【実施例】
【0022】
以下に示す本発明の実施例においては、有機金属構造体光触媒は粉末状であるが、PLD(Pulsed Laser Deposition)やスパッタリング装置などにより、素材表面に蒸着することで薄膜での形成が可能であり、上記目的に供することができる。また、この粉末を溶媒に溶かしてゾルあるいは分散させてスラリーにすることによっても薄膜にすることができる。
【0023】
なお、ここに挙げた機能性や用途は本発明の効果などの一部を述べているのにすぎず、様々な用途に利用できる。本発明の実施形態である光触媒材料およびその製造方法は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、変更して用いることもできる。本実施形態の具体例を以下の実施例を用いて示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
鉄ポルフィリンを配位子としたジルコニウム(Zr)化合物を用いた有機金属構造体(Fe−PCN−224)を以下に示す方法を用いて合成した。
120mgのZrOCl
2・8H
2Oを50mLのジメチルホルムアミド(DMF)中で撹拌後、そこに25mgのテトラキス(4−カルボキシフェニル)ポルフィリンと12.5mLの酢酸を加えた。その溶液を密閉容器内で338Kの温度で3日間熱処理することで粉末を得た(ソルボサーマル合成)。その粉末を洗浄後、塩化鉄で処理することで有機金属構造体(Fe−PCN−224)を合成した。
その構造の模式図を
図1に示す。ここで、同図の(a)は全体の構造を、(b)はその中の架橋配位子の部分の構造を示す。Mは金属を表し、実施例1の場合Feである。その周りに配置された4つの大きい球は窒素、その周りの中くらいの球は炭素、小さい球は水素を表し、最外部の4カ所計8個の大きな球は酸素を表す。1つのZr化合物無機2次元構造単位に6つのポルフィリンが配位した構造をしている。作製した試料がこの構造になることは、XRD(X−ray Diffraction)によって確認した。
【0025】
この試料の光吸収特性を評価した。その結果を
図2に示す。
この試料(Fe−PCN−224)は、波長400nm以上の可視光に対して強い吸収を示し、赤外線領域の波長800nm以上の光に対しても吸収を示した。このようにこの試料は可視光域全域の光を吸収する。
また、比表面積を比表面積・細孔分布測定装置(BelsorpII、日本ベル社製)を用いて77Kでの窒素吸着法で測定したところ、その値は約1690m
2・g
−1であり、高い比表面積を示した。
【0026】
次に可視光照射下での光触媒活性の評価を行った。その結果を
図3に示す。
ここでの光触媒活性は以下の方法により評価した。
500cm
3の反応容器に上記試料50mg(面積8.5cm
2)を入れ、密閉した後、2−プロパノールガスをその反応容器に入れた。その後、暗所で数時間保持して吸着脱離平衡状態になったことを確認後、可視光を照射した。その後、生成したガスをFID(Flame Ionization Detector)検出器、メタナイザー付きガスクロマトグラフィーを用いて定量した。なお、可視光照射には300Wのキセノンランプと紫外光カットフィルターを利用した。
【0027】
2−プロパノールを酸化分解すると、まず反応中間体としてアセトンが生成するので、そのアセトンの生成量について評価した。アセトンの生成量はほぼ光照射時間に比例して増加し、4時間光照射後には1000ppmを超える大量のアセトンが検出された。このことはこの光触媒材料が高活性であることを示している。また、反応は擬0次反応で進行し、その反応速度は280ppm・h
‐1と見積もられた。同時に最終生成物である二酸化炭素の増加も検出され、表1に示すようにその反応速度は3.7ppm・h
‐1であった。有意に二酸化炭素の増大も見られることから、この光触媒は強い酸化力を持つ光触媒である。
【0028】
【表1】
【0029】
次に光触媒の耐久性を評価した(
図4)。
上記作製した試料(Fe−PCN−224)に対して光を4時間照射後、反応容器内を純空気(清浄度の高い乾燥空気)で置換して反応容器内のアセトン量を0ppmにした後、再度2−プロパノールを加え、4時間光照射するという一連の実験を繰り返すことで耐久性の評価を行った。
その結果、
図4に示されるように、繰り返し実験を行ってもアセトンの生成速度に低下は見られず、実施例1で作製した光触媒は活性を維持した。したがって、この材料は高い耐久性を持っていることが確認された。
【0030】
(実施例2)
さらに、この試料の6価クロムの毒性低下実験によっても光触媒特性を評価した。6価クロムとしてはK2Cr207を用い、反応容器に試料5mgと60mLの6価クロム水溶液(6価クロム濃度:16ppm)を入れ、吸着平衡状態を確認後300Wキセノンライトと紫外光カットフィルターを用いて可視光を照射することで光触媒活性を評価した。なお、水溶液にはシュウ酸5mgを添加してpHを3にコントロールした。また、6価クロムは、DPC(Diphenylcarbazide)法を用いて発色させ、波長542nmにおける吸光度を紫外可視分光光度計で測定することで定量化した。
【0031】
吸着平衡後の6価クロムの量をC
0、光照射により光触媒反応処理を行っているときの量をCとして6価クロム量の吸着平衡後の初期値との比(C/C
0)を得られたデータでプロットすると、可視光照射により急激に6価クロムの量が減少していることがわかる(
図5)。そして、わずか40分でほぼすべての6価クロムをより有害性の低い3価クロムに変換できた。
【0032】
(実施例3)
鉄ポルフィリンを配位子としたZr化合物を用いた有機金属構造体(Fe−PCN−222)を以下に示す方法を用いて合成した。
75mgのZrOCl
2・8H
2Oを20mLのジメチルホルムアミド(DMF)中で撹拌後、そこに13mgのテトラキス(4−カルボキシフェニル)ポルフィリンと14mLの蟻酸を加えた。その溶液を密閉容器内で403Kの温度で熱処理することで粉末を得た。その粉末を洗浄後、塩化鉄で処理することで有機金属構造体(Fe−PCN−222)を合成した。
【0033】
次に、可視光照射下での光触媒活性の評価を行った。その結果を
図6に示す。
活性評価は、実施例1の活性評価法と同様の方法で評価した。
その結果、アセトンの生成量は4時間光照射後約1000ppmとなり、この実施例3の材料も活性の高い材料であることがわかった。
【0034】
(比較例1)
鉄を含まないポルフィリンを配位子としたZr化合物を用いた有機金属構造体(Fe−PCN−224)を以下に示す方法を用いて合成した。
120mgのZrOCl
2・8H
2Oを50mLのジメチルホルムアミド(DMF)中で撹拌後、そこに25mgのテトラキス(4−カルボキシフェニル)ポルフィリンと12.5mLの酢酸を加えた。その溶液を密閉容器内で338Kの温度で3日間熱処理することで粉末を得た。その粉末を洗浄することで、比較例1のPCN−224サンプルを得た。その比表面積は約2270m
2・g
−1と高い表面積を示した。
【0035】
その試料の活性を実施例1の活性評価法と同様の方法で評価した。
その結果、アセトンの生成は確認できたが、4時間で生成したアセトンの量は150ppmにも満たず、そのアセトンの生成速度は32ppm・h
‐1と実施例1、3と比べてはるかに低いものであった(
図3)。二酸化炭素の生成速度も0.4ppm・h
‐1と微量で、有意な二酸化炭素の生成は確認できなかった(表1)。すなわち、比較例1のサンプルの酸化力は弱いことがわかった。
【0036】
作製した材料の光吸収スペクトルを比較した
図2からわかるように、比較例1の光吸収は、実施例1に比べ、特に波長400nm以上500nm以下、および600nm以上の光に対して約4割吸収が少ない。言い換えれば、鉄ポルフォリンを用いた実施例1の光触媒は、鉄を含まないポルフォリンを用いた比較例1より光吸収が約4割大きい。一方で、有機物の分解量は、表1に示されるように、実施例1が比較例1より桁違いに大きい。鉄ポルフォリンを用いることにより、光吸収を大幅に上回る光触媒効率が得られることが分かる。
【0037】
実施例1と比較例1の両試料のフォトルミネッセンス(光発光)を、蛍光分光装置(日本分光製)を用いて測定した。その結果を
図7に示すが、発光のピークが比較例1の方が大きく、より比較例1の方が光照射で生じた電子とホールが再結合しやすいことがわかる。電子とホールが再結合しやすいと、光触媒反応に利用される電子、ホール量が減るため、光触媒活性が低くなりやすくなる。
【0038】
以上述べてきたように、金属ポルフォリン(鉄ポルフォリン)を用いることと、その金属ポルフォリンを架橋配位子として金属化合物クラスターに組みことの両者の相乗効果によって、このような高い光触媒効率と二酸化炭素にまで分解できる強い酸化力が得られた。
【0039】
(比較例2)
さらに、この試料の6価クロムの毒性低下実験によっても光触媒特性を評価した。その活性の評価方法は実施例2と同じ方法を用いた。可視光照射により6価クロムの量が減少するが、40分の光照射でわずか20〜30%の6価クロムしか削減処理できなかった(
図5)。実施例2の材料は同じ時間の光照射でほぼすべて処理できていることから、実施例2の試料(Fe−PCN−224)は優れた有害金属の毒性を低下させる能力のある材料であるといえる。
【0040】
(比較例3)
鉄を含まないポルフィリンを配位子としたZr化合物を用いた有機金属構造体(PCN−222)を以下に示す方法を用いて合成した。
75mgのZrOCl
2・8H
2Oを20mLのジメチルホルムアミド(DMF)中で撹拌後、そこに13mgのテトラキス(4−カルボキシフェニル)ポルフィリンと14mLの蟻酸を加えた。その溶液を密閉容器内で403Kの温度で熱処理することで粉末を得た。その粉末を洗浄し、乾燥させることで比較例3の試料を得た。
【0041】
その試料の活性を実施例1の活性評価法と同様の方法で評価した。
その結果、
図6に示すように、アセトンの4時間後の生成量は200ppm程度であり、実施例1,3に比べて十分低く、活性は高くなかった。