【解決手段】固体高分子形燃料電池1は、固体高分子電解質膜2と、固体高分子電解質膜2の両面にそれぞれ設けられる触媒層3と、両触媒層3,3にそれぞれ設けられるガス拡散層4と、一方の触媒層3と一方のガス拡散層4との間、および他方の触媒層3と他方のガス拡散層4との間に設けられる水管理多孔層5とを備える。この固体高分子形燃料電池1では、水管理多孔層5の厚さt[μm]、水管理多孔層5に含有される撥水材料の濃度c[%]、および前記撥水材料の分子量mから求められる値kが、次式により設定され、15≦k≦200とされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の固体高分子形燃料電池の一実施例を示す概念図である。
【
図2】本試験に用いられるMEAの仕様を示す表である。
【
図3】本試験に用いられる発電評価装置の概略構成図である。
【
図5】利用率20%で加湿温度40℃から60℃の場合において、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、(a)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂(分子量が332)混合率が2.1%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(b)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(c)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が6.0mg/cm
2の場合を示している。
【
図6】利用率20%で加湿温度65℃から85℃の場合において、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、(a)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が2.1%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(b)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(c)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が6.0mg/cm
2の場合を示している。
【
図7】利用率40%で加湿温度40℃から60℃の場合において、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、(a)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が2.1%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(b)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(c)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が6.0mg/cm
2の場合を示している。
【
図8】利用率40%で加湿温度65℃から85℃の場合において、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、(a)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が2.1%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(b)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(c)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が6.0mg/cm
2の場合を示している。
【
図9】利用率70%で加湿温度40℃から60℃の場合において、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、(a)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が2.1%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(b)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(c)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が6.0mg/cm
2の場合を示している。
【
図10】利用率70%で加湿温度65℃から85℃の場合において、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、(a)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が2.1%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(b)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(c)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が6.0mg/cm
2の場合を示している。
【
図11】本実施例の固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、利用率20%で加湿温度40℃から60℃の場合を示している。
【
図12】本実施例の固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、利用率20%で加湿温度65℃から85℃の場合を示している。
【
図13】本実施例の固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、利用率40%で加湿温度40℃から60℃の場合を示している。
【
図14】本実施例の固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、利用率40%で加湿温度65℃から85℃の場合を示している。
【
図15】本実施例の固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、利用率70%で加湿温度40℃から60℃の場合を示している。
【
図16】本実施例の固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、利用率70%で加湿温度65℃から85℃の場合を示している。
【
図17】本試験に用いられる固体高分子形燃料電池の水管理多孔層のフッ素含有量、塗布量および厚さの関係を示すグラフである。
【
図18】水管理多孔層の効果の説明図であり、(a)は水管理多孔層なしの場合、(b)は水管理多孔層ありの場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の固体高分子形燃料電池の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の固体高分子形燃料電池の一実施例を示す概念図である。本実施例の固体高分子形燃料電池1は、電解質膜としての固体高分子電解質膜2と、この固体高分子電解質膜2の両面にそれぞれ設けられる触媒層3と、この両触媒層3,3にそれぞれ設けられるガス拡散層4と、一方の触媒層3と一方のガス拡散層4との間および他方の触媒層3と他方のガス拡散層4との間に設けられる水管理多孔層5と、両ガス拡散層4,4にそれぞれ設けられるセパレータ6とを備える。
【0018】
固体高分子電解質膜2は、側面視略矩形状に形成されており、プロトン伝導性を有する電解質膜である。本実施例では、固体高分子電解質膜2は、プロトン交換膜であるパーフルオロカーボンスルホン酸(たとえば米国デュポン社製ナフィオン膜)が用いられる。
【0019】
各触媒層3は、側面視略矩形状に形成されており、触媒活性を有する物質と、この物質の担持体と、イオノマーとを備えて構成される層である。触媒活性を有する物質は、たとえば、白金とされる。また、担持体は、たとえば、炭素粒子とされる。さらに、イオノマーは、たとえば、フッ素系高分子電解質とされる。
図1に示されるように、一方(左方)の触媒層3には、固体高分子電解質膜2と接触する面(右面)と反対側の面(左面)に、一方のガス拡散層4が設けられる。また、他方(右方)の触媒層3には、固体高分子電解質膜2と接触する面(左面)と反対側の面(右面)に、他方のガス拡散層4が設けられる。
【0020】
各ガス拡散層4は、側面視略矩形状に形成されており、反応ガスの触媒層3への拡散を促進する多孔質層である。本実施例では、各ガス拡散層4は、カーボン繊維を含む布状または板状のものが用いられる。
【0021】
各水管理多孔層5は、側面視略矩形状に形成されており、撥水材料を含有する層である。撥水材料としては、一般的にはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン(分子量数100万から1000万))が用いられるが、本実施例では、より分子量が小さいもの、たとえば、分子量が332の低分子量フッ素樹脂が用いられる。本実施例では、各水管理多孔層5は、カーボン材料と低分子量のフッ素樹脂性の撥水材料との混合物から形成されている。
【0022】
各水管理多孔層5に用いられる低分子量フッ素樹脂は、分子量が332であり、既存のフッ素系樹脂とは異なる非晶構造を有し、特殊なパーフルオロ溶液に溶解可能であり、かつ100℃で溶媒を蒸発させることによって薄膜コーティングを施すことができる。その上、従来のテフロン(登録商標)と同様の方法での撥水処理が可能である。さらに、低分子量フッ素樹脂の直径は、PTFEと比較して遥かに小さいので、後述するバルカンブラックを粒子単位で包み込むようにコーティング可能である。従って、従来のPTFE撥水剤と比較して、より良好な撥水性能が期待できる。
【0023】
各セパレータ6は、側面視略矩形状に形成されており、たとえば、耐蝕処理が行われた金属板、高密度のカーボン板、またはカーボンと樹脂との複合板などが用いられる。
図1に示されるように、一方のセパレータ6は、一方のガス拡散層4において、一方の水管理多孔層5と接触する面と反対側の面に設けられる。この一方のセパレータ6には、燃料ガスの流路である燃料ガス流通溝7が形成されている。燃料ガスとしては、たとえば、炭化水素系燃料を改質して得られる水素含有ガスが用いられる。また、他方のセパレータ6は、他方のガス拡散層4において、他方の水管理多孔層5と接触する面と反対側の面に設けられる。この他方のセパレータ6には、酸化剤ガスの流路である酸化剤ガス流通溝8が形成されている。酸化剤ガスとしては、たとえば、空気が用いられる。
【0024】
このようにして、中央に配置される固体高分子電解質膜2から一方へ向けて順に、一方の触媒層3、一方の水管理多孔層5、一方のガス拡散層4および一方のセパレータ6が設けられる。また、固体高分子電解質膜2から他方へ向けて順に、他方の触媒層3、他方の水管理多孔層5、他方のガス拡散層4および他方のセパレータ6が設けられる。これにより、単電池である固体高分子形燃料電池1が構成される。
【0025】
固体高分子形燃料電池では、ガス拡散層での生成水の排出性が悪い場合、ガス拡散層内に生成水が蓄積して細孔が閉塞され、ガスの通過を阻害するフラッディングが発生する。これとは逆に、電池内の水分が不足すると電解質膜のイオン導電性が低下したり、乾燥状態になるドライアップが生じたりする。従って、燃料と酸化剤との反応により生成される水や、電池内に供給されるガスの加湿による水分の管理が極めて重要となる。
【0026】
そこで、本実施例では、ガス拡散層4と触媒層3との間に、撥水材料を含有する水管理多孔層5を設けることで、ガス拡散層4や固体高分子電解質膜2の濡れ性が適切となるようにしている。具体的には、本実施例の固体高分子形燃料電池1は、水管理多孔層5の厚さt[μm]、水管理多孔層5に含有される撥水材料の濃度c[%]および撥水材料の分子量mから求められる値kが、次式により設定され、15≦k≦200とされる。従って、本実施例の固体高分子形燃料電池1によれば、発電性能の向上、ドライアップおよびフラッディングの防止を図ることができる。
【0028】
なお、本実施例の固体高分子形燃料電池1では、水管理多孔層5の厚さtが10μm以上100μm以下であり、かつ撥水材料の濃度cが1%以上30%以下であるのが好ましい。これにより、発電性能の向上、ドライアップおよびフラッディングの防止をより確実に図ることができることに加えて、電池のコンパクト化を図ることができる。また、本実施例の固体高分子形燃料電池1では、撥水材料の分子量mが100以上1億以下であるのが好ましい。これにより、発電性能の向上、ドライアップおよびフラッディングの防止をさらに確実に図ることができる。さらに、本実施例の固体高分子形燃料電池1では、低分子量フッ素樹脂が用いられるので、水管理多孔層5を従来よりも薄くすることができ、撥水材料の使用量を低減することができる。従って、本実施例の固体高分子形燃料電池1が搭載されるスタック(たとえば、燃料電池自動車および家庭用燃料電池など)にかかるコストを低減することができ、低加湿から高加湿までの幅広い運転域でのスタックの運転が可能となる。
【0029】
次に、本実施例の固体高分子形燃料電池1の発電性能の試験について説明する。
【0030】
本試験に用いられる固体高分子形燃料電池1は、次のようにして水管理多孔層5が形成される。まず、カーボン材料と撥水材料との混合物が製造される。本試験では、カーボンブラックであるバルカンブラック(キャボット社製)をビーカーに入れ、低分子量樹脂(分子量が32)9%溶液と低分子量フッ素樹脂(分子量が332)用溶剤とを加えて、薬さじでしっかりと混ぜ合わせる。次に、その混合物を乾燥炉(株式会社東洋製作所製)にて60℃で1時間乾燥させる。その後、混合物が微細な粉末状になったら、混合物をビーカーから撹拌混合器であるブレンダー(型式:WB−1(株式会社大阪ケミカル製))に移し替え、約20秒間撹拌する。この撹拌を計3回繰り返す。そして最後に、粉末状のPTFEをブレンダーに入れ、約20秒間撹拌する。このようにして、カーボン材料と低分子量フッ素樹脂との混合物が製造される。
【0031】
製造された粉末状の混合物は、予め低分子量フッ素樹脂1%溶液により撥水処理を施したカーボンペーパー(24cm×14cm四方)上に、乾式塗布装置によって吸引塗布される。なお、カーボンペーパーは、東レ株式会社製の厚さ280μmのものを用いた。混合物が塗布されたカーボンペーパーは、焼成炉(株式会社東洋製作所製)において、355℃で15分間焼成が行われる。その後、ローラを用いて、塗布された混合物の厚みを一様にしつつ、カーボンペーパーに混合物を定着させる。ここでは、焼成炉での焼成とローラによる定着とを2回繰り返す。このようにして、ガス拡散層4に水管理多孔層5が設けられる。
【0032】
図2は、本試験に用いられるMEA(Membrane Electrode Assembly)の仕様を示す表である。本試験では、初めに、予備試験CCM(Catalyst Coated Membrane)および後述するガス拡散層を用いて、水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率および水管理多孔層のガス拡散層への塗布量を変化させて、後述の条件の下で発電試験を実施した。ここで、予備試験CCMは、電解質膜2として厚さ25μmのフッ素系電解質膜を用い、カソードおよびアノード触媒層3として田中貴金属株式会社製のカーボン担持白金触媒を用いたものである。そして、その試験結果から、最も発電性能が優れていた前記混合率および前記塗布量を見出し、その見出された条件の水管理多孔層5と、電解質膜2としての炭化水素系膜と、イオノマーであるフッ素系高分子電解質を含有する触媒層3と、後述するガス拡散層とを組み合わせて、発電試験を行うという方法をとった。なお、本試験では、ガス拡散層は、耐フラッディング性が高いとされる厚さ120μmのカーボンペーパーKP(三菱レイヨン株式会社製)が用いられており、予め低分子量フッ素樹脂1%溶液にて撥水処理が施されている。このガス拡散層に、水管理多孔層が塗布される。以上のような材料でMEAを構成し、このMEAをセルホルダーに組み込んで単セル(単電池)とした。セルホルダーは、たとえば、カーボン材に、リブ幅1mm、溝幅1mm、溝深さ0.5mmの16本の直線流路を機械加工したものである。
【0033】
図3は、本試験に用いられる発電評価装置の概略構成図である。発電評価装置9は、二つの加湿器10,11と、電子負荷装置12と、データ収録装置(不図示)とを備えて構成される。一方の加湿器10は、燃料ガスを単電池のアノード13に供給する燃料ガス供給路14に設けられている。燃料ガス供給路14には、加湿器10よりも上流側に、上流側から順に減圧弁15および流量計16が設けられている。また、他方の加湿器11は、酸化剤ガスを単電池のカソード17に供給する酸化剤ガス供給路18に設けられている。酸化剤ガス供給路18には、加湿器11よりも上流側に、上流側から順に減圧弁19および流量計20が設けられている。また、発電評価装置に組み込まれた電子負荷装置12によって、発電で得られた電流および電圧を任意の値に設定することも可能である。データ収録装置(型番:DELL LATITUDE D510(評価ソフトは株式会社エヌエフ製で、As510燃料電池評価システムが用いられている))は、予め設定されたプログラムに従い、燃料ガスおよび酸化剤ガスの加湿温度やセル温度を始め、ガス利用率や負荷電圧、セルへのガス供給の有無といった評価装置の運転を全自動で制御することができる。また、データ収録装置は、セル電圧や電流密度、セル内部抵抗およびセル温度などを自動的に取得することができる。このような構成であるので、発電評価装置9は、供試体である単セルに、予め加湿した任意の流量の燃料ガスおよび酸化剤ガスを供給することができ、セル温度およびガス加湿温度を任意に設定することができる。
【0034】
図4は、本試験の測定条件を示す表である。この図に示されるように、本試験では、後述する全試験を通してセル温度を75℃に保ち、燃料および酸化剤の加湿温度を40℃から85℃まで変化させた。また、本試験では、燃料利用率を70%に固定した状態で、酸化剤利用率を20%、40%および70%の3パターンで行った。さらに、本試験では、燃料ガスの流れる方向と酸化剤ガスの流れる方向とが互いに対向するようにした。なお、本試験で用いられる発電評価装置は、酸化剤側マスフローコントローラの最大流量が3.0L/minとなっているため、利用率20%、40%および70%での最大電流密度がそれぞれ、800mA/cm
2、1600mA/cm
2および2400mA/cm
2となっている。
【0035】
図5は、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、(a)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が2.1%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(b)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(c)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が6.0mg/cm
2の場合を示している。なお、
図5においては、利用率が20%で、加湿温度が40℃から60℃とされている。
【0036】
図5からわかるように、水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が2.1%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2としたセルが最も発電性能に優れていることが確認できた。一方、水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が6.0mg/cm
2としたセルでは、特に加湿温度が40℃から50℃の領域において、電流密度の増加と共にセル電圧が低下する傾向が見られた。
【0037】
図6は、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、(a)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が2.1%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(b)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(c)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が6.0mg/cm
2の場合を示している。なお、
図6においては、利用率が20%で、加湿温度が65℃から85℃とされている。
【0038】
図6から分かるように、最も発電性能が優れているのは、水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2としたセルであることが確認できた。また、このセルでは、全ての加湿温度域において同じ発電性能を発揮していることから、フラッディングを全く起こしていないものと推測することができる。一方、水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が6.0mg/cm
2としたセルでは、加湿温度65℃の際にセル性能が大きく乱れており、フラッディングが生じたものと推測される。水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が2.1%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2としたセルでは、加湿温度が高くなるにつれて発電性能が低下する傾向が見られた。
【0039】
図7は、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、(a)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が2.1%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(b)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(c)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が6.0mg/cm
2の場合を示している。なお、
図7においては、利用率が40%で、加湿温度が40℃から60℃とされている。
【0040】
図7から分かるように、発電性能自体は、水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が2.1%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2としたセルが高いものの、耐フラッディング性能に関しては、水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2としたセルが優れていることが確認できた。
【0041】
図8は、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、(a)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が2.1%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(b)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(c)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が6.0mg/cm
2の場合を示している。なお、
図8においては、利用率が40%で、加湿温度が65℃から85℃とされている。
【0042】
図8から分かるように、最も発電性能が優れていたのは、水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2としたセルであることが確認できた。また、このセルは、加湿温度65℃から85℃の全てにおいて、発電性能がほぼ一様であり、測定限界である1600mA/cm
2まで発電可能であることが確認できた。
【0043】
図9は、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、(a)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が2.1%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(b)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(c)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が6.0mg/cm
2の場合を示している。なお、
図9においては、利用率が70%で、加湿温度が40℃から60℃とされている。
【0044】
図9から分かるように、水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2としたセルが最も発電性能が優れていることが確認できた。また、このセルは、60℃加湿でも、1500mA/cm
2、0.09V程度まで発電可能であることが確認できた。一方、水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が6.0mg/cm
2としたセルでは、発電性能の低下が大きく、800mA/cm
2程度までしか発電できないことがわかる。
【0045】
図10は、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、(a)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が2.1%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(b)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2の場合、(c)は水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が6.0mg/cm
2の場合を示している。なお、
図10においては、利用率が70%で、加湿温度が65℃から85℃とされている。
【0046】
図10から分かるように、水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が2.0mg/cm
2としたセルは、最も発電性能が高いが、高電流密度になるほどフラッディングが生じる傾向が確認できた。また、水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率が7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量が6.0mg/cm
2としたセルは、最も発電性能が低く、65℃加湿でセル性能が大きく乱れていることから、フラッディングが発生したことがわかる。
【0047】
このように予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池1を用いて予備試験を実施した結果、水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率を7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量を2.0mg/cm
2とした場合が、最も良好な発電性能を得ることができる条件であることが示された。そこで、この結果に基づいて、水管理多孔層5の低分子量フッ素樹脂混合率を7.8%、かつ水管理多孔層5のガス拡散層4への塗布量を2.0mg/cm
2とした本実施例の固体高分子形燃料電池1の発電性能の試験を実施し、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池1と比較評価を行った。本実施例の固体高分子形燃料電池1は、
図2に示すとおり、予備試験により見出された条件を有する水管理多孔層5と、電解質膜としての炭化水素系膜と、イオノマーであるフッ素系高分子電解質を含有する触媒層3と、ガス拡散層4とを備える。
【0048】
次に示す
図11から
図16は、水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率を7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量を2.0mg/cm
2とした本実施例の固体高分子形燃料電池1の発電性能の試験結果を示す図である。ここで、
図11から
図16は、本実施例の固体高分子形燃料電池の発電性能の試験を行った際の電流密度−セル電圧曲線を示すグラフであり、
図11は利用率20%で加湿温度40℃から60℃の場合、
図12は利用率20%で加湿温度65℃から85℃の場合、
図13は利用率40%で加湿温度40℃から60℃の場合、
図14は利用率40%で加湿温度65℃から85℃の場合、
図15は利用率70%で加湿温度40℃から60℃の場合、
図16は利用率70%で加湿温度65℃から85℃の場合を示している。
【0049】
これらの図から分かるように、本実施例の固体高分子形燃料電池1は、利用率20%、40%および70%では、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池1と比較して、加湿温度40℃から60℃の低加湿域においては発電性能の向上が確認できた。また、本実施例の固体高分子形燃料電池1は、加湿温度65℃から85℃の高加湿条件下では、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池1とほぼ同等の発電性能を発揮することが確認できた。
【0050】
ここで、
図17は、本試験に用いられた固体高分子形燃料電池1の水管理多孔層5のフッ素樹脂含有量、塗布量および厚さの関係を示すグラフである。すなわち、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池1および炭化水素膜とフッ素系高分子電解質を含有する触媒層3とを有する固体高分子形燃料電池1の水管理多孔層5の前述した各値の関係を示している。なお、
図17において、条件(a)、(b)および(c)は、水管理多孔層5の低分子量フッ素樹脂の混合率および塗布量を示す前記(a)、(b)および(c)にそれぞれ対応している。この図から分かるように、本試験に用いられた固体高分子形燃料電池1は、kの値が15≦k≦200の範囲内のものである。
【0051】
本試験を通じて、水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂の混合率を増加させると、全般的に高加湿側での発電性能が向上し、水管理多孔層のガス拡散層への塗布量を増加させると、全般的に発電性能が低下するという傾向が見られた。これは、以下の理由のためであると考えられる。
【0052】
図18は、水管理多孔層の効果を説明するための説明図であり、(a)は水管理多孔層なしの場合、(b)は水管理多孔層ありの場合を示している。この図に示されるように、通常、水管理多孔層5を形成することで、カソード側での生成水の保持および排出が適度に行われ、乾燥状態になりがちな低加湿雰囲気下でのセルの発電性能が向上することになる。一方、高加湿雰囲気下では、水管理多孔層5に保持される生成水量が多くなり、フラッディングが生じやすくなる。そこで、疎水性を有する低分子量フッ素樹脂を水管理多孔層5に混合することで、水管理多孔層5からガス拡散層への生成水の排出性を改善することができる。
【0053】
このことから、本試験においても、低分子量フッ素樹脂の混合率が多くなるほど、水管理多孔層5の生成水の保持および排出性を最適化することができ、特に高湿潤状態になる高加湿雰囲気下で、より大きな効果が発揮されたものと推測できる。すなわち、低分子量フッ素樹脂が多いほど撥水性能がより向上し、セル内が高湿潤状態になるのに加えて、生成水の排出性が悪くなる高加湿状態になる場合においても、速やかに生成水をセル外へと排出することができるためと推測される。
【0054】
水管理多孔層5のガス拡散層4への塗布量を増やした場合、水管理多孔層5の厚みが増すことで、触媒層3への燃料ガスおよび酸化剤ガスの透過が阻害され、触媒層3からガス拡散層4への生成水の排出性が低下することになる。従って、固体高分子形燃料電池1の発電性能の低下およびフラッディングを引き起こしたと推測される。
【0055】
ところで、前述した予備試験で最も発電性能が優れていた条件(水管理多孔層の低分子量フッ素樹脂混合率7.8%、かつ水管理多孔層のガス拡散層への塗布量2.0mg/cm
2)の場合、今回の発電試験では、低利用率条件かつ低加湿域において、電解質膜に炭化水素系膜を用いた本実施例の固体高分子形燃料電池1が予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池1よりも、発電性能、耐ドライアップ性および耐フラッディング性がさらに優れていることが分かった。また、本実施例の固体高分子形燃料電池1は、高加湿域において、予備試験CCMを有する固体高分子形燃料電池1とほぼ同等の性能を示した。これは、炭化水素系膜の特徴である低加湿雰囲気下での耐ドライアップ性および高加湿雰囲気の耐フラッディング性能に加えて、水管理多孔層5に混合された低分子量フッ素樹脂の効果により、高加湿域でも生成水の排出が容易になったためと考えられる。
【0056】
本発明の固体高分子形燃料電池は、前記実施例の構成に限らず、適宜変更可能である。たとえば、前記実施例では、水管理多孔層5は、一方の触媒層3と一方のガス拡散層4との間、および他方の触媒層3と他方のガス拡散層4との間に設けられたが、一方の触媒層3と一方のガス拡散層4との間、または他方の触媒層3と他方のガス拡散層4との間に設けてもよい。