【解決手段】GNSSモジュール50を有するとともに測位データを出力する測位ユニット5と、算定された走行経路のうちの圃場作業装置2を駆動しながら走行する作業走行経路において、測位データと走行経路とに基づいて走行機体を走行経路に沿うように自動操舵する自動操舵部83と、走行速度が所定速度以下に移行する低速移行状態を判定する低速移行状態判定部84と、自動操舵の実行中に低速移行状態が判定された場合、当該自動操舵を停止する自動操舵決定部82とが備えられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
圃場作業機では、作業途中において通常作業走行から低速走行に移行することは珍しくはないので、自動操舵走行の不安定化をもたらす低速時の方位検出精度の低下は、問題である。しかしながら、上述した従来の技術では、GPS方位装置における低速時精度低下の問題は、いずれも装置コストを引き上げるとともにその効果も満足できるものではない。したがって、衛星を用いた方位検出における低速時精度低下の問題を簡単かつ効果的に解消できる圃場作業機が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明による圃場作業機の1つは、走行機体と、前記走行機体に搭載されたエンジンと、前記エンジンからの動力を変速して駆動輪に伝達する走行動力伝達機構と、GNSSモジュールを有し、測位データを出力する測位ユニットと、前記走行機体が走行するための走行経路のうちの圃場作業装置を駆動しながら走行する作業走行経路において、前記測位データと前記走行経路とに基づいて前記走行機体を前記走行経路に沿うように自動操舵する自動操舵部と、前記走行機体の走行速度が所定速度以下に移行する低速移行状態を判定する低速移行状態判定部と、前記自動操舵部による自動操舵の実行中に前記低速移行状態が判定された場合、当該自動操舵を停止する自動操舵決定部と、を備えた。
【0008】
この構成によれば、自動操舵によって走行中に、走行機体が、通常速度から所定速度以下の低速に移行する低速移行状態が低速移行状態判定部によって判定されると、自動操舵決定部は自動操舵部による自動操舵が停止され、運転者による人為操舵での走行に切り替わる。これにより、走行機体が方位データの精度を低下させるような低速で走行しているにもかかわらず、自動操舵を続けることで、苗植付位置精度や播種位置精度が低下することが防止される。しかも、低速移行状態を判定には、状態検出手段から出力される、走行動力伝達機構を含む前記走行機体の各種状態の検出結果としての状態信号が利用されるので、低速状態をもたらす種々の状況から、迅速に低速移行状態を判定することができる。
【0009】
走行速度に大きな影響を与える操作の1つは、変速装置に対する変速操作である。特に無段変速装置に対する変速は、ギヤ変速装置などの有段変速装置などに比べて強く意識しないで変速することが少なくない。当然ながら、走行力を制動するブレーキ操作や走行動力の伝達を遮断するクラッチ切り操作は、確実に走行速度の急激な低下をもたらす。したがって、走行動力伝達機構に、無段変速操作レバーによって変速比が調整される無段変速装置が含まれているような植播系圃場作業機における好適な実施形態の1つでは、前記低速移行状態を判定するために用いられる前記状態信号には、前記無段変速操作レバーによる所定以下の低速をもたらす減速操作を示す減速操作信号、前記無段変速操作レバーの中立位置への操作を示す減速操作信号、ブレーキ操作を示すブレーキ操作信号、クラッチ切り操作を示すクラッチ切り操作信号、走行速度が所定値以下であることを示す速度信号、のうちの少なくとも1つが含まれている。これにより、走行機体の低速を迅速に検知して、自動操舵に関する上述した適切な制御が可能となる。
【0010】
上記課題を解決するための本発明による植播系圃場作業機の他の1つは、走行機体と、前記走行機体に搭載されたエンジンと、前記エンジンからの動力を変速して駆動輪に伝達する走行動力伝達機構と、圃場に対して植播作業を行う圃場作業装置と、GNSSモジュールを有し、測位データを出力する測位ユニットと、前記走行機体が走行するための走行経路を算定する経路算定部と、前記走行経路のうちの前記圃場作業装置を駆動しながら走行する作業走行経路において、前記測位データと前記走行経路とに基づいて前記走行機体を前記走行経路に沿うように自動操舵する自動操舵部と、前記走行動力伝達機構を含む前記走行機体の各種状態を検出して状態信号を出力する状態検出手段と、前記状態信号に基づいて前記走行機体の走行速度が所定速度以下に移行する低速移行状態を判定する低速移行状態判定部と、前記自動操舵部による自動操舵の実行中に前記低速移行状態が判定された場合、当該低速移行を回避する低速移行回避指令を機器制御部に出力する自動操舵維持部とを備えている。
【0011】
この構成によれば、自動操舵によって走行中に、走行機体が、通常速度から所定速度以下の低速に移行する低速移行状態が低速移行状態判定部によって判定されると、自動操舵維持部は、この低速への移行を回避すべく低速移行回避指令を機器制御部に出力する。これにより、植播系圃場作業機は、走行機体が方位データの精度を低下させるような低速で走行することが回避され、苗植付位置精度や播種位置精度が低下することのない安定した自動操舵が続行される。
【0012】
圃場での作業走行では、圃場の局地的な状態によって、急激に走行負荷が増大し、エンジンに負荷がかかり、エンジンの回転数の低下、結果的に走行機体の速度低下が引き起こされる。このためには、エンジン回転数を上げる必要があるが、エンジン回転数を上げると走行機体の速度が上がり、圃場作業に不都合が生じる。このような問題を解消するため、本発明による好適な実施形態の1つでは、前記低速移行状態判定部は前記エンジンにおける負荷の増大に基づいて前記低速移行状態を判定し、前記自動操舵維持部は、前記低速移行回避指令として、前記エンジン回転数を上昇させるエンジン回転数上昇指令と、前記走行動力伝達機構に対して当該エンジン回転数の上昇による走行速度の上昇を相殺するための変速指令を出力するように構成されている。
【0013】
なお、本発明による植播系圃場作業機では、操舵性を向上させるため、前記走行速度が高速の時にステアリングの応答性を低下させ、前記走行速度が低速の時にステアリングの応答性を向上させる機器制御部が備えられている。つまり、同じステアリング角度が設定されても、高速走行時には低速走行時に比べて短時間で走行機体の方向が変更されてしまう。このため、高速時にステアリングの応答性を低下させ、低速時にステアリングの応答性を向上させ、高速時であっても低速時であっても、適正な操舵性が得られる。
【0014】
測位データを出力する測位ユニットには、GNSSモジュールによる方位検出を補完する目的でジャイロセンサを有するジャイロモジュール、つまりジャイロセンサモジュールが含まれている場合が多い。植播系圃場作業機にそのようなジャイロセンサモジュール(以下単にジャイロモジュールと称する)が搭載されている場合、ジャイロモジュールは加速度を検出するため、この加速度検出値から、二次元または三次元における走行機体または圃場作業装置あるいはその両方の移動距離と方角のベクトルを求めることができる。このようなベクトルを用いた機能改善の例を、測位ユニットにはジャイロモジュールが含まれている植播系圃場作業機における好適な実施形態として以下に列挙する。
(1)この好適な実施形態では、ジャイロモジュールの測位データ(加速度データ)から算定できる走行機体の上下変動量が利用される。つまり、機器制御部は、前記測位データから算定された前記走行機体の上下変動量が所定値より大きい場合には、前記走行速度を低下させるかまたはステアリングの応答性を向上さるかあるいはその両方を行うように構成される。これにより、圃場に凹凸があっても、安定した操舵が可能となる。
(2)この好適な実施形態でも、ジャイロモジュールの測位データ(加速度データ)から算定できる走行機体の上下変動量が利用される。つまり、前記測位データから算定された前記走行機体の上下変動量に基づいて、前記圃場作業装置の前記走行機体に対するローリング制御または昇降制御あるいはその両方の制御の制御感度を変更するように構成されている。これにより、圃場に凹凸があっても、安定したローリング制御または昇降制御が実現する。
(3)この好適な実施形態では、ジャイロモジュールからの測位データ(加速度データ)から算定できる瞬時の走行機体の向きが利用される。つまり、前記測位データから算定された前記走行機体の向きと前記作業走行経路の向きとが所定値以上に異なっている場合、あるいはステアリング切れ角と前記作業走行経路の向きとが所定値以上に異なっている場合、前記自動操舵部による自動操舵が禁止されるように構成されている。これにより、不測の事態で、自動操舵が不調となった場合は、迅速に自動操舵を停止して、運転者が操舵を取り戻すことができる。
【0015】
さらに、本発明の好適な実施形態の1つでは、圃場硬さに基づいてステアリングの応答性(例えばトルク制御量)を変更する機器制御部が備えられている。圃場硬さに対応して、ステアリングのトルク制御量を変更することで、圃場が硬すぎる場合にステアリングハンドルを取られてしまうような問題や、圃場が軟らかすぎる場合にステアリング操作が過剰となるような問題が低減する。
【0016】
さらに、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記自動操舵決定部は、前記自動操舵部による自動操舵が停止中に前記低速移行状態が判定された場合、前記自動操舵部による自動操舵の開始を禁止するように構成されている。この構成によれば、自動操舵が停止されている時に、つまり人為操舵での走行中に、低速移行状態が判定されると、自動操舵決定部は自動操舵部による自動操舵の開始を禁止する。これにより、植播系圃場作業機が、方位データの精度を低下させるような低速で走行しているにもかかわらず、人為操舵から自動操舵へ移行することで、苗植付位置精度や播種位置精度が低下してしまうことが回避される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による圃場作業機の具体的な実施形態を説明する前に、
図1を用いて本発明を特徴付けている基本的な構成、及び
図2を用いて本発明を特徴付けている基本的な制御の流れを説明する。ここでは、圃場作業機として、田植機や播種機(直播機とも呼ばれる)などの直線またはほぼ直線状の作業走行を繰り返す作業条件を有する作業機が想定されている。この作業機は、圃場を自走する走行機体1と、走行機体1の後部に昇降可能に取り付けられている圃場作業装置2とからなる。この作業機には、特に本発明に関係する制御系として、測位データを出力する測位ユニット5、状態検出手段6、機器制御部7、演算制御ユニット8が備えられている。これらの測位ユニット5、状態検出手段6、機器制御部7、演算制御ユニット8は車載LANで接続されており、相互にデータ交換可能である。
【0019】
測位ユニット5は、GNSS(Global Navigation Satellite System)を用いて緯度や経度などの方位を検出するGNSSモジュール50を備えており、その構成は、カーナビゲーションシステムなどで用いられている測位ユニットに類似している。状態検出手段6は、各種センサやスイッチからなる状態検出器群60からの検出信号を検出信号処理部61で処理して走行機体1及び圃場作業装置2の各種状態を検出して状態信号を出力する。機器制御部7は、エンジンを含む走行機体1に設けられている走行動作機器やステアリング装置における操舵動作機器を制御するとともに、圃場作業装置2に設けられている作業動作機器を制御する。測位ユニット5には、瞬間的な植播系圃場作業機の動き(方向ベクトル)を検出するため、及びGNSSモジュール50を補完するためにジャイロセンサを有するジャイロモジュール51が備えられている。
【0020】
演算制御ユニット8には、オペレーションプログラムやアプリケーションブログラムや各種データを格納する情報格納部80、経路算定部81、自動操舵決定部82、自動操舵部83、低速移行状態判定部84、自動操舵維持部85が構築されている。情報格納部80には、作業対象となっている圃場の地図位置や当該圃場の境界線を規定する畦の位置データなどの圃場情報や、実施されるべき圃場作業に関する機器設定データなどの作業情報が含まれている。
【0021】
経路算定部81は、走行機体1が走行するための走行経路を算定する。その際、運転者が予め行った直線状の作業走行の走行軌跡に基づいて、作業幅分だけ順次ずれていく目標となる作業走行経路を算定することができる。また、情報格納部80から読み出された圃場情報や作業情報などに基づいて目標となる作業走行経路を算定してもよい。
【0022】
なお、ここで例示されている植播系圃場作業機には、圃場作業装置2を用いて圃場作業(田植や播種など)を行いながら長い距離を直進走行する走行経路(直線状走行経路)と、その走行経路の端部で行われる圃場作業を伴わないで方向転換走行(180°旋回)する走行経路(方向転換非作業走行経路)が設定されている。したがって、自動操舵部83は、走行経路のうちの圃場作業装置2を駆動しながら走行する作業走行経路において、経路算定部81によって算定された目標となる直線状の作業走行経路に沿うように、測位ユニット5から得られた測位データを利用して、機器制御部7を介して、自動操舵する。
【0023】
低速移行状態判定部84は、状態検出手段6から出力される状態信号に基づいて、走行機体1の走行速度が所定速度以下に移行する低速移行状態を判定する。ここでの所定速度以下の低速とは、GNSSモジュール50による方位測定の精度が低下する速度であり、低速移行状態判定部84が低速移行状態を判定した場合には特別処理が行わる。その特別処理の1つは、自動操舵決定部82によって行われる。つまり、自動操舵決定部82は、自動操舵部83による自動操舵の実行中に低速移行状態が判定された場合、当該自動操舵を停止する。また、自動操舵決定部82は、自動操舵部83による自動操舵の停止中に低速移行状態が判定されている場合、自動操舵部83による自動操舵の開始を禁止する。これにより、低速移行状態が判定されていると、自動操舵による走行は停止されるか、または自動操舵による走行が禁止されるので、GNSSモジュール50による方位測定の精度が低下する速度での自動操舵走行は行われない。
【0024】
特別処理の他の1つを行うためには、自動操舵決定部82に代えて自動操舵維持部85が必要である。自動操舵維持部85は、自動操舵中に低速移行状態が判定された場合、この低速移行を回避する低速移行回避指令を機器制御部7に出力する。これにより、走行機体1が、GNSSモジュール50による方位測定の精度が低下する低速で走行することが回避される。例えば、低速移行状態判定部84が走行機体1に搭載されているエンジンにおける負荷の増大に基づいて低速移行状態を判定した場合、自動操舵維持部85は、エンジン回転数上昇指令と変速指令を機器制御部7に与える。機器制御部7は、エンジン回転数上昇指令に基づいてエンジン制御部にエンジン回転数を所定値まで上昇させるように指令する。同時に、機器制御部7は、走行機体1に搭載されている走行動力伝達機構に対して当該エンジン回転数の上昇による走行速度の上昇を相殺するための変速指令を変速装置に出力する。これにより、GNSSモジュール50による方位測定の精度が低下する低速での自動操舵走行が回避される。
【0025】
本発明による植播系圃場作業機は、直線状の走行経路及び枕地旋回などの旋回をともなう走行経路を自動操舵または人為操舵で走行することが可能である。しかしながら、説明を簡単にするため、
図1及び
図2の説明において用いられている植播系圃場作業機では、直線状の走行経路は自動操舵で走行され、枕地旋回などの旋回をともなう走行経路は人為操舵で走行されるとする。したがって、直線状の作業走行経路から方向転換非作業走行経路への移行時には、自動操舵から人為操舵への切り替え、また、直線状の作業走行経路から方向転換非作業走行経路への移行時には、人為操舵から自動操舵への切り替えが必要となる。また、その他の予め設定されている、走行機体1及び圃場作業装置2の各種状態に応じて、人為操舵から自動操舵への切り替えあるいは自動操舵から人為操舵への切り替えが必要となる。自動操舵決定部82は、状態検出手段6からの状態信号に基づいて自動操舵部83における自動操舵の動作開始と動作停止とを決定し、その決定結果を自動操舵部83に与える。
【0026】
本発明による植播系圃場作業機は、直線状の走行経路及び枕地旋回などの旋回をともなう走行経路を自動操舵または人為操舵で走行することが可能である。しかしながら、説明を簡単にするため、
図1及び
図2の説明において用いられている植播系圃場作業機では、直線状の走行経路は自動操舵で走行され、枕地旋回などの旋回をともなう走行経路は人為操舵で走行されるとする。したがって、直線状の作業走行経路から方向転換非作業走行経路への移行時には、自動操舵から人為操舵への切り替え、また、直線状の作業走行経路から方向転換非作業走行経路への移行時には、人為操舵から自動操舵への切り替えが必要となる。また、その他の予め設定されている、走行機体1及び圃場作業装置2の各種状態に応じて、人為操舵から自動操舵への切り替えあるいは自動操舵から人為操舵への切り替えが必要となる。自動操舵決定部82は、状態検出手段6からの状態信号に基づいて自動操舵部83における自動操舵の動作開始と動作停止とを決定し、その決定結果を自動操舵部83に与える。
【0027】
このように構成された植播系圃場作業機における、自動操舵の開始と停止に関する基本的な制御の流れを、
図2を用いて簡単に説明する。
図2では、簡単化されているが、各種センサや各種操作スイッチなどを含む状態検出器群60による検出信号は、検出信号処理部61で必要な処理(例えばレベル調整、AD変換、正規化、単位変換など)が施され、走行機体1及び圃場作業装置2の各種状態(操作状態を含む)を表す状態信号として生成される。状態信号は、自動操舵決定部82と低速移行状態判定部84とに送られるが、ここでは、状態信号が低速移行状態判定部84に送られることにより処理されていく制御の流れだけを説明する。
【0028】
低速移行状態判定部84は、受け取った状態信号を入力パラメータとして、予め設定されている演算ルールに基づいて処理し、走行機体1がGNSSモジュール50による方位測定の精度が低下する低速に移行する状態(低速移行状態)が発生しているかどうか判定する。判定結果は自動操舵決定部82に与えられる。
【0029】
なお、低速移行状態判定部84による低速移行状態との判定に結びつく状態信号の例を以下に列挙する。なお、この植播系圃場作業機の走行動力伝達機構には無段変速装置が搭載されているとする。
(1)無段変速装置の変速位置を調整する変速操作具が所定の低速位置以下に操作されたことによって生成される信号、
(2)変速操作具が中立位置に操作されたことによって生成される信号、
(3)左右一対の駆動輪への動力伝達を制御する左右一対のサイドクラッチの少なくとも一方の切り状態の検出によって生成される信号、
(4)停止ペダルによる制動操作によって生成される信号、
(5)走行動力伝達機構のクラッチが切り操作されることによって生成される信号、
(6)走行機体1の速度が所定値以下になったことによって生成される信号、
などであり、上記信号の1つまたは複数の組み合わせによって低速移行状態が判定される。
【0030】
手動操舵中における低速移行状態判定部84の判定結果が低速移行状態であった場合、自動操舵決定部82は、自動操舵の開始を禁止し、例えば、人為的操作によって自動操舵の開始を指令する操作体を用いて自動操舵の開始が指令されても、その指令は無効となる。特定条件の成立によって自動操舵に切り替えられる機能が働いている場合であっても、自動操舵決定部82が自動操舵の開始を禁止する状態であればそのような自動操舵への切り替えも無効となる。
【0031】
また、自動操舵中に判定結果が低速移行状態であった場合、自動操舵決定部82は、次の2つの処理のいずれかを行うことができる。
(1)自動操舵中に判定結果が低速移行状態であった場合、自動操舵停止処理を行う。この自動操舵停止処理では、自動操舵決定部82が自動操舵部83に動作停止指令を与える。自動操舵部83は、自動操舵決定部82から受け取った指令に基づいて、対応する制御を機器制御部7に実行させるための実行指令を出す。
(2)自動操舵中に判定結果が低速移行状態であった場合、低速移行回避処理を行う。この低速移行回避処理では、自動操舵決定部82が自動操舵部83に動作停止指令を与える。自動操舵部83は、自動操舵決定部82から受け取った指令に基づいて、元の速度に復帰するための処理、エンジン回転数を上げて変速比を下げることによってエンジン負荷を取り除く処理などを行うべく、機器制御部7に実行指令を出す。
【0032】
次に、図面を用いて、本発明による植播系圃場作業機の具体的な実施形態の1つを説明する。この実施形態では、植播系圃場作業機は、乗用田植機として構成されており、基本的には、
図1と
図2とを用いて説明した、本発明の基本的な構成を備えており、基本的な制御を実行することができる。
図3は、圃場作業機の一例である乗用田植機の側面図であり、
図4は平面図である。走行機体1は、車体フレーム10の下部に左右一対の前輪11a及び左右一対の後輪11bを備えている。走行機体1の後部に、粉粒体タンク12aが備えられた粉粒体供給装置12が配備されている。走行機体1の後方に、車体横方向に並んだ6つの苗植付機構21、及び車体横方向に並んだ6つの粉粒体供給部22が備えられた水田作業装置2が連結されている。つまりこの実施形態では、圃場作業装置2として水田作業装置2に走行機体1に支持されている。この乗用田植機は、水田作業装置2を下降作業状態に下降させた状態で走行機体1を走行させることにより、苗植作業と施肥作業とを行うものである。
【0033】
走行機体1は、車体前部に配備されたエンジン31、エンジン31からの駆動力を入力して変速する走行用かつ作業用のトランスミッション32を備え、エンジン31からの駆動力をトランスミッション32から前輪11a及び後輪11bに伝達して前輪11a及び後輪11bを駆動して走行するように、四輪駆動車に構成してある。エンジン31は、エンジンボンネット31aと後カバー31bとによって覆われている。走行機体1は、車体後部に配備された運転座席33aを有した運転部33を備えている。運転者は運転部33に搭乗して操縦する。前輪11aを操向操作するステアリングハンドル33bが運転座席33aの前方に配備され、ステアリングハンドル33bを支持するステアリングポスト33cと運転座席33aとの間に上方が開放されたフロア30が形成されている。ステアリングポスト33cの周辺に操縦パネル33dが設けられている。走行機体1の後部に、粉粒体タンク13に粉粒体を供給する作業や、水田作業装置2に苗供給する作業などに使用する作業用スペース34を設けてある。作業用スペース34には、運転座席33aの両横側方と後方とにわたって位置する作業用ステップ34a、及び運転座席33aの両横側方に位置する手摺35を備えてある。さらに、走行機体1の前部には、左右一対の予備苗載せ台39が設けられている。
【0034】
エンジンボンネット31aの先端位置に支柱状となるセンターマスコット47が備えられている。また、水田作業装置(圃場作業装置の一例)2は6条植え用に構成され、左右両側部には、作用姿勢と格納姿勢とに切換自在にマーカ装置48が備えられている。マーカ装置48は、それ自体はよく知られており、
図2で示すように、水田作業装置2に対して前後向き姿勢の揺動軸を中心に揺動自在に支持されたマーカアーム48aと、このマーカアーム48aの揺動端に回転自在に支持され、外周に複数の突起が形成されたマーカリング48bとで構成されている。
【0035】
マーカアーム48aが作用姿勢に設定されることによりマーカリング48bの外周が圃場面に接触し、走行機体1の走行に伴い回転する形態で圃場面に対して次の走行の中心となる凹状のマークが連続的に形成される。従って、自動操舵をOFFにして人為操舵で苗植付け作業を行う場合には、マーカリング48bによって圃場面に凹状のマークを形成しておくことにより、走行機体1を旋回させた後に苗植付作業を継続する場合には、センターマスコット47を、圃場面のマークに照準する形態でステアリング操作を行うことにより、既植苗の列を基準にして最適となる位置に対する苗の植付が可能となる。
【0036】
図3に示すように、水田作業装置2は、車体フレーム10から後方に上下揺動するように延出されたリンク機構36に支持され、リンク機構36を昇降シリンダ37によって揺動操作することにより、接地フロート23が圃場面に下降して接地した下降作業状態と、接地フロート23が圃場面から高く上昇した上昇非作業状態とにわたって昇降操作できるようになっている。
【0037】
水田作業装置2は、リンク機構36に前端側が支持された作業部フレーム24を備えている。作業部フレーム24は、エンジン31からの駆動力が回転軸38を介して伝達されるフィードケース25、車体横方向に所定間隔を隔てて並んだ3つの植付駆動ケース26を備えている。3つの植付駆動ケース26それぞれの後端部の両横側に苗植付機構21を装着してある。作業部フレーム24の前部の上方に、苗載台28を下端側ほど後方に位置する傾斜姿勢で設けてある。作業部フレーム24の下部に、車体横方向に所定間隔を隔てて並ぶ3つの接地フロート23を装備してある。6つの苗植付機構21それぞれの横付近に1つずつ位置する状態で車体横方向に並んだ6つの対地作業部としての粉粒体供給部22を、3つの接地フロート23に振り分けて支持してある。
【0038】
水田作業装置2は、リンク機構36に前端側が支持された作業部フレーム24を備えている。作業部フレーム24は、エンジン31からの駆動力が回転軸38を介して伝達されるフィードケース25、車体横方向に所定間隔を隔てて並んだ3つの植付駆動ケース26を備えている。3つの植付駆動ケース26それぞれの後端部の両横側に苗植付機構21を装着してある。作業部フレーム24の前部の上方に、苗載台28を下端側ほど後方に位置する傾斜姿勢で設けてある。作業部フレーム24の下部に、車体横方向に所定間隔を隔てて並ぶ3つの接地フロート23を装備してある。6つの苗植付機構21それぞれの横付近に1つずつ位置する状態で車体横方向に並んだ6つの対地作業部としての粉粒体供給部22を、3つの接地フロート23に振り分けて支持してある。
【0039】
各苗植付機構21は、2つの植付アーム21aを備え、フィードケース25から植付駆動ケース26に伝達される駆動力によって駆動され、2つの植付アーム21aそれぞれに備えてある植付爪の先端が上下に長い回動軌跡を描きながら上下に往復移動する苗植運動を行なう。圃場作業の1つである苗植付作業においては、各苗植付機構21は、2つの植付アーム21aによって交互に、苗載台28の下端部において苗載台上のマット状苗から一株分の植付苗を取出して、取出した植付苗を圃場に下降搬送し、接地フロート23によって整地された泥土部に植え付ける。
【0040】
苗載台28には、
図4に示すように6つの苗植付機構21に供給するためのマット状苗を車体横方向に並べて載置する6つの苗載置部28aを備えてある。苗載台28は、作業部フレーム24に備えられた支持部及び支柱24aに車体横方向に往復移動するように支持されている。苗載台28は、苗載台28とフィードケース25とにわたって設けられた横送り機構により、苗植付機構21の苗植運動に連動させて車体横方向に往復移送されて、マット状苗を苗植付機構21に対して車体横方向に往復移送する。これにより、各苗植付機構21が苗載台28に載置されたマット状苗の下端部の横一端側から他端側に向けて植付苗を取出していく。
【0041】
苗載台28の6つの苗載置部28aそれぞれに、縦送りベルト28bを装備してある。各苗載置部28aの縦送りベルト28bは、苗載台28が横移送の左右のストロークエンドに到達すると、苗載台28とフィードケース25とにわたって設けてある縦送り駆動機構27(
図5参照)によって設定ストロークだけ回転駆動され、苗植付機構21によって取出される苗の縦方向での長さに相当する長さだけマット状苗を苗植付機構21に向けて縦送りする。
【0042】
図5は、水田作業装置2を駆動するための伝動構造を示す概略図である。回転軸38からフィードケース25に入力された駆動力がフィードケース25に内装されたミッションによって植付出力軸25aに伝達され、この植付出力軸25aから3つの植付駆動ケース26それぞれの前端部に入力されるように構成してある。各植付駆動ケース26において、植付駆動ケース26に入力された駆動力が、端数条植クラッチ29を有した伝動機構によって一対の苗植付機構21に伝達されるように構成してある。
【0043】
従って、左端の植付駆動ケース26に内装された端数条植クラッチ29は、入り切り操作されることにより、6つの苗植付機構21のうちの一部である、左端の苗植付機構21と、左端の苗植付機構21に隣り合った苗植付機構21との2つの苗植付機構21への伝動が入り切りし、左端側2条用の苗植付機構21を、苗植運動を行なう作業状態と、苗植運動を停止する非作業状態とに切り換える。
【0044】
右端の植付駆動ケース26に内装された端数条植クラッチ29は、入り切り操作されることにより、6つの苗植付機構21のうちの一部である、右端の苗植付機構21と、右端の苗植付機構21に隣り合った苗植付機構21との2つの苗植付機構21への伝動を入り切りし、右端側2条用の苗植付機構21Rを、苗植運動を行なう作業状態と、苗植運動を停止する非作業状態とに切り換える。
【0045】
中央の植付駆動ケース26に内装された端数条植クラッチ29は、入り切り操作されることにより、6つの苗植付機構21のうちの一部である、左端側2条用の苗植付機構21Lと、右端側2条用の苗植付機構21Rとの間の2つの苗植付機構21への伝動を入り切りし、中央2条用の苗植付機構21Nを、苗植運動を行なう作業状態と、苗植運動を停止する非作業状態とに切り換える。
【0046】
縦送り駆動機構27は、フィードケース25の前部から横外向きに延出された縦送り出力軸271と、苗載台28の裏面側に回転操作できるように支持された苗載台横方向の縦送り駆動軸272とを備えている。縦送り出力軸271は、回転軸38からフィードケース25に入力された駆動力によって回転駆動され、縦送り出力軸271に支持してある左右一対の伝動アーム273を回転駆動する。縦送り駆動軸272に受動アーム274を一体回転するように支持し、縦送り駆動軸272の3箇所に端数条縦送りクラッチ20が装備されている。
【0047】
図5で模式的に示されているだけであるが、トランスミッション32には、変速装置32aが備えられており、変速操作レバーの操作を通じて走行機体の速度を変更することができる。さらに、トランスミッション32から左右一対の後輪11bに動力を伝達する動力伝達系に、左右一対のサイドクラッチ11Bが設けられている。この左右一対のサイドクラッチ11Bの択一的なON・OFF操作によって、走行機体1の操向(操舵)を制御することができる。
【0048】
図6に模式的に示されているだけであるが、ステアリングハンドル33bと、前輪11aとは、電動パワーステアリング装置40を介して連動連結している。詳述すると、ステアリングハンドル33bのハンドルシャフト41には、ステアリングハンドル33bの回動トルクを検出するトルクセンサ42が設けられている。このトルクセンサ42の検出結果に基づいてステアリングハンドル33bを回動させるアシスト力を付与するための電動モータ43が電磁クラッチ44及びギヤ機構45を介してハンドルシャフト41に連動連結されている。このハンドルシャフト41と操向輪としての前輪11aとは、図示されていないピットマンアーム、ナックルアーム、タイロッド等の連係機構を介して連動されている。トルクセンサ42の検出信号は、機器制御部7に入力される。機器制御部7は、トルクセンサ42の検出結果等に基づいて制御信号を生成し、モータ制御回路7Aを介して電動モータ43、及び電動モータ43の出力の伝動の入り切りを行う電磁クラッチ44を駆動制御する。なお、自動操舵時には、機器制御部7からの制御信号により、電動モータ43が制御され、トルクセンサ42の検出信号とは関係なく、ステアリングハンドル33bが自動的に操作される。
【0049】
さらに、
図6に模式的に示されているだけであるが、リンク機構36の昇降シリンダ37は、機器制御部62からの制御信号に基づき、ソレノイド制御回路7Bを介して駆動制御される。昇降シリンダ37の上昇にともなって苗植付作業や施肥作業が停止され、昇降シリンダ37の下降にともなって苗植付作業や施肥作業が開始される。なお、この昇降シリンダ37の操作は、ステアリングハンドル33bの周辺に設けられた作業操作具の一種である昇降レバー49の上昇位置への操作または下降位置への操作によって昇降操作される。
【0050】
走行機体1の自動操舵時に必要となる自機位置は、測位ユニット5からの測位データから求められる。測位ユニット5には、GNSSモジュール50と、GNSSモジュール50を補完するジャイロセンサを有するジャイロモジュール51が含まれている。
図7に示すように、このGNSSモジュール50には、衛星用アンテナ5Aが接続されている。衛星用アンテナ5Aは、電波受信感度が良好となる箇所、この実施形態では、
図3に示すように、手摺35の上部領域に接続部5Cを介して取り付けられている。
【0051】
図7には、この乗用田植機に装備されている制御系が示されている。この制御系は、
図1と
図2とを用いて説明された自動操舵に関する基本原理を流用している。
図7の機能ブロック図には、
図1における制御系の機能ブロック図では示されていなかったいくつかの機能部が示されている。例えば、演算制御ユニット8の各機能部とデータ交換可能に接続している報知処理ユニット64、作業設定部86、スリップ率算出部87、外部から有線または無線等で入力される信号を入力信号処理部65、この乗用田植機を用いた圃場作業に関して運転者に与えられる種々の支援を管理する運転支援ユニット89などである。
【0052】
報知処理ユニット64は、運転者または外部に報知するために運転支援ユニット89内に構築されている報知情報生成部89aで生成され情報を処理し、報知処理ユニット64に出力する。報知処理ユニット64に接続されている報知デバイスとしては、画像情報を表示するディスプレイ64aや音声情報を発するスピーカ64bが代表的であるが、ブザーやランプも含まれる。ディスプレイ64aはタッチパネル66を装備しており、タッチパネル66を通じて入力された情報は、入力信号処理部65を介して、その情報を必要とする機能部に送られる。この実施形態における状態検出手段6の構成は、
図1及び
図2を用いて説明された構成と実質的に同じであるので、ここでの説明は省略する。なお、入力信号処理部65は、エンジン回転数、車輪回転数、燃料残量、苗残量、肥料残量、変速位置、水田作業装置(圃場作業装置)2の姿勢(上昇状態や下降状態)などを特定する信号が入力される状態検出手段6と統合化することも可能である。
【0053】
報知処理ユニット64は、自動操舵部83とデータ交換しており、例えば、自動操舵での走行時には、ディスプレイ64aを通じて自動操舵中であることを表示するとともに、スピーカ64bを通じてその旨の報知を行う。
【0054】
運転支援ユニット89が作り出す機能には、走行機体1の操縦支援や水田作業装置2の操作支援ではなく、圃場作業に必要な資材の補給支援機能も含まれている。乗用田植機において、それ自体は公知であるが、苗や肥料の残量を検出する残量検出ユニット(図示されていない)や資材詰まりなどの資材補給不能を検出する補給不能検出ユニット(図示されていない)が備えられている。運転支援ユニット89は、状態検出手段6を通じて送られてくる資材残量が閾値レベルを下回ると、そのことを報知する。また、運転支援ユニット89は、状態検出手段6を通じて補給不能が検知されると、その旨の報知情報を生成して報知処理ユニット64を通じて報知するとともに、その時、自動操舵がONされておれば、自動操舵の停止を指令し、さらには走行機体1の停止を指令するように構成してもよい。
【0055】
作業設定部86は、圃場作業装置としての水田作業装置2を用いてこれから行おうとする圃場の境界形状、走行開始地点、走行終了地点、苗などの補給地点などを設定する。設定されたデータは、自動操舵時の目標となる走行経路を算定するために経路算定部81に与えられる。スリップ率算出部87は、走行機体1に設けられた駆動車輪(この実施形態では前輪11aと後輪11b)の回転に基づいて算出される走行機体1の移動距離と、測位ユニット5から出力される測位データに基づいて算出される走行機体1の移動距離とから駆動車輪のスリップ率を算出する。圃場作業では、駆動車輪の回転、つまり車速に基づく走行距離当たりの作業量(圃場に対する植付苗間隔や、圃場への播種量)が一定となるような作業が好ましいので、駆動車輪のスリップは作業量の不均一化を導く。このため、スリップ率算出部87で算出されたスリップ率は、そのような作業量の不均一化を回避するための動作制御の修正、例えば自動操舵の停止などにも利用される。
【0056】
演算制御ユニット8に構築されている、情報格納部80、経路算定部81、自動操舵決定部82、自動操舵部83、低速移行状態判定部84、自動操舵維持部85の機能説明は、
図1及び
図2を用いて説明された内容が援用される。特にこの実施形態では、低速移行状態判定部84は、状態検出手段6からの状態信号から走行機体1の速度が所定値以下であると見なされると、低速移行状態と判定する。ここでの所定値という速度は、GNSSモジュール50の方位検出精度が有意に低下する下限速度であり、この速度に限定されるわけではなく、任意に変更可能である。低速移行状態判定部84で、低速移行状態と判定されると、自動操舵決定部82は、第1処理モードと第2処理モードの内、選択されている処理モードの実行を要求する。第1処理モードは簡単な制御モードであり、その時点で自動操舵が実行されている場合、当該自動操舵を停止し、人為操舵に移行させる。また、その時点で人為操舵が行われている場合、自動操舵に入ることを禁止する。第2処理モードは、下限速度以下になった走行機体1を増速させて、下限速度を超えるようにする制御モードである。具体的には、それがエンジン負荷の増大に起因する減速であれば、エンジン回転数を上げるとともに、変速装置の変速比を負荷軽減の方向に切り替える。この第2処理モードにおける制御は、自動操舵時だけに行われるのが通常であるが、人為操舵時にも行われてもよい。
【0057】
なお、上述した第1処理モードと第2処理モードは予め選択可能に構成してもよいし、いずれか一方だけを備えてもよい。あるいは、両方の処理モードを備え、各処理モードの実行条件としての下限速度を相違させてもよい。通常は、第1処理モードの実行条件としての下減速度は、第2処理モードの実行条件としての下減速度より大きく設定される。
【0058】
この実施形態において、枕地でのUターン走行に関して、枕地への進入検知及び枕地からの離脱に応答して、圃場作業装置2を自動的に昇降される自動昇降制御機能を付加してもよい。この場合、枕地への進入により、圃場作業を一時的に停止させる際に、自動操舵のOFFとともに、昇降シリンダ37による水田作業装置2の上昇操作の実行が行われる。逆に、自動操舵の動作開始時には、水田作業装置2の下降操作が行われる。
【0059】
なお、自動での直線作業走行中に何らかの要因で、緊急避難的に作業走行経路を外れなければならないことがある。そのような時には、ステアリングハンドル33bの操作量、軸トルク、前輪切れ角などは自動制御時にはあり得ない異常値になる。このことを利用して、そのような異常値が生じた場合、自動操舵決定部82は、自動操舵行っている自動操舵部83に自動操舵の動作停止を中断する指令を与える。これにより、異常時の迅速な処理が可能となる。
【0060】
この実施形態では、
図7の拡大図から理解できるように、昇降レバー49の自由先端部に、人為操作体70が、トグルスイッチとして設けられている。人為操作体70を一度押すと、自動操舵決定部82は自動操舵部83による自動操舵の動作開始を指令し、再度押すと、自動操舵決定部82は自動操舵部83による自動操舵の動作停止を指令する。もちろん、トグルスイッチに代えて、自動操舵の動作開始と動作停止の位置が設定されている2方向のレバースイッチやシーソスイッチを用いてもよい。昇降レバー49以外の人為操作体70の取付位置として、ステアリングハンドル33bや非図示の主変速レバー及びアクセルレバーなどが挙げられる。また、人為操作体70が複数個所に設けられてもよい。
【0061】
本発明による植播系圃場作業機では、走行機体1に対する操舵制御だけでなく、圃場作業装置2を構成する種々の動作機器の機器制御の自動化が可能である。したがって、そのような制御情報の動作履歴データをデータベース化して記録することにより、有益な営農情報が得られる。特に、測位ユニット5による測位データまたは情報格納部80に格納されている地図データあるいはその両方と、圃場作業履歴データとがリンクされることにより圃場における微細区画単位での農作業管理に寄与することができる。
【0062】
この実施形態の植播系圃場作業機では、自動操舵部83は、演算制御ユニット8との連係により、上述した自動操舵以外に運転性を向上させるために以下に示すような機能を備えている。
(1)操舵性を向上させるため、走行速度が高速の時にステアリングの応答性を低下させ、走行速度が低速の時にステアリングの応答性を向上させる。高速時にはステアリングの応答性が低下させられるとともに、低速時にはステアリングの応答性を上げることで、高速時であっても低速時であっても、良好な操舵性が実現する。
(2)ジャイロモジュール51から出力される加速度検出値から、走行機体1の上下変動量され、この上下変動量に基づいて、圃場作業装置2の走行機体に対するローリング制御または昇降制御あるいはその両方の制御の制御感度を変更するように構成されている。これにより、圃場に凹凸があっても、安定したローリング制御または昇降制御が実現する。(3)ジャイロモジュール51から出力される加速度検出値に基づく測位データ(車体の動きベクトル)から算定できる瞬時の走行機体の向きと作業走行経路の向きとが所定値以上に異なっている場合、あるいはステアリング切れ角と前記作業走行経路の向きとが所定値以上に異なっている場合、自動操舵部83による自動操舵が禁止される。これにより、不測の事態で、自動操舵が不調となった場合は、迅速に自動操舵を停止して、運転者が操舵を取り戻すことができる。
(4)フロート感知の設定値などから把握される圃場硬さに基づいて、モータ制御回路7Aに補正制御量を付加し、ステアリングのトルク制御量を変更する。
【0063】
〔別実施形態〕
(1)上述した実施形態では、経路算定部81は演算制御ユニット内に構築されていたが、経路算出アルゴリズムが複雑になれば要求される演算能力が高くなるので、経路算出演算は、外部のコンピュータに行わせるクラウドネットワーク方式を採用してもよい。同様に、情報格納部80も外部のコンピュータ内に構築し、必要に応じて植播系圃場作業機からアクセスするような構成にしてもよい。そのためには、植播系圃場作業機にインターネットなどデータ通信回線に接続可能な通信ユニットが備えられか、あるいは運転者によって持ち込まれる。
(2)低速移行状態判定部84が低速移行状態の判定に用いる下限速度は、過去の作業走行におけるデータ、実際の走行経路や圃場の状態などを加味して、手動または自動で調整される構成を採用してもよい。
(3)直進の作業走行と方向転換を伴う非作業走行の両方において、自動操舵部83によって走行機体1を自動走行制御してもよいが、例外的な操作が含まれる非作業走行(特に方向転換走行)では運転者によって人為操舵されることが好ましい。
(4)本発明による圃場作業機には、GNSS機能と地図データ収納機能が備えられているので、これを利用して、作業対象となる圃場への自動操舵あるいは走行経路案内を行うことも可能である。