(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-171037(P2018-171037A)
(43)【公開日】2018年11月8日
(54)【発明の名称】反芻動物用飼料の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23K 50/10 20160101AFI20181012BHJP
A23K 10/32 20160101ALI20181012BHJP
【FI】
A23K50/10
A23K10/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-72801(P2017-72801)
(22)【出願日】2017年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126169
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(72)【発明者】
【氏名】簑原 大介
(72)【発明者】
【氏名】新倉 宏
(72)【発明者】
【氏名】黒須 一博
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005BA01
2B005BA05
2B150AA02
2B150AE25
2B150BA01
2B150BA03
2B150BA04
2B150BD01
2B150BD06
2B150BD10
2B150CA02
2B150CA03
2B150CA13
2B150CA20
2B150CA31
2B150CA35
2B150CE01
2B150CE02
2B150CE05
2B150CE07
2B150CE20
2B150CJ07
2B150CJ08
2B150DA18
2B150DE01
2B150DH35
(57)【要約】
【課題】 反芻動物の消化性が高く、しかも搬送性に優れる脱水パルプの形態の飼料を製造する方法を提供する。
【解決手段】 木材パルプを含む反芻動物用飼料の製造方法において、固液分離装置Aにて水分率95質量%以上の木材パルプスラリーを水分率45質量%以上70質量%未満に脱水する工程、固液分離装置Aにて脱水した木材パルプを固液分離装置Bにて水分率35質量%未満に脱水する工程、を含む方法により反芻動物用飼料を製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材パルプを含む反芻動物用飼料の製造方法であって、
固液分離装置Aにて水分率95質量%以上の木材パルプスラリーを水分率45質量%以上70質量%未満に脱水する工程、
固液分離装置Aにて脱水した木材パルプを固液分離装置Bにて水分率35質量%未満に脱水する工程、
を含む反芻動物用飼料の製造方法。
【請求項2】
固液分離装置Aが遠心分離機、フィルタープレス、ベルトプレス、ロールプレス、スクリュープレス、ドラム脱水機のいずれかである請求項1記載の反芻動物用飼料の製造方法。
【請求項3】
固液分離装置Bがフィルタープレス、ベルトプレス、ロールプレス、スクリュープレスのいずれかである、請求項1ないし2記載の反芻動物用飼料の製造方法。
【請求項4】
固液分離装置Bで脱水する際に、パルプを加温する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の反芻動物用飼料の製造方法。
【請求項5】
木材パルプがクラフトパルプであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の反芻動物用飼料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材パルプを含有する反芻動物用飼料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、牧畜分野においては、家畜の乳量の増加や増体重などを目的に、栄養価の高い濃厚飼料が牧草などの粗飼料とともに使用されることが多い。濃厚飼料は、トウモロコシ、麦類、大豆などの易消化性炭水化物(デンプンなど)を多く含む一方、粗飼料は、牧草を乾燥した干草(乾草、わら類)や、青刈りした牧草を発酵させたもの(サイレージ化したもの)などを主とする。
【0003】
反芻動物が粗飼料を摂取し消化することが可能であるのは、ルーメン(第一胃)を有するためである。ルーメンは、反芻動物が有する複数の胃のうち最大の容積を占め、粗飼料中のセルロースやヘミセルロースなどの難消化性の多糖類を分解(ルーメン発酵)し得る微生物群(ルーメン微生物)が豊富に含まれている。
【0004】
しかし、粗飼料中のセルロースやヘミセルロースは、リグニン類と結合し、それぞれリグニン−セルロース複合体やリグニン−ヘミセルロース複合体として存在している場合が多い。このような複合体は、ルーメン発酵において十分に分解されないおそれがあり、粗飼料は、飼料効率が不十分になりやすいという問題点があった。また、未消化物が多くなると糞量の増加を引き起こすため、環境面においても望ましくないとされていた。
【0005】
さらに、粗飼料は、牧草の収穫量や作柄により影響を受けやすく、供給量が不安定である。特にわが国では粗飼料の多くを輸入に頼っているため、概して価格変動が大きく、また、輸出国の諸事情により輸入困難になる場合もあり、牧場経営を圧迫する場合がある。
【0006】
このため、牧草に代替でき、飼料効率に優れ、且つ安定的に入手可能な反芻動物用飼料が望まれている。
【0007】
木材パルプ、特に脱リグニンされたクラフトパルプは牧草に代替でき、飼料効率に優れ、且つ安定的に入手可能な反芻動物用飼料として期待できる。クラフト法で製造されるクラフトパルプは工場内では固形分濃度数%のスラリーとして扱われるため、流通に耐えうる形態に加工する必要がある。特許文献1にはパルプをシート状に成型することが記載されている。プレス後のパルプの水分率は40質量%から60質量%である。特許文献2には古紙パルプを2段階脱水することが記載されている。第1段階で水分率80質量%に脱水したのち、第2段階で水分率70質量%程度まで脱水する。さらに特許文献3では漂白前工程としてパルプを高濃度に脱水することが記載されている。具体的にはツインロールプレスを用いて水分率62質量%から68質量%に脱水する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−275322号公報
【特許文献2】特開2006−144148号公報
【特許文献3】特開2004−137653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、飼料としてパルプを流通する際、さらなるパルプの脱水を行うことで搬送性を高めることができるが、脱水によってパルプが解れ難くなって消化性が低下するという問題があった。本発明の課題は、消化性が低下させることなくパルプを濃縮する脱水方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、上記課題について鋭意検討したところ、木材パルプスラリーを2段階で脱水処理して水分率を調製することにより、木材パルプを飼料として消化性に優れ、かつ搬送性にも優れた形態に加工することが可能となった。
【0011】
すなわち、本発明は以下の発明を含む。
(1) 木材パルプを含む反芻動物用飼料の製造方法であって、固液分離装置Aにて水分率95質量%以上の木材パルプスラリーを水分率45質量%以上70質量%未満に脱水する工程、固液分離装置Aにて脱水した木材パルプを固液分離装置Bにて水分率35質量%未満に脱水する工程、工程を含む反芻動物用飼料の製造方法。
(2) 前記固液分離装置Aが遠心分離機、フィルタープレス、ベルトプレス、ロールプレス、スクリュープレス、ドラム脱水機のいずれかである(1)に記載の反芻動物用飼料の製造方法。
(3) 前記固液分離装置Bがフィルタープレス、ベルトプレス、ロールプレス、スクリュープレスのいずれかである、(1)ないし(2)に記載の反芻動物用飼料の製造方法。
(4) 固液分離装置Bで脱水する際に、パルプを加温する工程を含むことを特徴とする木材パルプの脱水方法(1)〜(3)のいずれかに記載の反芻動物用飼料の製造方法。
(5) 木材パルプがクラフトパルプであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の反芻動物用飼料の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、反芻動物の消化性が高く、しかもハンドリングのしやすい脱水パルプの形態の飼料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、木材パルプを含む反芻動物用飼料の製造方法であって、固液分離装置Aにて水分率95質量%以上の木材パルプスラリーを水分率45質量%以上70質量%未満に脱水する工程、固液分離装置Aにて脱水した木材パルプを固液分離装置Bにて水分率35質量%未満に脱水する工程、を含む反芻動物用飼料の製造方法である。
【0014】
本発明で使用する固液分離装置Aとしては、遠心分離機、フィルタープレス、ベルトプレス、ロールプレス、スクリュープレス、ドラム脱水機から選択される一種を使用することが好ましい。脱水する前の木材パルプスラリーの水分率は95質量%以上であり、97質量%以上とすることもできる。
【0015】
本発明で使用する固液分離装置Bとしては、フィルタープレス、ベルトプレス、ロールプレス、スクリュープレスから選択される一種を使用することが好ましい。この時、木材パルプスラリーを加温することが望ましく、パルプスラリーと接する固液分離装置の表面を加熱することでパルプスラリーを加温する。固液分離装置の表面を加熱する方法は、蒸気や電力を用いることができる。蒸気の場合、蒸気温度は90℃以上が好ましい。加温することによってパルプを軟化させつつ脱水することで、水分率35%以下までパルプを容易に脱水することができる。
【0016】
本発明で製造する反芻動物用飼料は、木材パルプを原料とする。1段目の固液分離装置Aを用いず、水分率95質量%以上のパルプスラリーから脱水する場合、水の持込みが多く、水分率10質量%〜35質量%に脱水することが困難である。また固液分離装置Bで木材パルプを加温せずに脱水する場合、パルプの流動性が悪く、装置内で詰りが生じるため、目標の水分率まで脱水することが困難となる。なお、水分率とは、水分率(質量%)=(A−B)/A(A:乾燥前のパルプ質量、B:絶乾燥後のパルプ質量)、で算出される。
【0017】
本発明において、固液分離装置Bにて水分率35質量%未満に脱水後の木材パルプの72時間後のセルラーゼ糖化率が、脱水前の木材パルプと比較して12%以内の変動幅にあることが望ましい。セルラーゼ糖化率の変動幅がこの範囲内であれば、脱水前のパルプと同等の消化性を有する
本発明において、パルプは1種類のものから成るものでもよく、複数のパルプを混合したものでもよい。例えば、原料や製造方法の異なる化学パルプ(広葉樹クラフトパルプ、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹溶解クラフトパルプ、針葉樹溶解クラフトパルプ)、あるいは機械パルプ(砕木パルプ、リファイナーグラウンドウッドパルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ)、を2種以上混合して使用してもよい。
【0018】
原料の木材としては、例えば、広葉樹、針葉樹、雑木、タケ、ケナフ、バガス、パーム油搾油後の空房が使用できる。具体的には、広葉樹としては、ブナ、シナ、シラカバ、ポプラ、ユーカリ、アカシア、ナラ、イタヤカエデ、センノキ、ニレ、キリ、ホオノキ、ヤナギ、セン、ウバメガシ、コナラ、クヌギ、トチノキ、ケヤキ、ミズメ、ミズキ、アオダモ等が例示される。針葉樹としては、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、タマラック等が例示される。
【0019】
クラフトパルプ
本発明におけるパルプは、好ましい態様においてクラフトパルプを含み、特に好ましくは木材由来のクラフトパルプを含む。なお、クラフトパルプのカッパー価は、40以下が好ましく、20以下がさらに好ましく、10以下が特に好ましい。カッパー価を40以下にすることにより反芻動物の嗜好性が向上し、消化性も向上する。また、ISO白色度は特に限定されないが、ISO白色度が30%以上であることが好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、50%以上が特に好ましい。
【0020】
木材チップからクラフトパルプを製造する場合、木材パルプは、蒸解液と共に蒸解釜へ投入され、クラフト蒸解に供する。また、MCC、EMCC、ITC、Lo−solidなどの修正クラフト法の蒸解に供しても良い。また、1ベッセル液相型、1ベッセル気相/液相型、2ベッセル液相/気相型、2ベッセル液相型などの蒸解型式なども特に限定はない。すなわち、本願のアルカリ性水溶液を含浸し、これを保持する工程は、従来の蒸解液の浸透処理を目的とした装置や部位とは別個に設置してもよい。好ましくは、蒸解を終えた未晒パルプは蒸解液を抽出後、ディフュージョンウォッシャーなどの洗浄装置で洗浄する。
【0021】
クラフト蒸解工程は、木材チップをクラフト蒸解液とともに耐圧性容器に入れて行うことができるが、容器の形状や大きさは特に制限されない。木材チップと薬液の液比は、例えば、1.0〜5.0L/kgとすることができ、1.5〜4.5L/kgが好ましく、2.0〜4.0L/kgがさらに好ましい。
【0022】
また、本発明においては、パルプのカッパー価の低下、パルプ収率の改善、粕の低減、パルプ粘度低下の抑制等を目的として、絶乾チップ当たり0.01〜1.5質量%のキノン化合物を含むアルカリ性蒸解液を蒸解釜に添加してもよい。キノン化合物の添加量が0.01質量%未満であると添加量が少なすぎて蒸解後のパルプのカッパー価が低減されず、カッパー価とパルプ収率の関係が改善されない。さらに、粕の低減、粘度の低下の抑制も不十分である。また、キノン化合物の添加量が1.5質量%を超えてもさらなる蒸解後のパルプのカッパー価の低減、及びカッパー価とパルプ収率の関係の改善は認められない。
【0023】
使用されるキノン化合物はいわゆる公知の蒸解助剤としてのキノン化合物、ヒドロキノン化合物又はこれらの前駆体であり、これらから選ばれた少なくとも1種の化合物を使用することができる。これらの化合物としては、例えば、アントラキノン、ジヒドロアントラキノン(例えば、1,4−ジヒドロアントラキノン)、テトラヒドロアントラキノン(例えば、1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラキノン)、メチルアントラキノン(例えば、1−メチルアントラキノン、2−メチルアントラキノン)、メチルジヒドロアントラキノン(例えば、2−メチル−1,4−ジヒドロアントラキノン)、メチルテトラヒドロアントラキノン(例えば、1−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、2−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン)等のキノン化合物であり、アントラヒドロキノン(一般に、9,10−ジヒドロキシアントラセン)、メチルアントラヒドロキノン(例えば、2−メチルアントラヒドロキノン)、ジヒドロアントラヒドロアントラキノン(例えば、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセン)又はそのアルカリ金属塩等(例えば、アントラヒドロキノンのジナトリウム塩、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩)等のヒドロキノン化合物であり、アントロン、アントラノール、メチルアントロン、メチルアントラノール等の前駆体が挙げられる。これら前駆体は蒸解条件下ではキノン化合物又はヒドロキノン化合物に変換する可能性を有している。
【0024】
蒸解液は、木材チップが針葉樹の場合、対絶乾木材チップ重量当たりの活性アルカリ添加率(AA)を16〜22質量%とすることが好ましい。活性アルカリ添加率を16質量%未満であるとリグニンやヘミルロースの除去が不十分となり、22質量%を超えると収率の低下や品質の低下が起こる。ここで活性アルカリ添加率とは、NaOHとNa
2Sの合計の添加率をNa
2Oの添加率として換算したもので、NaOHには0.775を、Na
2Sには0.795を乗じることでNa
2Oの添加率に換算できる。また、硫化度は20〜35%の範囲が好ましい。硫化度20%未満の領域においては、脱リグニン性の低下、パルプ粘度の低下、粕率の増加を招く。
【0025】
クラフト蒸解は、120〜180℃の温度範囲で行うことが好ましく、140〜160℃がより好ましい。温度が低すぎると脱リグニン(カッパー価の低下)が不十分である一方、温度が高すぎるとセルロースの重合度(粘度)が低下する。また、本発明における蒸解時間とは、蒸解温度が最高温度に達してから温度が下降し始めるまでの時間であるが、蒸解時間は、60分以上600分以下が好ましく、120分以上360分以下がさらに好ましい。蒸解時間が60分未満ではパルプ化が進行せず、600分を超えるとパルプ生産効率が悪化するために好ましくない。
【0026】
また、本発明におけるクラフト蒸解は、Hファクター(Hf)を指標として、処理温度及び処理時間を設定することができる。Hファクターとは、蒸解過程で反応系に与えられた熱の総量を表す目安であり、下記の式によって表わされる。Hファクターは、チップと水が混ざった時点から蒸解終了時点まで時間積分することで算出する。Hファクターとしては、300〜2000が好ましい。
【0027】
Hf=∫exp(43.20−16113/T)dt
[式中、Tはある時点の絶対温度を表す]
本発明においては、蒸解後得られた未漂白(未晒)パルプは、必要に応じて、種々の処理に供することができる。例えば、クラフト蒸解後に得られた未漂白パルプに対して、漂白処理を行うことができる。
【0028】
クラフト蒸解で得られたパルプについて、酸素脱リグニン処理を行うことができる。本発明に使用される酸素脱リグニンは、公知の中濃度法あるいは高濃度法がそのまま適用できる。中濃度法の場合はパルプ濃度が8〜15質量%、高濃度法の場合は20〜35質量%で行われることが好ましい。酸素脱リグニンにおけるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することができ、酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSA(Pressure Swing Adsorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorption)からの酸素等が使用できる。
【0029】
酸素脱リグニン処理の反応条件は、特に限定はないが、酸素圧は3〜9kg/cm
2、より好ましくは4〜7kg/cm
2、アルカリ添加率は0.5〜4質量%、温度は80〜140℃、処理時間は20〜180分、この他の条件は公知のものが適用できる。なお、本発明において、酸素脱リグニン処理は、複数回行ってもよい。
【0030】
さらなるカッパー価を低下させ、白色度を向上させる場合、酸素脱リグニン処理が施されたパルプは、例えば、次いで洗浄工程へ送られ、洗浄後、多段漂白工程へ送られ、多段漂白処理を行うことができる。本発明の多段漂白処理は、特に限定されるものではないが、酸(A)、二酸化塩素(D)、アルカリ(E)、酸素(O)、過酸化水素(P)、オゾン(Z)、過酸等の公知の漂白剤と漂白助剤を組み合わせるのが好適である。例えば、多段漂白処理の初段は二酸化塩素漂白段(D)やオゾン漂白段(Z)を用い、二段目にはアルカリ抽出段(E)や過酸化水素段(P)、三段目以降には、二酸化塩素や過酸化水素を用いた漂白シーケンスが好適に用いられる。三段目以降の段数も特に限定されるわけではないが、エネルギー効率、生産性等を考慮すると、合計で三段あるいは四段で終了するのが好適である。また、多段漂白処理中にエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレート剤処理段を挿入してもよい。
【0031】
本発明の反芻動物用飼料は、他の飼料と併せて反芻動物に給与することができる。他の飼料成分としては、粗飼料(例えば牧草)、濃厚飼料(例えばトウモロコシ、麦などの穀類、大豆などの豆類)、ふすま、米糠、おから、蛋白質、脂質、ビタミン、ミネラルなどや添加剤(保存料、着色料、香料等)、等が挙げられる。これらの他の飼料成分は圧縮成型を行う際に、木材パルプに混合させてもよい。
【実施例】
【0032】
具体的な例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の具体例によって何ら限定されるものではない。なお、本明細書において、濃度や%は特に断らない限り質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0033】
実験1:パルプの脱水
[実施例1]
酸素脱リグニン後の広葉樹未晒クラフトパルプ(水分率:98.7質量%、カッパー価:9.2、白色度:44.7)のパルプスラリーを固液分離装置Aとして遠心濃縮脱水機(岩月機械社製)を用いて水分率67.4質量%まで脱水した。脱水した広葉樹未晒クラフトパルプをウェットパルプ解繊機(熊谷理機工業株式会社製)にて解繊し、フラッフ形状の広葉樹未晒フラッフパルプを得た。
得られた広葉樹未晒フラッフパルプを固液分離装置Bとして富国工業製のスクリュープレス(型式:SHX−200×1500L)を用いて圧搾処理を行った。圧搾条件は、出口部分のストレート長100mm、出口押し圧(原料出口を押さえつける背板の圧力)0.1MPa、スチーム圧力(パルプ加温のためのスクリュー軸内へ送るスチームの圧力)0.1MPaで、原料水分率67.4質量%から29.7質量%に脱水することができた。
【0034】
[実施例2]
実施例1で得た固液分離装置Aで脱水したフラッフ形状の広葉樹未晒フラッフパルプ(水分率67.4質量%)を室内で乾燥し、水分率47.1質量%のセミドライ広葉樹未晒フラッフパルプを得た。
得られたセミドライ広葉樹未晒フラッフパルプを実施例1と同条件で固液分離装置Bにて脱水したところ、水分率47.1質量%から29.3質量%に脱水することができた。
【0035】
[比較例1]
実施例1で得られた広葉樹未晒フラッフパルプに替えて、水分率98.7質量%の広葉樹未晒クラフトパルプスラリーを用いて、実施例1と同様の条件で富国工業製のスクリュープレスにて圧搾処理を行ったところ、得られたパルプの水分率は70.2質量%だった。
【0036】
結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示されるように、固液分離装置Aにて木材パルプを水分率40質量%から70質量%未満に脱水したパルプを再度、固液分離装置Bにて加温しながら脱水することで、木材パルプの水分率を35質量%未満という高濃度まで脱水することが可能であった。
【0039】
実験2:セルラーゼ糖化試験
[比較例2]
実施例1のパルプスラリーを遠心濃縮脱水機で脱水処理したもの(水分率67.4質量%)をさらに風乾したサンプル(水分率47.1質量%)について下記の方法により測定したセルラーゼ糖化試験を行ったところ、72時間後のセルラーゼ糖化率88.7%だった。
ポリ製サンプル瓶(50ml容)に、風乾したのち、1mm以下に粉砕した試料約400mgを秤量する。セルラーゼ・オノズカ(ヤクルト工業製、飼料分析用)をpH4.0の酢酸緩衝液に1%濃度で懸濁したものを約45mlサンプル瓶にいれ、栓をし、40℃の恒温振とう機で72時間振とうした。酵素処理後、あらかじめ恒量を求めておいたろ紙上で、ろ過し、4回水洗を行った後、ろ紙とともにアルミ皿に入れ、135℃の通風乾燥器で2時間乾燥したのち、残渣の乾物量を測定する。残渣を磁製ルツボに移し、600℃で2時間灰化し、灰分量を求めた。試料の有機物含量を予め測定しておき、下記式1よりセルラーゼによる有機物消化率を求めた。
【0041】
[実施例3]
比較例35のサンプルを実施例1の脱水パルプ(水分率29.7質量%)に替えてセル
【0042】
ラーゼ糖化試験を行ったところ、72時間後のセルラーゼ糖化率は86.1%だった。
【0043】
[実施例4]
比較例3のサンプルを実施例2の脱水パルプ(水分率29.3質量%)に替えてセルラーゼ糖化試験を行ったところ、72時間後のセルラーゼ糖化率は87.3%だった。
【0045】
表2に示されるように、実施例3、4は比較例3と同等のセルラーゼ糖化率であり、本発明の方法でパルプを脱水してもセルラーゼ糖化率は低下せず、消化性に優れた飼料となることが示された。