(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-17022(P2018-17022A)
(43)【公開日】2018年2月1日
(54)【発明の名称】膨張性鉱物を含有する路盤材の膨張抑制剤
(51)【国際特許分類】
E01C 7/04 20060101AFI20180105BHJP
C04B 5/00 20060101ALI20180105BHJP
C08F 20/06 20060101ALI20180105BHJP
【FI】
E01C7/04
C04B5/00 C
C04B5/00 Z
C08F20/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-148052(P2016-148052)
(22)【出願日】2016年7月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081798
【弁理士】
【氏名又は名称】入山 宏正
(72)【発明者】
【氏名】光藤 浩之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】須藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和寿
【テーマコード(参考)】
2D051
4G112
4J100
【Fターム(参考)】
2D051AD07
2D051AE05
2D051AF05
2D051AF12
2D051AG17
2D051AH02
2D051AH03
2D051EA00
2D051EA05
2D051EB01
4G112JD02
4G112JD03
4G112JE02
4G112JG01
4J100AK08P
4J100AK32Q
4J100CA01
4J100CA04
4J100DA01
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA19
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】通常エージング処理や促進エージング処理を行なわなくても、CaOやMgO等の膨張性鉱物を含有する鉄鋼スラグのような路盤材の膨張を長時間に亘って実用上充分に抑えることができる膨張抑制剤を提供する。
【解決手段】膨張性鉱物を含有する路盤材の膨張抑制剤として、水溶性のアクリル酸系重合体を用いた。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張性鉱物を含有する路盤材の膨張抑制剤であって、水溶性のアクリル酸系重合体から成ることを特徴とする膨張抑制剤。
【請求項2】
アクリル酸系重合体が、全構成単位中に下記の化1で示される構成単位Aを60モル%以上有するものである請求項1記載の膨張抑制剤。
【化1】
(化1において、
M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又は有機アミン)
【請求項3】
アクリル酸系重合体が、質量平均分子量3000〜20000000のものである請求項1又は2記載の膨張抑制剤。
【請求項4】
アクリル酸系重合体が、質量平均分子量10000〜10000000のものである請求項1〜3のいずれか一つの項記載の膨張抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張性鉱物を含有する路盤材の膨張抑制剤に関する。道路や駐車場等に用いられる路盤材には、天然砕石のほかに、鉄鋼スラグや再生材料等がある。これらの路盤材にCaOやMgO等の膨張性鉱物が含まれると、それらが水分と反応してCaO水和物やMgO水和物を形成する。これらの水和物は元の鉱物に比べて単位物質量あたりの体積が大きいため、体積膨張し、路盤等の隆起や破壊を引き起こし、更には舗装に隣接した構造物等を破壊することがある。本発明は、CaOやMgO等の膨張性鉱物を含有する例えば鉄鋼スラグのような路盤材の膨張を実用上充分に抑えることができる膨張抑制剤に関する。尚、本発明において、路盤材には、未舗装道路や未舗装の駐車場、広場、資材置き場などの整地等に使用される土工用材も含まれる。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼スラグを路盤材として用いる場合、鉄鋼スラグに含まれる膨張性鉱物の水和反応を進行させる通常エージング処理や、温水又は蒸気による促進エージング処理が行なわれている。しかし、かかる通常エージング処理や促進エージング処理では実際のところ、かかる処理を行なった鉄鋼スラグを路盤材として用いたときに、路盤材の膨張を充分に抑えることができない場合が生じるという問題がある。
【0003】
前記のような問題は、CaOの水和反応は速いが、MgOの水和反応は遅いことに起因することが指摘され(例えば、非特許文献1参照)、またCaOは水中20℃において3日で水和率が100%に到達するが、MgOは水中20℃において180日で水和率が57%に留まり、MgOの水和速度はCaOの1/100程度と非常に遅いことに起因することが指摘されている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Jurgen Geiseler,Ruth Schlosser,Rudiger Scheel,Klaus Koch and Dieter Janke:Steel Research 58(1987),p.210
【非特許文献2】GAO Peiwei, LU Xiaolin, GENG Fei, LI Xiaoyan, HOU Jie,LIN Hui,SHI Nannan.Production of MgO−type expansive agentin dam concrete by use of industrial by−products,Build Environ,Vol.43 No.4 Page.453−457 (2008.04)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、通常エージング処理や促進エージング処理を行なわなくても、CaOやMgO等の膨張性鉱物を含有する鉄鋼スラグのような路盤材の膨張を長時間に亘って実用上充分に抑えることができる膨張抑制剤を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、CaOやMgO等の膨張性鉱物を含有する鉄鋼スラグのような路盤材に用いる膨張抑制剤として、水溶性のアクリル酸系重合体が正しく好適であることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、膨張性鉱物を含有する路盤材用の膨張抑制剤であって、水溶性のアクリル酸系重合体から成ることを特徴とする膨張性抑制剤に係る。
【0008】
本発明において、膨張抑制剤として用いる水溶性のアクリル酸系重合体は、アクリル酸及び/又はその塩から形成された構成単位を主構成単位とするものであるが、なかでも水溶性のアクリル酸系重合体としては、全構成単位中に下記の化1で示される構成単位Aを60モル%以上有するものが好ましく、70モル%以上有するものがより好ましい。
【0009】
【化1】
【0010】
化1において、
M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又は有機アミン
【0011】
構成単位Aを形成することとなる単量体としては、1)アクリル酸、2)アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸リチウム等のアクリル酸アルカリ金属塩、3)アクリル酸カルシウム、アクリル酸マグネシウム等のアクリル酸アルカリ土類金属塩、4)アクリル酸アンモニウム塩、5)アクリル酸トリエタノールアミン、アクリル酸ジエタノールアミン等のアクリル酸有機アミン塩が挙げられる。構成単位Aには、単量体としてアクリル酸を用いて重合した後、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又は有機アミンで中和して得られるアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩が含まれる。なかでも構成単位Aを形成することとなる単量体としては、アクリル酸及び/又はアクリル酸ナトリウムが好ましい。
【0012】
前記の水溶性のアクリル酸系重合体は、構成単位A以外に、他の構成単位を有することができる。かかる他の構成単位を形成することとなる単量体としては、メタクリル酸、メタクリル酸の塩、クロトン酸、クロトン酸の塩、マレイン酸、マレイン酸の塩、無水マレイン酸、フマル酸、フマル酸の塩、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、アクリル酸ヒドロキシアルキル、メタクリル酸ヒドロキシアルキル、アクリルアミド、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸の塩、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸の塩、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸の塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の塩、スチレン、酢酸ビニル、エチレン、イソプレン及びイソアミレン等から選ばれる一つ又は二つ以上が挙げられる。なかでも、他の構成単位を形成することとなる単量体としては、マレイン酸、マレイン酸の塩、無水マレイン酸、メタクリル酸、メタクリル酸の塩が好ましい。
【0013】
前記の水溶性のアクリル酸系重合体は、その質量平均分子量が特に制限されるというものではないが、質量平均分子量が3000〜20000000のものが好ましく、10000〜10000000のものがより好ましい。
【0014】
前記の水溶性のアクリル酸系重合体それ自体は、公知の方法で合成できる。これには例えば、特開平5−117306号公報に記載の方法が挙げられる。より具体的には、ステンレス製圧力反応容器に、まずアクリル酸水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを加えてアクリル酸を部分中和し、次に窒素雰囲気下に過硫酸塩を加えた後、加温下に重合反応を行うことにより合成できる。
【0015】
路盤材の膨張抑制剤として用いる水溶性のアクリル酸系重合体は、膨張性鉱物を含有する路盤材、例えば鉄鋼スラグの質量に対して0.1〜4質量%となるように用いるのが好ましく、0.5〜3質量%となるように用いるのがより好ましい。水溶性のアクリル酸系重合体は、単独で使用しても、あるいは必要に応じ2種類以上を併用しても構わない。また水溶性のアクリル酸系重合体の本来的機能を損なわない限り、水不溶性の高吸水性樹脂、オキシカルボン酸やその塩、単糖類、多糖類、消泡剤、起泡剤、ポゾラン物質、水硬性物質等と併用しても構わない。水溶性のアクリル酸系重合体は、膨張性鉱物を含有する路盤材にそのまま添加しても、又は水に溶解してから添加してもよく、双方を併用してもよい。膨張性鉱物を含有する路盤材は、既に施工されている膨張性鉱物を含有する路盤材を取出し、これに水溶性のアクリル酸系重合体を加えた後に、再度路盤材として用いてもよい。以上説明したような水溶性のアクリル酸系重合体の市販品としては、日本触媒社製の商品名でアクアリックLやアクアリックH、東亞合成社製の商品名でアロンやジュリマー等が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の膨張性鉱物を含有する路盤材の膨張抑制剤は、時間のかかる通常エージング処理や、コストのかかる促進エージング処理をわざわざ行なわなくても、膨張性鉱物を含有する鉄鋼スラグのような路盤材の膨張を長期間に亘って実用上充分に抑えることができるという効果がある。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれら実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0018】
試験区分1(アクリル酸系重合体の合成)
・アクリル酸系重合体(P−1)の合成
反応容器に、アクリル酸72g、3−メルカプトプロピオン酸3.5g及び水742gを仕込んで混合し、濃度30%の水酸化ナトリウム水溶液66gを撹拌しながら加えて中和した。雰囲気を窒素置換した後、反応系の温度を温水浴にて60℃に保ち、濃度20%の過硫酸ナトリウム水溶液10gを滴下して重合を開始し、4時間重合反応を行なって、アクリル酸系重合体(P−1)の10%水溶液を得た。このアクリル酸系重合体(P−1)の質量平均分子量は4200であった。
【0019】
・アクリル酸系重合体(P−2)の合成
アクリル酸系重合体(P−1)の場合と同様にして、表1に記載したアクリル酸系重合体(P−2)の10%水溶液を得た。このアクリル酸系重合体(P−2)の質量平均分子量は27000であった。
【0020】
・アクリル酸系重合体(P−3)の合成
反応容器に、無水マレイン酸49g及び水303gを仕込んで混合し、雰囲気を窒素置換した後、反応系の温度を90℃に保ち、アクリル酸84gとイオン交換水140gの混合液及び濃度20%の過硫酸ナトリウム水溶液20gを4時間かけて滴下して重合反応を行なった後、濃度30%の水酸化ナトリウム水溶液19gを添加し、イオン交換水にて10%水溶液となるよう希釈して、アクリル酸系重合体(P−3)の10%水溶液を得た。このアクリル酸系重合体(P−3)の質量平均分子量は36000であった。
【0021】
・アクリル酸系重合体(P−4)の合成
反応容器に、イオン交換水260gを仕込み、撹拌しながら雰囲気を窒素置換し、反応系の温度を60℃に保った。次にアクリル酸35g、ポリプロピレングリコール0.3g、アセトン14g及び重合開始剤として2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.01gを添加した。白濁による反応が始まってからアクリル酸120g及びアセトン36gの混合液156gと前記の重合開始剤0.05gを分割して添加した。全量仕込みが終わった後、更に60℃の温度下で2時間熟成して、重合体の懸濁液を得た。この懸濁液を濾過し、濾別した固形分を乾燥した後、水酸化ナトリウムでpH6に調整したイオン交換水水溶液を加えて、アクリル酸系重合体(P−4)の10%水溶液を得た。このアクリル酸系重合体(P−4)の質量平均分子量は300000であった。
【0022】
・アクリル酸系重合体(P−5)の合成
アクリル酸系重合体(P−4)の場合と同様にして、表1に記載したアクリル酸系重合体(P−5)を合成し、水酸化ナトリウムにて中和を行ない、乾燥してアクリル酸系重合体(P−5)を得た。このアクリル酸系重合体(P−5)の質量平均分子量は5000000であった。以上で合成したアクリル酸系重合体の内容を表1にまとめて示した。
【0023】
【表1】
【0024】
試験区分2(評価その1:10日における水浸膨張比)
試験に供した路盤材としての鉄鋼スラグの組成はCaOが36〜39%、MgOが3.5〜5.7%で、クラッシャラン鉄鋼スラグのCS−40に粒度調整したもの。これをJIS A 5015にしたがって80℃で10日間(80℃での保持時間は1日6時間)における水浸膨張比を測定した。結果を表2にまとめて示した。各比較例及び実施例に供した鉄鋼スラグは下記の通りである。
比較例1:エージングを行なっていない鉄鋼スラグ。
比較例2:通常(大気)エージングを8ヶ月行なった鉄鋼スラグ。
比較例3:促進エージングである蒸気エージングを48時間行なった鉄鋼スラグ。
実施例1:エージングを行なっていない鉄鋼スラグに、膨張抑制剤として試験区分1で合成したアクリル酸系重合体(P−1)の10%水溶液をアクリル酸系重合体(P−1)として0.5%となるよう添加した。
実施例2〜6:膨張抑制剤の種類や添加量を表2記載のように変えて実施例1と同様に行なった。
【0025】
【表2】
【0026】
表2において、
P−1〜P−5:試験区分1で合成したアクリル酸系重合体
添加量:アクリル酸系重合体としての添加量
【0027】
表2の結果からも明らかなように、MgOの含有量が少ない鉄鋼スラグの場合でも、エージングを行なわなければ、水浸膨張比は2.5%に達するが、通常エージングや促進エージングを行なうことにより、JISの基準を満足する水浸膨張比となることがわかる。また膨張抑制剤として水溶性のアクリル酸系重合体を用いる本発明によれば、わざわざエージングを行なわなくても、JISの基準を満足する水浸膨張比となることがわかる。
【0028】
試験区分3(評価その2:10日と90日における水浸膨張比)
試験に供した路盤材としての鉄鋼スラグの組成はCaOが40〜43%、MgOが12〜18%で、クラッシャラン鉄鋼スラグのCS−40に粒度調整したもの。これをJISA5015にしたがって80℃で1日6時間保持の10日間における水浸膨張比に加え、80℃で90日間連続保持したときの水浸膨張比を測定した。結果を表3にまとめて示した。各比較例及び実施例に供した鉄鋼スラグは次の通りである。
比較例4:通常(大気)エージングを8ヶ月行なった鉄鋼スラグ。
実施例7〜12:エージングを行なっていない鉄鋼スラグに、膨張抑制剤として試験区分1で合成した水溶液のアクリル酸系の重合体を表2記載のように添加した。
【0029】
【表3】
【0030】
表3において、
A−1〜A−5:試験区分1で合成したアクリル酸系重合体
添加量:アクリル酸系重合体としての添加量
【0031】
表3の結果からも明らかなように、MgOの含有量が多い鉄鋼スラグの場合でも、通常エージングを行なうことにより、80℃で10日間の水浸膨張比(80℃±3℃で6時間保持した後に養生装置内で放冷するという操作を1日1回行ない、これを10日間繰り返した場合の水浸膨張比)が基準の1.5%以下を達成できている。しかし、80℃で90日間連続保持したときの水浸膨張比を測定すると、10%を超える値となっていて、MgOの含有量の多い鉄鋼スラグの場合、通常エージングでは長期間に亘る充分な膨張抑制効果は期待できない。これに対して各実施例では、MgOの含有量が多い鉄鋼スラグの場合に、わざわざ通常エージングを行なわなくても、80℃で10日間の水浸膨張比はすべて0.1〜0.2%となっていて、また膨張抑制剤の種類や添加量によっては80℃で90日間連続保持したときの水浸膨張比を1%未満に抑制できている。