(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-177745(P2018-177745A)
(43)【公開日】2018年11月15日
(54)【発明の名称】せん妄を治療又は予防するための併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20181019BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20181019BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20181019BHJP
A61K 31/343 20060101ALI20181019BHJP
A61K 31/55 20060101ALI20181019BHJP
A61K 31/4045 20060101ALI20181019BHJP
A61K 31/65 20060101ALI20181019BHJP
【FI】
A61K45/06
A61P25/00
A61P43/00 121
A61K31/343
A61K31/55
A61K31/4045
A61K31/65
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-84458(P2017-84458)
(22)【出願日】2017年4月21日
(11)【特許番号】特許第6226215号(P6226215)
(45)【特許公報発行日】2017年11月8日
(71)【出願人】
【識別番号】516384003
【氏名又は名称】株式会社Research Mind
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100180563
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 晃
(72)【発明者】
【氏名】原 正彦
(72)【発明者】
【氏名】古屋 智英
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA20
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZC751
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA05
4C086BC13
4C086BC50
4C086DA29
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA02
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】本発明は、せん妄を治療及び予防するための医薬組成物を提供する。
【解決手段】
本発明の医薬組成物は、メラトニン受容体アゴニストを含有する、せん妄を治療又は予防するための医薬組成物であって、テトラサイクリン系抗生物質と併用投与されるように用いられることを特徴とする。他の実施態様において、本発明の医薬組成物は、テトラサイクリン系抗生物質を含有する、せん妄を治療又は予防するための医薬組成物であって、メラトニン受容体アゴニストと併用投与されるように用いられることを特徴とする。メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質との併用投与は、せん妄を治療及び予防において、相乗効果を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メラトニン受容体アゴニストを含有する、せん妄を治療又は予防するための医薬組成物であって、テトラサイクリン系抗生物質と併用投与されるように用いられることを特徴とする、前記医薬組成物。
【請求項2】
テトラサイクリン系抗生物質を含有する、せん妄を治療又は予防するための医薬組成物であって、メラトニン受容体アゴニストと併用投与されるように用いられることを特徴とする、前記医薬組成物。
【請求項3】
前記メラトニン受容体アゴニストが、ラメルテオン、ペルラピン、メラトニン、若しくはタシメルテオン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である、請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記メラトニン受容体アゴニストが、下記式(I)の化合物又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である、請求項1又は2記載の医薬組成物:
【化1】
(式中、R
1は、水素、アルキル、ヒドロキシ、又はアルコキシであり、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素、又はアルキルである。)。
【請求項5】
R2、R3及びR4の全てが水素である、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記メラトニン受容体アゴニストが、ラメルテオン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である、請求項1〜5のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記テトラサイクリン系抗生物質が、下記式(II)の化合物又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である、請求項1〜6のいずれか一項記載の医薬組成物:
【化2】
(式中、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、アミノ、アルキルアミノ、又はジアルキルアミノであり、R
7は水素又はアルキルであり、R
8は水素、ヒドロキシ又はアルキルであり、R
9は水素又はアルキルであり、R
10は水素又はアルキルであり、R
11は水素、ヒドロキシ又はアルキルであり、R
12は水素、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、又はハロゲンである。)。
【請求項8】
R7、R8、R9、R10及びR11の全てが水素であり、R12がアミノ、アルキルアミノ、又はジアルキルアミノである、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記テトラサイクリン系抗生物質が、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、デメクロサイクリン、若しくはテトラサイクリン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である、請求項1〜7のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記テトラサイクリン系抗生物質が、ミノサイクリン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である、請求項1〜9のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記メラトニン受容体アゴニストが、ラメルテオン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体であり、かつ前記テトラサイクリン系抗生物質が、ミノサイクリン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である、請求項1〜10のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記併用投与が、同時投与又は逐次投与である、請求項1〜11のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記併用投与が、逐次投与であり、前記メラトニン受容体アゴニストの投与後に、前記テトラサイクリン系抗生物質が投与されるように用いられる、請求項1〜12記載のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記メラトニン受容体アゴニストが、1日あたり0.0025 mg/kg(体重)〜2 mg/kg(体重)の量で投与されるように用いられる、請求項1〜13のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記テトラサイクリン系抗生物質が、1日あたり0.5 mg/kg(体重)〜20 mg/kg(体重)の量で投与されるように用いられる、請求項1〜14のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項16】
メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とを含有する、せん妄を治療又は予防するための医薬組成物。
【請求項17】
せん妄を治療又は予防するためのキットであって、メラトニン受容体アゴニストを含有する医薬組成物と、テトラサイクリン系抗生物質を含有する医薬組成物とを組み合わせて包含する、前記キット。
【請求項18】
前記メラトニン受容体アゴニストを含有する医薬組成物、及び前記テトラサイクリン系抗生物質を含有する医薬組成物が、経口投与用又は非経口投与用に製剤化されている、請求項17記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、せん妄を治療又は予防するための併用療法に関する。特に、本発明は、メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とを用いる、せん妄を治療又は予防するための併用療法に関する。
【背景技術】
【0002】
せん妄は、一過性に幻覚又は妄想などの異常体験や興奮を伴う、認知機能障害を呈する特殊な意識障害又は急性脳障害である。せん妄は、特に、高齢者で起こりやすい。そのため、今後、急速な高齢化社会を迎えるにあたり、医療経済学的視点や生命予後改善の視点などから、その治療及び予防方法の確立が急務である。
【0003】
せん妄の病態生理は、いまだ解明されていない面が多いが、その症状は夕方から夜間に生じることから、近年、その要因の一つとして、サーカディアンリズムを調整しているメラトニンの分泌不全が注目されている。また、古典的な神経伝達物質仮説(アセチルコリン、ドーパミン、グルタミン酸、ガンマアミノ酪酸、セロトニン、ノルアドレナリンなどの伝達障害)、も一定の根拠・支持があり、それらの原因の一端として脳内神経炎症の関与が指摘されている(非特許文献1)。
【0004】
現在、せん妄は、薬物投与による治療及び予防が行われている。例えば、せん妄を治療するための薬物として、グルココルチコイドレセプターアンタゴニスト及びコリン作動性中枢神経系エフェクターなどが知られている(特許文献1及び特許文献2)。実際の現場では、せん妄は、統合失調症と精神症候が一部類似しているため、統合失調症の治療薬であるハロペリドール等の抗精神病薬(主な薬理作用はドパミンD2受容体遮断)による薬物療法が主である。しかし、これらの薬物には、副作用があり、また、その効果は十分なものではない。したがって、十分な治療及び予防効果を有する、せん妄の新たな治療薬及び予防薬の開発が求められており、発明者らは新しいせん妄予防・治療手段としてのラメルテオンの効果について世界でも最先端の知見を数多く報告してきた(非特許文献2〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−512949号公報
【特許文献2】特表2002−531401号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Fong TG, Tulebaev SR, Inouye SK. Delirium in elderly adults: diagnosis, prevention and treatment. Nat Rev Neurol. 2009;5(4):210-20
【非特許文献2】Furuya M, Miyaoka T, Yasuda H, Yamashita S, Tanaka I, Otsuka S, et al. Marked improvement in delirium with ramelteon: five case reports. Psychogeriatrics. 2012;12(4):259-62.
【非特許文献3】Miura S, Furuya M, Yasuda H, Miyaoka T, Horiguchi J. Novel Therapy With Ramelteon for Hypoactive Delirium: A Case Report: J Clin Psychopharmacol. 2015 Oct;35(5):616-8. doi: 10.1097/JCP.0000000000000370.
【非特許文献4】Furuya M, Miyaoka T, Yasuda H, Wake R, Hashioka S, Miura S, et al. Ramelteon as adjunctive therapy for delirium referred to a consultation-liaison psychiatry service: a retrospective analysis: Int J Geriatr Psychiatry. 2015 Sep;30(9):994-5. doi: 10.1002/gps.4280.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、せん妄を治療及び予防するための医薬組成物及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
せん妄の発症メカニズムはまだ明らかではないが、本発明者らは、せん妄の要因の一つとして考えられ得るメラトニンの分泌不全に着目し、メラトニン受容体アゴニストを用いた研究を行った。従来技術において、メラトニン受容体アゴニストは、不眠等の治療薬として使用されてきたものである。しかしながら、メラトニン受容体アゴニスト単独では、せん妄に対する十分な治療効果を得ることができなかった。本発明者らは、さらに研究を行った結果、意外にも、メラトニン受容体アゴニストとともに、脳内神経炎症を抑えると考えられているテトラサイクリン系抗生物質を併用することで、優れた、せん妄治療効果が得られることを見出した。したがって、本発明は、メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とを用いる、せん妄を治療又は予防するための併用療法を提供する。
【0009】
本発明の好ましい態様は、以下である。
(1)メラトニン受容体アゴニストを含有する、せん妄を治療又は予防するための医薬組成物であって、テトラサイクリン系抗生物質と併用投与されるように用いられることを特徴とする、前記医薬組成物。
(2)テトラサイクリン系抗生物質を含有する、せん妄を治療又は予防するための医薬組成物であって、メラトニン受容体アゴニストと併用投与されるように用いられることを特徴とする、前記医薬組成物。
(3)前記メラトニン受容体アゴニストが、ラメルテオン、ペルラピン、メラトニン、若しくはタシメルテオン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である、前記(1)又は(2)記載の医薬組成物。
(4)前記メラトニン受容体アゴニストが、下記式(I)の化合物又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である、前記(1)又は(2)記載の医薬組成物:
【化1】
(式中、R
1は、水素、アルキル、ヒドロキシ、又はアルコキシであり、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素、又はアルキルである。)。
(5)R
2、R
3及びR
4の全てが水素である、前記(4)記載の医薬組成物。
(6)前記メラトニン受容体アゴニストが、ラメルテオン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である、前記(1)〜(5)のいずれか一記載の医薬組成物。
(7)前記テトラサイクリン系抗生物質が、下記式(II)の化合物又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である、前記(1)〜(6)のいずれか一記載の医薬組成物:
【化2】
(式中、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、アミノ、アルキルアミノ、又はジアルキルアミノであり、R
7は水素又はアルキルであり、R
8は水素、ヒドロキシ又はアルキルであり、R
9は水素又はアルキルであり、R
10は水素又はアルキルであり、R
11は水素、ヒドロキシ又はアルキルであり、R
12は水素、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、又はハロゲンである。)。
(8)R
7、R
8、R
9、R
10及びR
11の全てが水素であり、R
12がアミノ、アルキルアミノ、又はジアルキルアミノである、前記(7)記載の医薬組成物。
(9)前記テトラサイクリン系抗生物質が、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、デメクロサイクリン、若しくはテトラサイクリン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である、前記(1)〜(7)のいずれか一記載の医薬組成物。
(10)前記テトラサイクリン系抗生物質が、ミノサイクリン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である、前記(1)〜(9)のいずれか一記載の医薬組成物。
(11)前記メラトニン受容体アゴニストが、ラメルテオン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体であり、かつ前記テトラサイクリン系抗生物質が、ミノサイクリン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である、前記(1)〜(10)のいずれか一記載の医薬組成物。
(12)前記併用投与が、同時投与又は逐次投与である、前記(1)〜(11)のいずれか一記載の医薬組成物。
(13)前記併用投与が、逐次投与であり、前記メラトニン受容体アゴニストの投与後に、前記テトラサイクリン系抗生物質が投与されるように用いられる、前記(1)〜(12)のいずれか一記載の医薬組成物。
(14)前記メラトニン受容体アゴニストが、1日あたり0.0025 mg/kg(体重)〜2 mg/kg(体重)の量で投与されるように用いられる、前記(1)〜(13)のいずれか一記載の医薬組成物。
(15)前記テトラサイクリン系抗生物質が、1日あたり0.5 mg/kg(体重)〜20 mg/kg(体重)の量で投与されるように用いられる、前記(1)〜(14)のいずれか一記載の医薬組成物。
(16)メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とを含有する、せん妄を治療又は予防するための医薬組成物。
(17)せん妄を治療又は予防するためのキットであって、メラトニン受容体アゴニストを含有する医薬組成物と、テトラサイクリン系抗生物質を含有する医薬組成物とを組み合わせて包含する、前記キット。
(18)前記メラトニン受容体アゴニストを含有する医薬組成物、及び前記テトラサイクリン系抗生物質を含有する医薬組成物が、経口投与用又は非経口投与用に製剤化されている、前記(17)記載のキット。
【発明の効果】
【0010】
メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質との併用投与は、せん妄の治療及び予防において、劇的な相乗効果をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1及び実施例2の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1.定義)
用語「せん妄」は、当業者に知られている一般的な意味を有し、一過性に幻覚又は妄想などの異常体験や興奮を伴う、認知機能障害を呈する特殊な意識障害又は急性脳障害を意味する。「せん妄」の例を挙げると、夜間せん妄、入院せん妄、術後せん妄、アルコールせん妄、薬剤性せん妄、疾患せん妄、毒物せん妄、及び作業せん妄などがある。
【0013】
用語「メラトニン受容体アゴニスト」は、当業者に知られている一般的な意味を有し、対象の脳内のメラトニン受容体を活性化することができる化学物質を意味する。
用語「テトラサイクリン系抗生物質」は、当業者に知られている一般的な意味を有し、4つの縮合した炭化水素環を持つ、広域スペクトラムを有する抗生物質を意味する。
【0014】
用語「医薬として許容し得る塩」は、無機酸若しくは無機塩基、又は有機酸若しくは有機塩基を含む、医薬として許容し得る無毒性の酸又は塩基から形成される塩を意味する。医薬として許容し得る塩の例を挙げると、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム若しくは亜鉛などから形成される金属塩、及びリジン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)若しくはプロカインなどから形成される有機塩がある。また、医薬として許容し得る塩の例を挙げると、酸付加塩、塩基付加塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、及びアミノ酸付加塩などがある。酸付加塩は、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、又はヨウ化水素酸塩などがある。
【0015】
用語「溶媒和物」は、当業者に知られている一般的な意味を有し、ある化合物に対する1つ又は複数の溶媒分子の会合により形成される含溶媒化合物を意味する。溶媒和物は、例えば、一溶媒和物、二溶媒和物、三溶媒和物、及び四溶媒和物を含む。また、溶媒和物は、水和物を含む。用語「水和物」は、非共有結合性分子間力によって拘束された化学量論的又は非化学量論的量の水をさらに含む化合物又はその塩を意味する。水和物は、例えば、一水和物、二水和物、三水和物、及び四水和物などを含む。
【0016】
用語「立体異性体」は、当業者に知られている一般的な意味を有し、同一の平面構造式をもつ複数の化合物の間で、原子又は原子団の空間的な配置(立体配置)が異なった化合物を意味する。立体異性体は、幾何異性体、光学異性体(鏡像異性体)、及びジアステレオ異性体を含み得る。用語「立体異性体の混合物」は、特定の割合の(R)体と(S)体との混合物(例えば、(R)体:(S)体=1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、5:1、4:1、3:1、又は2:1)、及びラセミ体を含む。
【0017】
用語「互変異性体」は、当業者に知られている一般的な意味を有し、ある2種以上の化合物が構造異性体として存在し、それらが速い平行にある場合、その各々の異性体を意味する。互変異性体は、ケト-エノール互変異性体若しくはアミド-イミド酸互変異性体などのプロトン互変異性体、又は原子価互変異性体等を含む。
【0018】
用語「治療」は、当業者に知られている一般的な意味を有し、疾患若しくはその症状を完全に消失させること、又は、疾患若しくはその症状の進行、重症度及び/若しくは持続期間を低減若しくは寛解することを意味する。用語「予防」は、当業者に知られている一般的な意味を有し、疾患若しくはその症状を発症する危険性を低減若しくは抑制すること、又は疾患若しくはその症状の1つ若しくは複数の再発を低減若しくは抑制することを意味する。
【0019】
用語「併用投与」は、同じ対象に、2種以上の有効成分を投与することを意味する。本発明において、用語「併用投与」は、同じ対象に、メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とを投与することを意味する。併用投与は、同時投与であっても、逐次投与であってもよい。用語「逐次投与」は、メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とが、一定の間隔を開けて順次に又は個別に投与されることを意味する。
【0020】
用語「アルキル」は、脂肪族飽和炭化水素の水素原子1個が失われて生じる1価の基を意味する。アルキルの例を挙げると、限定されないが、C
1-6アルキル、C
1-4アルキル、C
1-3アルキル、及びC
1-2アルキルなどがある。アルキルは、直鎖若しくは分枝状であってもよい。具体的なアルキルの例を挙げると、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル及びその異性体、n-ヘキシル及びその異性体などがある。アルキルは、さらに適当な置換基によって置換されてもよい。
【0021】
用語「ヒドロキシ」は、-OHを意味する。
用語「アルコキシ」は、酸素原子を介して他の基に結合しているアルキル(すなわち、-O-アルキル)を意味する。アルコキシの例を挙げると、限定されないが、C
1-6アルコキシ、C
1-4アルコキシ、C
1-3アルコキシ、及びC
1-2アルコキシがある。具体的なアルキルの例を挙げると、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ及びイソプロポキシなどがある。
【0022】
用語「アミノ」は、-NH
2を意味する。
用語「アルキルアミノ」は、アミノの1つの水素がアルキルで置換されたアミノを意味する。アルキルアミノの例を挙げると、限定されないが、C
1-6アルキルアミノ、C
1-4アルキルアミノ、C
1-3アルキルアミノ、及びC
1-2アルキルアミノがある。具体的なアルキルアミノの例を挙げると、限定されないが、メチルアミノ、エチルアミノ、n-プロピルアミノ、及びイソプロピルアミノなどがある。
用語「ジアルキルアミノ」は、アミノの2つの水素がアルキルで置換されたアミノを意味する。2つのアルキルは、同一であっても異なっていてもよい。ジアルキルアミノの例を挙げると、限定されないが、C
1-6ジアルキルアミノ、C
1-4ジアルキルアミノ、C
1-3ジアルキルアミノ、及びC
1-2ジアルキルアミノがある。ここで、「C
1-6ジアルキルアミノ」は、アミノの2つの水素がアルキルで置換されたアミノであって、2つのアルキルは、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキルから選択されるものを意味する。具体的なジアルキルアミノの例を挙げると、限定されないが、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、及びメチルエチルアミノなどがある。
用語「ハロゲン」は、フルオロ(-F)、クロロ(-Cl)、ブロモ(-Br)、又はヨード(-I)を意味する。
【0023】
(2.本発明の医薬組成物)
本発明の医薬組成物は、せん妄を治療及び予防することができる。一実施態様において、本発明の医薬組成物は、有効成分としてメラトニン受容体アゴニストを含有する。該医薬組成物は、テトラサイクリン系抗生物質と併用投与されるように用いられる。他の実施態様において、本発明の医薬組成物は、有効成分としてテトラサイクリン系抗生物質を含有する。該医薬組成物は、メラトニン受容体アゴニストと併用投与されるように用いられる。また他の実施態様において、本発明の医薬組成物は、有効成分としてメラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とを含有する。該医薬組成物は、該テトラサイクリン系抗生物質と該メラトニン受容体アゴニストとが併用投与されるように用いられる。この実施態様において、メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とは、混合物として存在してもよいし、個別に存在していてもよい。
【0024】
本発明の医薬組成物に含有されるメラトニン受容体アゴニストは、1種又は複数(例えば、2種又は3種)であってもよい。本発明の医薬組成物に含有されるテトラサイクリン系抗生物質は、1種又は複数(例えば、2種又は3種)であってもよい。
【0025】
メラトニン受容体アゴニストの例を挙げると、ラメルテオン、ペルラピン、メラトニン、若しくはタシメルテオン、又はその誘導体、或いはその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体などがある。好ましくは、メラトニン受容体アゴニストは、ラメルテオン、若しくはその誘導体、例えば、以下の式(I)の化合物、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である:
【化3】
式中、R
1は、水素、アルキル、ヒドロキシ、又はアルコキシである。好ましくは、R
1は、アルキル、例えば、メチル、エチル又はプロピルである。R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素、又はアルキルである。好ましくは、R
2、R
3及びR
4は、水素である。
【0026】
好ましくは、メラトニン受容体アゴニストは、ラメルテオン又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である。ラメルテオンは、(S)-N-[2-(1,6,7,8-テトラヒドロ-2H-インデノ[5,4-b]フラン-8-イル)エチル]プロピオンアミドであり、下記式で表される。
【化4】
【0027】
テトラサイクリン系抗生物質の例を挙げると、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、デメクロサイクリン、若しくはテトラサイクリン、又はその誘導体、例えば、以下の式(II)の化合物、或いは、その医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体などがある:
【化5】
式中、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、アミノ、アルキルアミノ、又はジアルキルアミノであり、R
7は水素又はアルキルであり、R
8は水素、ヒドロキシ又はアルキルであり、R
9は水素又はアルキルであり、R
10は水素又はアルキルであり、R
11は水素、ヒドロキシ又はアルキルであり、R
12は水素、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、又はハロゲンである。式(II)において、好ましくは、R
7、R
8、R
9、R
10及びR
11の全ては水素であり、R
12はアミノ、アルキルアミノ、又はジアルキルアミノである。
【0028】
ミノサイクリン、ドキシサイクリン、デメクロサイクリン、若しくはテトラサイクリン、又はその誘導体、例えば、式(II)の化合物は、塩酸塩として存在していてもよい。好ましくは、テトラサイクリン系抗生物質は、ミノサイクリン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体である。ミノサイクリン、ドキシサイクリン、デメクロサイクリン、及びテトラサイクリンは、それぞれ、下記名称によっても表すことができる:
ミノサイクリン:(4S)-4β,7-ビス(ジメチルアミノ)-1,4,4aβ,5,5aβ,6,11,12a-オクタヒドロ-3,10,12,12aβ-テトラヒドロキシ-1,11-ジオキソ-2-ナフタセンカルボアミド;
ドキシサイクリン:(4S)-4β-ジメチルアミノ-1,4,4aβ,5,5aβ,6,11,12a-オクタヒドロ-3,5β,10,12,12aβ-ペンタヒドロキシ-6β-メチル-1,11-ジオキソ-2-ナフタセンカルボアミド;
デメクロサイクリン:(4S)-7-クロロ-1,4,4aβ,5,5aβ,6,11,12a-オクタヒドロ-3,6α,10,12,12aβ-ペンタヒドロキシ-4β-(ジメチルアミノ)-1,11-ジオキソ-2-ナフタセンカルボアミド;及び
テトラサイクリン:(4S)-4β-(ジメチルアミノ)-1,4,4aβ,5,5aβ,6,11,12a-オクタヒドロ-3,6α,10,12,12aβ-ペンタヒドロキシ-6β-メチル-1,11-ジオキソ-2-ナフタセンカルボアミド。
【0029】
ミノサイクリン、ドキシサイクリン、デメクロサイクリン、若しくはテトラサイクリンは、それぞれ、下記式で表される:
【化6】
【0030】
メラトニン受容体アゴニスト及びテトラサイクリン系抗生物質は、商業的に入手可能である。また、メラトニン受容体アゴニスト及びテトラサイクリン系抗生物質は、化学合成により製造することもできる。
【0031】
本発明の医薬組成物に含まれるメラトニン受容体アゴニスト及び/又はテトラサイクリン系抗生物質の量は、特に制限されず、例えば、治療的又は予防的有効量であればよい。ここで、治療的又は予防的有効量は、メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とが相乗効果を発揮できる量を含む。該量は、通常、医学的判断の範囲内で、医師又は薬剤師等によって決定されるであろう。また、該量は、疾患の種類及びその疾患の重症度;使用される化合物の活性;患者の年齢、体重、健康状態、性別及び食事内容;投与の回数、投与経路、及び使用される化合物の排出速度;治療期間、使用される化合物との組合せ、又は同時に使用される薬剤など、様々な要因により決定されるであろう。本発明の医薬組成物に含まれるメラトニン受容体アゴニストの量は、例えば1日あたり、0.5 mg〜40 mg、1 mg〜20mg、又は5 mg〜10 mgであり、好ましくは、8 mgである。テトラサイクリン系抗生物質の量は、例えば、100 mg〜400 mg、又は150 mg〜300 mgであり、好ましくは、200 mgである。
【0032】
本発明の医薬組成物は、更に1種以上の医薬として許容し得る担体を含むことができる。医薬として許容し得る担体は、非毒性で不活性の固体、半固体又は液体物質である。医薬として許容し得る担体は、例えば、当業者に公知の賦形剤、安定化剤、不活性希釈剤、充填剤、増量剤、崩壊剤、崩壊抑制剤、懸濁化剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤、カプセル封入剤、結合剤、防腐剤、抗酸化剤、潤滑剤、保湿剤、吸着剤、滑沢剤又は任意の他の製剤助剤などがある。本発明の医薬組成物において使用される医薬として許容し得る担体は、製剤の種類及び使用される化合物などに応じて、適宜選択することができる。
【0033】
医薬として許容し得る担体の例を挙げると、制限されないが、水、アルコール類(エタノールなど)、塩水(生理食塩水など)、又はこれらの混合溶液などがある。さらに医薬として許容し得る担体の例を挙げると、制限されないが、以下のものがある;塩化ナトリウムなどの無機塩類;アルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩;グルコース(デキストロース)、マンノース、ガラクトース、又はフルクトースなどの単糖類;マンニトール、イノシトール、又はキシリトールなどの糖アルコール;スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、又はトレハロースなどの二糖類;デキストリン、デキストラン、セルロース、ヒアルロン酸、又はコンドロイチン硫酸などの多糖類;トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプンなどのデンプン類;グリシン、リシン、アスパラギン、アルギニン、グルタミン、システイン、アスパラギン酸、又はグルタミン酸などのアミノ酸類;トラガカント;ゼラチン;滑石;カカオバター又はワックス;蝋又はミツロウ;ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、ダイズ油、又は硬化油などのオイル類;オレイン酸エチル又はラウリン酸エチルなどのエステル類;寒天;水酸化ナトリウムなどの水酸化塩;アルギン酸;等張性塩類溶液;リンゲル液;リン酸緩衝液などの緩衝液;ステアリン酸マグネシウムなどである。
【0034】
本発明の医薬組成物に含まれる医薬として許容し得る担体の量は、特に制限はなく、これらは、使用される化合物の活性及び製剤の種類など、様々な要因により決定される。医薬として許容し得る担体の含有量は、例えば、本発明の医薬組成物の1〜99重量%の量とすることができる。
【0035】
本発明の医薬組成物を、経口投与用又は非経口投与用、例えば静脈内、皮下、経腸、腹腔内、又は筋肉内投与用に製剤化することができる。製剤は、例えば、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、又はカプセル剤などの固体製剤、又は滅菌水性溶液、滅菌非水性溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ、エマルション又はエリキシルなどの液体製剤がある。
【0036】
固体製剤は、慣用の製薬配合技術に従って、有効成分を、少なくとも1種の賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、崩壊抑制剤、吸収促進剤、保湿剤、吸着剤、及び/又は滑沢剤等と組み合わせることにより調製することができる。固体製剤は、必要に応じて、さらに着色料、保存剤、香料、風味剤、若しくは甘味剤などを含んでいてもよい。さらに固体製剤は、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、又はフィルムコーティング錠とすることができ、二重錠ないしは多層錠とすることもできる。カプセル剤は、常法に従い、活性成分を各種の医薬として許容し得る担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、又は軟質カプセルなどに充填して調製することができる。固体製剤中の有効成分の濃度は、特に制限はなく、例えば、1重量%〜99重量%、20重量%〜80重量%、30重量%〜60重量%、又は40重量%〜50重量%とすることができる。固体製剤は、単回又は分割用量の有効成分を含むことができる。
【0037】
液体製剤は、慣用の製薬配合技術に従って、有効成分を、不活性希釈剤などと混合することにより調製することができる。さらに、任意に、溶解補助剤、緩衝剤、等張化剤、懸濁化剤、界面活性剤、抗酸化剤、及び/又は防腐剤などを添加することもできる。また、液体製剤は、初めに本発明の医薬組成物を凍結乾燥粉末として調製及び保存しておき、使用直前に不活性希釈剤等に溶解又は懸濁化して調製してもよい。液体製剤は、必要に応じて、さらに着色料、保存剤、香料、風味剤、若しくは甘味剤などを含んでいてもよい。液体製剤中の有効成分の濃度は、特に制限はなく、例えば、1重量%〜99重量%、20重量%〜80重量%、30重量%〜60重量%、又は40重量%〜50重量%とすることができる。液体製剤は、単回又は分割用量の有効成分を含むことができる。
【0038】
本発明は、さらに、本発明の医薬組成物を包含する、せん妄を治療又は予防するためのキットを提供する。一実施態様において、本発明のキットは、メラトニン受容体アゴニストを含有する医薬組成物と、テトラサイクリン系抗生物質を含有する医薬組成物とを組み合わせて包含する。これらの医薬組成物は、経口投与用又は非経口投与用、例えば静脈内、皮下、経腸、腹腔内、又は筋肉内投与用に製剤化されていてもよい。本発明のキットは、さらに、せん妄の治療及び/又は予防方法等を記載した指示書を含むことができる。
【0039】
メラトニン受容体アゴニスト、テトラサイクリン系抗生物質、及び/又は本発明の医薬組成物は、せん妄を治療及び予防するための医薬品の製造に使用することができる。したがって、本発明は、さらに、せん妄を治療及び予防するための医薬品の製造における、メラトニン受容体アゴニスト、テトラサイクリン系抗生物質、及び/又は本発明の医薬組成物の使用であって、該医薬品は、メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とが併用投与されるように用いられる、前記使用を提供する。また、本発明は、さらに、テトラサイクリン系抗生物質と併用投与される、せん妄の治療に使用するためのメラトニン受容体アゴニスト、及びメラトニン受容体アゴニストと併用投与される、せん妄の治療に使用するためのテトラサイクリン系抗生物質を提供する。
【0040】
(3.せん妄の治療及び予防方法)
メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とを用いて、せん妄を治療及び予防することができる。本発明のせん妄の治療及び予防方法は、対象に、メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とを投与することを含む。対象は、例えば、せん妄と診断された対象、せん妄の可能性がある対象、及び/又はせん妄を発症する可能性のある対象等である。対象は、好ましくは、哺乳動物であり、より好ましくは、ヒトである。投与経路は、特に制限されない。例えば、経口又は非経口、例えば静脈内投与される。投与されるメラトニン受容体アゴニスト及びテトラサイクリン系抗生物質は、医薬組成物又は製剤の形態であってもよい。一実施態様において、本発明のせん妄の治療及び予防方法は、対象に、本発明の医薬組成物又は製剤を投与することを含む。
【0041】
メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とは併用投与される。併用投与は、同時投与及び逐次投与を含む。好ましくは、併用投与は、逐次投与である。投与量、投与方法、投与回数、投与順序、及び投与時期等は、特に限定されず、メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とが相乗効果を発揮できればよい。例えば、メラトニン受容体アゴニストは、睡眠前に投与される。また、例えば、テトラサイクリン系抗生物質は、朝及び夕方に投与される。同時投与は、メラトニン受容体アゴニスト及びテトラサイクリン系抗生物質とを混合物として投与すること、及びメラトニン受容体アゴニスト及びテトラサイクリン系抗生物質とを個別に同時に投与することを含む。逐次投与は、最初にメラトニン受容体アゴニストを投与し、その後に、テトラサイクリン系抗生物質を投与すること、及びその逆を含む。好ましくは、逐次投与は、最初にメラトニン受容体アゴニストを投与し、その後に、テトラサイクリン系抗生物質を投与する。
【0042】
同時投与を、一定の間隔を開けて、複数回(例えば、2回、3回、4回、5回又はそれ以上)繰り返すことができる。該間隔は、例えば、30分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、12時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週、2週又は3週とすることができる。
【0043】
逐次投与の場合、メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とは、一定の間隔を開けて投与される。該間隔は、例えば、30分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、12時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週、2週又は3週とすることができる。メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とを、交互に投与してもよい。メラトニン受容体アゴニストを最初に1回又は複数回(例えば、2回、3回、4回、5回又はそれ以上)投与し、その後、テトラサイクリン系抗生物質を1回又は複数回(例えば、2回、3回、4回、5回又はそれ以上)投与してもよい。テトラサイクリン系抗生物質を最初に1回又は複数回(例えば、2回、3回、4回、5回又はそれ以上)投与し、その後、メラトニン受容体アゴニストを1回又は複数回(例えば、2回、3回、4回、5回又はそれ以上)投与してもよい。また、テトラサイクリン系抗生物質とメラトニン受容体アゴニストとを、対象の症状に合わせてランダムに投与してもよい。同時投与と逐次投与とを、対象の症状等に合わせて、交互に又はランダムに組み合せてもよい。
【0044】
一実施態様において、同時投与は、メラトニン受容体アゴニストを含有する第一医薬組成物とテトラサイクリン系抗生物質を含有する第二医薬組成物とを同時に投与すること、及びメラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質との混合物を含有する医薬組成物を投与することを含む。一実施態様において、逐次投与は、メラトニン受容体アゴニストを含有する第一医薬組成物とテトラサイクリン系抗生物質を含有する第二医薬組成物とを、一定の間隔を開けて、順次に又は個別に投与することを含む。逐次投与において、最初にメラトニン受容体アゴニストを含有する第一医薬組成物を投与し、その後に、テトラサイクリン系抗生物質を含有する第二医薬組成物を投与してもよいし、その逆であってもよい。上記第一医薬組成物及び第二医薬組成物は、経口投与用又は非経口投与用、例えば静脈内、皮下、経腸、腹腔内、又は筋肉内投与用に製剤化されていてもよい。
【0045】
メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質との投与量は、特に制限されず、対象に、治療的又は予防的有効量のメラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とが投与される量であればよい。ここで、治療的又は予防的有効量は、メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質とが相乗効果を発揮できる量を含む。該投与量は、通常、医学的判断の範囲内で、医師又は薬剤師等によって決定されるであろう。また、該投与量は、疾患の種類及びその疾患の重症度;使用される化合物の活性;患者の年齢、体重、健康状態、性別及び食事内容;投与の回数、投与経路、及び使用される化合物の排出速度;治療期間、使用される化合物との組合せ、又は同時に使用される薬剤など、様々な要因により決定されるであろう。例えば、メラトニン受容体アゴニストの投与量は、1日あたり0.5 mg〜40 mg、1 mg〜20 mg、又は5 mg〜10 mgであり、好ましくは、1日あたり8 mgである。例えば、テトラサイクリン系抗生物質の量は、1日あたり100 mg〜400 mg、又は150 mg〜300 mgであり、好ましくは、1日あたり200 mgである。例えば、メラトニン受容体アゴニストの投与量は、1日あたり、0.0025 mg/kg(体重)〜2 mg/kg(体重)、0.005 mg/kg(体重)〜1 mg/kg(体重)、又は0.025 mg/kg(体重)〜0.5 mg/kg(体重)であり、好ましくは、0.04 mg/kg(体重)〜0.4 mg/kg(体重)である。例えば、テトラサイクリン系抗生物質の量は、1日あたり0.5 mg/kg(体重)〜20 mg/kg(体重)、又は0.75 mg/kg(体重)〜15 mg/kg(体重)であり、好ましくは、1日あたり1 mg/kg(体重)〜10 mg/kg(体重)である。
【0046】
メラトニン受容体アゴニストとテトラサイクリン系抗生物質との併用投与は、各々を単独で投与した場合に比べて、相乗効果をもたらす。該相乗効果は、各々を単独で投与した場合に比べて、例えば、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍又はそれ以上である。
【実施例】
【0047】
(4.実施例)
以下に本発明の実施例を記載する。下記実施例は、本発明の特許請求の範囲に関する理解を深めるために記載しているものであり、本発明の特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。
【0048】
(実施例1)
ある疾患に対する手術を行った70歳代の女性が、術後2日目の夜に興奮状態となった。精神科で診察し、DSM-Vによりせん妄と診断された。この時、せん妄の重症度の評価尺度であるDRS-R-98(Delirium Rating Scale-R-98)は、30点であった。その後、抗精神病薬を投与したが、術後5日目の時点でDRS-R-98は19点までしか下がらなかった。術後6日目に、メラトニン受容体アゴニストであるラメルテオン(ロゼレム)8 mgを投与したところ、術後9日目でDRS-R-98は8点に低下した。しかしながら、それ以降の変化は見られなかった。術後10日目にさらに、テトラサイクリン系抗生物質であるミノサイクリン(ミノマイシン)を100 mg/日を経口投与したところ、翌日にDRS-R-98は0点になり、せん妄は治癒した。
【0049】
(実施例2)
糖尿病コントロール目的で入院した70歳代の男性が、入院当日の夜より夜間不穏状態となった。精神科で診察し、DSM-Vによりせん妄と診断された。せん妄の重症度の評価尺度であるDRS-R-98は、29点であった。抗精神病薬の投与の副作用によると思われる誤嚥性肺炎の既往歴があったため、抗精神病薬の投与は行わなかった。その後、メラトニン受容体アゴニストであるラメルテオン(ロゼレム)8 mgを投与した。入院3日目にDRS-R-98は12点になったが、その後変化はなかった。入院6日目に、テトラサイクリン系抗生物質であるミノサイクリン(ミノマイシン)を100 mg/日を投与したところ、翌日にDRS-R-98は0点になり、せん妄は治癒した。
【0050】
(結果)
実施例1及び実施例2の結果を、
図1に示す。
図1のグラフの縦軸は、DRS-R-98(点数)を示す。せん妄患者に対して、ラメルテオンの投与により、せん妄の重症度は多少改善したが、それ以降変化はなかった。しかし、さらにミノサイクリンを投与することにより、DRS-R-98は劇的に減少し、せん妄の治癒を確認した。
【0051】
(考察)
本実施例において、本発明者らは、せん妄の治療として、ラメルテオンの投与後にミノサイクリンを追加投与することによって、それぞれの単独投与や相加効果から予想される範囲を超える劇的な改善を経験した。医学的には1例でも学術的な症例報告として十分な価値があると考える効果であったが、2例目以降の結果によって再現性があることが明らかとなった。
【0052】
また、本発明者らは、せん妄治療において、ラメルテオンを単独投与した場合、Delirium Rating Scale(DRS)で中央値14(四分位範囲 8-19)であるという結果を過去に報告している(非特許文献2)。したがって、ラメルテオン単独では、せん妄の治療に限界があるものと考えられる。
【0053】
せん妄と精神症候が一部類似する統合失調症の有力な病態生理仮説に、ミクログリア活性化を含む神経炎症仮説があることが知られている(非特許文献1)。本発明者らは、統合失調症モデル動物において、ミノサイクリンが活性化ミクログリアを抑制することを証明した(Liaury K, Miyaoka T, Tsumori T, Furuya M, Hashioka S, Wake R, et al. Minocycline improves recognition memory and attenuates microglial activation in Gunn rat: a possible hyperbilirubinemia-induced animal model of schizophrenia. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2014;50:184-90.)。しかし、この研究からは、ミノサイクリンによる活性化ミクログリアの抑制は、約40〜50%程度であり、また、この抑制のためにミノサイクリンは40 mg/kgもの用量を要した。これは、通常、ヒトに用いる量の約12倍である。このことから、仮説が正しく、ミノサイクリンがせん妄治療に用いることができるとしても、ミノマイシン単独の投与でも、せん妄の治療に限界があるものと予測される。
【0054】
せん妄の原因としてメラトニンの分泌不全及びミクログリア活性化を含む神経炎症の2つの経路が存在することを考えると、単剤投与による1経路のブロックでは残存したせん妄発症経路を介して生じる変化に対応できず、十分な治療効果が得られないことは理論上十分に説明がつき、併用療法により予想を上回る劇的な効果が得られたことも説明可能である。
【手続補正書】
【提出日】2017年8月15日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラメルテオン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体を含有する、せん妄を治療又は予防するための医薬組成物であって、ミノサイクリン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体と併用投与されるように用いられることを特徴とする、前記医薬組成物。
【請求項2】
ミノサイクリン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体を含有する、せん妄を治療又は予防するための医薬組成物であって、ラメルテオン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体と併用投与されるように用いられることを特徴とする、前記医薬組成物。
【請求項3】
前記併用投与が、同時投与又は逐次投与である、請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記併用投与が、逐次投与であり、前記ラメルテオン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体の投与後に、前記ミノサイクリン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体が投与されるように用いられる、請求項1〜3記載のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ラメルテオン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体が、1日あたり0.0025 mg/kg(体重)〜2 mg/kg(体重)の量で投与されるように用いられる、請求項1〜4のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ミノサイクリン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体が、1日あたり0.5 mg/kg(体重)〜20 mg/kg(体重)の量で投与されるように用いられる、請求項1〜5のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項7】
ラメルテオン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体とミノサイクリン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体とを含有する、せん妄を治療又は予防するための医薬組成物。
【請求項8】
せん妄を治療又は予防するためのキットであって、ラメルテオン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体を含有する医薬組成物と、ミノサイクリン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体を含有する医薬組成物とを組み合わせて包含する、前記キット。
【請求項9】
前記ラメルテオン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体を含有する医薬組成物、及び前記ミノサイクリン、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物、立体異性体、立体異性体の混合物若しくは互変異性体を含有する医薬組成物が、経口投与用又は非経口投与用に製剤化されている、請求項8記載のキット。