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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-170064(P2018-170064A)
(43)【公開日】2018年11月1日
(54)【発明の名称】ディスク装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 21/21 20060101AFI20181005BHJP
   G11B 5/012 20060101ALI20181005BHJP
   G11B 5/09 20060101ALI20181005BHJP
   G11B 5/31 20060101ALI20181005BHJP
【FI】
   G11B21/21 E
   G11B5/012
   G11B5/09 311Z
   G11B5/31 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-67314(P2017-67314)
(22)【出願日】2017年3月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(72)【発明者】
【氏名】石井 幸治
【テーマコード(参考)】
5D031
5D033
5D091
【Fターム(参考)】
5D031AA04
5D031CC20
5D031HH20
5D033BB51
5D033CA00
5D091AA10
5D091CC30
5D091HH20
(57)【要約】
【課題】磁気ディスクに対するスライダの浮上を好適に制御すること。
【解決手段】実施形態によれば、少なくとも1以上のディスクの何れかに備えられる第1記録面及び第2記録面と、第1記録面に対応し第1電力により発熱する第1ヒータを備える第1ヘッドと、第2記録面に対応し第2電力により発熱する第2ヒータを備える第2ヘッドと、第1ヘッドにより第1記録面に対するデータのライトを実行する場合、ライトの開始から第1時間だけ前に第1ヒータに第1電力を供給する第1プリヒートを実行し、第2ヘッドによる第2記録面に対するデータのライトを実行する場合、ライトの開始から第1時間と異なる第2時間だけ前に第2ヒータに第2電力を供給する第2プリヒートを実行する制御回路と、を具備する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1以上のディスクの何れかに備えられる第1記録面及び第2記録面と、
前記第1記録面に対応し第1電力により発熱する第1ヒータを備える第1ヘッドと、
前記第2記録面に対応し第2電力により発熱する第2ヒータを備える第2ヘッドと、
前記第1ヘッドにより前記第1記録面に対するデータのライトを実行する場合、前記ライトの開始から第1時間だけ前に前記第1ヒータに第1電力を供給する第1プリヒートを実行し、前記第2ヘッドによる前記第2記録面に対するデータのライトを実行する場合、前記ライトの開始から前記第1時間と異なる第2時間だけ前に前記第2ヒータに第2電力を供給する第2プリヒートを実行する、制御回路と、
を具備するディスク装置。
【請求項2】
前記第1電力のための第1指示値と前記第2電力のための第2指示値とは異なる値である請求項1に記載のディスク装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記第1ヘッドにより前記第1記録面に対するデータのリードを実行する場合、前記リードの開始から第3時間だけ前に前記第1ヒータに第3電力を供給する第3プリヒートを実行し、前記第2ヘッドによる前記第2記録面に対するデータのリードを実行する場合、前記リードの開始から前記第3時間と異なる第4時間だけ前に前記第2ヒータに第4電力を供給する第4プリヒートを実行する、請求項1に記載のディスク装置。
【請求項4】
前記第3電力のための第3指示値と前記第4電力のための第4指示値とは異なる値である請求項3に記載のディスク装置。
【請求項5】
前記第1ヒータは、前記ライト時に用いられる第1ライトヒータと前記リード時に用いられる第1リードヒータと、を備え、
前記第2ヒータは、前記ライト時に用いられる第2ライトヒータと前記リード時に用いられる第2リードヒータと、を備える、請求項3又は請求項4に記載のディスク装置。
【請求項6】
前記第1時間が前記第2時間より長い場合、前記第1ヘッドに含まれ前記ライトに用いられる第1ライト素子の第1コア幅は前記第2ヘッドに含まれ前記ライトに用いられる第2ライト素子の第2コア幅より狭い、請求項1に記載のディスク装置。
【請求項7】
少なくとも1以上のディスクの何れかに備えられる第1記録面及び第2記録面と、
前記第1記録面に対応し第1電力により発熱する第1ヒータを備える第1ヘッドと、
前記第2記録面に対応し第2電力により発熱する第2ヒータを備える第2ヘッドと、
を具備するディスク装置の制御方法であって、
前記第1ヘッドにより前記第1記録面に対するデータのライトを実行する場合、前記ライトの開始から第1時間だけ前に前記第1ヒータに第1電力を供給する第1プリヒートを実行し、
前記第2ヘッドによる前記第2記録面に対するデータのライトを実行する場合、前記ライトの開始から前記第1時間と異なる第2時間だけ前に前記第2ヒータに第2電力を供給する第2プリヒートを実行する、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ディスクとヘッドとの距離を制御するディスク装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録媒体としての磁気ディスク、及び、この磁気ディスクに対向するスライダを備えるディスク装置がある。このディスク装置は、ハードディスクドライブ(HDD)を含む。HDDにおいて、スライダは、再生ヘッド(素子)及び記録ヘッド(素子)を含むヘッド部とヒータ素子とを少なくとも備え、回転する磁気ディスク上で浮上する。磁気ディスクへのデータのリード/ライトにおいて、スライダに備えられたヘッド部と磁気ディスクとの間の磁気特性を向上させるため、ヘッド部と磁気ディスクとの距離が短くなるように(磁気ディスクに対するヘッド部の浮上高さ(浮上量)が低くなるように)制御する浮上技術が知られている。この技術は、DFH(Dynamic Fly Height)制御やTFC(Thermal Fly Height Control)とも称されることがある。浮上制御においてリード/ライトのターゲット位置をヘッド部が通過するタイミングよりも前のタイミングでヒータ素子を加熱するプリヒート処理が実行されることがある。プリヒート処理を実行することにより、ターゲット位置をヘッド部が通過するタイミングで、ヘッド部の所望の浮上量を得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7430090号明細書
【特許文献2】米国特許第7330323号明細書
【特許文献3】米国特許第6975472号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、磁気ディスクに対するスライダの浮上を好適に制御することができるディスク装置および制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のディスク装置及び制御方法は、少なくとも1以上のディスクの何れかに備えられる第1記録面及び第2記録面と、前記第1記録面に対応し第1電力により発熱する第1ヒータを備える第1ヘッドと、前記第2記録面に対応し第2電力により発熱する第2ヒータを備える第2ヘッドと、とを具備し、前記第1ヘッドにより前記第1記録面に対するデータのライトを実行する場合、前記ライトの開始から第1時間だけ前に前記第1ヒータに第1電力を供給する第1プリヒートを実行し、前記第2ヘッドによる前記第2記録面に対するデータのライトを実行する場合、前記ライトの開始から前記第1時間と異なる第2時間だけ前に前記第2ヒータに第2電力を供給する第2プリヒートを実行する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態にかかるディスク装置を備えるシステムの構成を示すブロック図である。
図2】実施形態にかかるHDDのCPUによって実現される複数の機能部の動作を説明するための図である。
図3】第1の実施形態にかかるHDDによって実行されるPH時間調整処理の一部を説明するフローチャートを示す。
図4】第1の実施形態にかかるPH時間調整処理の一部の概略動作を説明するための図である。
図5】WPH時間調整処理の一部の処理で得られる複数のリード結果を例示する図である。
図6】第1の実施形態にかかるHDDによって実行されるPH時間調整処理の他の一部を説明するフローチャートである。
図7】第2の実施形態にかかるHDD10によって実行されるWHD調整処理を説明するフローチャートである。
図8】WHD調整処理で得られる、複数のリード結果を例示する図。
図9】ライトヘッドWHのコア幅とWPH時間との対応関係の一例を示す
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、複数の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下で説明する複数の実施形態にかかる図面によって限定されるものではない。
【0008】
図1は、実施形態にかかるディスク装置10を備えるシステム150の構成を示すブロック図である。本実施形態では、ディスク装置10として、ハードディスクドライブ(以下、HDDとも称する)10を例示する。システム150はホスト100及びHDD10を備えている。ホストI/F120は、ホスト100とHDD10とを接続し、ホスト100とHDD10との間のコマンド、ユーザデータ、コマンド応答、又はステイタス報告、の送受信に利用される。ホストI/F120は、例えば、SATA(Serial Advanced Technology Attachment)規格やSAS(Serial Attached SCSI)規格に準拠する。HDD10は、ホストI/F120を介してホスト100と接続されて、ホスト100のデータ記憶部として機能する。例えばシステム150は、パーソナルコンピュータ、モバイル機器、又はサーバ装置である。例えばホスト100は、パーソナルコンピュータやモバイル装置に備えられるチップセットIC、又はサーバ装置に備えられるサーバコントローラである。
【0009】
HDD10は、磁気ディスク1、スライダ2、アーム3、ボイスコイルモータ(VCM)4、及びスピンドルモータ(SPM)5を含むヘッド・ディスクアセンブリ(Head-Disk Assembly:HDA)を有する。HDAはHDD10の筐体(不図示)の内部に収容される。スライダ2は、リードヘッドRH及びライトヘッドWHを含むヘッド部及びヒータ素子HEを有する。またHDD10は、モータドライバIC(以下、ドライバICとも称する)21、ヘッドアンプIC(以下、ヘッドICとも称する)22、バッファメモリ23、不揮発性メモリ24、及びコントローラ60を含む回路ブロックを有する。コントローラ60は、リードライトチャネル(以下、RWCとも称する)61、CPU62、及びハードディスクコントローラ(以下、HDCとも称する)63を備える。ヘッドアンプIC22は、少なくともヒータドライバHDを備える。
【0010】
実施形態にかかるHDD10は、磁気ディスク1にデータを記録する処理(ライト処理)、磁気ディスク1に記録されたデータを読み出す処理(リード処理)、及び磁気ディスク1に対するスライダ2の一部(主にヘッド部)の浮上高さを制御する処理(浮上制御処理)、を少なくとも実行する。浮上制御処理は、DFH(Dynamic Fly Height)制御とも称されることがあり、これ以降の説明では、浮上制御処理をDFH制御とも称する。ここで、浮上高さは、例えば磁気ディスクの表面からのヘッド部の浮上量に対応する。DFH制御では、スライダ2に設けられたヒータ素子HEに電流(又は電圧)を供給することで、スライダ2の一部(ヒータ素子HE及びヘッド部の周辺部)が加熱されて熱膨張により変形して磁気ディスク1に向かって突き出される。なおこれ以降では、ヒータ素子HEに供給する電流又は電圧を、ヒータ素子HEに供給する電力、として説明する。
【0011】
スライダ2の一部が突き出す量は、ヒータ素子HEに供給する電力に対応する情報によって制御することができる。ヒータ素子HEに供給する電力の変化に対するスライダ2の一部が突き出す量の変化は、即時ではなくある時定数に応じて遅れて応答する。このため、DFH制御のターゲット位置をヘッド部が通過するタイミングよりも前のタイミングでヒータ素子HEを加熱するプリヒート処理が実行されることがある。DFH制御においてプリヒート処理を実行することにより、リード処理又はライト処理のターゲット位置をヘッド部が通過するタイミングで、ヘッド部の適切な浮上量を得ることが可能となる。なお、これ以降の説明では、特に説明がない限り、浮上制御処理(DFH制御)はプリヒート処理を含む処理として説明する。
【0012】
ところで、ヘッド部(特にライトヘッドWH)のコア幅、又はヘッド部近傍の加工寸法の違い等のヘッド部の構造的なばらつきによって、ヘッド部を備えるHDD10のライト処理の性能に差が生じることがある。DFH制御により、磁気ディスク1とスライダ2(特にヘッド部)との距離を調整することで、このようなヘッド部の構造的なばらつきに起因するライト処理の性能の差を平準化することができる。
【0013】
磁気ディスク1の表面には、例えば凸形状の突起が存在することがある。DFH制御により、浮上量をより低くすることで、磁気ディスク1上の突起にスライダ2が衝突する可能性が高くなる。従って、実際のライト処理又はリード処理の期間以外は、浮上量を高く設定しておくことが必要になる。プリヒート処理により、実際のライト処理又はリード処理の開始タイミングの浮上量が安定するため、ライト処理又はリード処理の開始直後の性能が安定する。しかし、磁気ディスク1上の突起の存在により、必要以上に早いタイミングでプリヒート処理を開始することを避けることが好ましい。すなわち、ヘッド部の構造的なばらつきによって生じる浮上量の最適化と、プリヒート処理の開始タイミングの最適化と、が望まれる。
【0014】
このため、本実施形態にかかるHDD10は、さらにプリヒート処理に関する時間を調整する処理(後述するPH時間調整処理)を実行する。ライト処理、リード処理、浮上制御処理、及びPH時間調整処理は、ホスト100から送信されるコマンドに応じて、又は、HDD10内部での自発的な要求に応じて実行される。これらの処理は、CPU62で実行されるプログラム(ファームウェア)に従って制御される。プログラムのデータは、不揮発性メモリ24や磁気ディスク1に不揮発に記憶される。
【0015】
磁気ディスク1は、SPM5により回転する。SPM5は、ドライバIC21からの駆動電圧又は駆動電流により回転制御される。アーム3とVCM4はアクチュエータを構成する。スライダ2は、アーム3の一端に装着される。アクチュエータは、スライダ2を磁気ディスク1上の目標位置に移動させる。即ち、アクチュエータは、VCM4の駆動により、アーム3に装着されているスライダ2をディスク1上の径方向に移動させる。VCM4は、ドライバIC21からの駆動電圧又は駆動電流により制御される。
【0016】
磁気ディスク1は記録面を有し、記録面にデータが記録されることでトラック(データトラック)が形成される。すなわち、磁気ディスク1は、データを記録するための記録面を備えた記録媒体として構成される。磁気ディスク1の記録面は、記録面上のスライダ2の位置を制御するためのサーボデータが記録されたサーボ領域、ホスト100から送信されるユーザデータを記録するためのユーザデータ領域、及びユーザデータ領域に記録されたユーザデータを管理するシステムデータを記録するためのシステム領域、を少なくとも有する。磁気ディスク1の記録面に、ユーザデータ領域に記録されるべきユーザデータを一時的に記録するキャッシュ領域を有してもよい。
【0017】
サーボデータは、HDD10の製造工程で記録されてHDD10の出荷後には記録されないデータである。システムデータは、HDD10で実行されるライト処理及びリード処理において管理すべきデータを含む。なおシステムデータは、磁気ディスク1のシステム領域でなく不揮発性メモリ24に記録されてもよい。ユーザデータは、ホスト100から送信されてこれから記録されるデータだけでなく、既にユーザデータ領域またはキャッシュ領域に記録されたデータ、及びユーザデータ領域またはキャッシュ領域から読み出されたデータを含む。以下、ユーザデータを単にデータと表記することがある。
【0018】
スライダ2は、リードヘッドRH及びライトヘッドWHを含むヘッド部、及びヒータ素子HEを少なくとも備える。リードヘッドRHは、磁気ディスク1上のトラックに記録されているデータを読み出す。読み出されるデータは、サーボデータ、ユーザデータ、及びシステムデータを含む。ライトヘッドWHは、磁気ディスク1上にユーザデータ及びシステムデータを書き込む。リードヘッドRHは読み出し手段として、ライトヘッドWHは記録手段としてそれぞれ構成される。なお、以下の説明では、スライダ2をヘッド又はヘッド部、と称することがある。ヒータ素子HEは、供給される電力に応じて発熱してスライダ2の一部を加熱する。加熱されたスライダ2の一部は熱膨張して磁気ディスク1に向かって突き出される。ヒータ素子HEは、リードヘッドRHとライトヘッドWHとの間に1つ、又はリードヘッドRHの近傍とライトヘッドWHの近傍とにそれぞれ1つずつ、設けられる。ヒータ素子HEは、電気回路素子としての抵抗又はコイルで形成される。図1では、単一の磁気ディスク1及びスライダ2が図示されているが、HDD10は複数の磁気ディスク1、及び複数の各磁気ディスク1の各記録面に対応した複数のスライダ2が設けられてもよい。
【0019】
ヘッドアンプIC22は、リードアンプ、ライトドライバ(共に不図示)、及びヒータドライバHDを有する。リードアンプは、リードヘッドRHにより読み出されたリード信号を増幅してRWC61に出力する。ライトドライバは、RWC61から供給されるライトデータに応じたライト電流をライトヘッドWHに出力する。ヒータドライバHDは、CPU62又はHDC63から供給されるヒータデータに応じたヒータ電流(又はヒータ電圧)をヒータ素子HEに出力する。ヒータデータは、ヒータ電流(又はヒータ電圧)に対応する値を示すデータである。なおこれ以降では、ヒータ電流又はヒータ電圧を、単にヒータ電力、として説明する。
【0020】
コントローラ60は、少なくとも、RWC61、CPU62、及びHDC63を一体に備えた1チップの集積回路として構成されている。コントローラ60は、SoC、FPGA、ASIC、LSIなどの半導体回路として構成される。バッファメモリ23は、磁気ディスク1よりも高速なデータ転送が可能な揮発性メモリであり、DRAM(SDRAM)またはSRAMが適用される。不揮発性メモリ24は、不揮発性の記録部であり、NOR型やNAND型のフラッシュメモリといった半導体メモリが適用される。バッファメモリ23及び不揮発性メモリ24は、コントローラ60の外部に接続されず、コントローラ60の内部に備えられてもよい。不揮発性メモリ24は、磁気ディスク1の記録領域の一部が適用されてもよい。
【0021】
RWC61は、リードチャネル及びライトチャネル(共に不図示)を含む。リードチャネルは、ヘッドアンプIC22から供給された増幅されたリード信号を処理して、サーボデータ及びユーザデータを含むデータを復号する。RWC61は、リードチャネルにおいて、ユーザデータのエラーの検出及び訂正に関する処理を実行すると共に、リードしたユーザデータを評価するための情報を生成する。この情報は、CPU62からの要求に応じて、CPU62に送信され得る。リードチャネルは、ビタビ復号回路及びLDPC復号回路を含む。ライトチャネルは、HDC63から供給されたライトすべきデータを符号化したライトデータを、ヘッドアンプIC22に出力する。
【0022】
HDC63は、バッファメモリ23及び不揮発性メモリ24と接続され、これらとの間で転送されるデータの送受を制御する。HDC63とバッファメモリ23との間で転送されるデータは、ホスト100との間で転送されるリードデータ及びライトデータ、及び、浮上制御処理又はPH時間調整処理に関するデータ、を含む。リードデータは磁気ディスク1から読み出されたユーザデータであり、ライトデータは磁気ディスク1に書き込まれるユーザデータである。浮上制御処理に関するデータは、ヒータ素子HEに供給する電力を設定するためのヒータデータ及びヒータ感度データを含む。ヒータデータは、ヒータ素子HEに対する、電流、電圧、電力、又は発熱量に対応する値で示される。ヒータ感度データは、ヒータ素子HEに供給される電力の変化量に対する、ヒータ素子HEの発熱量、又はヒータ素子HEの周辺部の熱膨張に応じたスライダ2の突き出し量又浮上量の変化量に対応するデータである。HDC63と不揮発性メモリ24との間で転送されるデータは、CPU62が実行するプログラム、システムデータ、及び、浮上制御処理又はPH時間調整処理に関するデータ、を含む。またHDC63は、RWC61と接続され、RWC61から入力されたデータ、又はRWC61に出力されるデータに対する処理を実行する。例えばHDC63は、CPU62による制御に従って、PH時間調整処理で利用されてRWC61から入力されたデータを、CPU62に提供する。さらにHDC63は、ホスト100と接続され、ホスト100から送信されるコマンド及びユーザデータ、又はホスト100に出力するコマンド応答、ステイタス報告、及びユーザデータに対する処理を実行する。ユーザデータに対する処理は、ライト処理におけるライトゲートに関する処理、リード処理におけるリードゲートに関する処理、サーボ制御で必要なサーボゲートに関する処理、を含む。HDC63は、ホスト100から入力されるコマンドに応じた浮上制御処理又はPH時間調整処理の実行要求を、CPU62に通知する。HDC63は、バッファメモリ23、不揮発性メモリ24、RWC61、及びホスト100それぞれとの間でデータの送受を制御するためのインターフェース回路を含んで構成される。HDC63は、ヒータドライバHDにヒータデータを出力し得る。この場合、HDC63は、CPU62からの指示に基づいてヒータデータを生成し、生成したヒータデータを出力してもよいし、CPU62からヒータデータを供給され、供給されたヒータデータを出力してもよい。
【0023】
CPU62は、マイクロプロセッサまたはマイクロコントローラとも称されるICである。CPU62は、ドライバIC21を介してVCM4を制御してヘッド部(リードヘッドRH及びライトヘッドWH)の位置決め制御(サーボ制御)を実行する。サーボ制御は、ヘッド部を磁気ディスク1の半径方向の何れかの位置に位置づける制御と、ヘッド部を磁気ディスク1上で現在位置から目標位置に向かって移動する制御と、を少なくとも含む。またCPU62は、少なくともRWC61を介して、磁気ディスク1に対するライト処理及びリード処理を制御する。CPU62は、ライト処理及びリード処理と並列的に、浮上制御処理又はPH時間調整処理を制御する。なおサーボ処理は、ライト処理及びリード処理の一部の処理として実行され得る。CPU62は、浮上制御処理又はPH時間調整処理において、ヒータドライバHDにヒータデータを出力する。CPU62は、これら複数の処理の制御において、プログラムに従って、以上で説明したHDA及び回路ブロックを利用する。CPU62は、複数の処理を制御する制御部又は制御回路として構成される。
【0024】
以上で説明した構成により、本実施形態にかかるHDD10は、以下に詳細に説明する複数の処理を実行することができる。
【0025】
次に、図2を用いて、CPU62の動作を説明する。図2は、本実施形態にかかるHDD10のCPU62によって実現される複数の機能部の動作を説明するための図である。
【0026】
本実施形態のCPU62は、プログラムに従って動作することで複数の機能部を実現する。CPU62は、浮上制御部301、プリヒート調整部(以下、PH調整部とも称する)302、ライト制御部303、及びリード制御部304、を備える。これらの機能部は、少なくともRWC61及びHDC63を制御する。またCPU62に備えられた各機能部は、HDD10に備えられるHDAや回路ブロックと協働して、様々な処理を実行する。CPU62の各機能部は、互いに、情報を共有すること、及び処理タイミングの同期を取ること、が可能に構成されている。また、CPU62の各機能部は、並列的に処理を実行することが可能に構成されている。
【0027】
浮上制御部301は、HDC63から入力された実行要求に応じて、浮上制御処理を制御する。ここで、浮上制御処理はプリヒート処理を含む。浮上制御部301は、ライト制御部303によるライト処理又はリード制御部304によるリード処理と並列的に浮上制御処理を制御する。浮上制御部301は、浮上制御処理の制御において必要なデータをHDC63から受領し、浮上制御処理の制御において記憶しておくべきデータをHDC63に出力する。また浮上制御部301は、浮上制御処理の制御において必要なデータを、ライト制御部303又はリード制御部304と共有する。例えば浮上制御部301は、あるトラックに対するライト処理又はライト処理の実行要求に応じて、このトラックでの浮上量を設定するためのデータ、及び浮上制御処理の開始タイミングに関するデータをHDC63から受領する。浮上量を設定するためのデータ、及び浮上制御処理の開始タイミングに関するデータは、浮上制御処理を実行している間に補正(更新)が必要となることがある。これに応じて浮上制御部301は、補正(更新)されたデータをHDC63に出力する。浮上量を設定するためのデータは、ヒータデータ及びヒータ感度データを少なくとも含む。浮上制御処理の開始タイミングに関するデータは、時間に対応するデータである。また例えば浮上制御部301は、ライト処理又はライト処理の対象トラックを特定するためのデータを、ライト制御部303又はリード制御部304と共有する。
【0028】
PH調整部302は、浮上制御部301が制御する浮上制御処理において用いられるプリヒート時間を調整する。PH調整部302は、HDC63から入力された実行要求に応じて、プリヒート時間を調整する。プリヒート時間は、浮上制御処理のターゲット位置(例えば、ヘッド、トラック、及びセクタで特定される位置)をヘッド部が通過するタイミングよりも前にヒータ素子HEに電力を供給する(ヒータONする)時間に関するデータであり、浮上制御処理の開始タイミングに関するデータである。PH調整部302は、ライト処理のためのプリヒート時間(以下、WPH時間とも称する)、及びリード処理のためのプリヒート時間(以下、RPH時間とも称する)を調整する。PH調整部302は、少なくともWPH時間を調整すればよい。PH調整部302は、浮上制御処理、ライト処理、又はリード処理と並列的にプリヒート時間を調整する。これ以降の説明では、PH調整部302により制御されるプリヒート時間を調整する処理を、プリヒート時間調整処理(PH時間調整処理)とも称する。PH調整部302は、浮上制御部301と同様に、PH時間調整処理に関するデータをHDC63と送受する。例えばPH調整部302は、PH時間調整処理の開始前に、処理の対象トラックでの浮上制御処理に必要なデータをHDC63から受領する。またPH調整部302は、PH時間調整処理において、HDC63から、ディスク1から読み出されたデータの品質に関するデータを受領する。また例えばPH調整部302は、PH時間調整処理の対象トラックを特定するためのデータを、ライト制御部303又はリード制御部304と共有する。
【0029】
ライト制御部303は、磁気ディスク1に対するデータのライト処理を制御する。ライト制御部303は、HDC63から入力された実行要求に応じて、ライト処理を制御する。ライト制御部303は、浮上制御部301による浮上制御処理、及びPH調整部302によるPH時間調整処理と並列的にライト処理を制御する。ライト制御部303は、瓦記録方式によるライト処理、又は瓦記録方式ではない通常のライト処理を制御する。瓦記録方式によるライト処理とは、記録されたデータの一部に重なるようにして(記録されたデータの一部が上書きされるようにして)、新たなデータが記録される方式である。通常のライト処理とは、記録されたデータに重ならないようにして(記録されたデータの一部が上書きされないようにして)、新たなデータが記録される方式である。なお、ライト処理の一部の処理としてサーボ処理が実行され得る。
【0030】
リード制御部304は、磁気ディスク1に対するデータのリード処理を制御する。リード制御部304は、HDC63から入力された実行要求に応じて、リード処理を制御する。リード制御部304は、浮上制御部301による浮上制御処理、及びPH調整部302によるPH時間調整処理と並列的にリード処理を制御する。リード制御部304は、リード処理に伴って、リードしたデータを評価するための情報である評価データを、HDC63から受領する。リード制御部304は、PH調整部302からの要求に応じて、受領した評価データをPH調整部302に出力する。なお、リード処理の一部の処理としてサーボ処理が実行され得る。
【0031】
以上説明したように、本実施形態にかかる複数の処理は、CPU62によって実現される複数の機能部によって制御される。
【0032】
[第1の実施形態]
次に、図3を用いて、本第1の実施形態にかかるPH時間調整処理の一部を説明する。図3は、本第1の実施形態にかかるHDD10によって実行されるPH時間調整処理の一部を説明するフローチャートを示す。
【0033】
図3に示したフローチャートは、PH時間調整処理のうち、ライト処理のためのプリヒート時間(WPH時間)を調整する処理の動作を示し、これ以降は、この処理をライト処理用のPH時間調整処理(WPH時間調整処理)と称する。この処理では、処理の対象トラックに対して、ライト処理の後にリード処理を実行することが繰り返される。また、ライト処理及びリード処理と並列的に浮上制御処理が実行される。WPH時間調整処理は、本第1の実施形態にかかるHDD10の製造工程において実行されるが、HDD10が製造された後(出荷された後)においても実行され得る。この処理は、CPU62による制御に従って、主にはRWC61及びHDC63が実行する。
【0034】
HDC63が、ホスト100からPH時間調整処理の実行要求を示すコマンドを受領することに応じて、この処理は開始する。このコマンドの受領に応じて、HDC63は、CPU62(PH調整部302)に、WPH時間調整処理の実行要求を通知する。実行要求を受領したPH調整部302は、HDC63を介して、例えばバッファメモリ23から、WPH時間調整処理の制御において必要なデータを受領する。PH調整部302は、プリヒート時間Tphの初期値を設定する(S301)。CPU62(リード制御部304)は、スライダ2を、WPH時間調整処理の対象トラック(及び対象ヘッド)にシークする(S302)。対象トラックは、WPH時間調整処理におけるライト処理及びリード処理に使用される目標セクタを含む。
【0035】
PH調整部302は、プリヒート時間Tph(ここでは初期値)に基づいて、ヒータ素子HEに電力が供給されるタイミングであるヒータONタイミングを決定する(S303)。ヒータONタイミングは、対象トラックに含まれる目標セクタの先頭が検出されるタイミング(先頭タイミング)を基点に決定される。先頭タイミングは、WPH時間調整処理におけるライト処理及びリード処理の開始タイミングに一致する。対象トラックは、磁気ディスク1上で略同心円上の軌跡として設定されている。従って、スライダ2が対象トラックに位置決めされている間は、開始タイミングが、磁気ディスク1の回転に応じて繰り返し検出される。リード制御部304は、対象トラックをリードしている間に、開始タイミングを時間に関する情報として検出することができる。PH調整部302は、この情報をライト制御部303及びリード制御部304と共有し、この情報で示される時間からプリヒート時間Tphを前倒しする(減算する)ことで、ヒータONタイミングを決定することができる。
【0036】
PH調整部302は、スライダ2が対象トラックに位置決めされている間、ヒータONタイミングが検出されたか否かを判定する(S304)。ヒータONタイミングが検出されなければ(S304のNO)、判定が繰り返され、ヒータONタイミングが検出されると(S304のYES)、処理が進む。PH調整部302は、ヒータONタイミングが検出されたことに応じて、ヒータドライバHDを制御してヒータ素子HEに電力を供給する(S305)。これに応じて、スライダ2の一部は、磁気ディスク1に向かって、ある時定数に応じて突き出す。このときPH調整部302は、予め決められたライト処理用のヒータデータ(ライトヒータデータ)をヒータドライバHDに設定する。
【0037】
その後、PH調整部302は、ライト処理の開始タイミングが検出されたか否かを判定する(S306)。開始タイミングが検出されなければ(S306のNO)、判定が繰り返され、開始タイミングが検出されると(S306のYES)、処理が進む。すなわち、これは、ヒータONタイミングからプリヒート時間Tph(ここでは初期値)が経過したことと同義である。ライト制御部303は、開始タイミングが検出されたことに応じて、目標セクタに対するライト処理を実行する(S307)。ここでライトされるデータは、ライト後にリードした際にリード性能を評価できるデータであればよい。
【0038】
目標セクタへのライト処理の後、リード制御部304は、目標セクタにライトされたデータをリードする。すなわちリード制御部304は、目標セクタに対するリード処理を実行する(S308)。このとき、PH調整部302は、予め決められたリード処理用のヒータデータ(リードヒータデータ)をヒータドライバHDに設定する。PH調整部302は、目標セクタに対するリード処理を開始するよりも十分に早いタイミングで、リードヒータデータをヒータドライバHDに設定する。十分に早いタイミングとは、リード処理を開始する時点で、スライダ2の浮上量の変動が安定した状態となるタイミングである。このタイミングは、予め決められた時間であればよい。リード制御部304は、リード処理において、目標セクタからリードしたデータを評価するための評価データを、HDC63から受領する。このデータは、エラーレート、エラービット数、ビタビ復号の結果、LDPC復号の結果、又はLLR、を含む。リード制御部304は、リード結果として、評価データとプリヒート時間Tphとの対をHDC63に出力して、例えばバッファメモリ23に記憶する(S309)。
【0039】
PH調整部302は、現在設定されているプリヒート時間Tphが、修了値であるか否かを判定する(S310)。プリヒート時間Tphの修了値は、初期値よりも十分に大きな値である。十分に大きな値とは、ライト処理を開始する時点で、スライダ2の浮上量の変動が安定した状態となることを満たす時間である。プリヒート時間Tphが修了値でないと判定された場合(S310のNO)、PH調整部302は、現在のプリヒート時間Tphに固定値Aを加算した値でプリヒート時間Tphを更新する(S311)。これによりプリヒート時間Tphが増加し、その後、処理(S302)に戻る。固定値Aは、プリヒート時間Tphについて初期値と終了値との差分値を2以上の自然数で除算した値であればよい。すなわち、初期値に固定値Aが複数回加算されることで終了値となる。例えば、初期値が0[uS]で終了値が2000[uS]である場合、固定値Aは、差分値2000[uS]を20で除算した100[uS]となり、初期値(0[uS])に固定値A(100[uS])が20回加算されることで終了値(2000[uS])となる。このようにして、(S302)〜(S311)の処理が複数回実行されることで、同一の目標セクタを利用した複数のリード結果が得られる。
【0040】
一方、プリヒート時間Tphが、修了値であると判定された場合(S310のYES)、PH調整部302は、複数のリード結果をHDC63から取得し、取得した複数のリード結果と第1閾値とに基づいて、WPH時間を決定する(S312)。例えば、PH調整部302は、複数のリード結果(評価データとプリヒート時間Tphとの対)のうち、評価データが第1閾値を越えている(第1閾値よりもよい)複数のプリヒート時間Tphのうち最も小さいプリヒート時間Tphを、WPH時間として決定する。第1閾値は、出荷後のHDD10の性能を保証できる任意の指標値であればよい。PH調整部302は、決定したWPH時間をHDC63に出力して、例えば不揮発性メモリ24に保存して(S313)、処理が修了する。
【0041】
このように、本第1の実施形態にかかるHDD10によれば、主にはCPU62によって実現される複数の機能部が、RWC61及びHDC63を利用して、PH時間調整処理の一部の処理(WPH時間調整処理)を実行する。なお、図3を用いて説明した複数の処理の何れかの処理が、異なる内容で実行されてもよい。以下、幾つか例示する。(例1)リード処理において、PH調整部302は、リードヒータデータをヒータドライバHDに設定しなくてもよい。これにより、リード結果の感度を上げることができる。(例2)プリヒート時間Tphの初期値が終了値より大きく、プリヒート時間Tphの更新時には固定値Aが減算されてもよい。これにより、WPH時間をより早く決定することができる。(例3)固定値Aが可変であってもよい。例えば、評価データが第1閾値近傍となり得るプリヒート時間Tphの付近では、固定値Aとして小さな値を設定することで分解能が上がるため、より正確なプリヒート時間Tphを設定することが可能となる。(例4)図3の処理は、複数のトラックを対象トラックとして実行されてもよい。例えば、磁気ディスク1の内周、中周、及び外周、それぞれの区間に対象トラックが設定されてもよい。これにより、ヘッド部のスキュ角に応じたプリヒート時間Tphの最適値の変化に対応することが可能となる。(例5)図3の処理は、複数の温度下で実行されてもよい。これにより、温度に応じたプリヒート時間Tphの最適値の変化に対応することが可能となる。なお、(例1)〜(例5)は各々適宜組み合わせることも可能である。
【0042】
ここで、図4を用いて、図3で説明したPH時間調整処理の一部(WPH時間調整処理)の概略動作を説明する。図4は、本第1の実施形態にかかるPH時間調整処理の一部の概略動作を説明するための図である。
【0043】
図4(a)において、(H)レベルの間が、目標セクタの期間である。図4(b)において、(L)から(H)となる各タイミングで、ヒータ素子HEに電力が供給(ヒータがON)される。ヒータ素子HEに電力が供給されることで、図4(c)に示すように、スライダ2の一部の突き出し量が、ある時定数に応じて増加するが、所定時間が経過すると飽和する。図4(a)〜(c)はそれぞれ、時間を示す矢印の方向で、時間が経過する様子を示している。
【0044】
PH時間調整処理の一部の処理であるWPH時間調整処理において、プリヒート時間の初期値(この例では0)でヒータONした場合、突き出し量が変化し始めて突出し目標で飽和するまでの間に目標セクタが通過している、これは、プリヒート時間の初期値では目標セクタにおいて、十分な突き出し量が得られないことを意味する。すなわち、プリヒート時間の初期値でヒータONしてライトしたデータをリードした場合の評価データは悪い値となることが予想される。その後、図3のS302〜S311が繰り返されて、プリヒート時間が固定値Aずつ増加され、例えば、5回目の繰り返しに至った状態となる。プリヒート時間の初期値(0)に対して、固定値Aが5回加算されたプリヒート時間(5A)でヒータONした場合、突き出し量が変化し始めて突出し目標でほぼ飽和した後に目標セクタが通過している、これは、プリヒート時間(5A)であれば目標セクタにおいて、十分な突き出し量が得られていることを意味する。すなわち、プリヒート時間(5A)でヒータONしてライトしたデータをリードした場合の評価データは、あるレベル(閾値)よりもよい値となることが予想される。なお、プリヒート時間(5A)に対して、さらに固定値Aが加算されたプリヒート時間(6A)以降は、プリヒート時間(5A)でヒータONした場合よりも、更に突き出し量が十分に飽和した後に目標セクタが通過する。この結果、複数のタイミングでヒータONしてライトしたデータをリードした場合の複数の評価データは、プリヒート時間(0)〜(4)は閾値よりも悪い結果となり、プリヒート時間(5)〜(n)は閾値よりもよい結果となる。そして、評価データが閾値を越えている(閾値よりもよい)複数のプリヒート時間(5)〜(n)のうち最も小さいプリヒート時間(5)が、WPH時間として決定される。
【0045】
次に、図5を用いて、図3において説明したPH時間調整処理の一部の処理(WPH時間調整処理)で得られる複数のリード結果の例を説明する。図5は、WPH時間調整処理の一部の処理で得られる複数のリード結果を例示する図である。
【0046】
図5において、X軸(横軸)はプリヒート時間を示し、Y軸(縦軸)は評価データとしてエラーレートを示している。プリヒート時間は、Y軸との交点が0であり交点から離れるほど値が大きくなる。すなわち、プリヒート時間の値が大きくなる(プリヒート時間が長くなる)に従って、ライト処理の開始タイミングでの浮上量は低くなる。エラーレートの値(すなわちリードしたデータの品質)は、X軸との交点に向かうほど良くなり交点から離れるほど悪くなることを示している。特性1及び特性2は、WPH時間調整処理における複数のリード結果のうちの2例を示す。
【0047】
図5に示すように、特性1において、エラーレートの第1閾値と交差するプリヒート時間の値はPH1であり、特性2において、エラーレートの第1閾値と交差するプリヒート時間の値はPH2である。プリヒート時間PH1はプリヒート時間PH2よりも小さな値である。これは、特性1に基づいて決定されるWPH時間1は、特性2に基づいて決定されるWPH時間2よりも短いことを示す。特性1,2ともに、プリヒート時間が大きくなるに従って、エラーレートの値が良好な領域で飽和する。プリヒート時間PH1における特性2のエラーレートの値は、第1閾値よりも悪い値を示し、プリヒート時間PH2における特性1のエラーレートの値は、第1閾値よりも良い値を示している。
【0048】
特性1,2ともに、同じライトヒータデータを用いたWPH時間調整処理による結果であり、特性1,2各々に対応するスライダ2の熱膨張係数に違いはない。従って、この特性の違いは、特性1,2各々に対応するスライダ2の構造的なばらつきに起因する、浮上量に対するエラーレート(エラーレート感度)の違いとして現される。すなわちこれは、特性1に対応するスライダ2は、特性2に対応するスライダ2よりも浮上量が高い状態であっても、ライト性能が良好である、ということを示している。
【0049】
本第1の実施形態にかかるHDD10によれば、WPH時間調整処理を実行することにより、ライト処理用のプリヒート時間(WPH時間)が調整される。これにより、スライダ2の構造的なばらつきに起因するエラーレート感度の違いを平準化することができる。さらに、磁気ディスク1上に存在する突起を避けるために、必要以上に早いタイミングでプリヒート処理を開始することを避けることができる。結果として、本第1の実施形態にかかるHDD10は、実際のライト処理又はリード処理の直前のプリヒート処理の開始タイミングを最適化することが可能となる。
【0050】
次に、図6を用いて、本第1の実施形態にかかるPH時間調整処理の他の一部を説明する。図6は、本第1の実施形態にかかるHDD10によって実行されるPH時間調整処理の他の一部を説明するフローチャートを示す。
【0051】
図6に示したフローチャートは、PH時間調整処理のうち、リード処理のためのプリヒート時間(RPH時間)を調整する処理の動作を示し、これ以降は、リード処理用のPH時間調整処理(RPH時間調整処理)と称する。この処理では、図3を用いて説明したWPH時間調整処理とほぼ同じ処理が実行されるが、処理の対象トラックに対してライト処理が一度実行された後に、リード処理が繰り返し実行される点で異なる。従って、WPH時間調整処理とほぼ同じ処理については、説明を簡略化する。この処理も、本第1の実施形態にかかるHDD10の製造工程において、又は、HDD10が製造された後(出荷された後)において実行され得る。この処理は、CPU62による制御に従って、主にはRWC61及びHDC63が実行する。なお、本第1の実施形態にかかるHDD10は、PH時間調整処理において、WPH時間調整処理のみ、WPH時間調整処理及びRPH時間調整処理、及びRPH時間調整処理のみ、の何れかを実施する。
【0052】
ホスト100からPH時間調整処理の実行要求を示すコマンドを受領することに応じて、この処理は開始する。このコマンドの受領に応じて、CPU62(PH調整部302)に、RPH時間調整処理の実行要求が通知される。PH調整部302は、HDC63を介して、例えばバッファメモリ23から、RPH時間調整処理の制御において必要なデータを受領する。
【0053】
RPH時間調整処理の実行要求の受領に応じて、ライト制御部303は、目標セクタに対するライト処理を実行する(S601)。ここでライトされるデータは、ライト後にリードした際にリード性能を評価できるデータであればよい。このとき、PH調整部302は、目標セクタに対するライト処理を開始するよりも十分に早いタイミングで、予め決められたライト処理用のヒータデータ(ライトヒータデータ)をヒータドライバHDに設定する。十分に早いタイミングとは、ライト処理を開始する時点で、スライダ2の浮上量の変動が安定した状態となるタイミングである。例えば、このタイミングは、図3に示したフローチャートによって調整されるWPH時間よりも十分に長い時間、又は予め決められた時間であればよい。その後、プリヒート時間Tphに初期値が設定され(S602)、スライダ2が、RPH時間調整処理の目標セクタを含む対象トラック(及び対象ヘッド)にシークされる(S603)。
【0054】
PH調整部302は、プリヒート時間Tph(ここでは初期値)に基づいて、ヒータONタイミングを決定する(S604)。PH調整部302は、スライダ2が対象トラックに位置決めされている間、ヒータONタイミングが検出されたか否かを判定する(S605)。ヒータONタイミングが検出されなければ(S605のNO)、判定が繰り返され、ヒータONタイミングが検出されると(S605のYES)、処理が進む。PH調整部302は、ヒータONタイミングが検出されたことに応じて、ヒータ素子HEに電力を供給する(S606)。これに応じて、スライダ2の一部は、磁気ディスク1に向かって。ある時定数に応じて突き出す。このときPH調整部302は、予め決められたリード処理用のヒータデータ(リードヒータデータ)をヒータドライバHDに設定する。
【0055】
その後、PH調整部302は、リード処理の開始タイミングが検出されたか否かを判定する(S607)。開始タイミングが検出されなければ(S607のNO)、判定が繰り返され、開始タイミングが検出されると(S607のYES)、処理が進む。リード制御部304は、開始タイミングが検出されたことに応じて、目標セクタに対するリード処理を実行し(S608)、目標セクタからリードしたデータを評価するための評価データを、HDC63から受領する。リード制御部304は、リード結果として、評価データとプリヒート時間Tphとの対を、HDC63を介して、例えばバッファメモリ23に記憶する(S609)。
【0056】
PH調整部302は、現在設定されているプリヒート時間Tphが、修了値であるか否かを判定する(S610)。プリヒート時間Tphが修了値でないと判定された場合(S610のNO)、現在のプリヒート時間Tphに固定値Bが加算された値でプリヒート時間Tphが更新される(S611)。固定値Bは、図3で説明した固定値Aと同じ値であっても異なる値であってもよい。これによりプリヒート時間Tphが増加し、その後、処理(S603)に戻る。(S603)〜(S611)の処理が複数回実行されることで、同一の目標セクタを利用した複数のリード結果が得られる。一方、プリヒート時間Tphが、修了値であると判定された場合(S610のYES)、HDC63を介して、例えばバッファメモリ23から取得された複数のリード結果と第2閾値とに基づいて、RPH時間が決定される(S612)。PH調整部302は、決定したRPH時間を、例えば不揮発性メモリ24に保存して(S613)、処理が修了する。
【0057】
このように、本第1の実施形態にかかるHDD10によれば、主にはCPU62によって実現される複数の機能部が、RWC61及びHDC63を利用して、PH時間調整処理の他の一部の処理(RPH時間調整処理)を実行する。なお、図6を用いて説明したRPH時間調整処理のうち複数の処理の何れかの処理は、図3の説明に関連して説明した、各処理の複数の異なる内容(例1)〜(例5)と同様の内容で実行されてもよい。また、このRPH時間調整処理においても、(例1)〜(例5)と同様の内容を、各々適宜組み合わせることが可能である。
【0058】
[第2の実施形態]
本第2の実施形態では、第1の実施形態において説明したWPH時間調整処理とは異なる内容で、第2のWPH時間調整処理が実行される。
【0059】
本第2の実施形態にかかるHDD10は、第1の実施形態にかかるHDD10においてCPU62がPH調整部302を備えるのに替わり、CPU62aがPH調整部302aを備える点で異なる。PH調整部302aは、HDC63から入力された実行要求に応じて、WPH時間又はRPH時間でなく、ライト処理用のヒータデータ(ライトヒータデータ)の値を調整する。これ以降の説明では、PH調整部302aにより制御されるライトヒータデータを調整する処理を、ライトヒータデータ調整処理(WHD調整処理)と称する。PH調整部302aは、調整したライトヒータデータと、予め測定され例えば不揮発性メモリ24に記憶されているスライダ2の熱膨張感度に関する情報と、に基づいて、WPH時間を算出する。前述したように、スライダ2の熱膨張係数は固体差がほぼないため、どのスライダ2も同一の熱膨張係数を用いることができる。すなわち、PH調整部302aは、同一の熱膨張感度の関数を用いて、ライトヒータデータに対応するWPH時間を算出することができる。なお、熱膨張感度の関数において、ライトヒータデータとWPH時間とは反比例の関係にある。PH調整部302aは、WHD調整処理の開始前に、処理の対象トラックでの浮上制御処理に必要なデータを、HDC63を介して取得する。またPH調整部302aは、WHD調整処理の制御において、HDC63から、ディスク1から読み出されたデータの品質に関するデータを受領する。
【0060】
図7を用いて、本第2の実施形態にかかるWHD調整処理を説明する。図7は、本第2の実施形態にかかるHDD10によって実行されるWHD調整処理を説明するフローチャートを示す。
【0061】
図7に示したフローチャートは、ライト処理用のヒータデータ(ライトヒータデータWHD)の値を調整する処理(WHD調整処理)の動作を示す。この処理では、処理の対象トラックに対して、ライト処理の後にリード処理を実行することが繰り返される。このとき、ライト処理及びリード処理と並列的に浮上制御処理が実行される。WHD調整処理では、第1の実施形態において図3を用いて説明したWPH時間調整処理に類似した処理が実行されるが、WPH時間を調整するのではなく、ライト処理用のヒータデータ(ライトヒータデータ)の値を調整する点で異なる。従って、WPH時間調整処理と類似した処理については、説明を簡略化する。WHD調整処理は、本第2の実施形態にかかるHDD10の製造工程において、又はHDD10が製造された後(出荷された後)において実行され得る。この処理は、CPU62aによる制御に従って、主にはRWC61及びHDC63が実行する。
【0062】
HDC63が、ホスト100からPH時間調整処理の実行要求を示すコマンドを受領することに応じて、この処理は開始する。このコマンドの受領に応じて、HDC63は、CPU62a(PH調整部302a)に、WHD調整処理の実行要求を通知する。実行要求を受領したPH調整部302aは、HDC63を介して、例えばバッファメモリ23から、WHD調整処理の制御において必要なデータを受領する。PH調整部302aは、ライトヒータデータDwhの初期値を設定する(S701)。CPU62a(リード制御部304)は、スライダ2を、WHD調整処理の対象トラック(及び対象ヘッド)にシークする(S702)。対象トラックは、WHD調整処理におけるライト処理及びリード処理で使用される目標セクタを含む。
【0063】
PH調整部302aは、ライト処理の開始タイミングよりも十分に早いタイミングで、ライトヒータデータDwh(ここでは初期値)をヒータドライバHDに設定して、ヒータ素子HEに電力を供給する(S703)。十分に早いタイミングとは、目標セクタに対してライト処理を開始する時点で、スライダ2の浮上量の変動が安定した状態となるタイミングである。例えば、このタイミングは、図3を用いて説明したWPH時間調整処理によって調整されるWPH時間よりも十分に長い時間、又は予め決められた時間であればよい。
【0064】
その後、PH調整部302aは、目標セクタの開始タイミングが検出されたか否かを判定する(S704)。開始タイミングが検出されなければ(S704のNO)、判定が繰り返され、開始タイミングが検出されると(S704のYES)、処理が進む。ライト制御部303は、開始タイミングが検出されたことに応じて、目標セクタに対するライト処理を実行する(S705)。ここでライトされるデータは、ライト後にリードした際にリード性能を評価できるデータであればよい。
【0065】
目標セクタへのライト処理の後、リード制御部304は、目標セクタにライトされたデータに対するリード処理を実行する(S706)。このとき、PH調整部302aは、目標セクタに対するリード処理を開始するよりも十分に早いタイミングで、予め決められたリード処理用のヒータデータ(リードヒータデータ)をヒータドライバHDに設定する。ここでの十分に早いタイミングとは、リード処理を開始する時点で、スライダ2の浮上量の変動が安定した状態となるタイミングである。このタイミングは、図6を用いて説明したRPH時間調整処理によって調整されるRPH時間よりも十分に長い時間、又は予め決められた時間であればよい。リード制御部304は、このリード処理において、目標セクタからリードしたデータを評価するための評価データを、HDC63から受領し、リード結果として、ライトヒータデータDwhと評価データとの対を、例えばバッファメモリ23に記憶する(S707)。
【0066】
PH調整部302aは、現在設定されているライトヒータデータDwhが、修了値であるか否かを判定する(S708)。ライトヒータデータDwhが修了値でないと判定された場合(S708のNO)、現在のライトヒータデータDwhに固定値Cが加算された値でライトヒータデータDwhが更新される(S709)。これによりライトヒータデータDwhが増加し、その後、処理(S702)に戻る。
【0067】
(S702)〜(S709)の処理が複数回実行されることで、同一の目標セクタを利用した複数のリード結果が得られる。一方、ライトヒータデータDwhが、修了値であると判定された場合(S708のYES)、例えばバッファメモリ23から取得された複数のリード結果と第3閾値とに基づいて、PH調整部302aは、ライトヒータデータWHDを決定する(S710)。そしてPH調整部302aは、決定したライトヒータデータWHDと、予め測定され例えば不揮発性メモリ24から取得されたスライダ2の熱膨張感度に関する情報と、に基づいて、WPH時間を算出する(S711)。決定されたライトヒータデータWHD及び算出されたWPH時間は、例えば不揮発性メモリ24に保存されて(S712)、処理が修了する。
【0068】
このように、本第2の実施形態にかかるHDD10によれば、主にはCPU62aによって実現される複数の機能部が、RWC61及びHDC63を利用して、WHD調整処理を実行する。なお、図7を用いて説明した複数の処理の何れかの処理は、図3の説明に関連して説明した、各処理の複数の異なる内容(例1)〜(例5)と同様の内容で実行されてもよい。WHD調整処理においても、(例1)〜(例5)と同様の内容を、各々適宜組み合わせることが可能である。
【0069】
次に、図8を用いて、図7において説明したPH時間調整処理の一部の処理(WHD調整処理)で得られる複数のリード結果の例を説明する。図8は、WHD調整処理で得られる複数のリード結果を例示する図である。
【0070】
図8において、X軸(横軸)は浮上量を示し、Y軸(縦軸)は評価データとしてエラーレートを示している。なお浮上量はライトヒータデータ及びヒータ電力に反比例するので、X軸は1/ヒータ電力を示しているのに等しい。浮上量(1/ヒータ電力)は、Y軸との交点が最大値であり交点から離れるほど値が小さくなる。ここで最大値とは、浮上量の最大値であり、すなわちヒータ電力=0の場合の浮上量に等しい。すなわち、浮上量(1/ヒータ電力)の値が小さくなる(ヒータ電力が大きくなる)に従って、磁気ディスク1とスライダ2との距離は短くなる。エラーレートの値(すなわちリードしたデータの品質)は、X軸との交点に向かうほど良くなり交点から離れるほど悪くなることを示している。特性3及び特性4は、WHD調整処理における複数のリード結果のうちの2例を示す。
【0071】
図8に示すように、特性3において、エラーレートの第3閾値と交差する浮上量の値がFH1であり、特性4において、エラーレートの第3閾値と交差する浮上量の値がFH2である。すなわち、浮上量FH1は浮上量FH2よりも大きな値である。これは、特性3に基づいて決定されるヒータ電力に対応するライトヒータデータWHD1は、特性4に基づいて決定されるヒータ電力に対応するライトヒータデータWHD2よりも小さいことを示す。なお、ライトヒータデータWHD1で浮上量FH1が得られ、ライトヒータデータWHD2で浮上量FH2が得られる。特性3,4ともに、浮上量が小さくなるに従って、エラーレートの値が良好な領域で飽和する。ライトヒータデータWHD1における特性4のエラーレートの値は、第3閾値よりも悪い値を示し、ライトヒータデータWHD2における特性3のエラーレートの値は、第3閾値よりも良い値を示している。
【0072】
特性3,4ともに、同じライトヒータデータの値を用いて測定された結果であり、特性3,4各々に対応するスライダ2の熱膨張係数に違いはない。従って、この特性の違いは、特性3,4各々に対応するスライダ2の構造的なばらつきに起因する、浮上量に対するエラーレート(エラーレート感度)の違いとして現される。すなわちこれは、特性3に対応するスライダ2は、特性4に対応するスライダ2よりも浮上量が高い状態であっても、ライト性能が良好である、ということを示している。
【0073】
PH調整部302aは、この結果から、特性3を示すスライダ2に対しては、ライトヒータデータWHD1に基づいてWPH時間1を算出し、特性4を示すスライダ2に対しては、ライトヒータデータWHD2に基づいてWPH時間2を算出する。ライトヒータデータWHD1は、ライトヒータデータWHD2よりも小さいが、逆に、WPH時間1は、WPH時間2よりも大きな値として算出される。
【0074】
本第2の実施形態にかかるHDD10によれば、WHD調整処理を実行することにより、ライト処理用のライトヒータデータ及びプリヒート時間(WPH時間)が調整される。これにより、スライダ2の構造的なばらつきに起因するエラーレート感度の違いを平準化することができる。さらに、磁気ディスク1上に存在する突起を避けるために、必要以上に早いタイミングでプリヒート処理を開始することを避けることができる。また、スライダ2ごとに、ライト処理におけるライトヒータデータ(すなわちライトヒータ電力)を最適化することができる。結果として、本第2の実施形態にかかるHDD10は、実際のライト処理又はリード処理の直前のプリヒート処理の開始タイミングを最適化することが可能となる。
【0075】
このように、本第2の実施形態にかかるHDD10によれば、主にはCPU62aによって実現される複数の機能部が、RWC61及びHDC63を利用して、PH時間調整処理の他の一部の処理(WHD調整処理)を実行する。なお、図7を用いて説明したWHD調整処理のうち複数の処理の何れかの処理は、図3の説明に関連して説明した、各処理の複数の異なる内容(例1)〜(例5)と同様の内容で実行されてもよい。また、このWHD調整処理においても、(例1)〜(例5)と同様の内容を、各々適宜組み合わせることが可能である。
【0076】
[第3の実施形態]
本第3の実施形態では、第1の実施形態において説明したWPH時間調整処理、及び第2の実施形態において説明した第2のWPH時間調整処理とは異なる内容で、第3のWPH時間調整処理が実行される。
【0077】
本第3の実施形態にかかるHDD10は、第1の実施形態にかかるHDD10が備えるCPU62に替わり、CPU62bを備える点で異なる。CPU62bは、浮上制御部301、PH調整部302b、ライト制御部303、リード制御部304、ヘッド特性測定部310を備える。浮上制御部301、ライト制御部303、及びリード制御部304は、第1の実施形態において説明した各機能部と同じであるので説明を省略する。本第3の実施形態にかかるCPU62bに備えられた各機能部は、HDD10に備えられるHDAや回路ブロックと協働して、様々な処理を実行する。CPU62bの各機能部は、互いに、情報を共有すること、及び処理タイミングの同期を取ること、が可能に構成されている。また、CPU62bの各機能部は、並列的に処理を実行することが可能に構成されている。
【0078】
PH調整部302bは、ヘッド特性測定部310が測定したヘッドの特性に関する特性情報に基づいて、WPH時間を決定する。特性情報は、スライダ2が備えるライトヘッドWHのコア幅である。PH調整部302bは、例えば不揮発性メモリ24に予め記憶されている、特性情報とWPH時間との対応関係に基づいて、WPH時間を決定する。
【0079】
ヘッド特性測定部310は、ライトヘッドWHのコア幅を測定する。この測定は、例えば、HDD10又はスライダ2の製造工程において、ライトヘッドWH毎に実施される。また、この測定の方法は任意の方法を適用することができる。例えば、ヘッド特性測定部310は、ライト制御部303に、ライトヘッドWHにより、測定対象のトラックに、ライト後にリードした際にリード性能を評価できる評価データをライトさせる。その後、ヘッド特性測定部310は、リード制御部304に、測定対象のトラックにライトされた評価データをリードさせる。ライトヘッドWHのコア幅はリードヘッドRHのコア幅よりも十分に大きく、また磁気ディスク1にライトされたデータの幅は、ライトヘッドWHのコア幅よりも半径方向(トラック方向)に所定量だけ広がる傾向がある。そこで、リード制御部304は、測定対象のトラックにライトされた評価データをシフトリードし、各シフトリードにおいてエラーレートを測定する。シフトリードとは、あるトラックに対して、リードヘッドRHを半径方向(トラック方向)に微小量ずつシフトして複数回リードする動作である。微小量は、例えばリードヘッドRHのコア幅の半分程度であればよい。このシフトリード及びエラーレート測定の結果、シフト量とエラーレートとの対応関係が測定される。ヘッド特性測定部310は、測定された対応関係から、エラーレートがある閾値よりも良好な範囲のシフト量(半径方向の幅)の範囲を求める。そしてヘッド特性測定部310は、求めたシフト量の範囲から、ライトヘッドWHのコア幅を、特性情報として推定(測定)する。
【0080】
ここで、図9を用いて、ライトヘッドWHのコア幅とWPH時間との対応関係を説明する。図9は、ライトヘッドWHのコア幅とWPH時間との対応関係の一例を示す。
【0081】
図9において、X軸(横軸)は、特性情報としてライトヘッドWHのコア幅を示し、Y軸(縦軸)はプリヒート時間(ここではWPH時間)を示している。ライトヘッドWHのコア幅は、Y軸との交点が0であり交点から離れるほど値が大きく(幅が広く)なる。プリヒート時間は、X軸との交点が0であり交点から離れるほど値が大きく(時間が長く)なる。ライトヘッドWHのコア幅に対するWPH時間の値は反比例の関係にある。例えば、ヘッド特性測定部310による測定の結果、コア幅W1が測定された場合、プリヒート時間(WPH時間)としてPH4が決定され、コア幅W2が測定された場合、プリヒート時間(WPH時間)としてPH3が決定される。すなわち、コア幅が狭くなるに従って、プリヒート時間は大きい(長い)値が決定される。
【0082】
この対応関係は、例えば、HDD10の製造工程よりも前に測定され、HDD10の製造工程において、例えば不揮発性メモリ24に不揮発に記憶される。例えば、この対応関係は、HDD10の製造工程よりも前に、複数のHDD10を用いて、予め測定される。このとき、前述したライトヘッドWHのコア幅を測定するとともに、第1の実施形態において説明したWPH時間調整処理、又は第2の実施形態において説明した第2のWPH時間調整処理、によってプリヒート時間(WPH時間)が測定されればよい。また、複数台のHDD10による測定結果が平均化されてもよい。
【0083】
このように、本第3の実施形態にかかるHDD10によれば、主にはCPU62bによって実現される複数の機能部が、RWC61及びHDC63を利用して、プリヒート時間(WPH時間)決定する。本第3の実施形態にかかるHDD10は、ライトヘッドWHのコア幅を測定することにより、ライト処理用のプリヒート時間(WPH時間)を決定する。これにより、スライダ2の構造的なばらつき(特にライトヘッドWHのコア幅)に起因するエラーレート感度の違いを平準化することができる。さらに、磁気ディスク1上に存在する突起を避けるために、必要以上に早いタイミングでプリヒート処理を開始することを避けることができる。結果として、本第3の実施形態にかかるHDD10は、実際のライト処理又はリード処理の直前のプリヒート処理の開始タイミングを最適化することが可能となる。
【0084】
以上で複数の実施形態を説明したが、説明した複数の実施形態は一例として提示したものであり、発明の範囲はこの実施形態に限定されない。また、説明した実施形態は、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等が可能である。さらに、前述した実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜に組み合わせることにより、種々の発明を形成することができる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよく、さらに、異なる実施形態に係る構成要素を適宜組み合わせても良い。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれ、特許請求の範囲に記載された発明と、その均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0085】
1…磁気ディスク、2…スライダ、3…アーム、4…VCM(ボイスコイルモータ)、5…SPM(スピンドルモータ)、10…磁気ディスク装置(HDD)、21…モータドライバIC、22…ヘッドアンプIC、23…バッファメモリ、24…不揮発性メモリ、60…コントローラ、61…リードライトチャネル(RWC)、62,62a,62b…CPU、63…ハードディスクコントローラ(HDC)、100…ホスト装置、301…浮上制御部、302,302a,302b…プリヒート(PH)調整部、303…ライト制御部、304…リード制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9