)の外周面に設けられた第2スプライン(10)と、
前記第1スプライン(8)および前記第2スプライン(10)のそれぞれと係合可能な被係合スプライン(11)を内周面に有して、前記軸線(L)方向に移動可能に配置されたスリーブ(12)とを備え、
前記第1,第2動力伝達部材(4,6)の対向面の周方向でみたときに、前記第1,第2凸部(7,9)の各々の幅に対するそれらの間の部分の長さ比は、前記第1,第2スプライン(8,10)の各々の歯の歯厚に対するそれらの間の部分の長さ比よりも大きく、
前記第1動力伝達部材(4)の前記第2動力伝達部材(6)側への移動により、前記第1凸部(7)が前記第2凸部(9)と係合して前記第2動力伝達部材(6)の回転が前記第1動力伝達部材(4)の回転と同期するとともに、該同期した前記第1動力伝達部材(4)および前記第2動力伝達部材(6)に対する前記スリーブ(12)の係合により、前記第1スプライン(8)と前記第2スプライン(10)とが前記被係合スプライン(11)を介して連結され、前記回転軸(2)または前記第2動力伝達部材(6)の一方の回転が、前記回転軸(2)または前記第2動力伝達部材(6)の他方に伝達されることを特徴とする噛み合い式クラッチ機構。
【請求項2】
前記第1スプライン(8)および前記第2スプライン(10)が前記被係合スプライン(11)を介して連結される位相と、前記第1凸部(7)および前記第2凸部(9)が係合される位相とは相互に異なることを特徴とする請求項1に記載の噛み合い式クラッチ機構。
【請求項3】
前記第1,第2動力伝達部材(4,6)の対向面(4a,6a)の一方(6a)に凹陥部(6b)が形成され、該凹陥部(6b)の内面に、その動力伝達部材(6)に対応する前記第1,第2凸部(7,9)の一方(9)が形成されるとともに、前記対向面の他方(4a)に、前記凹陥部(6b)側に突出するようにして前記第1,第2凸部(7,9)の他方(7)が形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の噛み合い式クラッチ機構。
【請求項4】
前記第1動力伝達部材(4)および前記スリーブ(12)を個々に移動可能な移動制御手段(4b,12a)を備えることを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れかに記載の噛み合い式クラッチ機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスミッション等に使用されて、回転軸または該回転軸に相対回転自在に支持された動力伝達部材の一方の回転を、回転軸または動力伝達部材の他方に、断・接可能に伝達する噛み合い式クラッチ機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
このような噛み合い式クラッチ機構として、下記特許文献1に開示されるものが既に知られている。
【0003】
特許文献1のものは、回転軸に相対回転可能に支持されたクラッチリングと、該クラッチリングに隣接して回転軸に相対回転不能に固定され、外周面にスプライン歯が形成されたクラッチハブと、このクラッチハブのスプライン歯と噛合する内歯を有して該クラッチハブの外周面に軸線方向移動可能に配置されたスリーブと、このスリーブに向けて突出するようにクラッチリングに設けられて前記内歯と係脱可能に噛合するクラッチ歯とを備え、前記内歯は低歯と高歯とを有するとともに、前記クラッチ歯は前記高歯に噛合可能且つ前記低歯に噛合不能な前歯と、該前歯よりも後退した位置にあって前記低歯に噛合可能な後歯とを有しており、前記スリーブのクラッチリング側への移動により前記高歯が前記前歯と係合して、クラッチリングの回転がクラッチハブおよび回転軸の回転と同期するとともに、該同期したクラッチリング側への前記スリーブの更なる移動により前記低歯と前記後歯とが噛合するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−96190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示される噛み合い式クラッチ機構は、スリーブのクラッチリング側への移動により先ずスリーブの高歯をクラッチ歯の前歯に係合させ、これによりクラッチリングの回転をクラッチハブの回転と同期させた後、スリーブのクラッチリング側への更なる移動によりスリーブの低歯をクラッチ歯の後歯にスムーズに噛合させて、回転軸またはクラッチリングの一方の回転を、クラッチハブおよびスリーブを介して回転軸またはクラッチリングの他方に伝達するように構成されているので、クラッチ機構のスムーズな噛み合いを得ることができるが、同期用の高歯と動力伝達用の低歯とをクラッチハブのスプライン歯およびスリーブの内歯の両方に形成しなければならないとともに、クラッチリングのスリーブ側の側面に、高歯だけに噛合する前歯と該前歯よりも後退位置に配置した後歯とを形成しなければならないので、加工が複雑となって工数の増加やコスト増を招くばかりでなく、それらの歯の数や形状に制約が生じて同期や動力伝達に最適な設計が行い難い。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、クラッチ機構のスムーズな噛み合いを補償しながらも、加工が容易で、しかも歯の数や形状に制約を受け難い噛み合い式クラッチ機構を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、回転軸に、該回転軸と一体回転可能且つ該回転軸の軸線方向に移動可能に支持された第1動力伝達部材と、前記第1動力伝達部材に隣接して前記回転軸に、該回転軸と相対回転可能且つ前記軸線方向に移動不能に支持された第2動力伝達部材と、前記第1動力伝達部材の前記第2動力伝達部材との対向面に設けられた第1凸部と、前記第1動力伝達部材の外周面に設けられた第1スプラインと、前記第2動力伝達部材の前記第1動力伝達部材との対向面に設けられた、前記第1凸部と係合可能な第2凸部と、前記第2動力伝達部材の外周面に設けられた第2スプラインと、前記第1スプラインおよび前記第2スプラインのそれぞれと係合可能な被係合スプラインを内周面に有して、前記軸線方向に移動可能に配置されたスリーブとを備え、前記第1,第2動力伝達部材の対向面の周方向でみたときに、前記第1,第2凸部の各々の幅に対するそれらの間の部分の長さ比は、前記第1,第2スプラインの各々の歯の歯厚に対するそれらの間の部分の長さ比よりも大きく、前記第1動力伝達部材の前記第2動力伝達部材側への移動により、前記第1凸部が前記第2凸部と係合して前記第2動力伝達部材の回転が前記第1動力伝達部材の回転と同期するとともに、該同期した前記第1動力伝達部材および前記第2動力伝達部材に対する前記スリーブの係合により、前記第1スプラインと前記第2スプラインとが前記被係合スプラインを介して連結され、前記回転軸または前記第2動力伝達部材の一方の回転が、前記回転軸または前記第2動力伝達部材の他方に伝達されることを第1の特徴とする。
【0008】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記第1スプラインおよび前記第2スプラインが前記被係合スプラインを介して連結される位相と、前記第1凸部および前記第2凸部が係合される位相とは相互に異なることを第2の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記第1,第2動力伝達部材の対向面の一方に凹陥部が形成され、該凹陥部の内面に、その動力伝達部材に対応する前記第1,第2凸部の一方が形成されるとともに、前記対向面の他方に、前記凹陥部側に突出するようにして前記第1,第2凸部の他方が形成されることを第3の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第1ないし第3の特徴の何れかに加えて、前記第1動力伝達部材および前記スリーブを個々に移動可能な移動制御手段を備えることを第4の特徴とする。
【0011】
なお、実施の形態の第1,第2ドグ7,9は本発明の第1,第2凸部に対応し、同じく実施の形態の第1,第2周溝4b,12aとそれらに係合する図示せぬ2組のフォークおよびアクチュエータとは、本発明の移動制御手段に対応する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の特徴によれば、第1,第2動力伝達部材の対向面の周方向でみたときに、第1,第2凸部の各々の幅に対するそれらの間の部分の長さ比は、第1,第2スプラインの各々の歯の歯厚に対するそれらの間の部分の長さ比よりも大きいので、第1動力伝達部材を第2動力伝達部材側へ移動させたときに、第1,第2凸部のうちの一方を他方の凸部の間の部分に入り易くできるから、第1ドグを第2ドグに係合させ易くして第2動力伝達部材の回転を第1動力伝達部材の回転に容易に同期させることができる。また、第1,第2動力伝達部材の回転が同期した後は、スリーブの被係合スプラインを第2動力伝達部材の第2スプラインに容易に係合させることができるから、該スリーブの移動により、第1スプラインと第2スプラインとを被係合スプラインを介してスムーズに連結することができて、噛み合い式クラッチ機構のスムーズな噛み合いを得ることができる。
【0013】
しかも、同期用のドグと動力伝達用のスプラインとが別個の位置に設けられていることで、それらを設計するときに互いの配置が制約にならないので、設計の自由度が高められる。
【0014】
また本発明の第2の特徴によれば、第1スプラインおよび第2スプラインが被係合スプラインを介して連結される位相と、第1ドグおよび第2ドグが係合される位相とを相互に異ならせたので、第1スプラインと第2スプラインとが被係合スプラインを介して連結されたときに、第1凸部および第2凸部を周方向で相互に離間させることができる。そのため第1,第2凸部に第1,第2動力伝達部材間の動力が伝わらないようにできるので、第1,第2凸部の歯の強度を特に高める必要が無くなって設計の自由度が高められる。
【0015】
しかも、スリーブを第2動力伝達部材から離間させて第1,第2動力伝達部材の連結を解除する際は、第1凸部と第2凸部とが接触していないので、スリーブを速やかに後退させることができて解除時の応答性を高めることができる。
【0016】
また本発明の第3の特徴によれば、第1,第2動力伝達部材の対向面の一方に凹陥部が形成され、該凹陥部の内面に、その動力伝達部材に対応する第1,第2凸部の一方が形成されるとともに、対向面の他方に、凹陥部側に突出するようにして第1,第2凸部の他方が形成されるので、第1,第2凸部が凹陥部内で係合することとなって、噛み合い式クラッチ機構の軸方向のサイズを小型化できる。
【0017】
また本発明の第4の特徴によれば、第1動力伝達部材およびスリーブを個々に移動可能な移動制御手段を備えるので、第1動力伝達部材を第2動力伝達部材側へ移動させて両者の回転を同期させるタイミングと、スリーブを第2動力伝達部材側へ移動させて被係合スプラインおよび第2スプラインを係合させるタイミングとを様々に変化させたり、第1動力伝達部材およびスリーブの移動速度を状況に応じて異ならせるような制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態における噛み合い式クラッチ機構の非接続状態における側面図である。
【
図2】
図1の噛み合い式クラッチ機構の非接続状態における縦断面図である。
【
図3】
図3(A)は
図1の噛み合い式クラッチ機構の分解斜視図で、
図3(B)は
図3(A)の第1動力伝達部材4を逆方向から見た斜視図である。
【
図4】
図4(A)〜(C)は、
図1の噛み合い式クラッチ機構の動作を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を、添付図面に基づいて以下に説明する。
【0020】
図1,
図2に示すように、本実施形態の噛み合い式クラッチ機構1は、図示せぬ動力源に接続された回転軸2と、この回転軸2の外周に、該回転軸2と一体回転可能且つ該回転軸2の軸線L方向に移動可能となるようにスプライン3で結合された第1動力伝達部材4と、この第1動力伝達部材4に隣接する位置で前記回転軸2の外周に、該回転軸2に対して相対回転可能且つ該回転軸2の軸線L方向に移動不能となるように、ベアリング5を介して支持された第2動力伝達部材6と、第1動力伝達部材4の第2動力伝達部材6との対向面4aに設けられた第1凸部としての第1ドグ7と、第1動力伝達部材4の外周面に設けられた第1スプライン8と、第2動力伝達部材6の第1動力伝達部材4との対向面6aに設けられて、第1ドグ7と係合可能な第2凸部としての第2ドグ9と、第2動力伝達部材6の外周面に設けられた第2スプライン10と、第1スプライン8および第2スプライン10のそれぞれと係合可能な被係合スプライン11を内周面に有するとともに第1動力伝達部材4の外周に前記軸線L方向に移動可能に配置されたスリーブ12とを備えて成り、第1動力伝達部材4の第2動力伝達部材6側への移動により、第1ドグ7が第2ドグ9と係合して第2動力伝達部材6の回転が第1動力伝達部材4の回転と同期するとともに、該同期した第2動力伝達部材6側へのスリーブ12の移動により、第1スプライン8と第2スプライン10とが被係合スプライン11を介して連結され、回転軸2の回転が第2動力伝達部材6に伝達されるように構成されている。また第2動力伝達部材6の外周面には、第2動力伝達部材6に伝達された回転軸の動力を外部に伝達するための外歯13が、第2スプライン10とは別に形成されている。
【0021】
第1動力伝達部材4およびスリーブ12をそれぞれ第2動力伝達部材6側へ移動させるために、第1動力伝達部材4の外周およびスリーブ12の外周には、それらを周方向に一周する第1周溝4bおよび第2周溝12aがそれぞれ形成され、それら第1,第2周溝4b,12aに、第1動力伝達部材4およびスリーブ12を回転軸2の軸線L方向に移動させるためのフォークがそれぞれ係合する。また各フォークにはそれらを個別に駆動するためのアクチュエータがそれぞれ接続されるが、それらフォークおよびアクチュエータについては図示を省略する。
【0022】
なお、第1動力伝達部材4およびスリーブ12を第2動力伝達部材6側へ移動させるための機構は、このような第1,第2周溝4b,12aとそれらに係合する2組のフォークおよびアクチュエータとを用いるものに限定されるものでなく、例えば、第1動力伝達部材4およびスリーブ12を連動機構で連結し、これらを単一のアクチュエータで駆動するように構成することも可能である。
【0023】
図3(A),(B)に示すように、第1,第2ドグ7,9は、第1,第2動力伝達部材4,6のそれぞれの対向面4a,6aに、周方向で相互に180度離間して配置された2個ずつの歯を有しており、第2ドグ9は、第2動力伝達部材6の対向面6aに形成された凹陥部6bの内面に形成されるとともに、第1ドグ7は、該凹陥部6bに向けて突出するようにして第1動力伝達部材4の対向面4aに形成されている。そして、第1周溝4bに係合させた図示せぬフォークを駆動して、第1動力伝達部材4を第2動力伝達部材6に当接するまで第2動力伝達部材6側に移動させ、第1ドグ7の2つの歯を凹陥部6b内に入り込ませた後、第1,第2動力伝達部材4,6間の差回転を利用して、それらの側面を第2ドグ9の各歯の側面に係合させることで、第2動力伝達部材6の回転を第1動力伝達部材4の回転に同期させることができる。なお、各々のドグ7,9の歯の数は2個に限定されるものでなく3個以上に設定することも可能であり、またそれらは特に同数である必要もないが、第1,第2動力伝達部材4,6の対向面4a,6aの周方向でみたときに、第1,第2ドグ7,9の各々の幅に対するそれらの間の部分の長さ比は、第1,第2スプライン8,10の各々の歯の歯厚に対するそれらの間の部分の長さ比よりも大きく設定される。
【0024】
第1,第2スプライン8,10および被係合スプライン11は、歯数が全て同数に設定され、且つ第1,第2ドグ7,9の歯数の整数倍に設定される。これにより、第1,第2ドグ7,9の各歯が係合する組合せに依らずに第1,第2スプライン8,10および被係合スプライン11を係合させることができる。
また、第2スプライン10および被係合スプライン11における各歯の軸方向で対向する面には、両スプライン10,11の係合を容易にするための面取り10a,11aがそれぞれ施される。
【0025】
そのため、第1動力伝達部材4の移動で第2動力伝達部材6の回転が第1動力伝達部材6の回転と同期した後は、第2周溝12aに係合させた図示せぬフォークを駆動して、スリーブ12を第2動力伝達部材6側に移動させるだけで、被係合スプライン11の各歯を第2スプライン10の各歯溝に容易に係合させることが可能となる。
【0026】
しかも、このような面取りを施すことにより、被係合スプライン11の歯の周方向の中央位置と、第2スプライン10の歯溝の周方向の中央位置とを予めずらした状態から両スプラインの係合を開始しても、両スプラインの係合が終了する段階では、スリーブ12および第2動力伝達部材6が面取りに沿って相対回転することでそれらの中央位置を一致させることができるから、本実施形態では、第1,第2ドグ7,9が相互に係合する第1,第2動力伝達部材4,6の同期位置において、被係合スプライン11の歯の前記中央位置と第2スプライン10の歯溝の前記中央位置とを予め周方向でずらしておく(即ち、第1スプライン8と第2スプライン10とが被係合スプライン11を介して連結される位相を、第1ドグおよび第2ドグが係合する位相からずらしておく)ことで、被係合スプライン11の歯と第2スプライン10の歯溝とを相互に係合させる段階において、スリーブ12および第2動力伝達部材6を面取りに沿って相対回転させ、これにより第1ドグ7および第2ドグ9を、第1スプライン8および第2スプライン10の連結状態で離間させるように構成している。
【0027】
なお、スリーブ12および第2動力伝達部材6が周方向で相対回転する量を増加させるために、被係合スプライン11および第2スプライン10の各歯の上記面取り量を、両スプライン10,11の周方向の一方側と他方側とでそれぞれ異ならせることも可能である。また、第1スプライン8および第2スプライン10が被係合スプライン11を介して連結される位相と、第1ドグおよび第2ドグが係合する位相とをずらす機構は、このような面取りを用いた機構に限定されるものではない。
【0028】
次に、本実施形態の噛み合い式クラッチ機構の動作を
図4に従って説明する。
【0029】
図4(A)〜(C)は、
図1の噛み合い式クラッチ機構を、
図2と周方向で90度ずれた方向から見たときの縦断面図において、回転軸2とスプライン3とベアリング5とを省略して示した図である。
【0030】
図4(A)は第1動力伝達部材4と第2動力伝達部材6との非接続状態を示しており、この状態の噛み合い式クラッチ機構を接続状態に移行させるには、矢印aのように、先ず第1動力伝達部材4を図示せぬフォークで第2動力伝達部材6側に移動させ、それの第2動力伝達部材6との対向面4aを第2動力伝達部材6の対向面6aに当接させるとともに、第1ドグ7を凹陥部6b内に入り込ませる。
【0031】
このとき、周方向における第1ドグ7−7間,第2ドグ9−9間の間隔が各ドグ7,9の歯厚よりも充分大きいので、第1ドグ7を凹陥部6b内に容易に入り込ませることができる。
【0032】
またこの状態では、第1,第2動力伝達部材4,6の間に差回転が存在するので、第1ドグ7が凹陥部6b内に入り込むと、第1ドグ7の側面が、
図4(B)のように第2ドグ9の側面に係合し、その係合によって第1,第2動力伝達部材4,6が同期回転するようになる。
【0033】
第1,第2動力伝達部材4,6が同期回転することで、スリーブ12と第2動力伝達部材6との相対回転がなくなる結果、被係合スプライン11の歯を第2スプライン10の歯溝にスムーズに係合させることが可能となるから、矢印bのようにスリーブ12を第2動力伝達部材6側へ移動させることで、被係合スプライン11の歯を、
図4(C)に示すように第2スプライン10の歯溝に係合させることができる。その結果、回転軸2に連通する第1動力伝達部材4の第1スプライン8が、それの外周に配置されたスリーブ12の被係合スプライン11を介して第2動力伝達部材6の第2スプライン10に連結され、回転軸2の動力が第2動力伝達部材6の外歯13から外部に伝達されて、噛み合い式クラッチ機構が接続状態に移行する。
【0034】
このとき本実施形態では、第2スプライン10および被係合スプライン11における各歯の軸方向で対向する面にそれぞれ面取り10a,11aを施すとともに、第1,第2ドグ7,9が相互に係合する第1動力伝達部材4および第2動力伝達部材6の同期位置において、被係合スプライン11の歯の中央位置と第2スプライン10の歯溝の中央位置とを予め周方向でずらしているので、被係合スプライン11および第2スプライン10の係合が終了した段階で、第1ドグ7と第2ドグ9とを
図4(C)の矢印cに示すように離間させて、第1,第2ドグ7,9に第1,第2動力伝達部材4,6間の動力が伝わらないようにできる。
【0035】
次に、この実施形態の作用について説明する。
【0036】
本実施形態においては、第1,第2ドグ7,9の歯が、第1,第2動力伝達部材4,6のそれぞれの対向面4a,6aに、周方向で相互に180度離れて2個ずつ配置されており、歯間の間隔を各歯の歯厚よりも十分大きくしているので、第1ドグ7が第2ドグ9に係合し易く、そのため第2動力伝達部材6の回転を第1動力伝達部材4の回転に容易に同期させることができる。また、第1,第2動力伝達部材4,6の回転が同期した後は、第1動力伝達部材4の外周に配置したスリーブ12を第2動力伝達部材6側へスムーズに移動させて、スリーブ12の被係合スプライン11を第2動力伝達部材6の第2スプライン10に係合させることができるから、該スリーブの移動により、第1スプラインと第2スプラインとを被係合スプラインを介してスムーズに連結することができて、噛み合い式クラッチ機構のスムーズな噛み合いを得ることができる。
【0037】
このとき、第2スプライン10および被係合スプライン11における各歯の軸方向で対向する面には、面取り10a,11aがそれぞれ施されるので、第2スプラインと被係合スプラインとの連結を更にスムーズにすることができる。
【0038】
また、同期に用いられる第1,第2ドグ7,9と、動力伝達に用いられるスプライン8,10,11とはそれぞれ異なる位置に設けられるので、それらを設計するときに互いの配置が制約にならず、設計の自由度が高められる。
【0039】
しかも、第1,第2スプライン8,10および被係合スプライン11は、各々の歯を凹凸のない簡潔な形状に形成できるので、高歯および低歯や、前歯および後歯を有するような複雑な形状の歯を形成する必要が無くなってその製造が容易である。
【0040】
また、第1スプライン8および第2スプライン10が被係合スプライン11を介して連結されたときに、当接状態の第1ドグ7および第2ドグ9を相互に離間させて、第1,第2ドグ7,9に第1,第2動力伝達部材4,6間の動力が伝わらないようにできるので、第1,第2ドグ7,9の強度を特に高める必要が無くなって設計の自由度が高められるとともに、製造時のコストを低減することができる。その上、スリーブ12を第2動力伝達部材6から離間させて第1,第2動力伝達部材4,6の連結を解除する際も、第1,第2ドグ7,9が相互に摺接することがないので、解除時の応答性を高めることもできる。しかも、このような第1,第2ドグ7,9の連結を解除できる機構を、第2スプライン10および被係合スプライン11における各歯の軸方向で対向する面にそれぞれ面取り10a,11aを施すとともに、第1,第2ドグ7,9が相互に係合する第1動力伝達部材4および第2動力伝達部材6の同期位置において、被係合スプライン11の歯の中央位置と第2スプライン10の歯溝の中央位置とを予め周方向でずらしておくだけで簡単に構成できるので、このような機構のための構成を特別に付加する必要もない。
【0041】
また、第2動力伝達部材6の第1動力伝達部材4との対向面6aに凹陥部6bが形成され、該凹陥部6bの内面に第2ドグ9が形成されるとともに、第1動力伝達部材4の第2動力伝達部材6との対向面4aに、凹陥部6b側に突出するようにして第1ドグ7が形成されるので、第1,第2ドグ7,9が凹陥部6b内で係合することとなって、噛み合い式クラッチ機構1の軸線L方向のサイズを小型化できる。また、第2ドグ9が凹陥部6b内に形成されて外方に突出しないので、第1,第2動力伝達部材4,6の対向面4a,6aを接近配置することが可能となって同期後のスリーブ12の移動距離を短くでき、噛み合い式クラッチ機構1の接・断にかかる時間を短縮できる。
【0042】
また、第1動力伝達部材4およびスリーブ12は、それらの外周に形成された第1,第2周溝4b,12aと、それらの周溝4b,12aに係合する2組のフォークおよびアクチュエータによって、軸線L方向に各々個別に移動可能であるので、第1動力伝達部材4を第2動力伝達部材6側へ移動させて両者の回転を同期させるタイミングと、スリーブ12を第2動力伝達部材6側へ移動させて被係合スプライン11および第2スプライン10を係合させるタイミングとを様々に変化させたり、第1動力伝達部材4およびスリーブ12の移動速度を状況に応じて異ならせるような制御が可能となる。
【0043】
そのため、例えば第1動力伝達部材4を第2動力伝達部材6側へ移動させたときに、第1,第2ドグ7,9が撥ね合って同期が上手くできなかったような場合に、再度同期を行うために第1動力伝達部材4を一旦後退させてから再度前進させ、第1,第2ドグ7,9が同期した後にスリーブ12を移動させるような制御が可能となるとともに、第1スプライン8と第2スプライン10とを被係合スプライン11を介して連結した後に第1ドグ7および第2ドグ9を離間させている場合には、被係合スプライン11を連結したまま第1動力伝達部材4だけを後退させることで、第1ドグ7だけを予め後退させておくことができるから、その後の噛み合い式クラッチ機構1の解除時の動作を、スリーブ12を移動するだけの迅速な動作で行うことができる。
【0044】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0045】
例えば、本実施形態の噛み合い式クラッチ機構では、図示せぬ動力源から回転軸2に伝達された動力を、第2動力伝達部材6から外歯13に断・接可能に伝達しているが、図示せぬ動力源から外歯13に伝達された動力を、第2動力伝達部材6から回転軸2に断・接可能に伝達することも可能である。
【0046】
また、ドグの形成された凹陥部を第1動力伝達部材4側の対向面4aに設けてもよく、また凹陥部を設けることなく、第1,第2ドグ7,9を第1,第2動力伝達部材4,6の対向面4a,6aから直接突出させるようにしてもよい。
【0047】
また、対向面4a,6aの一方に凹陥部を設ける代わりに、対向面4a,6aの一方に周方向に延びる複数の長溝を設け、対向面4a,6aのそれら長溝で挟まれた部分を第1,第2凸部の一方とするとともに、対向面4a,6aの他方に、前記長溝に向けて突出する第1,第2凸部の他方を形成するようにしてもよい。
【0048】
また本実施形態では、被係合スプライン11の歯と第2スプライン10の歯溝とを相互に係合させる段階において、スリーブ12および第2動力伝達部材6を面取りに沿って相対回転させ、これにより第1ドグ7および第2ドグ9を、第1スプライン8および第2スプライン10の連結状態で離間させるように構成しているが、第1ドグ7および第2ドグ9を第1スプライン8および第2スプライン10の連結状態で離間させる必要がなければ、このような構成を採用する必要はない。
【符号の説明】
【0049】
L・・・・回転軸の軸線
2・・・・回転軸
4・・・・第1動力伝達部材
4a・・・第1動力伝達部材の第2動力伝達部材との対向面
4b・・・移動制御手段(第1周溝)
6・・・・第2動力伝達部材
6a・・・第2動力伝達部材の第1動力伝達部材との対向面
6b・・・凹陥部
7・・・・第1凸部(第1ドグ)
8・・・・第1スプライン
9・・・・第2凸部(第2ドグ)
10・・・第2スプライン
11・・・被係合スプライン
12・・・スリーブ
12a・・移動制御手段(第2周溝)