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特開2018-177851精練剤組成物及び繊維製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-177851(P2018-177851A)
(43)【公開日】2018年11月15日
(54)【発明の名称】精練剤組成物及び繊維製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 1/10 20060101AFI20181019BHJP
   D06L 1/12 20060101ALI20181019BHJP
   C11D 1/66 20060101ALI20181019BHJP
【FI】
   C11D1/10
   D06L1/12
   C11D1/66
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-74346(P2017-74346)
(22)【出願日】2017年4月4日
(71)【出願人】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517118995
【氏名又は名称】台湾日華化学工業股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(72)【発明者】
【氏名】陳 啓哲
(72)【発明者】
【氏名】陳 雄富
(72)【発明者】
【氏名】郭 芳保
(72)【発明者】
【氏名】栃川 宏文
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003AB07
4H003AB08
4H003AC09
4H003DA01
4H003DB02
4H003ED02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】良好な精練性と、排液量の低減や排液の低濃度化とを両立した精練剤組成物を提供する。
【解決手段】(A)非イオン界面活性剤および(B)環状リポペプチドバイオサーファクタントを含んでなる精練剤組成物。前記非イオン界面活性剤と前記環状リポペプチドバイオサーファクタントとの質量比が、(A)非イオン界面活性剤:(B)環状リポペプチドバイオサーファクタント=80:20〜99.9:0.1であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)非イオン界面活性剤および(B)環状リポペプチドバイオサーファクタントを含んでなる精練剤組成物。
【請求項2】
(A)非イオン界面活性剤と(B)環状リポペプチドバイオサーファクタントとの質量比が、(A)非イオン界面活性剤:(B)環状リポペプチドバイオサーファクタント=80:20〜99.9:0.1である請求請1に記載の精練剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の精練剤組成物を含む処理液を用いて繊維を処理する工程を含むことを特徴とする繊維製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精練剤組成物及び繊維製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維の精練工程においては、繊維に付着しているオイルやワックスなどの精練を目的として、従来からポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルやポリオキシエチレンアルキルエーテルなどの非イオン界面活性剤、高級アルコール硫酸エステル塩やアルキルベンゼンスルホン酸塩などのアニオン界面活性剤、又はこれらの混合物が精練剤として用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルなどの非イオン活性剤と脂肪酸の塩および動植物油脂の硫酸化物の塩を必須成分とし、特定の比率で含有する精練剤組成物が記載されている。
【0004】
昨今の地球環境保護意識の高まりから、精練工程からの排液量の低減や排液の低濃度化が求められているものの、特許文献1の精練剤組成物においては、精練性と、排液量の低減や排液の低濃度化の両立はできていない。
【0005】
環境保護の観点から界面活性剤の使用量を削減するための技術として、陰イオン界面活性剤に環状リポペプチドバイオサーファクタントを組み合わせる方法が知られている(特許文献2)。特許文献2は、陰イオン界面活性剤に陽イオン界面活性剤を併用すると不溶物が生成して界面活性作用が得られないおそれがあるため、環状リポペプチドバイオサーファクタントは陰イオン性であることが好ましいこと、そして共に陰イオン性であることが両者の併用による相乗効果をもたらすことを教示する。したがって、特許文献2は非イオン界面活性剤の使用を示唆するものではなく、またその用途として精練剤を開示するものでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−93558号公報
【特許文献2】国際公開第2015/133455号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、良好な精練性と、排液量の低減や排液の低濃度化とを両立させることを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、(A)非イオン界面活性剤と(B)環状リポペプチドバイオサーファクタントとを併用することで、より少ない精練剤使用量で良好な精練性を発揮することができることを見出し、この知見に基づき本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、(A)非イオン界面活性剤および(B)環状リポペプチドバイオサーファクタントを含んでなる精練剤組成物である。
【0010】
本発明においては、(A)非イオン界面活性剤と(B)環状リポペプチドバイオサーファクタントとの質量比が、(A)非イオン界面活性剤:(B)環状リポペプチドバイオサーファクタント=80:20〜99.9:0.1であることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、上記の精練剤組成物を含む処理液を用いて繊維を処理する工程を含むことを特徴とする、繊維製品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、精練性に優れる精練剤組成物を提供することができる。そのため、精練工程において薬剤使用量を削減することができ、精練工程での大幅な節水効果と排水負荷低減効果を得ることができる。また、本発明の精練剤組成物は、特に、シリコーン成分、鉱物油成分などの液状の夾雑物の精練性に優れており、ポリウレタン繊維を含む繊維製品を精練するために好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の精練剤組成物は、(A)非イオン界面活性剤(以下、(A)成分と表示)および(B)環状リポペプチドバイオサーファクタント(以下、(B)成分と表示)を含んでなる。
(A)成分としては、例えば、アルコール類、多環フェノール類、アミン類、アミド類、脂肪酸類、多価アルコール脂肪酸エステル類、及び油脂類の、炭素数2〜3のアルキレンオキサイド付加物などが挙げられる。
アルコール類としては、炭素数8〜24のアルコール又はアルケノールなどが挙げられる。
多環フェノール類としては、1〜4価のフェノール類や、1〜4価のフェノール類に炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、及びスチレン類(スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン)からなる群から選ばれる少なくとも1種が付加した化合物などが挙げられる。1価のフェノール類としては、フェノール、クミルフェノール、フェニルフェノール、ナフトールなどを挙げることができる。2価のフェノール類としては、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどを挙げることができる。3価のフェノール類としてはトリヒドロキシベンゼンを、4価のフェノール類としてはテトラヒドロキシベンゼンを挙げることができる。
アミン類としては、炭素数8〜44の脂肪族アミンなどが挙げられる。
アミド類としては、炭素数8〜44の脂肪酸アミドなどが挙げられる。
脂肪酸類としては、炭素数8〜24の脂肪酸などが挙げられる。
多価アルコール脂肪酸エステル類としては、多価アルコールと炭素数8〜24の脂肪酸との縮合反応物が挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビット、ソルビタン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、及び砂糖などが挙げられる。
油脂類としては、植物性油脂、動物性油脂、植物性ロウ、動物性ロウ、鉱物ロウ、硬化油などが挙げられる。
【0014】
これらの中でも、分子中に炭素数4〜30の、アルキル基、アルケニル基、及び多環フェノール基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物が好ましく、炭素数は4〜24であることがより好ましく、12〜18であることがさらにより好ましい。アルキル基、アルケニル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。
また、これらの中でも、アルコール類、多環フェノール類、脂肪酸類、及び多価アルコール脂肪酸エステル類の、炭素数2〜3のアルキレンオキサイド付加物が好ましく、特にアルコール類の炭素数2〜3のアルキレンオキサイド付加物が好ましい。
また、プルロニック型、テトロニック型の化合物も使用することができる。
界面活性剤のHLBは特に限定はないが、精練性向上の観点から、HLBは1.5〜18の範囲内が好ましく、特に3〜15の範囲内がより好ましい。
ここでHLBとはグリフィンのHLBによるものであり、下記式によって計算することができる。ここで親水基とはエチレンオキサイド基を指す。
HLB=(非イオン界面活性剤中の親水基の分子量/非イオン界面活性剤の分子量)×20
【0015】
本発明の精練剤組成物は、(B)成分として環状リポペプチドバイオサーファクタントを含有する。環状リポペプチドバイオサーファクタントは、長鎖アルキル基などの親油性基を有し、界面活性作用を有する環状ペプチドである。環状リポペプチドバイオサーファクタントは、ペプチド化合物であることから生分解性が極めて高く、生体や環境に与える影響が小さい。
【0016】
環状リポペプチドバイオサーファクタントとしては、嵩高い環状構造を有し、且つ界面活性作用を示すペプチド化合物であれば特に制限されず、例えば、サーファクチン、アルスロファクチン、イチュリン、セラウェッチン、ライケシン、ビスコシンを挙げることができる。
【0017】
本発明では環状リポペプチドバイオサーファクタントとして、下記式(I)で表される化合物を好適に使用することができる。
【化1】
【0018】
式(I)中、*は光学活性点を表し、
Xは、ロイシン、イソロイシンおよびバリンから選択されるアミノ酸のアミノ酸残基を示し、
Rは炭素数1〜20のアルキル基を示し、
Mは水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、置換されていてもよいアンモニウムを示す。
【0019】
Xで表されるアミノ酸残基は、L体でもD体でもよいが、精練性向上の観点からL体が好ましい。
Rで表される炭素数1〜20のアルキル基は、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状の一価飽和炭化水素基をいう。 この中でも精練性向上の観点から炭素数9〜18のアルキル基であることが好ましく、特に炭素数10〜16のアルキル基がより好ましい。
Rは、1または2以上の置換基で置換されていてもよい。置換基としては、アミノ基、ヒドロキシル基、フェニル基などのアリール基、炭素数1〜2のアルキル基を有するアルカノイル基、炭素数2〜3のアルケニル基、炭素数2〜3のアルキニル基、炭素数1〜3のアルコキシル基、ニトロ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0020】
アルカリ金属としては特に限定されないが、リチウム、ナトリウム、カリウムなどを挙げることができる。アルカリ土類金属としては特に限定されないが、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどを挙げることができる。
【0021】
置換されていてもよいアンモニウムとしては、無置換アンモニウム、一置換アンモニウム、二置換アンモニウム、三置換アンモニウムおよび四置換アンモニウムが挙げられる。
アンモニウムの置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、ベンジル基、メチルベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、フェニル基、トルイル基、キシリル基等のアリール基等の有機基が挙げられる。置換されていてもよいアンモニウムとしては、より具体的には、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ベンジルアンモニウム、アニリニウム、ジエチルアンモニウム、ジシクロヘキシルアンモニウム、ピロリジニウム、モルホリニウム、N−ベンジル−N−エチルアンモニウム、N−エチルアニリニウム、トリエチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、ピリジニウム等が挙げられる。これらの有機基は、更に1または2以上の置換基で置換されていてもよい。2つのMは同一であっても異なっていてもよい。
(B)成分は、1種を単独で用いてよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
(B)成分は、天然の界面活性剤であることから、(B)成分を産生する微生物自体やその培養液から分離することができる。例えば一般式(II)で表される化合物は、公知方法に従って、微生物、例えばバチルス・ズブチリスに属する菌株を培養し、その培養液から分離することができる。(B)成分は、精製品であっても、未精製、例えば培養液のまま使用することも出来る。また、化学合成法によって得られるものでも同様に使用できる。
(B)成分は市販品として入手することが可能であり、例えば、カネカ・サーファクチン(株式会社カネカ製)などが挙げられる。
【0023】
本発明の精練剤組成物は、精練性向上の観点から、(A)成分と(B)成分の質量比が、(A):(B)=50:50〜99.9:0.1であることが好ましく、80:20〜99.9:0.1であることがより好ましく、さらに95:5〜99:1であることがより好ましい。
本発明の精練剤組成物は、シリコーン成分、鉱物油成分などの液状の夾雑物を精練するために好適に用いることができる。
【0024】
本発明の精練剤組成物は、(A)成分と(B)成分とを混合することにより得ることができる。
本発明の精練剤組成物は、(A)成分と(B)成分とを予め混合した1剤型であってもよいし、上記2成分がそれぞれ別々になっている2剤型であってもよい。
【0025】
本発明の精練剤組成物は、取り扱いの簡便性の観点から、上記2成分が水性媒体に分散(以下、分散には乳化、溶解を含む)していることが好ましい。
(A)成分と(B)成分とを予め混合した1剤型となっている場合、本発明の精練剤組成物は、(A)成分と(B)成分とを水性媒体に同時に分散させることにより、または、いずれか1成分を水性媒体に分散させた分散液と他の成分を水性媒体に分散させた分散液とを混合することにより得ることができる。
【0026】
これらの成分を水性媒体に分散する場合は、これらの成分と、水性媒体とを混合攪拌することで分散することができる。混合攪拌する場合、マイルダー、高速攪拌機、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ホモミキサー、ビーズミル、パールミル、ダイノーミル、アスペックミル、バスケットミル、ボールミル、ナノマイザー、アルチマイザー、スターバーストなどの従来公知の乳化分散機を使用してもよい。これらの乳化分散機は1種類を使用しても良く、また2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
水性媒体としては、水又は水と水に混和する親水性溶剤との混合溶媒であることが好ましい。親水性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、へキシレングリコール、グリセリン、ブチルグリコール、ブチルジグリコール、ソルフィット、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキサイドなどが挙げられる。
【0028】
上記分散液はそのまま処理液として使用してもよいし、水性媒体で希釈することによって処理液とすることもできる。
【0029】
本発明の精練剤組成物には、(A)成分および(B)成分以外に、精練剤に一般的に添加されるその他の(C)成分を含むことができる。このような(C)成分としては、環状リポペプチドバイオサーファクタント以外のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、キレート剤、酸、アルカリなどが挙げられる。
【0030】
環状リポペプチドバイオサーファクタント以外のアニオン界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムやポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどの硫酸エステル塩型界面活性剤を挙げることができる。カチオン界面活性剤としては、例えば、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムや塩化ベンザルコニウムなどの第四級アンモニウム塩型界面活性剤を挙げることができる。両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインやヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタインなどの酢酸ベタイン型界面活性剤を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
本発明の精練剤組成物には、精練助剤を添加してもよい。精練助剤としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、マロン酸などのジカルボン酸およびこれらの塩;エチレンジアミン四酢酸やヒドロキシエチレンジアミン酢酸などのアミノカルボン酸およびこれらの塩;オルトリン酸、トリメタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸などのリン酸化合物およびこれらの塩が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩や、アンモニウム塩を挙げることができる。
【0032】
精練助剤としてはアルカリ剤を用いることもでき、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、セスキ炭酸ナトリウムなどの炭酸塩;硼酸カリウム、硼酸ナトリウム等の硼酸塩;硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム等の硫酸水素塩;ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、メタケイ酸カリウム、ゼオライトなどの無機アルカリ金属塩;ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム等の有機アルカリ金属塩;トリエチルアミンなど有機アミン類を挙げることができる。
【0033】
繊維や処理浴にカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの多価金属イオンが存在していると、環状リポペプチドバイオサーファクタントが失活するおそれがあり得る。このような場合には、多価金属イオンを捕捉するためのキレート剤を配合することが好ましい。
キレート剤としては、例えば、EDTA、HEDTA、DTPA、またはそれらの塩;フィチン酸、エチドロン酸等のホスホン酸及びそのナトリウム塩等の塩類;シュウ酸、クエン酸、アラニン、ジヒドロキシエチルグリシン、グルコン酸、アスコルビン酸、コハク酸、酒石酸などの有機酸、またはその塩;ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸などのポリポリアミノ酸類;ポリカルボン酸、ポリマレイン酸、またはそれらの塩などを挙げることができる。こられの中でも、環境に与える影響を考慮すれば、クエン酸ナトリウムなど有機酸またはその塩が好ましい。
【0034】
本発明の精練剤組成物には、例えば、ベンゼンスルホン酸塩やトルエンスルフォン酸塩などの低級アルキルスルホン酸塩などの低温安定化剤;2,6−ジt−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジフェニル−4−オクタデシロキシフェノール、2、5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、DL−α−トコフェノール等の酸化防止剤;p−ヒドロキシ安息香酸エステルなどの防腐剤;香料;色素などを配合することができる。
【0035】
次に繊維製品の製造方法について説明する。
本発明の繊維製品の製造方法は、繊維を上述した精練剤組成物が含まれる処理液で処理する工程を含むものである。このような精練方法としては、特に制限されず、例えば、バッチ式精練、連続式精練等の従来公知の方法を適宜使用することができる。
【0036】
バッチ式精練に使用できる精練機械としては、例えば、液流染色機、ビーム染色機、チーズ染色機、オーバーマイヤー染色機、ウインス染色機、ワッシャー染色機等を挙げることができる。
バッチ式精練の場合、浴比は1:2〜1:40であることが好ましく、1:5〜1:20であることがより好ましい。
【0037】
精練条件としては特に制限はないが、例えば、5〜90℃で5〜60分精練することが好ましく、20〜90℃で20〜50分精練することがより好ましく、さらに70〜90℃で20〜30分精練することがより好ましい。
【0038】
本発明の精練剤組成物は、精練性向上の観点から、処理浴に、(A)成分と(B)成分との質量比が、(A):(B)=50:50〜99.9:0.1となるように添加することが好ましく、80:20〜99.9:0.1となるように添加することがより好ましく、さらに95:5〜99:1となるように添加することがより好ましい。
【0039】
本発明の繊維製品の製造方法においては、処理浴中の(A)〜(B)成分の合計濃度が0.1〜5g/Lであることが好ましく、0.2〜1g/Lであることがより好ましい。(C)成分を併用する場合は、処理浴中に(C)成分が0.05〜0.5g/Lであることが好ましい。
処理浴のpHは、精練性向上の観点から、5以上10未満であることが好ましく、特に6〜8の範囲内がより好ましい。
【0040】
本発明においては、精練性向上の観点から、繊維を本発明の精練剤組成物が含まれる処理液で処理を行なった後に、水洗工程を行うことが好ましい。
このような水洗工程としては特に制限はないが、例えば、バッチ式水洗、連続式水洗を行うことができる。この中でも精練効率の観点から、バッチ式水洗を行うことが好ましく、5〜40℃で1〜10分が好ましく、20〜40℃で3〜5分がより好ましい。
【0041】
繊維を本発明の精練剤組成物が含まれる処理液で処理を行なった後には、乾燥処理を行うことができる。乾燥処理の方法としては特に制限はなく、例えば、風乾、熱風を利用した乾式乾燥;ハイテンパルチャースチーマー(H.T.S.)、ハイプレッシャースチーマー(H.P.S.)を用いた湿式乾燥;マイクロ波照射式乾燥等を用いることができる。これらの乾燥方法は、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0042】
乾燥条件としては、100〜180℃の範囲内で1〜30分程度が好ましく、特に乾燥温度については100〜170℃がより好ましく、さらに100〜140℃がより好ましい。100℃未満の場合は、乾燥時間が長くなる傾向があることに加え、速乾効果が弱くなる傾向がある。180℃を超える場合は、生地の強度低下が発生する傾向がある。
【0043】
かかる繊維の素材としては特に制限はなく、綿、麻、亜麻、パルプ、バクテリアセルロース繊維、絹、羊毛などの天然繊維;レーヨン、アセテートなどの半合成繊維;ナイロン、ポリエステル、ビニロン、アクリル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成繊維;ガラス繊維、カーボン繊維などの無機繊維及びこれらの複合繊維、混紡繊維などが挙げられる。繊維の形態は綿、糸、織物、編物、不織布、縫製品などのいずれの形態であってもよい。
【0044】
これらのなかでも、合成繊維(特にポリウレタン)を含む合成繊維系繊維であることが好ましい。このような合成繊維系繊維は、繊維中に合成繊維が1質量%以上含まれることが好ましく、5質量%以上含まれることがより好ましく、さらに10質量%以上含まれることがより好ましい。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0046】
実施例および比較例では、以下に示す非イオン界面活性剤とアニオン界面活性剤を使用した。
非イオン界面活性剤
ソフタノール90(炭素数12−14の合成2級アルコールの9モルエチレンオキサイド付加物、日本触媒(株)製)
タージトール26L−9(炭素数10−16の合成1級アルコールの9モルエチレンオキサイド付加物、ペトロナス社製)
SINOPOL 1209(炭素数16−18の天然アルコールの9モルエチレンオキサイド付加物、中日合成(台湾)製)
【0047】
アニオン界面活性剤
カネカサーファクチン(環状ペプチド型アニオン界面活性剤、カネカ(株)社製)
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(BASF社製)
ヤシ油脂肪酸ナトリウム塩と硫酸化ひまし油の質量比率1:1混合物
【0048】
実施例1−1
(1)
(A)非イオン界面活性剤としてソフタノール90、(B)アニオン界面活性剤としてカネカサーファクチンを、(A)成分と(B)成分の比率が質量比で(A):(B)=96:4で、(A)成分と(B)成分の合計が0.5g/lとなるように水に添加して処理液を作成した。
【0049】
この処理液に、油成分としてシリコーンオイル(ジメチルシリコーン、25℃での動粘度が50mm/s)又は鉱物油(ミネラルオイル:ISO22グレード)が0.5g/lとなるように添加して試験液を作成した。得られた試験液を90℃で30分間撹拌した後、80℃まで放冷した時の試験液の外観を目視し、以下の基準に従って乳化性を評価した。その結果を表1に示す。
S:油成分の浮遊、分離を認めず、外観が透明である。
A:油成分の浮遊、分離を認めないが、外観が懸濁している。
B:油成分の一部が浮遊、分離している。
C:油成分が非常に多く浮遊、分離している。
油浮きが少ないほど、また、外観が透明であるほど乳化性が良好であり精練性良好と判断する。
【0050】
(2)
上記処理液にナイロン/ポリウレタン混(ナイロン/ポリウレタン=85/15、残脂率=2.21%)を浸漬し、ミニカラー染色機(Rapid製)を使用して、浴比1:20、温度80℃にて5分間精練を行い、その後20〜30℃で2分間水洗を行った。得られた処理済み試験布について、以下の方法で残脂率(%)を測定した。その結果を表1に示す。
処理済試験布2gを、ジエチルエーテル(10mL)を用い、迅速残脂抽出装置にて抽出操作を行った。抽出は各処理済試験布につき2回行った。抽出液からジエチルエーテルを留去し、残渣の質量を測定して以下の計算式によって残脂率を求めた。
残脂率(%)=(抽出溶媒留去後の残渣質量/処理済試験布の質量)×100
残脂率が小さいほど精練性良好と判断する。
【0051】
(3)
上記処理液について、台湾のCOD試験方法である、NIEA W515.54Aにて測定した。その結果を表1に示す。CODが小さいほど排液による環境への影響が少なくなり良好と判断する。
【0052】
実施例1−2〜1−4、2−1〜2−4、3−1〜3−4、比較例1−1〜1−6、2−1〜2−6、3−1〜3−7
(A)成分および(B)成分の種類と質量比と使用量、ならびに油成分の種類を表1〜3に示すように変更したことを除き、実施例1−1と同様に操作を行ない、乳化性、残脂率、CODを評価又は測定した。その結果を表1〜3に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
実施例と比較例の対比から、乳化性においては、本発明の精練剤組成物は、従来の精練剤組成物に比べて使用量を半分にしても、明らかに同等以上の精練効果を発揮していることが分かる。
なお、ポリウレタン混繊維は、付着している汚れ成分を精練することが困難であり、精練試験後の残脂率では大きな差が出にくい素材であることが知られている。しかしながら、残脂率において、本発明の精練剤組成物は従来の精練剤組成物に比べて残脂率の数値レベルが低下しており、特に本発明の精練剤組成物の使用量を従来の精練剤組成物の半分にした場合でも残脂率は同等あるいはそれ以下であることから、本発明の精練剤組成物は同等あるいはそれ以上の精練効果を発揮していることが分かる。
また、ポリウレタン混繊維は界面活性剤を吸着しやすい素材であることも知られており、残脂抽出物には(精練剤組成物に含まれる)界面活性剤成分が混入し残留し得る。本発明の精練剤組成物を0.5g/L使用した場合の残脂抽出物と、従来の精練剤組成物を1g/L使用した場合の残脂抽出物との水への乳化分散性を比較した乳化性の試験結果から、両者の乳化性は同等程度であると考えられる。すなわち、本発明の精練剤組成物を0.5g/L使用した場合、精練工程では精練することができなかった汚れ成分を次工程にて乳化分散して染色工程や仕上げ工程におけるトラブルを防止する効果が、従来の精練剤組成物を1g/L使用した場合と同等であることが推測できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の精練剤組成物は、繊維の精練工程において精練剤使用量を実質的に削減することができ、ひいては大幅な節水効果と排水負荷低減効果が得られるため、産業上有益である。