(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-173079(P2018-173079A)
(43)【公開日】2018年11月8日
(54)【発明の名称】インジェクタの弁スリーブおよびインジェクタの弁スリーブの製造方法
(51)【国際特許分類】
F02M 61/16 20060101AFI20181012BHJP
F02M 51/06 20060101ALI20181012BHJP
B23K 15/00 20060101ALI20181012BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20181012BHJP
B23K 26/34 20140101ALI20181012BHJP
【FI】
F02M61/16 P
F02M51/06 K
F02M51/06 L
B23K15/00 501A
B23K26/21 Z
B23K26/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-68686(P2018-68686)
(22)【出願日】2018年3月30日
(31)【優先権主張番号】10 2017 205 483.2
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】DE
(71)【出願人】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】グンナー ヴァルター
(72)【発明者】
【氏名】マークス ファイグル
(72)【発明者】
【氏名】フリードリッヒ モーザー
(72)【発明者】
【氏名】ハネス ヴィレック
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル クノアプ
(72)【発明者】
【氏名】オーラフ シェーンロック
(72)【発明者】
【氏名】ペーター リュック
【テーマコード(参考)】
3G066
4E066
4E168
【Fターム(参考)】
3G066BA55
3G066BA61
3G066CC03
3G066CC21
3G066CC37
3G066CC48
3G066CD04
3G066CD14
4E066CC04
4E168BA33
4E168BA35
4E168BA81
(57)【要約】 (修正有)
【解決手段】本発明は、媒体(8)を噴射する、特に燃料を噴射するインジェクタ(1)の弁スリーブ(3)において、少なくとも1つのシリンダスリーブ(10)とインジェクタヘッド(11)とを備え、インジェクタヘッド(11)は、閉鎖要素座(13)と少なくとも1つの噴射孔(15)とを有し、インジェクタヘッド(11)は、付加製造法を用いて加工され、素材接続によってシリンダスリーブ(10)に取り付けられている、媒体(8)を噴射する、特に燃料を噴射するインジェクタ(1)の弁スリーブ(3)に関する。
【効果】複雑な幾何学形状を有していても、弁スリーブを、極めて効果的な方法において低コストで製造することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体(8)を噴射する、特に燃料を噴射するインジェクタ(1)の弁スリーブ(3)において、
少なくとも1つのシリンダスリーブ(10)とインジェクタヘッド(11)とを備え、
前記インジェクタヘッド(11)は、閉鎖要素座(13)と少なくとも1つの噴射孔(15)とを有し、
前記インジェクタヘッド(11)は、付加製造法を用いて加工され、素材接続によって前記シリンダスリーブ(10)に取り付けられていることを特徴とする弁スリーブ(3)。
【請求項2】
前記インジェクタヘッド(10)内には、少なくとも1つの通流ポケット(20)および/または通流孔(21)を有する供給領域(12)が配置されていることを特徴とする、請求項1記載の弁スリーブ(3)。
【請求項3】
前記供給領域(12)は、閉鎖要素(6)を支持する少なくとも1つのウェブ(22)を有することを特徴とする、請求項2記載の弁スリーブ(3)。
【請求項4】
前記少なくとも1つの前記噴射孔(15)は、円筒状のまたは曲がった流れ通路を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の弁スリーブ(3)。
【請求項5】
前記インジェクタヘッド(11)は、前記噴射孔(15)のうちの少なくとも1つに通じる、少なくとも1つの前段部(16)を有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の弁スリーブ(3)。
【請求項6】
前記インジェクタヘッド(11)は、電子ビーム積層造形法(EBM)を用いて、金属の導電性の溶接可能な原料から加工されている、または前記インジェクタヘッド(11)は、選択的レーザ積層造形法(SLM)によって、金属の溶接可能な原料から加工されていることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の弁スリーブ(3)。
【請求項7】
前記シリンダスリーブ(10)は、溶接可能な金属の原料から成る回転対称の旋削部分であることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の弁スリーブ(3)。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項記載の弁スリーブ(3)を備えることを特徴とする、インジェクタ(1)、特に燃料インジェクタ。
【請求項9】
インジェクタ(1)、特に燃料インジェクタの弁スリーブ(3)の製造方法であって、
回転対称の旋削部分から形成されたシリンダスリーブ(10)を用意するステップと、
付加製造法を用いて、少なくとも1つの噴射孔(15)と閉鎖要素座(13)とを有するインジェクタヘッド(11)を加工して、前記シリンダスリーブ(10)に取り付けるステップと、
を有することを特徴とする方法。
【請求項10】
前記付加製造法は、選択的レーザ積層造形法(SLM)または電子ビーム積層造形法(EBM)であることを特徴とする、請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来技術
本発明は、部分的に付加製造法を用いて製造された、媒体を噴射するインジェクタ用の、製造が最適化された弁スリーブと、この種の弁スリーブを備えたインジェクタと、その製造方法とに関する。
【0002】
媒体を導入するインジェクタ、たとえば液体の燃料を噴射するまたは気体の燃料を送り込むインジェクタは、従来技術から様々な態様において公知である。この種のインジェクタは、たとえば独国特許出願公開第102013220836号明細書から公知である。このインジェクタは、通常は、別の構成部品と一緒に圧力室を取り囲んでいる、弁スリーブとインジェクタヘッドとを有する。縦軸線に沿って弁スリーブ内で、閉鎖要素が可動に配置されていて、この閉鎖要素は、軸方向移動時に閉鎖要素座と協働する。閉鎖要素は、その位置に依存して、インジェクタヘッド内に穿設された1つまたは複数の噴射孔を開閉し、燃料が高圧下で圧力室から押し出されるので、燃料は噴射孔からの流出時に噴霧される。
【0003】
噴霧形成を考慮したインジェクタに対する要求がますます高まっていることに基づき、圧力室から噴射孔への燃料の供給は、弁スリーブ内の複雑な幾何学形状を介して行われる。この弁スリーブは、最大限の噴霧目標設定時かつ最適な浸透時に、最良の噴霧の広がりを可能にするものである。弁スリーブ内のこの複雑な幾何学形状の製造は、複数の適用されるべき製造方法と、アンダカットと、極めて小さな幾何学的寸法とに基づき、特にコストが嵩み、ひいては非効率的である。
【0004】
発明の開示
これに対して、請求項1の特徴を備えた本発明によるインジェクタの弁スリーブは、弁スリーブが任意の複雑な幾何学形状を有してもよく、同時に弁スリーブの製造方法が、特に時間上の利点によってコスト上の利点が生じるように最適化されている、という利点を有する。このことは本発明によれば、弁スリーブが少なくとも1つのシリンダスリーブとインジェクタヘッドとを備え、インジェクタヘッドは閉鎖要素座と少なくとも1つの噴射孔とを有し、インジェクタヘッドは付加製造法を用いて加工され、素材接続によってシリンダスリーブに取り付けられていることによって達成される。これにより、複雑な幾何学形状を有していても、弁スリーブを、極めて効果的な方法において低コストで製造することができる。さらに、付加製造法は、従来の製造方法によって(そもそも)極めて手間をかけることでしか製造できない、インジェクタヘッド内の極めて複雑な幾何学形状、たとえばアンダカット、湾曲状の孔またはこれに類するものを実現可能にする。
【0005】
従属請求項には、本発明の好適な改良態様が示されている。
【0006】
好適には、インジェクタヘッド内には、少なくとも1つの通流ポケットまたは少なくとも1つの通流孔を有する供給領域が配置されている。通流ポケットまたは通流孔は、燃料が圧力室から閉鎖要素座へと流れることができる、有効流過面を拡大する。通流ポケットまたは通流孔を、縦軸線まわりの周にわたって対称にまたは非対称に分配することができる。特に、少なくとも1つの通流ポケットまたは通流孔を少なくとも1つの噴射孔に対応して配置することにより、通流ポケットまたは通流孔をインジェクタヘッド内に非対称に配置することができる。
【0007】
別の好適な態様によれば、通流ポケットは、インジェクタヘッドの内壁においてある種の溝として成形されているので、たとえば、ある種の滑り軸受として、半径方向において閉鎖要素を支持するかつ/または案内する、少なくとも1つのウェブが形成されている。これに対して通流孔を、インジェクタヘッドの内壁にある種の段部として形成された、環状に延びているウェブに形成することができる。インジェクタヘッド内での、通流ポケットと通流孔との組合せが可能である。
【0008】
さらに別の好適な態様によれば、インジェクタヘッドは、それぞれ少なくとも1つの噴射孔に通じる、少なくとも1つの前段部を有する。前段部によって、噴射孔の流過面は、少なくとも一度段状に拡張されているので、前段部によって、噴射孔の有効長さが低減され、噴射孔自体はカーボン付着から保護されている。
【0009】
好ましくは、少なくとも1つの噴射孔は、円筒状のまたは曲がった流れ通路を有する。流れ通路の形状は、目標設定および噴霧形成に影響を及ぼすことができ、これにより、噴射時に空間内での媒体の最適な分配が達成される。その際、流れ通路の横断面は、円形、楕円形および/または多角形であってもよい。
【0010】
さらに、インジェクタヘッドが、電子ビーム溶解とも言われる電子ビーム積層造形法(Electron Beam Melting:EBM)によって、シリンダスリーブに加工して取り付けられていると、特に有利であることが明らかになった。電子ビーム積層造形法(EBM)は粉末床に基づいた方法であり、この方法では、電子ビームを用いて真空中で金属粉末が溶解される。この方法は、高いプロセス温度で進行し、インジェクタヘッドの幾何学形状に依存して支持構造を必要とすることがある。慣性のないビーム偏向(マルチビームストラテジー)によって、平行の複数の融合部を発生させることができ、ひいては1つまたは複数のインジェクタヘッドを形成する早さを高めることができ、これにより、製造時間を大幅に低減することができる。インジェクタヘッド用の原料として、好ましくは、好適には45μm〜105μmの粒径を有する球状の粉末を使用することができる。インジェクタヘッド用の原料は、導電性の溶接可能な金属の原料から形成されていなければならないが、しかし、磁性の原料は、ビーム偏向が生じうるので使用されるべきではない。電子ビーム積層造形法(EBM)に従って、後続の方法ステップにおいて、完成した弁スリーブから残留粉末を取り除くことができ、場合により余剰の支持構造を除去することができる。さらに任意に、完成したシリンダスリーブを熱処理することができる。最終的に行われる加工のために、特に、閉鎖要素でもってインジェクタを気密にかつ液密に閉鎖する閉鎖要素座を形成するために、削剥を行う方法、たとえば研削、ホーニング、旋削またはこれに類する方法を使用することができる。
【0011】
別の有利な態様によれば、インジェクタヘッドを、選択的レーザ積層造形法(Selective Laser Melting:SLM)によって、シリンダスリーブに設けることができる。選択的レーザ積層造形法(SLM)は、直接金属レーザ焼結法(Direct Metal Laser Sintering:DMLS)、レーザビーム積層造形法(Laser Beam Melting:LBM)、LaserCUSINGまたはレーザ焼結としても公知である。選択的レーザ積層造形法(SLM)は、粉末床に基づいた方法であり、この方法では、構成部品を層状に構成する。粉末は、スキージによって層状に設けられ、これに続いてレーザを用いて局所的に溶解される。プロセスは、不活性ガス雰囲気のもとで実行され、好適には200℃〜500℃のプロセス温度を有する。インジェクタヘッドの幾何学形状に依存して、支持構造は、選択的レーザ積層造形法(SLM)のために必要であってもよい。インジェクタヘッド用の素材として、溶接可能な金属の原料は、好適には10μm〜45μmの粒径を有する球状の粉末として使用可能である。この原料としては、特に、ニッケル基合金、工具鋼、アルミニウム合金、チタン合金およびこれに類するものが挙げられる。選択的レーザ積層造形法に従って、まず弁スリーブから残留粉末を取り除き、場合により余剰の支持構造を除去し、熱処理を実行することができる。さらなる加工/仕上げ、特に機能面の加工/仕上げは、従来の製造方法を用いて問題なく実行することができる。選択的レーザ積層造形法は、電子ビーム積層造形法に比べて、磁性の原料も問題なく加工することができるという利点を有する。選択的レーザ積層造形法は、±50μmの高い寸法精度と、Rz約30μm〜50μmの比較的良好な表面品質とを有する。
【0012】
好ましくは、シリンダスリーブは、溶接可能な金属の原料から製造される回転対称の旋削部分である。シリンダスリーブは、簡単にかつ多数を低コストで製造可能な構成部品である。シリンダスリーブを、製造プロセスに従って、たとえばインジェクタヘッドを付加的に取り付けるために、適切なクリーニング方法によってクリーニングし、付加製造法にとって適切な装置に締め付けることができる。次いで、シリンダスリーブにはインジェクタヘッドが加工して取り付けられ、この場合、インジェクタヘッドは弁スリーブ全体のうちのわずかな部分しか成さない。通常は、シリンダスリーブの質量は、弁スリーブ全体の質量の約70%である。 しかし、さらなるコスト上の利点を達成するためには、質量の割合がより高いと有利である。シリンダスリーブは、好適には1つまたは複数の段部を有してもよい。
【0013】
別の有利な態様によれば、インジェクタ、特に燃料インジェクタは、シリンダスリーブとインジェクタヘッドとから形成された弁スリーブを有し、この場合、インジェクタヘッドは付加的に加工されシリンダスリーブに取り付けられている。したがって、インジェクタを、低コストで製造されるべき弁スリーブによって多様にかつ個別化して使用することができる。
【0014】
さらに別の有利な態様によれば、弁スリーブを、少なくとも2つの方法ステップにおいて製造することができる。第1の方法ステップでは、シリンダスリーブが、低コストの旋削部分として用意され、第2の方法ステップでは、インジェクタヘッドが、付加製造法を用いて加工されシリンダスリーブに取り付けられる。
【0015】
さらに、シリンダスリーブが、付加製造法の前にクリーニングされるので、汚染物、たとえばグリース、オイル、くず、またはこれに類するものが除去されていると、特に有利である。
【0016】
以下に、本発明の好適な実施態様を添付の図面に関して詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明による弁スリーブを備えた、媒体を噴射するインジェクタの断面図である。
【
図2】
図1に示した本発明による弁スリーブの拡大概略断面図である。
【
図3】断面線Y−Yに沿った、
図2に示した弁スリーブの拡大概略部分断面図である。
【
図4】組込み可能な状態における、インジェクタ用の弁スリーブの拡大図である。
【0018】
発明を実施するための形態
以下に、
図1〜
図4に関して、本発明の好適な第1の実施態様によるインジェクタおよび弁スリーブを詳細に説明する。
【0019】
図1には、本発明による弁スリーブ3を備えたインジェクタ1の縦断面図が示されている。インジェクタ1は特に、弁スリーブ3とインジェクタハウジング4とによって取り囲まれた圧力室5を有する。この圧力室5内には、閉鎖要素6が、アクチュエータ60によって縦軸線X−Xに沿って摺動可能に配置されている。圧力室5は、高圧ポート(図示せず)によってたとえばアキュムレータに接続されていて、このアキュムレータによって350×10
5Paまでの非常に高圧下の媒体8で満たされている。閉鎖要素6が縦軸線X−Xに沿って移動することにより、閉鎖要素6は、弁スリーブ3内に形成された閉鎖要素座13と協働し、噴射孔15を開閉する。
図1および
図2には、インジェクタ1の閉鎖状態が示されている。
【0020】
インジェクタ1は、内開弁式のインジェクタ1であり、この場合、開放方向は、インジェクタ1からの流出方向Aとは逆である。
【0021】
アクチュエータ60は、ソレノイドアクチュエータであり、アーマチュア61とコイル62とを有する。アクチュエータ60とアーマチュア61とが協働することにより、閉鎖要素6は、縦軸線X−Xに沿って可動である。閉鎖要素6は、弁ボール50とストッパ55とを備えた弁ニードルとして形成されている。戻し要素66が、閉鎖要素6のストッパ55に支持されていて、閉鎖要素6を
図1および
図2に示した閉鎖位置に保持する。アクチュエータ60は、ピエゾ調節器として形成されてもよい。
【0022】
第1の実施態様によるインジェクタ1の機能は、次の通りである:開放工程が導入されると、アクチュエータ60によるアクチュエータ力がアーマチュア61に加えられるので、アーマチュア61は閉鎖要素6と一緒に、縦軸線X−Xに沿って、流出方向Aとは逆に動かされる。噴射孔15が、開放工程時に閉鎖要素6によって開放されると直ちに、圧力下の媒体8が、圧力室5から噴射孔15を通って噴霧の状態で空間2内へ、たとえば内燃機関の燃焼室内へと流れる。媒体8は、液体のまたは気体の媒体であってもよい。
【0023】
図1および
図2に図示されたインジェクタ1の静止状態では、弁ボール50は、戻し要素66のばね力によって、インジェクタヘッド11の閉鎖要素座13に対して押し付けられているので、流込み領域14は、残りの圧力室5から気密にかつ液密に閉鎖されているまたは分離されている。このために、閉鎖要素座13の形状は、弁ボール50の形状に適合されている。
【0024】
弁スリーブ3は、
図2から詳細に看取可能であり、2つの部分から一体的に形成されていて、シリンダスリーブ10とインジェクタヘッド11とを有する。シリンダスリーブ10は、溶接可能な金属の原料から成る回転対称の旋削部分である。インジェクタヘッド11は、付加製造法を用いて加工されシリンダスリーブ10に取り付けられていて、縦軸線X−Xに沿って流出方向Aで、供給領域12と、閉鎖要素座13と、流れ込み領域14と、少なくとも1つの噴射孔15と、前段部16とを有する。媒体8は、インジェクタ1が開放位置にある時、圧力室5から供給領域12を通って、閉鎖要素座13の傍を通過して流込み領域14内へと流れ、この流込み領域14から離間して、噴射孔15を通って空間2の方向へと向かう。前段部16の直径は、噴射孔15の直径よりもかなり大きく設定されており、この場合、噴射孔15の図示された態様は、深さのある狭幅の前段部を備えるインジェクタ1である。流出方向Aの前段部16の長さL2は、噴射孔15の長さL1よりもかなり大きく設定されている。さらに、前段部16の流過面と噴射孔15の流過面との直径の比は、約2:1である。
【0025】
図3には、
図2に示したインジェクタ1の、断面線Y−Yの平面に沿った断面図が示されている。インジェクタヘッド11内には周にわたって、複数の通流ポケット20と、複数の通流孔21と、複数のウェブ22とが配置されている。通流ポケット20および通流孔21は、供給領域12の領域内でインジェクタ1の縦軸線X−Xの方向に、有効流過横断面を拡大するので、この横断面の拡大によって、媒体8は、可能な限り迅速にかつわずかな圧力損失で、流込み領域14ひいては噴射孔15へと流れることができる。
【0026】
このために、通流ポケット20および通流孔21は、1つまたは複数のウェブ22が形成されるように、インジェクタヘッド11内に形成されてもよい。ウェブ22は、弁ボール50または閉鎖要素6のための案内面を形成し、半径方向にこの案内面を支持する。したがって、通流ポケット20、通流孔21およびウェブ22は、閉鎖要素座13から、縦軸線X−Xに沿って流出方向Aとは逆に、少なくとも、弁ボール50がインジェクタ1の開閉時に通過する経路全体にわたって延在している。
【0027】
複数の噴射孔15は、周にわたって、流込み領域14内での通流ポケット20または通流孔21の位置決めに対応して、インジェクタヘッド11内に穿設されており、通流ポケット20または通流孔21の周方向の位置と噴射孔15の周方向の位置とが対応している。しかし、噴射孔15を、通流ポケット20および通流孔21に依存せずに位置決めすることもできる。
【0028】
本態様では、本発明による弁スリーブ3の製造を、少なくとも2つの方法ステップにおいて行う。まず、シリンダスリーブ10を対称的な旋削部分として製造し、第2の方法ステップでは、インジェクタヘッド11を、付加製造法を用いてシリンダスリーブ10に接合する。インジェクタヘッド11とシリンダスリーブ10との間の領域は、移行領域9である。移行領域9では、インジェクタヘッド11を設ける時に、ごくわずかな量のシリンダスリーブ10の材料が溶解されており、したがって、シリンダスリーブ10とインジェクタヘッド11との間の素材接続が生じる。
【0029】
シリンダスリーブ10は、溶接可能な金属の原料から製造されていて、第2の方法ステップの前に、シリンダスリーブ10をクリーニングすることができる。シリンダスリーブ10のクリーニング時に、考えられる汚染物、たとえば、冷却剤の残留物、オイル、グリース、くず、またはこれに類するものが除去される。汚染物の除去を、部分的にだけ行ってもよい。シリンダスリーブ10は、続いて、付加製造法のために適切な装置に緊締される。このために、たとえば、液圧チャックまたは2つのハーフシェルから形成されたマルチチャックを使用することができる。
【0030】
付加製造法として、選択的レーザ積層造形法(SLM)または電子ビーム積層造形法(EBM)が適用されている。
【0031】
電子ビーム積層造形法(EBM)は、粉末床に基づいた方法である。この方法では、金属粉末が、電子ビームを用いて真空中で縦軸線X−Xの方向でシリンダスリーブ10に沿って、漸次溶解される。慣性のないビーム偏向によって(いわゆるマルチビームストラテジーの場合)、複数の平行の溶融ゾーンを発生させることができ、これにより、複数の弁スリーブ3を同時に製造することもできる。択一的に、複数の電子ビームが、シリンダスリーブ10にインジェクタヘッド11を設けることもできる。電子ビーム積層造形法(EBM)の場合、粉末床は、45μm〜105μmの粒径を有する球状の粉末から成る。シリンダスリーブ10および金属粉末が非磁性の原料から成っていると、この方法にとって有利である。なぜならば、磁性の原料は電子ビームを偏向させるからである。
【0032】
電子ビーム積層造形法(EBM)とは択一的に、同じく粉末床に基づいた方法である選択的レーザ積層造形法(SLM)を適用することもできる。この方法では、インジェクタヘッド11は、縦軸線X−Xの方向にスキージによってシリンダスリーブ10に層状に設けられていて、これに続いてレーザを用いて局所的に溶解される。このプロセスは、不活性ガス雰囲気のもとで行われる。粉末床を形成する球状の粉末は、通常は10μm〜45μmの粒径を有する。原料として、好ましくはニッケル基合金、アルミニウム合金、チタン合金または従来の工具鋼が適している。
【0033】
インジェクタヘッド11をシリンダスリーブ10に形成する早さは、インジェクタヘッド11の原料の選択に依存する。付加製造法での形成の早さは、通常は時間あたりの体積として表され、たとえば1cm
3/h〜50cm
3/hである。したがって、製造プロセスを可能な限り低コストでかつ効果的に行うために、インジェクタヘッド11は、シリンダスリーブ10と比べて、体積に関してより小さく構成されている。製造プロセスを特に効果的に行うために、インジェクタヘッド11内に中空スペースを設けてもよい。
【0034】
付加製造法に続いて、弁スリーブ3を緊締装置から取り出し、残留粉末を弁スリーブ3から吹付技術を用いて除去する。
【0035】
特に弁スリーブ3の機能面を、最後の作業ステップにおいて完成させることができる。付加製造法は、Rz約30μm〜150μmの表面品質と、±0.25mmまでの寸法精度を有することが判明したので、好適には、機能面、特に閉鎖要素座13を、最後の製造ステップにおいて後加工することが提案される。したがって、インジェクタ1は、閉鎖要素6と閉鎖要素座13とが協働することによって、完全に気密にかつ液密に閉鎖されている。
【0036】
特に
図4では、弁スリーブ3を看取することができる。この弁スリーブ3は、本発明に従って製造されたものであり、複雑な幾何学形状を有する。媒体8の最適な噴霧形成のために、インジェクタヘッド11内には、周にわたって分配された複数の通流ポケット20と、湾曲状の複数の噴射孔15とが形成されている。したがって、噴射孔15は、縦軸線X−Xに沿って曲がった流れ通路を有する。この流れ通路の横断面は、円形、楕円形および/または多角形であってもよい。
【0037】
本発明による弁スリーブ3は、内開弁式のインジェクタ1のためにも、外開弁式のインジェクタ1のためにも使用することができる。
【0038】
したがって本発明によれば、インジェクタヘッド11が複雑でかつ個々に調節可能な幾何学形状を有してもよく、同時に低コストでかつ大量生産に適して製造可能な、弁スリーブ3を提供することができる。これにより、最大限の噴霧目標設定時かつ最適な浸透時に、最善の噴霧の広がりを可能にする。
【手続補正書】
【提出日】2018年8月1日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体(8)を噴射するインジェクタ(1)の弁スリーブ(3)であって、
少なくとも1つのシリンダスリーブ(10)とインジェクタヘッド(11)とを備え、
前記インジェクタヘッド(11)は、閉鎖要素座(13)と少なくとも1つの噴射孔(15)とを有し、
前記インジェクタヘッド(11)は、付加製造法を用いて加工され、素材接続によって前記シリンダスリーブ(10)に取り付けられていることを特徴とする弁スリーブ(3)。
【請求項2】
前記インジェクタヘッド(11)内には、少なくとも1つの通流ポケット(20)および/または通流孔(21)を有する供給領域(12)が配置されていることを特徴とする、請求項1記載の弁スリーブ(3)。
【請求項3】
前記供給領域(12)は、閉鎖要素(6)を支持する少なくとも1つのウェブ(22)を有することを特徴とする、請求項2記載の弁スリーブ(3)。
【請求項4】
前記少なくとも1つの前記噴射孔(15)は、円筒状のまたは曲がった流れ通路を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の弁スリーブ(3)。
【請求項5】
前記インジェクタヘッド(11)は、前記噴射孔(15)のうちの少なくとも1つに通じる、少なくとも1つの前段部(16)を有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の弁スリーブ(3)。
【請求項6】
前記インジェクタヘッド(11)は、電子ビーム積層造形法(EBM)を用いて、金属の導電性の溶接可能な原料から加工されている、または前記インジェクタヘッド(11)は、選択的レーザ積層造形法(SLM)によって、金属の溶接可能な原料から加工されていることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の弁スリーブ(3)。
【請求項7】
前記シリンダスリーブ(10)は、溶接可能な金属の原料から成る回転対称の旋削部分であることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の弁スリーブ(3)。
【請求項8】
前記インジェクタ(1)は、燃料を噴射するインジェクタ(1)である、請求項1から7までのいずれか1項記載の弁スリーブ(3)。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載の弁スリーブ(3)を備えることを特徴とする、インジェクタ(1)。
【請求項10】
インジェクタ(1)の弁スリーブ(3)の製造方法であって、
回転対称の旋削部分から形成されたシリンダスリーブ(10)を用意するステップと、
付加製造法を用いて、少なくとも1つの噴射孔(15)と閉鎖要素座(13)とを有するインジェクタヘッド(11)を加工して、前記シリンダスリーブ(10)に取り付けるステップと、
を有することを特徴とする方法。
【請求項11】
前記付加製造法は、選択的レーザ積層造形法(SLM)または電子ビーム積層造形法(EBM)であることを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記インジェクタ(1)は、燃料インジェクタである、請求項10または11記載の方法。
【外国語明細書】