【解決手段】電気コネクタ1に用いられるシール部材3は、金属製のシェル20に囲まれたハウジング10から後方に引き出される電線11が貫通し、ハウジング10とシェル底部23との間に押圧される。シール部材3は、電線11の外周部に接触する電線シール部31と、電線シール部31が形成される基部30の径方向外側の外端部30Cに位置し、ハウジング10に押圧されるハウジングシール部32と、シェル20の少なくともシェル底部23に押圧されるシェルシール部33とを一体に備える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シールドコネクタに備わるシールカバーには、筒状のシェルに係止されるロック部が形成される。シェルは、シールカバーおよびプラグハウジングを囲んでいる。
仮に、シェルとプラグハウジングとの間を止水する機能を電線シールに持たせるとすれば、電線の位置からシェルの位置までに亘りシール部材を配置し、シェルに係止されたシールカバーによりハウジングに対してシール部材を全体的に押さえる必要がある。
ここで、ロック部の形成されていないシールカバーの部位によりシール部材の電線が通される領域全体を押さえるため、シールカバーの電線が通される部位の周りにロック部が形成される。そうすると、ロック部の分、電線の位置からシェルの位置までが遠いので、電線の位置からシェルの位置まで延在するシール部材の面積が大きく、それを押さえるシールカバーの面積も大きい。また、シールカバーには、シール部材を十分に押さえたり十分にロックするために相応の大きさが与えられる。例えば、ロック部の分、シールカバーは前後方向に厚い。
【0006】
以上より、本発明は、電磁シールド作用を得る電気コネクタに必要な止水性能を保持しながら、小型化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電気コネクタに用いられるシール部材であって、金属製のシェルに囲まれたハウジングから後方に引き出される電線が貫通し、ハウジングとシェルの底部との間に押圧される。
本発明のシール部材は、電線の外周部に接触する電線シール部と、電線シール部が形成される基部の径方向外側の外端部に位置し、ハウジングに押圧されるハウジングシール部と、シェルの少なくとも底部に押圧されるシェルシール部と、を一体に備えることを特徴とする。
【0008】
本発明のシール部材は、基部から前方または後方に向けて突出し、シェルの底部の所定領域が挿入される周壁をさらに備え、シェルシール部は、周壁の内周部または外周部に相当することが好ましい。
【0009】
本発明のシール部材において、周壁は、基部の外端部の近傍かつ径方向外側で基部から後方に向けて突出していることが好ましい。
【0010】
本発明の電気コネクタは、嵌合対象に嵌合されるハウジングと、ハウジングを囲む金属製のシェルと、ハウジングから後方に引き出される電線が貫通するシール部材と、を備える。
シェルは、シール部材をハウジングとの間に押圧する底部を有する。
シール部材は、電線の外周部に接触する電線シール部と、電線シール部が形成される基部の径方向外側の外端部に位置し、ハウジングに押圧されるハウジングシール部と、シェルの少なくとも底部に押圧されるシェルシール部と、を一体に備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シールドコネクタに必要な止水箇所、つまり、電線の周り、ハウジングと電線との間、シェルとハウジングとの間を止水する機能が一つのシール部材に集約されているため、複数のシール部材を用いる場合と比べて部品点数が減少する。そのため、部品コストおよび組み立てコストを含めた電気コネクタの製造コストを抑えることができる。複数のシール部材を用いると、それぞれを支持する構造が必要となるのに対して、本発明では、一つのシール部材をハウジングとシェルの底部との間に支持すれば足りるため、電気コネクタの小型化に寄与できる。
【0012】
本発明によれば、シェルに備わる底部によりシール部材を押さえることができるため、シールカバーが必要ない。この点でも、部品点数を減少させてコストダウンできる。
その上、シールカバーのロック部により、シェルに接触するシール部の位置が制約されないので、シェルに接触するシェルシール部を電線の位置の近傍に設定することができる。そうすると、止水に最低限必要な最小の領域にシール部材を配置して、シール部材の大きさを抑えることができる。
【0013】
以上より、本発明によれば、電磁シールド作用を得る電気コネクタに必要な止水性能を保持しながら、電気コネクタの小型化およびコストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1および
図2に示す電気コネクタ1(プラグコネクタ)は、2本の電線11が引き出されるハウジング10と、電磁シールド用のシェル20と、ハウジング10に配置されるシール部材3(
図3および
図4)と、嵌合部シール12(
図3)とを備えている。
【0016】
本明細書では、電気コネクタ1において電線11が引き出される側を「後」、その逆側であって、相手コネクタ(キャップコネクタ)と嵌合方向D1に沿って嵌合される側を「前」と定義する。相手コネクタは、典型的には機器のケースの一部(
図3の金属部材9)と組み付けられる。
【0017】
電気コネクタ1および相手コネクタは、車両に搭載されるPCU(Power Control Unit)等の高電圧機器の電気的接続に好適である。機器から外部に向けた電磁ノイズの放射や、他の機器からの電磁ノイズの影響を抑制するため、電気コネクタ1および相手コネクタは電磁シールド機能を有している。
【0018】
電線11は、心線が絶縁被膜により覆われた被覆電線である。
図3に示すように、電磁シールド用の編組線14により、電線11が覆われている。
編組線14は、編まれた金属線と、必要に応じて補強材を含んで構成されている。編組線14の内側に2本の電線11が配置されている。編組線14の端部は、シェル20の外周部に接続される。
2本の電線11および編組線14は、図示しない防水被膜や部材を含んで一つに結束され、バンドルケーブル2を構成している。
バンドルケーブル2は、典型的には、樹脂製のコルゲートチューブ15に収容される。コルゲートチューブ15の末端15Aには、ゴムやエラストマー等の弾性材料から形成されたグロメット16が接続される。グロメット16の末端16Aは、結束部材17によりシェル20の外周部に保持される。グロメット16は、コルゲートチューブ15の末端15Aから延出する電線11および編組線14を覆う。
【0019】
金属製のシェル20(
図1〜
図3)は、ハウジング10および相手コネクタのハウジング(以下、相手ハウジング8(
図3))において金属部材9(
図3)の外側に突出した部分を囲む。シェル20の外周の壁に、編組線14の端部が電気的に接続される。このシェル20が金属部材9を介して金属製のケースに接地されることで、電気コネクタ1および相手コネクタに電磁シールド機能が与えられる。
【0020】
電気コネクタ1の各構成要素を説明する。
〔ハウジング〕
ハウジング10(
図1および
図3)は、金属材料からなる雌型端子18を保持する。ハウジング10は、絶縁性の樹脂材料から形成されている。本実施形態では、2つの雌型端子18を備えた2極の電気コネクタ1を例示する。電気コネクタ1は、単数または3以上の極を備えるものであってよい。雌型端子18にはそれぞれ電線11が接続されている。
【0021】
ハウジング10の前端部10Aは、金属部材9(
図3)の内側に配置される。ハウジング10の後端部から後方へと電線11が引き出される。ハウジング10から引き出された電線11は、シール部材3(
図3)を貫通する。
ハウジング10には、シール部材3の基部30を収容する収容部10B(
図3)が形成されている。収容部10Bの底には、電線11が引き出される開口(図示しない)が形成されている。
【0022】
ハウジング10の外周部10Cには、環状に形成された嵌合部シール12(
図3)が装着される。嵌合部シール12は、外周部10Cの段差に配置されており、シール押さえ19により、嵌合部シール12の前方への離脱が規制されている。
相手ハウジング8の内側にハウジング10が受容されると、外周部10Cと相手ハウジング8の内周部との間で嵌合部シール12が径方向に弾性変形する。
【0023】
外周部10Cには、シェル20に係止されるロック梁10D(
図3)が形成されている。ロック梁10Dの一部がシェル20の係合孔21Aに挿入される。
【0024】
〔シェル〕
シェル20(
図1〜
図3)は、ハウジング10の前端部10Aを除いて、ハウジング10を全体的に囲んでいる。
シェル20は、アルミニウム合金、亜鉛合金等の金属材料から典型的にはダイカストにより形成されている。シェル20の材料は、導体であればよく、磁性、非磁性を問わず、適宜な金属材料をシェル20に用いることができる。編組線14(
図3)の材料としては、導電性の金属材料を用いることができる。
【0025】
シェル20は、ハウジング10の外周部10Cを包囲する側壁21と、側壁21の前端に連なる取付部22と、側壁21の後端に連なるシェル底部23(
図2、
図3)とを一体に備えている。側壁21と、ハウジング10の外周部10Cとの間に、相手ハウジング8が挿入される。
【0026】
側壁21の前端は開放されており(
図1、
図3)、側壁21の開口210からハウジング10の前端部10Aが突出する。開口210とは反対側にシェル底部23が位置している。側壁21の後端はシェル底部23により閉塞されている。
【0027】
側壁21は、筒状に形成されている。側壁21には、ロック梁10Dの一部が挿入される係合孔21Aが
図3の上下両側に形成されている。
取付部22は、取付部22を貫通するボルト24により、金属部材9に締結される。締結された取付部22の裏側の面と、金属部材9の表面とが所定の接圧で接触することで、電磁シールドのためにシェル20と金属部材9との間に必要な電気的接続が確保される。
【0028】
シェル底部23(
図2、
図3)は、ハウジング10の後端部に配置されたシール部材3を後方から押さえる。シェル底部23が存在するため、電気コネクタ1は、シール部材3を押さえるシールカバーを備えていない。
シェル底部23には、シール部材3の一部を収容する周溝231が形成されている。周溝231は、シェル底部23の径方向の外端付近において、全周に亘り連続している。周溝231により囲まれたプラグ部232がシール部材3の凹部35(
図4(b))に挿入される。プラグ部232を電線11が貫通する。
【0029】
本実施形態の電気コネクタ1は、防水を図るため、嵌合部シール12とシール部材3との2つのシール部材を備えている。これらは、ゴムやエラストマー等の弾性材料から形成されている。
本実施形態では、嵌合部シール12およびシール部材3により、端子が収納されているハウジング内部(ハウジング10および相手ハウジング8の内側)への水の浸入を阻止する。
さらに、シェル20への編組線14の接続箇所14Aの腐食を防ぐため、シール部材3及びグロメット16により、編組線14の接続箇所14Aへと水が到達するのを阻止する。
【0030】
ハウジング内部への水の浸入を阻止するためには、ハウジング10と相手ハウジング8との間、およびハウジング10と電線11との間をそれぞれ止水する必要がある。
嵌合部シール12は、ハウジング10と相手ハウジング8との間を止水する。
ハウジング10と電線11との間を止水するためには、電線11の外周部11Aにシール部材を密着させるとともに、電線11の配置される領域の周囲でハウジング10にシール部材を押圧する必要がある。ハウジング10と電線11との間の止水機能は、シール部材3が担う。
【0031】
本実施形態では、シェル20に押圧されるシェルシール部33を備えるシール部材3により、シェル20と、シェル20により覆われるハウジング10との間を止水する。
【0032】
以上より、シール部材3は、複数箇所の止水機能を有する複合的なシール部材である。本実施形態は、シェル20がシェル底部23を備えていること、およびシール部材3が止水の必要な複数箇所に兼用されることに主要な特徴を有する。
【0033】
〔複合的なシール部材〕
図3、
図4(a)および(b)を参照し、シール部材3について説明する。
シール部材3は、ハウジング10の後端部とシェル底部23との間に挟み込まれる。ハウジング10から後方に引き出された電線11はシール部材3を貫通する。
【0034】
シール部材3は、ハウジング10とシェル底部23との間に介在する基部30と、電線11の数に等しい数の電線シール部31と、ハウジングシール部32と、シェルシール部33と、周壁34を一体に備えている。複数の電線シール部31、ハウジングシール部32、シェルシール部33、および周壁34は、いずれも基部30に連なり、基部30を介して一体に連続している。
【0035】
シェル20の内側にシール部材3を収容した状態で、ハウジング10をシェル20の内側に挿入すると、ハウジング10のロック梁10Dがシェル20の係合孔21Aに入って側壁21に係止される。すると、ハウジング10とシェル20との間にシール部材3が押圧されて弾性変形することで、シール部材3の各シール部31,32,33が接触相手の部材と密着する。
【0036】
基部30は、ハウジング10の収容部10Bの底とシェル底部23のプラグ部232との間に、嵌合方向D1と直交する向きに配置される。基部30は、収容部10Bの底に接触する前部30A(
図4(a))と、シェル底部23のプラグ部232に接触する後部30B(
図4(b))とを有している。前部30Aは、電線11が引き出される収容部10Bの底の開口の周囲に押圧される。
基部30には、複数の電線11に個別に対応するシール孔301が形成されている。シール孔301は、前部30Aと後部30Bとを結ぶ方向(嵌合方向D1)に沿って形成されている。各シール孔301の内側を電線11が貫通する。電線シール部31は、シール孔301の内周部に相当する。基部30に備わる複数の電線シール部31により、複数の電線11の周りが一括して止水される。
各電線シール部31は、シール孔301の周方向に連続する1つ以上の突条31Aを含んでいる。突条31Aは径方向に弾性変形して電線11の外周部11Aに密着する。
【0037】
前部30Aおよび後部30Bには、シール部材3を十分に弾性変形させて、接触する部材との密着性を高めるため、適宜な位置に、弾性変形を助ける適宜な形状の窪みが形成されている。具体的には、前部30Aにおいて2つのシール孔301の間に位置する溝302や、後部30Bに形成されている複数の凹部303が窪みに該当する。それらの窪みと、シール孔301の位置を除いて、前部30Aおよび後部30Bは平坦に形成されている。
【0038】
ハウジングシール部32は、基部30の径方向外側に位置する外端部30Cに相当し、ハウジング10に押圧される。
ハウジングシール部32は、周方向に連続する1つ以上の突条32Aを含んでいる。基部30が収容される収容部10Bの内壁によって突条32Aが径方向に押圧される。
【0039】
電線シール部31と、2つの電線11が貫通する領域よりも径方向外側でハウジング10に押圧されるハウジングシール部32とにより、電線11の周りから、前方にかつ径方向外側に向けて、さらにハウジング10の外端を超えてハウジング10の内部へと水が入ることを阻止することができる。
【0040】
シェルシール部33は、編組線14の接続箇所14A(
図3)よりも径方向内側でシェル底部23に押圧される。
シェルシール部33は、周方向に連続する突条33Aを含んでいる。突条33Aは、シェル20のプラグ部232の外周部によって径方向に押圧される。
【0041】
図4(b)に示すように、シェルシール部33は、基部30から後方に突出した周壁34の内周部に相当する。
周壁34は、
図4(b)および
図3に示すように、基部30の外端部30C(ハウジングシール部32)の近傍から後方に向けて突出しており、全周に亘り連続している。この周壁34の内側に形成された凹部35に、シェル底部23のプラグ部232が挿入されると、シェル底部23の周溝231に周壁34が収容される。
ここで、周壁34は、基部30の外端部30Cの近傍かつ径方向外側で基部30から後方に向けて突出していることが好ましい。
そうすると、周壁34に挿入されるプラグ部232により、基部30が径方向全体に亘り押圧されることで、基部30を前後方向(嵌合方向D1)に十分に弾性変形させることができる。それによって電線シール部31およびハウジングシール部32と、それぞれの接触相手との密着性を高めることができる。さらに、基部30の外端部30Cよりも径方向外側に位置する周壁34の基端がハウジング10に接触するので、ハウジング10とシェル底部23との間に周壁34を十分に弾性変形させて、シェルシール部33とプラグ部232の外周部との密着性を高めることもできる。
【0042】
〔本実施形態による効果〕
以上で説明した本実施形態では、電気コネクタ1に必要な止水箇所、つまり、電線11の周り、ハウジング10と電線11との間、シェル20とハウジング10との間を止水する機能が一つのシール部材3に集約されているため、部品点数が少ない。そのため、部品コストおよび組み立てコストを含めた電気コネクタ1の製造コストを抑えることができる。複数のシール部材を用いると、それぞれを支持する構造が必要となるのに対して、本実施形態では、シール部材3をハウジング10とシェル底部23との間に支持すれば足りるため、電気コネクタ1の小型化に寄与できる。
【0043】
シェル20に側壁21と一体に備わるシェル底部23によりシール部材3を押さえることができるため、従来のシールカバーが必要ない。この点でも、部品点数を減少させてコストダウンできる。
さらには、シールカバーがなければ、シールカバーをシェル20に係止するロック部も必要ない。そのため、シールカバーのロック部の位置に影響されることなく、シェル20に接触するシェルシール部33の位置をハウジングシール部32と同等に電線11の近傍に設定することができる。そうすると、電線11の位置からハウジングシール部32やシェルシール部33の位置まで、つまり、止水に最低限必要な最小の領域にシール部材3を配置して、シール部材3の大きさを抑えることができる。シールカバーのロック部のような止水に寄与しない領域の分、シール部材3の径が拡大しないので、シールカバーを備える場合と比べて、シェル20とハウジング10の間に押圧されるシール部材3の面圧をより十分に確保できる。
【0044】
以上より、本実施形態によれば、電気コネクタ1に必要な止水機能を保持し、それによって、端子による接続の信頼性を確保しながら、電気コネクタ1の小型化およびコストダウンを図ることができる。
【0045】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【0046】
例えば、シール部材3のシェルシール部33が、周壁34の外周部に形成されていてもよい。その場合、シェルシール部33はシェル底部23の周溝231の外周側の内壁に押圧される。
また、シェル20およびシール部材3の形状によっては、シェルシール部33がシェル20の側壁21とシェル底部23との双方に押圧されていてもよい。
さらに、ロック梁10Dとの干渉が生じない限り、シール部材3の周壁34を基部30から前方に突出させることも可能である。その周壁34の内周部または外周部にシェルシール部33を形成することができる。