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特開2018-180192足元危険体験装置及び足元危険体験方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-180192(P2018-180192A)
(43)【公開日】2018年11月15日
(54)【発明の名称】足元危険体験装置及び足元危険体験方法
(51)【国際特許分類】
   G09B 9/00 20060101AFI20181019BHJP
【FI】
   G09B9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-77784(P2017-77784)
(22)【出願日】2017年4月10日
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591114445
【氏名又は名称】株式会社乃村工藝社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】飯島 進也
(72)【発明者】
【氏名】並木 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】及川 和幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英樹
(57)【要約】      (修正有)
【課題】歩行者が外界から得られる感覚を踏まえて足元の危険を体験可能な足元危険体験装置及び足元危険体験方法を提供する。
【解決手段】足元危険体験装置1は、障害物11が配置され、被験者Aが通行する通路10と、通路11を通行する被験者Aに対して、被験者Aから障害物11に向かう視線以外の範囲で与えられる視覚を含む知覚を与える知覚提供部20とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
障害物が配置され、前記被験者が通行する通路と、
前記通路を通行する前記被験者に対して、前記被験者から前記障害物に向かう視線以外の範囲で与えられる視覚を含む知覚を与える知覚提供部とを備える足元危険体験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の足元危険体験装置において、
前記通路に足元図柄を前記障害物と重ねて表示する足元表示部を備える足元危険体験装置。
【請求項3】
請求項2に記載の足元危険体験装置において、
前記足元表示部は、前記通路の側方から前記通路に前記足元図柄を投影する足元危険体験装置。
【請求項4】
請求項3に記載の足元危険体験装置において、
前記通路に表示される前記足元図柄は、複数の色からなり、少なくとも一色が前記障害物と同化する色である足元危険体験装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の足元危険体験装置において、
前記知覚提供部は、前記被験者の経験度に応じて複数種類の知覚を提供可能である足元危険体験装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の足元危険体験装置において、
前記知覚提供部は、前記被験者の当該装置による研修成果適用対象に応じて複数種類の知覚を提供可能である足元危険体験装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の足元危険体験装置において、
前記知覚提供部は、前記被験者から前記障害物に向かう視線以外の範囲に視覚提供図柄を表示する視覚提供部を備える足元危険体験装置。
【請求項8】
請求項7に記載の足元危険体験装置において、
前記知覚提供部は、前記被験者が前記視覚提供図柄に応じた作業を行うために使用する作業対象物を備える足元危険体験装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の足元危険体験装置において、
天井から吊下げられ、予め設定された高さで前記通路を通行する前記被験者を吊下げ可能な補助部を備える足元危険体験装置。
【請求項10】
障害物が配置され、前記被験者が通行する通路と、
前記通路に足元図柄を前記障害物と重ねて表示する足元表示部とを備える足元危険体験装置。
【請求項11】
障害物が配置された通路を前記被験者に通行させつつ、
前記通路を通行する前記被験者に対して、前記被験者から前記障害物に向かう視線以外の範囲で与えられる視覚を含む知覚を与え、
前記知覚に応じた注意力分散により前記通路を通行する際の前記障害物の回避困難性を経験させる足元危険体験方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足元に生じる危険を体験する足元危険体験装置及び足元危険体験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人は日常生活や労働の場において、通常は支障なく歩行可能な場所でも、不意に躓いたり滑ったりして転倒してしまう場合がある。このため、日頃から、歩行時にどのようなことを注意すれば良いか、どのような状況に注意を払う必要があるかを体験しておくことが、転倒などの事故を防止する上で重要である。
【0003】
例えば、特許文献1には、路面の状況を変えて歩行を体感・体験することができるとする技術が開示されている。具体的には、升目状の複数の開口部にそれぞれ異なる路面状況を再現するように異なる路面再現部材を設置することで、一度に種々の路面状況を体感・体験できるとされている。また、複数個の升目が連続して備わっていることで、升目毎に設置する路面再現部材の上面高さを変えて、段差による躓きを体感・体験できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−250465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、異なる路面状況を体験することができるものの、常に路面を意識しながら歩行できる状況での体験となってしまっている。実際に歩行する状況では、歩行者は外界から様々な感覚を得て歩行だけに集中できない状況で歩行をし、その中で躓きや滑りなどの足元の危険が発生している。このため、実際の状況とは異なり、実際に躓いたり、滑ったりしてしまう状況を十分に再現して足元の危険性を体験することまではできなかった。
【0006】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、歩行者が外界から得られる感覚を踏まえて足元の危険を体験可能な足元危険体験装置及び足元危険体験方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明の一態様に係る足元危険体験装置は、障害物が配置され、前記被験者が通行する通路と、前記通路を通行する前記被験者に対して、前記被験者から前記障害物に向かう視線以外の範囲で与えられる視覚を含む知覚を与える知覚提供部とを備える。
【0008】
この構成によれば、被験者は、知覚提供部から与えられた知覚を意識しながら、障害物を回避しつつ通路上を通行することとなる。このため、単に障害物を回避しながら通路上を通行するのと比較して、障害物への意識を知覚提供部から与えられる知覚によって弱めながら、通行時の足元の危険がどのように生じるのかを体験することができる。
【0009】
また、本発明の一態様に係る足元危険体験装置は、前記通路に足元図柄を前記障害物と重ねて表示する足元表示部を備えるものとしても良い。
【0010】
この構成によれば、足元表示部によって表示される足元図柄によって障害物をさらに認識しづらくしたり、錯覚を生じさせたりして、通行時の足元の危険がどのように生じるのかを体験することができる。
【0011】
また、本発明の一態様に係る足元危険体験装置においては、前記足元表示部は、前記通路の側方から前記通路に前記足元図柄を投影するものとしても良い。
【0012】
この構成によれば、足元表示部は、通路側方から足元図柄を投影することで、被験者の通行に支障を与えずに通路上に表示させることができる。
【0013】
また、本発明の一態様に係る足元危険体験装置においては、前記通路に表示される前記足元図柄は、複数の色からなり、少なくとも一色が前記障害物と同化する色であるものとしても良い。
【0014】
この構成によれば、足元図柄の複数の色のうちの一色が障害物と同化することで、障害物を見えづらくすることができるとともに、障害物の見え方に差を与えて、錯覚を生じさせることができる。
【0015】
また、本発明の一態様に係る足元危険体験装置においては、前記知覚提供部は、前記被験者の経験度に応じて複数種類の知覚を提供可能であるものとしても良い。
【0016】
この構成によれば、被験者の経験度に応じて提供する知覚を異なるようにすることで、単に難しすぎたり、簡単すぎたりして効果が薄れてしまうことを防止することができ、経験度に応じた難易度にすることができる。
【0017】
また、本発明の一態様に係る足元危険体験装置においては、前記知覚提供部は、前記被験者の当該装置による研修成果適用対象に応じて複数種類の知覚を提供可能であるものとしても良い。
【0018】
この構成によれば、被験者の当該装置による研修成果適用対象に応じて提供する知覚を異なるようにすることで、研修成果を適用する対象において作業等する中で実際に知るべき危険な状況を体験することが可能となる。
【0019】
また、本発明の一態様に係る足元危険体験装置においては、前記被験者から前記障害物に向かう視線以外の範囲に視覚提供図柄を表示する視覚提供部を備えるものとしても良い。
【0020】
この構成によれば、視覚提供部が表示する視覚提供図柄を、被験者から障害物に向かう視線以外の範囲に視覚的に与えることで、障害物への意識を当該視覚提供図柄によって弱めることができる。
【0021】
また、本発明の一態様に係る足元危険体験装置においては、前記知覚提供部は、前記被験者が前記視覚提供図柄に応じた作業を行うために使用する作業対象物を備えるものとしても良い。
【0022】
この構成によれば、知覚提供部が作業対象物により、視覚提供図柄に応じた作業を提供することで、被験者は視覚的にかつ思考的にも作業に向かうこととなり、障害物への意識をより弱めることができる。
【0023】
また、本発明の一態様に係る足元危険体験装置は天井から吊下げられ、予め設定された高さで前記通路を通行する前記被験者を吊下げ可能な補助部を備えるものとしても良い。
【0024】
この構成によれば、被験者が万一障害物に足元をとられても、予め設定された高さで補助部が被験者を吊下げることで、被験者の転倒を防止することができ、安全をより確実に確保した上で足元の危険を体験することができる。
【0025】
また、本発明の他の態様に係る足元危険体験装置は、障害物が配置され、前記被験者が通行する通路と、前記通路に足元図柄を前記障害物と重ねて表示する足元表示部とを備える。
【0026】
この構成によれば、足元表示部によって表示される足元図柄によって障害物を認識しづらくしたり、錯覚を生じさせたりして、通行時の足元の危険がどのように生じるのかを体験することができる。
【0027】
また、本発明の一態様に係る足元危険体験方法においては、障害物が配置された通路を前記被験者に通行させつつ、前記通路を通行する前記被験者に対して、前記被験者から前記障害物に向かう視線以外の範囲で与えられる視覚を含む知覚を与え、前記知覚に応じた注意力分散により前記通路を通行する際の前記障害物の回避困難性を経験させる。
【0028】
この方法によれば、被験者は、与えられた知覚を意識しながら、障害物を回避しつつ通路上を通行することとなる。このため、単に障害物を回避しながら通路上を通行するのと比較して、障害物への意識を与えられる知覚によって弱めながら、通行時の足元の危険がどのように生じるのかを体験することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、歩行者が外界から得られる感覚を踏まえて足元の危険を体験可能することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態の足元危険体験装置を示す正面上方からの斜視図である。
図2】本発明の実施形態の足元危険体験装置を示す側面図である。
図3】本発明の実施形態の足元危険体験装置において障害物及び足元図柄の詳細を示す平面図である。
図4】本発明の実施形態の足元危険体験装置において運搬具を用いた場合の説明図である。
図5】本発明の実施形態の足元危険体験装置において視覚提供図柄の変化を示す説明図である。
図6】本発明の実施形態の足元危険体験装置において視覚提供図柄の第1の変形例の説明図である。
図7】本発明の実施形態の足元危険体験装置において視覚提供図柄の第2の変形例の説明図である。
図8】本発明の実施形態の足元危険体験装置において足元図柄の変形例の説明図である。
図9】本発明の実施形態の足元危険体験装置において障害物の変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る一の実施形態について図1から図9を参照して説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態の足元危険体験装置1は、障害物11が配置され、被験者Aが通行する通路10と、通路10を通行する被験者Aに対して知覚を与える知覚提供部20と、通路10に足元図柄Pを障害物11と重ねて表示する足元表示部30と、天井Cから吊下げられ、予め設定された高さで通路10を通行する被験者Aを吊下げ可能な補助部50とを備える。
【0032】
本実施形態では、通路10に配置される障害物11は、複数設けられ、それぞれ断面が半円状に形成された棒状の部材である。各障害物11は、通路10の通行方向Xと直交する幅方向Yに延びている。そして、障害物11は、半円の断面の弦に当たる部分を、通路10を形成する床面10aに当接させ、弧に当たる部分を上方に向けて配置されている。当該障害物11の高さは、通常の歩行に際して、上下させる足元によって特に意識せずに跨げる程度の寸法に設定されている。そして、このような障害物11は通路10における被験者Aの通行方向Xに間隔を有して複数配置されている。障害物11の間隔は、適宜変更して良い。また、本実施形態の障害物11は被験者Aが踏みつけたり蹴ったりした場合に弾性変形可能な弾性を有する材料から形成されており、例えばウレタンから形成されている。また、複数の障害物11のうち、一部の障害物11Aは表面が黒色であり、残りの障害物11Bは表面が灰色である。
【0033】
足元表示部30は、障害物11が配置された範囲を含んで足元図柄Pを表示させる第一プロジェクタ30aを含む。第一プロジェクタ30aは、通路10側方の壁面W1に取り付けられていて、通路10の側方から斜め下方に向けた投影光により通路10に足元図柄Pを投影する。本実施形態では、表示される足元図柄Pは、静止画であり、黒色の帯P1及び白色の帯P2からなる縞模様である。黒色の帯P1及び白色の帯P2は、それぞれの延びる方向が、障害物11それぞれの延びる方向と一致していて幅方向Yに沿っている。また、黒色の帯P1及び白色の帯P2の配列方向は、障害物11の配列方向と一致していて、通行方向Xに沿っている。また、足元図柄Pの黒色の帯P1及び白色の帯P2の通行方向Xに沿う幅はそれぞれ異なっている。このため、ある箇所では、足元図柄Pの白色の帯P2の上に黒色の障害物11Aが配置され、また、足元図柄Pの黒色の帯P1の上に灰色の障害物11Bが配置されていて、足元図柄Pと障害物11の互いの色のコントラストにより障害物11が明確となっている。また、ある箇所では、足元図柄Pの白色の帯P2の上に灰色の障害物11Bが配置され、また、足元図柄Pの黒色の帯P1の上に黒色の障害物11Aが配置されていて、障害物11は足元図柄Pに同化している。また、ある障害物11では、足元図柄Pの白色の帯P2と黒色の帯P1とに一部ずつ配置されている。
【0034】
知覚提供部20は、通路10を通行する被験者Aに対して知覚を提供する。このような知覚としては、被験者Aから障害物11に向かう視線以外の範囲の視覚、聴覚、嗅覚、触覚のうち少なくとも一つを含み、複数を組み合わせても良い。本実施形態では、知覚提供部20は、知覚として被験者Aから障害物11に向かう視線以外の範囲に視覚提供図柄Qを提供する視覚提供部200と、被験者Aが視覚提供図柄Qに応じた作業を行うために使用する作業対象物210とを備える。視覚提供部200は、上記視線以外の範囲として被験者Aの通行方向X前方の壁面に視覚提供図柄Qを表示させる第二プロジェクタ200aを含む。第二プロジェクタ200aは天井Cに取り付けられていて、通行方向X前方の壁面W2に視覚提供図柄Qを表示させる。本実施形態では、視覚提供図柄Qは、動画であり、後述するようにベルトコンベアV上を様々な色のボールBが搬送される映像である。また、第二プロジェクタ200aは、視覚提供図柄Qと対応する音も出力する。詳細は後述する。また、本実施形態では作業対象物210は、視覚提供図柄Qにおいて表示される様々な色の実物のボール211と、ボール211を収容する収容箱212、213と、ボール211を運ぶために選択的に利用される運搬具212(図4参照)とを備える。収容箱212は、通路10の開始位置10Aに設けられている。また、収容箱213は、通路10の終了位置10Bに設けられている。体験訓練開始前では開始位置10Aの収容箱212にボール211が収容されていて、終了位置10Bの収容箱213は空になっている。ボール211の色の種類は、少なくとも視覚提供図柄QにおいてベルトコンベアV上で搬送されるボール211の色の種類の少なくとも一部を含む。図4に示すように、運搬具212は、ボール211を載せる凹状部212aと、凹状部212aから延びる取っ手212bとを備える。凹状部212aは、被験者Aが取っ手212bを持って歩きながらボール211を運ぶに際して、被験者Aのレベルによってはボール211がこぼれ落ちる程度の深さの凹状に形成されている。
【0035】
補助部50は、天井Cに取り付けられたレール51と、レール51に沿って移動する移動部52と、移動部52から吊下げられた吊下げロープ53と、吊下げロープ53に沿って移動可能であるとともに下方への移動を規制可能な固定具54と、固定具54から延びる接続ロープ55と、接続ロープ55が接続されて被験者Aに装着される装着部56とを備える。装着部56は、被験者Aの両肩回りに取り付けられる肩バンドを有する。なお、腰ベルトなどでも良い。レール51は、通路10上方で通行方向Xに沿って天井Cに取り付けられている。固定具54は、吊下げロープ53が挿通された支持部54aと、支持部54aに回転可能に取り付けられたレバー54bとを備える。レバー54bは、吊下げロープ53における支持部54aに挿通している部分に係合可能に設けられていて、吊下げロープ53に対して支持部54aが相対的に上昇している際には吊下げロープ53から離間する方向に回転可能とされ、支持部54aが相対的に下降している際には吊下げロープ53に近接する方向に回転可能とされている。このため、吊下げロープ53に対して支持部54aを相対的に上昇させることが可能であるとともに、一度上昇して吊下げロープ53とレバー54bとの係合を解除することで支持部54aを相対的に下降させることも可能であり、これにより支持部54aの位置を上下に位置調整可能である。また、レバー54bが吊下げロープ53に係合すれば支持部54aの下降が規制される。
【0036】
次に、本実施形態の足元危険体験装置1を利用した足元危険体験方法を説明するとともに、使用される視覚提供図柄Qについて説明する。
図1に示すように、被験者Aは、通路10の開始位置10Aに立つ。次に、補助部50における移動部52をレール51上で移動させて通路10の開始位置10A上方に位置させる。この状態で、補助部50における装着部56を被験者Aに装着し、吊下げロープ53の所定位置で固定具54を固定させる。固定具54を固定させる固定位置としては、被験者Aが足元を踏み外し膝が若干曲がる程度の状況で吊下げロープ53で牽引される程度であることが望ましい。
【0037】
次に、第一プロジェクタ30a及び第二プロジェクタ200aの電源を入れて、図3に示す足元図柄P及び図5に示す視覚提供図柄Qを表示させる。図5は、本実施形態の視覚提供図柄Qの変遷を示す図である。図5(a)に示すように、視覚提供図柄Qは体験開始時に、表題が示された第一スライドQ1が表示される。被験者Aは、補助部50の装着部56を装着し、吊下げロープ53の支持部54aの位置を適切な位置に設定する。吊下げロープ53が吊下げられている移動部52はレール51に沿って通行方向Xに移動可能となっている。このため、被験者Aは、移動部52を通行方向Xに移動させながら通行方向Xに移動することができるとともに、万一転倒しそうになった場合には支持部54aの調整した位置に応じて吊下げロープ53により吊下げられ転倒を防止することができるようになる。
【0038】
そして、次に、図5(b)に示すように、視覚提供図柄Qとして第二スライドQ2を表示させ、「開始●●秒前」とする開始までのカウントダウンを表示させる。また、カウントダウンの音声も発音させる。これにより、被験者Aに作業が間もなく開始されるという圧迫感を視覚的、聴覚的に与えて、これにより意識を視覚提供図柄Qに集中させ障害物11への意識を弱めることができる。
【0039】
そして、図5(c)に示すように、開始時間となると、視覚提供図柄Qとして第三スライドQ3が表示される。第三スライドQ3にはベルトコンベアVが表示される。ベルトコンベアVは、紙面右側へと続くとともに、紙面左側に終端が示されている。ベルトコンベアVには、青、黄、赤、緑などの様々なボールBが紙面右側から左側へ搬送されている。図5(c)に示す状態では、そのうち、赤のボールBは箱Dに入れられて箱Dごと搬送されている。時間が経つごとに紙面上右から左へと搬送され、次々と新しいボールBが右から現れ、一部のボールBは色の種類を変えながら箱Dに入れられて搬送されてくる。被験者Aは、箱Dに入れられたボールBが表示されたら、当該ボールBがベルトコンベアVの左へと落下するまでの間に当該ボールBと同じ色の実際のボール211を収容箱212の中から選んで取り出す。そして、取り出したボール211を通路10の障害物11を踏んだり蹴ったりしないように回避しながら通路10を通行して終了位置10Bに配置された収容箱213まで運搬する。
【0040】
この際、ボール211を確実に持つこと、目標として終了位置10Bの収容箱213が与えられていることから、障害物11への意識を弱めることができる。また、運搬の間、第三スライドQ3において対象となっている箱Dに入れられたボールBはベルトコンベアVの終端まで近づいてくる。また、視覚提供図柄Qの上には制限時間Tが表示されている。本実施形態では60秒間のカウントダウンがなされ、当該制限時間Tの中で所定個数のボール211を運搬することが求められる。この間、制限時間Tの表示と対応して時計の秒針の音が発音されている。さらに、最後の所定時間、例えば10秒間は図5(d)に示すように、図柄全体が赤く点滅する警告表示がなさせるとともに、制限時間Tが迫ることを示す警告音が発音される。このように、被験者Aによるボール211の運搬中、視覚提供図柄Q中の対応する箱Dに収容されたボールBはベルトコンベアVの左へと落下しようとし、また、視覚提供図柄Q中の上部に制限時間Tを示すカウントダウンが表示されている。さらに、最後の所定時間では警告表示及び警告音が出力される。これらの演出により、ボール211及び視覚提供図柄Qへの意識を高めて、障害物11への意識をさらに弱めることができる。
【0041】
被験者Aは、通路10上を通行している際には上記のように障害物11への意識を弱められながらも意識の一部では障害物11を認識し、視覚として捉えて障害物11との接触を回避しつつ通路10上を通行しようとする。しかしながら、通路10上には足元図柄Pによって、障害物11を認識しづらい状況、錯覚を生じさせやすい状況が作りあげられている。すなわち、足元図柄Pの黒色の帯P1及び白色の帯P2と、黒色の障害物11A及び灰色の障害物11Bとを混同しやすくしている。これにより、誤って障害物11に接触しないように通路10上を通行することの困難性を高めている。
【0042】
このような状況でボール211の運搬を繰り返し、制限時間に達すると、図5(e)に示すように、視覚提供図柄Qは第四スライドQ4となり、終了を示す画像となる。この時点で被験者Aは、視覚提供図柄Qや対応する音声、作業対象物210であるボール211、ボール211を利用した作業、及び、足元図柄Pによって実際の障害物11への意識が弱まってしまうことを体験することになる。その結果、単に障害物11のみでは簡単に回避して通路10上を通行することが可能な状況でも、意識が発散する中では簡単に躓きや滑りなどが生じてしまうことを体験することができる。
【0043】
最後に、図5(f)に示すように視覚提供図柄Qは第五スライドQ5となり、躓き、滑りに対する安全注意事項が表示される。このとき、すでに被験者Aは上記のとおり様々な演出等により障害物11への意識が弱まることや、意識が弱まる状況では簡単な障害物11でも接触してしまい注意が必要であることを実感している。このような実感しているタイミングで目の前に躓き、滑りに対する安全注意事項を表示することで当該事項の習得を効果的に得ることができる。
【0044】
なお、上記のような体験においては定量的に体験の結果を評価しても良い。具体的には、障害物11にぶつかってしまった回数や、ボールの運搬回数などの作業量などのパラメータを用いて評価することができ、これらパラメータを複数用いて演算することで一つの評価値を得るものとしても良い。
【0045】
ところで、上記のような作業では単にボール211を手で掴んで運搬することになるので、被験者Aの注意能力や運動能力の程度によっては簡単に作業を行うことができてしまい、必要な体験をすることができない可能性もある。また、被験者Aの注意能力や運動能力は年齢によって変化するものでもあり、高齢者層にとっては程よい作業内容であっても、若年層にとってはより難易度の高い作業とした方が良い場合がある。このように被験者Aの差によって作業の難易度を高めた方が良い場合のために、図4に示すように、作業対象物210として運搬具212を備えている。すなわち、より難易度を高めた方が良い被験者Aに対してはボール211を運搬する際に運搬具212の凹状部212aにボール211を載せて取っ手212bを掴んで通路10上を通行するようにする。このようにすることで、被験者Aは、運搬具212からボール211が落ちないように、視線を足元から外して前方に配置するボール211に視線を移して注意しながら運搬することが求められ、作業の難易度を高め、障害物11への意識を弱めることができる。
【0046】
また、第二プロジェクタ200aで表示する視覚提供図柄Qと対応させて発音される音声を変えても良い。例えば、上記のように単に時計の音だけではなく、突発的な音を発生させ、また、被験者Aを日ごろ実際に取り巻く作業環境で発生している音に近い音を出させても良い。例えば、突発的な音としては、金属や重量物などの落下音、携帯電話の着信音やバイブ音、人の語気を強めた発言(例えば、「オイ!」など)などが挙げられる。また、作業環境に近い音としては、被験者Aが通常工場で働くものであれば工場の音、外で働くものであれば交通騒音などが挙げられる。作業環境に近い音をベースにすることで被験者Aを日ごろの業務意識とさせて被験者Aの障害物11への意識を弱めることができる。さらに、突発的な音によって、被験者Aの障害物11への意識を弱める効果をより効果的に得られる。
【0047】
また、足元表示部30によって白色、黒色の模様を表示させるものとしたが、白色、黒色の模様の幅や順序などを一定時間ごとに変化させても良い。このようにすることで、認識していた障害物11が認識できなくなってしまい、また、誤認して障害物11に接触しやすくすることができる。
【0048】
また、同一の視覚提供図柄Qでも異なる作業内容とすることも可能である。例えば、ボール211を用いずに、単に通路10上を通行しながら、視覚提供図柄QにおいてベルトコンベアVで搬送されてくるボールBの色を答えたり、搬送されてくるボールBの色ごとの個数を数えたりしても良い。
【0049】
図6は、視覚提供図柄Qにおける図5(c)の第三スライドQ3に相当する部分の第1の変形例である。図6に示すように、本変形例の視覚提供図柄QのスライドQ6においては、背景に工場内の様子が示されている。そして、当該工場内を示す背景に重ねて数字Nが大きく表示されている。当該表示される数字Nは、時間とともに異なる数字に切り替わっていく。また、数字の上には、制限時間を示すバーTBが表示されている。バーTBは開始時には全体が特定の色で表示されているととともに、時間とともに当該特定の色の部分が短くなるように表示されている。また、第二プロジェクタ200aから発せられる音としては工場内の作業音などがベースの音として発生したり、フォークリフトの後退時の警告音などが突発的な音として発生したりしても良い。
【0050】
図6に示す視覚提供図柄Qでは、被験者Aは、通路10を通行するとともに、作業として、例えば表示される数字を読んだり、書き写したりすることで、同様に障害物11への意識を弱める効果が期待できる。また、被験者Aの能力や年齢に応じて作業の難易度を上げて、例えば表示される数字により足し算などの計算をするものとしたり、現在表示されている数字ではなく3つ前に表示された数字を読んだり、書き写したりするようにしても良い。また、このような第1の変形例の視覚提供図柄Qでは、背景が工場内の様子を示しているので、工場内で勤務するような職種の被験者Aに適しており、被験者Aは、自身の業務環境を意識しながら足元の危険性について体験することができる。
【0051】
図7は、視覚提供図柄Qにおける第2の変形例である。図7に示す第2の変形例の視覚提供図柄Qは、背景が第1の変形例の視覚提供図柄Qと異なっている。図7に示すように、本変形例の視覚提供図柄Qは、背景が交差点を歩行者が行き交う様子を示している。また、第二プロジェクタ200aからは、対応してベースの音として多数の歩行者の歩行音、会話音、車の音などで構成される雑踏を表現する音が発音されたり、突発的な音としては、携帯の呼び出し音、犬の鳴き声、車のクラクション、車などの衝突音、救急車のサイレンなどが発音させたりしても良い。
【0052】
図8は、足元図柄Pにおける変形例を示している。上記実施形態では、足元図柄Pとしては白色・黒色の縞模様としたが、これに限ることはなく、図8(a)〜(j)に示すように様々な図柄を適用することができる。例えば、図8(a)、(b)は、白色・黒色の模様であるが格子状に白色・黒色模様が配列しているとともに、配列が湾曲し、格子の大きさが変化したり縦横比を変化させたりすることで、通路10を構成する床面10aが歪んで見えるような錯覚を起こさせる。図8(a)と図8(b)とでは白色と黒色の割合が異なっている。図8(c)は木漏れ日が映し出されている様子を示しており、黒い背景の中に不規則に白色光が映し出されている。図8(d)は階段状の施設が陰影によって表現されている。図8(e)、(f)は、落ち葉で敷き詰められた森の中などの様子を示しており腐葉土となった状態や枯れ葉の状態をそれぞれ示している。また、図8(g)はレンガで敷き詰められた路面を示しており、一部にレンガが沈んで窪んだ部分がある様子を示している。図8(h)はタイルが敷き詰められた路面を示している。図8(i)、(j)は路面がアイスバーン状になった様子を示しており、日中の様子と夜間の様子をそれぞれ示している。これらの足元図柄Pは、体験時に作業内容、被験者Aの能力、研修成果適用対象となる職種などに応じて体験時に表示させても良いし、体験が終了した後に注意すべき足元の状況の例として例示するのに用いても良い。
【0053】
図9は、障害物11における変形例を示している。図9(a)に示すように、障害物11としては同じ断面形状のものに限られず、複数種類の断面形状のものとしても良い。また、障害物11の高さも通常の歩行における足元の上下運動で回避可能な高さに限られず、意識的に足を上げる動作をしないと回避できない高さに設定してもよい。さらに、障害物11は、通行方向Xに直交する方向に延びて障害物11の上方で回避して乗り越えるようにして通行するものとしたがこれに限るものではなく、図9(b)に示すように、例えば円錐形の障害物11など床面10aから突出する形状として平面的に回避するような障害物11としても良い。
【0054】
以上のように本実施形態及び変形例の足元危険体験装置1では、障害物11が配置された通路10と、知覚提供部20を備えることで、被験者Aは、知覚提供部20から与えられた知覚を意識しながら、障害物11を回避しつつ通路10上を通行することとなる。このため、単に障害物11を回避しながら通路10上を通行するのと比較して、障害物11への意識を知覚提供部20から与えられる知覚によって弱めながら、通行時の足元の危険がどのように生じるのかを体験することができる。これにより、歩行者が外界から得られる感覚を踏まえて足元の危険を体験可能することができる。
【0055】
また、知覚提供部20が、被験者Aから障害物11に向かう視線以外の範囲に視覚提供図柄Qを表示する視覚提供部200を備えている。そして、視覚提供部200が、視覚提供図柄Qを、被験者Aから障害物11に向かう視線以外の範囲に視覚的に与えることで、障害物11への意識を当該視覚提供図柄Qによって弱めることができる。さらに、知覚提供部20が、被験者Aが視覚提供図柄Qに応じた作業を行うために使用する作業対象物210を備え、視覚提供図柄Qに応じた作業を提供することで、被験者Aは視覚的とともに思考的にも作業に向かうこととなり、障害物11への意識をより弱めることができる。
【0056】
さらに、足元危険体験装置1は、通路10に足元図柄Pを障害物11と重ねて表示する足元表示部30を備えることで、足元表示部30によって表示される足元図柄Pによって障害物11をさらに認識しづらくしたり、錯覚を生じさせたりして、通行時の足元の危険がどのように生じるのかを体験することができる。そして、足元表示部30は、第1プロジェクタなどにより通路10の斜め上方より通路10に足元図柄Pを投影することで、被験者Aの通行に支障を与えずに通路10上に表示させることができる。さらに通路10に表示される足元図柄Pは、上記白色・黒色のように複数の色からなり、灰色・黒色の障害物11との組み合わせで同化するように、少なくとも一色が障害物11と同化する色であることで、障害物11を見えづらくすることができるとともに、障害物11の見え方に差を与えて、錯覚を生じさせることができる。
【0057】
また、知覚提供部20が運搬具212の利用の有無などにより被験者Aの経験度に応じて複数種類の知覚を提供可能であることで、単に難しすぎたり、簡単すぎたりして効果が薄れてしまうことを防止することができ、経験度に応じた難易度にすることができる。さらに、知覚提供部20が、背景を被験者Aの職種に応じて工場内や交差点内としたり音声を工場内ベース音といたり雑踏音としたりするようにすることで、被験者Aの当該装置による研修成果適用対象に応じて複数種類の知覚を提供可能とし、これにより研修成果を適用する対象において作業等する中で実際に知るべき危険な状況を体験することが可能となる。
【0058】
足元危険体験装置1は天井Cから吊下げられ、予め設定された高さで前記通路10を通行する被験者Aを吊下げ可能な補助部50を備えることで、被験者Aが万一障害物11に足元をとられても、予め設定された高さで補助部50が被験者Aを吊下げることで、被験者Aの転倒を防止することができ、安全をより確実に確保した上で足元の危険を体験することができる。
【0059】
なお、上記実施形態及び変形例では、視覚提供図柄Q、視覚提供図柄Qと対応して発音される音、視覚提供図柄Qを利用した作業内容、作業で用いる作業対象物、足元図柄Pなどには、それぞれ様々な選択があり、さらに選択したものを組み合わせることができる。そして、これらの選択及び組み合わせにより、被験者Aの経験度などに応じ、また、被験者Aの適応研修対象に応じて効果の得られる演出を選択することができる。これらをメニューとして備えていて、リモコン等の入力装置を利用して研修を管理する者が被験者Aに応じて操作して最適な内容に変更するようにしても良い。また、被験者Aの特性と、研修メニューとをテーブルにして被験者Aに応じたメニューを選択可能としても良い。
【0060】
また、上記実施形態では、体験の結果を被験者Aまたは体験を管理する管理者が評価するものとしたが、コンピュータシステムによって実現しても良い。すなわち、例えば、障害物11に被験者が接触した場合に検出可能な接触センサなどの障害物センサを設ける。また、実施形態の例でいえば、終了位置10Bの収容箱213に収容されたボール211の重量を測定可能な重量計などの作業計測手段を設ける。第1の変形例でいえば数字を入力可能な入力装置が作業計測手段に相当するものとなる。そして、プログラムによってコンピュータが制御部として機能し、制御部が、知覚提供部20を制御して被験者Aに知覚を提供しつつ、障害物センサや作業計測手段から検出結果を受け付けて体験内容を評価するようにしても良い。
【0061】
以上、本発明の実施形態及び変形例について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこれら実施形態及び変形例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1 足元危険体験装置
10 通路
11 障害物
20 知覚提供部
30 足元表示部
50 補助部
200 視覚提供部
210 作業対象物
A 被験者
P 足元図柄
Q 視覚提供図柄
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9