【解決手段】作業車は、ホーム位置と特定位置との間で位置変更可能な作業装置30の位置を検出する位置検出器9と、位置検出器9からの検出信号と作業装置30の位置との関係を設定している変換テーブル573と、作業装置30をホーム位置側から特定位置側へ位置変更させる通常操作信号、及び、特定位置側からホーム位置側へ位置変更させる特定操作信号を出力する操作デバイスと、特定操作信号に応答して調整トリガーを出力する調整トリガー出力部571と、調整トリガーに応答して変換テーブル573を較正する調整プロセスを起動させる較正部572を備えている。
前記パターン検知処理において、前記特定操作パターンが成立する前に、前記特定操作パターンが崩れる操作が行われた場合、前記調整トリガー出力部は前記パターン検知処理を中止する請求項2に記載の作業車。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で開示された、変換テーブルを較正する調整プロセスへの移行は、アクセル操作ユニットを特定パターンで操作だけでよいので、特別な調整モード移行ボタンなどが不要であり、好都合である。しかしながら、この技術を作業車の作業装置に適用した場合、調整プロセスへの移行には作業装置を動かすための操作が必要となる。一般に、作業車の作業装置は、重量物であるので、調整プロセスに移行するための操作において、作業装置が動き出すことは避ける必要がある。そのため、作業装置が動かないように動力系統が遮断されていたとしても、作業装置を動かすための操作を行うことは、操作者に心理的な負担を背負わすことになる。
【0005】
このような実情から、変換テーブルを較正する調整プロセスへの移行がより改善された手続きで実現できる技術が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による作業車は、ホーム位置と特定位置との間で位置変更可能な作業装置と、前記作業装置の位置を検出する位置検出器と、前記位置検出器からの検出信号と前記作業装置の位置との関係を設定している変換テーブルと、ユーザ操作に基づいて前記作業装置を前記ホーム位置側から前記特定位置側へ位置変更させる通常操作信号、及び、前記作業装置を前記特定位置側から前記ホーム位置側へ位置変更させる特定操作信号を出力する操作デバイスと、前記操作デバイスから出力された特定操作信号に応答して調整トリガーを出力する調整トリガー出力部と、前記調整トリガーに応答して、前記作業装置の前記ホーム位置から前記特定位置への位置変更における前記位置検出器からの検出信号に基づいて前記変換テーブルを較正する調整プロセスを起動させる較正部とを備えている。
【0007】
この構成によれば、作業装置を特定位置側からホーム位置側へ位置変更させる特定操作信号が操作デバイスから出力されることにより、変換テーブルを較正する調整プロセスへの移行が実現する。このような調整プロセスは、作業装置がホーム位置となっている時に行われるので、動力系統が接続されており、作業装置が動作可能な状態であっても、出力される特定操作信号によって作業装置が動くことはない。これにより、本発明による調整プロセスへの移行技術は、不測に作業装置が動き出すという問題や、操作者に心理的な負担を背負わすという問題を低減している。
【0008】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記操作デバイスには、複数の操作ボタンが設けられており、前記操作ボタンには前記特定操作信号を出力する1つ以上の特定操作ボタンが含まれており、前記調整トリガー出力部は、前記特定操作ボタンに対する特定操作パターンでの操作を検知するパターン検知処理を行う機能を有し、前記特定操作パターンを検知した場合に前記調整トリガーを出力する。この構成では、特定操作ボタンに対する特定操作パターンでの操作に基づいて、調整プロセスへの移行が実現する。つまり、調整プロセスに移行するためには、予め決められた複数の操作手順が必要となるので、この特定操作パターンが調整プロセスに移行するための暗号キーのような機能し、調整モードへの移行が高い信頼性をもつことになる。特に、この特定操作パターンを通常操作において偶然に生じる可能性がほとんどないように設定することで、不測に調整モードへ移行することが回避される。
【0009】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記パターン検知処理において、前記特定操作パターンが成立する前に、前記特定操作パターンが崩れる操作が行われた場合、前記調整トリガー出力部は前記パターン検知処理を中止する。この構成では、操作デバイスに対する特定操作パターンでの操作に操作者が失敗した段階で、パターン検知処理が中止されるので、ふたたび、特定操作パターンでの操作を始めることが可能となる。
【0010】
本発明の好適な実施形態の1つでは、この構成では、前記パターン検知処理の実行中は、前記操作デバイスに対する前記通常操作信号を出力させるユーザ操作は無効となる。操作デバイスに対する特定操作パターンでの操作が行われている途中で、作業装置を動かす可能性がある通常操作信号の出力に結び付く操作が行われると、当該操作は無効となるので、不測に作業装置が動作することが回避される。
【0011】
農作物などを収穫する収穫機のような作業車では、車体の安定性を保証するホーム位置と、作業を行うために適した特定位置との間で位置変更する大形の作業装置を備えていることが多いので、本発明の採用が好ましい。そのような農作業車に本発明を適用した場合の好適な実施形態の1つでは、収穫部によって収穫された収穫物を脱穀処理する脱穀装置と、前記脱穀装置で得られた脱穀物を貯留する脱穀物タンクと、が備えられ、
前記作業装置は、前記脱穀物タンクに貯留された脱穀物を先端部に形成された排出口から排出すると共に水平旋回可能な脱穀物排出装置であり、
前記ホーム位置において、前記脱穀物排出装置は、前記排出口が車体に近接する格納姿勢となっており、かつ、前記特定位置において、前記脱穀物排出装置は、前記排出口が車体から離れた排出姿勢となっており、前記位置検出器は、前記脱穀物排出装置の水平旋回角度を検出する。この構成により、この収穫機は、上述した利点を享受しながら、脱穀物排出装置の水平旋回角度に関する、改善された調整プロセスへの移行が実現する。
【0012】
収穫機のような農作業車に本発明を適用した場合の好適な実施形態の他の1つでは、収穫部によって収穫された収穫物を脱穀処理する脱穀装置が備えられ、
前記作業装置は、前記脱穀装置によって得られた脱穀物を貯留すると共に上下揺動可能な脱穀物タンクであり、
前記ホーム位置において、前記脱穀物タンクは下降姿勢となっており、かつ、前記特定位置において、前記脱穀物タンクは上昇姿勢となっており、前記位置検出器は、前記脱穀物タンクの上下揺動角度を検出する。この構成により、この収穫機は、上述した利点を享受しながら、脱穀物タンクの上下揺動角度に関する、改善された調整プロセスへの移行が実現する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、収穫機の全体を示す右側面図である。
図2は、収穫機の全体を示す平面図である。
図1,2に示す[F]の方向が走行機体1の前方向、[B]の方向が走行機体1の後方向と定義する。
図1の紙面表側の方向、
図2に示す[R]の方向が走行機体1の右方向、
図1の紙面裏側の方向、
図2に示す[L]の方向が走行機体1の左方向と定義する。
図1に示す[U]の方向が走行機体1の上方向、[D]の方向が走行機体1の下方向と定義する。
【0015】
収穫機は、稲、麦、大豆、トウモロコシの粒等の脱穀物の収穫作業を行なうものである。収穫機は、走行装置としての左右一対の前車輪2及び左右一対の後車輪3が装備された走行機体1を備えている。走行機体1が実質的な車体を構成している。前車輪2は、エンジン4からの動力によって駆動可能に装備されている。後車輪3は、パワーステアリング装置(図示せず)によって操向操作可能に装備されている。走行機体1の前部に乗用型の運転部7が形成されている。運転部7は、キャビンによって覆われている。走行機体1の前部に収穫部10が備えられている。収穫部10は、地面の近くに下降した下降作業状態と、地面から高い位置に上昇した上昇非作業状態とにわたって昇降操作される。運転部7のすぐ後ろから走行機体1の後部にわたって、脱穀装置12(
図2参照)及び脱穀物タンク13が設けられている。
【0016】
収穫部10を下降作業状態に下降させ、この状態で走行機体1を走行させることにより、収穫作業が行なわれる。すなわち、収穫部10において、走行機体1の前方に位置する植立穀稈の株元が切断され、収穫物としての刈取穀稈が収穫される。刈取穀稈は搬送装置11によって後方に搬送されて脱穀装置12に供給される。脱穀装置12において、刈取穀稈は脱穀処理され、脱穀物が得られる。脱穀物は揚穀装置12a(
図2参照)によって脱穀物タンク13に搬送されて貯留される。
【0017】
脱穀装置12は、
図2に示すように、平面視で、走行機体1の横幅方向での中心に対して走行車体左側に偏倚する状態で備えられている。脱穀物タンク13は、脱穀装置12の上方に設けられ、車体の左端から右端にわたっている。
図3に示すように、脱穀物タンク13は、シリンダ駆動方式のタンク揺動機構TMの駆動により、前後方向に沿った水平軸心X周りに上下揺動する。脱穀物タンク13は、
図1で示す下降姿勢と
図3で示す上昇姿勢との間で上下揺動する。脱穀物タンク13は、走行車体左側に向けて上昇揺動する。本実施形態においては、脱穀物タンク13が下降姿勢となったとき、車体重心が最も車体中央側に位置して、走行機体1は最も安定な状態となる。本発明では、下降姿勢は、「ホーム位置」とも呼ばれ、上昇姿勢は、排出作業時に用いられる姿勢であり、「特定位置」とも呼ばれる。このように、脱穀物タンク13は、ホーム位置と特定位置との間で位置変更可能、つまり姿勢変更可能である。
【0018】
図3に示すように、タンク揺動機構TMの駆動により、脱穀物タンク13が所定の揺動角度(特定位置)まで揺動すると、シュート14が下方に回動する。これにより、シュート14によって遮蔽されていた第1排出口18が開放され、脱穀物タンク13に貯留された脱穀物が下方に回動したシュート14に案内されながら排出される。
【0019】
図1と
図2に示すように、脱穀物タンク13の底部に水平軸心Xに沿って延びている排出スクリュー13aが配置されている。この排出スクリュー13aによって脱穀物タンク13から排出された脱穀物を受け取って、走行機体1の周辺に位置する運搬車などの荷台に排出する脱穀物排出装置30が配置されている。脱穀物排出装置30は、スクリューコンベヤである縦搬送部31及び横搬送部32を備えている。縦搬送部31の一端は、排出スクリュー13aの脱穀物排出部に連結されており、脱穀物タンク13の側壁の近くを、縦軸心Y(
図2参照)に沿って上方に延びている。横搬送部32は、縦搬送部31の他端と連結されており、下降姿勢の脱穀物タンク13の天壁に沿って延びている。横搬送部32の先端部には、第2排出口33(本発明の「排出口」に相当する)が設けられている。
【0020】
縦搬送部31は、横搬送部32と共に、水平な縦軸心Y周りに水平旋回可能である。縦搬送部31には、シリンダ駆動方式の旋回機構SMが連動連結されており、旋回機構SMの駆動により縦搬送部31が旋回する。つまり、脱穀物排出装置30は、横搬送部32が脱穀物タンク13の上方に位置する格納姿勢(
図2で実線で示されている)と、横搬送部32が走行機体1から外側に張り出した排出姿勢(
図2で点線で示されている)との間で姿勢変更する。なお、本発明では、格納位置は「ホーム位置」とも呼ばれ、排出位置は「特定位置」とも呼ばれる。脱穀物排出装置30は、横搬送部32がホーム位置となる格納姿勢と、横搬送部が車体横外に張り出す特定位置となる排出姿勢との間で位置変更可能、つまり姿勢変更可能である。排出姿勢において、排出スクリュー13a、縦搬送部31、横搬送部32を駆動することにより、第2排出口33から脱穀物が排出される。格納姿勢では、第2排出口33は、車体に近接しており、脱穀物排出は不能である。
【0021】
走行機体1の後部にラジエータが配置されており、ラジエータ(非図示)に冷却風を供給するラジエータファン15が設けられている。走行機体1の外側は、パネル構造体16で覆われているので、ラジエータファン15が外気を吸い込むための、空気流通孔17がパネル構造体16に設けられている。
図1に示されているように、空気流通孔17は、格納姿勢の脱穀物排出装置30における第2排出口33の、わずか斜め下方に位置している。
【0022】
図4に、収穫機の制御ユニット5における、脱穀物タンク13及び脱穀物排出装置30の姿勢変更に関する機能部を含む機能ブロック図が示されている。
【0023】
図4に、位置検出器9として、脱穀物タンク13の上下揺動角度を検出するための位置検出器9と、脱穀物排出装置30の水平旋回角度を検出するための旋回角検出器9Bが示されている。
【0024】
制御ユニット5は、入力信号処理部51、機器制御部52、タンク位置算定部53、排出装置位置算定部54、姿勢変更制御モジュール55、脱穀物排出制御部56、調整モジュール57を備えている。この制御ユニット5によって生成された制御信号、例えば、タンク揺動機構TMや旋回機構SMへの駆動信号、さらには脱穀物搬出を行う脱穀物排出機構への動力伝達を入り切りする脱穀物排出クラッチCLへの駆動信号は、機器制御部52を介して送られる。入力信号処理部51は、操作デバイスとして機能する、操作パネル800や遠隔操作器8からの操作信号(操作指令)、揺動角検出器9Aや旋回角検出器9Bの旋回角センサからの検出信号、キースイッチ90からの検出信号などを受け取って、制御ユニット5の各機能部に転送する。
【0025】
図5に、操作デバイスの1つである遠隔操作器8が示されている。この遠隔操作器8は、ユーザ操作に基づいて、脱穀物タンク13や脱穀物排出装置30をホーム位置側から特定位置側へ位置変更させる通常操作信号、及び、脱穀物タンク13や脱穀物排出装置30を特定位置側からホーム位置側へ位置変更させる特定操作信号を出力する。この遠隔操作器8は、収穫機の制御ユニット5に接続されている。遠隔操作器8は、図示はしないが、運転部7のうち、運転者(操作者)の手が届きやすい位置に配置されている。
【0026】
遠隔操作器8は、手のひらに載せて掴むことができる直方体形状であり、その表面が長方形状の操作面80として形成されている。操作面80のほぼ中央に十字キー81の形態である手動ボタンが配置されている。十字キー81の縦方向の第1片82がタンク揺動機構TMの上下揺動動作を指令するために用いられる。また、十字キー81の横方向の第2片83が旋回機構SMの旋回動作を指令するために用いられる。十字キー81は、タンク揺動機構TMによる脱穀物タンク13の姿勢変更及び旋回機構SMによる脱穀物排出装置30の姿勢変更を手動で行うために用いられる。
【0027】
第1片82の上端部82Uがタンク揺動機構TMの上方揺動動作を指令する第1揺動指令接点に対応しており、第1片82の上端部82Uを押すことによって、上方揺動動作が指令される。第1片82の下端部82Dがタンク揺動機構TMの下方揺動動作を指令する第2揺動指令接点に対応しており、第1片82の下端部82Dを押すことによって下方揺動動作が指令される。
【0028】
第2片83の左端部83Lが、旋回機構SMの左旋回動作を指令する第1旋回指令接点に対応しており、第2片83の左端部83Lを押すことによって左旋回動作が指令される。第2片83の右端部83Rが、旋回機構SMの左旋回動作を指令する第2旋回指令接点に対応しており、第2片83の右端部83Rを押すことによって右旋回動作が指令される。ここで、「右旋回」とは、平面図において、脱穀物排出装置30が縦軸心Yを中心として右回り(時計回り)することを示し、「左旋回」とは、脱穀物排出装置30が縦軸心Yを中心として左回り(反時計回り)することを示す。
【0029】
以下の説明では、第1片82の上端部82Uを「U−ボタン」、第1片82の下端部82Dを「D−ボタン」、第2片83の左端部83Lを「L−ボタン」、第2片83の右端部83Rを「R−ボタン」と称する。
【0030】
操作面80の上領域には、自動ボタン84及び排出ボタン85が配置されている。自動ボタン84には、脱穀物排出準備指令を与える機能と、排出終了指令を与える機能とが割り当てられている。脱穀物排出準備指令は、脱穀物排出装置30を、脱穀物排出が可能となる準備態勢に整えるための指令である。排出終了指令は、脱穀物タンク13からの脱穀物排出の終了後に、脱穀物タンク13及び脱穀物排出装置30を、それぞれのホーム位置(安定位置)である下降姿勢及び格納姿勢に戻す指令である。
【0031】
排出ボタン85は、脱穀物排出装置30による脱穀物の排出を行う穀粒排出指令を与える。つまり、この排出ボタン85は、脱穀物排出装置30への動力伝達を入り切りする入切指令を出力する排出スイッチとして機能する。
【0032】
上述した構成により、操作デバイスとしての遠隔操作器8では、U−ボタンが、脱穀物タンク13をホーム位置側から特定位置側へ位置変更させる「通常操作信号」を出力し、D−ボタンが、脱穀物タンク13を特定位置側からホーム位置側へ位置変更させる「特定操作信号」を出力する。また、L−ボタンが脱穀物排出装置30をホーム位置側から特定位置側へ位置変更させる「通常操作信号」を出力する。R−ボタンが脱穀物排出装置30を特定位置側から位置変更させる「特定操作信号」を出力する。したがって、この実施形態では、D−ボタンとR−ボタンとが「特定操作ボタン」であり、U−ボタンとL−ボタンとが、「通常操作ボタン」である。
【0033】
タンク位置算定部53は、揺動角検出器9Aからの検出信号に基づいて、脱穀物タンク13の揺動位置(下降姿勢や上昇姿勢などの揺動姿勢)を算定し、タンク位置データとして出力する。排出装置位置算定部54は、旋回角検出器9Bからの検出信号に基づいて、脱穀物排出装置30の旋回位置(格納姿勢や排出姿勢などの旋回姿勢)を算定し、脱穀物排出装置位置データとして出力する。
【0034】
姿勢変更制御モジュール55は、タンク姿勢変更部551と排出装置姿勢変更部552とを有する。タンク姿勢変更部551は、操作デバイスに対する操作者の操作に応じて、タンク揺動機構TMを駆動し、脱穀物タンク13の姿勢を変更する。排出装置姿勢変更部552は、旋回機構SMを駆動し、脱穀物排出装置30の姿勢を変更する。
【0035】
脱穀物排出制御部56は、第1排出モードと第2排出モードとを備えている。第1排出モードが選択されている場合には、脱穀物タンク13が脱穀物排出装置30と干渉しない条件下で、脱穀物タンク13を上昇揺動させ、第1排出口18から脱穀物を排出する。第2排出モードが選択されている場合には、脱穀物排出が可能な姿勢に脱穀物排出装置30が排出可能な姿勢であるという条件下で、排出スクリュー13aと脱穀物排出装置30とを駆動して、第2排出口33から脱穀物を排出する。第2排出モードにおいて、脱穀物を排出スクリュー13aに集めるために、U−ボタンを手動操作して、脱穀物タンク13を上昇させることは可能である。
【0036】
調整モジュール57は、位置検出器9である揺動角検出器9A及び旋回角検出器9Bの較正作業を管理する。調整モジュール57は、調整トリガー出力部571、較正部572、変換テーブル573を備えている。
【0037】
調整トリガー出力部571は、初期条件が満たされている場合に、遠隔操作器8から出力された特定操作信号に応答して調整トリガーを出力する。上述したように、この実施形態では、U−ボタン及びL−ボタンが通常操作信号を出力し、D−ボタン及びR−ボタンが特定操作信号を出力する。さらに、調整トリガー出力部571は、D−ボタン及びR−ボタンに対する特定操作パターンでの操作を検知するパターン検知処理を行う機能を有しており、操作者が、意識的にこの特定操作パターンでD−ボタン及びR−ボタンを操作した場合に、調整トリガーが出力される。
【0038】
調整トリガー出力部571は、パターン検知処理において、特定操作パターンが成立する前に、特定操作パターンが崩れる操作が行われた場合、パターン検知処理を中止する。パターン検知処理が中止されると、その旨をランプやブザーなどを用いて操作者に報知する。特定操作パターンが崩れる操作の一例は、特定操作信号を出力するD−ボタンやR−ボタンに対する操作の順番が間違った場合である。また、D−ボタンやR−ボタンに対する各操作の時間間隔が短すぎた場合や長すぎた場合も、特定操作パターンが崩れる操作とみなしてもよい。
【0039】
パターン検知処理において、通常操作信号を出力するU−ボタンやL−ボタンが誤って操作された場合も、特定操作パターンが崩れる操作とみなされるが、この実施形態では、このような操作ミスを排除するソフトウエア上での工夫がなされている。つまり、パターン検知処理の実行中は、遠隔操作器8に対する通常操作信号を出力させるユーザ操作は無効となるように、プログラムされている。
【0040】
変換テーブル573は、脱穀物タンク13及び脱穀物排出装置30のそれぞれに、用意されている。脱穀物タンク13のための変換テーブル573は、脱穀物タンク13の揺動位置と揺動角検出器9Aの信号値との関係を設定したルックアップテーブルである。このルックアップテーブルは、脱穀物タンク13のホーム位置における揺動角検出器9Aの信号値であるホーム位置信号値と、脱穀物タンク13の特定位置における揺動角検出器9Aの信号値である特定位置信号値とから求められる。脱穀物タンク13のための変換テーブル573を用いることで、揺動角検出器9Aの信号値から脱穀物タンク13の揺動位置(揺動角度)を導出することができる。同様に、脱穀物排出装置30のための変換テーブル573は、脱穀物排出装置30の旋回位置と旋回角検出器9Bの信号値との関係を設定したルックアップテーブルである。このルックアップテーブルは、脱穀物排出装置30のホーム位置における旋回角検出器9Bの信号値であるホーム位置信号値と、脱穀物タンク13の特定位置における旋回角検出器9Bの信号値である特定位置信号値とから求められる。脱穀物排出装置30のための変換テーブル573を用いることで、旋回角検出器9Bの信号値から脱穀物排出装置30の旋回位置(旋回角度)を導出することができる。脱穀物タンク13のホーム位置は、通常は、最も下降した姿勢に設定され、本実施形態では、上述したように、下降姿勢に設定されている。脱穀物タンク13の特定位置は、通常は、最も上昇した姿勢に設定され、本実施形態では、上述したように、上昇姿勢に設定されている。脱穀物排出装置30のホーム位置は、通常は、最も車体側に引退した姿勢に設定され、本実施形態では、上述したように、格納姿勢に設定されている。脱穀物タンク13の特定位置は、通常は、最も車体から離れた姿勢に設定され、本実施形態では、上述したように、排出姿勢に設定されている。
【0041】
較正部572は、調整トリガーに応答して起動する調整プロセスに基づいて、変換テーブル573を較正する。この調整プロセス自体は、良く知られてものであり、ここでは、脱穀物タンク13のホーム位置における揺動角検出器9Aからのホーム位置信号値と、脱穀物タンク13の特定位置における揺動角検出器9Aからの特定位置信号値とから、脱穀物タンク13の変換テーブル573が較正される。また、脱穀物排出装置30のホーム位置における旋回角検出器9Bからのホーム位置信号値と、脱穀物排出装置30の特定位置における旋回角検出器9Bからの特定位置信号値とから、脱穀物排出装置30の変換テーブル573が較正される。
【0042】
次に、
図6と
図7とを用いて、変換テーブル573を較正する際の基本的な制御の流れを説明する。
図6は、変換テーブル573の較正制御の概略的な流れを示す模式図である。
図7は、変換テーブル573の変換テーブルの較正制御の概略的な流れを示すフローチャートである。
【0043】
まず、調整プロセスに入るための第1初期条件が満たされるかどうかをチェックする第1初期処理が行われる。キースイッチ90がONされる(#01)。キーON後の所定時間:t1の間に、特定操作信号が出力されたかチェックされる(#02、#03)。ここでチェックされる特定操作信号の出力は、D−ボタンまたはR−ボタンの1回だけの押し操作だけでなく、D−ボタンとR−ボタンのとの同時押し操作も含まれる。さらに、ステップ#3において、継時的な特定操作信号列をチェックするようにプログラムしてもよい。この第1初期条件が満たされなかった場合(#02No分岐)、調整プロセスを行うための操作ではないとみなされ、通常の運転が行われる。第1初期条件が満たされた場合(#03Yes分岐)、調整プロセスに入るための第2初期条件が満たされるかどうかの第2初期処理が行われる。この第2初期条件は、予め定められている特定操作パターンで、D−ボタンやR−ボタンである特定操作ボタンが操作されることである。
【0044】
第2初期処理では、D−ボタンやR−ボタンが特定操作パターンで操作されているかどうかをチェックする操作パターン検知処理が開始される(#04)。この操作パターン検知処理では、D−ボタンやR−ボタンに対する操作によって出力された特定操作信号列の継時的の挙動が評価される。まず、特定操作信号が出力されるまでの時間間隔が所定時:t2以下であるかどうか、正規入力されているかどうかがチェックされる(#05)。ここでの正規入力とは、特定操作パターンを成立させるために必要となるD−ボタンまたはR−ボタンが操作されることを意味する。ここで、正規入力がなされないと、特定操作パターンの経過途中であっても、操作パターン検知処理がキャンセルされる。したがって、ステップ#05のチェックで、時間条件または正規入力条件が満たされていない場合(#05No分岐)、やり直しが報知されこ、のルーチンは終了する。ステップ#05のチェックで、時間条件または正規入力条件が満たされた場合(#05Yes分岐)、これまでに得られた特定操作信号による特定操作信号列が予め設定された特定操作パターンを作り出しているかどうかのチェック、つまり特定操作パターンが検知されたかどうかチェックされる(#06)。これまでに得られている特定操作信号列が未だ設定された特定操作パターンに達していない場合(#06No分岐)、ステップ#05にジャンプして、次の特定操作信号が遠隔操作器8から出力されるのを待つ。
【0045】
ステップ#05のチェックで、特定操作パターンが検知された場合(#06Yes分岐)、調整トリガー出力部571が調整トリガーを出力する。この調整トリガーに応答して、調整プロセスが起動する。この調整プロセスでは、操作者(ユーザ)に行ってもらうべき操作を順次操作者に指示する(#07)。この指示は、ブザーやランプによる報知でもよい。この指示に基づいて、操作者が較正に必要となる一連の操作を行う(#8)。この一連の操作は、脱穀物タンク13をホーム位置から特定位置へ位置変更することと、脱穀物排出装置30をホーム位置から特定位置への位置変更することである。
【0046】
一連の操作が完了すれば(#09YES分岐)、較正部572が調整データを生成する(#10)。調整データが生成されると、ブザーやランプを用いて操作者に通知される(#11)。そして、操作者に対して、脱穀物タンク13及び脱穀物排出装置30をホーム位置に戻して、キースイッチ90をOFFにするように終了操作ガイダンスが報知される(#12)。操作者によってD−ボタン及びR−ボタンが操作されて脱穀物タンク13及び脱穀物排出装置30がホーム位置に戻され、かつ、キースイッチ90がOFFされると(#13YES分岐)、較正部572は、生成された調整データに基づいて変換テーブルを較正する(#14)。そして、調整プロセスが終了して、このルーチンは終了する。
【0047】
図7のフローチャートでは、第1初期条件のチェックは、ステップ#01からステップ#03の処理で行われており、ステップ#01では、キースイッチ90のONだけがチェックされていた。これに代えて、ステップ#01からステップ#03を組み合わせて、キースイッチ90のONと特定操作信号を出力するボタンの操作との組み合わせた1回以上の操作を第1初期条件としてもよい。この場合の第1初期条件及び第2初期条件の具体的な一例を以下に示す。
[第1初期条件]
(1)D−ボタンとR−ボタンとを押しながらキースイッチ90をONする。
[第2初期条件]
(2)3秒後にD−ボタンとR−ボタンとを離す。
(3)1秒後にR−ボタンを2回押す。
(4)D−ボタンを2回押す。
これら以外にも、第1初期条件及び第2初期条件として、種々の操作パターンが利用可能である。
【0048】
〔別実施形態〕
以下に、上述した実施形態の別実施形態を説明する。なお、上述した実施形態及びこれらの別実施形態は、互いに矛盾しない範囲において、各種の組合せや置換が可能である。
【0049】
(1)上述した実施形態では、調整トリガーの出力は、特定操作パターンの検知が条件であったが、特定操作信号を出力する操作ボタン単一の操作で調整トリガーを出力してもよい。その際は、キースイッチ90のON操作からの経過時間を条件とすることが好ましい。
【0050】
(2)上述した実施形態では、変換テーブル573を較正する作業装置として、脱穀物タンク13と脱穀物排出装置30とを調整対象としたが、どちらか一方でもよいし、その他の作業装置を調整対象としてもよい。上下揺動操作可能である収穫部10を調整対象として用いることも考えられる。この場合、最下降姿勢をホーム位置とすると良い。
【0051】
(3)
図4で示された制御ユニット5の機能ブロック図は、説明を容易にするためのものであり、
図5で示された各機能部は、さらに分割されてもよいし、任意に統合されてもよい。また、制御ユニット5も、機能別に複数に分けられ、各制御ユニット5に、本発明に関する機能部が分散されてもよい。
【0052】
(4)上述した実施形態では、遠隔操作器8は、専用品であったが、これに代えて、スマートフォンやタブレットコンピュータに適当なアプリをインストールすることで、スマートフォンやタブレットコンピュータを本発明の遠隔操作器8として利用してもよい。
【0053】
(5)上述した実施形態では、タンク揺動機構TM及び旋回機構SMは、シリンダ駆動方式を採用していたが、シリンダは油圧シリンダでもよいし、電気シリンダでもよい。または、駆動源として、電気モータや油圧モータを用いてもよい。