【解決手段】アニオン性官能基を導入したセルロース系材料を含む所定の濃度の測定溶液を酸性にした後、塩基性溶液を添加しつつ、塩基性溶液の添加量、測定溶液の電気伝導度の測定値及びpH値を継時的に測定し、電気伝導度の測定値に係数を乗じて電気伝導度の補正値を算出し、補正値を用いて置換反応に要した塩基性溶液の量を算出し、セルロース系材料のアニオン性官能基量を算出する、アニオン変性セルロース系材料のアニオン性官能基量の測定方法である。
前記第2段階における塩基性溶液の添加量が、前記第1、2及び3段階について塩基性溶液の添加量−電気伝導度曲線を作成し、第1段階における前記曲線から求められる第1漸近線と第2段階における前記曲線から求められる第2漸近線との交点における前記添加量を、前記第2漸近線と第3段階における前記曲線から求められる第3漸近線との交点における前記添加量から差し引いて求められる添加量である請求項1〜5のいずれか1項に記載の測定方法。
請求項1〜7のいずれか1項に記載の測定方法、又は請求項8若しくは9に記載の測定用システムに用いられるアニオン変性セルロース系材料のアニオン性官能基量測定用キットであって、
測定溶液を調製するための溶液と、所定濃度の塩基性溶液と、を含むキット。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0014】
[1.測定方法]
本発明の測定方法は、少なくともアニオン性官能基を導入したアニオン変性セルロース系材料を含み、B型粘度が電気伝導度の測定を実施するpH範囲において、60rpm、20℃の条件で100mPa・s未満であり、6rpm、20℃の条件で500mPa・s未満である測定溶液を酸性にする工程Aと、酸性にした測定溶液が塩基性になるまで塩基性溶液を添加して置換反応を行い、塩基性溶液の添加量、測定溶液の電気伝導度の測定値及びpH値を継時的に測定する工程Bと、電気伝導度の測定値に下記一般式(1)で算出される係数を乗じて電気伝導度の補正値を算出する工程Cと、測定溶液中のアニオン性官能基が実質的に未置換の第1段階、測定溶液中のアニオン性官能基と塩基性溶液とが反応しアニオン性官能基とその共役塩基とが共存する第2段階、及び測定溶液中のアニオン性官能基の共役塩基への置換が実質的に完了する第3段階について塩基性溶液の添加量と電気伝導度の補正値との相関関係を得て、下記一般式(2)によりアニオン変性セルロース系材料のアニオン性官能基量を算出する工程Dと、を有する。以下、各工程の詳細を個別に説明する。
【数2】
(一般式(1)中、V
0は、塩基性溶液を添加する前の測定溶液の量を表し、vは、各電気伝導度の値での塩基性溶液の添加量を表す。一般式(2)中、Mは、塩基性溶液の濃度を表し、V
aは、第2段階における塩基性溶液の添加量を表し、Wは、アニオン変性セルロース系材料の質量を表す。)
【0015】
[1−1.工程A]
工程Aは、少なくともアニオン性官能基を導入したアニオン変性セルロース系材料を含み、B型粘度が電気伝導度の測定を実施するpH範囲において、60rpm、20℃の条件で100mPa・s未満であり、6rpm、20℃の条件で500mPa・s未満である測定溶液を酸性にする工程である。ここで、「酸性にする」とは、セルロース系材料に導入したアニオン変性官能基が、溶液中で共役塩基ではなくブレンステッド酸として存在するpH値にすることをいう。一例として、アニオン性官能基がカルボキシル基又はカルボキシメチル基である場合、カルボキシレート基(COO
−基)ではなくカルボキシル基(COOH基)として存在するpH値にすることをいう。アニオン性官能基がカルボキシル基又はカルボキシメチル基である場合、pH値2.6未満にすることが好ましく、2.4未満にすることがより好ましい。
【0016】
測定溶液は、少なくともアニオン性官能基を導入したアニオン変性セルロース系材料を含む。アニオン変性セルロース系材料としては、アニオン性官能基を導入していれば、特に限定されるものではない。アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基、カルボキシメチル基、スルホン基、リン酸エステル基、ニトロ基が挙げられる。中でも、カルボキシル基、カルボキシメチル基、リン酸エステル基が好ましく、カルボキシル基、カルボキシメチル基がより好ましい。
また、アニオン性官能基を導入したアニオン変性セルロース系材料としては、例えば、酸化セルロース(「カルボキシル化セルロース」や「酸化パルプ」ともいう)やカルボキシメチル化セルロース、それらを解繊処理して得られるセルロースナノファイバー(例えば、カルボキシル化セルロースナノファイバーやカルボキシメチル化セルロースナノファイバー)が挙げられる。
【0017】
測定溶液は、後述する工程Bで第1漸近線〜第3漸近線を作成できる限り特に限定されるものではない。例えば、水を用いて水溶液として調製してもよく、エタノールやイソプロピルアルコールのような有機溶媒を用いて調製してもよい。一例として、アニオン性官能基がカルボキシル基又はカルボキシメチル基である場合、水溶液として調製することができる。
水溶液の調製に使用する水は、不純物による電気伝導度の測定値の影響を少なくするという理由で、超純水やイオン交換水を用いることが好ましい。
【0018】
測定溶液の濃度は、例えば水溶液の場合、0.05〜2wt%程度に調整することが好ましく、0.1〜0.3wt%程度に調整することがより好ましい。
測定溶液のB型粘度は測定を実施するpH範囲において、60rpm、20℃の条件では、100mPa・s未満であり、80mPa・s未満であることが好ましく、60mPa・s未満であることがさらに好ましい。また、6rpm、20℃の条件では、500mPa・s未満であり、250mPa・s未満であることが好ましく、130mPa・s未満であることがさらに好ましい。
測定溶液は、電気伝導度の閾値を底上げする目的で塩化ナトリウム等の電解質を含んでもよいし、含まなくてもよい。但し、滴定に無関係な電解質の濃度を可能な限り少なくするという理由で、電解質を含まないことが好ましい。
なお、B型粘度は、例えば、TV−10型粘度計(東機産業社)を用いて測定することができる。
【0019】
酸性にする方法は、溶液中でブレンステッド酸(例えば、カルボキシル基)として存在するpH値にするよう、アニオン性官能基よりも強酸を添加することで行うことができる。このような強酸は、アニオン性官能基の種類により異なる。例えば、カルボキシル基やカルボキシメチル基の場合は塩酸を添加することで行うことができる。また、リン酸やスルホン酸の場合、トリフルオロ酢酸を添加することで行うことができる。さらに、陽イオン交換樹脂と反応させて行うこともできる。
【0020】
[1−2.工程B]
工程Bは、酸性にした測定溶液が塩基性になるまで塩基性溶液を添加して置換反応を行い、塩基性溶液の添加量、測定水溶液の電気伝導度の測定値及びpH値を継時的に測定する工程である。ここで、「置換反応」とは、測定溶液中のセルロース系材料に導入したアニオン性官能基のブレンステッド酸(例えば、カルボキシル基)を共役塩基(例えば、カルボキシレート基)に置換する反応を言う。測定は、酸性にした測定溶液が塩基性になるまで行う。より詳しくは、セルロース系材料に導入したアニオン性官能基が、溶媒中でブレンステッド酸ではなく共役塩基として存在するpH値になるまで行う。一例として、アニオン性官能基がカルボキシル基又はカルボキシメチル基である場合、カルボキシル基(COOH基)ではなくカルボキシレート基(COO
−基)として存在するpH値にすることをいう。アニオン性官能基がカルボキシル基又はカルボキシメチル基である場合、pH値は11程度になるまで行う。
なお、工程Bにおいて、測定溶液の温度は一定に保つことが好ましい。
【0021】
塩基性溶液は、セルロース系材料に導入したアニオン性官能基(例えば、カルボキシル基)を、溶液中で共役塩基(例えば、カルボキシレート基)として存在するpH値にすることができる限り、特に限定されるものではない。このような塩基性溶液は、アニオン性官能基の種類により異なる。例えば、カルボキシル基やカルボキシメチル基の場合は水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液が挙げられる。また、リン酸やスルホン酸の場合、炭酸水素ナトリウム溶液が挙げられる。
なお、調製に使用する溶液は、工程Aで測定溶液の調製に用いたものと同じ溶液を用いる。一例として水を用いる場合は、不純物による電気伝導度の測定値の影響を少なくするという理由で、超純水やイオン交換水が好ましい。
【0022】
塩基性溶液の濃度は、測定溶液の20倍未満であることが好ましく、5〜15倍であることがより好ましく、10〜15倍であることがさらに好ましい。塩基性溶液の濃度が斯かる範囲内であると、測定時間を短縮するとともに、置換熱による測定溶液の温度上昇を抑制し得る。
【0023】
塩基性溶液を添加する方法は、測定溶液の電気伝導度及びpH値を正確に測定することができる限り特に限定されるものではない。例えば、ビュレットや自動滴定装置を用いて滴下する方法が挙げられる。中でも、塩基性溶液の添加量を正確に測定することから、自動滴定装置を用いて滴下する方法が好ましい。
【0024】
測定溶液の電気伝導度及びpH値の測定は、従来公知の機器を用いて行うことができる。例えば、東亜ディーケーケー社のマルチ水質計を用いて行うことができる。
【0025】
工程Bにおいて行う置換反応は、その進行度により、第1〜第3段階の3つに分類され得る。
第1段階は、測定溶液中のアニオン性官能基(例えば、カルボキシル基)が実質的に置換されていない段階であり、強酸の中和段階である。電気伝導度の値(測定値及び補正値)は通常、工程B開始時には最高値を示しており、第1段階が進むにつれプロトンが中和されることにより低下する。
第2段階は、測定溶液中のアニオン性官能基(例えば、カルボキシル基)と塩基性溶液とが反応しアニオン性官能基のブレンステッド酸(例えば、カルボキシル基)とその共役塩基(例えば、カルボキシレート基)とが共存する段階であり、弱酸の中和段階である。第2段階における電気伝導度の値(測定値及び補正値)は、第1段階から引き続き低下するが、アニオン性官能基のブレンステッド酸(例えば、COOH)からその共役塩基(例えば、COO
−)への置換が進むことにより緩衝状態となり、第2段階の途中で低下が止まり微増する。
第3段階は、測定溶液中のアニオン性官能基のブレンステッド酸(例えば、カルボキシル基)のその共役塩基(例えば、カルボキシレート基)への置換が実質的に完了した段階である。第3段階においては、中和終了に伴い、塩基性溶液中のイオン(例えば、水酸化物イオン)により電気伝導度の値(測定値及び補正値)が上昇する。
【0026】
[1−3.工程C]
工程Cは、電気伝導度の測定値に下記一般式(1)で算出される係数を乗じて電気伝導度の補正値を算出する工程である。
【数3】
(一般式(1)中、V
0は、塩基性溶液を添加する前の測定溶液の量を表し、vは、各電気伝導度の値での塩基性溶液の添加量を表す。)
【0027】
本発明の測定方法は、工程Cで算出した補正値を用いて後述する工程Dで第2段階における塩基性溶液の添加量を算出する点で非特許文献2に記載の方法とは異なる。詳細については、工程Dの中で後述する。
【0028】
[1−4.工程D]
工程Dは、測定溶液中のアニオン性官能基(例えば、カルボキシル基)が実質的に未置換の第1段階、測定溶液中のアニオン性官能基(例えば、カルボキシル基)と塩基性溶液とが反応しアニオン性官能基のブレンステッド酸(例えば、カルボキシル基)とその共役塩基(例えば、カルボキシレート基)とが共存する第2段階、及び測定溶液中のアニオン性官能基のブレンステッド酸(例えば、カルボキシル基)の共役塩基(例えば、カルボキシレート基)への置換が実質的に完了する第3段階について塩基性溶液の添加量と電気伝導度の補正値との相関関係を得て、下記一般式(2)によりアニオン変性セルロース系材料のアニオン性官能基量を算出する工程である。
【数4】
(一般式(2)中、Mは、塩基性溶液の濃度を表し、V
aは、第2段階における塩基性溶液の添加量を表し、Wは、アニオン変性セルロース系材料の質量を表す。)
【0029】
工程(D)において、第2段階における塩基性溶液の添加量は、第1、第2及び第3段階について塩基性溶液の添加量−電気伝導度曲線(通常は滴定曲線)を作成して求めることが好ましい。すなわち、第2段階における塩基性水溶液の添加量は、第1段階における曲線から求められる第1漸近線と第2段階における曲線から求められる第2漸近線との交点における添加量を、第2漸近線と第3段階における曲線から求められる第3漸近線との交点における添加量から差し引いて求めることが好ましい。
【0030】
ここで、滴定曲線を用いる第2段階における塩基性溶液の添加量を算出する方法について、従来の測定方法と本発明の測定方法での違いを、図面を参照しつつ説明する。なお、
図1は、非特許文献2に記載の従来の測定方法で第2段階における塩基性溶液の添加量を算出するために使用する図であり、
図2は、本発明の測定方法で第2段階における塩基性溶液の添加量を算出するために使用する図である。ここで、
図1及び2において、アニオン性官能基はカルボキシル基であり、測定溶液及び塩基性溶液はイオン交換水で調製した水溶液である。
【0031】
図1に示す通り、従来の測定方法では、電気伝導度の測定値と、水酸化ナトリウムの滴定量から滴定曲線を作成する。そして、1)塩酸の置換領域、2)カルボキシル基の置換領域、3)水酸化ナトリウムの添加領域の3領域について、それぞれ漸近線を作成し、1)の漸近線と2)の漸近線の交点をカルボキシル基の置換開始点V
s’、2)の漸近線と3)の漸近線の交点をカルボキシル基の置換終了点V
f’とみなして、第2段階における水酸化ナトリウム水溶液の添加量V
a’(=V
f’−V
s’)(mL)を算出する。
なお、漸近線は、1)の領域では、pH値2.0付近の電気伝導度における接線をもとに作成し、2)の領域では、電気伝導度が最小の値である点を通る水酸化ナトリウムの添加量軸と平行な直線として作成し、3)の領域では、pH値10.0付近の電気伝導度における接線をもとに直線として作成する。
【0032】
従来の測定方法では、1)の領域での漸近線を、pH値2.0付近の電気伝導度における接線をもとに作成する。このように作成した漸近線は、滴定曲線の傾きと解離する場合が多い。また、高粘度のセルロース系材料を用いた場合、
図3に示す通り、塩基性溶液が均一に分散されず電気伝導度が正確に記録されないという課題がある。
従来の測定方法では、測定水溶液を希釈すると、漸近線の誤差が大きくなるため、作成した漸近線と滴定曲線の傾きとの解離が無視できないほど大きくなる。そのため、高粘度のセルロース系材料の測定水溶液を希釈して粘度を低減することはできなかった。
【0033】
また、2)の領域では、カルボキシル基(COOH基)がカルボキシレート基(COO
−基)に変換されるので、理論上、塩基性溶液の添加に伴って電気伝導度がわずかに上昇する。しかしながら、実測定においては電気伝導度がわずかに減少するか、ほぼ変わらなかった。そのため、漸近線を電気伝導度が最小の値である点を通る水酸化ナトリウムの添加量と平行な直線として作成していた。
【0034】
これに対し、本発明の測定方法では、
図2に示す通り、電気伝導度の補正値と、水酸化ナトリウムの滴定量から滴定曲線を作成する。そして、従来の測定方法と同様に、1)塩酸の置換領域(第1段階)、2)カルボキシル基の置換領域(第2段階)、3)水酸化ナトリウムの添加領域(第3段階)の3領域について、それぞれ漸近線(第1〜第3漸近線)を作成し、1)の漸近線と2)の漸近線の交点をカルボキシル基の置換開始点V
s、2)の漸近線と3)の漸近線の交点をカルボキシル基の置換終了点V
fとみなして、第2段階における水酸化ナトリウム水溶液の添加量V
a(=V
f−V
s)mLを算出する。
なお、漸近線は、以下のようにして作成している。1)の領域では、pH値が2.4〜2.8の範囲で最小二乗法により第1漸近線を作成し、2)の領域では、pH値が4.8〜6.0の範囲で最小二乗法により第2漸近線を作成し、3)の領域では、pH値が10.4〜10.8の範囲で最小二乗法により第3漸近線を作成する。
【0035】
このように、本発明の測定方法では、電気伝導度の測定値に係数を乗じた補正値を用いて滴定曲線を作成するので、滴定曲線の傾きと最小二乗法により作成した漸近線との解離が小さい。そのため、測定溶液を希釈しても、滴定曲線の傾きと最小二乗法により作成した漸近線との解離が小さく、種々のセルロース系材料を測定することができる。
【0036】
また、2)の領域においても、理論上と同じように、塩基性溶液に添加に伴って電気伝導度がわずかに上昇する。そのため、pH値が4.8〜6.0の範囲で最小二乗法により漸近線を作成することができ、より正確な値として算出し得る。
【0037】
上記のようにして算出した第2段階における水酸化ナトリウム水溶液の添加量を、上記式(2)に代入することにより、アニオン変性セルロース系材料のアニオン性官能基量(図ではカルボキシル基量)を算出することができる。
【0038】
[2.測定用システム]
本発明の測定用システムは、少なくともアニオン性官能基を導入したアニオン変性セルロース系材料を含む測定溶液を撹拌する手段Aと、塩基性溶液を測定溶液に添加する手段Bと、塩基性溶液の添加量、pH値及び電気伝導度の値を計測する手段Cと、電気伝導度の値を補正し、補正した電気伝導度の値と塩基性溶液の添加量から滴定曲線を作成する手段Dと、を有する。当該システムを利用することで、本発明の測定方法を簡便に行うことができる。以下、各手段の詳細を個別に説明する。
【0039】
[2−1.手段A]
手段Aは、少なくともアニオン性官能基を導入したアニオン変性セルロース系材料を含む測定溶液を撹拌する手段である。撹拌は、従来公知の方法で行うことができ、例えば、スターラーを用いて行うことができる。
【0040】
[2−2.手段B]
手段Bは、塩基性溶液を測定溶液に添加する手段である。添加は、従来公知の方法で行うことができ、例えば、ビュレットや自動滴定装置を用いて滴下して行うことができる。
【0041】
手段Bは、測定溶液の温度を一定に保つ手段bをさらに有することが好ましい。高温に保つ手段は特に限定されず、従来公知の方法で行うことができる。例えば、ウォーターバス等に測定溶液を含む容器を保温する方法が挙げられる。
【0042】
[2−3.手段C]
手段Cは、塩基性溶液の添加量、pH値及び電気伝導度の値を計測する手段である。本手段では、所定時間毎に目視で数値を計測してもよく、機器を用いて所定時間毎に数値を計測してもよい。中でも、人為的誤差を少なくするという理由で、機器を用いて所定時間毎に数値を計測することが好ましい。
なお、機器を用いて数値を計測する場合、データメモリに保存したデータをパーソナルコンピューターに読み込んでデータ入力してもよく、機器とパーソナルコンピューターを接続して測定と同時にデータ入力してもよい。中でも、利便性の観点から機器とパーソナルコンピューターを接続して測定と同時にデータ入力することが好ましい。
【0043】
[2−4.手段D]
手段Dは、電気伝導度の値を補正し、補正した電気伝導度の値と塩基性溶液の添加量から滴定曲線を作成する手段である。電気伝導度の値の補正、及び補正した電気伝導度の値と塩基性溶液の添加量から作成する滴定曲線は、データ入力したパーソナルコンピューター上で行うことが好ましい。
【0044】
[3.キット]
本発明のキットは、本発明の測定方法、又は本発明の測定用システムに用いられるアニオン変性セルロース系材料のアニオン性官能基量測定用キットであって、測定溶液を調製するための溶液と、所定濃度の塩基性溶液と、を含む。
なお、測定に使用した機器を洗浄するための洗浄液を含むものであってもよい。
【0045】
[4.製造方法]
本発明の製造方法は、セルロース原料にアニオン性官能基を導入する工程と、アニオン性官能基を導入したセルロースを解繊してセルロースナノファイバーを製造する工程と、本発明の測定方法により、アニオン性官能基を導入したセルロース又はセルロースナノファイバーのアニオン性官能基量を測定して品質を判定する工程と、を有する。
【0046】
セルロース原料としては、例えば、植物性材料(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ)、古紙等)、動物性材料(例えば、ホヤ類)、藻類、微生物(例えば、酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物を起源とするものを挙げることができ、いずれも使用することができる。好ましくは、植物又は微生物由来のセルロース原料であり、より好ましくは、植物由来のセルロース原料である。
【0047】
アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基、カルボキシメチル基、スルホン基、リン酸エステル基、ニトロ基が挙げられる。中でも、カルボキシル基、カルボキシメチル基、リン酸エステル基が好ましく、カルボキシル基、カルボキシメチル基がより好ましい。カルボキシル基、カルボキシメチル基、リン酸エステル基の導入方法を以下に例示する。
【0048】
(カルボキシル基の導入)
カルボキシル基は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシル化することにより調製することができる。
カルボキシル化の一例として、セルロース原料を、N−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物、又はこれらの混合物と、の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法がある。この酸化反応により、セルロース表面のピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化される。その結果、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(−COOH)又はカルボキシレート基(−COO
−)と、を有する酸化セルロースを得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下であることが好ましい。
【0049】
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生し得る化合物をいう。N−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシラジカル(TEMPO)及びその誘導体(例えば、4−ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。
N−オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol〜10mmolが好ましく、0.01mmol〜1mmolがより好ましく、0.05mmol〜0.5mmolがさらに好ましい。また、その濃度は、反応系に対し、0.1mmol/L〜4mmol/L程度が好ましい。
【0050】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。
臭化物又はヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物及びヨウ化物の合計量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol〜100mmolが好ましく、0.1mmol〜10mmolがより好ましく、0.5mmol〜5mmolがさらに好ましい。
【0051】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物等がある。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
酸化剤の使用量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.5mmol〜500mmolが好ましく、0.5mmol〜50mmolがより好ましく、1mmol〜25mmol、3mmol〜10mmolがさらに好ましい。また、例えば、N−オキシル化合物1molに対して1mol〜40molが好ましい。
【0052】
セルロースの酸化工程は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。そのため、反応温度は4℃〜40℃が好ましく、15℃〜30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHは低下する。酸化反応を効率よく進行させるために、反応途中で水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8〜12、好ましくは10〜11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じ難い等の理由で、水が好ましい。
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常、0.5時間〜6時間であり、0.5時間〜4時間であることが好ましい。
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段階目の反応終了後に濾別して得られたカルボキシル化セルロースを、再度、同一又は異なる反応条件で酸化することにより、1段階目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化することができる。
【0053】
カルボキシル化の他の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法がある。この酸化反応により、ピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50g/m
3〜250g/m
3であることが好ましく、50g/m
3〜220g/m
3であることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1質量部〜30質量部であることが好ましく、5質量部〜30質量部であることがより好ましい。
オゾン処理温度は、0℃〜50℃であることが好ましく、20℃〜50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1分〜360分程度であり、30分〜360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、カルボキシル化セルロースの収率が良好となる。
【0054】
オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸等が挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水又はアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を調製し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0055】
カルボキシル化セルロースのカルボキシル基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。
【0056】
(カルボキシメチル基の導入)
カルボキシメチル基は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシメチル化することにより導入することができる。
【0057】
カルボキシメチル化の一例として、次の方法がある。出発原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、0℃〜70℃、好ましくは10℃〜60℃の反応温度で、15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間の反応時間でマーセル化処理を行う。その後、モノクロル酢酸ナトリウム等のカルボキシメチル化剤を、モル換算でピラノース残基当たり0.05〜10.0倍添加し、30℃〜90℃、好ましくは40℃〜80℃の反応温度で、30分〜10時間、好ましくは1時間〜4時間の反応時間でエーテル化反応を行う。
【0058】
溶媒は、水及び低級アルコールの少なくともいずれかを使用する。低級アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコールは1種単独を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。但し、水と低級アルコールを混合して使用する場合、低級アルコールの混合割合は、60〜95質量%である。
なお、溶媒の使用量は、質量部換算で、セルロース原料の3〜20倍である。
【0059】
マーセル化剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物を使用する。
マーセル化剤の使用量は、モル換算で、出発原料のピラノース残基当たり0.5〜20倍である。
【0060】
(リン酸エステル基の導入)
リン酸エステル基を導入したセルロースは、例えば、セルロース原料に対し、リン酸基を有する化合物を反応させて調製することができる。セルロース原料とリン酸基を有する化合物を反応させる方法としては、例えば、セルロース原料にリン酸基を有する化合物の粉末又は水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸基を有する化合物の水溶液を添加する方法等が挙げられる。
これらの中でも、反応の均一性が高まり、かつリン酸エステル基の導入効率が高くなることから、セルロース原料又はそのスラリーにリン酸基を有する化合物の水溶液を混合する方法が好ましい。リン酸基を有する化合物の水溶液のpHは、リン酸基の導入の効率を高める観点から7以下が好ましく、加水分解を抑える観点から3〜7がより好ましい。
【0061】
リン酸基を有する化合物としては、例えば、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸、これらのエステルや塩等がある。これらの化合物であると、低コストであり、扱い易く、セルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れる。リン酸基を有する化合物の具体例としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。中でも、リン酸エステル基の導入効率が高く、解繊工程で解繊し易く、かつ工業的に適用し易いという理由で、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
なお、リン酸基を有する化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上の組み合わせて用いてもよい。
【0062】
リン酸基を有する化合物の添加量の下限は、リン原子換算で、セルロース原料100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。斯かる範囲であることにより、リン酸エステル基を導入したセルロースの収率を向上し得る。一方、その上限は、500質量部以下が好ましく、400質量部以下がより好ましい。斯かる範囲であることにより、リン酸基を有する化合物の添加量に見合った収率を効率よく得ることができる。
リン酸基を有する化合物の添加量は、0.2質量部〜500質量部が好ましく、1質量部〜400質量部がより好ましい。
【0063】
セルロース原料とリン酸基を有する化合物を反応させる際、さらに塩基性化合物を反応系に加えてもよい。塩基性化合物を反応系に加える方法としては、例えば、セルロース原料のスラリー、リン酸基を有する化合物の水溶液、又はセルロース原料とリン酸基を有する化合物のスラリーに、添加する方法が挙げられる。
塩基性化合物は特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。「塩基性を示す」とは、通常、フェノールフタレイン指示薬の存在下で塩基性化合物の水溶液が桃〜赤色を呈すること、または塩基性化合物の水溶液のpHが7より大きいことを意味する。
【0064】
塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されない。中でも、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。これらの中でも、低コストで扱いやすい点で、尿素が好ましい。
塩基性化合物の添加量は、2〜1000質量部が好ましく、100〜700質量部がより好ましい。反応温度は、0〜95℃が好ましく、30〜90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、通常、1〜600分程度であり、30〜480分が好ましい。反応条件がこれらのいずれかの範囲内であると、セルロースに過度にリン酸エステル基が導入されて溶解し易くなることを防ぐことができ、リン酸エステル基を導入したセルロースの収率を向上させることができる。
【0065】
セルロース原料にリン酸基を有する化合物を反応させた後、通常、懸濁液が得られる。懸濁液を必要に応じて脱水する。脱水後には加熱処理を行うことが好ましい。これにより、セルロース原料の加水分解を抑えることができる。加熱温度は、100℃〜170℃が好ましく、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下(更に好ましくは110℃以下)で加熱し、水を除いた後、100℃〜170℃で加熱処理することがより好ましい。
【0066】
リン酸エステル基を導入したセルロースにおいては、セルロース原料にリン酸エステル基が導入されており、セルロース同士が電気的に反発する。そのため、リン酸エステル基を導入したセルロースは、容易にナノ解繊することができる。
リン酸エステル基を導入したセルロースにおいて、グルコース単位当たりのリン酸エステル基の置換度の下限は、0.001以上が好ましい。斯かる範囲であることにより、十分な解繊(例えば、ナノ解繊)を実施し得る。また、リン酸エステル基の置換度の上限は、0.60以下が好ましい。斯かる範囲であることにより、リン酸エステル基を導入したセルロースの膨潤又は溶解を防止し、ナノファイバーが得られない事態を防止することができる。
グルコース単位当たりのリン酸エステル基の置換度は、0.001〜0.60であることが好ましい。
リン酸エステル基を導入したセルロースは、煮沸後、冷水で洗浄する等の洗浄処理を施すことが好ましい。洗浄処理を施すことにより、効率よく解繊を行うことができる。
【0067】
(解繊)
アニオン性官能基を導入したセルロース原料を解繊する際に用いる装置は特に限定されない。例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式等の従来公知の装置を用いることができる。
解繊の際には、強力なせん断力を印加して解繊することが好ましい。特に、効率よく解繊するには、50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーを用いることがより好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊及び分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサー等の公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて、予備処理を施してもよい。
【0068】
解繊処理で用いるアニオン性官能基を導入したセルロースは、上記のように調製したアニオン性官能基を導入したセルロースを精製処理して得られる、水を含浸する反応物繊維を溶媒中に分散し、分散処理を施した分散体として用いることが好ましい。
【0069】
分散媒として使用する溶媒は、水が好ましい。但し、水以外にも目的に応じて水に可溶な溶媒、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、グリセリン等)、エーテル類(エチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド等を使用してもよい。なお、水に可溶な溶媒は、混合物として使用することもできる。
さらに、上記した反応物繊維を溶媒によって希釈、分散する際には、少量の溶媒を加えて段階的に分散を試みると、効率的にナノファイバーレベルの繊維の分散体を得ることができる場合があり好ましい。操作上の問題から、分散処理後の状態は粘性のある分散液又はゲル状の状態となるように分散条件を選ぶことが好ましい。
【0070】
(品質の判定)
本発明の製造方法は、本発明の測定方法により、アニオン性官能基を導入したセルロース又はセルロースナノファイバーのアニオン性官能量を測定して品質を判定する工程を有する。
本発明の測定方法が、セルロース系材料に限定がなく、種々のセルロース系材料のアニオン性官能基量を正確性の高い数値で得られるため、斯かる品質の判定に利用し得る。そのため、今後ますます需要が見込まれるセルロースナノファイバー等の品質管理に利用することができる。
【0071】
品質の判定に用いるアニオン性官能基量は、アニオン性官能基を導入したセルロース、セルロースナノファイバーのどちらで行ってもよい。これは、実施例で後述する通り、本発明の測定方法によれば、アニオン性官能基を導入したセルロースと、セルロースナノファイバーと、のいずれの状態でもアニオン性官能基量に大きな相違がないからである。
【0072】
品質の判定に際し、サンプル1ロットあたりの測定回数は、1〜10回であることが好ましく、2〜5回であることがより好ましい。なお、測定値に、平均値より大きく異なる値をとるものがあった場合、測定回数を追加して品質の判定に用いてもよい。
品質の判定は、平均値や標準偏差等により、適宣設定することができる。例えば、測定回数2〜5における、アニオン性官能基量の算出値の差が0.15mmоl/g以上である場合に、セルロース又はセルロースナノファイバーを製品から除外することが好ましい。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。
【0074】
[B型粘度(mPa・s)]:TV−10型粘度計(東機産業社)を用いて、酸化セルロース又はカルボキシル化セルロースナノファイバーの水分散液のB型粘度を、20℃、60rpm又は6rpmの条件で測定した。
【0075】
(製造例1:酸化セルロースの製造)
漂白済み針葉樹未叩解パルプ(日本製紙社製)5g(絶乾)を、TEMPO(Sigma Aldrich社製)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム754mg(7.4mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に2M次亜塩素酸ナトリウム水溶液14ml添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHは低下するので、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に維持した。2時間反応させた後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで酸化セルロースを得た。なお、酸化セルロースから調製した水分散体(濃度0.3質量%)のB型粘度は、60rpm、20℃の条件で28mPa・sであり、6rpm、20℃の条件で200mPa・sであった。
【0076】
(実施例)
製造例1で得られた酸化セルロースの乾燥物7サンプルについて、下記に記す方法でカルボキシル基量の測定を、各サンプルについて2回ずつ行った。結果を表1にまとめて記す。
【0077】
酸化セルロース0.25g(絶乾質量)にイオン交換水250mLを加え、十分に撹拌した。その後、2.0×10
−3Mの濃度の塩酸を加えてpH値を2.4〜3.0に調整し、測定水溶液を酸性にした。自動滴定装置(AUT−211、東亜ディーケーケー社製)を用いて、0.1mL/minの速度で0.1Mの濃度の水酸化ナトリウム水溶液を、測定水溶液のpH値が11になるまで添加した。なお、滴定中は測定水溶液の温度を一定に保った。水酸化ナトリウム水溶液を添加する前、及び水酸化ナトリウム水溶液の添加開始から30秒ごとに測定水溶液のpH値と電気伝導度を、電導度計(MM−60R、東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した。
電気伝導度の測定値に下記一般式(1)で表される係数を乗じて、電気伝導度の補正値を算出した。
【0078】
【数5】
(一般式(1)中、V
0は、水酸化ナトリウム水溶液を添加する前の測定水溶液の量を表し、vは、各電気伝導度の値での水酸化ナトリウム水溶液の添加量を表す。)
【0079】
算出した電気伝導度の補正値と、水酸化ナトリウムの滴定量から滴定曲線を作成した。1)塩酸の置換領域、2)カルボキシル基の置換領域、3)水酸化ナトリウムの添加領域の3領域について、それぞれ漸近線を作成した。なお、1)の領域は、pH値が2.4〜2.8の範囲で最小二乗法により第1漸近線を作成し、2)の領域は、pH値が4.8〜6.0の範囲で最小二乗法により第2漸近線を作成し、3)の領域は、pH値が10.4〜10.8の範囲で最小二乗法により第3漸近線を作成した。
第1漸近線と第2漸近線の交点をカルボキシル基の置換開始点、第2漸近線と第3漸近線の交点をカルボキシル基の置換終了点とみなして、第2段階における水酸化ナトリウム水溶液の量を算出した。算出した第2段階における水酸化ナトリウム水溶液の量を下記一般式(2−1)に代入することにより、各サンプルのカルボキシル基量を算出した。
【0080】
【数6】
(一般式(2−1)中、Mは、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を表し、V
aは、第2段階における水酸化ナトリウム水溶液の添加量を表し、Wは、酸化セルロースの質量を表す。)
【0081】
(比較例)
製造例1で得られた酸化セルロースの乾燥物7サンプルについて、下記に記す方法でカルボキシル基量の測定を、各サンプルについて2回ずつ行った。結果を表1にまとめて記す。
【0082】
酸化セルロース0.30g(絶乾質量)にイオン交換水100mLを加え、十分に撹拌した。その後、4.0×10
−3Mの濃度の塩酸を加えてpH値を2.4〜3.0に調整し、測定水溶液を酸性にした。自動滴定装置(AUT−211、東亜ディーケーケー社製)を用いて、0.1mL/minの速度で0.1Mの濃度の水酸化ナトリウム水溶液を、測定水溶液のpH値が11になるまで添加した。なお、滴定中は測定水溶液の温度を一定に保った。水酸化ナトリウム水溶液を添加する前、及び水酸化ナトリウム水溶液の添加開始から30秒ごとに測定水溶液のpH値と電気伝導度を、電導度計(MM−60R、東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した。
【0083】
電気伝導度の測定値と、水酸化ナトリウムの滴定量から滴定曲線を作成した。1)塩酸の置換領域、2)カルボキシル基の置換領域、3)水酸化ナトリウムの添加領域の3領域について、それぞれ漸近線を作成した。なお、1)の領域は、pH値2.0付近の電気伝導度における接線をもとに作成し、2)の領域は、電気伝導度が最小の値をとる水酸化ナトリウムの添加量と平行な直線として第2漸近線を作成し、3)の領域は、pH値10.0付近の電気伝導度における接線をもとに直線として第3漸近線を作成した。
第1漸近線と第2漸近線の交点をカルボキシル基の置換開始点、第2漸近線と第3漸近線の交点をカルボキシル基の置換終了点とみなして、第2段階における水酸化ナトリウム水溶液の量を算出した。算出した第2段階における水酸化ナトリウム水溶液の量を下記一般式(2−2)に代入することにより、各サンプルのカルボキシル基量を算出した。
【0084】
【数7】
(一般式(2−2)中、M’は、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を表し、V
a’は、第2段階における水酸化ナトリウム水溶液の添加量を表し、W’は、酸化セルロースの質量を表す。)
【0085】
【表1】
【0086】
表1からわかるように、本発明の測定方法を用いた場合、サンプルNo.2を除き、2回の測定値の差(Δ(n2−n1))が0.05mmol/gの範囲内であった。一方、従来の測定方法を用いた場合、2回の測定値の差(Δ(n2−n1))が0.05mmol/gの範囲内に収まったものは、サンプルNo.1、5、7の3サンプルであり、残りの4サンプルのうち2回の測定値の差(Δ(n2−n1))が0.10mmol/g以上のものが、サンプルNo.3、4、6の3サンプルもあった。また、本発明の測定方法を用いた場合、各サンプルの標準偏差(σ)の値は0.066と0.067であり、従来の測定方法を用いた場合の各サンプルの標準偏差(σ)の値が0.138、0.104であるため、バラツキが小さいことがわかる。
従って、本発明の測定方法を用いると、酸化セルロースのカルボキシル基量の再現性がよく、良好な精度で測定し得ることがわかる。
なお、
図4にサンプルNo.1の実施例1のn1の滴定曲線を示す。
【0087】
(製造例2:カルボキシル化セルロースナノファイバーの製造)
製造例1で得られた酸化セルロースのスラリーを水で1%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、140MPa)で3回処理し、透明なゲル状のカルボキシル化セルロースナノファイバー塩の分散液を得た。なお、カルボキシル化セルロースナノファイバー塩から調製した水分散体(濃度0.2質量%)のB型粘度はpH2.5にて、60rpm、20℃の条件で57mPa・sであり、6rpm、20℃の条件で130mPa・sであった。
【0088】
(実施例2)
製造例2で用いた酸化セルロース(サンプルNo.1)と、製造例2で得られたカルボキシル化セルロースナノファイバー塩について、カルボキシル基量の測定を2回ずつ行った。結果を表2にまとめて記す。
なお、酸化セルロースのカルボキシル基量の測定は上記実施例と同じである。また、カルボキシル化セルロースナノファイバー塩のカルボキシル基量の測定は、酸化セルロースをカルボキシル化セルロースナノファイバー塩に変更したこと以外は上記実施例と同じである。
【0089】
【表2】
【0090】
表2からわかるように、本発明の測定方法を用いると、酸化セルロースとカルボキシル化セルロースナノファイバーでカルボキシル基量に大きな相違はなく、誤差の範囲といえる。
【0091】
(比較例2)
製造例2で得られたカルボキシル化セルロースナノファイバー塩0.4g(絶乾質量)にイオン交換水100mLを加え、十分に撹拌して測定水溶液を調製した。この条件で調製した水分散体(濃度0.4質量%)のB型粘度は、60rpm、20℃の条件で116mPa・sであり、6rpm、20℃の条件で519mPa・sであった。当該測定水溶液を用いてカルボキシル基量の測定を行ったところ、粘度が過度に高くなり、第1漸近線を作成できず、カルボキシル基量を算出することができなかった。
【0092】
上記結果から、本発明の測定方法によれば、セルロース系材料のカルボキシル基量を精度よく測定することができる。従って、今後ますます需要が見込まれるセルロースナノファイバー等の品質管理に利用することを期待できる。