特開2018-173336(P2018-173336A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人 関西大学の特許一覧
<>
  • 特開2018173336-ハンセン溶解度指数の推定方法 図000012
  • 特開2018173336-ハンセン溶解度指数の推定方法 図000013
  • 特開2018173336-ハンセン溶解度指数の推定方法 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-173336(P2018-173336A)
(43)【公開日】2018年11月8日
(54)【発明の名称】ハンセン溶解度指数の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/22 20060101AFI20181012BHJP
   G01N 33/00 20060101ALI20181012BHJP
【FI】
   G01N33/22 B
   G01N33/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-71470(P2017-71470)
(22)【出願日】2017年3月31日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、経済産業省石油精製高付加価値化等技術開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
【住所又は居所】大阪府吹田市山手町3丁目3番35号
(71)【出願人】
【識別番号】590000455
【氏名又は名称】一般財団法人石油エネルギー技術センター
【住所又は居所】東京都港区芝公園2丁目11番1号
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀樹
【住所又は居所】大阪府吹田市山手町三丁目3番35号 学校法人関西大学 環境都市工学部内
(72)【発明者】
【氏名】田中 隆三
【住所又は居所】千葉県千葉市緑区大野台一丁目4番10号 一般財団法人石油エネルギー技術センター内
(57)【要約】
【課題】対象物質の分子構造中の基団のハンセン溶解度指数(HSP)を構成する未知のパラメータ値を推算して、対象物質のHSPを推算する方法の提供。
【解決手段】HSPを構成するパラメータが未知である基団Xを含み、かつHSPが既知である物質BXの分子構造情報を取得し(S41)、別物質BXの分子構造を基団に分解し(S42)、基団ごとの数を計数し(S43)、基団Xのパラメータに暫定値を代入し(S44)、基団Xの暫定値及び他の基団のパラメータに基づいて、別物質BXのHSPを算出し、別物質BXの算出HSPと別物質BXの既知HSPとの差Δδを算出し(S45)、基団Xを含み、かつHSPが既知である複数の物質について、差Δδを算出し(S46)、複数の物質について差Δδが最小となるように、最小二乗法を用いて、基団Xの最適パラメータを算出する(S47)。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータにより対象物質のハンセン溶解度指数を算出する方法であって、
(1)前記対象物質の分子構造情報を取得するステップと、
(2)前記対象物質の分子構造を基団に分解するステップと、
(3)前記対象物質の分子構造に含まれる前記基団ごとの数を計数するステップと、
(4)各前記基団の、ハンセン溶解度指数を構成するパラメータを取得するステップと、
(5)各前記基団のパラメータに基づいて、前記対象物質のハンセン溶解度指数を算出するステップと
を有し、
前記ステップ(4)は、パラメータが未知である目的基団のパラメータを推算するステップを含む
ことを特徴とする物質のハンセン溶解度指数推算方法。
【請求項2】
前記目的基団のパラメータを推算するステップは、
(a)前記目的基団を含み、かつ、ハンセン溶解度指数が既知である別物質の分子構造情報を取得するステップと、
(b)前記別物質の分子構造を基団に分解するステップと、
(c)前記基団ごとの数を計数するステップと、
(d)前記目的基団のパラメータに暫定値を代入するステップと、
(e)前記目的基団の前記暫定値及び他の基団のパラメータに基づいて、前記別物質のハンセン溶解度指数を算出するステップと、
(f)前記別物質の算出したハンセン溶解度指数と、前記別物質の既知のハンセン溶解度指数との差を算出するステップと、
(g)前記目的基団を含み、かつハンセン溶解度指数が既知である複数の物質について、前記ステップ(a)〜(f)を繰り返すステップと、
(h)複数の物質についてハンセン溶解度指数差が最小となるように、最小二乗法を用いて、前記目的基団の最適パラメータを算出するステップと
を有することを特徴とする、請求項1記載のハンセン溶解度指数推算方法。
【請求項3】
同一分子組成の基団を、分子構造中の環との関係で区別して、前記分子構造図を基団に分解する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のハンセン溶解度指数推算方法。
【請求項4】
同一分子組成の基団を、分子構造中で鎖を構成している基団と、環に直接結合している基団と、環を形成している基団とを区別して分解される
ことを特徴とする、請求項3記載のハンセン溶解度指数推算方法。
【請求項5】
物質のハンセン溶解度指数を推算する装置であって、
対象物質の分子構造情報を取得する構造情報取得部と、
前記対象物質の分子構造を基団に分解し、前記基団ごとの数を計数する分解、係数部と、
各前記基団の、ハンセン溶解度指数を構成するパラメータを取得する基団パラメータ取得、算出部と、
各前記基団のパラメータに基づいて、前記対象物質のハンセン溶解度指数を算出するハンセン溶解度指数算出部と
を有し、
前記基団パラメータ取得、算出部は、パラメータが未知の目的基団のパラメータを推算する
ことを特徴とする物質のハンセン溶解度指数推算装置。
【請求項6】
コンピュータに、請求項1〜3のいずれか一項に記載の物質のハンセン溶解度指数推算方法を実行させるためのプログラム。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の物質のハンセン溶解度指数推算方法により算出された対象物質のハンセン溶解度指数に基づいて、前記対象物質と混合する溶媒を選定する
ことを特徴とする溶媒選定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質のハンセン溶解度指数の推算方法、装置、プログラム、及び溶媒選定方法に係り、より詳細には、対象とする物質の分子構造を構成する基団の、ハンセン溶解度指数を構成する未知のパラメータを、コンピュータを用いて推算することにより、対象とする物質のハンセン溶解度指数を推算する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ある物質をある溶媒に溶かすという処理は、「物質の溶解性」という物理的概念に依拠するものである。しかし、実際には、多くの産業において広範に要請されているにも拘らず、対象とする物質を効果的に溶解する溶媒を探し当てることは容易ではない。
【0003】
例えば、石油精製の過程においては、重質油の分解処理をはじめとする様々な場面で、コークの前駆体であるアスファルテンの凝集を緩和、抑制する必要がある。そのため、アスファルテンの凝集を緩和、抑制する溶媒(溶剤)を原料油に予め混合しておくことが通常行われている。この場合において、原料油である重質油の性状は一定ではなく、原料油のもととなる原油の油種、性状により常に変化するものである。このため、重質油の分解処理装置の運転においては、重質油に混合される溶媒の種類及び量は、永年蓄積されてきた知見に基づいて経験的に選定されていた。
【0004】
一方、近年、原油の輸入先の多様化、輸入原油の多種化等の事情のため、重質油などの原料油の性状が多様化している。このため、原料油の様々な性状に迅速に対応することが一層重要となってきている。そこで、本出願に係る発明者らは、重質油に含まれるアスファルテンの凝集を抑制、緩和する技術について鋭意研究した結果、アスファルテンと溶媒とのハンセン溶解度指数の差(Δδ)と、アスファルテンの凝集度との間に一定の関係があることを見出し、その差(Δδ)を指標として溶媒を選定する方法を開発した。かかる選定方法が、下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−218643号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D.W.van Krevelen , K.te Nijenhuis著 「Properties of Polymers(4ed.2009)
【非特許文献2】非特許文献2:Hansen Solubility Parameters A User’s Handbook Second Edition, (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アスファルテンの溶解・凝集に深く関与する溶媒のハンセン溶解度指数の値は、文献等により報告されている既知のものを用いることができる。しかし、ハンセン溶解度指数値が報告されていない未知の溶媒の場合は適用することができない。そのため、あらゆる溶媒について、その正確なハンセン溶解度指数値を計算により求める方法が望まれていた。
【0008】
固体及び液体の物質のハンセン溶解度指数値を算出する方法として、上記の非特許文献1に記載のKrevelen & Hoftyzerの方法及びその算出式が知られている。この方法は、物質の分子構造式を「-CH3」のような基団に分解し、それぞれの基団に固有の、ハンセン溶解度指数を構成するパラメータ値を一定の計算式に代入して計算すれば、当該物質のハンセン溶解度指数値が求められるというものである。
【0009】
ところが、非特許文献1には、限定された種類の基団についてしかパラメータ値が記載されていない。このため、アスファルテンのような複雑な分子構造式及び特殊な基団を多く含む物質については、既知の基団のパラメータ値のみを用いてハンセン溶解度指数値を計算することが困難であった。
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、ハンセン溶解度指数値が未知の物質について、その分子構造式に基づいて、極めて正確なハンセン溶解度指数値を計算により求める方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本出願に係る発明者らは、ハンセン溶解度指数値が未知の物質について、極めて正確なハンセン溶解度指数値を計算により求める方法について鋭意研究した結果、当該物質の分子構造式がわかれば、上記の非特許文献1に記載の方法を用いるにあたり、上記の非特許文献1において基団に固有のパラメータであるFd, Fp, Ehの値が示されていない基団について、それらパラメータの値を求めるための計算方法を案出した。ひいては、これらの値が求まることにより、その物質のハンセン溶解度指数値を求めることができることを見出した。そして、かかる知見に基づき、本発明を完成させた。
【0012】
本発明の物質のハンセン溶解度指数推算方法は、コンピュータにより物質のハンセン溶解度指数を算出する方法であって、
(1)対象物質の分子構造情報を取得するステップと、
(2)対象物質の分子構造を基団に分解するステップと、
(3)対象物質の分子構造に含まれる基団ごとの数を計数するステップと、
(4)各基団の、ハンセン溶解度指数を構成するパラメータを取得するステップと、
(5)各基団のパラメータに基づいて、前記対象物質のハンセン溶解度指数を算出するステップと
を有し、
前記ステップ(4)は、パラメータが未知の目的基団のパラメータを推算するステップを含むことを特徴としている。
【0013】
本発明によれば、対象物質の分子構造中の基団(「原子団」、「基」ともいう)の、ハンセン溶解度指数を構成する未知のパラメータ値を推算して、対象物質のハンセン溶解度指数を推算することができる。
【0014】
また、本発明のハンセン溶解度指数推算方法において、好ましくは、目的基団のパラメータを推算するステップは、
(a)未知基団を含み、かつ、ハンセン溶解度指数が既知である別物質の分子構造情報を取得するステップと、
(b)別物質の分子構造を基団に分解するステップと、
(c)基団ごとの数を計数するステップと、
(d)目的基団のパラメータに暫定値を代入するステップと、
(e)目的基団の前記暫定値及び他の基団のパラメータに基づいて、別物質のハンセン溶解度指数を算出するステップと、
(f)別物質の算出したハンセン溶解度指数と、別物質の既知のハンセン溶解度指数との差を算出するステップと、
(g)目的基団を含み、かつハンセン溶解度指数が既知である複数の物質について、ステップ(a)〜(f)を繰り返すステップと、
(h)複数の物質についてハンセン溶解度指数差が最小となるように、最小二乗法を用いて、目的基団の最適パラメータを算出するステップと
を有する。
【0015】
これにより、対象物質の分子構造中の基団の、ハンセン溶解度指数を構成する未知のパラメータ値を、最小二乗法により推算して、対象物質のハンセン溶解度指数を推算することができる。
【0016】
また、本発明のハンセン溶解度指数推算方法において、好ましくは、同一分子組成の基団(即ち、構成原子が同一の原子団)を、分子構造中の環との関係で区別して、前記基団を分類する。
これにより、基団のパラメータをより正確に推算することができ、その結果、その基団を含む物質のハンセン溶解度指数をより正確に推算することができる。
【0017】
また、本発明のハンセン溶解度指数推算方法において、好ましくは、同一分子組成の基団(即ち、構成原子が同一の原子団)を、分子構造中で鎖を構成している基団と、環に直接結合している基団と、環を形成している基団とを区別して分解される。
このように、環との関係において基団を区別することにより、基団のパラメータをより正確に推算することができ、その結果、その基団を含む物質のハンセン溶解度指数をより正確に推算することができる。
【0018】
本発明のハンセン溶解度指数推算装置は、物質のハンセン溶解度指数を推算する装置であって、対象物質の分子構造情報を取得する構造情報取得部と、対象物質の分子構造を基団に分解し、記基団ごとの数を計数する分解、係数部と、各基団の、ハンセン溶解度指数を構成するパラメータを取得する基団パラメータ取得、算出部と、各基団のパラメータに基づいて、対象物質のハンセン溶解度指数を算出するハンセン溶解度指数算出部とを有し、基団パラメータ取得、算出部は、パラメータが未知の目的基団のパラメータを推算することを特徴としている。
【0019】
本発明によれば、対象物質の分子構造中の基団の、ハンセン溶解度指数を構成する未知のパラメータ値を推算して、対象物質のハンセン溶解度指数を推算することができる。
【0020】
本発明のプログラムは、コンピュータに、請求項1〜3のいずれか一項に記載の物質のハンセン溶解度指数推算方法を実行させることを特徴としている。
【0021】
本発明のプログラムによれば、コンピュータを請求項4記載のハンセン溶解度指数推算装置として機能させることができる。これにより、物質のハンセン溶解度指数を推算することができる。
【0022】
本発明の溶媒選定方法によれば、請求項1〜3のいずれか一項に記載の物質のハンセン溶解度指数推算方法により算出された対象物質のハンセン溶解度指数に基づいて、前記対象物質と混合する溶媒を選定することを特徴としている。
【0023】
これにより、物質のハンセン溶解度指数の推算結果に基づいて、適切な溶媒種を選定することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、対象物質の分子構造中の基団の、ハンセン溶解度指数を構成する未知のパラメータ値を推算して、対象物質のハンセン溶解度指数を推算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態による物質のハンセン溶解度指数の推算装置の機能ブロック図である。
図2】本発明の実施形態による物質のハンセン溶解度指数の推算方法のフローチャートである。
図3】物質のハンセン溶解度指数を構成するパラメータの推算方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(1.Krevelen & Hoftyzerの方法)
本発明の実施形態の説明に先立ち、非特許文献1に記載のKrevelen & Hoftyzerの固体及び液体の物質のハンセン溶解度指数値を算出する方法について説明する。
【0027】
Krevelen & Hoftyzerの方法では、以下のようにして、ある「化合物X」のハンセン溶解度指数値をコンピュータにより算出する。
(1)まず、ある物質のハンセン溶解度指数値(δt)は、次の式で求められる。
【0028】
【数1】
【0029】
ハンセン溶解度指数値(HSP)とは、ある物質がある溶媒にどのくらい溶けるのかを示す溶解性の指標であり、溶解性を[分散項(δ)、分極項(δ)、水素結合項(δ)]のベクトルで表すものである。ハンセン溶解度指数値の模式図を示す。
【0030】
【0031】
(2)また、δd, δp, δhは、次の式で求められる。
【0032】
【数2】
【0033】
ここで、Fd値((MJ/m3)1/2・mol-1)とは、各「基」の分散力に起因するモル引力定数であり、Fp値((MJ/m3)1/2・mol-1)とは、各「基」の双極子間力に起因するモル引力定数であり、Eh値(J・mol-1)とは、各「基」の水素結合エネルギーである。
【0034】
また、Vはモル体積であり、式(3)により求めることができる。
【0035】
【数3】
【0036】
ここでVcは各「基」のモル体積である。
【0037】
(3)ここで、Krevelen & Hoftyzerの文献では、28種の「基」について、Fd値, Fp値, Eh値が示されている。(D.W.van Krevelen , K.te Nijenhuis著 「Properties of Polymers(4ed.2009)」 215ページ)。また、Vc値については、同195−197ページに各種の「基」について記載されている。
【0038】
例えば、「ある化合物Z」が、1個の基Aと2個の基Bと1個の基Cから成り立っている場合において、同文献215ページの表及び195−197ページの表には、基AのFd値として「ad」、Fp値として「ap」、Eh値として「ah」、Vc値として「av」という数値が記載され、基BのFd値として「bd」、Fp値として「bp」、Eh値として「bh」、Vc値として「bv」という数値が記載され、また、基CのFd値として「cd」、Fp値として「cp」、Eh値として「ch」、Vc値として「cv」という数値が記載されているとする。
【0039】
この場合、その化合物ZにおけるFd値, Fp2値, Eh値,Vc値は次のようになる。
【0040】
【表1】
【0041】
なお、基Bだけ「2×」となっているのは、基Bは2個あるからである。
【0042】
(4)以上のFd値, Fp2値, Eh値,Vc値を、上記式(3)及び式(2)に代入すれば、化合物Zのδd, δp, δhが求まり、それを式(1)に代入すれば、化合物Zのハンセン溶解度指数値(δt)に到達することができる。
【0043】
このように、ある化合物のハンセン溶解度指数値を求めたいとき、その化合物を「基」に分解し、まず、化合物を構成しているすべての「基」のFd値, Fp値, Eh値及びVc値を知る。すべての「基」のFd値, Fp値, Eh値びVc値がわかれば、それらの値をKrevelen & Hoftyzerの式(即ち、上記式(2)及び(1))に代入することにより、その化合物のハンセン溶解度指数値を得ることができる。
【0044】
(2.装置)
次に、図1を参照して、本発明のハンセン溶解度指数推算装置の実施形態を説明する。図1は、実施形態のハンセン溶解度指数推算装置の機能ブロック図である。コンピュータに本発明のプログラムを実行させることにより、コンピュータがハンセン溶解度指数推算装置として機能する。
なお、図1では、情報の入力及び出力を行うインタフェースの図示を省略している。
【0045】
本装置は、演算装置1と記憶部2とを備えている。演算装置1は、1つのCPUで構成してもよいし、通信回線を介して互いに接続された複数の演算装置で構成されてもよい。また、記憶部2は、演算装置1に内蔵されていてもよいし、外部装置であってもよいし、通信回線を介して接続された記憶装置であってもよい。
【0046】
本演算装置1は、構造情報取得部10と、分解、計算部20と、基団パラメータ取得と、算出部30と、ハンセン溶解度指数(HSP)算出部40とを有している。
【0047】
(2−1.構造情報取得部)
構造情報取得部10は、対象物質の分子構造情報を取得する。
(2−2.分解、計算部)
分解、計算部20
対象物質の分子構造を基団に分解し、前記基団ごとの数を計数する
(2−3.基団パラメータ取得、算出部)
基団パラメータ取得、算出部30は、各基団の、ハンセン溶解度指数を構成するパラメータを取得する。基団パラメータ取得、算出部30はまた、図2のフローチャートを参照して後述するように、パラメータが未知の目的基団のパラメータを推算する。
(2−4.ハンセン溶解度指数(HSP)算出部)
ハンセン溶解度指数(HSP)算出部40は、各基団のパラメータに基づいて、上述したKrevelen & Hoftyzerの方法により、対象物質のハンセン溶解度指数を算出する。
【0048】
(3.方法)
次に、図2を参照して、本発明のハンセン溶解度指数推算方法の実施形態を説明する。図2は、実施形態のハンセン溶解度指数推算方法のフローチャートである。本方法は、本発明のプログラムによりをコンピュータによって実行される。
【0049】
ここでは、対象物質である化合物AXの未知のハンセン溶解度指数を推算する例を説明する。
まず、化合物AXの分子構造情報として構造式を取得する(S1)。
【0050】
次に、化合物AXの分子構造を基団に分解する(S2)。
このとき、同一分子組成の基団を、分子構造中の環との関係で区別して、前記基団を分類する。例えば、基団「−CH−」は、分子構造中で鎖を構成している基団と、環に直接結合している基団と、環を形成している基団とを区別することが好ましい。
【0051】
次に、基団ごとの数を計数する(S3)。例えば、基団「−CH−」は、分子構造中で鎖を構成している基団と、環に直接結合している基団と、環を形成している基団とを別々に計数する。
【0052】
次に、各基団の、ハンセン溶解度指数を構成するパラメータを取得する(S4)。化合物AXの構造式を基に含まれる基団のパラメータ(Fd値, Fp値, Eh値, Vc)の値が上記の非特許文献1等により既知であるものについては、その既知のパラメータ値を利用する。
一方、基団Xの未知のパラメータについては以下のようにして推算する。
【0053】
ここで、図3のフローチャートを参照して、基団Xの未知のパラメータを推算する方法を説明する。
(a)まず、未知基団Xを含み、かつ、ハンセン溶解度指数が既知である別物質BXの分子構造情報を取得する(S41)。
別物質BXとしては、例えば、非特許文献2:Hansen Solubility Parameters A User’s Handbook Second Edition, (2007)においてハンセン溶解度指数値(δt)が報告されている環状化合物422種のうち、非特許文献1に、基団のパラメータ(Fd値, Fp値, Eh値, Vc値)が開示されていない物質を選び出すことが好ましい。
【0054】
(b)次に、物質BXの分子構造を基団に分解する(S42)。
【0055】
(c)次に、基団ごとの数を計数する(S43)。
【0056】
(d)次に、目的基団Xのパラメータに暫定値を代入する(S44)。
【0057】
(e)次に、目的基団Xの暫定値及び他の基団のパラメータに基づいて、別物質BXのハンセン溶解度指数を算出する(S45)。
基団Xのパラメータの暫定値を、上記の式(3)及び式(2)に代入して、V,δd, δp, δhの数値を算出し、次いで、上記の式(1)にこれらの数値を代入して、物質BXのハンセン溶解度指数の値δtを算出する。
【0058】
(f)別物質BXの算出した推算HSPと、別物質の既知のHSPとの差Δδを算出する(S46)。例えば、ステップ(e)で算出した化合物BXのδt値と、非特許文献2に記載されている化合物BXのδt値との差Δδを算出する。
【0059】
(g)次に、上記のステップ(a)〜(f)のようにして、目的基団Xを含む複数の物質(CX、DX、・・・)について、Δδを算出する(S47)。
【0060】
(h)次に、複数の物質BX、CX、DX、・・・についてハンセン溶解度指数差Δδが最小となるように、最小二乗法を用いて、目的とする基団Xの最適パラメータを算出する(S48)。
【0061】
なお、基団Xの他にパラメータが未知である基団Yがある場合は、同様にして、基団Yのパラメータ(Fd値, Fp値, Eh値, Vc値)の最適値も求めることができる。
【0062】
次に、推算した基団Xのパラメータを含む、各基団のパラメータに基づいて、対象物質AXのHSPを算出する(S5)。
基団Xのパラメータを含む各基団のパラメータ値を、上記の式(3)及び式(2)に代入して、HSPを構成する各パラメータV,δd, δp, δhの数値を算出し、次いで、上記の式(1)にこれらの数値を代入して、物質AXのHSPの値δtを算出する。
【0063】
このようにして、対象物質AXの分子構造中に、ハンセン溶解度指数を構成するパラメータが未知である基団Xが含まれる場合であっても、その未知のパラメータ値を推算して、対象物質AXのハンセン溶解度指数を推算することができる。
【0064】
(実施例)
本実施例では、化合物AXの未知のハンセン溶解度指数を推算するために、以下に示す11種類の化合物(分子種O−01〜O−11)について、これらの化合物を構成する各基団のパラメータを推算した。
【0065】
【化1】
【0066】
なお、上記の11種類の化合物(分子O−01〜O−11)のハンセン溶解度指数値(δt)は、原子団寄与法により、コンピュータを用いて算出したものを既知の値と用いている。
【0067】
まず、非特許文献1において、化合物を形成している基団について、パラメータFd値, Fp値, Eh値及びVc値が示されている場合は、その数値を用いて算出した。
【0068】
例えば、「O-01」分子の場合、基は、「CH−」が2個と「−CH−」が28個とからなっている。前出のKrevelen & Hoftyzerの文献によると、「CH−」のFd値は420、Vc値は33.5と記載されており、「−CH−」のFd値は270、Vc値は16.1と記載されているのでこれらの値を用い、前出の式(3)及び式(2)より、「O−01」のδdは、{(420×2)+(270×28)}/{(33.5×2)+(16.1×28)}=16.22となる。δp 及びδhについても同様に計算して、ハンセン溶解度指数値δt=16.22 と算出することができた。
【0069】
一方、Krevelen & Hoftyzerの文献においてFd値, Fp値, Eh値及びVc値が示されていない基が分子内に存在する場合は、その基のFd値, Fp値, Eh値及びVc値は、未知の基を有する分子におけるハンセン溶解度指数値の求め方(前出)をコンピュータに実行させることにより算出し、表に記載の値を得た。
【0070】
例えば、「O−02」分子の場合、構造上の同種性に基づいて、以下のように5種の基に分解した。
【0071】
【化2】
【0072】
その結果、以下のように分割され、かつ原子団ごとに係数される。
「CH基」(末端にあるメチル基) 赤色 2個
「CH基(鎖)」(単純に鎖を形成しているメチレン基) 緑色 8個
「CH基(on cyclo)」(シクロ環に直接結合しているメチレン基) オレンジ色 2個
「CH基(in cyclo)」(シクロ環を形成しているメチレン基) 青色 10個
「CH基(in cyclo)」(シクロ環を形成しているメチン基) 赤色 8個
【0073】
なお、これら5種の基のうち、非特許文献1においては、基団のパラメータFd値, Fp値, Eh値及びVc値が明確に示されているのは、CH基のみである。よって、CH基については、非特許文献1に記載されている値を用いた。
【0074】
一方、CH基については、「−CH−」という形にて記載されているのみで、この「−CH−」がどういうポジションにあるのか、即ち、鎖を形成するものを表しているのか、それともシクロ環に直接結合しているもの(「on cyclo」)なのか、又はシクロ環自体を形成しているもの(「in cyclo」)なのかは不明である。
【0075】
また、CH基についても、「>CH−」及び「=CH−」という形にて記載されているのみで、シクロ環を形成している「in cyclo」については記載されていない。
【0076】
そこで、CH基については、「鎖」、「on cyclo」又は「in cyclo」の違いにより3種を別物とした。また、CH基についても、シクロ環を形成している「in cyclo基」であると特定し、これらを未知の基として、「未知の基を有する分子におけるハンセン溶解度指数値の求め方(前出)」に従い、コンピュータにて計算を実行させることにより、以下の表2に示すようにパラメータFd値, Fp値, Eh値及びVc値を得た。
【0077】
【表2】
【0078】
以上より、「O−02」分子のδd値は16.65、δp値は0.07、δh値は0 となり、δt値は16.65となる。
【0079】
また、「O−03」〜「O−11」についても同様の方法で求めることができた。
結果は、下記の表3に示すとおりである。
【0080】
【表3】
【0081】
このようにして推算された基団Xのパラメータに基づいて、化合物AXのハンセン溶解度指数を推算する。
【0082】
さらに、このようにして推算された化合物AXのハンセン溶解度指数に基づいて、化合物AXと混合するのに最適な溶媒が選定される。
【産業上の利用可能性】
【0083】
このように、物質を構成する種々の各基団についてきめ細かくパラメータ
きめ細かく種々の基団についてパラメータFd値, Fp値, Eh値を得ることができるので、推算されるハンセン溶解度指数値の正確さが向上し、石油産業に限らず、広い分野に応用することができる。
図1
図2
図3