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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-170998(P2018-170998A)
(43)【公開日】2018年11月8日
(54)【発明の名称】農業用液体マルチ組成物
(51)【国際特許分類】
   A01G 13/00 20060101AFI20181012BHJP
   C09K 17/32 20060101ALI20181012BHJP
【FI】
   A01G13/00 301Z
   C09K17/32 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-71288(P2017-71288)
(22)【出願日】2017年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126169
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(72)【発明者】
【氏名】福井 浩
(72)【発明者】
【氏名】町田 誠
(72)【発明者】
【氏名】日高 康博
【テーマコード(参考)】
2B024
4H026
【Fターム(参考)】
2B024DB10
4H026AA01
4H026AA10
4H026AA14
4H026AB04
(57)【要約】
【課題】
本発明は、様々な環境において、雑草抑制効果、地温調整効果、透水性に優れた農業用マルチ材料、具体的には農業用液体マルチ組成物を得ることを目的とする。
【解決手段】
(A)成分:カルボキシメチルセルロース又はその塩、(B)成分:カチオン性高分子、及び(D)成分:有色剤を含有する農業用液体マルチ組成物。更に、(C)成分:硫酸塩、リン酸塩、及び硝酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種類の塩を含有させることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:カルボキシメチルセルロース又はその塩、(B)成分:カチオン性高分子、(D)成分:有色剤を含有する農業用液体マルチ組成物。
【請求項2】
(C)成分:硫酸塩、リン酸塩、及び硝酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種類の塩を含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(A)成分が、グルコース残基当たりカルボキシメチル基の置換度が0.4〜1.1のカルボキシメチルセルロースを含む請求項1〜2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項4】
(A)成分が、1%粘度が300〜2000mPa・sのカルボキシメチルセルロースを含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
(B)成分が、ポリアクリル酸エステル系化合物及び/又はポリメタクリル酸エステル系化合物である請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
(B)成分が、カチオン化度が3.0〜5.0meq/gであるカチオン性高分子を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
(B)成分が、分子量300万〜750万のカチオン性高分子を含む請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
(C)成分が、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、及びリン酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアンモニウム塩を含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
(D)成分が、カーボンブラック、フタロシアニングリーン、チタンホワイト、ベンガラからなる群より選ばれる少なくとも1種類を含む請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
(A)、(B)成分の配合比率が、(A):(B)=0.3〜0.8:0.05〜0.2である請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
(A)、(B)及び(C)成分の配合比率が、(A):(B):(C)=0.3〜0.8:0.05〜0.2:0.4〜1.0である請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
(A)、(B)、(C)及び(D)成分の配合比率が、(A):(B):(C):(D)=0.3〜0.8:0.05〜0.2:0.4〜1.0:0.03〜0.15である請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
組成物のpHが5.8以上7.5以下であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
リグニンスルホン酸及びその塩を含む請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用液体マルチ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用のマルチシートは農作物あるいは花卉の周りの地面を被覆する資材であり、地温の調節、雑草発生の抑制等の効果により農作物あるいは花卉品質、収量の向上を目的として使用されている。従来、この農業用マルチシートはポリオレフィン系のプラスチックフィルムが使用されてきた。しかしながら、これらのプラスチックフィルム製マルチシートは殆ど生分解性がないため、使用後の回収・焼却処理が必要である。この回収・焼却処理にあたっては特殊な装置や多大な労力と時間が必要である上、環境汚染の点からも問題となっている。
【0003】
この問題の解決のため、土壌中の微生物によって分解されるフィルムを用いた生分解性マルチシートが発案されている。これらの生分解性を有するマルチシートは、使用後に土に鋤き込むことによって処理することが可能である。さらに、別の問題として、プラスチックフィルム製マルチシートは透水性が無く、雨水等が溜まる欠点があり、水を抜くために穴を開けるなど繁雑な作業が伴う。特にカボチャ、スイカ、メロン等の蔓先植物の果実の下に敷設する様な下敷きマルチの分野においては、シート上に水が溜まると腐敗の原因となるので、透水性が必要である。この問題の解決のためには、透水性を有する紙を用いた紙製マルチシートが発案されている(特許文献1)。この紙製マルチシートは生分解性を有するため、生分解性、透水性の両方の特性を有するマルチシートである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-000059
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、紙製マルチシートに要求される生分解性、雑草抑制効果、地温抑制効果、透水性は、土壌環境や作付する作物の種類によって異なるため、一種類の紙製マルチシートで対応することは不可能であった。上記問題を解決する方法として、品質の異なる複数の紙製マルチシートを組み合わせることで対応可能であるが非現実的である。
【0006】
そこで、本発明は、様々な環境において、雑草抑制効果、地温調整効果、透水性に優れた農業用マルチ材料、具体的には農業用液体マルチ組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の〔1〕〜〔14〕を提供することを目的とする。
〔1〕 (A)成分:カルボキシメチルセルロース又はその塩、(B)成分:カチオン性高分子、(D)成分:有色剤を含有する農業用液体マルチ組成物。
〔2〕 (C)成分:硫酸塩、リン酸塩、及び硝酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種類の塩を含有する〔1〕に記載の組成物。
〔3〕 (A)成分が、グルコース残基当たりカルボキシメチル基の置換度が0.4〜1.1のカルボキシメチルセルロースを含む〔1〕〜〔2〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔4〕 (A)成分が、1%粘度が300〜2000mPa・sのカルボキシメチルセルロースを含む〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔5〕 (B)成分が、ポリアクリル酸エステル系化合物及び/又はポリメタクリル酸エステル系化合物である〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔6〕 (B)成分が、カチオン化度が3.0〜5.0meq/gであるカチオン性高分子を含む〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔7〕 (B)成分が、分子量300万〜750万のカチオン性高分子を含む〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔8〕 (C)成分が、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、及びリン酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアンモニウム塩を含む〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔9〕 ((D)成分が、カーボンブラック、フタロシアニングリーン、チタンホワイト、ベンガラからなる群より選ばれる少なくとも1種類を含む〔1〕〜〔8〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔10〕 (A)、(B)成分の配合比率が、(A):(B)=0.3〜0.8:0.05〜0.2である〔1〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔11〕 (A)、(B)及び(C)成分の配合比率が、(A):(B):(C)=0.3〜0.8:0.05〜0.2:0.4〜1.0である〔1〕〜〔10〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔12〕 (A)、(B)、(C)及び(D)成分の配合比率が、(A):(B):(C):(D)=0.3〜0.8:0.05〜0.2:0.4〜1.0:0.03〜0.15である〔1〕〜〔11〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔13〕 組成物のpHが5.8以上7.5以下であることを特徴とする〔1〕〜〔12〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔14〕 リグニンスルホン酸及びその塩を含む〔1〕〜〔13〕のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、様々な環境において、雑草抑制効果、地温調整効果、透水性に優れた農業用マルチ材料、具体的には農業用液体マルチ組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の農業用液体マルチ組成物(以下、単に「組成物」ということがある)は、ポリイオンコンプレックスを形成する、(A)成分と(B)成分と(D)成分が含有されているため、この組成物を散布すると畑などの表面の土壌が固化され、その結果として、雑草抑制効果、地温調整効果が発現する。また、畑の表面に本発明の組成物からなるシートが存在するのではなく、本発明の組成物と土壌との固化物が存在することになるため、透水性にも優れる。
【0010】
なお、ポリイオンコンプレックスとは、ポリアニオンとポリカチオンが静電的相互結合により形成する複合体である。本発明においては通常、カチオンに対してアニオンがリッチなポリイオンコンプレックスを形成できるので、組成物の毒性が低い。組成物中にポリイオンコンプレックスが形成されていることは、組成物が白濁していることを目視することで確認できる。ポリイオンコンプレックスがアニオンリッチであること(カチオンよりアニオンを多く含むこと)は、組成物の原料の種類及び含有量から推定できる。
【0011】
また、本発明の組成物の散布する量により、雑草抑制効果、地温調整効果、透水性を調整することができる。
【0012】
更に、本発明の組成物の主成分である、(A)成分:カルボキシメチルセルロース又はその塩、(B)成分:カチオン性高分子は生分解性あるいは光分解性を有しているため、使用後の土壌への影響はほとんどない。また、(D)成分:有色染料、有色顔料は、その使用量が少ないことや、土壌への影響がない材料を選択することで、使用後に土壌へ影響を及ぼすことはない。さらに、(C)成分:硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩は肥料などにも利用されており、土壌への影響はほとんどない。
【0013】
本発明の農業用液体マルチ組成物は、上記(A)成分、(B)成分及び(D)成分のみ、(A)成分、(B)成分及び(D)成分に(C)成分を混同した組成物を土壌に散布して使用される。また、上記(A)成分、(B)成分及び(D)成分からなる組成物を土壌に散布後に、散布した組成物に含有されていない(C)成分を含む液体を散布して使用することもできる。
【0014】
また、本発明において、リグニンスルホン酸及びその塩を配合することで、農業用液体マルチ組成物を構成する各成分の相溶性を向上させることができる。なお、リグニンスルホン酸及びその塩は、肥効性や微生物活性を向上させ、木材由来の糖類が含まれているため、土壌微生物を速やかに活性化するため、使用後に土壌へ影響を及ぼすことはない。
【0015】
(カルボキシメチルセルロース)
(A)成分は、カルボキシメチルセルロース(CMC)及び/又はその塩である。カルボキシメチルセルロース又はその塩の製造方法は特に限定されないが、セルロース原料にカルボキシメチル化反応を行う製造方法が例示される。
【0016】
セルロース原料としては、晒又は未晒木材パルプ、精製リンター、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等の天然セルロースや、セルロースを銅アンモニア溶液、モルホリン誘導体等、何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸された再生セルロース、及び上記セルロース系素材の加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等によって解重合処理した微細セルロース又は機械的に処理した微細セルロースが例示される。
【0017】
カルボキシメチル化反応においては、溶媒として低級アルコールを用いてもよい。溶媒の量は、発底原料であるセルロースに対し3〜20重量倍であることが好ましい。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合物と水の混合媒体が例示される。該混合媒体における低級アルコールの混合割合は、60〜95重量%である。
【0018】
カルボキシメチル化反応においては、通常はマーセル化剤を用いる。マーセル化剤の量は、発底原料であるセルロースのグルコース残基当たり0.5〜20倍モルであることが好ましい。マーセル化剤としては、水酸化アルカリ金属が例示される。水酸化アルカリ金属としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが例示される。
【0019】
カルボキシメチル化反応においては通常、発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合してマーセル化反応を行う。マーセル化反応の反応温度は、通常は0〜70℃、好ましくは10〜60℃である。マーセル化反応の反応時間は、通常15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間である。
【0020】
カルボキシメチル化反応においては通常、マーセル化反応の後にカルボキシメチル化剤を用いてエーテル化反応を行う。エーテル化反応におけるカルボキシメチル化剤の量は、グルコース残基当たり0.05〜2.0倍モルであることが好ましい。エーテル化反応の反応温度は、30〜90℃であり、好ましくは40〜80℃である。エーテル化反応の反応時間は、通常は30分〜10時間であり、好ましくは1時間〜4時間である。
【0021】
カルボキシメチルセルロース又はその塩の、グルコース残基当たりカルボキシメチル基の置換度(DS値)は、0.4以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。また、カルボキシメチルセルロース又はその塩の、グルコース残基当たりカルボキシメチル基の置換度(DS値)は、1.1以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましく、0.9以下または0.7以下であることがさらに好ましい。カルボキシメチルセルロース又はその塩の、グルコース残基当たりカルボキシメチル基の置換度(DS値)は、0.4〜1.1であることが好ましく、0.5〜1.0であることがより好ましい。DS値は、実施例に記載する方法により測定することができる。
【0022】
カルボキシメチルセルロース又はその塩の分子量は、10万〜30万であることが好ましく、15万〜25万であることがより好ましい。分子量の測定は、実施例に示す方法によることができる。
【0023】
カルボキシメチルセルロース又はその塩の1%粘度は、300以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましい。カルボキシメチルセルロース又はその塩の1%粘度は、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、1100以下であることがさらに好ましい。カルボキシメチルセルロース又はその塩の1%粘度は、300〜2000であることが好ましく、500〜1100であることがより好ましい。粘度の測定は、実施例に示す方法によることができる。
【0024】
カルボキシメチルセルロースの塩は、有機塩及び無機塩のいずれでもよいが、無機塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。
【0025】
(A)成分は、1種類のカルボキシメチルセルロース又はその塩でもよいし、2種類以上のカルボキシメチルセルロースの組み合わせ、2種類以上のカルボキシメチルセルロースの塩の組み合わせ、2種類以上のカルボキシメチルセルロース及びその塩の組み合わせであってもよい。
【0026】
(カチオン性高分子)
(B)成分は、カチオン性高分子である。カチオン性高分子は、通常、水に溶解したときにカチオン性を示す。カチオン性は、カチオン化度にて示すことができる。カチオン性高分子のカチオン化度は、5.0meq/g以下であることが好ましく、4.5meq/g以下であることがより好ましい。これにより、(A)及び(B)成分の「継子」の発生を抑制することができる。下限は、3.0meq/g以上であることが好ましく、3.5meq/g以上であることがより好ましい。これにより、組成物が固化性を十分に発揮することができる。従って、カチオン化度は、3.0〜5.0meq/gであることが好ましく、3.5〜4.5meq/gであるこ
とがより好ましい。
【0027】
カチオン化度(アニオン要求量)は、粒子表面電荷量測定装置などを用いて測定することができる。滴定試薬としてポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウムを用いてもよい。測定の際、カチオン性高分子は、測定時にイオン交換水で希釈することが好ましい。
【0028】
カチオン性高分子の分子量(Mw(重量平均分子量))は、300万以上であることが好ましく、350万以上であることがより好ましく、550万以上であることがさらに好ましい。上限は、750万以下であることが好ましく、650万以下であることがより好ましい。従って、300万〜750万であることが好ましく、350万〜650万であることがより好ましい。分子量の測定は、実施例に示す方法によることができる。
【0029】
カチオン性高分子は、カチオン化度3.8〜4.2meq/g且つ分子量350〜750万であることが好ましく、カチオン化度3.9〜4.1meq/g且つ分子量550〜650万であることが好ましい。
【0030】
カチオン性高分子としては、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド樹脂、ジエチレントリアミン・ジシアンジアミド・アンモニウムクロライド縮合物、(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリアルキルアンモニウムクロライドの重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドの重合物、エチレンイミン重合物、ジアリルアミン重合物、アンモニア・エピクロロヒドリン・ジメチルアミン共重合物、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、カチオン化セルロースなどを例示することができ、ポリアクリル酸エステル系化合物及びポリメタクリル酸エステル系化合物が好ましい。
【0031】
(B)成分は、1種類のカチオン性高分子でもよいし、2種類以上のカチオン性高分子の組み合わせでもよい。
【0032】
(硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩)
(C)成分は、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種類の塩である。硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩としては、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸カリウム、リン酸カリウムリン酸アンモニウムが例示され、肥料としても利用されている硫酸アンモニウム、硫酸カリウムを使用することが好ましく、固化性の観点から硫酸アンモニウムを使用することがさらに好ましい。硫酸アンモニウムは、(A)成分と(B)成分からなるポリイオンコンプレックスの分散安定性に優れるほかリン酸塩、硝酸塩のような環境汚染物質ではなく、一般に肥料として使用されており、農業用液体マルチ組成物の材料として好適に用いられる。また、アンモニウム塩は、通常、(A)成分との溶解性に優れている。
【0033】
(C)成分は、1種類のアンモニウム塩でもよいし、2種類以上のアンモニウム塩の組み合わせでもよい。
【0034】
(有色剤)
(D)成分である有色剤とは、組成物に機能性を付与するために添加される材料であり、例えば、黒色の有色剤を用いた場合には地温を高く保つことができ、白色の有色剤を用いることで場合には地温の上昇を抑制することができる。
有色剤としては、無機顔料、有機顔料、多環顔料、アゾ顔料、レーキ顔料、蛍光顔料、各種染料を使用することができ、雑草抑制の観点からは、フタロシアニン、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、ベンガラ、チタンホワイト、ジアゾ顔料、天然色素類、ジアゾ染料、カーボンブラック等を使用することが好ましく、カーボンブラックを使用することがさらに好ましい。なお、カーボンブラックの使用にあたっては、(A)成分:カルボキシメチルセルロース又はその塩と(B)成分:カチオン性高分子との相溶性の点から、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの分散剤を含む溶液にカーボンブラックを分散した分散液を使用することが好ましい。
【0035】
(リグニンスルホン酸及びその塩)
本発明において、リグニンスルホン酸及びその塩を液体マルチシート組成物に対して、有効固形分0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%配合することで、液体マルチシート組成物(特に顔料を含む液体マルチシート組成物)を構成する成分の相溶性を向上させることができる。
【0036】
リグニンスルホン酸及びその塩としては、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸カルシウム塩、リグニンスルホン酸マグネシウム塩、リグニンスルホン酸ナトリウム塩などを例示することができ、具体的には、サンエキスM−100、サンエキスP321、サンエキス252、サンエキスP252、サンエキスSCL、サンエキスSCP、サンエキスFDL、バニレックスN、パールレックスNP、パールレックスDP(いずれも日本製紙製)などの市販品を例示することができる。なお、 リグニンスルホン酸及びその塩は有色剤としても利用することができる。
【0037】
(配合比率)
また、(A)、(B)及び(D)成分の含有比率(固形分)は、重量比で、(A):(B):(D)=0.3〜0.8:0.05〜0.2:0.03〜0.15であることが好ましく、0.35〜0.75:0.1〜0.15:0.03〜0.15であることがより好ましく、0.38〜0.75:0.08〜0.15:0.03〜0.15であることがさらに好ましく、0.4〜0.6:0.1〜0.14:0.03〜0.15であることがさらにより好ましい。
【0038】
また、(A)〜(D)成分の含有比率(固形分)は、重量比で、(A):(B):(C):(D)=0.3〜0.8:0.05〜0.2:0.4〜1.0:0.03〜0.15であることが好ましく、0.35〜0.75:0.1〜0.15:0.45〜1.0:0.03〜0.15であることがより好ましく、0.38〜0.75:0.08〜0.15:0.6〜1.0:0.03〜0.15であることがさらに好ましく、0.4〜0.6:0.1〜0.14:0.6〜0.8:0.03〜0.15であることがさらにより好ましい。
【0039】
本発明の農業用液体マルチ組成物のpHは、中性付近であることが好ましく、5.8〜7.5または6〜7であることがより好ましい。これにより、土壌への影響を抑制することができる。
【0040】
農業用液体マルチシートを構成する溶媒は、水等の水性溶媒であることが好ましい。農業用液体マルチ組成物中の上記成分(A)〜成分(D)の合計量は1.0〜2.3重量%であることが好ましく、1.1〜1.5重量%であることがより好ましい。
【0041】
本発明の農業用液体マルチ組成物は、(A)及び(B)成分を必須の成分として、必要に応じて(C)、(D)成分、溶媒の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、保存剤、pH調整剤等が例示される。
【0042】
本発明の農業用液体マルチ組成物の製造方法は、特に限定されない。例えば、(A)及び(B)成分と必要に応じて他の成分を混合すればよい。混合の際の温度、pH、使用機器等の条件は、特に限定されない。
【0043】
本発明の農業用液体マルチ組成物を土壌に散布することにより、土壌を固化することができる。散布方法は特に限定されないが、噴霧によることが好ましい。噴霧器は通常用いられるものを利用すればよい。
【実施例】
【0044】
下記において、特に説明がない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0045】
[実施例1]
カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩1.2重量%水溶液(日本製紙製 商品名:CS−2、1%粘度1000mPa・s、DS値:0.55)175gに、硫酸アンモニウム2.5重量%水溶液140g、ポリメタアクリル酸エステル系樹脂(MTアクアポリマー製、商品名:C303H、カチオン化度:4.0meq/g、分子量600万、有効固形分:0.3重量%、粘度290mPa・s(0.2重量%溶液))190g、リグニンスルホン酸塩(日本製紙製、商品名:サンエキスP202、有効固形分:93重量%)6g、カーボンブラック(呉竹製、商品名S.R.ブラック、有効固形分:10重量%、エチレングリコール含有)2.5mlを混合して固形分2.4重量%の農業用液体マルチ組成物を得た。なお、農業用液体マルチ組成物は、白濁しており、ポリイオンコンプレックス(PIC)が形成されていることが認められた。また、粘度は60mPa・s、pHは6.2であった。得られた農業用液体マルチ組成物を農薬散布機(やまびこ社製、商品面:KIORITZ SHPE701)にて、2L/mになるように温室内の土壌表面に均一に散布した。
【0046】
(評価)
<雑草抑制効果>
2か月後の農業用液体マルチ組成物を散布した土壌と、農業用液体マルチ組成物の散布を行わなかった土壌の雑草の状態を比較観察したところ、農業用液体マルチ組成物を散布した土壌に明らかな雑草抑制効果が認められた。
【0047】
<透水性>
農業用液体マルチ組成物を散布した土壌と、農業用液体マルチ組成物の散布を行わなかった土壌に如雨露を用いて水を散布して、土壌の透水性の評価を行った。その結果、農業用液体マルチ組成物を散布しなかった土壌比較して、散布した土壌の水はけ(透水性)は低下しているが、水たまりができることはなかった。
【0048】
<地温調節効果>
農業用液体マルチ組成物を散布した土壌と、農業用液体マルチ組成物の散布を行わなかった土壌の地温(地表から8cmの地中)を測定したところ、地温に変化は見られなかったことから、農業用液体マルチ組成物の散布を行った土壌には、地温上昇抑制効果があることが認められた。
【0049】
(測定条件)
<カルボキシメチルセルロースのDS値>
試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れた。メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CMC)をH−CMC(カルボキシメチルセルロース)にした。その絶乾H−CMCを1.5〜2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れた。80%メタノール15mLでH−CMCを湿潤し、0.1N−NaOHを100mL加え、室温で3時間振とうした。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1N−H2SO4で過剰のNaOHを逆滴定した。CM−DSは、次式によって算出した。
(式)
A=[(100×F−0.1N−H2SO4(mL)×F’)×0.1]/(H−CMCの絶乾重量(g))
CM−DS=0.162×A/(1−0.058×A)
A:H−CMCの1gの中和に要する1N−NaOH量(mL)
F’:0.1N−H2SO4のファクター
F:0.1N−NaOHのファクター
<カルボキシメチルセルロースの分子量>
GPC用カラム(OHpak SB−804 HQ:昭和電工株式会社)を用い、溶離液を200mM過塩素酸ナトリウムとし、プルランを標準物質としてできる。検出は示差屈折計をもちいることができる。
<カルボキシメチルセルロースの1%粘度>
1%水溶液を調製後、24時間放置し25℃でB型粘度計を用いて測定できる。
<カチオン性高分子のカチオン化度>
粒子表面電荷量測定装置(MUTEK製、Particle Charge Detector PCD 03pH)を用い、滴定試薬としてポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウム(1/1000N)を用いてもよい。試料であるカチオン性高分子は、イオン交換水で0.04重量%に希釈してから測定することができる。
<カチオン性高分子の分子量>
GPC用カラム(OHpak SB−804 HQ:昭和電工株式会社)を用い、溶離液として酢酸水溶液と硝酸ナトリウムを用いプルランを標準物質とできる。検出は示差屈折計を用いる事ができる。
<カチオン性高分子の粘度>
B型粘度計を用いて測定できる。