【課題】防音床材Aにおいて、基材1の裏面に溝部を形成することなく、かつ基材1の密度を大にして床材の表面性能を確保しつつ、その基材1の剛性を低下させて、防音性能を確保する。
【解決手段】防音床材Aは、木質基材1と、この木質基材1の表面側に一体的に積層された化粧材6と、木質基材1の裏面側に一体的に積層された緩衝材7とを備え、木質基材1は、密度が600〜850Kg/m
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1の防音床材では、良好な防音性能が得られるものの、溝部により撓み易くした基材の裏面に発泡体が一体的に積層されているので、歩行時に柔らかい歩行感が生じることがあり、床鳴りの発生も避けられない難がある。
【0005】
これに対し、基材の裏面に溝部を形成することなく防音性能を発現させるには、その基材の剛性が高いままであるので、裏面に接着する緩衝材として柔軟性が高い性質のものを用い、かつその厚さを厚くする必要が生じる。そうすると、床材としての適正使用の条件が狭くなるとともに、他の床材と接合するための実部の負担が大きくなって、実折れが生じる虞れが生じる。
【0006】
そして、基材の剛性を下げるためには、その基材の密度を低くするようにしてもよい。しかし、その場合には、床材の表面性能(表面の平滑度や硬度)を確保することが難しく、床材としての基本性能が得られなくなる。
【0007】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的は、床材における基材の構成に工夫を凝らすことにより、基材の裏面に溝部を形成することなく、かつ基材の密度を大にして床材の表面性能を確保しつつ、その基材の剛性を低下させて防音性能を確保するようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的の達成のため、この発明では、床材における基材の特性として、硬質プラスチックの分野で規定されるシャルピー衝撃強さに着目し、そのシャルピー衝撃強さを密度と共に所定の範囲に特定するようにした。
【0009】
具体的には、第1の発明は、床下地材上に施工される防音床材であって、平面からなる裏面を有する木質基材と、この木質基材の表面側に一体的に積層された化粧材と、木質基材の裏面側に一体的に積層された緩衝材とを備え、木質基材は、密度が600〜850Kg/m
3でかつJIS K7111の規定に準じて測定されるシャルピー衝撃強さが2.2〜5.5kJ/m
2の範囲であることを特徴とする。
【0010】
JIS K7111に規定されるシャルピー衝撃強さは、硬質プラスチックの靭性を評価するための特性であり、材料の持つ粘り強さ、つまり靱性を表し、一般的には数値が大きいほど引張り強さや伸びも大きく、靱性があるとされる。第1の発明においては、この規定を木質基材に適用してシャルピー衝撃強さを測定し、これを木質基材としての試験片に衝撃が加えられたときにその撓み易さを表すものとしており、数値が大きいほど衝撃エネルギーを吸収して撓むものである。そして、防音床材における木質基材の密度が600〜850Kg/m
3であり、かつそのJIS K7111の規定に準じて測定されるシャルピー衝撃強さが2.2〜5.5kJ/m
2の範囲であるので、その基材の密度を大に保って、床材の表面性能(表面の平滑度や硬度)を確保することができるとともに、基材自体が撓み易くなり、衝撃に伴う発生エネルギーを床材自体の変形により吸収して防音性能を高めることができる。
【0011】
上記シャルピー衝撃強さが2.2kJ/m
2未満であると、基材の剛性が強くなり過ぎて撓み難く、防音性能の確保のために、基材の裏面に溝部を形成するか、緩衝材を軟らかくしたりその厚さを厚くしたりする必要がある一方、5.5kJ/m
2を超えると、基材の剛性が低くなり過ぎて、床材としての性能が確保できなくなる。
【0012】
また、木質基材の裏面に複数の溝部が形成されておらず、基材のみによって剛性を低くして防音性能を発現させているので、基材裏面の緩衝材として柔軟性が高い性質のものを用いたり、その厚さを厚くしたりする必要がなく、床材としての適正使用の条件が狭くなることや、基材と緩衝材がそれぞれ有する剛性の差に起因する実部の負担の増大によって実折れが生じることはなくなる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、木質基材は、アカシア、ファルカタ、ポプラ、ユーカリ、アピトン、アスペン、カランパヤンの少なくとも1つを含む広葉樹を原料とする木質繊維板であることを特徴とする。特に、広葉樹を原料とするMDFは、針葉樹を原料とするMDFに比べて耐水性(寸法安定性)が良いので、床材として有利である。
【0014】
この第2の発明では、木質基材がアカシア、ファルカタ、ポプラ、ユーカリ、アピトン、アスペン、カランパヤン等の広葉樹を原料とする木質繊維板であるので、上記比重及びシャルピー衝撃強さの各範囲が特定された木質基材を容易かつ確実に得ることができる。
【0015】
第3の発明は防音床構造に係り、この防音床構造は、第1又は第2の発明の防音床材が床下地材上に施工されていることを特徴とする。
【0016】
この第3の発明では、床材の表面性能(表面の平滑度や硬度)が確保され、基材自体が撓み易くなって床材への衝撃に伴う発生エネルギーを床材自体の変形により吸収して、防音性能が高くなった防音床構造が得られる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明した如く、本発明によると、表面側に化粧材が、また裏面側に緩衝材がそれぞれ一体的に積層された、防音床材の木質基材の密度を600〜850Kg/m
3としかつシャルピー衝撃強さを2.2〜5.5kJ/m
2としたことにより、木質基材の密度を大に保って床材の表面性能を確保しつつ、木質基材自体を撓み易くして防音性能を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0020】
図1及び
図2は本発明の実施形態に係る防音床材Aを示す。この防音床材Aは細長い板状のもので、図示しないが、例えば集合住宅のコンクリートスラブ上に床下地が施工されている床構造において、その床下地材上に施工される。防音床材Aは木質基材1を備え、その木質基材1の表面側には化粧材6が、また裏面側には緩衝材7がそれぞれ接着剤等の接着により一体的に積層されている。
【0021】
上記化粧材6は、例えば突板やシート化粧材等の一般的な材料が使用される。
【0022】
一方、緩衝材7は、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の合成樹脂発泡体、或いはゴム発泡体、スポンジ、不織布等が使用可能である。
【0023】
上記木質基材1は、防音床材Aの全体構成を形作る細長い板材からなり、その幅方向に対向する一側面には、基材1の厚さ方向の中間部を所定深さに切り除いた凹条からなる雌実部2が、また他側面には、基材1の厚さ方向の両側部を所定深さに切り欠いた残りの凸条からなる雄実部3がそれぞれ形成されている。また、長さ方向に対向する一側面にも同様の凹条からなる雌実部2が、また他側面にも同様の凸条からなる雄実部3がそれぞれ形成されている。そして、複数枚の防音床材A,A,…を床下地上に並べて施工する場合には、隣接する一方の床材Aの雌実部2に他方の床材Aの雄実部3を嵌合することで、複数枚の防音床材A,A,…を面一に並べて施工するようになっている。
【0024】
本発明の特徴は上記木質基材1の特性にある。すなわち、この木質基材1は、密度が600〜850Kg/m
3であってかつJIS K7111の規定に準じて測定されるシャルピー衝撃強さが2.2〜5.5kJ/m
2の範囲であることを特徴としている。この木質基材1は、密度及びシャルピー衝撃強さがいずれも上記範囲にあればどのようなものでも採用することができ、例えば合板や木質繊維板が挙げられ、その木質繊維板としては特にMDF(中密度繊維板)が望ましい。
【0025】
木質基材1が合板であれば、その合板製基材1の表面の平滑性は乏しいので、基材1の表面に化粧材6としてシート化粧材を積層するシート化粧仕上げとする場合には、基材1表面に例えばMDF等の平滑性の高い面材を別途に設けておく必要がある。一方、木質基材1をMDFとすれば、その表面に直接シート化粧材を貼り付けることができるので、合板製基材1のように面材を別途に設ける必要がなく、その分、製造時の工程数が増えない利点がある。
【0026】
一般にMDFは、その原料として異なる樹種が混在しているが、上記木質基材1となるMDFは、例えばアカシア、ファルカタ、ポプラ、ユーカリ、アピトン、アスペン、カランパヤン等の広葉樹のうち単一の樹種のみを原料とする木質繊維板、又はそれら複数の樹種を必要に応じて混在したものを原料とする木質繊維板であることが望ましい。特に、広葉樹を原料とするMDFは、針葉樹を原料とするMDFに比べて耐水性や寸法安定性が良いので好ましく、床材Aとして有利である。
【0027】
JIS K7111に規定されるシャルピー衝撃強さは、本来、硬質プラスチックに適用される規格であるが、本発明では、この規格を木質基材1に適用している。具体的に、
図3に示すシャルピー衝撃試験機10を用いて測定する。この試験機10は、水平方向の回動軸11回りに揺動可能なハンマー12を備え、ハンマー12はアーム12aと、その先端部に設けられ、刃部(図示せず)を有する錘12bとを有し、この錘12b(刃部)を回動軸11回りに円弧状の移動軌跡Lに沿って回動させるようになっている。そして、木質基材1の試験片Pを回動軸11の真下で錘12b(刃部)の移動軌跡L上の位置に固定しておき、錘12bを回動軸11真下の位置(試験片Pの固定位置)から所定の持ち上げ角度αになる位置まで持ち上げ、その錘12bを自重により落下させて回動軸11回りに回動させ、その途中で刃部により試験片Pを破断した後に、錘12bが反対側に振り上がるようにし、そのときの振り上がり角度βを測定する。この振り上がり角度βと持ち上げ角度αとに基づいて吸収エネルギーを求め、この吸収エネルギーを試験片Pの断面積で割ることにより、シャルピー衝撃強さを得るようにしている。尚、
図3では、試験片Pがない場合に錘12bの振り上がり角度β′が持ち上げ角度αと略同じになる状態を左上の仮想線にて示している。
【0028】
このシャルピー衝撃強さは、木質基材1の試験片Pにハンマー12の錘12bによって衝撃が加えられたときにその撓み易さを表しており、数値が大きいほど試験片Pが大きく撓んで衝撃エネルギーを吸収する(小さいとそれほど撓むことなく破断する)ものである。
【0029】
木質基材1の密度が600Kg/m
3よりも小さいと、床材Aの表面性能(表面の平滑度や硬度)を確保することが難しく、床材Aとしての基本性能が得られなくなる。一方、密度が850Kg/m
3よりも大きいと、木質基材1の剛性が大きくなり過ぎ、防音性能を発現させることが困難になる。よって、木質基材1の密度は600〜850Kg/m
3であるのが好ましい。
【0030】
また、木質基材1のシャルピー衝撃強さが2.2kJ/m
2未満であると、基材1の剛性が強くなり過ぎて撓み難く、防音性能の確保のために、基材1の裏面に溝部を形成するか、緩衝材7を軟らかくしたりその厚さを厚くしたりする必要がある。一方、シャルピー衝撃強さが5.5kJ/m
2を超えると、基材1の剛性が低くなり過ぎて、床材Aとしての性能が確保できなくなる。そのため、木質基材1のシャルピー衝撃強さは2.2〜5.5kJ/m
2の範囲が好ましい。
【0031】
木質基材1の裏面は平面であり、特許文献1に示されるように、木質基材1の裏面に複数の溝部が互いに平行に並んで形成されていない。この平面に上記緩衝材7が一体的に積層されている。
【0032】
上記防音床材Aが床下地材上に施工されて防音床構造が構成される。この床構造では、防音床材Aは通常の床材Aと同様に施工される。すなわち、上述の如く、例えばコンクリートスラブ上に床下地が施工され、その床下地材上に複数の防音床材A,A,…が並べられて敷き詰められ、隣り合う防音床材A,Aは、その一方の雌実部2に他方の床材Aの雄実部3が嵌合されて施工される。
【0033】
したがって、この実施形態では、防音床材Aにおける木質基材1の密度が600〜850Kg/m
3の範囲であるので、その基材1の密度は大に保たれ、床材Aの表面性能(表面の平滑度や硬度)を確保することができる。そして、基材1のシャルピー衝撃強さが2.2〜5.5kJ/m
2の範囲にあることで、その基材1自体が撓み易くなっており、衝撃に伴う発生エネルギーを床材A自体の変形により吸収して防音性能を高めることができる。
【0034】
また、木質基材1の裏面は平面であり、その裏面に複数の溝部が形成されておらず、基材1のみによって剛性を低くして撓み易くし防音性能を発現させている。そのため、基材1を薄くすることが可能であり、ひいては床材Aそのものを薄くすることが可能になり、新築住宅用やリフォーム用途等、厚みの制限をうけることなく幅広く利用することができる。さらに、基材1裏面の緩衝材7として柔軟性が高い性質のものを用いたり、その厚さを厚くしたりする必要がなくなり、床材Aとしての適正使用の条件が狭くなることや、基材1と緩衝材7がそれぞれ有する剛性の差に起因する実部2,3の負担の増大によって実折れが生じることはなくなる。
【0035】
また、木質基材1がアカシア、ファルカタ、ポプラ、ユーカリ、アピトン、アスペン、カランパヤン等の広葉樹を原料とするMDF(木質繊維板)であることにより、上記比重及びシャルピー衝撃強さの各範囲が特定された木質基材1を容易かつ確実に得ることができる。その理由の1つとして、これら広葉樹の原料は他の樹種に比べて比較的長い繊維を有しており、その長繊維によって木質基材1のシャルピー衝撃強さが増大して上記範囲に含まれるようになると推測される。
【実施例】
【0036】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0037】
[衝撃音低減性能試験]
(実施例1)
木質基材1はアカシアを原料とする厚さ4mmのMDF(アカシアMDF)であり、その比重は730Kg/m
3とした。シャルピー衝撃強さの平均値は3.71kJ/m
2であった。この木質基材1の裏面は溝部が形成されていない平面であり、その裏面に厚さ2.7mmのウレタン系樹脂の発泡体からなる緩衝材7を接着して積層し、表面には化粧材6としてシート化粧材を接着により積層した。
【0038】
(実施例2)
緩衝材7は厚さ3.5mmの不織布とした。それ以外は実施例1と同じである。
【0039】
(実施例3)
木質基材1はアカシアを原料とする厚さ4mmのMDFであり、その比重は820Kg/m
3とした。シャルピー衝撃強さの平均値は4.98kJ/m
2であった。この木質基材1の裏面は溝部が形成されていない平面とし、その裏面に実施例2と同様の厚さ3.5mmの不織布からなる緩衝材7を接着して積層し、表面にはシート化粧材を接着により積層した。
【0040】
(比較例1)
木質基材1は厚さ9mmのラワン合板であり、その比重は460Kg/m
3でシャルピー衝撃強さの平均値は1.35kJ/m
2であった。この木質基材1の裏面に一定深さの複数の溝部を平行に形成し、その裏面に厚さ4.5mmのウレタン系樹脂の発泡体からなる緩衝材7を接着して積層し、表面には突板からなる化粧材6を接着により積層した。
【0041】
このような実施例1〜3及び比較例1について、軽量床衝撃音低減性能のΔLL(I)−4等級の基準レベルに対する改善量(単位dB)を測定したところ、
図4に示す結果が得られた。
【0042】
この
図4の結果を見ると、実施例1〜3のいずれも床衝撃音レベルの改善量が比較例1と同じかそれよりも大きくなっている。このことで、木質基材1の密度を600〜850Kg/m
3とし、シャルピー衝撃強さを2.2〜5.5kJ/m
2とすることで、床衝撃音レベルを低減でき、本願発明の効果が裏付けられている。
【0043】
[吸放湿試験]
(実施例4)
木質基材1はアカシア(広葉樹系)を原料とする厚さ2.7mmのMDFであり、その比重は840Kg/m
3とした。
【0044】
(実施例5)
木質基材1は、広葉樹系の様々な樹種が混じった混合樹種を原料とする厚さ9mmのMDFであり、その比重は750Kg/m
3とした。
【0045】
(比較例2)
木質基材1は非パイン系の針葉樹系を原料とする厚さ2.7mmのMDFであり、その比重は820Kg/m
3とした。
【0046】
(比較例3)
木質基材1は非パイン系の針葉樹系を原料とする厚さ2.7mmのMDFであり、その比重は840Kg/m
3とした。
【0047】
(比較例4)
木質基材1はパイン系の針葉樹系を原料とする厚さ9mmのMDFであり、その比重は660Kg/m
3とした。
【0048】
実施例4,5及び比較例2〜4について吸放湿試験を行った。この試験は、試験片を温度40℃、湿度90%の条件下で1日放置した後に温度40℃、湿度40%の条件下で1日放置したときの長さ変化率及び厚さ膨張率と、試験片を温度40℃で乾燥雰囲気中に1日放置した後に温度40℃で湿度90%の条件下で1日放置したときの長さ変化率とを調べた。その結果を
図5に示す。
【0049】
この
図5の結果を見ると、実施例4,5の広葉樹系のMDFは、比較例2〜4の針葉樹系のMDFに比べ、長さ変化率が低く厚さ膨張率も低くなっている。このことで、広葉樹を原料とするMDFは、針葉樹を原料とするMDFに比べて良好な耐水性及び寸法安定性が得られていることが判る。