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特開2018-181803リチウムイオン電池用電極の製造方法
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  • 特開2018181803-リチウムイオン電池用電極の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-181803(P2018-181803A)
(43)【公開日】2018年11月15日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20181019BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20181019BHJP
【FI】
   H01M4/139
   H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-84621(P2017-84621)
(22)【出願日】2017年4月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 智也
(72)【発明者】
【氏名】那須 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】川北 健一
(72)【発明者】
【氏名】大澤 康彦
(72)【発明者】
【氏名】草地 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一
(72)【発明者】
【氏名】赤間 弘
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB20
5H050DA18
5H050EA22
5H050EA23
5H050EA28
5H050FA18
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】電極の形状を保持することができ、かつ、電極のエネルギー密度が低くならないように電極を製造することのできる、リチウムイオン電池用電極の製造方法を提供すること。
【解決手段】リチウムイオンを吸蔵及び放出する電極活物質の表面の少なくとも一部に被覆用樹脂を含む被覆層を有する被覆電極活物質を含んでなる電極活物質層を有するリチウムイオン電池用電極の製造方法であって、上記被覆電極活物質と、有機溶剤とを含む混合物を成形する工程を有し、上記混合物に含まれる上記有機溶剤の量が、上記被覆電極活物質の被覆層に含まれる上記被覆用樹脂の合計重量100部に対して50〜600部であり、上記有機溶剤の溶解度パラメータと上記被覆用樹脂の溶解度パラメータとの差の絶対値が1.5〜4であることを特徴とするリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵及び放出する電極活物質の表面の少なくとも一部に被覆用樹脂を含む被覆層を有する被覆電極活物質を含んでなる電極活物質層を有するリチウムイオン電池用電極の製造方法であって、
前記被覆電極活物質と、有機溶剤とを含む混合物を成形する工程を有し、
前記混合物に含まれる前記有機溶剤の量が、前記被覆電極活物質の被覆層に含まれる前記被覆用樹脂の合計重量100部に対して50〜600部であり、
前記有機溶剤の溶解度パラメータと前記被覆用樹脂の溶解度パラメータとの差の絶対値が1.5〜4であることを特徴とするリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶剤がN,N−ジメチルホルムアミドである請求項1に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【請求項3】
前記被覆用樹脂がカルボキシル基又は酸無水物基と不飽和二重結合とを有するモノマー(a1)、下記一般式(1)で表されるモノマー(a2)、フッ化ビニリデン及びアクリロニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む単量体組成物の重合体(A1)である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。
CH=C(R)COOR (1)
[式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数4〜12の直鎖又は炭素数3〜36の分岐アルキル基である。]
【請求項4】
前記被覆電極活物質における、前記電極活物質と前記被覆用樹脂との重量比率が、電極活物質/被覆用樹脂=90/10〜99.99/0.01である請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【請求項5】
前記電極活物質層の厚さが150μm以上である請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力密度が達成できるリチウムイオン電池に注目が集まっている。
【0003】
特許文献1には、粒径の小さい活物質を電極の活物質層の表面層に保持することができ、電極構造を強化した電極として、活物質層が粘着材料を含むことを特徴とする電池用電極が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−280806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された電池用電極では、電極の形状を保持するために活物質の他に粘着材料を別途添加する必要がある。しかし、電極内に残留する粘着材料の分だけ電極のエネルギー密度が低くなってしまう。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、電極に残留する粘着材料を用いることなく電極の形状を保持することができ、かつ、電極のエネルギー密度が低くならないように電極を製造することのできる、リチウムイオン電池用電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、リチウムイオンを吸蔵及び放出する電極活物質の表面の少なくとも一部に被覆用樹脂を含む被覆層を有する被覆電極活物質を含んでなる電極活物質層を有するリチウムイオン電池用電極の製造方法であって、上記被覆電極活物質と、有機溶剤とを含む混合物を成形する工程を有し、上記混合物に含まれる上記有機溶剤の量が、上記被覆電極活物質の被覆層に含まれる上記被覆用樹脂の合計重量100部に対して50〜600部であり、上記有機溶剤の溶解度パラメータと上記被覆用樹脂の溶解度パラメータとの差の絶対値が1.5〜4であることを特徴とするリチウムイオン電池用電極の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリチウムイオン電池用電極の製造方法によると、電極に残留する粘着材料を用いることなく電極の形状を保持することができ、かつ、電極のエネルギー密度が低くならないように電極を製造することができる。
また、電極の形状が安定しているので、充放電中に電極の形状が崩れることが防止され、サイクル特性に優れた電極を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1〜3及び比較例1で作製した成形体の形状評価試験後(電解液浸漬1か月後)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン電池用電極の製造方法は、リチウムイオンを吸蔵及び放出する電極活物質の表面の少なくとも一部に被覆用樹脂を含む被覆層を有する被覆電極活物質を含んでなる電極活物質層を有するリチウムイオン電池用電極の製造方法であって、上記被覆電極活物質と、有機溶剤とを含む混合物を成形する工程を有し、上記混合物に含まれる上記有機溶剤の量が、上記被覆電極活物質の被覆層に含まれる上記被覆用樹脂の合計重量100部に対して50〜600部であり、上記有機溶剤の溶解度パラメータと上記被覆用樹脂の溶解度パラメータとの差の絶対値が1.5〜4であることを特徴とする。
【0011】
まず、本発明で製造する対象物であるリチウムイオン電池用電極の構成要素について説明する。
リチウムイオン電池用電極は、被覆電極活物質を含んでなる電極活物質層を有する。
被覆電極活物質は、電極活物質の表面の一部に被覆層を有する電極活物質である。被覆層は、被覆用樹脂を含む。
電極活物質の表面が被覆層で被覆されていると、電極活物質間の距離を一定に保つことが容易になり、導電経路を維持することが容易になり好ましい。
電極活物質層は厚さが150μm以上であることが好ましい。本発明のリチウムイオン電池用電極の製造方法は、厚さが150μm以上と厚い電極活物質層を形成するために適している。
【0012】
電極活物質は、正極活物質であっても負極活物質であってもよい。電極活物質が正極活物質であると、リチウムイオン電池用電極は正極となり、電極活物質が負極活物質であると、リチウムイオン電池用電極は負極となる。
【0013】
電極活物質としての正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属元素が1種である複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiAlMnO、LiMnO及びLiMn等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO、LiNi1−xCo、LiMn1−yCo、LiNi1/3Co1/3Al1/3及びLiNi0.8Co0.15Al0.05)及び遷移金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMaM’bM’’cO(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO、LiCoPO、LiMnPO及びLiNiPO)、遷移金属酸化物(例えばMnO及びV)、遷移金属硫化物(例えばMoS及びTiS)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0014】
電極活物質としての負極活物質としては、炭素系材料[例えば黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)、炭化ケイ素及び炭素繊維等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物、リチウム・チタン酸化物及びケイ素酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム−スズ合金、リチウム−シリコン合金、リチウム−アルミニウム合金及びリチウム−アルミニウム−マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等が挙げられる。
上記負極活物質のうち、内部にリチウム又はリチウムイオンを含まないものについては、予め活物質の一部又は全部にリチウム又はリチウムイオンを含ませるプレドープ処理を施してもよい。
【0015】
被覆層は、被覆用樹脂を含む。必要に応じて、さらに、後述する導電助剤を含んでいてもよい。
なお、被覆電極活物質は、電極活物質の表面の一部又は全部が、被覆用樹脂を含んでなる被覆層によって被覆されたものであるが、被覆用樹脂は、電極活物質層を形成するための材料である電極スラリーに活物質を固定するために添加される結着剤(電極バインダーともいう)とは異なり、電極活物質層を形成する前に既に電極活物質の表面に付着している。
【0016】
被覆層を構成する被覆用樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などを用いることができ、好ましいものとしてはビニル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、及びブタジエン系樹脂[スチレンブタジエン共重合樹脂、ブタジエン重合体{ブタジエンゴム、及び、液状ポリブタジエン等}]が挙げられる。これらの樹脂は、電極中において、充放電に伴う活物質の体積変化に追従することができ好ましい。
被覆用樹脂としては、特にビニル樹脂が好ましい。被覆用樹脂としては、電解液に浸漬した際の吸液率が10%以上であり、飽和吸液状態での引張破断伸び率が10%以上である被覆用樹脂がより好ましい。
なお、本発明においてビニル樹脂とは、不飽和二重結合を有する単量体(モノマーともいう)のラジカル重合体であり、不飽和二重結合を有する単量体としては不飽和炭化水素化合物(水素原子はハロゲン原子で置換されていても良い)、不飽和二重結合を有するカルボン酸及び不飽和二重結合を有するカルボン酸のエステル等を含む。
【0017】
電解液に浸漬した際の吸液率は、電解液に浸漬する前、浸漬した後の被覆用樹脂の重量を測定して、以下の式で求められる。
吸液率(%)=[(電解液浸漬後の被覆用樹脂の重量−電解液浸漬前の被覆用樹脂の重量)/電解液浸漬前の被覆用樹脂の重量]×100
吸液率を求めるための電解液としては、好ましくはエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)を体積割合でEC:PC=1:1で混合した混合溶媒に、電解質としてLiPFを1mol/Lの濃度になるように溶解した電解液を用いる。
吸液率を求める際の電解液への浸漬は、50℃、3日間行う。50℃、3日間の浸漬を行うことにより被覆用樹脂が飽和吸液状態となる。なお、飽和吸液状態とは、それ以上電解液に浸漬しても被覆用樹脂の重量が増えない状態をいう。
なお、本発明のリチウムイオン電池用電極を用いてリチウムイオン電池を製造する際に使用する電解液は、上記電解液に限定されるものではなく、他の電解液を使用してもよい。
【0018】
吸液率が10%以上であると、リチウムイオンが被覆用樹脂を容易に透過することができるため、電極活物質層内でのイオン抵抗を低く保つことができる。吸液率が10%未満であると、リチウムイオンの伝導性が低くなり、リチウムイオン電池としての性能が充分に発揮されないことがある。
吸液率は20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
また、吸液率の好ましい上限値としては、400%であり、より好ましい上限値としては300%である。
【0019】
飽和吸液状態での引張破断伸び率は、被覆用樹脂をダンベル状に打ち抜き、上記吸液率の測定と同様に電解液への浸漬を50℃、3日間行って被覆用樹脂を飽和吸液状態として、ASTM D683(試験片形状TypeII)に準拠して測定することができる。引張破断伸び率は、引張試験において試験片が破断するまでの伸び率を下記式によって算出した値である。
引張破断伸び率(%)=[(破断時試験片長さ−試験前試験片長さ)/試験前試験片長さ]×100
【0020】
被覆用樹脂の飽和吸液状態での引張破断伸び率が10%以上であると、被覆用樹脂が適度な柔軟性を有するため、充放電時の電極活物質の体積変化によって被覆用樹脂を含む被覆層が剥離することを抑制しやすくなる。
引張破断伸び率は20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
また、引張破断伸び率の好ましい上限値としては、400%であり、より好ましい上限値としては300%である。
【0021】
ビニル樹脂の中でも、カルボキシル基又は酸無水物基と不飽和二重結合とを有するモノマー(a1)、下記一般式(1)で表されるモノマー(a2)、フッ化ビニリデン及びアクリロニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む単量体組成物の重合体(A1)であることが好ましい。
CH=C(R)COOR (1)
[式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数4〜12の直鎖又は炭素数3〜36の分岐アルキル基である。]
【0022】
カルボキシル基又は酸無水物基と不飽和二重結合とを有するモノマー(a1)としては、(メタ)アクリル酸(a11)、クロトン酸、桂皮酸等の炭素数3〜15のモノカルボン酸;(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の炭素数4〜24のジカルボン酸;アコニット酸等の炭素数6〜24の3価〜4価又はそれ以上の価数のポリカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも(メタ)アクリル酸(a11)が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
【0023】
上記一般式(1)で表されるモノマー(a2)において、Rは水素原子又はメチル基を表す。Rはメチル基であることが好ましい。
は、炭素数4〜12の直鎖若しくは分岐アルキル基、又は、炭素数13〜36の分岐アルキル基であることが好ましい。
【0024】
(a21)Rが炭素数4〜12の直鎖又は分岐アルキル基であるエステル化合物
炭素数4〜12の直鎖アルキル基としては、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基が挙げられる。
炭素数4〜12の分岐アルキル基としては、1−メチルプロピル基(sec−ブチル基)、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基(tert−ブチル基)、1−メチルブチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基(ネオペンチル基)、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1−メチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、2−エチルペンチル基、3−エチルペンチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1,2−ジメチルペンチル基、1,3−ジメチルペンチル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2−エチルペンチル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基、4−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、6−メチルヘプチル基、1,1−ジメチルヘキシル基、1,2−ジメチルヘキシル基、1,3−ジメチルヘキシル基、1,4−ジメチルヘキシル基、1,5−ジメチルヘキシル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、1−メチルオクチル基、2−メチルオクチル基、3−メチルオクチル基、4−メチルオクチル基、5−メチルオクチル基、6−メチルオクチル基、7−メチルオクチル基、1,1−ジメチルヘプチル基、1,2−ジメチルヘプチル基、1,3−ジメチルヘプチル基、1,4−ジメチルヘプチル基、1,5−ジメチルヘプチル基、1,6−ジメチルヘプチル基、1−エチルヘプチル基、2−エチルヘプチル基、1−メチルノニル基、2−メチルノニル基、3−メチルノニル基、4−メチルノニル基、5−メチルノニル基、6−メチルノニル基、7−メチルノニル基、8−メチルノニル基、1,1−ジメチルオクチル基、1,2−ジメチルオクチル基、1,3−ジメチルオクチル基、1,4−ジメチルオクチル基、1,5−ジメチルオクチル基、1,6−ジメチルオクチル基、1,7−ジメチルオクチル基、1−エチルオクチル基、2−エチルオクチル基、1−メチルデシル基、2−メチルデシル基、3−メチルデシル基、4−メチルデシル基、5−メチルデシル基、6−メチルデシル基、7−メチルデシル基、8−メチルデシル基、9−メチルデシル基、1,1−ジメチルノニル基、1,2−ジメチルノニル基、1,3−ジメチルノニル基、1,4−ジメチルノニル基、1,5−ジメチルノニル基、1,6−ジメチルノニル基、1,7−ジメチルノニル基、1,8−ジメチルノニル基、1−エチルノニル基、2−エチルノニル基、1−メチルウンデシル基、2−メチルウンデシル基、3−メチルウンデシル基、4−メチルウンデシル基、5−メチルウンデシル基、6−メチルウンデシル基、7−メチルウンデシル基、8−メチルウンデシル基、9−メチルウンデシル基、10−メチルウンデシル基、1,1−ジメチルデシル基、1,2−ジメチルデシル基、1,3−ジメチルデシル基、1,4−ジメチルデシル基、1,5−ジメチルデシル基、1,6−ジメチルデシル基、1,7−ジメチルデシル基、1,8−ジメチルデシル基、1,9−ジメチルデシル基、1−エチルデシル基、2−エチルデシル基等が挙げられる。これらの中では、特に、2−エチルヘキシル基が好ましい。
【0025】
(a22)Rが炭素数13〜36の分岐アルキル基であるエステル化合物
炭素数13〜36の分岐アルキル基としては、1−アルキルアルキル基[1−メチルドデシル基、1−ブチルエイコシル基、1−ヘキシルオクタデシル基、1−オクチルヘキサデシル基、1−デシルテトラデシル基、1−ウンデシルトリデシル基等]、2−アルキルアルキル基[2−メチルドデシル基、2−ヘキシルオクタデシル基、2−オクチルヘキサデシル基、2−デシルテトラデシル基、2−ウンデシルトリデシル基、2−ドデシルヘキサデシル基、2−トリデシルペンタデシル基、2−デシルオクタデシル基、2−テトラデシルオクタデシル基、2−ヘキサデシルオクタデシル基、2−テトラデシルエイコシル基、2−ヘキサデシルエイコシル基等]、3〜34−アルキルアルキル基(3−アルキルアルキル基、4−アルキルアルキル基、5−アルキルアルキル基、32−アルキルアルキル基、33−アルキルアルキル基及び34−アルキルアルキル基等)、並びに、プロピレンオリゴマー(7〜11量体)、エチレン/プロピレン(モル比16/1〜1/11)オリゴマー、イソブチレンオリゴマー(7〜8量体)及びα−オレフィン(炭素数5〜20)オリゴマー(4〜8量体)等から得られるオキソアルコールから水酸基を除いた残基のような1又はそれ以上の分岐アルキル基を含有する混合アルキル基等が挙げられる。
【0026】
重合体(A1)は、炭素数1〜3の1価の脂肪族アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物(a3)をさらに含んでいることが好ましい。
エステル化合物(a3)を構成する炭素数1〜3の1価の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール及び2−プロパノール等が挙げられる。
【0027】
エステル化合物(a3)の含有量は、電極活物質の体積変化抑制等の観点から、重合体(A1)の合計重量に基づいて、10〜60重量%であることが好ましく、15〜55重量%であることがより好ましく、20〜50重量%であることがさらに好ましい。
【0028】
また、重合体(A1)は、さらに重合性不飽和二重結合とアニオン性基とを有するアニオン性単量体の塩(a4)を含有してもよい。
重合性不飽和二重結合を有する構造としてはビニル基、アリル基、スチレニル基及び(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。
アニオン性基としては、スルホン酸基及びカルボキシル基等が挙げられる。
重合性不飽和二重結合とアニオン性基とを有するアニオン性単量体はこれらの組み合わせにより得られる化合物であり、例えばビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸及び(メタ)アクリル酸が挙げられる。
なお、(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を意味する。
アニオン性単量体の塩(a4)を構成するカチオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0029】
アニオン性単量体の塩(a4)を含有する場合、その含有量は、内部抵抗等の観点から、被覆用樹脂の合計重量に基づいて0.1〜15重量%であることが好ましく、1〜15重量%であることがより好ましく、2〜10重量%であることがさらに好ましい。
【0030】
重合体(A1)としては、(メタ)アクリル酸(a11)とエステル化合物(a21)とを含む重合体(A11)、ポリフッ化ビニリデン及びポリアクリロニトリルが好ましい。
重合体(A11)としては、さらにエステル化合物(a3)を含むことがより好ましく、特に好ましくは、(メタ)アクリル酸(a11)としてメタクリル酸を用い、エステル化合物(a21)として2−エチルヘキシルメタクリレートを用い、エステル化合物(a3)としてメタクリル酸メチルを用いた、メタクリル酸、2−エチルヘキシルメタクリレート及びメタクリル酸メチルの共重合体である。
【0031】
被覆用樹脂が重合体(A11)である場合、重合体(A11)としては(メタ)アクリル酸(a11)、上記モノマー(a2)、炭素数1〜3の1価の脂肪族アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物(a3)及び必要により用いる重合性不飽和二重結合とアニオン性基とを有するアニオン性単量体の塩(a4)を含んでなる単量体組成物を重合してなり、上記モノマー(a2)と上記(メタ)アクリル酸(a11)の重量比[上記エステル化合物(a21)/上記(メタ)アクリル酸(a11)]が10/90〜90/10であることが好ましい。
モノマー(a2)と(メタ)アクリル酸(a11)の重量比が10/90〜90/10であると、これを重合してなる重合体は、電極活物質との接着性が良好で剥離しにくくなる。
上記重量比は、30/70〜85/15であることが好ましく、40/60〜70/30であることがさらに好ましい。
【0032】
また、重合体(A1)を構成する単量体には、重合体(A1)の物性を損なわない範囲で、カルボキシル基又は酸無水物基と不飽和二重結合とを有するモノマー(a1)、上記一般式(1)で表されるモノマー(a2)、フッ化ビニリデン及びアクリロニトリルと共重合可能であるラジカル重合性モノマー(a5)が含まれていてもよい。
ラジカル重合性モノマー(a5)としては、活性水素を含有しないモノマーが好ましく、下記(a51)〜(a58)のモノマーを用いることができる。
【0033】
(a51)炭素数13〜20の直鎖脂肪族モノオール、炭素数5〜20の脂環式モノオール又は炭素数7〜20の芳香脂肪族モノオールと(メタ)アクリル酸から形成されるハイドロカルビル(メタ)アクリレート
上記モノオールとしては、(i)直鎖脂肪族モノオール(トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、アラキジルアルコール等)、(ii)脂環式モノオール(シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、シクロヘプチルアルコール、シクロオクチルアルコール等)、(iii)芳香脂肪族モノオール(ベンジルアルコール等)及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0034】
(a52)ポリ(n=2〜30)オキシアルキレン(炭素数2〜4)アルキル(炭素数1〜18)エーテル(メタ)アクリレート[メタノールのエチレンオキサイド(以下EOと略記)10モル付加物(メタ)アクリレート、メタノールのプロピレンオキサイド(以下POと略記)10モル付加物(メタ)アクリレート等]
【0035】
(a53)窒素含有ビニル化合物
(a53−1)アミド基含有ビニル化合物
(i)炭素数3〜30の(メタ)アクリルアミド化合物、例えばN,N−ジアルキル(炭素数1〜6)又はジアラルキル(炭素数7〜15)(メタ)アクリルアミド(N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジベンジルアクリルアミド等)、ジアセトンアクリルアミド
(ii)上記(メタ)アクリルアミド化合物を除く、炭素数4〜20のアミド基含有ビニル化合物、例えばN−メチル−N−ビニルアセトアミド、環状アミド[ピロリドン化合物(炭素数6〜13、例えば、N−ビニルピロリドン等)]
【0036】
(a53−2)(メタ)アクリレート化合物
(i)ジアルキル(炭素数1〜4)アミノアルキル(炭素数1〜4)(メタ)アクリレート[N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリノエチル(メタ)アクリレート等]
(ii)4級アンモニウム基含有(メタ)アクリレート{3級アミノ基含有(メタ)アクリレート[N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等]の4級化物(メチルクロライド、ジメチル硫酸、ベンジルクロライド、ジメチルカーボネート等の4級化剤を用いて4級化したもの)等}
【0037】
(a53−3)複素環含有ビニル化合物
ピリジン化合物(炭素数7〜14、例えば2−又は4−ビニルピリジン)、イミダゾール化合物(炭素数5〜12、例えばN−ビニルイミダゾール)、ピロール化合物(炭素数6〜13、例えばN−ビニルピロール)、ピロリドン化合物(炭素数6〜13、例えばN−ビニル−2−ピロリドン)
【0038】
(a54)ビニル炭化水素
(a54−1)脂肪族ビニル炭化水素
炭素数2〜18又はそれ以上のオレフィン(エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン、オクタデセン等)、炭素数4〜10又はそれ以上のジエン(ブタジエン、イソプレン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン等)等
【0039】
(a54−2)脂環式ビニル炭化水素
炭素数4〜18又はそれ以上の環状不飽和化合物、例えばシクロアルケン(例えばシクロヘキセン)、(ジ)シクロアルカジエン[例えば(ジ)シクロペンタジエン]、テルペン(例えばピネン及びリモネン)、インデン
【0040】
(a54−3)芳香族ビニル炭化水素
炭素数8〜20又はそれ以上の芳香族不飽和化合物、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ベンジルスチレン
【0041】
(a55)ビニルエステル
脂肪族ビニルエステル[炭素数4〜15、例えば脂肪族カルボン酸(モノ−又はジカルボン酸)のアルケニルエステル(例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ジアリルアジペート、イソプロペニルアセテート、ビニルメトキシアセテート)]
芳香族ビニルエステル[炭素数9〜20、例えば芳香族カルボン酸(モノ−又はジカルボン酸)のアルケニルエステル(例えばビニルベンゾエート、ジアリルフタレート、メチル−4−ビニルベンゾエート)、脂肪族カルボン酸の芳香環含有エステル(例えばアセトキシスチレン)]
【0042】
(a56)ビニルエーテル
脂肪族ビニルエーテル[炭素数3〜15、例えばビニルアルキル(炭素数1〜10)エーテル(ビニルメチルエーテル、ビニルブチルエーテル、ビニル2−エチルヘキシルエーテル等)、ビニルアルコキシ(炭素数1〜6)アルキル(炭素数1〜4)エーテル(ビニル−2−メトキシエチルエーテル、メトキシブタジエン、3,4−ジヒドロ−1,2−ピラン、2−ブトキシ−2’−ビニロキシジエチルエーテル、ビニル−2−エチルメルカプトエチルエーテル等)、ポリ(2〜4)(メタ)アリロキシアルカン(炭素数2〜6)(ジアリロキシエタン、トリアリロキシエタン、テトラアリロキシブタン、テトラメタアリロキシエタン等)]、芳香族ビニルエーテル(炭素数8〜20、例えばビニルフェニルエーテル、フェノキシスチレン)
【0043】
(a57)ビニルケトン
脂肪族ビニルケトン(炭素数4〜25、例えばビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン)、芳香族ビニルケトン(炭素数9〜21、例えばビニルフェニルケトン)
【0044】
(a58)不飽和ジカルボン酸ジエステル
炭素数4〜34の不飽和ジカルボン酸ジエステル、例えばジアルキルフマレート(2個のアルキル基は、炭素数1〜22の、直鎖、分岐鎖又は脂環式の基)、ジアルキルマレエート(2個のアルキル基は、炭素数1〜22の、直鎖、分岐鎖又は脂環式の基)
【0045】
上記(a5)として例示したもののうち耐電圧の観点から好ましいのは、(a51)、(a52)及び(a53)である。
【0046】
重合体(A11)において、カルボキシル基又は酸無水物基と不飽和二重結合とを有するモノマー(a1)、上記一般式(1)で表されるモノマー(a2)、炭素数1〜3の1価の脂肪族アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物(a3)、重合性不飽和二重結合とアニオン性基とを有するアニオン性単量体の塩(a4)及びラジカル重合性モノマー(a5)の含有量は、重合体(A1)の重量を基準として、(a1)が0.1〜80重量%、(a2)が0.1〜99.9重量%、(a3)が0〜60重量%、(a4)が0〜15重量%、(a5)が0〜99.8重量%であることが好ましい。
モノマーの含有量が上記範囲内であると、非水電解液への吸液性が良好となる。
【0047】
重合体(A11)の数平均分子量の好ましい下限は3,000、より好ましくは50,000、さらに好ましくは60,000であり、好ましい上限は2,000,000、より好ましくは1,500,000、さらに好ましくは1,000,000、特に好ましくは120,000である。
【0048】
重合体(A11)の数平均分子量は、以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略記)測定により求めることができる。
装置:Alliance GPC V2000(Waters社製)
溶媒:オルトジクロロベンゼン
標準物質:ポリスチレン
検出器:RI
サンプル濃度:3mg/ml
カラム固定相:PLgel 10μm、MIXED−B 2本直列(ポリマーラボラトリーズ社製)
カラム温度:135℃
【0049】
重合体(A11)は、公知の重合開始剤{アゾ系開始剤[2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル等)]、パーオキサイド系開始剤(ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド等)等}を使用して公知の重合方法(塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等)により製造することができる。
重合開始剤の使用量は、数平均分子量を好ましい範囲に調整する等の観点から、モノマーの全重量に基づいて好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.05〜2重量%、さらに好ましくは0.1〜1.5重量%であり、重合温度及び重合時間は重合開始剤の種類等に応じて調整されるが、重合温度は通常−5〜150℃、(好ましくは30〜120℃)、反応時間は通常0.1〜50時間(好ましくは2〜24時間)で行われる。
【0050】
溶液重合の場合に使用される溶媒としては、例えばエステル(炭素数2〜8、例えば酢酸エチル及び酢酸ブチル)、アルコール(炭素数1〜8、例えばメタノール、エタノール及びオクタノール)、炭化水素(炭素数4〜8、例えばn−ブタン、シクロヘキサン及びトルエン)及びケトン(炭素数3〜9、例えばメチルエチルケトン)が挙げられ、数平均分子量を好ましい範囲に調整する等の観点から、その使用量はモノマーの合計重量に基づいて通常5〜900重量%、好ましくは10〜400重量%、より好ましくは30〜300重量%であり、モノマー濃度としては、通常10〜95重量%、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜80重量%である。
【0051】
乳化重合及び懸濁重合における分散媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、エステル(例えばプロピオン酸エチル)、軽ナフサ等が挙げられ、乳化剤としては、高級脂肪酸(炭素数10〜24)金属塩(例えばオレイン酸ナトリウム及びステアリン酸ナトリウム)、高級アルコール(炭素数10〜24)硫酸エステル金属塩(例えばラウリル硫酸ナトリウム)、エトキシ化テトラメチルデシンジオール、メタクリル酸スルホエチルナトリウム、メタクリル酸ジメチルアミノメチル等が挙げられる。さらに安定剤としてポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を加えてもよい。
溶液又は分散液のモノマー濃度は通常5〜95重量%、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは15〜85重量%であり、重合開始剤の使用量は、モノマーの全重量に基づいて通常0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜2重量%である。
重合に際しては、公知の連鎖移動剤、例えばメルカプト化合物(ドデシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン等)及び/又はハロゲン化炭化水素(四塩化炭素、四臭化炭素、塩化ベンジル等)を使用することができる。
【0052】
重合体(A11)をカルボキシル基と反応する反応性官能基を有する架橋剤(A’){好ましくはポリエポキシ化合物(a’1)[ポリグリシジルエーテル(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル及びグリセリントリグリシジルエーテル等)及びポリグリシジルアミン(N,N−ジグリシジルアニリン及び1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル))等]及び/又はポリオール化合物(a’2)(エチレングリコール等)}で架橋してなる架橋重合体を被覆用樹脂としてもよい。
【0053】
架橋剤(A’)を用いて重合体(A11)を架橋する方法としては、電極活物質を重合体(A1)で被覆した後に架橋する方法が挙げられる。具体的には、電極活物質と重合体(A1)を含む樹脂溶液を混合し脱溶剤することにより、電極活物質が重合体(A1)で被覆された被覆電極活物質を製造した後に、架橋剤(A’)を含む溶液を該被覆電極活物質に混合して加熱することにより、脱溶剤と架橋反応を生じさせて、重合体(A1)が架橋剤(A’)によって架橋されて被覆用樹脂となる反応を電極活物質の表面で起こす方法が挙げられる。
加熱温度は、架橋剤の種類に応じて調整されるが、架橋剤としてポリエポキシ化合物(a’1)を用いる場合は通常70℃以上であり、ポリオール化合物(a’2)を用いる場合は通常120℃以上である。
【0054】
ポリフッ化ビニリデン及びポリアクリロニトリルとしては、モノマーを公知の方法で重合して得られるが、市販のポリフッ化ビニリデン及びポリアクリロニトリルを用いてもよい。
【0055】
被覆層はさらに導電助剤を含んでもよい。中でも電極活物質が正極活物質である場合には導電助剤を含んでいることが好ましい。
導電助剤は、導電性を有する材料から選択され、具体的には、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、PAN系炭素繊維及びピッチ系炭素繊維等のカーボンファイバー、カーボンナノファイバー並びにカーボンナノチューブ、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]を用いることができる。
これらの導電助剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。グラフェンを練り込んだポリプロピレン樹脂も導電助剤として好ましい。
【0056】
導電助剤の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、リチウムイオン電池用電極の電気特性の観点から、0.01〜10μmであることが好ましく、0.02〜5μmであることがより好ましく、0.03〜1μmであることがさらに好ましい。なお、本明細書中において、導電助剤の粒子径は、導電助剤が形成する粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「導電助剤の平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0057】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、例えば、繊維状の導電助剤であってもよい。
繊維状の導電助剤としては、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。
繊維状の導電助剤の平均繊維径は、0.1〜20μmであることが好ましい。
【0058】
被覆層が導電助剤を含んでいる場合、被覆層に含まれる導電助剤の重量は、被覆用樹脂と導電助剤との合計重量に対して15〜75重量%であることが好ましい。
被覆電極活物質が有する被覆層が導電助剤を含んでいる場合、予備充電後に電極活物質の表面にSEI膜が形成された場合であっても被覆層に含まれる導電助剤の効果によって活物質間の導通経路を維持することができ、SEI膜の形成による抵抗上昇が抑制できるため好ましく、導電助剤の割合がこの範囲であると抵抗抑制が容易になり更に好ましい。
【0059】
被覆電極活物質は、例えば、電極活物質を万能混合機に入れて30〜50rpmで撹拌した状態で、被覆用樹脂を含む被覆用樹脂溶液を1〜90分かけて滴下混合し、さらに必要に応じて導電助剤を混合し、撹拌したまま50〜200℃に昇温し、0.007〜0.04MPaまで減圧した後に10〜150分保持することにより得ることができる。
被覆電極活物質における電極活物質と被覆用樹脂との重量比率は、電極活物質/被覆用樹脂=90/10〜99.99/0.01であることが好ましい。
【0060】
本発明のリチウムイオン電池用電極の製造方法では、被覆電極活物質と、有機溶剤とを含む混合物を成形する工程を有し、有機溶剤の溶解度パラメータ(以下、SP値と略記)と被覆用樹脂の溶解度パラメータの差の絶対値は1.5〜4である。有機溶剤のSP値と被覆用樹脂のSP値との差の絶対値が4を超えると、被覆電極活物質表面の粘着力が十分に発現せずに電池の形状を保持することが出来ず、有機溶剤のSP値と被覆用樹脂のSP値との差の絶対値が1.5に満たないと被覆電極活物質表面の被覆層が溶解し消失してしまうために電池の形状を保持することが出来ない。
【0061】
本発明においてSP値は、Fedors法によって計算される。SP値は、次式で表せる。
SP値(δ)=(ΔH/V)1/2
但し、式中、ΔHはモル蒸発熱(cal)を、Vはモル体積(cm)を表す。
また、ΔH及びVは、「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE,1974,Vol.14,No.2,ROBERT F.FEDORS.(151〜153頁)」に記載の原子団のモル蒸発熱の合計(ΔH)とモル体積の合計(V)を用いることができる。
この数値が近いもの同士はお互いに混ざりやすく(相溶性が高い)、この数値が離れているものは混ざりにくいことを表す指標である。
溶解度パラメータの差の絶対値がこの範囲であるということは、有機溶剤と被覆用樹脂が混ざりやすく、被覆用樹脂が有機溶剤を吸収して膨潤しやすいことを意味している。すなわち、混合物とした際に被覆層に含まれる被覆用樹脂の一部が有機溶剤に溶解し、被覆層の表面で粘着性が発現されて、成形に適した物性を有する混合物となる。
【0062】
本発明の製造方法に用いる有機溶剤は、有機溶剤のSP値と被覆層に含まれる被覆用樹脂のSP値との差の絶対値が1.5〜4であれば制限はなく、被覆層に含まれる被覆用樹脂の種類に応じて選択することがでる。中でも多くの被覆用樹脂に対して使用できる等の観点から、非プロトン性溶媒を好ましく使用することができる。
非プロトン性溶媒とは、水素イオン供与性の基(解離性の水素原子を有する基、例えば、アミノ基、水酸基、及びチオ基。)を有さない溶媒である。
有機溶剤としては、好ましく用いることができる溶媒としては、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン等及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0063】
ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられ、アミド化合物としては、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFともいう)等が挙げられる。
スルホンとしては、ジメチルスルホン及びジエチルスルホン等の鎖状スルホン及びスルホラン等の環状スルホン等が挙げられる。
これらのなかでは、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)が好ましい。
【0064】
本発明における有機溶剤としては、前記の非プロトン性溶媒以外の溶剤を用いることもでき、成形時間等の観点から、炭素数1〜4の脂肪族アルコール(エタノール等)も好ましく用いることができる。
【0065】
また、被覆電極活物質の被覆層に含まれる被覆用樹脂と有機溶剤の好ましい組み合わせとして、被覆用樹脂がビニル樹脂であり、有機溶剤がN,N−ジメチルホルムアミドである組み合わせが挙げられ、被覆用樹脂がカルボキシル基又は酸無水物基と不飽和二重結合とを有するモノマー(a1)及び前記一般式(1)で表されるモノマー(a2)を含む単量体組成物の重合体であり、有機溶剤がN,N−ジメチルホルムアミドである組みあわせがさらに好ましい。
【0066】
前記混合物には結着剤を含まないことが好ましい。本発明において結着剤とは、リチウムイオン電池において活物質同士及び活物質と集電体とを接着するために用いる電極バインダーであり、電極活物質層を形成するための材料(電極活物質と溶媒とを含む混合物)である電極スラリーに結着剤として添加使用される公知の材料を意味する。
このような結着剤としてはデンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、スチレン−ブタジエンゴム、ポリエチレン及びポリプロピレンが挙げられる。なお、結着剤が電極活物質層を形成するための電極スラリー中において、溶媒に溶解した結着剤溶液として含まれているのに対し、被覆用樹脂は電極スラリー中においても電極活物質の表面にある被覆層に含まれている点で異なる。
【0067】
混合物には、被覆層に含まれる上記の導電助剤とは別に導電材料を含んでも良い。導電材料を含むようにすると活物質間の導電経路を維持し易くなり好ましい。
導電材料としては、被覆層に含まれる上記の導電助剤と同じものを用いることができ、好ましいものも同じである。
【0068】
混合物に含まれる各成分の配合比率としては、有機溶剤の量が、被覆電極活物質の被覆層に含まれる被覆用樹脂の合計重量100部に対して50〜600部となるようにする。被覆用樹脂の合計重量100部に対する有機溶剤の量が50部未満であると、被覆電極活物質表面の粘着力が十分に発現せずに電池の形状を保持することが出来ず、600部を超えると被覆電極活物質表面の被覆層が溶解してしまうために電池の形状を保持することが出来ない。
また、混合物中の被覆電極活物質と有機溶剤の配合比率としては、被覆電極活物質の被覆層に含まれる被覆用樹脂と有機溶剤の量が所定の比になる配合比率であれば制限はないが、均一性等の観点から被覆電極活物質と有機溶剤との合計重量に基づいて、被覆電極活物質を90〜99重量%、有機溶剤を1〜10重量%とすることが好ましい。
さらに導電材料を含む場合、導電材料を0〜5重量%含むことが好ましい。
【0069】
本発明のリチウムイオン電池用電極の製造方法では、上記混合物を成形する。
成形は、被覆電極活物質及び有機溶剤を含む混合物を成形することができればどのような方法を用いてもよい。
例えば、混合物を型内に充填して圧縮成形する方法や、押出成形により成形する方法が挙げられる。
【0070】
圧縮成形は、油圧プレス装置等の任意の加圧装置及び加圧治具を用いて行うことができる。例えば、円筒形状の有底容器内に混合物を入れて、その上から上記筒の内径より少しだけ小さい径の丸棒形状の加圧治具を挿入し、加圧装置により圧縮することで円柱形状に成形された成形体が得られる。
加圧治具の形状を変更することにより、任意の形状の成形体を得ることができる。
【0071】
圧縮成形における圧縮条件としては、上記混合物にかかる圧力は100〜3000MPaであることが好ましい。また、加圧時間は1〜300秒であることが好ましい。
【0072】
圧縮成形は、集電体上で行ってもよい。集電体上に混合物を配置して圧縮成形を行うことにより、集電体上で電極活物質層が得られる。
集電体上で得られた電極活物質層は、集電体とともにリチウムイオン電池用電極として使用することができる。
【0073】
集電体としての正極集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子及び導電性ガラス等が挙げられる。また、正極集電体として、導電剤と樹脂からなる樹脂集電体を用いてもよい。
【0074】
集電体としての負極集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料等が挙げられる。なかでも、軽量化、耐食性、高導電性の観点から、好ましくは銅である。負極集電体としては、焼成炭素、導電性高分子及び導電性ガラス等からなる集電体であってもよく、導電剤と樹脂からなる樹脂集電体であってもよい。
【0075】
正極集電体、負極集電体とも、樹脂集電体を構成する導電剤としては、混合物の任意成分である導電材料と同様のものを好適に用いることができる。
樹脂集電体を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
【0076】
上記工程により、電極活物質層を有するリチウムイオン電池用電極を製造することができる。
上記工程によって得られた電極活物質層は、活物質同士及び活物質と集電体とを接着するための結着剤を用いていないにもかかわらず、被覆電極活物質の被覆層に含まれる被覆用樹脂により電極活物質層の形状を維持することが出来る。
【0077】
リチウムイオン電池の製造の際には、本発明のリチウムイオン電池用電極の製造方法で製造したリチウムイオン電池用電極をセパレータと共にセル容器に収容して、電解液を注入して電極活物質層に電解液を含浸することが好ましい。
セル容器に収容する電極活物質層として、本発明のリチウムイオン電池用電極の製造方法により製造した、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池用負極の両方を用いてもよいし、一方のみを用いてもよい。
一方のみを用いるときは、反対側の電極として公知の対極を用いることができる。
【0078】
得られた成形体は一定の形状を維持しているために取り扱いが容易であり、成形体のセル容器への収容が容易である。
また、上述したように、電極活物質層を集電体の上で得た場合には、集電体と合わせて電極活物質層を電極として用いてリチウムイオン電池を製造することも可能である。
【0079】
セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の多孔性フィルム、多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンとの積層フィルム、合成繊維(ポリエステル繊維及びアラミド繊維等)又はガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用のセパレータが挙げられる。
【0080】
電解液としては、公知のリチウムイオン電池の製造に用いられる、電解質及び非水溶媒を含有する電解液を使用することができる。
【0081】
電解質としては、通常の電解液に用いられているもの等が使用でき、好ましいものとしては、例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF及びLiClO等の無機酸のリチウム塩系電解質、LiN(FSO、LiN(CFSO及びLiN(CSO等のフッ素原子を有するスルホニルイミド系電解質、LiC(CFSO等のフッ素原子を有するスルホニルメチド系電解質等が挙げられる。
【0082】
電解液に使用する非水溶媒としては、リチウムイオン電池の出力及び充放電サイクル特性等の観点から、ラクトン化合物、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル及びこれらの混合溶剤が好ましく、環状炭酸エステル及び環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルとの混合溶剤がさらに好ましく、最も好ましいのはプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)との混合液、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合液、及びエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液である。
【0083】
電解液に含まれる上記の電解質の濃度は、低温での電池特性等の観点から、0.3〜3Mであることが好ましい。
【実施例】
【0084】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0085】
<製造例1:被覆用樹脂(A−1)とその溶液の作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF407.9部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸242.8部、メチルメタクリレート97.1部、2−エチルヘキシルメタクリレート242.8部、及びDMF116.5部を配合したモノマー配合液と、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.7部及び2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)4.7部をDMF58.3部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し反応を3時間継続し樹脂濃度50%の共重合体溶液を得た。これにDMFを789.8部加えて、樹脂固形分濃度30重量%である被覆用樹脂溶液(A’−1)を得た。
なお、被覆用樹脂溶液に含まれる被覆用樹脂のSP値は10.1である。
【0086】
<製造例2:被覆用樹脂(A−2)とその溶液の作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロートおよび窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコに、DMF83部とメタノール17部とを仕込み68℃に昇温した。次いで、メタクリル酸29.1部、ブチルメタクリレート29.1部、2−エチルヘキシルメタクリレート349.7部、炭素数24の分岐アルキル基を有するアクリレート(2−デシルテトラデシルメタクリレート)174.8部、DMF52.1部およびメタノール10.7部を配合したモノマー配合液と、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.263部をDMF34.2部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで4時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.583部を酢酸エチル26部に溶解した開始剤溶液を滴下ロートを用いて2時間かけて連続的に追加した。さらに、沸点で重合を4時間継続した。溶媒を除去し、樹脂582部を得た後、イソプロパノールを1,360部加えて、樹脂濃度30重量%で共重合体を含む被覆用樹脂溶液(A’−2)を得た。
なお、被覆用樹脂溶液に含まれる被覆用樹脂のSP値は9.5である。
【0087】
<製造例3:被覆用樹脂(A−3)とその溶液の作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコに、DMF400部とアクリロニトリル100部、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.2部、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.4部、オクチルメルカプタン0.1部とを仕込み60℃に昇温し、4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、60℃で重合を4時間継続した。次いで、80℃に昇温し、さらに、80℃で重合を6時間継続した。溶媒を除去し、樹脂582部を得た後、イソプロパノールを1,360部加えて、樹脂濃度30重量%でポリアクリロニトリルを含む被覆用樹脂溶液(A’−3)を得た。
なお、ポリアクリロニトリルのSP値は15.4である。
【0088】
<製造例4:電解液の調製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiPFを1mol/Lの割合で溶解させ、リチウムイオン電池用電解液を作製した。
【0089】
<実施例1>
難黒鉛化性炭素粉末(平均粒子径20μm)100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、製造例1で得られた被覆用樹脂溶液(A’−1)3.0部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]6.1部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆負極活物質(P−1)を得た。
【0090】
この被覆負極活物質(P−1)100部とN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)5部とを混合して混合物を作製し、この混合物を加圧治具に入れて圧縮成形することにより成形し、さらに成形物を110℃に設定した減圧乾燥器内に静置することでDMFを蒸発させて厚さ400μmの負極活物質層である成形体を作製した。
なお、混合物に含まれる有機溶剤はDMFであり、そのSP値は12.0である。
そして、被覆用樹脂と有機溶剤(DMF)とのSP値の差の絶対値は1.9である。
また、被覆電極活物質の被覆層に含まれる被覆用樹脂の合計重量100部に対する有機溶剤の量は594部である。
【0091】
<実施例2>
被覆負極活物質の作製の際に使用する被覆用樹脂溶液の量を3.0部から10.0部に変更した他は実施例1と同様にして被覆負極活物質を作製し、続いて成形体を作製した。
被覆電極活物質の被覆層に含まれる被覆用樹脂の合計重量100部に対する有機溶剤の量は182部である。
【0092】
<実施例3>
被覆負極活物質の作製の際に使用する被覆用樹脂溶液の量を3.0部から16.7部に変更した他は実施例1と同様にして被覆負極活物質を作製し、続いて成形体を作製した。
被覆電極活物質の被覆層に含まれる被覆用樹脂の合計重量100部に対する有機溶剤の量は111部である。
【0093】
<実施例4>
被覆負極活物質の作製の際に使用する被覆層樹脂溶液の量を3.0部から34.5部に変更した他は実施例1と同様にして被覆負極活物質を作製し、続いて成形体を作製した。
被覆電極活物質の被覆層に含まれる被覆用樹脂の合計重量100部に対する有機溶剤の量は56部である。
【0094】
<実施例5>
難黒鉛化性炭素粉末(平均粒子径20μm)100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、製造例2で得られた被覆用樹脂溶液(A’−2)3.0部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]6.1部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆負極活物質(P−5)を得た。
【0095】
この被覆負極活物質(P−5)100部とN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)5部とを混合して混合物を作製し、この混合物を加圧治具に入れて圧縮成形することにより成形し、実施例1と同様にしてDMFを蒸発させて厚さ400μmの負極活物質層である成形体を作製した。
そして、被覆用樹脂と有機溶剤(DMF)とのSP値の差の絶対値は2.5である。
また、被覆電極活物質の被覆層に含まれる被覆用樹脂の合計重量100部に対する有機溶剤の量は594部である。
【0096】
<実施例6>
難黒鉛化性炭素粉末(平均粒子径20μm)100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、製造例3で得られた被覆用樹脂溶液(A’−3)3.0部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]6.1部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆負極活物質(P−6)を得た。
【0097】
この被覆負極活物質(P−6)100部とN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)5部とを混合して混合物を作製し、この混合物を加圧治具に入れて圧縮成形することにより成形し、実施例1と同様にしてDMFを蒸発させて厚さ400μmの負極活物質層である成形体を作製した。
そして、被覆用樹脂と有機溶剤(DMF)とのSP値の差の絶対値は3.4である。
また、被覆電極活物質の被覆層に含まれる被覆用樹脂の合計重量100部に対する有機溶剤の量は594部である。
【0098】
<実施例7>
被覆用樹脂であるポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製KFポリマー、SP値は9.1)を1部とDMF99部をフラスコに入れ、120℃で10時間加熱攪拌し、ポリフッ化ビニリデンを含む被覆用樹脂溶液(A’−4)を得た。
難黒鉛化性炭素粉末(平均粒子径20μm)100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、被覆用樹脂溶液(A’−4)90.0部を10分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]6.1部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を15時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆負極活物質(P−7)を得た。
【0099】
この被覆負極活物質(P−7)100部とN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)5部とを混合して混合物を作製し、この混合物を加圧治具に入れて圧縮成形することにより成形し、実施例1と同様にしてDMFを蒸発させて厚さ400μmの負極活物質層である成形体を作製した。
そして、被覆用樹脂と有機溶剤(DMF)とのSP値の差の絶対値は2.9である。
また、被覆電極活物質の被覆層に含まれる被覆用樹脂の合計重量100部に対する有機溶剤の量は594部である。
【0100】
<実施例8>
実施例1で製造した被覆負極活物質(P−1)100部とエタノール5部とを混合して混合物を作製し、この混合物を加圧治具に入れて圧縮成形することにより成形し、成形物を80℃に設定した減圧乾燥器内に静置することでエタノールを蒸発させて乾燥して厚さ400μmの負極活物質層である成形体を作製した。
エタノールのSP値は12.6であり、被覆用樹脂と有機溶剤(エタノール)とのSP値の差の絶対値は2.5である。
また、被覆電極活物質の被覆層に含まれる被覆用樹脂の合計重量100部に対する有機溶剤の量は594部である。
【0101】
<比較例1>
実施例1において被覆負極活物質と混合する有機溶剤として、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)5部に代えて、製造例4で作製した電解液の溶媒であるエチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)5部を使用して混合物を作製し、実施例1と同様にして成形体を作製した。
なお、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)のSP値は14.2であり、被覆用樹脂と有機溶剤とのSP値の差の絶対値は4.1である。
また、被覆電極活物質の被覆層に含まれる被覆用樹脂の合計重量100部に対する有機溶剤の量は594部である。
【0102】
<比較例2>
ポリテトラフルオロエチレン(3Mジャパン製ダイニオンPTFEマイクロパウダー、SP値は6.2)を10部とDMF90部をフラスコに入れ、120℃で6時間加熱攪拌し、ポリテトラフルオロエチレンを含む被覆用樹脂溶液(AH’−1)を得た。
難黒鉛化性炭素粉末(平均粒子径20μm)100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、被覆用樹脂溶液(AH’−1)90.0部を10分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]6.1部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を15時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆負極活物質(PH−1)を得た。
【0103】
この被覆負極活物質(PH−1)100部とN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)5部とを混合して混合物を作製し、この混合物を加圧治具に入れて圧縮成形することにより成形し、実施例1と同様にして成形体を作製した。
そして、被覆用樹脂溶液と有機溶剤(DMF)とのSP値の差の絶対値は5.8である。
また、被覆電極活物質の被覆層に含まれる被覆用樹脂の合計重量100部に対する有機溶剤の量は64部である。
【0104】
<比較例3>
DMF5部をDMF6部に変更したこと以外は実施例1と同様にして混合して混合物を作製し、この混合物を加圧治具に入れて圧縮成形したが、加圧治具から取り出した混合物は形状を維持することができず、成形体を得ることができなかった。なお、被覆電極活物質の被覆層に含まれる被覆用樹脂の合計重量100部に対する有機溶剤の量は713部である。
【0105】
<比較例4>
DMF5部をDMF0.3部に変更したこと以外は実施例1と同様にして混合して混合物を作製し、この混合物を加圧治具に入れて圧縮成形したが、加圧治具から取り出した混合物は形状を維持することができず、成形体を得ることができなかった。なお、被覆電極活物質の被覆層に含まれる被覆用樹脂の合計重量100部に対する有機溶剤の量は36部である。
【0106】
<形状評価試験>
実施例1〜8及び比較例1,2で作製した成形体を密閉容器に入れた電解液(製造例4で作製した電解液)に浸漬し、減圧環境下に静置し、電解液中で成形体がその形状が維持できるかどうかを目視観察した。
図1は、実施例1〜3及び比較例1で作製した成形体の形状評価試験後(電解液浸漬1か月後)の写真である。
比較例1の成形体は減圧操作中にすぐに形状が崩れ始め、1時間後にはほとんど形状を維持できなかった。一方、実施例1〜3の成形体はいずれも室温で1か月以上形状が崩れることがなく、形状を保持できていた。
実施例4〜8の成形体についても室温で1か月以上形状が崩れることがなく、形状を保持できており、比較例2の成形体については1時間後にはほとんど形状を維持できなかった。
電解液中での形状保持性が良好であることは、電池容器内に電解液を注入した後の電極活物質層の形状維持性が優れていることを意味する。電極活物質層の形状維持性が優れていると、電極活物質層の欠陥が生じ難く、内部抵抗の増大が生じないため、サイクル特性に優れた電極とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のリチウムイオン電池用電極の製造方法は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター、ハイブリッド自動車及び電気自動車用に用いられるリチウムイオン二次電池等の製造に用いられるリチウムイオン電池用電極を製造する方法として有用である。
図1