(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-174491(P2018-174491A)
(43)【公開日】2018年11月8日
(54)【発明の名称】人工衛星
(51)【国際特許分類】
H04B 1/7087 20110101AFI20181012BHJP
B64G 1/10 20060101ALI20181012BHJP
B64G 1/66 20060101ALI20181012BHJP
H04B 1/16 20060101ALI20181012BHJP
【FI】
H04B1/7087
B64G1/10
B64G1/66 B
H04B1/16 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-72478(P2017-72478)
(22)【出願日】2017年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】301072650
【氏名又は名称】NECスペーステクノロジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】岡田 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】谷島 正信
(72)【発明者】
【氏名】中台 光洋
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智隼
【テーマコード(参考)】
5K061
【Fターム(参考)】
5K061AA11
5K061CC53
(57)【要約】
【課題】ドップラー現象などにより周波数オフセットが大きく生じる環境下で、高精度な周波数オフセット推定を早期に実施可能に構成された人工衛星を提供する。
【解決手段】人工衛星に、受信波の受信電力レベルと該受信電力レベルの時間変動を取得し、受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動に基づいて該衛星のドップラー周波数を導出処理して推定ドップラー周波数として出力するドップラー推定部と、推定ドップラー周波数と復調用のローカル周波数の信号を掛け合わせることにより、ローカル周波数を推定ドップラー周波数分オフセットさせる乗算部と、を含むドップラー補償回路を設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信波の受信電力レベルと該受信電力レベルの時間変動を取得し、前記受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動に基づいて該衛星のドップラー周波数を導出処理して推定ドップラー周波数として出力するドップラー推定部と、
推定ドップラー周波数と復調用のローカル周波数の信号を掛け合わせることにより、ローカル周波数を推定ドップラー周波数分オフセットさせる乗算部と、
を含むドップラー補償回路
を具備することを特徴とする人工衛星。
【請求項2】
受信波の搬送波周波数と受信機搬送波周波数との周波数誤差をスイープ方式によって補償する補償回路を前記ドップラー補償回路の後段に含むことを特徴とする請求項1に記載の人工衛星。
【請求項3】
前記ドップラー推定部は、受信波の受信電力レベルと該受信電力レベルの時間変動を取得し、光速(C)送信局の位置、搬送波波長(λ)、送信等価等方輻射電力(送信EIRP:Equivalent Isotropically Radiated Power,Pt*Gt)、受信アンテナゲイン(Gr)を固定パラメータとして扱い、前記受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動に基づいて、該衛星のドップラー周波数を算出して推定ドップラー周波数として前記乗算部に出力することを特徴とする請求項1又は2に記載の人工衛星。
【請求項4】
前記ドップラー推定部は、受信波の受信電力レベルと該受信電力レベルの時間変動を取得し、予め受信電力レベルに対応付けて準備された推定ドップラー周波数の候補を記録した参照情報を参照して、取得した受信波の受信電力レベルに基づいて推定ドップラー周波数の候補を算出し、受信信号レベルの時間変動に基づいて候補内から推定ドップラー周波数を選択して前記乗算部に出力することを特徴とする請求項1又は2に記載の人工衛星。
【請求項5】
前記乗算部によって推定ドップラー周波数分オフセットされたローカル周波数を復調処理に使用するスペクトラム拡散受信機を具備することを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の人工衛星。
【請求項6】
前記ドップラー推定部及び前記乗算部は、復調器と共に受信機内のオンボード内に組み込まれていることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の人工衛星。
【請求項7】
前記送信局からの受信波を受信するアンテナとして無指向性アンテナを搭載することを特徴とする請求項1から6の何れか一項に記載の人工衛星。
【請求項8】
受信波の受信電力レベルを検波する第1の計算回路と、
前記第1の演算回路から受信電力レベルを逐次受け付けて、受信電力レベルの時間変動を算出する第2の演算回路と、
前記第1の演算回路及び前記第2の演算回路から受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動を逐次受け付けて、受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動から、該衛星のドップラー周波数を導出処理して推定ドップラー周波数として逐次出力する第3の演算回路と、
推定ドップラー周波数と復調用のローカル周波数の信号を掛け合わせることにより、ローカル周波数を推定ドップラー周波数分オフセットさせる混合器と、
を含み成るドップラー補償回路。
【請求項9】
人工衛星内に設けられたドップラー補償回路によって、
受信波の受信電力レベルと該受信電力レベルの時間変動を取得し、前記受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動に基づいて該衛星のドップラー周波数を導出処理して推定ドップラー周波数として出力し、
推定ドップラー周波数と復調用のローカル周波数の信号を掛け合わせることにより、ローカル周波数を推定ドップラー周波数分オフセットさせる、
工程を含むことを特徴とするドップラー補償方法。
【請求項10】
人工衛星内に設けられたドップラー補償回路によって、
受信波の受信電力レベルと該受信電力レベルの時間変動を取得し、前記受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動に基づいて該衛星のドップラー周波数を導出処理して推定ドップラー周波数として出力し、
推定ドップラー周波数と復調用のローカル周波数の信号を掛け合わせることにより、ローカル周波数を推定ドップラー周波数分オフセットさせる、
第1の工程と、
受信波の搬送波周波数と受信機搬送波周波数との周波数誤差をスイープ方式によって補償する第2の工程と、
を含むことを特徴とする衛星内搬送波周波数補償方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドップラー補償回路を具備する人工衛星に関する。
【背景技術】
【0002】
地球を周回する人工衛星(以降、単に衛星とも記載)は地上局に対して高速で移動する。このため、地上局から送信した信号を衛星で受信する場合、ドップラー効果によって送信搬送波周波数と衛星に搭載された受信機が期待する受信搬送波周波数の間に周波数誤差が生じる。
【0003】
静止衛星の場合、低軌道から静止軌道への遷移軌道において対地上局の相対速度が大きくなり、送受信搬送波周波数の誤差が大きくなる。
【0004】
送信搬送波周波数と受信機が期待するノミナル搬送波周波数とが異なる場合、受信機の信号捕捉特性や信号同期特性を劣化させ、地上局からの送信信号を捕捉が困難であったり、受信した信号の復調ができなくなる。
【0005】
近年衛星での利用が拡大しているスペクトラム拡散方式の受信機においては、送信機側で拡散コードを用いてスペクトル拡散された送信波を受信して、逆拡散処理を行った後に復調する。ドップラーによる周波数誤差は、主信号を抽出するための逆拡散処理に大きな影響を及ぼす。このため、受信機側でドップラーによる周波数誤差を補償する機能が必要である。
【0006】
関連する技術としては、特許文献1が挙げられる。この特許文献1には、通信効率を損なうことなく高速に周波数同期処理を試みるスペクトラム拡散受信機が記載されている。このスペクトラム受信機では、同期処理として、初期捕捉処理の他に、送信機と受信機との間に存在する周波数オフセットの推定および補正を行っている。
【0007】
ドップラーによる周波数誤差を補償する機能に対しては以下のような手法が多く採用されている。
【0008】
1)受信機の復調に用いるローカル周波数をスイープすることで、受信機の期待する受信搬送波周波数を可変する。
【0009】
2)受信信号のフーリエ変換結果を基に、復調に用いるローカル周波数を変更することで、受信機の期待する受信搬送波周波数を変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015−162722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
人工衛星の運用にあたり現状の通信環境を改善する際に、幾つかの技術的課題がある。
【0012】
人工衛星と地上局との通信(例えばコマンド送信)を行う際に、ドップラーにより発生する周波数誤差をより効率的かつ効果的に取り除きたい。
【0013】
これに対して上記例示した2つの手法に対しては、それぞれ以下のような問題を示すことができる。
【0014】
1)コマンド信号の搬送波周波数が高くなるほど、ドップラー効果による周波数誤差が拡大する。そのため、ローカル信号の必要スイープ範囲も拡大する。例えば衛星通信で利用されているKa帯信号(30GHz帯)では数100kHz程度の変動が生じる。必要スイープ範囲が拡大すると捕捉時間の増加などの問題が生じる。このため、衛星の運用に制限が生じる。
【0015】
2)フーリエ変換は実用的な周波数分解能を得るためにはディジタル回路での演算負荷が大きく、かつほぼリアルタイムで処理する必要があるため、衛星搭載オンボード用のプログラマブルIC (FPGA(Field-Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit))では実装に難を有する。
【0016】
人工衛星に搭載するコマンド受信機を想定した場合、この受信機は、地上局からの変調された信号を受信し、復調して衛星に信号を渡す働きを担っている。近年周波数帯の逼迫によって衛星通信にKa帯(30GHz帯)が盛んに使用されるようになっている。このKa帯は、RF(Radio Frequency)周波数が高く、ドップラーシフトなどによる周波数オフセットが低周波帯に比べ大きく影響する。
【0017】
このような周波数オフセットが大きな環境において、例えばスペクトラム拡散方式の拡散コードの初期捕捉が早期に可能であることが求められる。直接拡散方式のスペクトラム拡散受信機においては、検出過程でスペクトラム拡散受信機の期待する搬送波周波数と受信波の搬送波周波数の差が許容量より大きい場合、すなわち周波数オフセットが許容量より大きい場合、初期捕捉を実施できない。また、周波数オフセットが許容量(周波数スイープ範囲)内であっても、周波数誤差が大きい場合、スイープに要する時間が増すことになる。また、衛星搭載品のプログラマブルIC(FPGAやASIC)に実装可能な方式であることが望ましい。
【0018】
この対策として、特許文献1に記載の方式では、スペクトラム拡散受信機において、拡散処理された受信信号の拡散コードの位相タイミングの検出と同時に、周波数検波により周波数オフセット(受信機の期待する搬送波周波数と受信波の搬送波周波数の差)を推定している。しかしながら、この方式は、演算量が多大にかかる。
【0019】
本発明は、上記課題に鑑みて成されたものであり、ドップラー現象などにより周波数オフセットが大きく生じる環境下で、高精度な周波数オフセット推定を早期に実施可能に構成された人工衛星の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一実施形態に係る人工衛星は、受信波の受信電力レベルと該受信電力レベルの時間変動を取得し、前記受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動に基づいて該衛星のドップラー周波数を導出処理して推定ドップラー周波数として出力するドップラー推定部と、推定ドップラー周波数と復調用のローカル周波数の信号を掛け合わせることにより、ローカル周波数を推定ドップラー周波数分オフセットさせる乗算部と、を含むドップラー補償回路を具備する。
【0021】
また、本発明の一実施形態に係るドップラー補償回路は、受信波の受信電力レベルを検波する第1の演算回路と、前記第1の演算回路から受信電力レベルを逐次受け付けて、受信電力レベルの時間変動を算出する第2の演算回路と、前記第1の演算回路及び前記第2の演算回路から受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動を逐次受け付けて、受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動から、該衛星のドップラー周波数を導出処理して推定ドップラー周波数として逐次出力する第3の演算回路と、推定ドップラー周波数と復調用のローカル周波数の信号を掛け合わせることにより、ローカル周波数を推定ドップラー周波数分オフセットさせる混合器と、を含み構成される。
【0022】
また、人工衛星内に設けられたドップラー補償回路によるドップラー補償方法は、受信波の受信電力レベルと該受信電力レベルの時間変動を取得し、前記受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動に基づいて該衛星のドップラー周波数を導出処理して推定ドップラー周波数として出力し、推定ドップラー周波数と復調用のローカル周波数の信号を掛け合わせることにより、ローカル周波数を推定ドップラー周波数分オフセットさせる、工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ドップラー現象などにより周波数オフセットが大きく生じる環境下で、高精度な周波数オフセット推定を早期に実施可能に構成された人工衛星を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1の実施形態のドップラー補償回路100を具備した人工衛星1を示した構成図である。
【
図2】ドップラー推定部110の推定方法1を説明するためのフローチャートである。
【
図3】ドップラー推定部110の推定方法2を説明するためのフローチャートである。
【
図4】本発明の第2の実施形態のドップラー補償回路100を具備した衛星の内部構造を示した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態のドップラー補償回路100を具備した人工衛星1を示した構成図である。人工衛星1は、ドップラー補償回路100を受信機10内に具備する。人工衛星1は、少なくともドップラー補償回路100によって補償されたローカル周波数を復調処理に用いる。
【0027】
ドップラー補償回路100は、受信信号波と補償前のローカル周波数波を受け付け、ドップラー補償して、ドップラー補償後のローカル周波数波を出力する。ドップラー補償後のローカル周波数波は、別の受信周波数補償回路や復調器などの後段回路で適宜使用される。受信周波数補償回路は、受信信号の搬送波周波数と受信機搬送波周波数との周波数誤差をスイープ方式によって補償する補償回路が望ましい。なお、受信機(通信方式)は、特に限定しないものの、以下はスペクトラム拡散受信機(スペクトラム拡散通信方式)を念頭に説明する。
ドップラー補償回路100は、ドップラー推定部110と乗算部120とから構成される。
【0028】
ドップラー推定部110は、受信波の受信電力レベルとその時間変動を取得し、受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動に基づいて自衛星までのドップラー周波数を導出処理して推定ドップラー周波数として出力する回路である。
【0029】
乗算部120は、推定ドップラー周波数と復調用のローカル周波数の信号を掛け合わせることにより、ローカル周波数を推定ドップラー周波数分オフセットさせる混合器である。
【0030】
このドップラー補償後のローカル周波数波を得ることによって、人工衛星1は、例えばスイープによる周波数補償や、スペクトラム受信機における拡散コードの検出、同期などを高精度且つ高速に実現する。例えドップラー効果による周波数オフセットが大きく生じていた環境下でも、ドップラー効果による周波数オフセットが小さい環境下と同様に、高精度な周波数オフセット推定を早期に実現可能にする。
【0031】
このように、本実施形態のドップラー補償回路100を搭載することで、ドップラー現象などにより周波数オフセットが大きく生じる環境下で、高精度な周波数オフセット推定を早期に実施可能に構成された人工衛星1を得られる。
【0032】
ここで、ドップラー推定部110で使用できるドップラー周波数推定方法を3つ例示して説明する。
図2は、ドップラー推定部110の推定方法1を説明するためのフローチャートである。
図3は、ドップラー推定部110の推定方法2を説明するためのフローチャートである。 ドップラー推定部110は、人工衛星1と地上局との関係で既知のパラメータを確定パラメータとして使用し、受信波の受信電力レベルとその時間変動に基づいて地上局からの送信波が衛星に到達するまでに生じたドップラー周波数を推定する。
【0033】
[推定方法1]
1つの目の推定方法は、受信電力レベル及び時間変動のみを変動する計算パラメータに入れ込み、残りのパラメータを固定値を用いて演算する方法である。
【0034】
まず、ドップラー推定部110(ドップラー補償回路100)は、受信信号波の受信信号レベルとその時間変動を逐次取得する(S101)。
【0035】
次に、ドップラー推定部110は、送信局の位置,送信局の使用電波,搬送波波長(λ), 送信等価等方輻射電力(送信EIRP:Equivalent Isotropically Radiated Power,Pt*Gt), 受信アンテナゲイン(Gr)等の既知パラメータを固定し、推定ドップラー周波数を受信信号波の受信信号レベルとその時間変動の値から逐次演算して乗算器120に逐次出力する(S102)。
【0036】
その後、逐次出力された推定ドップラー周波数は、乗算器120においてローカル周波数波の補償に使用される。
【0037】
以下の最終式(1)のように、このうちλ(搬送波波長),C(光速),Pt*Gt(送信EIRP)、Gr(受信アンテナゲイン)は固定パラメータとして取り扱えるため、衛星のドップラー周波数Δfは受信電力及びその時間変化より計算できる。
【0039】
R: 地上局衛星間距離(視線方向)、v0:視線方向速度、Pr: 受信電力、Pt: 送信電力、Gt: 送信アンテナゲイン、Gr: 受信アンテナゲイン、λ: 搬送波波長、f: 搬送波周波数、V: 搬送波速度(=c:光速)
【0040】
[推定方法2]
2つの目の推定方法は、ドップラー周波数候補と受信電力と対応付けた参照情報に基づいて推定ドップラー周波数の候補を演算し、受信電力の変化率に基づいて推定ドップラー周波数を確定する方法である。
【0041】
まず、ドップラー推定部110(ドップラー補償回路100)は、受信信号波の受信信号レベルとその時間変動を逐次取得する(S201)。
【0042】
次に、ドップラー推定部110は、参照情報に基づいて推定ドップラー周波数候補を受信信号波の受信信号レベルの値から逐次演算する(S202)。
【0043】
次に、ドップラー推定部110は、受信信号レベルの時間変動に基づいて候補内から推定ドップラー周波数を選択して乗算器120に逐次出力する(S203)。
【0044】
その後、逐次出力された推定ドップラー周波数は、乗算器120においてローカル周波数波の補償に使用される。
【0045】
人工衛星1の軌道は予め決まっている。また、送信局となる地上局及び送信波(強さや周波数)も予め決められる。このため、受信電力及びドップラー周波数は、既知パラメータ(送信波や地上局位置など)と軌道位置(衛星位置)によって導き出せ、この関係を取り纏め、ドップラー周波数と受信電力と対応付けた参照情報を予め作成できる。
【0046】
参照情報はどのように人工衛星1に組み入れられていてもよいものの、データベースやテーブル形式で人工衛星1に組み入れればよい。また、この参照情報は衛星製造時に組み入れてもよいし、衛星の運用開始時等に通信で衛星に組み入れてもよく、特に限定しない。
【0047】
この参照情報には、既知である送信局の位置座標、衛星軌道、送信電波等を既知パラメータとして、自衛星での受信電力レベルに対応付けられて、軌道上の位置座標や予め算出されているドップラー周波数候補が記録されている。このテーブル等で回路に組み入れられた参照情報に基づいて、受信電力からドップラー周波数候補を計算し、受信電力の変化率を計算して符号(+ or −)の不確定性について解消する。
【0048】
次に、衛星回路構成例を示して本発明を説明する。
【0049】
[第2の実施形態]
図4は、第2の実施形態のドップラー補償回路100を具備した人工衛星1の内部構造を示した構成図である。
【0050】
本構成は、ドップラー補償回路100とスイープ方式によって補償する補償回路を含む復調器とを組み合わせて、受信波の捕捉時間を短縮した受信機10(スペクトラム受信機)を示している。
【0051】
本受信機10の構成では、衛星内でスイープ方式によるドップラー補償を行う上で、ドップラー効果による周波数誤差をオンボードで推定し、復調に用いるローカル周波数のスイープ開始周波数を、推定周波数近傍に設定する。このことにより、スイープ周波数範囲の極小化を実現し、捕捉時間の短縮を図る。
【0052】
周波数誤差の推定は、上記した推定方法を用いる。すなわち、スペクトラム受信機の受信レベル及び受信レベルの時間変動に基づいて、推定ドップラー周波数を導出する。
【0053】
また、本衛星の構成例では、受信機10に接続される人工衛星1搭載のアンテナが無指向性アンテナであり、地上局の送信EIRPが局及び運用日時に依らず一定であることを仮定して計算された参照情報がオンボード内にテーブル形式で組み込まれている。この場合、衛星での受信電力レベルは衛星−地上局間の距離に依存し、ドップラー効果が衛星−地上局間の視線方向相対速度に比例する。送信EIRP等を変動させる場合には、予めその情報を参照情報テーブルに反映させればよい。
【0054】
図4に示すように、ドップラー補償回路100は、DET回路111と、S演算回路112と、F演算回路113と、ミキサー114を具備する。
【0055】
DET回路111は、受信波の受信電力レベルを検波する回路である。
【0056】
S演算回路112は、DET回路111から受信電力レベルを逐次受け付けて、受信電力レベルの時間変動を算出する回路である。
【0057】
F演算回路113は、DET回路111及びS演算回路112から受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動を受け付けて、自衛星のドップラー周波数を導出処理して推定ドップラー周波数として逐次出力する回路である。
【0058】
混合器114は、推定ドップラー周波数と復調用のローカル周波数の信号を掛け合わせることにより、ローカル周波数を推定ドップラー周波数分オフセットさせる混合器である。
【0059】
このDET回路111にて受信電力を測定(検波)し、S回路112で受信電力の時間変化を測定し、F回路113で推定ドップラー周波数を導出処理し、ミキサー114でドップラー周波数についてローカル周波数を補償する。
【0060】
この回路構成によって、人工衛星1(受信機10)内のオンボードで、ドップラー推定回路110によって推定されたドップラー周波数を乗算部120において補償することで、送信機(地上局)−受信機(衛星)の相互のローカル周波数にドップラー効果に起因する周波数誤差を低減し、スイープ方式によるドップラー補償方式と組み合わせることで、受信波の捕捉時間を短縮することが可能になる。
【0061】
以上説明したように、本発明によれば、ドップラー現象などにより周波数オフセットが大きく生じる環境下で、高精度な周波数オフセット推定を早期に実施可能に構成された人工衛星を提供できる。
【0062】
なお、実施形態を例示して本発明を説明した。しかし、本発明の具体的な構成は前述の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の変更があってもこの発明に含まれる。例えば、上述した実施形態のブロック構成の分離併合、手順の入れ替えなどの変更は本発明の趣旨および説明される機能を満たせば自由であり、上記説明が本発明を限定するものではない。例えば、上記説明したドップラー補償回路(ドップラー推定回路)の一部についてソフトウェアを用いてプロセッサで実現して置換することとしてもよい。
【0063】
また、上記の実施形態の一部又は全部は、以下のようにも記載されうる。尚、以下の付記は本発明をなんら限定するものではない。
[付記1]
受信波の受信電力レベルと該受信電力レベルの時間変動を取得し、前記受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動に基づいて該衛星のドップラー周波数を導出処理して推定ドップラー周波数として出力するドップラー推定部と、
推定ドップラー周波数と復調用のローカル周波数の信号を掛け合わせることにより、ローカル周波数を推定ドップラー周波数分オフセットさせる乗算部と、
を含むドップラー補償回路
を具備することを特徴とする人工衛星。
【0064】
[付記2]
受信波の搬送波周波数と受信機搬送波周波数との周波数誤差をスイープ方式によって補償する補償回路を前記ドップラー補償回路の後段に含むことを特徴とする付記1に記載の人工衛星。
【0065】
[付記3]
前記ドップラー推定部は、受信波の受信電力レベルと該受信電力レベルの時間変動を取得し、光速(C)送信局の位置、搬送波波長(λ)、送信等価等方輻射電力(送信EIRP:Equivalent Isotropically Radiated Power,Pt*Gt)、受信アンテナゲイン(Gr)を固定パラメータとして扱い、前記受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動に基づいて、該衛星のドップラー周波数を算出して推定ドップラー周波数として前記乗算部に出力することを特徴とする付記1又は2に記載の人工衛星。
【0066】
[付記4]
前記ドップラー推定部は、受信波の受信電力レベルと該受信電力レベルの時間変動を取得し、予め受信電力レベルに対応付けて準備された推定ドップラー周波数の候補を記録した参照情報を参照して、取得した受信波の受信電力レベルに基づいて推定ドップラー周波数の候補を算出し、受信信号レベルの時間変動に基づいて候補内から推定ドップラー周波数を選択して前記乗算部に出力することを特徴とする付記1又は2に記載の人工衛星。
【0067】
[付記5]
前記乗算部によって推定ドップラー周波数分オフセットされたローカル周波数を復調処理に使用するスペクトラム拡散受信機を具備することを特徴とする付記1から4の何れか一項に記載の人工衛星。
【0068】
[付記6]
前記ドップラー推定部及び前記乗算部は、復調器と共に受信機内のオンボード内に組み込まれていることを特徴とする付記1から5の何れか一項に記載の人工衛星。
【0069】
[付記7]
前記送信局からの受信波を受信するアンテナとして無指向性アンテナを搭載することを特徴とする付記1から6の何れか一項に記載の人工衛星。
【0070】
[付記8]
受信波の受信電力レベルを検波する第1の計算回路と、
前記第1の演算回路から受信電力レベルを逐次受け付けて、受信電力レベルの時間変動を算出する第2の演算回路と、
前記第1の演算回路及び前記第2の演算回路から受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動を逐次受け付けて、受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動から、該衛星のドップラー周波数を導出処理して推定ドップラー周波数として逐次出力する第3の演算回路と、
推定ドップラー周波数と復調用のローカル周波数の信号を掛け合わせることにより、ローカル周波数を推定ドップラー周波数分オフセットさせる混合器と、
を含み成るドップラー補償回路。
【0071】
[付記9]
人工衛星内に設けられたドップラー補償回路によって、
受信波の受信電力レベルと該受信電力レベルの時間変動を取得し、前記受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動に基づいて該衛星のドップラー周波数を導出処理して推定ドップラー周波数として出力し、
推定ドップラー周波数と復調用のローカル周波数の信号を掛け合わせることにより、ローカル周波数を推定ドップラー周波数分オフセットさせる、
工程を含むことを特徴とするドップラー補償方法。
【0072】
[付記10]
人工衛星内に設けられたドップラー補償回路によって、
受信波の受信電力レベルと該受信電力レベルの時間変動を取得し、前記受信波の受信電力レベル及び受信電力レベルの時間変動に基づいて該衛星のドップラー周波数を導出処理して推定ドップラー周波数として出力し、
推定ドップラー周波数と復調用のローカル周波数の信号を掛け合わせることにより、ローカル周波数を推定ドップラー周波数分オフセットさせる、
第1の工程と、
受信波の搬送波周波数と受信機搬送波周波数との周波数誤差をスイープ方式によって補償する第2の工程と、
を含むことを特徴とする衛星内搬送波周波数補償方法。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、衛星搭載用コマンド受信機に使用できる。例えば、人工衛星の追跡管制システムにおける衛星通信用に使用できる。
【符号の説明】
【0074】
1 人工衛星
10 受信機
100 ドップラー補償回路
110 ドップラー推定部
120 乗算部
111 DET回路(第1の演算回路)
112 S演算回路(第2の演算回路)
113 F演算回路(第3の演算回路)
114 ミキサー