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特開2018-171613手塗り塗工用無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-171613(P2018-171613A)
(43)【公開日】2018年11月8日
(54)【発明の名称】手塗り塗工用無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/28 20060101AFI20181012BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20181012BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20181012BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20181012BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20181012BHJP
   B05D 1/38 20060101ALI20181012BHJP
【FI】
   B05D1/28
   C09D175/04
   C09D5/00 D
   B05D7/24 301U
   B05D7/24 302T
   B05D3/00 D
   B05D1/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-59923(P2018-59923)
(22)【出願日】2018年3月27日
(31)【優先権主張番号】特願2017-68144(P2017-68144)
(32)【優先日】2017年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】392035064
【氏名又は名称】保土谷建材株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 基樹
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 健治
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AC57
4D075AF03
4D075BB16X
4D075CA02
4D075CA08
4D075CA13
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DA31
4D075DA33
4D075DA34
4D075DA36
4D075DB12
4D075DC05
4D075EA05
4D075EA25
4D075EA27
4D075EA41
4D075EB37
4D075EB38
4D075EB39
4D075EB51
4D075EB56
4D075EC01
4D075EC07
4D075EC21
4D075EC37
4J038AA011
4J038BA201
4J038DF021
4J038DG281
4J038HA491
4J038HA492
4J038NA12
4J038NA24
4J038PA07
4J038PA18
4J038PB05
4J038PC04
(57)【要約】
【課題】
本発明は、溶剤系プライマーと同等以上の接着性能及び塗膜強度が得られ、可使時間は40分以上であり、特に密閉系構造物のコンクリートやモルタル等の建築材に適用する、手塗り塗工用無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法を提供することである。
【解決手段】
本発明は、二液反応型ウレタンプライマーをコンクリートやモルタル等の建築材被着体に手塗り塗工する際に、可使用時間は40分(500mPa・s到達)以上である液状ウレタンプライマーを調整する工程と、前記液状ウレタンプライマーを被着体に塗工する工程と、塗工した液状ウレタンプライマーが硬化後にウレタン塗膜材を上塗りして積層する工程を有する手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法であって、可使用時間は40分(500mPa・s到達)以上である液状ウレタンプライマーを調整する工程と、前記液状ウレタンプライマーを被着体に塗工する工程と、塗工した液状ウレタンプライマーが硬化後にウレタン塗膜材を上塗りして積層する工程を有することを特徴とする。
【請求項2】
前記液状ウレタンプライマーを調整する工程において、主剤のイソシアネート成分は一般式(1)、(2)で示されるジフェニルメタンジイソシアネート化合物混合物(以下、MDI異性体混合物という)と、一般式(3) で示されるカルボジイミド変性MDI(以下、液状MDIという)との混合物であり、その質量混合比(MDI異性体混合物/液状MDI)は0/100から98/2であることを特徴とする請求項1に記載の手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法。
【化1】
(1)
【化2】
(2)
【化3】
(3)
【請求項3】
前記液状ウレタンプライマーを調整する工程において、MDI異性体混合物は一般式(1)で示される4,4’−異性体と、一般式(2)で示される2,4’−異性体を含む混合物であり、その質量混合比(4,4’−異性体/2,4’−異性体)が30/70〜65/35の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法。
【請求項4】
前記液状ウレタンプライマーを調整する工程において、硬化剤のポリオール成分はポリオキシプロピレントリオール及びヒマシ油であり、ポリオキシプロピレントリオールの質量割合は15%から50%であることを特徴とする請求項1から3のいずれ一項に記載の手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法。
【請求項5】
前記液状ウレタンプライマーを調整する工程において、主剤のイソシアネート成分と硬化剤のポリオール成分の当量比(NCO基/OH基)が0.7〜4.0の範囲になることを特徴とする請求項1から4のいずれ一項に記載の手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法。
【請求項6】
前記液状ウレタンプライマーを調整する工程において、質量比が1/1である前記主剤と硬化剤に、ポルトランドセメント粉を1/1/0(主剤/硬化剤/セメント)〜1/1/2(主剤/硬化剤/セメント)の混合比(質量)で配合することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法。
【請求項7】
前記液状ウレタンプライマーを被着体に塗工してから24時間〜144時間を経過後、ウレタン塗膜材を上塗りして積層する工程を行うことを特徴とする請求項1から6のいずれ一項に記載の手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法。
【請求項8】
前記被着体がコンクリートまたはモルタルであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は手塗り塗工に適する可使時間を有する二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法に関するものである。更に詳しくは、コンクリートやモルタル等の被着体との接着性能において、本発明の無溶剤ウレタンプライマーは無溶剤でありながら溶剤系プライマーと同等以上の被着体との接着性能が得られ、また上塗り材のポリウレア・ポリウレタン塗膜材(以下、ポリウレア塗膜材という)との接着性能も優れる無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
わが国では密閉系室内やピット内におけるポリウレア塗膜材の下地に用いられるプライマー(以下、コンクリート用プライマーという)は、作業従事者の安全性や環境等に配慮し水系エポキシ樹脂プライマー若しくは水系アクリル樹脂プライマーが広く使用されている。
【0003】
然しながら、上記水系樹脂プライマーは溶剤系プライマーと比較して、被着体のコンクリ
ートやモルタル等との接着力が未だ十分ではない。特に、長期間の耐水試験、耐温水試験
等では被着体との接着性能が極端に低下し、塗膜が剥離するなどの問題があった。
【0004】
上記水系樹脂プライマー以外には、一液湿気硬化型ウレタンプライマーやエポキシ樹脂プライマー等も使用されているが、一般に硬化速度が遅いため上塗り材を塗工するまでに長時間を要し、またプライマー自身の粘度も比較的高いために有機溶剤を加えて粘度調整する必要があるなどの問題があった。
【0005】
無溶剤ウレタンプライマーに関しては、防食性(耐水性等)に優れた鋼材防食用プライマーの塗装方法に関する技術情報が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
特許文献1記載の鋼材防食用プライマーの塗装方法については、プライマーを被着体の鋼材に対して主にスプレー塗装を想定した組成である。プライマー塗装後インターバル5 分でもメインコート塗装することが可能であることにより、塗装作業工程の大幅な短縮が図れるものである。また、周期律表第II族及び/又は第III 族の金属の燐酸塩の添加により、プライマー塗装膜(層)の耐陰極剥離性、強度、初期密着性、耐水密着性を調整する。
【0007】
特許文献1に、プライマーと鋼材との接着性を高めるため、当量比(NCO基/OH基)はNCO過剰、且つ一定範囲内で反応をコントロールさせている。すなわち反応時の当量比を高目に設計することにより過剰のNCO基は空気中の湿分と反応し、またポリオールおよび湿分との反応を適切にコントロールさせることで、プライマー層と防食塗料(上塗り層)との二層間で化学結合が形成されるようにする必要があった。
【0008】
然しながら、手塗りの際にプライマー塗工後の上塗り塗工が可能となるまでのインターバル(以下、塗工インターバルという)を特許文献1記載通りに短くすると、攪拌時に生じた泡がプライマー硬化物中に残り、またイソシアネート基が下地あるいは大気中の湿分とポリオールとの反応とを適切にコントロールできず発泡を起こしたりして、プライマーとして安定した連続性のある塗膜は得られない。
【0009】
したがって、コンクリート等基材上の表層とポリウレア塗膜層との両層に対し満足できる接着性能および塗膜強度が有るウレタンプライマー塗装膜が得られ、可使時間はもっと長く、手塗り塗工に適する無溶剤プライマーの塗工方法、は未だ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−319704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、溶剤系プライマーと同等以上の接着性能及び塗膜強度が得られ、可使時間は40分以上であり、特に密閉系構造物のコンクリートやモルタル等の建築材に適用する、手塗り塗工用無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法を提供することである。
【0012】
上記課題を解決するため、発明者らは二液反応型の手塗り塗工用無溶剤ウレタンプライマーの組成調整に着目し、主剤および硬化剤組成の選定に鋭意努力した。すなわち、ウレタンプライマーの粘度を下げ、さらに硬化時間を大幅に延長するプライマー組成に調整することで、塗工インターバルも並行して長くなり、攪拌時に生じた泡がプライマーから除去しやすくした。またイソシアネート基と下地あるいは大気中の湿分とポリオールとの反応を適切にコントロールすることで湿分による発泡を抑止し、その結果プライマーとして安定した連続性のある塗膜が得られるようになり、無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明は、コンクリート・モルタル用二液反応型ウレタンプライマーを被着体に塗工するに際して、可使用時間は40分(500mPa・s到達)以上である液状ウレタンプライマーを調整する工程と、前記液状ウレタンプライマーを被着体に塗工する工程と、塗工した液状ウレタンプライマーが硬化後にウレア塗膜材を上塗りして積層する工程を有する手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法である。
【0014】
本発明は、前記液状ウレタンプライマーを調整する工程において、主剤のイソシアネート成分は一般式(1)、(2)で示されるジフェニルメタンジイソシアネート化合物混合物(以下、MDI異性体混合物という)と、一般式(3) で示されるカルボジイミド変性MDI(以下、液状MDIという)との混合物であり、その質量混合比(MDI異性体混合物/液状MDI)は0/100から98/2であることを特徴とする手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法である。
【0015】
【化1】
(1)
【0016】
【化2】
(2)
【0017】
【化3】
(3)
【0018】
本発明は、前記液状ウレタンプライマーを調整する工程において、MDI異性体混合物は一般式(1)で示される4,4’−異性体と、一般式(2)で示される2,4’−異性体を含む混合物であり、その質量混合比(4,4’−異性体/2,4’−異性体)が30/70〜65/35の範囲であることを特徴とする手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法である。
【0019】
本発明は、前記液状ウレタンプライマーを調整する工程において、硬化剤のポリオール成分はポリオキシプロピレントリオール及びヒマシ油であり、ポリオキシプロピレントリオールの質量割合は15%から50%であることを特徴とする手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法である。
【0020】
本発明は、前記液状ウレタンプライマーを調整する工程において、主剤のイソシアネート成分と硬化剤のポリオール成分の当量比(NCO基/OH基)が0.7〜4.0の範囲になることを特徴とする手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法である。
【0021】
更に本発明は、前記液状ウレタンプライマーを調整する工程において、質量比が1/1である前記主剤と硬化剤に、ポルトランドセメント粉を1/1/0(主剤/硬化剤/セメント)〜1/1/2(主剤/硬化剤/セメント)の混合比(質量)で配合することを特徴とする手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法である。
【0022】
また、本発明は、前記液状ウレタンプライマーを被着体に塗工してから24時間〜144時間を経過後(6日以内)、ポリウレア塗膜材を上塗りして積層する工程を行うことを特徴とする手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法である。
【0023】
また、本発明は、前記被着体がコンクリートまたはモルタルであることを特徴とする手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法は環境対応型であり、得られたプライマー塗装膜は、従来の水系エポキシ樹脂や水系アクリル樹脂プライマーと比較して、被着体のコンクリートやモルタル等に対して優れた接着性能、耐水性能を有する。また塗工インターバルは塗工後6日以内の期間でポリウレア塗膜材の上塗り塗工が可能で、被着体および上塗り材に対して溶剤系プライマーと同等以上の接着性能を発揮する。また、無溶剤であるため、作業従事者や環境等に極めて安全であり、密閉性構造物の防水分野に特に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法としては、塗工後のレベリングが比較的長くとれる利点から、スタティックミキサー、ダイナミックミキサー等の自動混合装置と併用して、混合後にローラー、刷毛、コテ等の塗工用手工具による手塗り塗工である。
【0026】
その具体例としては、無溶剤のため密閉系の室内やピット内の下地のコンクリートやモルタル等を塗工対象とし、スプレー塗工が困難な不定形状や塗工面積の狭小部分、また出隅部、入隅部、壁面打ち継ぎ部等の箇所が多数存在する場所等では、ローラや刷毛等を使用する手塗り塗工が適している。
【0027】
この様に塗工現場の状況等を考慮し、上記スプレーによる塗工、または上記自動混合装置を併用してローラーやハケ等による手塗り塗工を選択することができる。なお、本発明で使用する無溶剤ウレタンプライマーの乾燥後の厚みは、10〜250μmが好ましい。
【0028】
本発明の手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法は、可使用時間は40分(500mPa・s到達)以上である液状ウレタンプライマーを調整する工程と、前記液状ウレタンプライマーを被着体に塗工する工程と、塗工した液状ウレタンプライマーが硬化後にポリウレア塗膜材を上塗りして積層する工程を有する。
【0029】
本発明の手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法として、可使用時間は40分(500mPa・s到達)以上である液状ウレタンプライマーを調整する工程は、主剤のイソシアネート化合物は、前記MDI異性体混合物および前記液状MDIとを所定の範囲内で混合し使用することができる。
【0030】
本発明の手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法に用いる主剤のイソシアネート化合物は、一般式(1)、(2)で示されるジフェニルメタンジイソシアネート化合物混合物(以下、MDI異性体混合物という)と、一般式(3) で示されるカルボジイミド変性MDI(以下、液状MDIという)との混合物であり、その質量混合比(MDI異性体混合物/液状MDI)は0/100から98/2である。
【0031】
【化4】
(1)
【0032】
【化5】
(2)
【0033】
【化6】
(3)
【0034】
MDI異性体混合物の製造方法は、まずアニリンとホルマリンとの縮合反応によりポリメリックメチレンジアミン(以下、ポリメリックMDAという)を製造する。このポリメリックMDAをホスゲン化し、得られたポリメリックMDI混合物(例えば、商品名“ミリオネートMR200”)から蒸留ないしは晶析によってモノメリックMDI(以下、MDIという)を分離し得ることができる。
【0035】
得られるMDIはNCO基の置換位置により、2,2’−異性体、2,4’−異性体、および4,4’−異性体の3種類の存在が知られている。4,4’−MDI(CAS登録番号:101−68−8、融点:40℃)は常温で白色または淡黄色固体であり、取扱い時には加温して完全に溶融した後に濾過等により不純物を除去し反応原料として使用することが好ましい。
【0036】
上記のMDI異性体混合物は、一般式(1)で表される4,4’−異性体と一般式(2)で表される2,4’−異性体とを含有し、その混合比は、4,4’−異性体/2,4’−異性体で30/70〜65/35(質量比)である。本発明では、主剤の貯蔵安定性、可使時間、および物性値(伸び率)等から、プライマー硬化剤中の異性混合比の範囲は30/70〜55/45(質量比)が好ましい。なお、上記MDI異性体混合物の融点は20℃前後で、冬期では結晶化する。
【0037】
一方、前記液状MDIは一般式(3)で表される、MDIのイソシアネート基同士を環化させ三量化したイソシアヌレート構造を有するポリイソシアネート(例えば、商品名“ミリオネートMTL”)であり、厳冬期においても未変性イソシアネートの析出による白濁化は少ない。
【0038】
MDI系ウレタンプライマーでは、イソシアネートの種類による可使時間(分)の相違は明確である。後述する<可使時間の評価方法>(1)により、未硬化液状物の塗工可能な粘度が500mPa・s/23℃に達するまでの時間は、MR200<MTL<MIの順に長くなる傾向にある。
【0039】
具体的には、主剤中のMDI異性体混合物/液状MDIとの混合で、MDI異性体混合物の含有量が増加するにつれ可使時間は長くなるが、冬期には結晶化する可能性がある。また液状MDIの含有量が高くなると主剤の結晶化の可能性は低くなるが、可使時間は逆に短くなる。
【0040】
主剤の低温安定性、可使時間、および諸物性(接着性、硬さ等)から、上記MDI異性体混合物/液状MDIとの混合比は0/100〜98/2(質量比)が好ましい。さらに好ましくは70/30〜95/5(質量比)である。
【0041】
本発明の液状ウレタンプライマーの調整工程において、原料であるポリオキシアルキレンポリオールは、ポリオキシプロピレンポリオールまたはポリオキシエチレンプロピレンポリオールであることが好ましい。これらは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの低分子ポリオールに、プロピレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドとを付加重合して得ることができる。
【0042】
本発明で使用するウレタンプライマーのポリオール成分は、上記ポリオキシアルキレンポリオール単独、または該ポリオキシアルキレンポリオールとオキシ酸油ポリオールであるヒマシ油との混合ポリオールである。なお本発明のヒマシ油は、通常のウレタン原料として使用されるグレードであれば特に問題はなく使用できる。
【0043】
上記ポリオキシアルキレンポリオールは分子中に平均2〜3個の水酸基を有し、その水酸基価の範囲は100〜500mgKOH/gが好ましい。またポリオキシアルキレンポリオールとヒマシ油との併用でも平均水酸基価が100〜400mgKOH/gの混合ポリオールが好ましい。前記主剤中のイソシアネート成分と前記硬化剤中のポリオール成分との当量比(NCO基/OH基)が0.7〜4.0の範囲で反応させる、手塗り塗工用無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法である。
【0044】
本発明の二液反応型ウレタンプライマーにおいては、主剤に含まれるイソシアネート基と硬化剤に含まれる水酸基との当量比(NCO基/OH基)は0.7〜4.0が好ましく、より好ましくは0.7〜2.6である。当量比(NCO基/OH基)が上記範囲内であると、所望の可使時間、硬化物の物性が確保し易くなる。また、当量比(NCO基/OH基)が上記範囲内であると、該プライマー層と上塗り材であるポリウレア塗膜材層との層間接着性も優れている。
【0045】
本発明の無溶剤の二液反応型ウレタンプライマーは、所望により硬化剤に可塑剤、着色顔料、沈降防止剤等の助剤を添加することもできる。また上記主剤および硬化剤以外に、必要に応じてセメント粉を配合(以下、「セメント配合プライマー」という)する使用も可能である。
【0046】
前記セメント配合プライマーの配合比(質量比)は、プライマー/セメントは1/0〜1/2が好ましい、特に主剤/硬化剤/セメントは1/1/0〜1/1/2が好ましい。プライマー層の厚さはウレタン塗膜層との接着性および下地の状態を勘案して適宜設定すれば良いが、通常0.05〜0.2mm程度が好適である。また塗布量は0.1〜0.5kg/mが好適である。上記セメント配合プライマーからなるプライマー層によって、小さな目地部やクラック等の下地処理が軽減できる。またセメントを配合することにより、湿分等による発泡が抑制できる。なお本発明の使用可能なセメントとしては、ポルトランドセメント、早強セメント、フライアッシュセメント、アルミナセメントなどがある。
【0047】
本発明の二液反応型ウレタンプライマーは無溶剤であるが、主剤および硬化剤との混合直後の粘度(混合初期粘度)は250mPa・s/23℃以下であり、被着体のコンクリートやモルタルに対する浸透性は良好である。粘度が1000mPa・s/23℃を超えると施工時の作業性が低下し、被着体との浸透性も好ましくない。
【0048】
本発明で使用する前述の上塗り材であるポリウレア塗膜材は、ポリウレア・ポリウレタン防食材、ポリウレア・ポリウレタン塗膜防水材、ポリウレア・ポリウレタン塗膜床材、またはポリウレア・ポリウレタン防錆材がその対象である。このような特性を有するポリウレア・ポリウレタン防食材としてはHCスプレーAU(製品名、保土谷バンデックス建材社製)がある。また、ポリウレア・ポリウレタン塗膜防水材としてはHCエコプルーフ(製品名、保土谷バンデックス建材社製)、ポリウレア塗膜床材としてはHCスプレーF(製品名、保土谷バンデックス建材社製)等を挙げることができる。
【0049】
上記ポリウレア塗膜材は、施工現場において被着体のコンクリート等の上に前記プライマー層を塗工後、上塗り材であるイソシアネート基末端プレポリマーを主成分とする主剤と芳香族ポリアミン架橋剤を含む硬化剤とを計量し、電動攪拌機または自動混合装置等により混合して手塗り塗工またはスプレー等の機械圧送塗工により、常温で硬化するポリウレア塗膜層から成る積層構造を形成する。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例で「部」、「比」または「配合比」とあるのは質量基準である。
【0051】
実施例および比較例において用いた主剤および硬化剤に含まれる成分を以下に示す。また、実施例および比較例で用いた評価方法についても以下に示す。
【0052】
<主剤>
・MDI異性体混合品(4,4’−MDI/2,4’−MDI混合物):
(商品名“ルプラネートMI”、BASF INOAC ポリウレタン社製)
・MDI異性体混合品(4,4’−MDI/2,4’−MDI混合物):
(商品名“ミリオネートNM”、東ソー株式会社製)
・カルボジイミド変性MDI:
(商品名“ミリオネートMTL”、日本ポリウレタン工業社製)
【0053】
<硬化剤>
・ヒマシ油:分子量950
(商品名“ヒマシ油マル特A”、伊藤製油社製)
・T−400:ポリオキシプロピレントリオール、分子量400
(商品名“アクトコール T−400”、三井化学社製)
・フタル酸ジオクチル:
(商品名“フタル酸ジオクチル”、大八化学工業所製)
【0054】
<セメント粉>
・ポルトランドセメント粉:
(商品名“ポルトランドセメント”、太平洋セメント株式会社製)
【0055】
<粘度の測定方法>
粘度は、JIS K 7301:1995の「熱硬化性ウレタンエラストマー用トリレンジイソシアネート型プレポリマー試験方法 6.2粘度」に準じて、回転粘度計(東機産業(株)B8M型)を用い23℃で測定した。
【0056】
<混合初期粘度>
混合初期粘度は、液状主剤に所定量の硬化剤を添加し、攪拌した直後の混合系における23℃時の粘度のことである。上記回転粘度計によって測定することができる。
【0057】
<可使時間の評価方法>
(1)ウレタンプライマー:
主剤と硬化剤とを混合した後、混合液の23℃での粘度が500センチポイズ(mPa・s)に達するまでの時間(分)を、支障なく塗工できる時間(可使時間)とした。
(2)ウレタン塗膜材:
主剤と硬化剤とを混合した後、混合液の23℃での粘度が10万センチポイズに達するまでの時間(分)を、塗工できる時間(可使時間)とした。
【0058】
<硬化性の評価方法(指触法)>
主剤と硬化剤とを混合した後スレート板上に塗布し、塗布後16時間経過時点での塗膜の硬化状態を手で触わることにより硬化性を評価した。硬化性が特に良好なものを◎、良好なものを○、やや不良なものを△、不良なものを×とした。
【0059】
<接着試験方法(建研式試験)>
接着試験片:下地(コンクリート板)、上塗り材(HCスプレーAU)
接着試験機:デジタルゲージGC74/オックスジャッキ株式会社製
接着試験方法:プライマー塗布後翌日、3日後に上塗り塗布。1週間後建研式試験による評価する。材料破壊の面積割合(%)を3回の平均値で破壊状態として評価する。三回測定強度値と材料破壊の面積割合(%)を用いて、下記表(1-1)に記載する基準にしたがって判定評価する。なお、nは測定回数とする。
【0060】
<接着試験方法(180°ピール)>
接着試験片:下地(コンクリート板)、上塗り材(HCエコプルーフEN)
接着試験機:オートグラフ/島津製作所株式会社製
接着試験方法:プライマー塗布後翌日に不織布と共に上塗り材を塗布。1週間後オートグラフ試験により不織布を180°方向に引張り評価する。材料破壊の面積割合(%)を平均値で破壊状態として評価する。材料破壊の面積割合(%)を用いて、下記表(1-2)に記載する基準にしたがって判定評価する。
【0061】
【表1-1】
【0062】
【表1-2】
【0063】
以下の実施例および比較例に記載の商品名および原料名は、次の通りに略称する。
ルプラネートMI:MI(MDI異性体混合物)
ミリオネートNM:NM(MDI異性体混合物)
ミリオネートMTL:MTL(液状MDI)
アクトコール T−400:T−400
ヒマシ油マル特A:ヒマシ油
フタル酸ジオクチル:可塑剤
【0064】
[実施例1、比較例1]
(1)表(2−1)に示す組成の主剤および硬化剤を以下の手順に従って調製した。
(2)イソシアネート組成物(主剤)としては、MI、MTLを検討対象とし、冬期におけるMIの結晶化および低粘度化(23℃)等を考慮し、MDI異性体混合物(MI)の混合比は50/50とし、およびMI/MTL混合比を変化させた試料溶液を調製した。
(3)上記の<粘度の測定方法>に従って各主剤の試料溶液粘度(mPa・s/23℃)測定、および目視法により各試料の性状(5℃)を判定した。
(4)ポリオール組成物(硬化剤)は、ポリオキシアルキレンポリオールであるT−400、ヒマシ油、および可塑剤を所定量混合してポリオール組成物を得た。
(5)上記イソシアネート組成物および上記ポリオール組成物を、それぞれ23℃で24時間以上放置した後、23℃で上記主剤および硬化剤比が1/1となるように混合し、プライマーの混合初期粘度、可使時間(上記<可使時間の評価方法>に従う)を測定した。
(6)また上記の測定条件で、上記主剤および硬化剤にポルトランドセメント粉を混合比で1/1/1となるように混合し、塗布量0.3kg/mで塗布しその硬化性について試験を行なった。さらに、上記接着性試験方法に準じて、それぞれ基材(コンクリート板)とプライマー、プライマーと上塗り材(HCスプレーAU)との接着性試験を行なった。
(7)表(2−1)に示す比較例1−1についても、上記(1)〜(6)と同様に試験を実施した。結果を表(2−1)に記載する。
(8)表(2−2)に示す組成の主剤および硬化剤を以下の手順に従って調製した。
(9)イソシアネート組成物(主剤)としては、NM、MTLを検討対象とし、冬期におけるNMの結晶化および低粘度化(23℃)等を考慮し、MDI異性体混合物(NM)の混合比は45/55とし、およびNM/MTL混合比を変化させた試料溶液を調製した。
(10)上記の<粘度の測定方法>に従って各主剤の試料溶液粘度(mPa・s/23℃)測定、および目視法により各試料の性状(5℃)を判定した。
(11)ポリオール組成物(硬化剤)は、ポリオキシアルキレンポリオールであるT−400、ヒマシ油、および可塑剤を所定量混合してポリオール組成物を得た。
(12)上記イソシアネート組成物および上記ポリオール組成物を、それぞれ23℃で24時間以上放置した後、23℃で上記主剤および硬化剤比が1/1となるように混合し、プライマーの混合初期粘度、可使時間(上記<可使時間の評価方法>に従う)を測定した。
(13)また上記の測定条件で、上記主剤および硬化剤にポルトランドセメント粉を混合比で2/1/2となるように混合し、塗布量0.3kg/mで塗布した。さらに、上記接着性試験方法に準じて、それぞれ基材(コンクリート板)とプライマー、プライマーと上塗り材(HCエコプルーフEN)との接着性試験を行なった。
(14)表(2−2)に示す比較例1−2についても、上記(8)〜(13)と同様に試験を実施した。結果を表(2−2)に記載する。
【0065】
【表2-1】
【0066】
【表2-2】
【0067】
[実施例2]
(1)表3に示す条件で、4,4’−MDI/2,4’−MDIとの混合比を変えた主剤、および硬化剤を調製した。
(2)得られた主剤および硬化剤を用いて、上記実施例1と同様にプライマーの混合初期粘度(mPa・s/23℃)、可使時間(分)、およびプライマーの塗膜物性を測定した。
(3)さらに、基材(コンクリート板)とプライマー、プライマーと上塗り材(HCスプレーAU)との接着性試験を行なった。
(4)結果を表3に記載する。
【0068】
【表3】
【0069】
[実施例3、比較例3]
(1)表4に示す条件で、実施例1と同様に行い主剤および硬化剤を調製した。
(2)得られた主剤および硬化剤を用いて、実施例1と同様に粘度(mPa・s/23℃)、およびプライマーの混合初期粘度(mPa・s/23℃)、可使時間(分)を測定した。
(3)また、実施例1と同様に、上記主剤および硬化剤にポルトランドセメント粉を混合比で1/1/1となるように混合し、塗布量0.3kg/mで塗布しその硬化性について試験を行なった。さらに、基材(コンクリート板)とプライマー、プライマーと上塗り材(HCスプレーAU)との接着性試験を行なった。
(4)表4に示す比較例3−1〜3−3についても、上記(1)〜(3)と同様に試験を実施した。結果を表4に記載する。
【0070】
【表4】
【0071】
表4の実施例3−5及び比較例3−3(硬化剤組成)で、ポリオール中のT−400の割合が50部以上になると、主剤と混合後に急激なゲル化が見られる。
【0072】
[実施例4、比較例4]
(1)表5に示す条件で、実施例1と同様にして主剤および硬化剤を調製し、以下の実験を行なった。
(2)得られた主剤および硬化剤を用いて、主剤/硬化剤との当量比は0.7〜5.0の範囲内に変化させ、得られたプライマーの混合初期粘度、および可使時間を測定した。
(3)また、主剤および硬化剤にポルトランドセメント粉を表5に示す混合比になるように混合し、その硬化性について試験(指触法)を行なった。さらに、上記実施例1と同様に、それぞれ基材(コンクリート板)とプライマー、プライマーと上塗り材(HCスプレーAU)との接着性試験を行なった。
(4)表5に示す比較例4−1〜4−2についても、上記(1)〜(3)と同様に試験を実施した。結果を表5に記載する。
【0073】
【表5】
【0074】
[実施例5、比較例5]
(1)表6に示す条件で、実施例1と同様にして主剤および硬化剤を調製し、以下の実験を行なった。
(2)得られた主剤および硬化剤を用いて、主剤/硬化剤との混合比は1/1に固定し、得られたプライマーの混合初期粘度、および可使時間を測定した。
(3)また、主剤および硬化剤にポルトランドセメント粉を混合比1/1/(0〜3)となるように混合し、その硬化性について試験(指触法)を行なった。さらに、上記実施例1と同様に、それぞれ基材(コンクリート板)とプライマー、プライマーと上塗り材(HCスプレーAU)との接着性試験を行なった。
(4)表6に示す比較例5−1〜5−2についても、上記(1)〜(3)と同様に試験を実施した。結果を表6に記載する。
【0075】
【表6】
【0076】
[実施例6]
(1)表7に示す条件で、実施例1と同様にして主剤および硬化剤を調製し、他社商品(水系プライマー、一液湿気型ウレタンプライマー、特許対象品)との比較試験を実施した。結果を表7に記載する。
【0077】
【表7】
【0078】
表7の結果から、本発明の手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法で得られた塗膜材は既存のウレタンプライマーと比べ、無臭気、良好な硬化性、及び優れた接着性がある塗膜材である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の手塗り塗工用二液反応型の無溶剤ウレタンプライマーの塗工方法を用いて、安全性の高い、且つ優れた品質性能を有する無溶剤ウレタンプライマーが安定して顧客に提供されるため、密閉系の室内やピット内の下地のコンクリートやモルタル等を塗工対象とし、スプレー塗工が困難な不定形状や塗工面積の狭小部分、また出隅部、入隅部、壁面打ち継ぎ部等の箇所が多数存在する場所等では、ローラや刷毛等を使用する手塗り塗工が適している。