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特開2018-172ビールテイスト飲料、及びその製造方法、並びにグラム陰性菌の増殖を抑制する方法、及びグラム陰性菌の増殖抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-172(P2018-172A)
(43)【公開日】2018年1月11日
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料、及びその製造方法、並びにグラム陰性菌の増殖を抑制する方法、及びグラム陰性菌の増殖抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/42 20060101AFI20171208BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20171208BHJP
【FI】
   A23L2/00 N
   A23L2/38 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-136254(P2016-136254)
(22)【出願日】2016年7月8日
(71)【出願人】
【識別番号】000002196
【氏名又は名称】サッポロホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】仲田 創
【テーマコード(参考)】
4B117
【Fターム(参考)】
4B117LC15
4B117LG00
4B117LG16
4B117LG18
4B117LK06
4B117LK08
4B117LL01
4B117LL07
4B117LP01
(57)【要約】
【課題】グラム陰性菌の増殖が抑制され、微生物汚染のリスクが低減されたビールテイスト飲料の提供。
【解決手段】イソα酸を35ppm以上含有する、ビールテイスト飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソα酸を35ppm以上含有する、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
エキス分が2〜6g/100cmである、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
リナロールの含有量が200〜600ppbである、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
麦芽使用比率が50質量%未満の発泡酒である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
ノンアルコールビールテイスト飲料である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項6】
ビールテイスト飲料の製造方法であって、
ビールテイスト飲料に含まれるイソα酸の量が35ppm以上となるように調整することを含む、製造方法。
【請求項7】
ビールテイスト飲料に含まれるイソα酸の量が35ppm以上となるように調整することを含む、ビールテイスト飲料中でのグラム陰性菌の増殖を抑制する方法。
【請求項8】
イソα酸を有効成分とする、グラム陰性菌の増殖抑制剤。
【請求項9】
グラム陰性菌が、バクテロイデス(Bacteroides)属、プレボテーラ(Prevotella)属又はフソバクテリウム(Fusobacterium)属に属する細菌である、請求項8に記載の増殖抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料、及びその製造方法、並びにグラム陰性菌の増殖を抑制する方法、及びグラム陰性菌の増殖抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品及び飲料の製造において、微生物汚染のリスクを低下させることは重要である。微生物汚染のリスクを低下させるための取り組みとして、食品及び飲料への微生物の混入を迅速に検出すること(例えば、特許文献1)、微生物の増殖を抑制する静菌剤を食品及び飲料に添加すること(例えば、特許文献2)などが行われている。
【0003】
食品及び飲料の微生物汚染の原因菌として、例えば、アセトバクター(Acetobacter)属に属する細菌等のグラム陰性菌が知られている(非特許文献1)。
【0004】
ホップ由来の苦味成分の一つであるイソα酸は、グラム陽性菌に対する静菌作用を有することが知られている(例えば、非特許文献2)。他方、イソα酸のグラム陰性菌に対する作用は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−139704号公報
【特許文献2】特開2014−122213号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】生物工学,2011年,第89巻,第5号,pp.257−260
【非特許文献2】International Journal of Food Microbiology,2003年,89巻(2−3号),pp.105−124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、グラム陰性菌の増殖が抑制され、微生物汚染のリスクが低減されたビールテイスト飲料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、イソα酸を35ppm以上含有する、ビールテイスト飲料を提供する。
【0009】
本発明に係るビールテイスト飲料は、特定量のイソα酸を含んでいることにより、グラム陰性菌の増殖が抑制されているため、微生物汚染のリスクが低減されている。
【0010】
本発明に係るビールテイスト飲料は、エキス分が2〜6g/100cmであってもよい。エキス分がこの範囲にあることにより、ビールテイスト飲料を飲用したときに感じられる苦味の爽快感(苦味のピークが立ち、かつ切れる)及び甘味の爽快感(甘味のピークが立ち、かつ切れる)が優れたものになる。
【0011】
本発明に係るビールテイスト飲料は、リナロールの含有量が200〜600ppbであってもよい。リナロールの含有量がこの範囲にあることにより、ビールテイスト飲料を飲用したときに感じられるフレッシュなホップの苦味(薬品的でなく、かつ苦味が粗くない)が優れたものになる。
【0012】
本発明に係るビールテイスト飲料は、麦芽使用比率が50質量%未満の発泡酒であってもよい。本発明に係るビールテイスト飲料は、ノンアルコールビールテイスト飲料であってもよい。
【0013】
本発明はまた、上述したビールテイスト飲料の製造方法を提供する。当該製造方法は、ビールテイスト飲料に含まれるイソα酸の量が35ppm以上となるように調整することを含む。
【0014】
本発明は更に、ビールテイスト飲料に含まれるイソα酸の量が35ppm以上となるように調整することを含む、ビールテイスト飲料中でのグラム陰性菌の増殖を抑制する方法を提供する。
【0015】
本発明は更にまた、イソα酸を有効成分とする、グラム陰性菌の増殖抑制剤を提供する。本発明に係る増殖抑制剤は、イソα酸がグラム陰性菌の増殖を抑制するという新規知見に基づく。
【0016】
本発明に係る増殖抑制剤は、対象とするグラム陰性菌が、バクテロイデス(Bacteroides)属、プレボテーラ(Prevotella)属又はフソバクテリウム(Fusobacterium)属に属する細菌であってもよい。これにより、グラム陰性菌の増殖を抑制する静菌作用がより顕著に発揮される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、グラム陰性菌の増殖が抑制され、微生物汚染のリスクが低減されたビールテイスト飲料の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
〔ビールテイスト飲料〕
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、イソα酸を35ppm以上含有する。
【0020】
本明細書において、ビールテイスト飲料とは、ビール様の香味を有する飲料を意味し、酒税法(平成二八年三月三一日法律第一六号)上のビールも含む。ビールテイスト飲料は、アルコール度数が1v/v%以上であるビールテイストアルコール飲料であってもよく、アルコール度数が1v/v%未満であるノンアルコールビールテイスト飲料であってもよい。なお、本明細書においてアルコールとは、特に言及しない限りエタノールを意味する。
【0021】
ビールテイストアルコール飲料としては、例えば、酒税法(平成二八年三月三一日法律第一六号)上のビール、発泡酒、その他の発泡性酒類、リキュールに分類されるものが挙げられる。
【0022】
ビールテイストアルコール飲料のアルコール度数は、特に制限されず、例えば、1v/v%以上20v/v%以下であってよい。ビールテイストアルコール飲料のアルコール度数の下限は、例えば、1v/v%以上、2v/v%以上、3v/v%以上、4v/v%以上、5v/v%以上であってもよい。また、ビールテイストアルコール飲料のアルコール度数の上限は、例えば、20v/v%以下、15v/v%以下、10v/v%以下、9v/v%以下、8v/v%以下、7v/v%以下、6v/v%以下、5v/v%以下、4v/v%以下、3v/v%以下であってもよい。
【0023】
ノンアルコールビールテイスト飲料は、実質的にアルコールを含有しないビールテイスト飲料である。ノンアルコールビールテイスト飲料のアルコール度数は、1v/v%未満であればよく、0.5v/v%以下であってよく、0.1v/v%以下であってよく、0.005v/v%未満(0.00v/v%)であってもよい。
【0024】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発泡性であってもよく、非発泡性であってもよい。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発泡性であることが好ましい。本明細書において発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm)以上であることをいい、非発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm)未満であることをいう。発泡性とする場合、ガス圧の上限は0.235MPa(2.4kg/cm)程度としてもよい。
【0025】
本実施形態に係るビールテイスト飲料のイソα酸の含有量は、35ppm以上であればよい。イソα酸の含有量がこの範囲にあると、グラム陰性菌の増殖が充分に抑制される。グラム陰性菌の増殖を更に抑制する観点からは、イソα酸の含有量は、40ppm以上であることが好ましく、45ppm以上であることがより好ましく、50ppm以上であることが更に好ましく、55ppm以上であることが更により好ましく、60ppm以上であることが特に好ましい。イソα酸の含有量の上限に特に制限はないが、ビールテイスト飲料の官能特性(苦味の爽快感、甘味の爽快感、フレッシュなホップの苦味)が優れたものになるという観点から、100ppm以下であってよく、80ppm以下であることが好ましい。なお、イソα酸の含有量の単位「ppm」は、「mg/L」と同義である。
【0026】
本実施形態に係るビールテイスト飲料のイソα酸の含有量は、グラム陰性菌の増殖を抑制する効果、及びビールテイスト飲料の官能特性(苦味の爽快感、甘味の爽快感、フレッシュなホップの苦味)が優れたものになるという効果を両立させるという観点から、35ppm以上60ppm以下であることが好ましく、40ppm以上55ppm以下であることがより好ましく、40ppm以上50ppm以下であることが更に好ましい。
【0027】
イソα酸は、α酸が異性化したものである。イソα酸及びα酸は、ホップ由来の苦味成分としてよく知られている。α酸としては、例えば、フムロン、アドフムロン、コフムロン、ポストフムロン、プレフムロンが挙げられる。イソα酸としては、例えば、これらのα酸が異性化したものが挙げられる。イソα酸の具体例として、例えば、cis−イソフムロン及びtrans−イソフムロンが挙げられる。
【0028】
イソα酸の含有量は、ビールテイスト飲料の製造工程において、例えば、ホップ及びホップ加工品(ホップペレット、濃縮ホップペレット、ホップエキス等)等のα酸源の添加量、及び加熱時間(異性化)等を変更することにより調整することができる。また、イソα酸の含有量は、ビールテイスト飲料の製造工程において、イソα酸を直接添加することにより調整することもできる。
【0029】
ビールテイスト飲料に含まれるイソα酸の量は、改訂BCOJビール分析法(ビール酒造組合、国際技術委員会〔分析委員会〕編、2013年増補改訂)に記載のイソα酸(HPLC法)の分析方法に準じて測定することができる。
【0030】
本実施形態に係るビールテイスト飲料のエキス分は、特に制限されず、例えば、1〜10g/100cmであってもよい。エキス分は、ビールテイスト飲料の官能特性(苦味の爽快感、甘味の爽快感)が優れたものになるという観点から、2〜6g/100cmであることが好ましく、2.5〜5g/100cmであることがより好ましく、3〜4g/100cmであることが更に好ましい。
【0031】
エキス分は、糖分(炭水化物)、タンパク質、アミノ酸、苦味質、不揮発性有機酸、ミネラル、ポリフェノール、色素成分等からなる不揮発性固形分をいう。エキス分は、「改訂BCOJビール分析法」の「8.4 真正(性)エキス 8.4.3 アルコライザー法」(平成23年9月30日 ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)制定)に準拠して算出した値であることが好ましい。すなわち、エキス分は、温度20℃において原容量100立方センチメートル中に含有する不揮発性固形分のグラム数(g/100cm)で定めるのが好ましい。
【0032】
本実施形態に係るビールテイスト飲料においては、食物繊維の寄与分を除いたエキス分が上述した範囲内にあることが好ましい。食物繊維の寄与分を除いたエキス分は、エキス分の測定値から食物繊維の含有量を減じることで算出することができる。ビールテイスト飲料に含まれる食物繊維は、通常水溶性食物繊維(例えば、難消化性デキストリン、ポリデキストロース)である。ビールテイスト飲料に含まれる水溶性食物繊維の量は、例えば、高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて測定することができる。より具体的には、例えば、難消化性デキストリンは、日本食品分析センター「栄養表示のための成分分析のポイント(2007年10月20日発行)」第76〜78頁に記載された方法に基づいて測定することができる。また、ポリデキストロースは、独立行政法人農林水産消費安全技術センター「調査研究報告 第13号 1301食品中のポリデキストロースの定量法の検討」に記載された方法に基づいて測定することができる。
【0033】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、エキス分として、穀物原料由来エキス及び液糖のいずれか一方又は両方を含有することが好ましい。穀物原料由来エキスとしては、麦由来エキス及び大豆由来エキスが好ましい。
【0034】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、食物繊維の含有量が、0.5g/100cm未満であることが好ましく、0.4g/100cm未満であることがより好ましく、0.3g/100cm未満であることが更に好ましく、0.2g/100cm未満であることが更により好ましく、0.1g/100cm未満であることが更によりまた好ましい。
【0035】
ビールテイスト飲料のエキス分は、例えば、使用する原料の種類及び使用量等を調節することにより調整することができる。
【0036】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、リナロールを含有していてもよい。ビールテイスト飲料がリナロールを含有する場合、リナロールの含有量は、特に制限されず、例えば、100〜1000ppbであってよい。リナロールの含有量は、ビールテイスト飲料の官能特性(フレッシュなホップの苦味)が優れたものになるという観点から、200〜600ppbであることが好ましく、250〜500ppbであることがより好ましく、300〜450ppbであることが更に好ましく、300〜400ppbであることが更により好ましい。なお、リナロールの含有量の単位「ppb」は、「μg/L」と同義である。
【0037】
リナロールの含有量は、例えば、ビールテイスト飲料の製造工程において、リナロール又はリナロールを含むホップ精油等を直接添加することにより調整することができる。
【0038】
リナロールの含有量は、固相マイクロ抽出(SPEM)法に基づき、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC−MS)を用いて測定することができる。詳細には、例えば、独立行政法人 酒類総合研究所 第34回本格焼酎鑑評会で示されている方法に準じて測定すればよい。より具体的には、例えば、ビールテイスト飲料10mLを20mLガラスバイアルに採取し密栓する。密栓したガラスバイアルを60℃10分間攪拌した後、SPEMファイバー(Polydimethylsiloxane/Divinylbenzene 65 μm:スペルコ社)をヘッドスペース部に露出させ10分間揮発性成分をファイバーに吸着させた後、オートインジャクターによりGC−MS(GC6890/5973MSD:アジレントテクノロジー社)に導入し分析を行えばよい。
【0039】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、麦芽使用比率が50質量%未満の発泡酒であってもよい。麦芽使用比率とは、原料(水、ホップを除く)の総重量に占める麦芽の総重量の比率である。本実施形態に係る発泡酒における麦芽使用比率は、25質量%未満であってもよい。
【0040】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、飲料に通常配合される着色料、甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類等を含んでいてもよい。着色料としては、例えば、カラメル色素、クチナシ色素、果汁色素、野菜色素、合成色素を挙げることができる。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、グリコーゲンやデンプンを挙げることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムK、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、リチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームを挙げることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールを挙げることができる。酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL−酒石酸、L−酒石酸、DL−酒石酸ナトリウム、L−酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL−リンゴ酸、DL−リンゴ酸ナトリウム、リン酸を挙げることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムを挙げることができる。
【0041】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、容器に入れて提供することができる。容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器等を適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分及び光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0042】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、上述のようにイソα酸の含有量を調整すること、並びに必要に応じてエキス分、及びリナロールの含有量を調整すること以外は、常法に従って製造することができる。
【0043】
〔グラム陰性菌の増殖を抑制する方法〕
一実施形態において、本発明は、ビールテイスト飲料に含まれるイソα酸の量が35ppm以上となるように調整することを含む、ビールテイスト飲料中でのグラム陰性菌の増殖を抑制する方法と捉えることもできる。ビールテイスト飲料中のイソα酸の含有量は、上述のように調整することができる。
【0044】
本実施形態に係る方法の適用対象となるグラム陰性菌の種類に特に制限はないが、静菌作用が顕著に発揮されるという観点から、グラム陰性菌は、バクテロイデス(Bacteroides)属、プレボテーラ(Prevotella)属又はフソバクテリウム(Fusobacterium)属に属する細菌であることが好ましく、バクテロイデス属ユニフォルミス(uniformis)種、プレボテーラ属オリス(oris)種、又はフソバクテリウム属ネクロフォーラム(necrophorum)種に属する細菌であることがより好ましい。
【0045】
〔グラム陰性菌の増殖抑制剤〕
一実施形態において、本発明は、イソα酸を有効成分とする、グラム陰性菌の増殖抑制剤と捉えることもできる。
【0046】
本実施形態に係る増殖抑制剤の適用対象となるグラム陰性菌の種類に特に制限はないが、静菌作用が顕著に発揮されるという観点から、グラム陰性菌は、バクテロイデス(Bacteroides)属、プレボテーラ(Prevotella)属又はフソバクテリウム(Fusobacterium)属に属する細菌であることが好ましく、バクテロイデス属ユニフォルミス(uniformis)種、プレボテーラ属オリス(oris)種、又はフソバクテリウム属ネクロフォーラム(necrophorum)種に属する細菌であることがより好ましい。
【0047】
本実施形態に係る増殖抑制剤は、以下に述べるような各種製剤の形状を取ることができる。すなわち、本実施形態に係る増殖抑制剤は、固体(例えば、凍結乾燥させて得られる粉末)、液体(水溶性又は脂溶性の溶液又は懸濁液)、ペースト等のいずれの形状でもよく、また、散剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、シロップ剤、トローチ剤、カプセル剤等のいずれの剤形を取ってもよい。
【0048】
本実施形態に係る増殖抑制剤は、有効成分であるイソα酸のみからなるものであってもよい。また、本実施形態に係る増殖抑制剤は、イソα酸と、添加剤(賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等)とを混和し、成形することによって調製したものであってもよい。この場合の上記有効成分の含有量は、製剤全量を基準として、2〜50質量%である。
【0049】
例えば、賦形剤としては、ラクトース、スクロース、デンプン、デキストリン等が挙げられる。結合剤としては、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。崩壊剤としては、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン等が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、Tween60、Tween80、Span80、モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。基剤としては、セトステアリルアルコール、ラノリン、ポリエチレングリコール、米糠油、魚油(DHA、EPA等)、オリーブ油等が挙げられる。溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、Tween80等が挙げられる。懸濁化剤としては、Tween60、Tween80、Span80、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0050】
本実施形態に係る増殖抑制剤は、例えば、医薬品成分、飲食品成分、飲食品添加物、飼料成分、飼料添加物、抗菌剤成分等として使用することができる。例えば、本実施形態に係る増殖抑制剤は、水、清涼飲料水、果汁飲料、乳飲料、アルコール飲料、パン類、麺類、米類、豆腐、乳製品、醗酵食品、発酵乳、醤油、味噌、菓子類等の飲食品への添加物として使用することができる。
【0051】
本実施形態に係る増殖抑制剤を飲食品及び飼料等に添加して使用する場合は、グラム陰性菌に対する静菌作用をより効果的に発揮する観点から、飲食品及び飼料等におけるイソα酸の含有量が35ppm以上となるように添加することが好ましい。より好ましい添加量の範囲は、ビールテイスト飲料における含有量に準じて決定することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0053】
〔実施例1:グラム陰性菌の増殖抑制試験(1)〕
イソα酸は、イソ化ホップエキス(三栄源社製)をヘキサン抽出して得た。
【0054】
麦芽を粉砕して、水と混合し、糖化を行い、生成した糖化液を濾過して麦汁を得た。得られた麦汁を水で希釈し、エキス分が2.88g/100cmの麦汁を得た。この麦汁にペプトン10g/L、プロテオースペプトン3g/L、酵母エキス5g/L、肉エキス(lab lemco)2.2g/L及びグルコース3g/Lを添加し、更に表1に示す濃度でイソα酸を添加した。
【0055】
得られた培養培地に、バクテロイデス・ユニフォルミスに属する細菌(理化学研究所バイオリソースセンター,JCM5828)、プレボテーラ・オリスに属する細菌(理化学研究所バイオリソースセンター,JCM8540)、又はフソバクテリウム・ネクロフォーラム亜種フンデュリフォーム(Fusobacterium necrophorum subsp. funduliforme)に属する細菌(理化学研究所バイオリソースセンター,JCM3717)をそれぞれ10〜10cfuを播種し、30℃で1週間培養した。1週間の培養後、各培養液の濁度(波長660nmの光の吸光度)を測定した。測定結果を併せて表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
イソα酸の添加により、グラム陰性菌の増殖が抑制された。特にイソα酸を40ppm以上添加した場合に、グラム陰性菌の増殖の抑制が顕著であった。
【0058】
〔実施例2:グラム陰性菌の増殖抑制試験(2)〕
GAM培地(ペプトン10g/L、プロテオースペプトン3g/L、酵母エキス5g/L、肉エキス(lab lemco)2.2g/L及びグルコース3g/L)を調製し、表2に示す濃度でイソα酸を添加した。添加後、4N HClでpHを6.0に調整し、培養培地を得た。
【0059】
得られた培養培地にクテロイデス・ユニフォルミスに属する細菌(理化学研究所バイオリソースセンター,JCM5828)、プレボテーラ・オリスに属する細菌(理化学研究所バイオリソースセンター,JCM8540)、又はフソバクテリウム・ネクロフォーラム亜種フンデュリフォーム(Fusobacterium necrophorum subsp. funduliforme)に属する細菌(理化学研究所バイオリソースセンター,JCM3717)をそれぞれ10〜10cfuを播種し、30℃で1週間培養した。1週間の培養後、各培養液の濁度(波長660nmの光の吸光度)を測定した。測定結果を併せて表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
麦汁を水に代えた培養培地でも実施例1と同様の傾向が認められた。
【0062】
〔実施例3:ノンアルコールビールの製造及び評価(1)〕
麦芽を粉砕して、水と混合し、糖化を行い、生成した糖化液を濾過して麦汁を得た。得られた麦汁を水で希釈し、表3に示すエキス分になるように調製した後、イソα酸を45ppmになるように添加し、ノンアルコールビールを製造した。
【0063】
得られたノンアルコールビールに対して、訓練された5名のパネルにより官能評価を実施した。評価項目は、「苦味の爽快感」及び「甘味の爽快感」である。「苦味の爽快感」は、「苦味のピークが立ち、かつ切れる」度合いを、最も優れる場合の評点を5点、最も劣る場合の評点を1点とした5段階で評価した。同様に、「甘味の爽快感」は、「甘味のピークが立ち、かつ切れる」度合いを、最も優れる場合の評点を5点、最も劣る場合の評点を1点とした5段階で評価した。なお、エキス分3g/100cmのノンアルコールビールの評点を4点に固定して基準とした。5名のパネルの評点の平均点を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
〔実施例4:ノンアルコールビールの製造及び評価(2)〕
麦芽を粉砕して、水と混合し、糖化を行い、生成した糖化液を濾過して麦汁を得た。得られた麦汁にイソα酸を45ppmとなるように添加し、更に表4に示すリナロール含有量になるようにリナロール(Sigma−Aldrich社製)を添加し、ノンアルコールビールを製造した。
【0066】
得られたノンアルコールビールに対して、訓練された5名のパネルにより官能評価を実施した。評価項目は、「フレッシュなホップの苦味」である。「フレッシュなホップの苦味」は、「薬品的でなく、苦味も粗くない」度合いを、最も優れる場合の評点を5点、最も劣る場合の評点を1点とした5段階で評価した。なお、リナロール含有量300ppbのノンアルコールビールの評点を4点に固定して基準とした。5名のパネルの評点の平均点を表4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
〔実施例5:ノンアルコールビールの製造及び評価(3)〕
麦芽を粉砕して、水と混合し、糖化を行い、生成した糖化液を濾過して麦汁を得た。得られた麦汁を水で希釈し、エキス分が3g/100cmになるように調製した後、表5に示す濃度になるようにイソα酸を添加し、ノンアルコールビールを製造した。
【表5】
【0069】
〔実施例6:ノンアルコールビールの製造及び評価(4)〕
麦芽を粉砕して、水と混合し、糖化を行い、生成した糖化液を濾過して麦汁を得た。得られた麦汁を水で希釈し、エキス分が3g/100cmになるように調製した後、リナロール含有量が400ppbとなるようにリナロール(Sigma−Aldrich社製)を添加し、更に表6に示す濃度になるようにイソα酸を添加して、ノンアルコールビールを製造した。
【表6】
【0070】
〔実施例7:発泡酒の製造及び評価(1)〕
市販の発泡酒(麦芽使用比率約25質量%、エキス分3.5g/100cm)に、イソα酸の含有量が45ppmとなるようにイソα酸を添加し、更に表7に示すエキス分となるように必要に応じてオリゴMT500(昭和産業)を添加し、発泡酒を得た。
【0071】
得られた発泡酒に対して、訓練された5名のパネルにより官能評価を実施した。評価項目は、「苦味の爽快感」及び「甘味の爽快感」である。「苦味の爽快感」は、「苦味のピークが立ち、かつ切れる」度合いを、最も優れる場合の評点を5点、最も劣る場合の評点を1点とした5段階で評価した。同様に、「甘味の爽快感」は、「甘味のピークが立ち、かつ切れる」度合いを、最も優れる場合の評点を5点、最も劣る場合の評点を1点とした5段階で評価した。5名のパネルの評点の平均点を表7に示す。
【0072】
【表7】
【0073】
〔実施例8:発泡酒の製造及び評価(2)〕
市販の発泡酒(麦芽使用比率約25質量%、エキス分3.5g/100cm)に、イソα酸の含有量が45ppmとなるようにイソα酸を添加し、更に表8に示す含有量となるようにリナロールを添加し、発泡酒を得た。
【0074】
得られた発泡酒に対して、訓練された5名のパネルにより官能評価を実施した。評価項目は、「フレッシュなホップの苦味」である。「フレッシュなホップの苦味」は、「薬品的でなく、苦味も粗くない」度合いを、最も優れる場合の評点を5点、最も劣る場合の評点を1点とした5段階で評価した。5名のパネルの評点の平均点を表8に示す。
【0075】
【表8】