特開2018-174934(P2018-174934A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-174934(P2018-174934A)
(43)【公開日】2018年11月15日
(54)【発明の名称】高濃度イヌリン含有飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/52 20060101AFI20181019BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20181019BHJP
【FI】
   A23L2/52
   A23L2/00 A
   A23L2/00 F
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-77689(P2018-77689)
(22)【出願日】2018年4月13日
(11)【特許番号】特許第6412286号(P6412286)
(45)【特許公報発行日】2018年10月24日
(31)【優先権主張番号】特願2017-80686(P2017-80686)
(32)【優先日】2017年4月14日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】中田 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】松林 秀貴
(72)【発明者】
【氏名】井川 幸枝
(72)【発明者】
【氏名】田口 若奈
【テーマコード(参考)】
4B117
【Fターム(参考)】
4B117LC03
4B117LC04
4B117LE10
4B117LK06
4B117LK07
4B117LK13
4B117LP14
4B117LP17
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、イヌリンを高濃度に含有する無色透明な飲料であって、イヌリン特有の雑味が抑制された加熱殺菌された飲料を提供することである。
【解決手段】無色透明飲料中のイヌリン含有量、低級脂肪族アルコールールの含有量を一定範囲とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器詰飲料であって、
(a)イヌリンの含有量が1.0〜6.0g/100mL;
(b)低級脂肪族アルコールの含有量が0.01〜1.0重量%;
(c)波長660nmにおける吸光度が0.06以下;
(d)純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下;
を満たす、加熱殺菌された前記飲料。
【請求項2】
低級脂肪族アルコールがエタノール及び/又はプロピレングリコールである、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
pHが4.5〜7.0である、請求項1または2に記載の飲料。
【請求項4】
イヌリンを除く飲料の可溶性固形分(Brix)が2.0以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度イヌリンと低級脂肪族アルコールとを含有する加熱殺菌済みの容器詰飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の健康意識や天然・自然志向を背景に、フレーバードウォーター(flavored water)の人気が高まっている。フレーバードウォーターとは、ミネラルウォーター(ナチュラルミネラルウォーター含む)などの水に香料やエキス、果汁などの原料を加えた飲料で、ニアウォーターとも呼ばれる水のような外観の飲料である。フレーバードウォーターのような無色透明でありながら果実等の風味や甘味、酸味を有している飲料は、一般に、水の代わりに飲用できるようにすっきりとした味わいを有しており、水と同程度、或いはそれ以上に飲みやすいという特徴を有している。
【0003】
イヌリンは水溶性食物繊維の一種であり、整腸作用を有することが知られており、イヌリンを含む飲料に関する報告がある(特許文献1〜2)。また、水溶性食物繊維として知られているポリデキストロースには酸味、苦渋みなどの呈味上の問題点があるのに対し、イヌリンには酸味、苦渋みがなく呈味を改良できることが知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4087883号公報
【特許文献2】特表2004−504824号公報
【特許文献3】特許2982372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フレーバードウォーターのような無色透明飲料に適量のイヌリンを配合することができれば、例えば起床時すぐに、或いは日中の仕事の合間や散歩の合間、食事中などに、手軽に飲みやすく、かつイヌリンの整腸作用やデトックス効果が得られる飲料を提供できることが期待される。しかしながら、フレーバードウォーターのような無色透明飲料では、他の通常の飲料(例えば色のついた飲料や混濁した飲料)よりもイヌリン由来の甘味が目立ちやすく、特に加熱殺菌処理をした飲料では、この甘味が雑味(本来の味を損なう味)として知覚され、フレーバードウォーターに求められる清涼感を損なうことを見出した。
【0006】
本発明の目的は、イヌリンを高濃度に含有する無色透明な飲料であって、イヌリン特有の雑味が抑制された加熱殺菌済み飲料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、加熱殺菌された飲料におけるイヌリンの雑味抑制効果を有する方法を鋭意検討し、イヌリン高濃度存在下(1%以上)で、エタノールやプロピレングリコールなどの低級脂肪族アルコールを特定量添加することで加熱殺菌後の飲料のイヌリン特有の雑味が抑えられることを見出した。
【0008】
即ち、これに限定されるものではないが、本発明は以下に関する。
(1)容器詰飲料であって、 (a)イヌリンの含有量が1.0〜6.0g/100mL;(b)低級脂肪族アルコールの含有量が0.01〜1.0重量%;(c)波長660nmにおける吸光度が0.06以下;(d)純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下;を満たす、加熱殺菌された前記飲料。
(2)低級脂肪族アルコールがエタノール及び/又はプロピレングリコールである、(1)に記載の飲料。
(3)pHが4.5〜7.0である、(1)または(2)に記載の飲料。
(4)イヌリンを除く飲料の可溶性固形分(Brix)が2.0以下である、(1)〜(3)のいずれかに記載の飲料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、イヌリンを含有する加熱殺菌済み飲料で知覚される雑味を効果的に抑制することができるので、無色透明飲料に求められるすっきりした味わいや爽やかな風味を有するイヌリン含有容器詰飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.容器詰め飲料
本発明の一態様は、(a)イヌリンの含有量が1.0〜6.0g/100mLであり、(b)低級脂肪族アルコールの含有量が0.01〜1.0重量%であり、加熱殺菌された無色透明な容器詰飲料である。
【0011】
飲料が無色であることは、測色色差計(ZE2000(日本電色工業株式会社製)など)を用いて純水を基準として測定した際の透過光のΔE値(色差)をもって規定することができる。具体的には、本発明の飲料は、純水を基準とした場合のΔE値が3.5以下であり、好ましくは2.3以下である。
【0012】
また、飲料が透明であるとは、いわゆるスポーツドリンクのような白濁や、混濁果汁のような濁りがなく、水のように視覚的に透明な飲料であることをいう。飲料の透明度は、液体の濁度を測定する公知の手法を用いることにより、数値化することができる。紫外可視分光光度計(UV−1600(株式会社島津製作所製)など)を用いて測定した波長660nmにおける吸光度をもって飲料の透明度を規定することができる。具体的には、本発明の飲料は、波長660nmの吸光度が0.06以下である。飲料に濁りがある場合は、その濁りの原因となる粒子の存在により、イヌリンに由来する雑味が知覚されにくくなる。他方、飲料が透明である場合、すなわち、飲料に濁りがない場合は、そのような粒子が存在しないためにイヌリンに由来する雑味が感じられやすくなる。
【0013】
1−1.イヌリン
イヌリンは、種々の植物に含まれる多糖類の一群であり、グルコースにフルクトースが複数個結合した重合体である。本発明に係る飲料に使用可能なイヌリンは、フラクトシル単位が主にβ−2,1結合によって結合され、フラクタンの鎖長が2〜100の範囲であり、好ましくは2〜60の範囲である。イヌリン中の結合の少なくとも90%がβ−2,1型である。例えば、チコリ由来のイヌリンとして、Frutafit(商標)またはRaftiline(商標)がある。また、多数の植物種から当業者に周知の方法により得ることができる。
【0014】
本発明の飲料に含有されるイヌリンの含有量は、1.0〜6.0g/100mLである。イヌリン含有量の好ましい下限値は、1.2g/100mLであり、より好ましくは1.3g/100mLであり、さらに好ましくは1.5g/100mLであり、特に好ましくは1.6g/100mLであり、最も好ましくは1.8g/100mLである。また、イヌリン含有量の好ましい上限値は4.0g/100mLである。イヌリンが上記範囲にある場合、後述する低級脂肪族アルコールの雑味緩和効果が顕著に発現する。なお、イヌリンの含有量は、HPLC法を用いて定量することができる。
【0015】
1−2.低級脂肪族アルコール
フレーバードウォーターのような無色透明飲料では、一般に、水以外の配合成分の種類や量が比較的少ないことが特徴とされている。そのため、別の成分を添加すると飲料の香味のバランスが崩れやすくなり、すっきりした味わいや爽やかな風味といった飲料の美味しさを維持しながらイヌリンの雑味を抑制することは困難である。本発明の飲料は、特定のアルコール類をごく少量の濃度範囲で含有させることにより、すっきりした味わいや爽やかな風味といった飲料の美味しさを維持しながら、イヌリンに由来する雑味を感じにくくする。
【0016】
本発明の飲料では、イヌリンの雑味を緩和する成分として、低級脂肪族アルコールを用いる。ここで、本明細書における「低級脂肪族アルコール」とは、炭素数が2〜5個程度の炭化水素化合物の水素基をヒドロキシル基で置換した構造を有するものをいう。低級脂肪族アルコール分子中のヒドロキシル基の個数は特に限定されず、例えば、1価、2価又は3価などであってもよい。また、低級脂肪族アルコール分子は、第一級、第二級又は第三級であってもよく、特に限定されない。
【0017】
本発明における低級脂肪族アルコールは、特に限定されないが、例えば、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。本発明において特に好ましい低級脂肪族アルコールは、エタノール又はプロピレングリコールである。
【0018】
本発明の飲料においては、上記の低級脂肪族アルコールの一種のみを単独で用いてもよく、或いは二以上を組み合わせて用いてもよい。二以上の低級脂肪族アルコールが用いられた場合、上記の低級脂肪族アルコールの含有量は、その合計含有量として規定される。
【0019】
本発明の飲料に上記の低級脂肪族アルコールを特定量添加することでイヌリン特有の雑味を抑制でき、飲みやすい飲料を提供することができる。本発明の飲料に含有される低級脂肪族アルコールの含有量は、0.01〜1.0重量%である。低級脂肪族アルコールの好ましい下限値は0.015重量%であり、より好ましくは0.02%である。低級脂肪族アルコールの好ましい上限値は、0.90重量%であり、より好ましくは0.70重量%であり、さらに好ましくは0.50重量%である。また、一態様では、本発明の飲料は、低級脂肪族アルコールとしてエタノールを含み、前記エタノールの含有量が、好ましくは0.01〜1.0重量%、より好ましくは0.012〜0.90重量%、さらにより好ましくは0.018〜0.70重量%、特に好ましくは0.02〜0.50重量%である飲料であってもよい。さらに、一態様では、本発明の飲料は、低級脂肪族アルコールとしてプロピレングリコールを含み、前記プロピレングリコールの含有量が、好ましくは0.01〜1.0重量%、より好ましくは0.012〜0.90重量%、さらにより好ましくは0.018〜0.70重量%、特に好ましくは0.02〜0.50重量%である飲料であってもよい。なお、本明細書において「重量%」は、特に断りがない限り重量/容量(w/v)の重量%を意味する。
【0020】
本発明の飲料における低級脂肪族アルコールの含有量は、当業者に公知の方法で測定することができ、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法などによりに測定することができる。
【0021】
本発明においては、本発明の飲料における低級脂肪族アルコールの含有量が前記の範囲内にあれば、その調整方法は特に限定されず、最終的に得られた飲料が上記の低級脂肪族アルコールの含有量範囲にあればよい。例えば、市販品や合成品の低級脂肪族アルコールを用いることや、低級脂肪族アルコールを含有する原料(飲食品など)や香料、各種添加剤等を用いることもできる。また、市販品や合成品の低級脂肪族アルコール、又は低級脂肪族アルコールを含有する原料や香料若しくは各種添加剤等の一種のみを用いることや、それらの二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0022】
1−3.pH
本発明は、加熱殺菌された無色透明飲料で目立つイヌリンの雑味を特定量の低級脂肪族アルコールを配合することで低減し、水のように飲みやすい飲料とするものである。無色透明飲料の中でも、pHが4を超える弱酸性飲料又は中性のpHである飲料は、pH4以下の飲料と比較して、イヌリンの雑味が目立ちやすい傾向にある。これは、pH4以下の飲料では、酸味成分がイヌリンの雑味のマスキングに作用するのに対し、pH4を超える飲料では、酸味成分が少ない又はないためと考えられる。したがって、低級脂肪族アルコールを配合することによる効果の顕著さから、本発明の飲料のpHの範囲は、pH4.5〜7.0が好ましく、pH5.0〜7.0がより好ましい。
【0023】
pHの測定方法としては公知の方法を用いることができ、例えば、国税庁所定分析法注解に記載の方法を用いることができる。JIS Z 8802 pH測定方法に従って、pHメーター(JIS Z 8805 pH測定用ガラス電極)を用いて20℃にて測定する。
【0024】
本発明において、pHの調整のためには、公知の方法を用いることができる。例えば、各種の酸を用いてpHを低くすることができる。食用に供することができれば、使用する酸に特に制限はなく、塩酸等の無機酸でも有機酸でも好適に用いることができるが、有機酸の方がより好ましい。具体的には、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、リン酸、コハク酸、蟻酸、ピログルタミン酸、酢酸等の有機酸を挙げることができ、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、リン酸などの酸味物質がより好ましく、クエン酸、リンゴ酸が更に好ましい。また、1種又は2種以上の酸味物質を組み合わせて使用することもできる。
【0025】
1−4.Brix
酸味成分だけでなく、その他の可能性固形分が低い飲料は、イヌリンの雑味が目立ちやすい。具体的には、イヌリンを除く飲料の可溶性固形分(Brix)が2.0以下のような低Brixの飲料は、効果の大きさから、本発明の好適な一態様である。より好ましくはイヌリンを除く飲料の可溶性固形分が0〜1.5であり、さらに好ましくは0〜1.0であり、特に好ましくは0〜0.5である。
【0026】
ここで、可溶性固形分は、糖度計や屈折計などを用いて得られるBrix(ブリックス)値をいう。ブリックス値は、20℃で測定された屈折率を、ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表に基づいてショ糖溶液の質量/質量パーセントに換算した値である(単位:「°Bx」、「%」又は「度」)。本明細書でいう「イヌリンを除く飲料の可溶性固形分」とは、飲料のBrix値からイヌリンの含有量の値を減じた値を意味する。
【0027】
1−5.他の成分
上記可溶性固形分として、酸化防止剤、乳化剤、保存量、香料、調味料、エキス類、甘味料、品質安定剤等の添加剤を単独、或いは併用して用いることができる。本発明者らは、特定量のナトリウムを含有させることにより、本発明の効果をさらに向上させることができることを見出している。本発明の飲料におけるナトリウムの含有量は、0.1mg/100mL以上が好ましく、0.3mg/100mL以上がより好ましく、1.0mg/100mL以上がさらに好ましい。ナトリウムに起因する塩味がフレーバードウォーターのような無色透明飲料のすっきりした味わいや爽やかな風味といった飲料の美味しさを損なうことがあることから、ナトリウムの含有量の上限は、150mg/100mLが好ましく、100mg/100mLがより好ましく、50mg/100mLがさらに好ましい。
【0028】
ナトリウム源としては、飲用可能なナトリウム塩であればよく、塩化ナトリウム(食塩)、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、L−アスパラギン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を用いることができるが、これらに限定されない。なお、飲料中のナトリウム量の測定は、電位差滴定法による定量等、当業者に周知の方法で行うことができる。
【0029】
1−6.容器詰飲料
本発明の飲料は、常温で長期保存可能な加熱殺菌済みの飲料で発現するイヌリンの雑味を抑制するものであり、容器詰め飲料の形態で提供される。加熱殺菌の条件は、容器の形態に応じて適宜選択することができる。例えば、ペットボトルや紙パック、瓶飲料、パウチ飲料などの容器詰飲料とする場合には、例えば90〜130℃で1〜60秒保持するFP又はUHT殺菌を挙げることができる。
【0030】
本発明の容器詰飲料は容器から直接飲用するものだけではなく、たとえばバックインボックスなどのバルク容器、あるいはポーション容器などに充填したものを飲用時に別容器に注ぐことによって飲用に供することもできる。また、濃縮液を飲用に供する際に希釈することもできる。その場合、飲用に供する際の各種成分濃度が本発明の濃度範囲にあれば本発明の効果が得られることは言うまでもない。従って、これらの飲料も本発明の態様である。
【0031】
本発明の飲料はイヌリンの雑味が抑制された「ごくごく飲める」飲料であるため、容器の容量は大きいものが好ましく、例えば、内容量が500mL以上であり、550mL以上あるいは600mL以上であってもよい。
【0032】
2.飲料の製造方法
本発明は、別の側面では容器詰め飲料の製造方法である。具体的には、容器詰め飲料の製造方法であって、(a)飲料中のイヌリンの含有量を1.0〜6.0g/100mLに調整する工程;(b)飲料中の低級脂肪族アルコールの含有量を0.01〜1.0重量%に調整する工程;(c)波長660nmにおける吸光度を0.06以下に調整する工程;及び(d)純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下に調整する工程;を含む、前記製造方法である。さらに、適宜加熱殺菌する工程も含む。また、適宜飲料のpHを4.5〜7.0に調整する工程;イヌリンを除く飲料の可溶性固形分(Brix)を2.0以下に調整する工程を含む。ここで、上記の低級脂肪族アルコールは、好ましくはエタノール及び/又はプロピレングリコールである。
【0033】
上記の製造方法において、イヌリン及び低級脂肪族アルコールの含有量の調整方法は特に限定されず、例えば、イヌリン及び低級脂肪族アルコールを配合して、前記含有量を所定の範囲に調整することができる。イヌリン及び低級脂肪族アルコールの配合方法は特に限定されず、例えば、市販品又は合成品のイヌリン及び低級脂肪族アルコールを配合してもよく、イヌリン及び低級脂肪族アルコールを含有する原料などを配合してもよい。なお、イヌリン及び低級脂肪族アルコールの含有量範囲などについては上記した通りである。また、無色透明飲料の定義等についても、前述の通りである。
【0034】
また、上記方法には、飲料中のナトリウムの含有量を調整する工程や、飲料に通常配合する添加剤等を配合する工程、容器詰めする工程を含めることもできる。なお、ナトリウムの含有量範囲やその調整方法、添加物や容器の種類は上記した通りであり、容器詰めの方法については公知の方法を用いることができる。
【0035】
上記調整工程は、そのタイミングも限定されない。例えば、上記工程を同時に行ってもよいし、別々に行ってもよいし、工程の順番を入れ替えてもよい。最終的に得られた飲料が、上記の条件を満たせばよい。
【0036】
3.イヌリン特有の雑味を抑制する方法
本発明は、別の側面では、高濃度イヌリン含有飲料におけるイヌリン特有の雑味を抑制する方法である。具体的には、高濃度にイヌリンを含有する容器詰飲料におけるイヌリン特有の雑味を抑制する方法であって、(a)飲料中のイヌリンの含有量を1.0〜6.0g/100mLに調整する工程;(b)飲料中の低級脂肪族アルコールの含有量を0.01〜1.0重量%に調整する工程;(c)波長660nmにおける吸光度を0.06以下に調整する工程;及び(d)純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下に調整する工程;を含む、前記方法である。さらに、適宜加熱殺菌する工程も含む。また、適宜飲料のpHを4.5〜7.0に調整する工程;、Brixを2.0以下に調整する工程を含む。ここで、上記の低級脂肪族アルコールは、好ましくはエタノール及び/又はプロピレングリコールである。
【0037】
上記方法において、イヌリン及び低級脂肪族アルコールの含有量の調整方法は特に限定されず、例えば、イヌリン及び低級脂肪族アルコールを配合して、前記含有量を所定の範囲に調整することができる。イヌリン及び低級脂肪族アルコールの配合方法は特に限定されず、例えば、市販品又は合成品のイヌリン及び低級脂肪族アルコールを配合してもよく、イヌリン及び低級脂肪族アルコールを含有する原料などを配合してもよい。なお、イヌリン及び低級脂肪族アルコールの含有量範囲などについては上記した通りである。また、無色透明飲料の定義等についても、前述の通りである。
【0038】
また、上記方法には、飲料中のナトリウムの含有量を調整する工程や、飲料に通常配合する添加剤等を配合する工程、容器詰めする工程を含めることもできる。なお、ナトリウムの含有量範囲やその調整方法、添加物や容器の種類は上記した通りであり、容器詰めの方法については公知の方法を用いることができる。
【0039】
上記調整工程は、そのタイミングも限定されない。例えば、上記工程を同時に行ってもよいし、別々に行ってもよいし、工程の順番を入れ替えてもよい。最終的に得られた飲料が、上記の条件を満たせばよい。
【実施例】
【0040】
以下に実施例に基づいて本発明の説明をするが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、イヌリンはフジ日本精糖株式会社の「フジFF」(イヌリン含有量97%)を使用し、エタノール及びプロピレングリコールはナカライテスク社製の特級のものを使用した。
(実験1:イヌリン含有飲料の評価)
水溶液中のイヌリン濃度が、表1に記載の濃度となるように、イヌリンを水(イオン交換水)に溶解してUHT殺菌処理した後、500mLのPET容器に充填し、容器詰飲料(pH7)とした。この容器詰飲料を25℃にした後、3名のパネルによりイヌリンの雑味の有無を評価した。また、飲料の波長660nmにおける吸光度及び色差(ΔE)を測定した。
結果を表1に示す。表1中の評価結果は、雑味があると感じたパネルの人数を示す。イヌリンを1.0g/100mL以上含有する飲料は、過半数が加熱殺菌処理に伴い雑味が発生すると感じた。
【0041】
【表1】
【0042】
(実験2:エタノール又はプロピレングリコールによるイヌリンの雑味の緩和効果)
表2の配合に従って、イヌリン、エタノール又はプロピレングリコールを混合し、試料2−17及び2−18はクエン酸三ナトリウムおよびクエン酸を用いてpHを調整した。飲料をUHT殺菌処理した後、500mLのPET容器に充填して、サンプル飲料1〜23を調製した。いずれのサンプルも波長660nmにおける吸光度は0.01以下であり、純粋を基準とした場合のΔEは0.0であった。
【0043】
上記のサンプル飲料について専門パネル3名による官能評価試験を行った。具体的には、各専門パネルごとに下記基準に基づいて点数付けを行い、その平均点(少数点以下は四捨五入)を表2に示した。平均点が3点を超えるものが好ましい飲料であると判定した。
【0044】
(官能評価の基準)
5点:イヌリンの雑味が大きく緩和されており、エタノール又はプロピレングリコー
ルの苦味とのバランスが良く大変飲みやすい
4点:イヌリンの雑味が緩和されており、エタノール又はプロピレングリコールの苦
味とのバランスが良く飲みやすい
3点:イヌリンの雑味がやや緩和されており、エタノール又はプロピレングリコール
の苦味とのバランスがありやや飲みやすい
2点:イヌリンの雑味が緩和されているが、エタノール又はプロピレングリコールの
苦味が強く飲みにくい
1点:イヌリンの雑味が緩和されておらず飲みにくい。
【0045】
結果を表1に示す。表1に記載の通り、イヌリン含有量、エタノール又はプロピレングリコール含有量が本発明の所定の範囲内にある飲料の官能評価点は3点を超えており、イヌリンの雑味が緩和され、かつエタノール又はプロピレングリコールの苦味とのバランスが良く飲みやすい飲料あることが示された。従って、本発明によると、飲料中のイヌリン含有量、エタノール又はプロピレングリコール含有量を本発明の範囲内に調整することで、加熱殺菌されたことによるイヌリンの雑味が緩和され、より好ましく飲用できる飲料を実現できることが明らかとなった。
【0046】
【表2】
【0047】
(実験3:エタノールによるイヌリンの雑味の緩和効果(1))
実験2のイヌリン1.2g/100mLを含有する飲料(試料2−1、2−2)について、さらに詳細にエタノールの効果を検証した。表3の配合に従って、エタノールを混合しUHT殺菌処理した後、500mLのPET容器に充填して、容器詰飲料(pH7)とした。この容器詰飲料を25℃にした後、3名のパネルによりイヌリンの雑味の有無を評価した。評価は、エタノール無添加の飲料(試料3−1)の雑味の強さを基準として、以下の基準で評価した。
(±) イヌリンの雑味が変わらない
(+) イヌリンの雑味が緩和されている
(++) イヌリンの雑味が大きく緩和されているが、僅かに雑味を感じる
(+++)イヌリンの雑味が大きく緩和されており、雑味を感じない
【0048】
結果を表3に示す。表中の評価点はパネル3名の合意に基づく結果を示す。加熱殺菌によって発生するイヌリン含有飲料の雑味を、0.01重量%以上のエタノール添加によって緩和できることが判明した。エタノールを1.0重量%混合した飲料(試料3−7)では、イヌリンの雑味は感じられないがエタノールの風味を僅かに感じると評価したパネル(2名)が存在したことから、エタノールの上限は1.0重量%であることが示唆された。
【0049】
【表3】
【0050】
(実験4:エタノールによるイヌリンの雑味の緩和効果(2))
イヌリンの濃度を1.6g/100mLにする以外は実験3と同様にして、エタノールによるイヌリンを含有する加熱殺菌飲料(pH7)におけるイヌリンの雑味の緩和効果を評価した。結果を表4に示す。イヌリン含量が1.6g/100mLの場合も、微量のエタノール添加によって加熱殺菌によって発生するイヌリン含有飲料の雑味が緩和できた。エタノールを0.5重量%混合した飲料(試料4−4)では、イヌリンの雑味は感じられないがエタノールの風味を僅かに感じると評価したパネル(1名)が存在した。
【0051】
【表4】
【0052】
(実験5:エタノールによるイヌリンの雑味の緩和効果(3))
イヌリンの濃度を1.8g/100mLにする以外は実験3と同様にして、エタノールによるイヌリンを含有する加熱殺菌飲料(pH7)におけるイヌリンの雑味の緩和効果を評価した。結果を表5に示す。イヌリン含量が1.8g/100mLの場合も、微量のエタノール添加によって加熱殺菌によって発生するイヌリン含有飲料の雑味が効果的に緩和できた。
【0053】
【表5】
【0054】
(実験6:エタノールによるイヌリンの雑味の緩和効果(4))
イヌリンの濃度を2.0g/100mL、4.0g/100mL、6.0g/100mL又は8.0g/100mLにする以外は実験3と同様にして、エタノールによるイヌリンを含有する加熱殺菌飲料(pH7)におけるイヌリンの雑味の緩和効果を、それぞれエタノール無添加の飲料(試料6−1、試料6−4、試料6−7、試料6−10)の雑味の強さを基準として評価した。結果を表6に示す。イヌリン含量が2.0g/100mLの場合も、微量のエタノール添加によって加熱殺菌によって発生するイヌリン含有飲料の雑味が効果的に緩和できた。イヌリン含量が、より一層高濃度(4.0g/100mL以上)になると、完全に感じられない対照(Cont.)と同程度のレベルまでエタノールのみで雑味を緩和することは難しく、イヌリン含量が8.0g/100mLの場合には比較的多量のエタノールを用いてもエタノールによるイヌリンの雑味の緩和効果は確認できなかった。
【0055】
【表6】
【0056】
(実験7:プロピレングリコールよるイヌリンの雑味の緩和効果)
実験2のプロピレングリコールを含有する飲料(試料2−19〜2−23)について、さらに詳細に検討した。実験3と同様にして、プロピレングリコールによるイヌリンを含有する加熱殺菌飲料(pH7)におけるイヌリンの雑味の緩和効果を、それぞれプロピレングリコール無添加の飲料(試料7−1、試料7−4、試料7−7)の雑味の強さを基準として評価した。結果を表7に示す。プロピレングリコールの場合もエタノールと同様の効果が確認できた。
【0057】
【表7】
【0058】
(実験8:pHの影響(1))
実験4のイヌリン1.6g/100mLを含有する飲料(試料4−3)について、さらに詳細に検討した。まず、予備検討として、イヌリンの雑味に及ぼすpHの影響を検討した。イヌリン1.6g/100mLを含有する水溶液に、pH3.3〜pH5.6となるようにクエン酸及びクエン酸三ナトリウムを混合した。クエン酸及びクエン酸三ナトリウムが無添加(pH7)のものと合わせて、計4種類のpHが異なるイヌリン含有溶液を調製し、これをUHT殺菌処理した後、500mLのPET容器に充填して容器詰飲料とした。この容器詰飲料を25℃にした後、3名のパネルによりイヌリンの雑味の有無を評価した。結果を表8に示す。表中のpHは加熱殺菌飲料のpHを示し、評価結果は雑味があると感じたパネルの人数を示す。pHが4.6以上の飲料では、パネルの過半数が加熱殺菌処理に伴う雑味を感じた。一方、pHが低くなるほど、加熱殺菌されたイヌリン含有飲料の雑味が感じ難くなった。酸味料によるマスキング効果があると考えられる。
【0059】
【表8】
【0060】
次に、エタノールを0.1重量%配合すること以外は、上記と同様にしてpHが異なるイヌリン含有容器詰飲料を調製した。エタノールによるイヌリンを含有する加熱殺菌飲料におけるイヌリンの雑味の緩和効果を、pH7のエタノール無添加の飲料(試料8−1)の雑味の強さを基準として評価した。結果を表9に示す。表中のpHは、加熱殺菌飲料のpHを示す。pHが異なる場合も、エタノールによるイヌリンの雑味緩和効果が確認できた。
【0061】
【表9】
【0062】
(実験9:pHの影響(2))
イヌリンの濃度を2.0g/100mL又は4.0g/100mLにする以外は、実験8と同様にして、エタノールによるイヌリンを含有する加熱殺菌飲料におけるイヌリンの雑味の緩和効果を評価した。結果を表10に示す。実験8と同様に、pHが異なる場合も、エタノールによるイヌリンの雑味緩和効果が確認できた。試料9−5と9−6をそれぞれ比較した場合、pH4以下の酸性飲料(試料9−6)の方が、pHが高い飲料(試料9−5)と比べて、よりイヌリンの雑味を感じにくく、評価点は(+++)にほど近かった。
【0063】
【表10】
【0064】
(実験10:ナトリウム濃度の影響(1))
イヌリン2.0g/100mL及びエタノール0.05重量%を混合し、さらに表11のナトリウム濃度となるように塩化ナトリウムを混合して、計4種類のナトリウム濃度が異なるイヌリン含有溶液を調製した。これをUHT殺菌処理した後、500mLのPET容器に充填して容器詰飲料(pH7)とし、実験2と同様にして、評価した。結果を表11に示す。ナトリウム濃度が異なる場合も、エタノールによるイヌリンの雑味緩和効果が確認できた。
【0065】
【表11】
【0066】
(実験11:ナトリウム濃度の影響(2))
イヌリン4.0g/100mL及びエタノール0.05重量%を混合し、さらに表12のナトリウム濃度となるように塩化ナトリウムを混合して、ナトリウム濃度が異なるイヌリン含有溶液を調製した。比較として、エタノール無添加のものも調製した。これらをUHT殺菌処理した後、500mLのPET容器に充填して容器詰飲料(pH7)とし、実験3と同様にして、エタノールによるイヌリンを含有する加熱殺菌飲料におけるイヌリンの雑味の緩和効果を、エタノール無添加の飲料(試料11−1)の雑味の強さを基準として評価した。結果を表12に示す。ナトリウムを添加した場合、相乗的にイヌリンの雑味を緩和できた。
【0067】
【表12】
【0068】
(実験12:可溶性固形分の影響(1))
実験6のイヌリン2.0g/100mLを含有する飲料(試料6−2)について、さらに詳細に検討した。まず、予備検討として、イヌリンの雑味に及ぼす可溶性固形分(Brix)の影響を検討した。イヌリン2.0g/100mLを含有する水溶液に、果糖を2又は5g/100mLとなるように混合した。果糖無添加のものと合わせて、計3種類のBrixが異なるイヌリン含有溶液を調製し、これをUHT殺菌処理した後、500mLのPET容器に充填して容器詰飲料(pH7)とした。この容器詰飲料を25℃にした後、3名のパネルによりイヌリンの雑味の有無を評価した。結果を表13に示す。表中のBrixは加熱殺菌後の飲料のBrix値からイヌリンの含有量(=2.0)を減じた値を示す。また、表中の評価結果は雑味があると感じたパネルの人数を示す。Brixが2以下の飲料では、パネル全員が加熱殺菌処理に伴うイヌリンの雑味を感じた。一方、Brixが高いと、雑味が感じ難くなる傾向であった。
【0069】
【表13】
【0070】
上記実験の果糖を、デキストリンに変えること以外は同様にして、加熱殺菌飲料を調製して評価した。結果を表14に示す。デキストリンを用いた場合にも、果糖を用いた場合と同様に、ブリックス2以下の飲料でイヌリンの雑味が顕著に知覚された。これらの結果から、可溶性成分にイヌリンの雑味をマスキングする効果があると考えられる。
【0071】
【表14】
【0072】
次に、果糖を配合した飲料におけるイヌリンを含有する加熱殺菌飲料のエタノールによる雑味の緩和効果を検証した。イヌリン2.0g/100mL及びエタノール0.05重量%を混合し、さらに果糖を2又は5g/100mLとなるように混合して、2種類の果糖濃度が異なるイヌリン含有容器詰飲料を調製した。これをUHT殺菌処理した後、500mLのPET容器に充填して容器詰飲料(pH7)とし、実験2と同様にして評価した。結果を表15に示す。表中のBrixは加熱殺菌後の飲料のBrix値からイヌリンの含有量(=2.0)を減じた値を示す。果糖を配合した場合も、エタノールによるイヌリンの雑味緩和効果が確認できた。
【0073】
【表15】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、イヌリンを高濃度に含み、加熱殺菌時のイヌリン特有の雑味が抑制された飲料を提供するものであるため、産業上の利用性が高い。
【手続補正書】
【提出日】2018年7月26日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器詰飲料であって、
(a)イヌリンの含有量が1.0〜6.0g/100mL;
(b)低級脂肪族アルコールの含有量が0.01〜1.0重量%;
(c)波長660nmにおける吸光度が0.06以下;
(d)純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下;
を満たし、
前記低級脂肪族アルコールがエタノール及び/又はプロピレングリコールであり、pHが3.0〜7.0である、加熱殺菌された前記飲料。
【請求項2】
pHが4.5〜7.0である、請求項に記載の飲料。
【請求項3】
イヌリンを除く飲料の可溶性固形分(Brix)が2.0以下である、請求項1または2に記載の飲料。