【課題】粘着性含有成分が保護対象面に付着し難く、且つハンドリング性に優れ、保護対象面に接触させたときにスムーズに密着性よくこれに貼り付いて表面保護の役割を安定的に果たし得る表面保護シートを提供すること。
【解決手段】本発明の表面保護シートは、繊維を主体とし、保護対象の表面に接触させて使用するものである。本発明の表面保護シートは、該シート中の粘着性含有成分の粘着性を低下させ得る粘着性低下剤を含有し、該粘着性低下剤がフェノール系樹脂を含むことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の表面保護シートは、繊維を主体とする。本発明の表面保護シートにおける繊維の含有量は、該シートの全質量に対して、好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。繊維を主体とする本発明の表面保護シートの形態は特に限定されず、例えば、紙、織布、不織布などが挙げられるが、典型的には紙、即ち湿式抄紙法で製造される繊維シートである。
【0014】
本発明で用いる繊維としては、湿式抄紙法で使用可能な繊維を特に制限なく用いることができ、天然繊維でもよく、化学(非天然)繊維でもよく、1種の繊維を単独で又は2種以上の繊維を組み合わせて用いることができる。
天然繊維としては、例えば、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の木材パルプ;他、麻、竹、藁、ケナフ、三椏、楮、木綿等の非木材パルプ;カチオン化パルプ、マーセル化パルプ等の変性パルプが挙げられ、これらの天然繊維は古紙原料由来の繊維であってもよい。
化学繊維としては、例えば、レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリエステル等の合成繊維;ポリオレフィン等のミクロフィブリル化パルプ;金属繊維、炭素繊維等の無機繊維が挙げられる。
【0015】
本発明の表面保護シートにおいて、該シート中の全繊維の質量に占める天然繊維の質量の割合(天然繊維占有率)は、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。表面保護シートにおける天然繊維占有率が低すぎると、合成繊維などの化学繊維が主体となる結果、表面保護シートが「紙の範疇」から外れるものとなり、結果として、表面保護シートのハンドリング性が低下するおそれがある。表面保護シートは、典型的には、ガラスなどの保護対象の表面に静電気力によって密着し、表面保護シートが不要になったとき(保護対象を使用するとき)には、保護対象の表面から剥離除去されるところ、この保護対象面からの剥離除去がスムーズに行われるためには、該静電気力が強過ぎないことが重要であり、そのためには表面保護シートが「紙の範疇」にあることが好ましく、その観点から、天然繊維占有率が前記範囲にあることが好ましい。尚、この表面保護シートが保護対象面と密着する際の静電気力は、後述する表面保護シートの表面固有抵抗値とも密接に関係する。
【0016】
本発明の表面保護シートにおいては、シート強度の向上、地合の調整、透気抵抗度の調整等の観点から、該シートに含まれる天然繊維の叩解度、即ちJIS P8121に規定するカナダ標準ろ水度(カナディアンスタンダードフリーネス)が、300〜650mlc.s.f.の範囲にあることが好ましい。フリーネスは、繊維の叩解(水の存在下で繊維を機械的に叩き、磨砕する処理)の度合いを示す値であり、通常、フリーネスの値が小さいほど、叩解の度合いが強く、叩解による繊維の損傷が大きくてフィブリル化が進行している。フリーネスの調整、即ち繊維の叩解度合いの調整は、叩解装置の種類や処理条件(繊維濃度、温度、圧力、回転数、刃の形状、処理回数等)を適宜調整することで行うことができる。叩解装置としては、公知の物を使用することができる。
【0017】
本発明で用いる繊維は、古紙原料由来の繊維を含むことが好ましい。一般に、古紙原料は安価で調達が容易であり、また、古紙原料の使用は資源の再利用に繋がり、環境負荷が比較的低いというメリットもある。
【0018】
ところで、古紙原料には、木材などの天然原料由来の樹脂や脂肪酸類などに由来する粘着性物質(いわゆるピッチ)に加えてさらに、雑誌の背糊やラベルの接着剤などに由来する粘着性物質(いわゆるスティッキー)が含まれる場合があるところ、そのようなピッチ及びスティッキーを含む古紙原料は、品質が低い故に安価で、入手容易である反面、表面保護シートの原材料(繊維の供給源)として用いた場合には、ピッチやスティッキーなどの粘着性含有成分が保護対象面に付着するという問題が深刻化することが懸念される。
【0019】
しかしながら、本発明の表面保護シートは、ピッチやスティッキーなどの粘着性含有成分の粘着性を低下させ得る、粘着性低下剤を含有しているため、前記懸念が払拭されている。従って、本発明の表面保護シートにおいては、古紙原料を積極的に使用することができ、それによって製造コストの低廉化を図ることができる。尚、ここでいう、「粘着性含有成分の粘着性の低下」には、粘着性含有成分の粘着性がゼロになる、即ち粘着性含有成分が非粘着化することが含まれる。
【0020】
そして、本発明の表面保護シートの主たる特徴の1つとして、該シートに含有されている粘着性低下剤が、フェノール系樹脂を含む点が挙げられる。即ち本発明で用いる粘着性低下剤は、フェノール系粘着性低下剤である。
【0021】
従来、シート中の粘着性含有成分の粘着性を低下させ得る粘着性低下剤としては、湿式抄紙法においてピッチコントロール剤、ピッチ抑制剤などとして用いられるものが用いられており、特許文献1記載のガラス用合紙に含有される非粘着化処理剤としての水溶性ポリマーが、まさにその典型的な例である。しかしながら本発明者らの知見によれば、シート中の粘着性含有成分がイソプレンゴムを含む場合には、該シートに特許文献1記載の如き非粘着化処理剤(水溶性ポリマー)が含有されていても、イソプレンゴムの粘着性を十分に低下させることができないため、イソプレンゴムを含む粘着性含有成分が保護対象面に付着するという問題が依然として起こる。イソプレンゴムは古紙原料由来で混入することが多く、表面保護シートの原材料として古紙原料を用いる場合には、斯かる問題が特に起こりやすい。
【0022】
これに対し、本発明の表面保護シートは、その含有成分たる粘着性低下剤が、フェノール系樹脂を含むフェノール系粘着性低下剤であるため、例えば、該シートが古紙原料を用いて製造され、該シート中に粘着性含有成分たるイソプレンゴムが含まれていた場合でも、そのイソプレンゴムの粘着性を十分に低下(非粘着化)させることができる。従って本発明の表面保護シートは、粘着性含有成分が保護対象面に付着し難く、保護対象面を汚染したり傷付けたりする可能性が極めて低い。そのため例えば、ガラス用合紙の使用後に保護対象たるガラス板に対して従来行われていた、保護対象に付着した粘着性含有成分の除去作業が不要となるなど、保護対象面の洗浄作業を省略することが可能となる。また、本発明の表面保護シートにおいては、イソプレンゴムが含まれているような、比較的低品質の古紙原料を積極的に使用することができるので、本発明の表面保護シートは比較的低コストで製造することが可能であり、また、環境に対する負荷が低い。
【0023】
尚、本発明の表面保護シートにおける粘着性含有成分の含有量は、その原材料の種類や使用量などによって異なり一概には言えないが、例えば繊維の供給源として、バージンパルプなどを用いずに古紙原料のみを用いた場合、該シートの全質量に対して、通常0.1〜0.5質量%程度である。また、本発明の表面保護シートにおける全ての粘着性含有成分の質量に占めるイソプレンゴムの質量の割合(イソプレンゴム占有率)は、通常5〜30質量%程度である。本発明の表面保護シートによれば、仮に、このイソプレンゴム占有率が100質量%であっても、前記フェノール系粘着性低下剤の作用により、粘着性含有成分即ちイソプレンゴムの保護対象面への付着が効果的に防止される。表面保護シートにおける粘着性含有成分の含有量は下記方法により測定される。
【0024】
<シートにおける粘着性含有成分の含有量の測定方法>
絶乾重量にして約5gの測定対象(表面保護シート)のシートを試料とし、この5gの試料について、抽出溶媒としてクロロホルムを用いて粘着性含有成分を含む樹脂分の抽出を行う。具体的には、試料に60mLのクロロホルムを添加して、これを高速溶媒抽出装置によって120℃で8分間抽出し、その抽出物を濾過して不要物を除きクロロホルム抽出液を回収した後、クロロホルムを留去し、樹脂分を含む乾固物を得る。また、抽出溶媒としてn−ヘキサンを用いた以外は前記と同様にして、測定対象(表面保護シート)を抽出源として、イソプレンゴムを含む乾固物を得る。次いでこの乾固物を、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法(熱分解GC−MS)によって分析し、その分析値に基づいて常法に従って、当該測定対象における粘着性含有成分(イソプレンゴム)の含有量を算出する。分析に供する熱分解GC−MSとしては、熱分解ユニットとして、フロンティアラボ(株)PY2020iD、GCMSユニットとして、アジレント・テクノロジー(株)GC7890A−MS5975Cをそれぞれ用いることができる。
【0025】
また、表面保護シートに含まれる粘着性含有成分の粘着性を低下させる目的で、表面保護シートに特許文献1記載の如き水溶性ポリマー(非フェノール系粘着性低下剤)を含有させると、表面保護シートの導電性が高まる(帯電性が低下する)結果、表面保護シートの保護対象面への静電密着が困難となり、そのため、表面保護シートを保護対象面に接触させても自重によりすぐに該保護対象面から脱落してしまうおそれがあり、ハンドリング性が低下する。
【0026】
これに対し、本発明の表面保護シートは、その含有成分たる粘着性低下剤が、フェノール系樹脂を含むフェノール系粘着性低下剤であるため、粘着性低下剤を含有しながらも、その導電性ないし帯電性は、粘着性低下剤の含有前の状態たるベースシート(粘着性低下剤を含有していない点以外は表面保護シートと同じ組成のシート)のそれとほぼ同等であるため、ハンドリング性に優れ、保護対象面に接触させたときにスムーズに密着性よくこれに貼り付いて表面保護の役割を安定的に果たし得る。
【0027】
保護対象面に接触させたときにスムーズに密着性よくこれに貼り付いて表面保護の役割を安定的に果たし得るようにする観点から、下記方法で測定される表面保護シートの表面固有抵抗値は、好ましくは1×10
12Ω/□以上、さらに好ましくは1×10
12〜5×10
13Ω/□、より好ましくは5×10
12〜4×10
13Ω/□である。表面保護シートの表面固有抵抗値が小さすぎると、表面保護シートの導電性が高すぎる(帯電性が低すぎる)ために、保護対象面に静電密着し難くなるおそれがあり、逆に、表面保護シートの表面固有抵抗値が大きすぎると、表面保護シートが保護対象面に強固に静電密着する結果、これを剥離除去することが困難となり、いずれにしても表面保護シートのハンドリング性が低下するおそれがある。本発明では、表面保護シートの少なくとも片面の表面固有抵抗値が前記特定範囲にあることが好ましく、両面それぞれの表面固有抵抗値が前記特定範囲にあることがさらに好ましい。尤も、厚みが特異的に大きな表面保護シートでなければ、一方の面と他方の面とで表面固有抵抗値は通常ほぼ同じである。
【0028】
<表面固有抵抗値の測定方法>
測定対象(表面保護シート)の表面固有抵抗値は、JIS K6911に準じて測定する。測定には超絶縁抵抗計4329A(横河HEWLET−PACKARD製)を使用し、測定の際の印過電圧は1000Vとする。
【0029】
前記の「表面固有抵抗値1×10
12Ω/□以上」という範囲は、表面保護シートがいわゆる一般の「紙の範疇」の範囲内のもの、換言すれば、公知の湿式抄紙法によって製造される繊維シートであり、且つ該表面保護シート中の粘着性低下剤が前記フェノール系粘着性低下剤であれば、自ずと達成される範囲である。「紙の範疇」に含まれる表面保護シートの一例として、前述した天然繊維占有率が50質量%以上の表面保護シートが挙げられる。
【0030】
本発明の表面保護シートにおけるフェノール系粘着性低下剤の含有量は、該フェノール系粘着性低下剤に含まれるフェノール系樹脂(具体的には例えば下記(A)〜(D)の各フェノール樹脂)の含有量として、該シートの全質量に対して、好ましくは0.001〜0.05質量%、さらに好ましくは0.002〜0.04質量%である。フェノール系粘着性低下剤の含有量が少なすぎると、これを用いる意義に乏しく、逆に多すぎると、保護対象を汚染するおそれがあり、また、表面保護シートとしての他の性能へ悪影響を及ぼすおそれもある。
【0031】
以下、本発明で用いる粘着性低下剤(フェノール系粘着性低下剤)について説明する。本発明で用いるフェノール系粘着性低下剤は、フェノール系樹脂を含む。
【0032】
本発明で用いるフェノール系粘着性低下剤に含まれるフェノール系樹脂としては、(A)ノボラック型フェノール樹脂及びその変性フェノール樹脂、(B)レゾール型フェノール樹脂及びその変性フェノール樹脂、並びに(C)前記(A)又は(B)に二次反応処理を施したものを用いることができ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
前記(A)のノボラック型フェノール樹脂は、酸性触媒の存在下にてフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られるフェノール樹脂である。
前記(B)のレゾール型フェノール樹脂は、塩基性触媒の存在下にてフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られるフェノール樹脂である。
前記(C)の二次反応処理されたものとしては、例えばフェノール樹脂のアルカリ溶液にアルデヒド類を加え、該フェノール樹脂と反応させて、その分子量を制御した樹脂などが挙げられる。
また、前記(A)及び(B)の変性フェノール樹脂としては、例えばフェノール類及び/又はフェノール樹脂とアミン類とアルデヒド類とを反応させて得られるマンニッヒ反応物などが挙げられる。
【0034】
前記(A)〜(C)のフェノール樹脂及び変性フェノール樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、これらを含むフェノール系粘着性低下剤による作用効果(表面保護シートに含まれる粘着性含有成分の粘着性低下作用など)と表面保護シートを湿式抄紙法により製造する場合の製造効率とのバランスの観点から、好ましくは500〜60,000、さらに好ましくは1,000〜60,000、より好ましくは1,000〜30,000の範囲である。
【0035】
前記(A)のノボラック型フェノール樹脂及び前記(B)のレゾール型フェノール樹脂の製造に用いるフェノール類としては、特に限定されてないが例えば、フェノール、クレゾール各異性体、エチルフェノール各異性体、キシレノール各異性体、ブチルフェノールなどのアルキルフェノール類、カルダノールなどの不飽和アルキルフェノール類、α,βの各ナフトールなどの多芳香環フェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ピロガロール、レゾルシン、カテコールなどの多価フェノール類、ハイドロキノンが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
前記(A)のノボラック型フェノール樹脂及び前記(B)のレゾール型フェノール樹脂の製造に用いられるアルデヒド類としては、特に限定されてないが例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、グリキオキザールが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
前記(A)及び(B)の変性フェノール樹脂の製造において、マンニッヒ反応に用いられるアミン類としては、特に限定されてないが例えば、イソホロンジアミン、メタキシレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミンなどが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。尚、マンニッヒ反応に用いられるアルデヒド類としては、前記(A)のノボラック型フェノール樹脂及び前記(B)のレゾール型フェノール樹脂の製造に使用可能なアルデヒド類と同様のものを挙げることができる。
【0038】
本発明で用いるフェノール系粘着性低下剤に含まれるフェノール系樹脂としては、前記(A)〜(C)の他に、(D)フェノール性水酸基に対するメチレン基のオルソ−オルソ結合率が40%以上であるフェノール樹脂(以下、「ハイオルソ型フェノール樹脂」ともいう)を用いることもできる。
【0039】
前記の「フェノール性水酸基に対するメチレン基のオルソ−オルソ結合率」(以下、単に、オルソ−オルソ結合率ともいう)とは、フェノール樹脂の一部を形成する連続する2つのベンゼン骨格を結合するメチレン基であって、その位置が、該2つのベンゼン骨格に結合するそれぞれのフェノール性水酸基に対していずれもオルソ位であるメチレン基(以下、該メチレン基に係る炭素を「o,o'−結合炭素」という)の、該フェノール樹脂に存在する全メチレン基に対する存在割合をいう。
同様に、フェノール樹脂の一部を形成する連続する2つのベンゼン骨格を結合するメチレン基であって、その位置が、該2つのベンゼン骨格に結合するそれぞれのフェノール性水酸基に対して一方がオルソ位、他方がパラ位であるメチレン基に係る炭素を「o,p−結合炭素」という。
また、フェノール樹脂の一部を形成する連続する2つのベンゼン骨格を結合するメチレン基であって、その位置が、該2つのベンゼン骨格に結合するそれぞれのフェノール性水酸基に対していずれもパラ位であるメチレン基に係る炭素を「p,p'−結合炭素」という。
尚、フェノール性水酸基に対するメチレン基のオルソ−オルソ結合率が40%未満であるフェノール樹脂のことを、以下、「ランダム型フェノール樹脂」と称する場合がある。
【0040】
前記(D)のハイオルソ型フェノール樹脂のオルソ−オルソ結合率は、好ましくは50%以上、さらに好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上であり、100%が最も好ましい。フェノール樹脂のオルソ−オルソ結合率は、下記方法により測定される。
【0041】
<オルソ−オルソ結合率の測定方法>
試料(フェノール樹脂)について、核磁気共鳴分光分析(NMR、日本電子株式会社製、JNM−LA400)を用いて13C−NMRスペクトル分析を行い、得られた結果から、o,o'−結合炭素、o,p−結合炭素、p,p'−結合炭素の積分値を用いて下記式(1)より算出する。尚、測定条件としては試料を重メタノールに溶解し、積算回数5000回で行う。
オルソ−オルソ結合率(%)=[o,o'−結合炭素の積分値/(o,o'−結合炭素の積分値+o,p−結合炭素の積分値+p,p'−結合炭素の積分値)]×100 (1)
【0042】
前記(D)のハイオルソ型フェノール樹脂は、一般に特開昭55−90523号公報、特開昭59−80418号公報、及び特開昭62−230815号公報等に記載されているように、フェノールとアルデヒドとを、酢酸亜鉛、酢酸鉛、ナフテン酸亜鉛等の2価の金属塩を触媒として用い、弱酸性下で付加縮合反応させた後、脱水しながら縮合反応を進め、必要により未反応モノマーを除去することにより製造することができる。尚、このようにして製造されたハイオルソ型フェノール樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲で、一部が変性されていてもよい。
前記(D)のハイオルソ型フェノール樹脂は、ノボラックフェノール樹脂でもよく、レゾールフェノール樹脂でもよい。ノボラックフェノール樹脂とは、フェノールとホルムアルデヒドの縮合反応の際に酸性触媒を用いたものであり、レゾールフェノール樹脂とは、該反応の際にアルカリ性触媒を用いたものである。
【0043】
前記(D)のハイオルソ型フェノール樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、これを含むフェノール系粘着性低下剤による作用効果(表面保護シートに含まれる粘着性含有成分の粘着性低下作用など)と表面保護シートを湿式抄紙法により製造する場合の製造効率とのバランスの観点から、好ましくは500〜10,000、さらに好ましくは1,000〜10,000、より好ましくは1,000〜8,000の範囲である。
【0044】
フェノール系粘着性低下剤を表面保護シートに含有させる方法は特に限定されない。本発明の表面保護シートは、典型的には、公知の湿式抄紙法に準じて製造されるので、例えば、その湿式抄紙法による表面保護シートの製造方法の任意の工程でフェノール系粘着性低下剤を添加することができる。具体的には例えば、フェノール系粘着性低下剤は、パルプ製造工程、紙料調成工程、抄紙工程、白水(抄紙工程からの排水)回収工程における各種チェスト及び/又は配管へ添加する、あるいは洗浄用シャワーに添加することができる。前記パルプ製造工程は、木材チップの蒸解・漂白あるいは古紙の離解・脱墨などを経て、パルプシートを得る工程であり、前記紙料調成工程は、該パルプシートの離解・叩解を経て、繊維を含む紙料(スラリー)を製造する工程であり、前記抄紙工程は、該紙料から繊維を抄いて湿紙を形成する工程である。
【0045】
前記の湿式抄紙法による表面保護シートの製造方法において、フェノール系粘着性低下剤を所定の工程で添加する際には、フェノール系粘着性低下剤をアルカリ溶液又は酸溶液に溶解させたもの(フェノール系粘着性低下剤溶液)を添加することが好ましい。前記(A)〜(C)のフェノール樹脂については、アルカリ溶液及び酸溶液のいずれに溶解させてもよいが、前記(D)のハイオルソ型フェノール樹脂については、アルカリ溶液に溶解させることが好ましい。
【0046】
前記(A)〜(C)のフェノール樹脂に関し、前記フェノール系粘着性低下剤溶液における、フェノール樹脂及び/又は変性フェノール樹脂とアルカリ又は酸との合計含有量は、前述した本発明の所定の効果をより確実に奏させるようにする観点から、少なくとも80質量%以上が好ましく、さらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%でもよい。前記フェノール系粘着性低下剤溶液には、本発明の目的を阻害しない範囲において、他の樹脂等の任意成分が含まれていてもよい。
また、前記(D)のハイオルソ型フェノール樹脂に関し、前記フェノール系粘着性低下剤溶液(アルカリ溶液)における、ハイオルソ型フェノール樹脂の含有量は、前述した本発明の所定の効果をより確実に奏させるようにする観点から、好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは10〜40質量%である。
【0047】
前記アルカリ溶液としては、フェノール樹脂及び/又は変性フェノール樹脂を十分に溶解させる観点から、アルカリ金属の水酸化物溶液が好ましい。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
前記酸溶液としては、無機酸溶液及び有機酸溶液が挙げられるが、フェノール樹脂及び/又は変性フェノール樹脂を十分に溶解させる観点から、好ましくは無機酸溶液である。無機酸溶液としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸溶液等が好ましく、塩酸、硫酸又は硝酸がより好ましく、塩酸がさらに好ましい。
【0048】
前記アルカリ溶液又は酸溶液の溶媒としては、水が好適に用いられるが、他の溶媒を含んでいてもよい。溶媒中の水の含有量は、80質量%以上であり、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは99質量%以上であり、よりさらに好ましくは100質量%である。他の溶媒としては、特に限定されないが、アセトン等のケトン、酢酸エチル等のエステル、メタノール等のアルコール等の水溶性有機溶媒、又はアミン等が挙げられる。
【0049】
尚、前記(A)〜(C)のフェノール樹脂については、特許文献2に記載の説明が適宜適用され、前記(D)のハイオルソ型フェノール樹脂については、特許文献3に記載の説明が適宜適用される。
【0050】
本発明の表面保護シートには、本発明の所定の効果の発現に影響のない範囲で、前記成分(繊維、フェノール系粘着性低下剤)以外の他の成分を含有させてもよい。この他の成分としては、一般的な製紙用薬品が挙げられ、具体的には例えば、澱粉、ポリアクリルアミド、ポリアミンポリアミドエピクロルヒドリン等の紙力増強剤又は定着剤、サイズ剤、填料、濾水歩留り向上剤、耐水化剤、定着剤、消泡剤、スライムコントロール剤等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
本発明の表面保護シートは、公知の湿式抄紙法によって製造することができる。湿式抄紙には、例えば、長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機、長網と円網とのコンビネーション抄紙機等を適宜利用することができる。また、本発明の表面保護シートは、単層でもよく、あるいは複数の層が積層された積層構造を有していてもよい。本発明の表面保護シートは、典型的には単層である。また、本発明の表面保護シートの坪量は、特に制限されず、保護対象に応じて適宜調整すればよい。例えば本発明の表面保護シートをガラス用合紙として用いる場合、その坪量は、好ましくは30〜100g/m
2、更に好ましくは30〜50g/m
2である。
【0052】
本発明の表面保護シートは、該シートが静電密着可能な保護対象の表面保護に使用できる。そのような保護対象の形成材料としては、例えば、ガラス、金属、合成樹脂が挙げられ、これらを2種以上含む複合材料でもよい。また、本発明の表面保護シートにより保護される保護対象の形状は、典型的には平板状であるが、これに限定されるわけではない。
【0053】
本発明の表面保護シートは、典型的には、平板状の保護対象が複数積層されてなる積層物において、該積層物の層間に介在配置させて使用される。このようないわゆる挿間紙としての使用形態の具体例として、1)保護対象がガラス板(即ちガラス用合紙としての使用)、2)保護対象が金属板(即ち金属板用合紙としての使用)、3)保護対象が合成樹脂とガラス繊維等の繊維材料との複合材料からなる回路基板(即ち回路基板用合紙としての使用)、4)保護対象が基板上に感光性の画像形成性層が設けられた印刷版(即ち印刷版用合紙として使用)が挙げられる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
〔実施例1〜2及び比較例1〜5〕
表面保護シートの繊維の供給源として、新聞及び雑誌を含む古紙原料を用いた。古紙原料を叩解して叩解度300mlc.s.f.のスラリーを調製し、これに下記の粘着性低下剤A〜Eのいずれかを所定量添加し、固形分濃度0.3質量%のパルプスラリーを得た。また別途、粘着性低下剤を使用せずに比較例1用のパルプスラリーを得た。得られたパルプスラリーを長網抄紙機により常法に従って湿式抄紙し、坪量45g/m
2の紙からなる表面保護シートを得た。
各実施例及び比較例の表面保護シートにおいて、粘着性含有成分の含有量は0.2〜0.3質量%であり、また、前記イソプレンゴム占有率は10〜25質量%であった。
【0056】
・粘着性低下剤A:フェノール系粘着性低下剤(栗田工業製、商品名「スパンプラス520」)
・)
・粘着性低下剤B:非フェノール系粘着性低下剤(ハリマ化成製、商品名「ハリアップPC100」)
・粘着性低下剤C:非フェノール系粘着性低下剤(日新化学研究所製、商品名「ハイタッチMP」)
・粘着性低下剤D:非フェノール系粘着性低下剤(油化産業製、商品名「ディタックDC3419」)
・粘着性低下剤E:非フェノール系粘着性低下剤(油化産業製、商品名「ソフトール3503」)
【0057】
〔評価〕
各実施例及び比較例の表面保護シートについて、下記方法により性能を評価した。その結果を下記表1に示す。尚、評価対象の各シートは、評価前にJIS P8111に準じて処理を行なった後、評価に供した。
【0058】
<粘着跡の評価方法>
評価対象の表面保護シートを7枚用意し、その7枚のシートと、該シートと平面視形状が同形状同寸法の11枚の保護対象たるクラウンガラス板(松浪硝子製S9111)とを、それらの厚み方向に交互に積層し、その積層物を、該厚み方向(積層方向)を垂直方向に一致させて平坦な床の上に載置し、温度23℃湿度50%RHの環境下に16時間放置した。その後、11枚の保護対象のうち最上部に位置するものを除き、残りの10枚の保護対象それぞれの表面(表面保護シートとの接触面)を目視で観察し、それら表面の全てに粘着異物が付着した跡を確認できなかった場合を◎(最高評価)、1〜2か所のみ目視で確認できる跡が確認できるが流水洗浄で除去可能だった場合を○、それ以外の場合を×とした。
【0059】
<保護対象面への付着性(ハンドリング性)の評価方法>
縦150mm、横150mm、厚さ3mmの平面視正方形形状のアクリル板を2枚用意し、その2枚のアクリル板の間に、平面視において該アクリル板と同形状同寸法の評価対象の表面保護シートを介在配置させて積層物を得、該積層物を、一方のアクリル板を下方に向けたいわゆる平置きの状態で1時間静置する。1時間の静置後、平置きの状態の積層物を、アクリル板の面方向が垂直方向に一致するように起立させ、その起立状態の積層物から一方のアクリル板を外したときに、他方のアクリル板の表面上で表面保護シートが初期位置からずれずに付着したままの状態である場合を◎(最高評価)、表面保護シートと他方のアクリル板との間に隙間が生じるものの、該アクリル板の表面から脱落しない場合を○、他方のアクリル板の表面から脱落する場合を×とした。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示す通り、各実施例の表面保護シートは、粘着性含有成分を含み且つ該粘着性含有成分におけるイソプレンゴム占有率が10〜25質量%であることから、本来的には、該粘着性含有成分が保護対象面に付着するという問題が懸念されるものであるが、該粘着性含有成分に対して配合された粘着性低下剤が、フェノール系粘着性低下剤であることに起因して、ガラス用合紙として使用した場合にガラス板に粘着跡を残し難く、且つ保護対象面への付着性が良好でハンドリング性に優れるものであった。これに対し、各比較例の表面保護シートは、非フェノール系粘着性低下剤を含むことに起因して、各実施例よりも各評価に劣る結果となった。このことから、表面保護シートに配合される粘着性低下剤としてフェノール系樹脂を含む粘着性低下剤を用いることの有用性が明白である。